説明

非水電解質二次電池

【課題】充電中に内部短絡の発生による発熱で電池内部が高温になると、非水電解質などの燃焼成分に対し、正極活物質は酸素放出源となることがある。内部短絡発生時に、このような酸素放出を抑制し、発生する発熱量を低下させることで、安全性および機能性を向上させた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】正極と、負極と、非水電解質と、セパレータとを備えた非水電解質二次電池であって、前記正極は、集電体と、前記集電体上に積層され、Ti、Al、MnおよびZrを含む群より選択された少なくとも1種の金属または合金からなる被覆層を有する正極活物質粒子とを備えた非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部短絡発生時における安全性に優れた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池は、軽量でありながら起電力が高く、高エネルギー密度であるという特徴を有することから、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ノート型パソコンなどの様々な種類の携帯電子機器や移動体通信機器の駆動用電源として、需要が拡大している。非水電解質二次電池の代表として、例えば、リチウムイオン二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池は、LiCoOやLiNiO(但し、xは電池の充放電状態により変化)などのリチウム含有複合酸化物からなる正極と、金属リチウム、リチウム合金、または、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極活物質を含む負極と、非水電解質と、セパレータとから構成されている。しかしながら、非水電解質二次電池は、充電中に電池内部で短絡が起こると、短絡部ではジュール熱が発生して発熱する。この発熱により、電池内部が高温となり、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)などの非水電解質の溶媒は、沸点が低いために気化する。また、充電状態の反応性の高い高価数状態のCo4+やNi4+を含むリチウム含有複合酸化物の構成要素である正極活物質の表面では、熱分解反応により酸素が放出される。
【0003】
気化した非水電解質と正極活物質から放出された酸素とが反応すると、電池内部では燃焼反応が進行し、さらに発熱する。この発熱を抑制できない場合は、電池の温度上昇が引き起こされて、安全性の低い非水電解質二次電池となってしまう。
【0004】
そこで、電池内部での燃焼反応を抑制するため、正極活物質粒子の表面に、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Al、CeO、As、又は、これら2種以上の混合物からなる酸化物の被膜を形成して、短絡発生時の安全性を高めたリチウム二次電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、正極活物質の構成要素である複合酸化物粒子に、水酸化物の被覆前駆層、表面元素を含む表面前駆層の順に形成し、加熱処理を行うことで、正極活物質の表面に被覆層と表面層とを形成する。この表面層により、粒子同士の結着や被覆層の剥離および粒子の破損を抑制し、電池の容量および充放電効率を向上させることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−236114号公報
【特許文献2】特開2007−258095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非水電解質二次電池の安全性を高めるためには、単に酸化物を正極活物質に被覆することにより、非水電解質と正極活物質が放出する酸素との燃焼反応を抑制するだけでなく、正極活物質の熱分解反応によって発生する酸素量自体を低減させ、発熱反応量を小さくすることが有効である。非水電解質二次電池の安全性を高めるためには、単に酸化物を正極活物質に被覆することにより、非水電解質と正極活物質が放出する酸素との燃焼反応を抑制するだけでなく、正極活物質の熱分解反応によって発生する酸素量自体を低減することが有効である。
【0007】
しかし、酸化物の被覆層は、電池内部で短絡が起こったとき、被覆層で抑制しきれなかった酸素が非水電解質と反応し、電池の安全性を低下させる発熱を引き起こす原因となっていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電池内部における酸素発生に起因する発熱反応の発熱量を低下させることで、安全性かつ機能性を向上させた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、セパレータとを備えた非水電解質二次電池であって、前記正極は、集電体と、前記集電体上に積層され、Ti、Al、MnおよびZrを含む群より選択された少なくとも1種の金属または、上記群より選択される少なくとも1種の金属元素Meを含む合金からなる被覆層を有する正極活物質粒子と、を備える。
【0010】
本発明の非水電解質二次電池における正極活物質粒子は、Niを含むリチウム含有複合酸化物である。
【0011】
本発明の非水電解質二次電池における被覆層は、真空成膜プロセスにより形成される。
【0012】
本発明の真空成膜プロセスはイオンプレーティング法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非水電解質二次電池によれば、正極活物質粒子の表面に、Ti、Al、MnおよびZrを含む群より選択された少なくとも1種の金属または合金からなる被覆層を備えることで、短絡発生時の発熱により正極活物質が熱分解することで発生した酸素を、被覆層に吸収させて、酸素が非水電解質側に放出されるのを抑制することができる。
【0014】
したがって、酸素と非水電解質との燃焼反応を防止することができ、電池内部における短絡発生時の発熱量を低下させることができる。さらには、電池内部の温度変化を抑制することができるため、電池特性の劣化を低減し、非水電解質の分解を抑制することができる。その結果、安全性および信頼性、かつ、機能性が向上した非水電解質二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における非水電解質二次電池100の一部展開斜視図である。図1に示すように、本実施の形態1における非水電解質二次電池100は、負極1、放電時にリチウムイオンを還元する正極2、負極1と正極2との間に介在して負極1と正極2との直接的な接触を防ぐセパレータ3、電池ケース5、封口板6、正極リード7、負極リード9、負極外部接続端子10、枠体11、および、非水電解質(図示せず)により構成されている。
【0017】
負極1および正極2は、セパレータ3とともに捲回されて、電極群4として形成される。電極群4は、非水電解質(図示せず)とともに電池ケース5内に収納されて、正極リード7および負極リード9に接続されている。
【0018】
電池ケース5の上部は開口しており、その開口部には封口板6が設けられている。封口板6には、負極リード9と外部機器とを接続するための負極外部接続端子10、非水電解質を注入するための注液口12、および、注液口12を封止するための注液口封止部8が備えられている。電池ケース5の内部には、電極群4と封口板6とを隔離するとともに、正極リード7と負極リード9とを隔離するための、例えば、樹脂製の枠体11が配置されている。なお、電池ケース5は、正極リード7と外部機器とを接続するための正極外部接続端子として機能し、SUSまたはアルミニウムなどを用いる。
【0019】
負極1は、負極集電体と負極合剤層とにより構成されている。負極集電体としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンなどの金属箔、炭素や導電性樹脂の薄膜などを用いることができる。さらには、これらの材料をカーボン、ニッケル、チタンなどで表面処理してもよい。負極合剤層には、負極活物質、結着剤、導電剤が含まれている。
【0020】
負極活物質としては、少なくともリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な材料であればよく、グラファイトや非晶質カーボンのような炭素材料、好ましくは、ケイ素(Si)やスズ(Sn)などのような、正極活物質材料よりも卑な電位でリチウムイオンを大量に吸蔵・放出可能な材料を用いることができる。上述した負極活物質材料を少なくとも一つを含む合金、化合物、固溶体、含ケイ素材料、含スズ材料などの複合負極活物質でもよい。
【0021】
含ケイ素材料としては、Si、SiOx(但し、0.05<x<1.95)、または、これらのいずれかにB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N、Snからなる群より選択された少なくとも1つ以上の元素でSiの一部を置換した合金、化合物、または、固溶体などを用いることができる。含スズ材料としては、NiSn、MgSn、SnO(但し、0<x<2)、SnO、SnSiO、LiSnOなどを用いることができる。含ケイ素材料は、非水電解質二次電池の容量密度を大きくすることができ、かつ、安価であるため、より好ましい。
【0022】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。
【0023】
導電剤は、必要に応じて混入すればよく、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、銅やニッケルなどの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを用いることができる。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態1における正極2の構成図である。図2に示すように、正極2は、正極集電体22と正極合剤層21とにより構成されている。正極集電体22としては、アルミニウム(Al)、炭素、導電性樹脂などを用いることができる。さらには、これらの材料をカーボンなどで表面処理してもよい。正極合剤層21には、正極活物質粒子23、結着剤、導電剤が含まれている。本実施の形態1において、正極活物質粒子23の表面は、被覆層24に覆われている。
【0025】
正極活物質粒子23としては、ニッケルまたはコバルトを主成分とするリチウム複合酸化物、オリビン型リン酸リチウム(LiMPO4 M=V、Fe、Ni、Me)、フルオロリン酸リチウム(Li2MPO4F M=V、Fe、Ni、Me)などを用いることができる。さらには、これらリチウム化合物の一部を異種元素で置換してもよい。あるいは、これらの材料を金属酸化物、リチウム酸化物、導電剤などで表面処理してもよい。なお、本実施の形態1において、正極活物質粒子23として用いられるリチウム複合酸化物の形態は、上記に限定されることはなく、例えば、一次粒子の状態や、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の状態で構成されてもよい。
【0026】
正極活物質粒子23の平均粒径は、特には限定されないが、5〜40μm、さらには10〜20μmが好ましい。正極活物質粒子23の平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社マイクロトラック製)等により測定することができ、体積基準における50%値(メディアン値:D)を、正極活物質粒子23の平均粒径と見なすことができる。
【0027】
本実施の形態1における代表的なリチウム複合酸化物は、一般式:Li1−yで表され、元素Mは、少なくともNiまたはCoのいずれか1種である。特に、電池内部で短絡が起きた時、Niを主成分とするリチウム複合酸化物は、CoやMnを主成分とするリチウム複合酸化物に比べ、低温で熱分解反応を起こして酸素を放出する。そのため、他の元素を主成分とするリチウム複合酸化物より低温の段階で、被覆層24に酸素を吸収することができる。
【0028】
元素Lは、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素、IIIB族元素、および、IVB元素からなる群より選択された少なくとも1種であって、リチウム複合酸化物の熱安定性の向上に効果を与えるものである。なお、元素Lは、リチウム複合酸化物の中に固溶していてもよい。リチウム複合酸化物の一般式におけるxの範囲は、電池の充放電により増減するのだが、完全放電状態(初期状態)においては、0.85≦x≦1.25、さらには0.93≦x≦1.1が好ましい。yの範囲は、0≦y≦0.50であればよいが、容量、サイクル特性、熱安定性などのバランスを考慮すると、0<y≦0.50が好ましく、特には0.001≦y≦0.35が好ましい。
【0029】
なお、0<yの場合、元素Lとして、Al、Mn、Ti、Mg、Zr、Nb、Mo、W、および、Yより選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの元素は、リチウム複合酸化物に元素Lとして単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。これらの中でも、Mn、Ti、および、Nbは、元素Lとしてより好ましく、特にAlは、酸素との結合力が強いことから好適である。その他、元素Lとして、Ca、Sr、Si、Sn、Bなどを含んでもよいが、これらは、Al、Mn、Ti、Nbなどと併用することがより好ましい。
【0030】
元素LがAlを含む場合、NiとCo、または、どちらか1種と元素Lとの合計に対するAlの原子比Aは、0.005≦A≦0.1、さらには0.01≦A≦0.08が好適である。
【0031】
元素LがMnを含む場合、NiとCo、または、どちらか1種と元素Lとの合計に対するMnの原子比Bは、0.005≦B≦0.5、さらには0.01≦B≦0.35が好適である。
【0032】
元素Lが少なくともTiまたはNbのいずれか1種を含む場合、NiとCo、または、どちらか1種とLとの合計に対するTiおよび/またはNbの原子比cは、0.001≦c≦0.1、さらには0.001≦c≦0.08が好適である。
【0033】
被覆層24は、所定の元素Meを含む微細な金属粒子から形成されている。被覆層24は、正極活物質粒子23からの酸素の放出を抑制して、電池内で発生する発熱量を低減させることができる。
【0034】
本実施の形態1では、金属元素Meとして、短絡時の安全性を向上させる効果を有する、Ti、Al、MnおよびZrを含む群より選択された少なくとも1種の金属または合金を用いている。すなわち、これらの元素は、被覆層24に金属元素Meとして単独で含まれていてもよく、複数種で含まれていてもよい。また、リチウム複合酸化物の中に固溶した元素Lと、被覆層24に含まれる金属元素Meとは、同種の元素を含んでいてもよい。同種の元素である場合でも、これらは結晶構造等が異なるため、EPMA(電子線マイクロアナライザ、Electron Probe Micro Analyser)による元素マッピング、XPS(X線光電子分光分析、X−ray Photoelectron Spectroscopy)による化学結合状態の解析、SIMS(二次イオン質量分析、Secondary Ion Mass Spectrometry)を始めとする様々な分析手法により明確に区別することができる。
【0035】
導電剤としては、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料を用いることができる。
【0036】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。
【0037】
また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンからなる群より選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。あるいは、上記群より少なくとも2種以上を選択し、混合したものを用いてもよい。
【0038】
酸化物、水酸化物などを用いて、熱処理により金属元素Meを析出させて正極活物質粒子23に付着させる方法がある。この方法では、蒸着時に高温になった時、酸素が不足した状態で焼成するため酸素源として正極活物質粒子23が有する酸素を用いて、燃焼をする。そのため、正極活物質粒子23の酸素が不足し、本来、正極活物質粒子23が有する性能が低下してしまう可能性がある。しかし、真空下において、金属元素Meを正極活物質粒子23上に被覆する方法である真空成膜プロセスでは、プロセス温度を低温に保ちながら成膜を行うことができるので、金属元素Meが正極活物質粒子23の酸素を奪って酸化することはなく、正極活物質粒子23の性能低下を引き起こさない。特に、真空成膜プロセスの1つであるイオンプレーティング法は、均一で、被覆範囲が広く、強固な付着強度を有した被覆層24を形成することができる。本実施の形態1における被覆層24は、真空成膜プロセスを用いて、正極活物質粒子23の表面に形成されている。
【0039】
そこで、本実施の形態1では、図3に示すような、イオンプレーティング成膜装置40を用いた真空下での被覆処理方法により、被覆層24を形成した。以下、イオンプレーティング法を用いた被覆層24の形成方法について、具体的に説明する。
【0040】
図3に示すように、イオンプレーティング成膜装置40の内部には、シャッター35、正極活物質粒子23が封入された粒子ストッカー36、フィーダー37、および、振動式トレイ38が設置されている。イオンプレーティング成膜装置40の外部には、プラズマガン31、アノード32、蒸着素材34、および、真空排気39が設置されている。イオンプレーティング成膜装置40の内部は、真空排気39により真空状態に保持されている。
【0041】
正極活物質粒子23は、粒子ストッカー36からフィーダー37を通って、振動式トレイ38上に配置される。この時、正極活物質粒子23上にあるシャッター35は閉じられている。放電開始にて、プラズマガン31とアノード32との間にプラズマ33を発生させる。プラズマ33は、アノード32に引き寄せられて、蒸着素材34を照射する。プラズマ33が照射された蒸着素材34は、溶解イオン化される。シャッター35が開かれると、溶解イオン化した蒸着素材34が図3に示す矢印のようにシャワー状に飛散し、正極活物質粒子23の表面を被覆する。こうして、正極活物質層23の表面には、被覆層24が形成される。
【0042】
そして、上記工程により形成された被覆層24を有する正極活物質粒子23に、導電材および結着剤を分散させて調合し、正極合剤ペーストを作製する。この正極合剤ペーストを正極集電体22上に塗布し、乾燥させて、合剤層21を形成する。乾燥後、プレスすることで、所定の厚みを有する正極2を作製することができる。
【0043】
このように、イオンプレーティング法を用いて作製された本実施の形態1における正極2は、プレスする工程を経ても、被覆された金属粒子が剥離することのない、安定した、信頼性の高い正極2となる。
【0044】
セパレータ3として、電解質溶液を用いる場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、アミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミドなどからなる不織布や微多孔膜などに、電解質溶液を含浸させて、負極1と正極2との間に配置することが好ましい。また、セパレータ3の内部あるいは表面には、アルミナ、マグネシア、シリカ、チタニアなどの耐熱性フィラーを含ませてもよい。さらには、セパレータ3とは別に、上記耐熱性フィラーと、負極1や正極2に用いたのと同じ結着剤とから構成された耐熱層をセパレータ3の表面に設けてもよい。
【0045】
非水電解質(図示せず)としては、有機溶媒に溶質を溶解した電解質溶液や、これを含み高分子で非流動化された、いわゆるポリマー電解質層を用いることができる。非水電解質の材料は、正極活物質や負極活物質の酸化還元電位などを基に選択される。非水電解質の好ましい溶質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlCl、LiSBF、LiSCN、LiCFSO、LiN(CFCO)、LiN(CFSO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiF、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ビス(1、2−ベンゼンジオレート(2−)−O、O’)ほう酸リチウム、ビス(2、3−ナフタレンジオレート(2−)−O、O’)ほう酸リチウム、ビス(2、2’−ビフェニルジオレート(2−)−O、O’)ほう酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O、O’)ほう酸リチウムなどのほう酸塩類、(CFSONLi、LiN(CFSO)(CSO)、(CSONLi、テトラフェニルホウ酸リチウムなど、一般にリチウム電池で使用されている塩類を挙げることができる。
【0046】
上記塩類を溶解させる有機溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシメタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、トリメトキシメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのテトラヒドロフラン誘導体、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのジオキソラン誘導体、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、スルホラン、3−メチルスルホラン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、エチルエーテル、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、フルオロベンゼンなどの1種またはそれ以上の混合物など、一般にリチウム電池で使用されている有機溶媒を用いることができる。
【0047】
さらに、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、ジアリルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、カテコールカーボネート、酢酸ビニル、エチレンサルファイト、プロパンサルトン、トリフルオロプロピレンカーボネート、ジベニゾフラン、2,4−ジフルオロアニソール、o−ターフェニル、m−ターフェニルなどの添加剤を、上記有機溶媒に含ませてもよい。
【0048】
なお、非水電解質として、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンなどの高分子材料の1種またはそれ以上の混合物などに上記溶質を混合した固体電解質を用いてもよい。あるいは、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などの無機材料による固体電解質を用いてもよい。さらには、有機溶媒と固体電解質を混合したゲル状の非水電解質を用いてもよい。
【0049】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における非水電解質二次電池60の断面図である。図4に示すように、本実施の形態2における非水電解質電池60は、負極61、放電時にリチウムイオンを還元する正極62、負極61と正極62との間に介在して負極61と正極62との直接的な接触を防ぐセパレータ63、外装ケース64、樹脂材料65、負極リード66、正極リード67、および、非水電解質(図示せず)により構成されている。
【0050】
負極61は、負極集電体61aと負極合剤層61bとにより構成され、負極集電体61aには、負極リード66が接続されている。正極62は、正極集電体62aと正極合剤層62bとにより構成され、正極集電体62aには、正極リード67が接続されている。なお、図示していないが、本実施の形態2において、正極合剤層62bには、正極活物質粒子、結着剤、導電剤が含まれており、正極活物質粒子の表面は、被覆層に覆われている。被覆層は、実施の形態1で行った真空プロセスで、正極活物質粒子の表面に形成されている。
【0051】
負極61および正極62は、セパレータ63を介して、負極合剤層61bと正極合剤層62bとが対向するように配置されて、フィルムまたはシートからなる外装ケース64内に、非水電解質(図示せず)とともに挿入されている。樹脂材料65は、負極リード66および正極リード67と、外装ケース64との間に配置されている。
【0052】
本実施の形態2における非水電解質二次電池60の、外装ケース64を除く各構成要素の材料、および、被覆層(図示せず)の形成方法については、実施の形態1とほぼ同様のため、説明を省略する。
【実施例】
【0053】
以下、図1に示す本発明の非水電解質二次電池100を用いた実施例について、具体的に説明する。
【0054】
(実施例1)
<負極1の作製>
人造黒鉛3kgをBM−400B(固形分40重量%の変性スチレン−ブタジエンゴムの分散液、日本ゼオン株式会社製)200g、カルボキシメチルセルロース(CMC)50g、および、適量の水とともに、双腕式練合機に入れて攪拌し、負極合剤ペーストを調製した。
【0055】
得られた負極合剤ペーストを、厚さ12μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、120℃で3時間乾燥させて圧延し、総厚が160μmの負極1を作製した。
【0056】
<正極2の作製>
図3に示すイオンプレーティング装置40(株式会社エムエーテック製)を用いて、以下の方法により正極2を作製した。正極活物質粒子23としては、粉状のLiNi0.80Co0.15Al0.05(平均粒径20μm、住友金属鉱山株式会社製)を用い、蒸着素材34としては、金属元素Tiを用いた。
【0057】
正極活物質粒子23を、粒子ストッカー36に200g封入し、フィーダー37を通して振動式トレイ38上に配置した。イオンプレーティング成膜装置40の内部を真空排気39により真空状態を保持し、シャッター35を閉じた状態で、放電を開始した。これにより、プラズマガン31とアノード32との間には、プラズマ33が発生し、プラズマ33は、アノード32に引き寄せられて、蒸着素材34を照射した。プラズマ33に照射された金属元素Tiは、イオン化され気化した。
【0058】
その後、シャッター35を開き、イオン化した金属元素Tiを、図3に示す矢印のようにシャワー状に飛散させることで、正極活物質粒子23の表面を被覆し、金属元素Tiからなる被覆層24を形成した。
【0059】
このようにして形成された被覆層24の金属元素Ti量は、正極活物質粒子23の質量に対して、1.0wt%であり、被覆層24の厚みは、粒径20μmの正極活物質粒子23に対して、約300nmであった。本実施例1の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、粉体抵抗測定装置(三菱化学株式会社製)を用いて測定すると、5.6×10−1[Ω・cm]を示した。
【0060】
Ti被覆層24が形成された正極活物質粒子23の粉体200gを、結着剤の溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液100gで溶解したPVDF(#1320、固形分12重量%、呉羽化学工業株式会社製)、導電剤としてのアセチレンブラック8g、および、適量の結着剤の溶媒であるNMPとともに、双腕式練合機を用いて、30℃で30分間攪拌し、正極合剤ペーストを調製した。得られた正極合剤ペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体22の両面に塗布し、120℃で15分間乾燥させて、正極合剤層21を形成した。その後、圧廷ローラ(ローラ径の直径40cm)により、正極合剤層21と正極集電体22とを密着させ、さらにロールプレスで線圧10000N/cmのプレス圧力をかけて、総厚が160μmの正極2を作製した。
【0061】
<非水電解質二次電池の作製>
負極1と正極2とを、セパレータ3を介して捲回することで電池厚み4.80mmの渦巻状の電極群4を構成し、図1に示す縦5mm、横34mm、高さ50mmの角型の電池ケース5に挿入した。負極1と正極2には、それぞれ負極リード9と正極リード7を備えた。電池ケース5の開口部を、負極外部接続端子10を備えた封口板6により封口し、封口板6に設けられた注液口12から非水電解質を注入して、注液口封止部8で封止することで、サンプル1を作製した。
【0062】
セパレータ3には、ポリエチレンとポリプロピレンとの複合フィルム(セルガード株式会社製、#2300、厚さ25μm)を用いた。非水電解質には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:1で混合した電解質溶媒に、電解質LiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。電池の設計容量は、900mAhとした。
【0063】
(実施例2)
正極活物質粒子23の質量に対して、金属元素Ti量が2.0wt%の正極合剤層21を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル2とした。本実施例2の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に粉体抵抗測定装置を用いて測定すると、2.2×10−1[Ω・cm]を示した。
【0064】
(実施例3)
正極活物質粒子23の質量に対して、金属元素Ti量が4.0wt%の正極合剤層21を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル3とした。本実施例3の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に9.1×10−2[Ω・cm]を示した。
【0065】
(実施例4)
正極活物質粒子23の質量に対して、金属元素Ti量が6.0wt%の正極合剤層21を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル4とした。本実施例4の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に7.4×10−2[Ω・cm]を示した。
【0066】
(実施例5)
正極活物質粒子23の質量に対して、金属元素Ti量が8.0wt%の正極合剤層21を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル5とした。本実施例5の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に4.6×10−2[Ω・cm]を示した。
【0067】
(実施例6)
正極活物質粒子23の質量に対して、金属元素Ti量が10.0wt%の正極合剤層21を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル6とした。本実施例6の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に2.8×10−2[Ω・cm]であり、約4桁の低下を示した。
【0068】
(実施例7)
正極活物質粒子23の質量に対して、金属元素Ti量が15.0wt%の正極合剤層21を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル7とした。本実施例7の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に2.2×10−2[Ω・cm]を示した。
【0069】
(実施例8)
正極活物質粒子23の質量に対して、金属元素Ti量が20.0wt%の正極合剤層21を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル8とした。本実施例8の正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に1.7×10−2[Ω・cm]を示した。
【0070】
(比較例1)
被覆層24を有さない正極活物質粒子23を、正極合剤層21に用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプルXとした。このとき正極活物質粒子23の電子伝導性を表す体積抵抗率の値は、同様に8.5×10[Ω・cm]であり、被覆したものに比べ約4桁大きい値であった。
【0071】
<評価>
作製した正極2を、下記保存環境条件(A)、(B)下でそれぞれ保存してから、角型の非水電解質型二次電池のサンプル1〜8、および、サンプルXを作製し、評価を行った。
【0072】
(正極2の保存環境条件)
(A)露点−50℃で12時間保存
(B)温度25℃、相対湿度50%にて12時間保存
(評価1)電池厚みの測定
サンプル1〜8、および、サンプルXを、環境温度25℃において、定電流50mAにて3.0Vまで放電した後、30分間休止した。その後、定電流200mAで4時間充電した後、環境温度45℃において10時間放置した。放置した非水電解質二次電池を、45℃の環境温度から取り出して、電池温度が25℃になるまで冷却し、電池厚みを測定した。
【0073】
(評価2)サイクル特性
サンプル1〜8、および、サンプルXを、環境温度45℃において、4.2Vにて定電圧充電した後、30分間休止した。充電時の最大電流値は0.9A、充電終了時の電流値は50mAとした。その後、定電流0.9Aで放電した後、30分間休止した。放電終了時の電圧値は0.9Aとした。
【0074】
上記充放電サイクルを1サイクルとして、500回繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の割合を、容量維持率(%)として求めた。
【0075】
サンプル1〜8、および、サンプルXの評価結果を(表1)に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
(表1)に示すように、露点が−50℃と低い保存環境(A)では、全てのサンプルにおいて電池厚みは、放電前の電池厚み4.80mmとほとんど差が生じなかった。このことから、正極活物質粒子23と非水電解質との分解反応による酸素ガスの発生量が少ないと考えられる。一方、露点が高い保存環境(B)では、全てのサンプルにおいて、保存環境(A)より電池厚みが大きいことが確認された。したがって、保存環境(B)では、正極活物質粒子23と非水電解質との分解反応による酸素ガスの発生量が、保存環境(A)の時よりも多いと考えられる。
【0078】
また、保存環境(B)では、サンプル1〜8において、電池厚みにほとんど差は生じなかった。しかしながら、サンプルXのみは、電池厚みが他のサンプルより大きいことが確認された。したがって、サンプル1〜8では、金属元素Tiからなる被覆層24が、正極活物質粒子23と非水電解質との反応を抑制しているためだと考えられる。
【0079】
また、サンプル1〜8では、保存環境(A)および(B)において、充放電を500サイクル繰り返しても、高い容量維持率を保持し、かつ、容量維持率の大幅な低下は見られなかった。したがって、サンプル1〜8では、異なる保存環境下においても、サイクル特性にほとんど差は生じないことが分かる。一方、サンプルXでは、保存環境(B)において、充放電後に大きな容量維持率の低下が見られた。したがって、サンプルXでは、正極活物質粒子23の表面に金属元素Tiからなる被覆層24を有さないため、正極活物質粒子23が有する酸素と生成工程で付着した水酸基とが反応することで、正極活物質粒子23の表面に水が付着してしまい、正極活物質粒子23が変質したためと考えられる。
【0080】
以上の結果より、本実施例1〜8による非水電解質二次電池は、正極活物質としてNiを含むリチウム複合酸化物において、正極活物質粒子23の表面に金属粒子の被覆層24を形成することで、非水電解質の分解で発生した酸素ガスによる電池の膨張や、正極活物質粒子23の表面劣化を抑制することができるため、サイクル容量維持率を向上させることができる。
【0081】
なお、上記実施例では、図1に示す角型の非水電解質二次電池100を用いてしたが、電池ケースの膨張は、電池形状に起因するものではなく、ボタン型電池、平型電池、または、その他の形状を有する非水電解質二次電池においても同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0082】
次に、図4に示す本発明の非水電解質二次電池60を用いた実施例について、具体的に説明する。
【0083】
(実施例9)
<負極61の作製>
人造黒鉛3kgをBM−400B(固形分40重量%の変性スチレン−ブタジエンゴムの分散液、日本ゼオン株式会社製)200g、カルボキシメチルセルロース(CMC)50g、および、適量の水とともに、双腕式練合機に入れて攪拌し、負極合剤ペーストを調製した。
【0084】
得られた負極合剤ペーストを、厚さ12μmの銅箔からなる負極集電体61aの片面に塗布し、120℃で3時間乾燥させて圧延し、総厚が70μmの負極61を作製した。負極61の、負極合剤層61bを塗布していない負極集電体62aの面には、負極リード66を接続した。
【0085】
<正極62の作製>
正極活物質粒子としては、粉状のLiNi0.80Co0.15Al0.05(平均粒径20μm、住友金属鉱山株式会社製)200gを用い、蒸着粒子としては、金属元素Tiを用いた。同様の粉体供給機構を有するEB蒸着装置(神港精機株式会社製)により、正極活物質粒子の表面に、金属元素Tiからなる被覆層(図示せず)を5.0wt%成膜した。
【0086】
Ti被覆層が形成された正極活物質粒子の粉体4.0gと、導電剤であるアセチレンブラック0.3gと、結着剤であるポリフッ化ビニリデン粉末0.8gと、結着剤の溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)適量とを、充分に混合して正極合剤ペーストを調製した。得られた正極合剤ペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体62aの片面に塗布し、120℃で3時間乾燥させて圧延し、正極活物質層の厚さ70μm、サイズ30mm×30mmの正極62を作製した。正極62の、正極合剤層62bを塗布していない正極集電体62aの面には、正極リード67を接続した。
【0087】
<非水電解質二次電池の作製>
負極61と正極62とを、を介して、負極合剤層61bと正極合剤層62bとが対向するように配置することで、薄い極板群を構成した。負極61と正極62には、それぞれ負極リード66と正極リード67を接続した。この極板群を、非水電解質(図示せず)とともに、アルミニウムラミネートシートからなる外装ケース64に挿入した。負極リード66および正極リード67と、外装ケース64との間には、樹脂材料65を配置した。正極リード67と負極リード66を外部に導出させた状態で、減圧しながら外装ケース64内を真空状態にして外装ケース64の端部を溶着することで、非水電解質二次電池を作製した。
【0088】
セパレータ63には、厚さ20μmのポリエチレン微多孔膜からなる旭化成株式会社製の9416Gを用いた。非水電解質には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:1で混合した電解質溶媒に、電解質LiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。
【0089】
(実施例10)
金属元素として、Alを1.0wt%被覆したこと以外は、実施例9と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル10とした。
【0090】
(実施例11)
金属元素として、Mnを4.0wt%被覆したこと以外は、実施例9と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル11とした。
【0091】
(実施例12)
金属元素として、Zrを5.0wt%被覆した用いたこと以外は、実施例9と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプル12とした。
【0092】
(比較例2)
被覆層を有さない正極活物質粒子を、正極合剤層62bに用いたこと以外は、実施例9と同様の方法により作製した非水電解質二次電池をサンプルYとした。
【0093】
<評価>
(DSCおよびTGの測定)
充電状態、放電状態のサンプル9〜12、および、サンプルYを分解し、それぞれの正極合剤層62bに対するDSC(示差走査熱量分析、Differential Scanning Calorimetry)、および、TG(熱重量分析、Thermogravimetric Analysis)の測定を、熱分析装置(株式会社リガク製)を用いて行った。図5に、被覆処理を行ったサンプル9〜12と、被覆処理を行わなかったサンプルYのDSC測定結果を示す。また、(表2)には、サンプル9〜12、および、サンプルYのTGの測定結果から得られた熱分析結果を示す。
【0094】
【表2】

【0095】
図5より、被覆層を有さない正極活物質粒子のみで構成されたサンプルYの発熱量を示すピークは、被覆層を有する正極活物質粒子で構成されたサンプル9〜12に比べて大きいことがわかる。また、(表2)に示すように、サンプルYの充電状態における「発熱曲線形状」は、ブロードではなく、233℃でピークとなった。一方、サンプル9〜12の充電状態における「発熱曲線形状」は全て、ほぼブロードで、被覆層に用いた金属元素の種類による違いは見られなかった。したがって、サンプル9〜12で被覆層に用いた金属元素が、正極活物質粒子からの酸素放出量を抑制しているため、電池内の発熱量が低減されたと考えられる。
【0096】
(表2)より、被覆層を有さない正極活物質粒子のみで構成されたサンプルYは、被覆層を有するサンプル9〜12より重量変化が大きいことがわかる。また、(表2)に示すように、サンプル9〜12の放電状態における「被覆層あり重量減量(%)」は、サンプルYとの差ほど大きな数値差は見られなかった。したがって、サンプル9〜12で被覆層に用いた金属元素の種類による違いは見られず、上記金属元素による被覆層は全て、短絡時の正極活物質粒子からの酸素放出を抑制していると考えられる。
【0097】
以上の結果より、本実施例9〜12による非水電解質二次電池は、高容量を示す正極活物質であるNiを含むリチウム複合酸化物を用いて、正極活物質粒子の表面に、金属元素Ti、Al、MnおよびZrを含む群より選択された少なくとも1種の金属または合金からなる被覆層を形成することで、短絡時の正極活物質からの酸素放出を抑制し、電池内で発生する発熱量を低減させることができるため、安全性および信頼性、かつ、機能性を向上させることができる。
【0098】
なお、本発明に係わる非水電解質二次電池の形状は、上記実施例に限定されるものではなく、平型、捲回式の角型や円筒型、または、積層構造のコイン型やラミネート型など、いずれの形状にも適用することができる。
【0099】
また、上記実施例では、小型機器用の電池で検討したが、大型で大容量の電池にも有効であることは言うまでもなく、例えば、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電源に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、様々な形態の非水電解質二次電池に適用することができ、特に、リチウム複合酸化物を正極活物質として含むリチウムイオンニ次電池において有用であり、短絡時における安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の形態1における非水電解質二次電池の一部展開斜視図
【図2】本発明の実施の形態1における構成図
【図3】本発明の実施の形態1に係るイオンプレーティング成膜装置の模式図
【図4】本発明の実施の形態2における非水電解質二次電池の断面図
【図5】本発明の実施の形態2における非水電解質二次電池のDSCの測定結果を示す図
【符号の説明】
【0102】
1,61 負極
2,62 正極
3,63 セパレータ
4 電極群
5 電池ケース
6 封口板
7,67 正極リード
8 注液口封止部
9,66 負極リード
10 負極外部接続端子
11 枠体
12 注液口
21,62b 正極合剤層
22,62a 正極集電体
23 正極活物質粒子
24 被覆層
31 プラズマガン
32 アノード
33 プラズマ
34 蒸着素材
35 シャッター
36 ストッカー
37 フィーダー
38 振動式トレイ
39 真空排気
40 イオンプレーティング成膜装置
60,100 非水電解質二次電池
61a 負極集電体
61b 負極活物質層
62b 正極活物質層
64 外装ケース
65 樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質と、セパレータとを備えた非水電解質二次電池であって、前記正極は、集電体と、前記集電体上に積層され、Ti、Al、MnおよびZrを含む群より選択された少なくとも1種の金属または、上記群より選択される少なくとも1種の金属元素Meを含む合金からなる被覆層を有する正極活物質粒子と、を備えた非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質粒子は、Niを含むリチウム含有複合酸化物である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記被覆層は、真空成膜プロセスにより形成される、請求項1、2または3に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記真空成膜プロセスはイオンプレーティング法である、請求項4に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−199006(P2010−199006A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45125(P2009−45125)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】