説明

非水電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、並びに非水電解質二次電池

【課題】粒子同士の結着を抑制することにより、非水電解質二次電池用正極活物質の化学的安定性を向上させる。
【解決手段】正極2は、複合酸化物粒子と、複合酸化物粒子表面の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層と、この被覆層の少なくとも一部に設けられ、ランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなる表面層とを形成した非水電解質二次電池用正極活物質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、並びに非水電解質二次電池に関し、例えば、リチウム(Li)とコバルト(Co)とを含む複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、並びにこの非水電解質二次電池用正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラやノート型パーソナルコンピュータ等のポータブル機器の普及に伴い、小型高容量の二次電池に対する需要が高まっている。現在使用されている二次電池にはアルカリ電解液を用いたニッケル−カドミウム電池があるが、電池電圧が約1.2Vと低く、エネルギー密度の向上は困難である。このため、比重が0.534と固体の単体中最も軽いうえ、電位が極めて卑であり、単位重量当たりの電流容量も金属負極材料中最大であるリチウム金属を使用するリチウム金属二次電池が検討された。
【0003】
しかしながら、リチウム金属を負極に使用する二次電池では、充電時に負極の表面に樹枝状のリチウムであるデンドライトが析出し、充放電サイクルによってこれが成長する。このデンドライトの成長は、二次電池のサイクル特性の劣化、さらには、正極と負極が接触しないように配置された隔膜(セパレータ)を突き破って、内部短絡を生じてしまう等の問題があった。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に記載されているように、コークス等の炭素質材料を負極とし、アルカリ金属イオンをドーピング、脱ドーピングすることにより充放電を繰り返す二次電池が提案された。これによって、上述したような充放電の繰り返しにおける負極の劣化問題を回避できることがわかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−90863号公報
【0006】
一方、正極活物質としては、4V前後の電池電圧を得ることができるものとして、アルカリ金属を含む遷移金属酸化物や遷移金属カルコゲンなどの無機化合物が知られている。なかでも、コバルト酸リチウム、またはニッケル酸リチウムなどのリチウム複合酸化物は、高電位、安定性、長寿命という点から最も有望である。
【0007】
特に、コバルト酸リチウムを主体とする正極活物質は、高電位を示す正極活物質であり、充電電圧を高くすることにより、エネルギー密度を大きくすることが期待される。しかしながら、充電電圧を高くするとサイクル特性が劣化する問題があった。そこで、従来ではLiMn1/3Co1/3Ni1/32などを少量混合して用いることや、他材料を表面被覆することにより正極活物質の改質を行う方法が行われてきた。
【0008】
ところで、上述した正極活物質の表面被覆により正極活物質の改質を行う技術は、高い被覆性を達成することが課題となっている。この課題を解決するために、各種手法が提案されている。例えば、金属水酸化物により被着する方法は、被覆性に優れていることが確認されており、このような方法として、例えば、特許文献2には、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)粒子の表面に、コバルト(Co)並びにマンガン(Mn)をその水酸化物被着工程を通して被着することが開示されている。また、例えば、特許文献3には、リチウムマンガン複合酸化物の表面に、非マンガン金属をその水酸化物被着工程を通して被着することが開示されている。
【0009】
【特許文献2】特開平9−265985号公報
【特許文献3】特開平11−71114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、複合酸化物粒子に金属水酸化物を被着させた後、加熱処理を行うと、粒子間において焼結が進みやすく、粒子同士が結着しやすい問題があった。この結果、正極を作製する際に導電剤などと共に混合すると、結着している部分および粒子が破断したり、亀裂が生じたりして、被覆層が剥離したり、粒子の破損面が露出してしまう。このような破損面は、焼成時に形成された表面に比べて非常に活性が高く、電解液および正極活物質の劣化反応が生じやすい。
【0011】
したがって、この発明の目的は、粒子同士の結着を抑制することにより、化学安定性をより向上できる非水電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、並びにこの正極活物質を用いた高容量で充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、第1の発明は、リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子と、複合酸化物粒子表面の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層と、被覆層の少なくとも一部に設けられ、ランタノイドのうちの少なくとも1種の元素を含む酸化物よりなる表面層とを備えることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0013】
なお、この非水電解質二次電池用正極活物質は、表面層の被着元素量が、ランタノイドのうちの少なくとも1種の元素を含む酸化物を主体とする金属酸化物のランタノイド量を、酸化ランタノイドに換算した重量として、非水電解質二次電池用正極活物質100重量部に対して0.02重量部以上2.0重量部以下であることが好ましい。
【0014】
また、複合酸化物粒子は、以下の化1で平均組成が表されるものであることが好ましい。
(化1)
Li(1+x)Co(1-y)y(2-z)
(化1中、Mはマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素である。x、y、zは、−0.10≦x≦0.10、0≦y<0.50、−0.10≦z≦0.20である。)
【0015】
第2の発明は、リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子の少なくとも一部にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物よりなる層を形成したのち、複合酸化物粒子の少なくとも一部にランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の水酸化物からなる層を形成する工程と、加熱処理により、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなる表面層を形成する工程とを有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0016】
第3の発明は、リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子の少なくとも一部にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物よりなる層を形成する工程と、複合酸化物粒子の表面にランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物を被覆したのち、加熱処理することにより、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなる表面層を形成する工程とを有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0017】
第4の発明は、非水電解質二次電池用正極活物質を有する正極と、負極と、電解質と、を備え、非水電解質二次電池用正極活物質は、リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子と、複合酸化物粒子表面の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層と、被覆層の少なくとも一部に設けられ、ランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなる表面層とを備えることを特徴とする非水電解質二次電池である。
【0018】
この発明では、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層を備えるので、高充電電圧性とそれに伴う高エネルギー密度性とを実現でき、かつ、高充電電圧条件下で良好な充放電サイクル特性を有する。
【0019】
また、この発明では、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方を含む水酸化物が設けられた複合酸化物粒子に、ランタノイドのうちの少なくとも1種の元素を含む水酸化物を形成することにより、粒子同士の結着を抑制し、被覆層の破壊や被覆層の破壊による活性な複合酸化物粒子表面の露呈を防止する。
【0020】
また、この発明では、金属水酸化物の複合酸化物粒子表面への被着の均一性を向上させる。
【0021】
また、この発明では、電池容量を維持しつつ高い充放電サイクル特性を実現する被覆層の破壊を防止することにより、活性の高い複合酸化物粒子表面が露呈して、電解液の分解や複合酸化物粒子表面の溶出などを防止する。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、非水電解質二次電池用正極活物質の化学的安定性を向上させて機能向上を図り、高い電池容量と優れた充放電サイクル特性を両立した非水電解質二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。この発明の一実施形態による非水電解質二次電池用正極活物質(以下、正極活物質と適宜称する)は、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層が設けられ、この被覆層の少なくとも一部に、ランタイノイドを含む酸化物よりなる表面層が設けられたものである。
【0024】
まず、正極活物質を上記の構成とする理由について説明する。コバルト酸リチウム(LiCoO2)を主体とする正極活物質は、高充電電圧性とそれに伴う高エネルギー密度性とを実現できるが、高充電電圧にて高容量での充放電サイクルを繰り返すと容量の低下が少なくない。この原因は、正極活物質粒子の表面に起因するため、正極活物質の表面処理の必要性が指摘されている。
【0025】
したがって、各種の表面処理が提案されているが、体積または重量あたりの容量の低下を無くす、または容量の低下を最小限に留める観点から、容量の低下を抑制、または容量に貢献できる材料で表面処理を行うことにより、高充電電圧性と、これに伴う高エネルギー密度性とを実現でき、かつ高充電電圧での充放電サイクル特性に優れた正極活物質を得ることができる。
【0026】
そこで、本願発明者等は、鋭意検討の結果、高充電電圧性とこれに伴う高エネルギー密度性においてやや劣るが、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を主体とする正極活物質に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層を設けることにより、高充電電圧性とこれに伴う高エネルギー密度性があり、かつ、高充電電圧条件下で、高容量の充放電サイクル特性に優れた正極活物質が得られることを見出した。
【0027】
複合酸化物粒子に被覆層を設ける方法としては、リチウム(Li)の化合物並びにニッケル(Ni)の化合物および/またはマンガン(Mn)の化合物を微粉砕して微粒子とし、この微粒子と複合酸化物粒子とを乾式混合することにより、複合酸化物粒子表面に微粒子を被着し、さらに焼成することより、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層を複合酸化物粒子表面に設ける方法が挙げられる。また、リチウム(Li)の化合物並びにニッケル(Ni)の化合物および/またはマンガン(Mn)の化合物を、溶媒に溶解あるいは混合して湿式にて複合酸化物粒子表面に被着した後焼成して、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層を、複合酸化物粒子表面に設けてもよい。しかしながら、これらの方法では、均一性の高い被覆が達成できない結果を得た。
【0028】
そこで、本願発明者等は、さらに、鋭意検討を進めたところ、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を水酸化物として被着し、これを加熱脱水して被覆層を形成することで、均一性の高い被覆が実現できることを見出した。この被着処理は、ニッケル(Ni)の化合物および/またはマンガン(Mn)の化合物を、水を主体とする溶媒系に溶解し、その後、この溶媒系に複合酸化物粒子を分散させ、この分散系に塩基を添加する等により分散系の塩基性度を高め、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を複合酸化物粒子表面に析出させるものである。
【0029】
さらに、本願発明者等は、この被着処理を、pH12以上の水を主体とする溶媒系で行うことで、複合酸化物粒子への被覆の均一性をさらに向上させることができることを見出した。すなわち、予め、金属複合酸化物粒子を、pH12以上の水を主体とする溶媒系に分散し、これにニッケル(Ni)の化合物および/またはマンガン(Mn)の化合物を添加して、金属複合酸化物粒子表面に、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を被着させる。
【0030】
そして、この被着処理により、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を被着した複合酸化物粒子を、加熱脱水して、被覆層を複合酸化物粒子表面に形成する。これにより、複合酸化物粒子表面への被覆の均一性を向上できる。
【0031】
しかしながら、本願発明者等は、ニッケル(Ni)および/マンガン(Mn)を含む水酸化物を被着した複合酸化物粒子において、ニッケル(Ni)の比率が高まり、マンガン(Mn)の比率が低くなると、リチウム(Li)を加えた前駆体の焼成において、粒子間の焼結が進みやすいという課題の重要性を見出した。
【0032】
粒子間の焼結が進行すると、以下に説明するような問題が生じる。正極形成においては、粒子を結着剤および導電剤である炭素粒子と均一に混合させるための粒子の解砕での機械的なエネルギーの投入量の増大を必要とする。これに伴い、被覆層を設けた複合酸化物粒子よりなる正極活物質は、破損あるいは破壊を受け、粉体としての総体的な欠陥量が増加する。
【0033】
なお、破損または破壊は、焼結粒子間の連結部の破断、粒子自体への亀裂形成、粒子自体の破砕、被覆層の剥離、等の形で生ずる。特に、被覆層を設けた複合酸化物粒子においては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を主体とする正極活物質等の粒子に比較して、粒子の表面形状が滑らかではなく、表面に凹凸を有する傾向にある。このため、外力を受けた場合、粒子間の滑りが乏しく、容易に局所に外力が集中し、損破あるいは破壊し易いと考えられる。
【0034】
この結果、被覆層が設けられていない表面が露呈する。すなわち、充放電サイクル特性の向上に機能しない、被覆層が設けられていない表面、並びに活性な新生表面が露呈する。よって、高充電電圧条件下、高容量の充放電サイクル特性が悪化する。なお、露呈された表面は、周知のように活性で、高表面エネルギーを有する。このため、電解液の分解反応、および表面の溶出の活性は、通常の焼成にて形成された表面に比較して極めて高い。
【0035】
そこで、本願発明者等は、粒子間の焼結に基づく、正極機能の劣化改善と、製造プロセスの改善を目的に、鋭意検討を進め、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物が被着された複合酸化物粒子の表面に、さらに、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)からなるランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物を被着することで焼結の進行を改善できることを見出した。これに伴い、粒子の損破あるいは破壊を低下できることを見出した。また、金属酸化物微粒子からなる表面層を設けることで、被覆層を構成するニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)が複合酸化物粒子へ固溶することを防止し、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を複合酸化物粒子の表面に留めて被覆効果を増し、結果としてサイクル特性も改善することを見出した。
【0036】
次に、複合酸化物粒子、被覆層、表面層について説明する。
【0037】
[複合酸化物粒子]
複合酸化物粒子は、リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含むものであり、例えば、以下の化1で平均組成が表されるものであることが好ましい。このような複合酸化物粒子を用いることにより、高容量および高い放電電位を得ることができる。
【0038】
(化1)
Li(1+x)Co(1-y)y(2-z)
(化1中、Mはマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素である。x、y、zは、−0.10≦x≦0.10、0≦y<0.50、−0.10≦z≦0.20である。)
【0039】
ここで、化1において、xの範囲は、例えば、−0.10≦x≦0.10であり、−0.08≦x≦0.08がより好ましく、さらに好ましくは−0.06≦x≦0.06である。この範囲外に値が小さくなると、放電容量が減少してしまう。また、この範囲外に値が大きくなると、該粒子外に拡散し、次の処理工程の塩基性度の制御の障害となるとともに、最終的には、正極ペーストの混練中のゲル化促進の弊害の原因となる。
【0040】
yの範囲は、例えば、0≦y<0.50であり、好ましくは0≦y<0.40であり、さらに好ましくは0≦y<0.30である。この範囲外に大きくなると、LiCoO2の有する高充電電圧性と、これに伴う高エネルギー密度性とが損なわれてしまう。
【0041】
zの範囲は、例えば、−0.10≦z≦0.20であり、−0.08≦z≦0.18がより好ましく、さらに好ましくは−0.06≦z≦0.16である。この範囲外に値が小さくなる場合、およびこの範囲外に値が大きくなる場合は、放電容量が減少する傾向がある。
【0042】
複合酸化物粒子は、通常において正極活物質として入手できるものを出発原料として、用いることができるが、場合によっては、ボールミルや擂潰機などを用いて二次粒子を解砕した後に用いることができる。
【0043】
[被覆層]
被覆層は、複合酸化物粒子の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなるものである。この被覆層を設けることによって、高充電電圧性と、これに伴う高エネルギー密度性とを実現でき、かつ、高充電電圧条件下での充放電サイクル特性を向上できる。
【0044】
被覆層におけるニッケル(Ni)とマンガン(Mn)の構成比としては、モル比で100:0〜30:70の範囲内であることが好ましく、100:0〜40:60の範囲内であることがより好ましい。マンガン(Mn)の量がこの範囲を超えて増加すると、リチウム(Li)の吸蔵性が低下し、最終的に、正極活物質の容量の低下、および電池に用いた際の電気抵抗の増大の要因となるからである。また、このニッケル(Ni)とマンガン(Mn)の構成比の範囲は、リチウム(Li)を加えた前駆体の焼成において、粒子間の焼結の進行を抑制する、より有効性を示す範囲である。
【0045】
また、被覆層の酸化物におけるニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)を、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素で置き換えることができる。
【0046】
これにより、正極活物質の安定性の向上、およびリチウムイオンの拡散性を向上できる。なお、選択された金属元素の置換量は、被覆層の酸化物のニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)の総量の例えば40mol%以下であるが、好ましくは30mol%以下であり、より好ましくは20mol%以下である。この範囲を超えて、選択された金属元素の置換量が増加すると、リチウム(Li)の吸蔵性が低下し、正極活物質の容量の低下となるからである。
【0047】
また、被覆層の量は、例えば、複合酸化物粒子100重量部に対して、例えば、0.5重量部以上50重量部以下であり、好ましくは、1.0重量部以上40重量部以下であり、より好ましくは、2.0重量部以上35重量部以下である。この範囲を超えて金属酸化物の被覆重量が増加すると、正極活物質の容量の低下となるからである。この範囲より金属酸化物の被覆重量が低下すると、正極活物質の安定性の低下となるからである。
【0048】
[表面層]
表面層は、被覆層の少なくとも一部に設けられ、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)からなるランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなるものである。
【0049】
表面層のランタノイド量は、酸化ランタノイドに換算した重量(例えば、金属酸化物中のランタン量を、酸化ランタン(La23)に換算した重量)として、この正極活物質100重量部に対して0.02重量部以上2.0重量部以下、好ましくは0.05重量部以上1.5重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以上1.0重量部以下である。この範囲を超えてランタノイド酸化物の被着量が増加すると、リチウムイオンの拡散抵抗の増大および正極活物質の容量減少の傾向がある。また、この範囲よりランタノイド酸化物の被着量の量が低下すると、粒子間の焼結防止効果と、これに伴う充放電サイクル特性を向上させる効果が低減する傾向にある。
【0050】
なお、被覆層および表面層は、正極活物質を構成する元素の表面から内部に向かう濃度変化を調べることにより確認することができる。この濃度変化は、例えば、断面を用いた表面組成分布の測定や、正極活物質をスパッタリングなどにより削りながらその組成をオージェ電子分光分析(Auger Electron Spectroscopy;AES)あるいは二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)により測定することが可能である。また、正極活物質を酸性溶液中などでゆっくり溶解させ、その溶出分の時間変化を誘導結合高周波プラズマ分光分析(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy;ICPAES)などにより測定することも可能である。
【0051】
上述のように構成された正極活物質の平均粒径は、好ましくは2.0μm以上50μm以下である。平均粒径が2.0μm未満であると、正極作製時にプレスする時に剥離し、また、活物質の表面積が増えるために、導電剤や結着剤の添加量を増加する必要があり、単位重量あたりのエネルギー密度が小さくなってしまう傾向があるからである。一方、この平均粒径が50μmを超えると粒子がセパレータを貫通し、短絡を引き起こす傾向にあるからである。
【0052】
[正極活物質の製造方法]
次に、この発明の一実施形態による正極活物質の製造方法について説明する。以下では第1の製造方法および第2の製造方法を説明する。
【0053】
<第1の製造方法>
この発明の一実施形態による正極活物質の第1の製造方法は、複合酸化物粒子の少なくとも一部にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物よりなる層を形成したのち、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、上述のランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物よりなる層を形成する第1の工程と、ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物を形成したのち、加熱処理することにより、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドの少なくとも1種を含む酸化物よりなる表面層を形成する第2の工程と、に大別できる。
【0054】
(第1の工程)
第1の工程では、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物と、ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物の被着処理を行う。第1の工程では、例えば、まず、複合酸化物粒子を、ニッケル(Ni)の化合物および/またはマンガン(Mn)の化合物が溶解された水を主体とする溶媒系に分散し、この分散系に塩基を添加するなどにより分散系の塩基性度を高め、複合酸化物粒子表面に、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を析出させる。なお、複合酸化物粒子を塩基性の水を主体とする溶媒中に分散し、次に、この水溶液にニッケル(Ni)の化合物および/またはマンガン(Mn)の化合物を添加して、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を析出させるようにしてもよい。
【0055】
ニッケル(Ni)を含む水酸化物の被着処理の原料として、ニッケル化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、フッ化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、過塩素酸ニッケル、臭素酸ニッケル、ヨウ素酸ニッケル、酸化ニッケル、過酸化ニッケル、硫化ニッケル、硫酸ニッケル、硫酸水素ニッケル、窒化ニッケル、亜硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、チオシアン酸ニッケルなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ニッケル、酢酸ニッケルなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0056】
また、マンガン(Mn)を含む水酸化物の被着処理の原料として、マンガン化合物としては、水酸化マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、フッ化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン、塩素酸マンガン、過塩素酸マンガン、臭素酸マンガン、ヨウ素酸マンガン、酸化マンガン、ホスフィン酸マンガン、硫化マンガン、硫化水素マンガン、硝酸マンガン、硫酸水素マンガン、チオシアン酸マンガン、亜硝酸マンガン、リン酸マンガン、リン酸二水素マンガン、炭酸水素マンガンなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸マンガン、酢酸マンガンなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0057】
次に、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を被着した複合酸化物粒子の表面に、ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物を被着する。ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物の被着は、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物の被着と同様にして行うことができる。すなわち、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を被着した複合酸化物粒子を、ランタノイドの少なくとも1種を含む化合物が溶解された水を主体とする溶媒系に分散し、この分散系に塩基を添加するなどにより分散系の塩基性度を高め、ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物を析出させる。なお、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を被着した複合酸化物粒子を、塩基性の水を主体とする溶媒中に分散し、その後、この水溶液にランタノイドの少なくとも1種を含む化合物を添加してその水酸化物を析出させるようにしてもよい。
【0058】
ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物の被着処理の原料としては、例えば以下の化合物を用いることができる。
【0059】
ランタン化合物としては硝酸ランタン、フッ化ランタン、塩化ランタン、臭化ランタン、ヨウ化ランタン、過塩素酸ランタン、酸化ランタン、硫酸ランタン、炭酸ランタンなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ランタン、酢酸ランタンなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0060】
セリウム化合物としては、硝酸セリウム、フッ化セリウム、塩化セリウム、臭化セリウム、ヨウ化セリウム、過塩素酸セリウム、酸化セリウム、硫酸セリウム、炭酸セリウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸セリウム、酢酸セリウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0061】
プラセオジム化合物としては、硝酸プラセオジム、フッ化プラセオジム、塩化プラセオジム、臭化プラセオジム、ヨウ化プラセオジム、過塩素酸プラセオジム、酸化プラセオジム、硫酸プラセオジム、炭酸プラセオジムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸プラセオジム、酢酸プラセオジムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0062】
ネオジム化合物としては、硝酸ネオジム、フッ化ネオジム、塩化ネオジム、臭化ネオジム、ヨウ化ネオジム、過塩素酸ネオジム、酸化ネオジム、硫酸ネオジム、炭酸ネオジムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ネオジム、酢酸ネオジムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0063】
サマリウム化合物としては、硝酸サマリウム、フッ化サマリウム、塩化サマリウム、臭化サマリウム、ヨウ化サマリウム、過塩素酸サマリウム、酸化サマリウム、硫酸サマリウム、炭酸サマリウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸サマリウム、酢酸サマリウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0064】
ユウロピウム化合物としては、硝酸ユウロピウム、フッ化ユウロピウム、塩化ユウロピウム、臭化ユウロピウム、ヨウ化ユウロピウム、過塩素酸ユウロピウム、酸化ユウロピウム、硫酸ユウロピウム、炭酸ユウロピウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ユウロピウム、酢酸ユウロピウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0065】
ガドリニウム化合物としては、硝酸ガドリニウム、フッ化ガドリニウム、塩化ガドリニウム、臭化ガドリニウム、ヨウ化ガドリニウム、過塩素酸ガドリニウム、酸化ガドリニウム、硫酸ガドリニウム、炭酸ガドリニウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ガドリニウム、酢酸ガドリニウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0066】
テルビウム化合物としては、硝酸テルビウム、フッ化テルビウム、塩化テルビウム、臭化テルビウム、ヨウ化テルビウム、過塩素酸テルビウム、酸化テルビウム、硫酸テルビウム、炭酸テルビウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸テルビウム、酢酸テルビウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0067】
ジスプロシウム化合物としては、硝酸ジスプロシウム、フッ化ジスプロシウム、塩化ジスプロシウム、臭化ジスプロシウム、ヨウ化ジスプロシウム、過塩素酸ジスプロシウム、酸化ジスプロシウム、硫酸ジスプロシウム、炭酸ジスプロシウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ジスプロシウム、酢酸ジスプロシウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0068】
ホルミウム化合物としては、硝酸ホルミウム、フッ化ホルミウム、塩化ホルミウム、臭化ホルミウム、ヨウ化ホルミウム、過塩素酸ホルミウム、酸化ホルミウム、硫酸ホルミウム、炭酸ホルミウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ホルミウム、酢酸ホルミウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0069】
エルビウム化合物としては、硝酸エルビウム、フッ化エルビウム、塩化エルビウム、臭化エルビウム、ヨウ化エルビウム、過塩素酸エルビウム、酸化エルビウム、硫酸エルビウム、炭酸エルビウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸エルビウム、酢酸エルビウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0070】
ツリウム化合物としては、硝酸ツリウム、フッ化ツリウム、塩化ツリウム、臭化ツリウム、ヨウ化ツリウム、過塩素酸ツリウム、酸化ツリウム、硫酸ツリウム、炭酸ツリウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ツリウム、酢酸ツリウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0071】
イッテルビウム化合物としては、硝酸イッテルビウム、フッ化イッテルビウム、塩化イッテルビウム、臭化イッテルビウム、ヨウ化イッテルビウム、過塩素酸イッテルビウム、酸化イッテルビウム、硫酸イッテルビウム、炭酸イッテルビウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸イッテルビウム、酢酸イッテルビウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0072】
ルテチウム化合物としては、硝酸ルテチウム、フッ化ルテチウム、塩化ルテチウム、臭化ルテチウム、ヨウ化ルテチウム、過塩素酸ルテチウム、酸化ルテチウム、硫酸ルテチウム、炭酸ルテチウムなどの無機系化合物、あるいは、シュウ酸ルテチウム、酢酸ルテチウムなどの有機系化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を用いてもよい。
【0073】
第1の工程では、上述した水を主体とする溶媒系のpHは、例えばpH12以上であるが、好ましくはpH13以上、さらに好ましくは、pH14以上である。上述した水を主体とする溶媒系のpHの値は、高いほど、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物の被着の均一性が良好であり、反応精度も高く、処理時間の短縮による生産性の向上、品質の向上の利点がある。また、水を主体とする溶媒系のpHは、使用するアルカリのコストとの兼合い等で決定されるものでもある。
【0074】
また、処理分散系の温度は、例えば40℃以上であるが、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。処理分散系の温度の値は、高いほど、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物の被着の均一性は良く、かつ、反応速度も高く、処理時間の短縮による生産性の向上、品質の向上の利点がある。装置的なコストおよび生産性との兼合いで決定されるものであるが、オートクレーブを用い100℃以上で行うことも、被着の均一性の向上と反応速度の向上による処理時間の短縮による生産の観点から、推奨できる。
【0075】
さらに、第1の工程では、例えば水を主体とする溶媒系で、複合酸化物粒子の表面にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を形成した後に、これを水を主体とする溶媒系から取り出して、ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物の被着を行うことも可能であるが、これに限定されるものではない。例えば、複合酸化物粒子の表面にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物を形成した後に、そのままこれを水を主体とする溶媒系から分離せずに、この溶媒系にランタノイドからなる化合物を添加するようにして、ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物を被着することも可能である。
【0076】
さらに、水を主体とする溶媒系のpHは、水を主体とする溶媒系にアルカリを溶解することで達することができる。アルカリとしては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、並びにこれらの混合物を挙げることができる。これらのアルカリを、適宜用いて実施することが可能であるが、最終的に得られる一実施形態による正極活物質の純度と性能の観点において、水酸化リチウムを用いることが優れている。水酸化リチウムを用いることの利点としては、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物が形成された複合酸化物粒子を、水を主体とする溶媒系から取り出す際に、水を主体とする溶媒よりなる分散媒の付着量を制御することで、最終的に得られる一実施形態による正極活物質のリチウム量を、制御できるからである。
【0077】
(第2の工程)
第2の工程では、第1の工程により被着処理した複合酸化物粒子を、水を主体とする溶媒系から分離し、その後、加熱処理することにより水酸化物を脱水し、複合酸化物粒子の表面にリチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドの少なくとも1種を含む酸化物よりなる表面層を形成する。ここで、加熱処理は、空気あるいは、純酸素などの酸化雰囲気中において、例えば300℃〜1000℃程度の温度で行うことが好ましい。この際に、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物に、ランタノイドの少なくとも1種を含む水酸化物が被着されているので、粒子間における焼結が抑制され、粒子同士の結着が抑制される。
【0078】
なお、第1の工程により被着処理を行った複合酸化物粒子を溶媒系から分離した後、必要があればリチウム量を調整するために、リチウム化合物の水溶液を複合酸化物粒子に含浸させて、その後、加熱処理を行ってもよい。
【0079】
リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、臭素酸リチウム、ヨウ素酸リチウム、酸化リチウム、過酸化リチウム、硫化リチウム、硫化水素リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、窒化リチウム、アジ化リチウム、亜硝酸リチウム、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウム、炭酸水素リチウムなどの無機系化合物、あるいは、メチルリチウム、ビニルリチウム、イソプロピルリチウム、ブチルリチウム、フェニルリチウム、シュウ酸リチウム、酢酸リチウムなどの有機化合物を用いることができる。
【0080】
また焼成後、必要に応じて、軽い粉砕や分級操作などによって、粒度を調整してもよい。
【0081】
<第2の製造方法>
この発明の一実施形態による正極活物質の第2の製造方法は、複合酸化物粒子の少なくとも一部にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物よりなる層を形成し、乾燥する第1の工程と、乾燥後の複合酸化物粒子の少なくとも一部に、ランタノイドの少なくとも1種を含む酸化物よりなる金属酸化物微粒子を被覆する第2の工程と、金属酸化物粒子による被覆を行ったのち加熱処理することにより、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドの少なくとも1種を含む酸化物よりなる表面層を形成する第3の工程と、に大別できる。
【0082】
(第1の工程)
第1の工程では、複合酸化物粒子表面に、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物の被着処理を行う。水酸化物の被着処理は、第1の製造方法と同様の材料および方法を用いることができる。次に、水酸化物を被着処理した複合酸化物粒子を、水を主体とする溶媒系から分離し、その後、例えば120℃の環境下で乾燥する。
【0083】
(第2の工程)
第2の工程では、第1の工程により水酸化物が被着された複合酸化物粒子に、ランタノイドの少なくとも1種を含む酸化物よりなる金属酸化物微粒子を添加し、乾式攪拌混合することにより、複合酸化物粒子の表面に金属酸化物粒子を被覆させる。
【0084】
(第3の工程)
第3の工程では、水酸化物を被着処理したのち金属酸化物粒子で被覆した複合酸化物粒子を加熱処理することにより水酸化物を脱水し、複合酸化物粒子の表面にリチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドの少なくとも1種を含む酸化物よりなる表面層を形成する。ここで、加熱処理は、空気あるいは、純酸素などの酸化雰囲気中において、例えば300℃〜1000℃程度の温度で行うことが好ましい。この際に、ニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物に、ランタノイドの少なくとも1種を含む金属酸化物粒子が被着されているので、粒子間における焼結が抑制され、粒子同士の結着が抑制される。
【0085】
なお、第1の製造方法と同様に、焼成後、必要に応じて、軽い粉砕や分級操作などによって、粒度を調整してもよい。
【0086】
このような正極活物質を用いることにより、高充電電圧下で優れた安定性を得ることができ、これに伴ってエネルギー密度を向上させることができ、高い充放電容量を得ることができる。また、高充電電圧下において、高容量での充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0087】
次に、上述したこの発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池について説明する。
【0088】
(1)非水電解質二次電池の第1の例
(1−1)非水電解質二次電池の構成
図1は、この発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の断面構造を表している。
【0089】
この二次電池では、一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が、例えば、4.25V以上4.65V以下である。
【0090】
この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶1の内部に、帯状の正極2と帯状の負極3とがセパレータ4を介して巻回された巻回電極体20を有している。
【0091】
電池缶1は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶1の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板5および絶縁板6がそれぞれ配置されている。
【0092】
電池缶1の開放端部には、電池蓋7と、この電池蓋7の内側に設けられた安全弁機構8および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)9とが、ガスケット10を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶1の内部は密閉されている。電池蓋7は、例えば、電池缶1と同様の材料により構成されている。安全弁機構8は、熱感抵抗素子9を介して電池蓋7と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板11が反転して電池蓋7と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子9は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット10は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0093】
巻回電極体20は、例えば、センターピン12を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極2には、例えばアルミニウム(Al)などよりなる正極リード13が接続されており、負極3には、例えばニッケル(Ni)などよりなる負極リード14が接続されている。正極リード13は、安全弁機構8に溶接されることにより電池蓋7と電気的に接続されており、負極リード14は、電池缶1に溶接され電気的に接続されている。
【0094】
[正極]
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。図2に示すように、正極2は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体2Aと、正極集電体2Aの両面に設けられた正極合剤層2Bとを有している。なお、正極集電体2Aの片面のみに正極合剤層2Bが設けられた領域を有するようにしてもよい。正極集電体2Aは、例えば、アルミニウム(Al)箔等の金属箔により構成されている。正極合剤層2Bは、例えば、正極活物質を含んでおり、必要に応じてグラファイトなどの導電剤と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤とを含んでいてもよい。正極活物質としては、上述した一実施形態による正極活物質を用いることができる。
【0095】
[負極]
図2に示すように、負極3は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体3Aと、負極集電体3Aの両面に設けられた負極合剤層3Bとを有している。なお、負極集電体3Aの片面のみに負極合剤層3Bが設けられた領域を有するようにしてもよい。負極集電体3Aは、例えば銅(Cu)箔などの金属箔により構成されている。負極合剤層3Bは、例えば、負極活物質を含んでおり、必要に応じてポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。
【0096】
負極活物質としては、リチウム(Li)を吸蔵および離脱することが可能な負極材料(以下、リチウム(Li)を吸蔵・離脱可能な負極材料と適宜称する。)を含んでいる。リチウム(Li)を吸蔵・離脱可能な負極材料としては、例えば、炭素材料、金属化合物、酸化物、硫化物、LiN3などのリチウム窒化物、リチウム金属、リチウムと合金を形成する金属、あるいは高分子材料などが挙げられる。
【0097】
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維あるいは活性炭が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。また、高分子材料としてはポリアセチレンあるいはポリピロール等が挙げられる。
【0098】
このようなリチウム(Li)を吸蔵・離脱可能な負極材料のなかでも、充放電電位が比較的リチウム金属に近いものが好ましい。負極3の充放電電位が低いほど電池の高エネルギー密度化が容易となるからである。なかでも炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性を得ることができるので好ましい。
【0099】
リチウム(Li)を吸蔵・離脱可能な負極材料としては、また、リチウム金属単体、リチウム(Li)と合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が挙げられる。これらは高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなるものも含める。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。
【0100】
このような金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。これらの合金あるいは化合物としては、例えば、化学式MesMftLiu、あるいは化学式MepMgqMhrで表されるものが挙げられる。これら化学式において、Meはリチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、MfはリチウムおよびMe以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mgは非金属元素の少なくとも1種を表し、MhはMe以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表す。また、s、t、u、p、qおよびrの値はそれぞれs>0、t≧0、u≧0、p>0、q>0、r≧0である。
【0101】
なかでも、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0102】
この他、MnO2、V25、V613、NiS、MoSなど、リチウム(Li)を含まない無機化合物を用いることもできる。
【0103】
[電解液]
電解液としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。サイクル特性を向上させることができるからである。特に、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを混合して含むようにすれば、よりサイクル特性を向上させることができるので好ましい。非水溶媒としては、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートまたはメチルプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステルの中から、少なくとも1種を含んでいることが好ましい。サイクル特性をより向上させることができるからである。
【0104】
非水溶媒としては、さらに、2,4−ジフルオロアニソールおよびビニレンカーボネートのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。2,4−ジフルオロアニソールは放電容量を改善することができ、ビニレンカーボネートはサイクル特性をより向上させることができるからである。特に、これらを混合して含んでいれば、放電容量およびサイクル特性を共に向上させることができるのでより好ましい。
【0105】
非水溶媒としては、さらに、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、これら化合物の水素基の一部または全部をフッ素基で置換したもの、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドあるいはリン酸トリメチル等のいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0106】
組み合わせる電極によっては、上記非水溶媒群に含まれる物質の水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したものを用いることにより、電極反応の可逆性が向上する場合がある。したがって、これらの物質を適宜用いることも可能である。
【0107】
電解質塩であるリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒酸リチウム(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C654)、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO2CF32)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SO2CF33)、四塩化アルミン酸リチウム(LiAlCl4)、六フッ化ケイ酸リチウム(LiSiF6)、塩化リチウム(LiCl)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiBF2(ox))、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、あるいは臭化リチウム(LiBr)が適当であり、これらのうちのいずれか1種または2種以上が混合して用いることができる。なかでも、LiPF6は、高いイオン伝導性を得ることができるとともに、サイクル特性を向上できるので好ましい。
【0108】
[セパレータ]
以下に、一実施形態に利用可能なセパレータ4の材料について説明する。セパレータ4としては、従来の電池に使用されてきたものを利用することが可能である。そのなかでも、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上が可能なポリオレフィン製微孔性フィルムを使用することが特に好ましい。例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)からなる微多孔膜が好ましい。
【0109】
さらに、セパレータ4としては、シャットダウン温度がより低いポリエチレンと耐酸化性に優れるポリプロピレンを積層または混合したものを用いることが、シャットダウン性能とフロート特性の両立が図れる点から、より好ましい。
【0110】
(1−2)非水電解質二次電池の製造方法
次に、非水電解質二次電池の製造方法について説明する。以下、一例として円筒型の非水電解質二次電池を挙げて、非水電解質二次電池の製造方法について説明する。
【0111】
正極2は、以下に述べるようにして作製する。まず、例えば、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて正極合剤スラリーとする。
【0112】
次に、この正極合剤スラリーを正極集電体2Aに塗布し溶剤を乾燥させた後、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極合剤層2Bを形成し、正極2を作製する。
【0113】
負極3は、以下に述べるようにして作製する。まず、例えば、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。
【0114】
次に、この負極合剤スラリーを負極集電体3Aに塗布し溶剤を乾燥させた後、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極合剤層3Bを形成し、負極3を作製する。
【0115】
また、負極合剤層3Bは、例えば、気相法、液相法、焼成法により形成してもよく、それらの2以上を組み合わせてもよい。なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法を用いることができ、具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーテング法、レーザーアブレーション法、熱CVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法あるいはプラズマCVD法等が利用可能である。液相法としては電解鍍金あるいは無電解鍍金等の公知の手法が利用可能である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が利用可能である。
【0116】
次に、正極集電体2Aに正極リード13を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体3Aに負極リード14を溶接などにより取り付ける。次に、正極2と、負極3とをセパレータ4を介して巻回し、正極リード13の先端部を安全弁機構8に溶接すると共に、負極リード14の先端部を電池缶1に溶接して、巻回した正極2および負極3を一対の絶縁板5、6で挟み電池缶1の内部に収納する。
【0117】
次に、電解液を電池缶1の内部に注入し、電解液をセパレータ4に含浸させる。次に、電池缶1の開口端部に電池蓋7、安全弁機構8および熱感抵抗素子9を、ガスケット10を介してかしめることにより固定する。以上により、非水電解質二次電池が作製される。
【0118】
(2)非水電解質二次電池の第2の例
(2−1)非水電解質二次電池の構成
図3は、この発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の構造を示す。図3に示すように、この非水電解質二次電池は、電池素子30を防湿性ラミネートフィルムからなる外装材37に収容し、電池素子30の周囲を溶着することにより封止してなる。電池素子30には、正極リード32および負極リード33が備えられ、これらのリードは、外装材37に挟まれて外部へと引き出される。正極リード32および負極リード33のそれぞれの両面には、外装材37との接着性を向上させるために樹脂片34および樹脂片35が被覆されている。
【0119】
[外装材]
外装材37は、例えば、接着層、金属層、表面保護層を順次積層した積層構造を有する。接着層は高分子フィルムからなり、この高分子フィルムを構成する材料としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)などが挙げられる。金属層は金属箔からなり、この金属箔を構成する材料としては、例えばアルミニウム(Al)などが挙げられる。また、金属箔を構成する材料としては、例えばアルミニウム(Al)以外の金属を用いることも可能である。表面保護層を構成する材料としては、例えばナイロン(Ny)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。なお、接着層側の面が、電池素子30を収納する側の収納面となる。
【0120】
[電池素子]
この電池素子30は、例えば、図4に示すように、両面にゲル電解質層45が設けられた帯状の負極43と、セパレータ44と、両面にゲル電解質層45が設けられた帯状の正極42と、セパレータ44とを積層し、長手方向に巻回されてなる巻回型の電池素子30である。
【0121】
正極42は、帯状の正極集電体42Aと、この正極集電体42Aの両面に形成された正極合剤層42Bとからなる。
【0122】
正極42の長手方向の一端部には、例えばスポット溶接または超音波溶接で接続された正極リード32が設けられている。この正極リード32の材料としては、例えばアルミニウム等の金属を用いることができる。
【0123】
負極43は、帯状の負極集電体43Aと、この負極集電体43Aの両面に形成された負極合剤層43Bとからなる。
【0124】
また、負極43の長手方向の一端部にも正極42と同様に、例えばスポット溶接または超音波溶接で接続された負極リード33が設けられている。この負極リード33の材料としては、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)等を用いることができる。
【0125】
正極集電体42A、正極合剤層42B、負極集電体43A、負極合剤層43Bは、上述の第1の例と同様である。
【0126】
ゲル電解質層45は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル電解質層45は高いイオン伝導率を得ることができるとともに、電池の漏液を防止できるので好ましい。電解液の構成(すなわち液状の溶媒、および電解質塩)は、第1の実施形態と同様である。
【0127】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートを挙げることができる。特に電気化学的な安定性の点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0128】
(2−2)非水電解質二次電池の製造方法
次に、この発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の製造方法について説明する。まず、正極42および負極43のそれぞれに、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させてゲル電解質層45を形成する。なお、予め正極集電体の端部に正極リード32を溶接により取り付けるとともに、負極集電体43Aの端部に負極リード33を溶接により取り付けるようにする。
【0129】
次に、ゲル電解質層45が形成された正極42と負極43とを、セパレータ44を介して積層し積層体とした後、この積層体をその長手方向に巻回して、巻回型の電池素子30を形成する。
【0130】
次に、ラミネートフィルムからなる外装材37を深絞り加工することで凹部36を形成し、電池素子30をこの凹部36に挿入し、外装材37の未加工部分を凹部36上部に折り返し、凹部36の外周部分を熱溶着し密封する。以上により、非水電解質二次電池が作製される。
【実施例】
【0131】
この発明の具体的実施態様を以下に実施例をもって述べるが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0132】
<実施例1>
まず、本実施例で用いた正極活物質の作製方法を以下に示す。
レーザー散乱法により測定した平均粒子径が13μm、比表面積が0.3m2/gのコバルト酸リチウム(平均化学組成分析値:Li1.03CoO2.02)100重量部を、80℃、2Nの水酸化リチウム(LiOH)水溶液3000重量部に1時間撹拌分散させた。これに、市販試薬の硝酸ニッケル(Ni(NO32・6H2O)11.15重量部と、市販試薬の硝酸マンガン(Mn(NO32・6H2O)3.67重量部とを100重量部の純水に溶解した溶液を2時間かけて添加した。さらに、市販試薬の硝酸ランタン(La(NO33・6H2O)1.33重量部を50重量部の純水に溶解した溶液を1時間かけて添加した後、80℃で1時間撹拌分散を続け、放冷した。この分散系を濾過し、120℃で乾燥して得た前駆体試料100重量部に、リチウム量を調整するために、前記2Nの水酸化リチウム(LiOH)水溶液25重量部を含浸し、均一に混合乾燥させ焼成前駆体を得た。この焼成前駆体を電気炉を用いて毎分5℃の速度で昇温し、950℃で5時間保持した後に、毎分7℃で150℃まで冷却し、正極活物質を得た。
【0133】
以上の正極活物質を用い、以下に記すように円筒型二次電池を作製した。
【0134】
まず、作製した正極活物質粉末86重量%と、導電剤としてグラファイト10重量%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)4重量%とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させたのち、厚み20μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体の両面に塗布して乾燥させ、ローラプレス機により圧縮成型して正極合剤層を形成し正極を作製した。その際、正極活物質粉末は、70μm開口篩を通るように十分に擂潰機により粉砕して用いた。また、正極合剤層の空隙は、体積比率で26%となるように調節した。次に、正極集電体にアルミニウム製の正極リードを取り付けた。
【0135】
また、負極活物質として人造黒鉛粉末90重量%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)10重量%とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させたのち、厚み10μmの帯状銅箔よりなる負極集電体の両面に塗布して乾燥させ、ローラプレス機により圧縮成型して負極合剤層を形成し負極を作製した。次に、負極集電体にニッケル製の負極リードを取り付けた。
【0136】
以上のようにして作製した帯状正極と、帯状負極とを多孔性ポリオレフィンフィルムからなるセパレータを介して積層し、多数回巻回して渦巻き型の巻回電極体を作製した。次に、この巻回電極体を鉄製の電池缶に収納し、巻回電極体の上下両面に一対の絶縁板を配置した。次に、正極リードを正極集電体から導出して、電池蓋と電気的な同通が確保された安全弁機構に溶接し、負極リードを負極集電体から導出して電池缶の底部に溶接した。
【0137】
その後、電池缶の内部に電解液を注入した。電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを1:1の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1.0mol/dm3となるように溶解させたものを用いた。さらに、ガスケットを介して電池蓋をかしめることにより、安全弁機構、熱感抵抗素子および電池蓋を固定し、外径18mm、高さ65mmの円筒型二次電池を得た。
【0138】
<実施例2>
硝酸ニッケルの添加量を14.87重量部、硝酸マンガンの添加量を14.67重量部とし、硫酸ランタン(La2(SO43・9H2O)の添加量を0.45重量部とし、リチウム量を調整するために用いる水酸化リチウム水溶液を50重量部とした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0139】
<実施例3>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸セリウム(Ce(NO33・6H2O)1.32重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0140】
<実施例4>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硫酸セリウム(Ce2(SO43・8H2O)0.45重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0141】
<実施例5>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸プラセオジム(Pr(NO33・6H2O)1.32重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0142】
<実施例6>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硝酸プラセオジム(Pr(NO33・6H2O)0.53重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0143】
<実施例7>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸ネオジム(Nd(NO33・6H2O)1.30重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0144】
<実施例8>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硫酸ネオジム(Nd2(SO43・8H2O)0.43重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0145】
<実施例9>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸サマリウム(Sm(NO33・6H2O)1.28重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0146】
<実施例10>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硫酸サマリウム(Sm2(SO43・8H2O)0.42重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0147】
<実施例11>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸ユウロピウム(Eu(NO33・6H2O)1.27重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0148】
<実施例12>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硫酸ユウロピウム(Eu2(SO43・8H2O)0.42重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0149】
<実施例13>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸ガドリニウム(Gd(NO33・6H2O)1.25重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0150】
<実施例14>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硫酸ガドリニウム(Gd(NO33・8H2O)0.42重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0151】
<実施例15>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸テルビウム(Tb(NO33・6H2O)1.24重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0152】
<実施例16>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硫酸テルビウム(Tb2(SO43・8H2O)0.41重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0153】
<実施例17>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸ジスプロシウム(Dy(NO33・6H2O)1.22重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0154】
<実施例18>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硫酸ジスプロシウム(Dy2(SO43・8H2O)0.41重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0155】
<実施例19>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸ホルミウム(Ho(NO33・5H2O)1.17重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0156】
<実施例20>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硝酸ホルミウム(Ho(NO33・5H2O)0.47重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0157】
<実施例21>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸エルビウム(Er(NO33・5H2O)1.16重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0158】
<実施例22>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硝酸エルビウム(Er(NO33・5H2O)0.46重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0159】
<実施例23>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸ツリウム(Tm(NO33・6H2O)1.39重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0160】
<実施例24>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硝酸ツリウム(Tm(NO33・6H2O)0.55重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0161】
<実施例25>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸イッテルビウム(Yb(NO33・5H2O)1.14重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0162】
<実施例26>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに硝酸イッテルビウム(Yb(NO33・5H2O)0.46重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0163】
<実施例27>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに市販試薬の硝酸ルテチウム(Lu(NO33の硝酸溶液、ICP基準溶液、25mg金属Lu/mL 2〜5%硝酸溶液)17.6重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0164】
<実施例28>
硝酸ランタン0.89重量部の代わりに市販試薬の硝酸ルテチウム(Lu(NO33の硝酸溶液、ICP基準溶液、25mg金属Lu/mL 2〜5%硝酸溶液)7.04重量部を用いた以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0165】
<実施例29>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸プラセオジム(Pr(NO33・6H2O)0.03重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0166】
<実施例30>
硝酸ランタン1.33重量部の代わりに硝酸プラセオジム(Pr(NO33・6H2O)7.00重量部を用いた以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0167】
<比較例1>
実施例1のコバルト酸リチウムを、表面層および被覆層を設けることなく正極活物質とした以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0168】
<比較例2>
硝酸ランタンの添加を行わないこと以外は実施例1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0169】
<比較例3>
硝酸ランタンの添加を行わないこと以外は実施例2と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0170】
[円筒型二次電池の評価]
(a)初期容量
上述のようにして作製した円筒型二次電池について、環境温度45℃で充放電を行い、1サイクル目の放電容量を初期容量として求めた。
【0171】
なお、充電は、1000mAの定電流で電池電圧が4.40Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.40Vの定電圧で充電時間の合計が2.5時間となるまで定電圧充電を行った。また、放電は、800mAの定電流で電池電圧が2.75Vに達するまで定電流放電を行った。
【0172】
(b)容量維持率
(a)のようにして初期容量を求めた円筒型二次電池について、同条件にて200サイクルまで充放電を行い、200サイクル目の放電容量を測定して、初期容量に対する容量維持率を{(200サイクル目の放電容量/初期容量)×100}より求めた。
【0173】
以下の表1に、評価の結果を示す。
【0174】
【表1】

【0175】
表1から分かるように、本願の構成を用いた実施例1乃至実施例30は、比較例1乃至比較例3と比較して初期容量をほぼ同等に保ったまま容量維持率が向上した。すなわち、複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層が設けられ、この被覆層の少なくとも一部に、ランタイノイドを含む酸化物よりなる表面層が設けられた本願発明の正極活物質を用いることにより、高い初期容量と容量維持率を有する非水電解質二次電池を得ることができる。
【0176】
また、実施例29のように、被覆層のランタノイド量が少なすぎる場合、容量維持率向上の効果が表れにくい。また、被覆層のランタノイド量が多すぎる場合、ラインタノイドは電池反応に寄与しないため、初期容量が減少してしまう。このため、焼成後の正極活物質100重量部に対するランタノイド量が0.02重量部以上2.0重量部以下となるように被覆層を調整することが好ましい。
【0177】
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、その形状においては、特に限定されない。角型、コイン型、ボタン型等を呈するものであってもよい。
【0178】
また、第1の例では、電解質として、電解液を有する非水電解質二次電池、第2の例では、電解質として、ゲル電解質を有する非水電解質二次電池について説明したがこれらに限定されるものではない。
【0179】
例えば、電解質としては、上述したものの他にイオン伝導性高分子を利用した高分子固体電解質、またはイオン伝導性無機材料を利用した無機固体電解質なども用いることも可能であり、これらを単独あるいは他の電解質と組み合わせて用いてもよい。高分子固体電解質に用いることができる高分子化合物としては、例えばポリエーテル、ポリエステル、ポリフォスファゼン、あるいはポリシロキサンなどを挙げることができる。無機固体電解質としては、例えばイオン伝導性セラミックス、イオン伝導性結晶、あるいはイオン伝導性ガラスなどを挙げることができる。
【0180】
さらに、例えば、非水電解質二次電池の電解液としては、特に限定されることなく従来の非水溶媒系電解液などが用いられる。この中で、アルカリ金属塩を含む非水電解液からなる二次電池の電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、繃−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ギ酸メチル、スルホラン、オキサゾリドン、塩化チオニル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレンカーボネートや、これらの誘導体や混合物などが好ましく用いられる。電解液に含まれる電解質としては、アルカリ金属、特にカルシウムのハロゲン化物、過塩素酸塩、チオシアン塩、ホウフッ化塩、リンフッ化塩、砒素フッ化塩、アルミニウムフッ化塩、トリフルオロメチル硫酸塩などが好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】この発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の第1の例の概略断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部の拡大断面図である。
【図3】この発明の一実施形態による正極活物質を用いた非水電解質二次電池の第2の例の概略図である。
【図4】図3に示した電池素子の一部の拡大断面である。
【符号の説明】
【0182】
1・・・・電池缶
2・・・・正極
2A・・・正極集電体
2B・・・正極合剤層
3・・・・負極
3A・・・負極集電体
3B・・・負極合剤層
4・・・・セパレータ
5、6・・絶縁板
7・・・・電池蓋
8・・・・安全弁機構
9・・・・熱感抵抗素子
10・・・ガスケット
11・・・ディスク板
12・・・センターピン
13・・・正極リード
14・・・負極リード
20・・・巻回電極体
30・・・電池素子
32・・・正極リード
33・・・負極リード
34、35・・・樹脂片
35・・・負極リード
36・・・凹部
37・・・外装材
42・・・正極
42A・・正極集電体
42B・・正極合剤層
43・・・負極
43A・・負極集電体
43B・・負極合剤層
44・・・セパレータ
45・・・ゲル電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子と、
上記複合酸化物粒子表面の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層と、
上記被覆層の少なくとも一部に設けられ、ランタノイドのうちの少なくとも1種の元素を含む酸化物よりなる表面層と、
を備える
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
上記表面層のランタノイド量は、酸化ランタノイドに換算した重量として、上記非水電解質二次電池用正極活物質100重量部に対して0.02重量部以上2.0重量部以下である
ことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
上記ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)からなる
ことを特徴とする請求項2記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
上記複合酸化物粒子は、化1で平均組成が表されるものである
ことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
(化1)
Li(1+x)Co(1-y)y(2-z)
(化1中、Mはマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素である。x、y、zは、−0.10≦x≦0.10、0≦y<0.50、−0.10≦z≦0.20である。)
【請求項5】
上記被覆層における上記ニッケル(Ni)と上記マンガン(Mn)との構成比が、モル比で100:0〜30:70の範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
上記被覆層は、上記ニッケル(Ni)および上記マンガン(Mn)の総量の40mol%以下を、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素で置き換えたものである
ことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
上記被覆層は、上記複合酸化物粒子100重量部に対し、0.5重量部以上50重量部以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
平均粒径が2.0μm以上50μm以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項9】
リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子の少なくとも一部にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物よりなる層を形成したのち、上記複合酸化物粒子の少なくとも一部にランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の水酸化物よりなる層を形成する工程と、
加熱処理により、上記複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなる表面層を形成する工程と、
を有する
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
上記表面層のランタノイド量は、酸化ランタノイドに換算した重量として、上記非水電解質二次電池用正極活物質100重量部に対して0.02重量部以上2.0重量部以下である
ことを特徴とする請求項9記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
上記複合酸化物粒子は、化1で平均組成が表されるものである
ことを特徴とする請求項9記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
(化1)
Li(1+x)Co(1-y)y(2-z)
(化1中、Mはマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素である。x、y、zは、−0.10≦x≦0.10、0≦y<0.50、−0.10≦z≦0.20である。)
【請求項12】
上記複合酸化物粒子をpH12以上の水を主体とする溶媒に分散した後、上記ニッケル(Ni)の化合物および/または上記マンガン(Mn)の化合物を添加することにより、上記ニッケル(Ni)および/または上記マンガン(Mn)を含む水酸化物の被着行う
ことを特徴とする請求項9記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
上記水を主体とする溶媒は、水酸化リチウムを含有する
ことを特徴とする請求項12記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
上記被覆層における上記ニッケル(Ni)と上記マンガン(Mn)との構成比が、モル比で100:0〜30:70の範囲内である
ことを特徴とする請求項9記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項15】
上記被覆層は、上記ニッケル(Ni)および上記マンガン(Mn)の総量の40mol%以下を、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素で置き換えたものである
ことを特徴とする請求項9記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項16】
上記被覆層は、上記複合酸化物粒子100重量部に対し、0.5重量部以上50重量部以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項9記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項17】
上記非水電解質二次電池用正極活物質は、平均粒径が2.0μm以上50μm以下の範囲内であること
を特徴とする請求項9記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項18】
リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子の少なくとも一部にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物よりなる層を形成する工程と、
上記複合酸化物粒子の表面にランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物を被覆したのち、加熱処理することにより、上記複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層、およびランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなる表面層を形成する工程と、
を有する
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項19】
非水電解質二次電池用正極活物質を有する正極と、負極と、電解質と、を備え、
上記非水電解質二次電池用正極活物質は、
リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子と、
上記複合酸化物粒子表面の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層と、
上記被覆層の少なくとも一部に設けられ、ランタノイドのうちの少なくとも1種の元素の酸化物よりなる表面層と、
を備える
ことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−4316(P2009−4316A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166594(P2007−166594)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】