説明

非水電解質二次電池

【課題】カルボキシメチルセルロースの活物質表面への吸着によるリチウムイオンの吸蔵放出阻害を抑制し、入出力特性に優れた車載用の非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極とを有し、非水電解質を介して充放電を行う非水電解質二次電池において、負極が、負極電極材42と前記負極電極材42上に形成される負極合剤層44とから構成され、負極合剤層44が、負極活物質、負極バインダ及びカルボキシメチルセルロースを含有し、かつ前記カルボキシメチルセルロースの数平均重合度が1000以上1500以下である非水電解質二次電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極とを有し、非水電解質を介して充放電を行う非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化等の環境問題の顕在化により、自動車からの二酸化炭素排出量の削減が求められており、電気エネルギーを動力とする電気自動車や、自動車の減速時に生じるエネルギーを回生し、動力の一部として使用するハイブリッド自動車の開発が急ピッチで進められている。そのような中、電極におけるリチウムイオンの吸蔵放出反応を利用した非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)は、自動車向け電池として注目されている。車載用リチウムイオン二次電池の特性、特に車載用リチウムイオン二次電池において重要な入出力特性は、リチウムイオン二次電池の充放電時にリチウムイオンを吸蔵放出する電極に大きく依存する。
【0003】
大容量が要求されるプラグインハイブリッド自動車や電気自動車向けのリチウムイオン二次電池においては、負極活物質として黒鉛炭素を用いることが多い。この負極活物質を含む合剤を調製し、電極材の表面に塗布して負極を形成している。前記電極合剤中の成分(活物質やその他の導電材等)を結着するために、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やゴムバインダ等のバインダが用いられる。塗料溶媒として水を使用する際には、ゴムバインダを使用することが多い。通常、ゴムバインダを用いる際には、活物質/導電材の分散性確保、及び塗料増粘化のためにカルボキシメチルセルロース(CMC)を共存させる。CMCは活物質の表面に吸着してリチウムイオンの吸蔵放出を阻害するため、通常は電極合剤中のCMC添加量を少量(1重量%程度)として、電池の入出力特性を確保する(例えば特許文献1)。しかし、CMCの分子構造を制御して、CMCの活物質表面への吸着によるリチウムイオンの吸蔵放出阻害を抑制し、車載用リチウムイオン二次電池の重要特性のひとつである入出力特性を向上させた報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−234851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に車載用の非水電解質二次電池は、車の性能向上、多様化によって、さらなる性能向上を必要としてきた。本発明の目的は、CMCの活物質表面への吸着によるリチウムイオンの吸蔵放出阻害を抑制し、入出力特性に優れた非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極とを有し、非水電解質を介して充放電する非水電解質二次電池において、前記負極の合剤中にカルボキシメチルセルロースを含有させ、そのカルボキシメチルセルロースの数平均重合度を1000以上1500以下に制御することにより、カルボキシメチルセルロースの活物質表面への吸着によるリチウムイオンの吸蔵放出阻害が抑制され、その結果、入出力特性に優れた非水電解質二次電池が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
(1)リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極とを有し、非水電解質を介して充放電を行う非水電解質二次電池において、負極が、負極電極材と前記負極電極材上に形成される負極合剤層とから構成され、負極合剤層が、負極活物質、負極バインダ及びカルボキシメチルセルロースを含有し、かつ前記カルボキシメチルセルロースの数平均重合度が1000以上1500以下である非水電解質二次電池。
(2)負極活物質が黒鉛炭素であり、バインダがゴムバインダである前記(1)に記載の非水電解質二次電池。
(3)カルボキシメチルセルロースのエーテル化度が、0.6〜1.0である前記(1)又は(2)に記載の非水電解質二次電池。
(4)車載用である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カルボキシメチルセルロースの活物質表面への吸着によるリチウムイオンの吸蔵放出阻害が抑制されて、入出力特性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。この非水電解質二次電池は、特に車載用として適している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の非水電解質二次電池の一実施態様である円筒型電池の分解斜視図である。
【図2】負極合剤層の断面を拡大した模式図である。
【図3】本発明の非水電解質二次電池の別の一実施形態を示す模式図である。
【図4】実施例における非水電解質二次電池の断面を部分的に示す正面図である。
【図5】実施例におけるCMCの数平均重合度と入出力特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の非水電解質二次電池の一実施形態として、円筒型電池の分解斜視図を図1に示す。なお、本発明の非水電解質二次電池は、円筒型電池に限定されず、角型電池等のその他の電池も包含される。また、本発明の非水電解質二次電池は、主に車載用途であるため、電池容量は3.5Ah以上であることが好ましい。
【0011】
図1において、正極電極材14はアルミニウム等の金属薄膜であり、両面に正極合剤層16が塗布形成されている。図1中、上方の長辺部には正極タブ12が複数設けられている。負極電極材15は銅等の金属薄膜であり、両面に負極合剤層17が塗布形成されている。図1中、下方の長辺部には負極タブ13が複数設けられている。これら正極電極材14及び正極合剤層16から構成される正極と、負極電極材15及び負極合剤層17から構成される負極とを、多孔質で絶縁性を有するセパレータ18を介して樹脂製の軸芯7の周囲に捲回し、最外周のセパレータをテープで止めて、電極群8を構成する。この際、軸芯7に接する最内周は正極を覆うセパレータ18であり、最外周は負極を覆うセパレータ18である。管状の軸芯7の両端には正極集電板5と負極集電板6が嵌め合いにより固定されている。正極集電板5には正極タブ12が、例えば、超音波溶接法により溶接されている。同様に負極集電板6には負極タブ13が、例えば、超音波溶接法により溶接されている。樹脂製の軸芯7を軸として捲回された電極群8に、正極、負極の集電板5、6が取り付けられ、負極の端子を兼ねる電池容器1の内部に収納されている。この際、負極集電板6は負極リード(図示せず)を介して電池容器1に電気的に接続される。その後、非水電解質が電池容器1内に注入される。正極集電板5の上には電池容器1の開口部を封口するように設けられた電導性を有する上蓋部があり、上蓋部は上蓋3と上蓋ケース4から構成されている。上蓋ケース4に正極リード9の一部が溶接され、他の一部が正極集電板5に溶接されることによって上蓋部と電極群8の正極とが電気的に接続される。また、電池容器1と上蓋ケース4との間にはガスケット2が設けられ、このガスケット2により電池容器1の開口部を封口するとともに電気的に絶縁する。
【0012】
正極合剤層16は、正極活物質、正極導電材、及び正極バインダを有する。正極活物質としては、リチウム酸化物を用いることが好ましい。例として、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リチウム複合酸化物(コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる2種類以上を含むリチウム酸化物)等が挙げられる。
【0013】
また、正極導電材は、正極合剤層中におけるリチウムイオンの吸蔵放出反応で生じた電子の、正極電極材への伝達を補助できる物質であれば特に限定されることなく用いることができる。このような正極導電材の例として、黒鉛やアセチレンブラック等が挙げられる。
【0014】
正極バインダは、正極活物質と正極導電材、及び正極合剤層と正極電極材を結着させることが可能であり、非水電解質との接触により、大幅に劣化しない物質であれば適用可能である。正極バインダの例として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やフッ素ゴム等を挙げることができる。
【0015】
正極合剤層16の形成方法は、正極電極材上に正極合剤層が形成される方法であれば制限はなく、例として、正極合剤層を構成する物質の分散溶液を作製し、その溶液を正極電極材上に塗布する方法が挙げられる。塗布方法の例として、ロール塗工法、スリットダイ塗工法等が挙げられる。なお、分散溶液の溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)や水等が挙げられる。塗布した後、適宜乾燥させ、プレスを行う等して正極合剤層16を形成することができる。
【0016】
負極合剤層17は、負極活物質21、負極バインダ22、及び増粘剤23を有している。なお、負極合剤層17は、必要に応じて、アセチレンブラック等の負極導電材を有しても良い。負極合剤層17の断面を拡大した模式図を図2に示す。本発明では、負極活物質21として、黒鉛炭素を用いることが好ましい。黒鉛炭素を用いることにより、大容量が要求されるプラグインハイブリッド自動車や電気自動車向けのリチウムイオン二次電池を作製することができる。負極合剤層17における負極活物質21の割合は、特に限定されるものではないが、85〜99重量%とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明では、負極バインダ22としてゴムバインダを使用することが好ましい。ここでゴムバインダとは、二重結合部位を有する1種類以上の単量体混合物を重合して得られるゴムを含むバインダのことを言う。ゴムバインダの例として、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)及びその変性体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム及びその変性体、アクリルゴム及びその変性体等が挙げられる。ゴムバインダの形状は、粒子径が0.1〜1.0μmの粒子状であることが好ましい。なお、前記ゴムバインダの粒子径は、ゴムバインダの分散溶液を光散乱測定することにより評価可能である。粒子径が0.1μmより小さい場合、負極合剤層の乾燥時にゴムバインダが負極合剤層の表面に偏在する恐れがある。また、粒子径が1.0μmより大きい場合、負極合剤層を形成する塗料の安定性が悪くなることがある。
【0018】
負極合剤層17中の負極バインダ22の割合は、特に限定されるものではないが、例えば0.5〜10重量%の間で適宜調整できる。10重量%より多い場合、非水電解質二次電池の容量が小さくなる傾向がある。また、0.5重量%より少ない場合、負極バインダ22の割合が小さくなるため、負極活物質21と負極導電材、及び/又は負極合剤層17と負極電極材15の結着性が得られず、非水電解質二次電池の信頼性が低下する恐れがある。なお、負極合剤層17の構成物質の分散溶液を負極電極材15上に塗工して負極合剤層17を形成する際には、必要に応じて、負極合剤層17を形成する分散溶液(塗料)中に、分散溶液中のゴムバインダの分散安定性を確保するための界面活性剤、及び/又は、界面活性剤を加えることによる塗工時の泡立ちを抑制するための消泡剤等の各種添加剤が含まれても良い。界面活性剤の例として、n−ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等が挙げられる。また、消泡剤の例としては、n−オクタノール、ポリシロキサン等が挙げられる。なお、負極合剤層17における上記の各種添加剤の割合は、特に限定されるものではないが、合計で0.1重量%未満とすることが好ましい。
【0019】
本発明は、増粘剤23として数平均重合度が1000以上1500以下であるカルボキシメチルセルロース(CMC)を含有することを特徴とする。数平均重合度が1000より小さいCMCを使用すると、黒鉛炭素等の負極活物質が十分に結着しない。したがって、電極抵抗が大きくなり、電池の入出力特性が悪くなるため好ましくない。一方、数平均重合度が1500より大きいCMCを使用すると、CMCと負極活物質の表面との相互作用が大きくなり、負極活物質の表面におけるリチウムイオンの吸蔵放出が起こりにくくなる。したがって、電極抵抗が大きくなり、電池の入出力特性が悪くなるため好ましくない。なお、数平均重合度は、カルボキシメチルセルロースの水溶液について25℃で粘度測定を行って極限粘度を求め、その極限粘度から算出することができる。
【0020】
CMCのエーテル化度は、本発明の効果の発現を阻害しない限り制約はないが、好ましくは0.6〜1.0である。エーテル化度は、元素分析により求めたCMC中の炭素含有量から求めることができる。エーテル化度が0.6未満であると、塗料の粘度が大きくなり、脱泡が困難になる。また、エーテル化度が1.0より大きい場合、負極電極材15との相互作用が弱くなり、負極合剤層17が負極電極材15から剥がれやすくなる傾向がある。なお、エーテル化度とは、セルロースの単位骨格に含まれるカルボキシメチル基の平均数であり、理論上は0から3までの値を取ることが可能である。また、負極合剤層17におけるカルボキシメチルセルロースの含有割合は、大き過ぎるとカルボキシメチルセルロースが負極活物質表面に多量に吸着してリチウムイオンの吸蔵放出が起こりにくくなる。また、逆に小さ過ぎると塗料粘度が低くなり塗料安定性が悪くなるため、これらのバランスを考慮して適宜設定される。一般的には0.3〜5重量%、特に0.5〜3重量%とすることが好ましい。
【0021】
負極合剤層17の形成方法は、負極電極材15上に負極合剤層17を形成できる方法であれば特に制限はされない。負極合剤層17の形成方法の例として、負極合剤層17を構成する物質の分散溶液を作製し、この溶液を負極電極材15上に塗布する方法が挙げられる。この際の塗布方法の例としては、ロール塗工法、スリットダイ塗工法等を挙げることができる。なお、分散溶液の溶媒としては、水等が挙げられる。塗布した後、適宜乾燥させ、プレスを行う等して負極合剤層17を形成することができる。
【0022】
非水電解質は、リチウム塩がカーボネート系溶媒に溶解した溶液を用いることが好ましい。前記リチウム塩の例としては、フッ化リン酸リチウム(LiPF)、フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)等が挙げられる。また、カーボネート系溶媒の例としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、あるいはこれらの溶媒の1種類以上を混合したもの等が挙げられる。
【0023】
図3に本発明の非水電解質二次電池の別の一実施形態である積層型電池の概略図を示す。本積層電池では、両面に正極合剤層43が形成された正極電極材41と、両面に負極合剤層44が形成された負極電極材42とが、セパレータ45を介して積層された電極群46(図3(b)及び(c)を参照)を、ラミネート袋47に挿入後、非水電解質を注入して封止することにより作製される(図5(c)を参照)。正極電極材41、及び負極電極材42には、それぞれ正極タブ48、負極タブ49が設置されており、これら正極タブ48及び負極タブ49から電流を取り出している。正極電極材41及び負極電極材42の大きさは、それぞれ例えば70mm×70mm、72mm×72mmとし、電極群46の最外層はセパレータ45に覆われた負極電極材42とする。この実施形態では、正極電極材41を5枚、負極電極材42を6枚使用している。また、正極タブ48及び負極タブ49の大きさは、ともに例えば10mm×30mmとする。図3に示すような積層型電池においても、数平均分子量が1000以上1500以下のCMCを用いることにより、車載用リチウムイオン二次電池の重要特性の一つである入出力特性に優れた電池が得られる。
【実施例】
【0024】
次に、下記の通り非水電解質二次電池を作製し、本発明の効果を検討した。
【0025】
(実施例1)
作製した非水電解質二次電池の正面図を図4に示す。図4の左側半分には、非水電解質二次電池の断面を部分的に示している。まず、正極電極材14の両面に正極合剤層16を形成した。正極電極材14として、厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。正極活物質(マンガン酸リチウム)と、正極導電材(黒鉛とアセチレンブラックとの混合物)と、正極バインダ(ポリフッ化ビニリデン)との混合物(重量分率80:10:10)を、NMPに分散させてスラリーを作製した。このスラリーをロール塗工法により、正極電極材14の両面に塗工した。その後、120℃で乾燥し、プレスして正極合剤層16を形成し、厚さが90μmの正極を作製した。正極の幅、長さはそれぞれ54mm、450mmとした。また、作製した正極の端に正極合剤層16を塗工していないアルミニウム製の正極タブ12を設けた。
【0026】
次に、負極電極材15の両面に負極合剤層17を形成した。負極電極材15として、厚さ10μmの銅箔を用いた。黒鉛炭素と、負極バインダ(スチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子、平均粒子径0.15μm)と、CMC(数平均重合度1500、エーテル化度0.7)との混合物(重量比率:98:1:1)を、水に分散させて塗料を作製した。塗料の固形分率は47重量%とし、塗料の粘度は5000mPaであった。この塗料をロール塗工法により負極電極材15の両面に塗工した。その後、60℃で乾燥し、プレスして負極合剤層17を形成し、厚さが80μmの負極を作製した。負極の幅、長さはそれぞれ56mm、500mmとした。また、作製した負極の端に負極合剤層17を塗工していないニッケル製の負極タブ13を設けた。
【0027】
次に、上記の方法により作製した正極と負極とを、ポリエチレン多孔膜からなるセパレータ(厚さ25μm、幅58mm)18とともに渦巻き状に捲回して電極群を作製した。この電極群を、ポリエチレンからなるインシュレータ31とともに電池容器1に挿入した。その後、負極リードを電池容器1の底面に溶接し、正極リードを上蓋3に溶接した。その後、電池容器1に非水電解質(EC、DMC、及びDECの混合溶媒(体積比1:1:1)に1.0mol/lのLiPFを溶解させたもの)を注入し、上蓋3を電池容器1にかしめて密閉し、直径18mm、長さ65mmの円筒形の非水電解質二次電池を作製した。なお、図4中の上蓋3は、非水電解質二次電池の密閉蓋を兼ねており、電池内の圧力が上昇すると開裂して電池内部の圧力を開放する開裂弁が備え付けられている。その後、JEVS(日本電動車両規格:Japan Electric Vehicle Standard)D713:2003(ハイブリッド電気自動車用密閉形ニッケル・水素電池の出力密度および入力密度試験方法)の条件に準じて、充電深度50%の非水電解質二次電池の入出力特性を評価した。その結果、出力密度が3300W/kg、入力密度が3100W/kgであることがわかった。
【0028】
(実施例2)
まず、正極電極材14の両面に正極合剤層16を形成した。正極電極材14として、厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。正極活物質(マンガン酸リチウム)と、正極導電材(黒鉛及びアセチレンブラックの混合物)と、正極バインダ(ポリフッ化ビニリデン)との混合物(重量分率80:10:10)を、NMPに分散させてスラリーを作製した。このスラリーをロール塗工法により、正極電極材14の両面に塗工した。その後、120℃で乾燥し、プレスして正極合剤層16を形成し、厚さが90μmの正極を作製した。正極の幅、長さはそれぞれ54mm、450mmとした。また、作製した正極の端に正極合剤層16を塗工していないアルミニウム製の正極タブ12を設けた。
【0029】
次に、負極電極材15の両面に負極合剤層17を形成した。負極電極材15として、厚さ10μmの銅箔を用いた。黒鉛炭素と、負極バインダ(スチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子、平均粒子径0.15μm)と、CMC(数平均重合度1200、エーテル化度0.7)との混合物(重量比率:98:1:1)を、水に分散させて塗料を作製した。塗料の固形分率は48重量%とし、塗料の粘度は5000mPaであった。この塗料をロール塗工法により負極電極材15の両面に塗工した。その後、60℃で乾燥し、プレスして負極合剤層17を形成し、厚さが80μmの負極を作製した。負極の幅、長さはそれぞれ56mm、500mmとした。また、作製した負極の端に負極合剤層17を塗工していないニッケル製の負極タブ13を設けた。
【0030】
次に、上記の方法により作製した正極と負極とを、ポリエチレン多孔膜からなるセパレータ(厚さ25μm、幅58mm)18とともに渦巻き状に捲回して電極群を作製した。この電極群を、ポリエチレンからなるインシュレータ31とともに電池容器1に挿入した。その後、負極リードを電池容器1の底面に溶接し、正極リードを上蓋3に溶接した。その後、電池容器1に非水電解質(EC、DMC、及びDECの混合溶媒(体積比1:1:1)に1.0mol/lのLiPFを溶解させたもの)を注入し、上蓋3を電池容器1にかしめて密閉し、直径18mm、長さ65mmの円筒形の非水電解質二次電池(図4)を作製した。なお、図4中の上蓋3は、非水電解質二次電池の密閉蓋を兼ねており、電池内の圧力が上昇すると開裂して電池内部の圧力を開放する開裂弁が備え付けられている。その後、JEVS D713:2003の条件に準じて、充電深度50%の非水電解質二次電池の入出力特性を評価した。その結果、出力密度が3600W/kg、入力密度が3400W/kgであることがわかった。
【0031】
(実施例3)
まず、正極電極材14の両面に正極合剤層16を形成した。正極電極材14として、厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。正極活物質(マンガン酸リチウム)と、正極導電材(黒鉛及びアセチレンブラックの混合物)と、正極バインダ(ポリフッ化ビニリデン)との混合物(重量分率80:10:10)を、NMPに分散させてスラリーを作製した。このスラリーをロール塗工法により、正極電極材14の両面に塗工した。その後、120℃で乾燥し、プレスして正極合剤層16を形成し、厚さが90μmの正極を作製した。正極の幅、長さはそれぞれ54mm、450mmとした。また、作製した正極の端に正極合剤層16を塗工していないアルミニウム製の正極タブ12を設けた。
【0032】
次に、負極電極材15の両面に負極合剤層17を形成した。負極電極材15として、厚さ10μmの銅箔を用いた。黒鉛炭素と、負極バインダ(スチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子、平均粒子径0.15μm)と、CMC(数平均重合度1000、エーテル化度0.7)との混合物(重量比率:98:1:1)を、水に分散させて塗料を作製した。塗料の固形分率は49重量%とし、塗料の粘度は5000mPaであった。この塗料をロール塗工法により負極電極材15の両面に塗工した。その後、60℃で乾燥し、プレスして負極合剤層17を形成し、厚さが80μmの負極を作製した。負極の幅、長さはそれぞれ56mm、500mmとした。また、作製した負極の端に負極合剤層17を塗工していないニッケル製の負極タブ13を設けた。
【0033】
次に、上記の方法により作製した正極と負極とを、ポリエチレン多孔膜からなるセパレータ(厚さ25μm、幅58mm)18とともに渦巻き状に捲回して電極群を作製した。この電極群を、ポリエチレンからなるインシュレータ31とともに電池容器1に挿入した。その後、負極リードを電池容器の底面に溶接し、正極リード9を上蓋3に溶接した。その後、電池容器1に非水電解質(EC、DMC、及びDECの混合溶媒(体積比1:1:1)に1.0mol/lのLiPFを溶解させたもの)を注入し、上蓋3を電池容器1にかしめて密閉し、直径18mm、長さ65mmの円筒形の非水電解質二次電池(図4)を作製した。なお、図4中の上蓋3は、非水電解質二次電池の密閉蓋を兼ねており、電池内の圧力が上昇すると開裂して電池内部の圧力を開放する開裂弁が備え付けられている。その後、JEVS D713:2003の条件に準じて、充電深度50%の非水電解質二次電池の入出力特性を評価した。その結果、出力密度が3400W/kg、入力密度が3200W/kgであることがわかった。
【0034】
(比較例1)
まず、正極電極材14の両面に正極合剤層16を形成した。正極電極材14として、厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。正極活物質(マンガン酸リチウム)と、正極導電材(黒鉛及びアセチレンブラックの混合物)と、正極バインダ(ポリフッ化ビニリデン)との混合物(重量分率80:10:10)を、NMPに分散させてスラリーを作製した。このスラリーをロール塗工法により、正極電極材14の両面に塗工した。その後、120℃で乾燥し、プレスして正極合剤層16を形成し、厚さが90μmの正極を作製した。正極の幅、長さはそれぞれ54mm、450mmとした。また、作製した正極の端に正極合剤層16を塗工していないアルミニウム製の正極タブ12を設けた。
【0035】
次に、負極電極材15の両面に負極合剤層17を形成した。負極電極材15として、厚さ10μmの銅箔を用いた。黒鉛炭素と、負極バインダ(スチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子、平均粒子径0.15μm)と、CMC(数平均重合度2000、エーテル化度0.7)との混合物(重量比率:98:1:1)を、水に分散させて塗料を作製した。塗料の固形分率は45重量%とし、塗料の粘度は5000mPaであった。この塗料をロール塗工法により負極電極材15の両面に塗工した。その後、60℃で乾燥し、プレスして負極合剤層17を形成し、厚さが80μmの負極を作製した。負極の幅、長さはそれぞれ56mm、500mmとした。また、作製した負極の端に負極合剤層17を塗工していないニッケル製の負極タブ13を設けた。
【0036】
次に、上記の方法により作製した正極と負極とを、ポリエチレン多孔膜からなるセパレータ(厚さ25μm、幅58mm)18とともに渦巻き状に捲回して電極群を作製した。この電極群を、ポリエチレンからなるインシュレータ31とともに電池容器1に挿入した。その後、負極リードを電池容器1の底面に溶接し、正極リードを上蓋3に溶接した。その後、電池容器1に非水電解質(EC、DMC、及びDECの混合溶媒(体積比1:1:1)に1.0mol/lのLiPFを溶解させたもの)を注入し、上蓋3を電池容器1にかしめて密閉し、直径18mm、長さ65mmの円筒形の非水電解質二次電池(図4)を作製した。なお、図4中の上蓋3は、非水電解質二次電池の密閉蓋を兼ねており、電池内の圧力が上昇すると開裂して電池内部の圧力を開放する開裂弁が備え付けられている。その後、JEVS D713:2003の条件に準じて、充電深度50%の非水電解質二次電池の入出力特性を評価した。その結果、出力密度が3000W/kg、入力密度が2800W/kgであることがわかった。
【0037】
(比較例2)
まず、正極電極材14の両面に正極合剤層16を形成した。正極電極材14として、厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。正極活物質(マンガン酸リチウム)と、正極導電材(黒鉛とアセチレンブラックとの混合物)と、正極バインダ(ポリフッ化ビニリデン)との混合物(重量分率80:10:10)を、NMPに分散させてスラリーを作製した。このスラリーをロール塗工法により、正極電極材14の両面に塗工した。その後、120℃で乾燥し、プレスして正極合剤層16を形成し、厚さが90μmの正極を作製した。正極の幅、長さはそれぞれ54mm、450mmとした。また、作製した正極の端に正極合剤層16を塗工していないアルミニウム製の正極タブ12を設けた。
【0038】
次に、負極電極材15の両面に負極合剤層17を形成した。負極電極材15として、厚さ10μmの銅箔を用いた。黒鉛炭素と、負極バインダ(スチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子、平均粒子径0.15μm)と、CMC(数平均重合度600、エーテル化度0.7)との混合物(重量比率:98:1:1)を、水に分散させて塗料を作製した。塗料の固形分率は50重量%とし、塗料の粘度は5000mPaであった。この塗料をロール塗工法により負極電極材15の両面に塗工した。その後、60℃で乾燥し、プレスして負極合剤層17を形成し、厚さが80μmの負極を作製した。負極の幅、長さはそれぞれ56mm、500mmとした。また、作製した負極の端に負極合剤層17を塗工していないニッケル製の負極タブ13を設けた。
【0039】
次に、上記の方法により作製した正極と負極とを、ポリエチレン多孔膜からなるセパレータ(厚さ25μm、幅58mm)18とともに渦巻き状に捲回して電極群を作製した。この電極群を、ポリエチレンからなるインシュレータ31とともに電池容器1に挿入した。その後、負極リードを電池容器1の底面に溶接し、正極リードを上蓋3に溶接した。その後、電池容器1に非水電解質(EC、DMC、及びDECの混合溶媒(体積比1:1:1)に1.0mol/lのLiPFを溶解させたもの)を注入し、上蓋3を電池容器1にかしめて密閉し、直径18mm、長さ65mmの円筒形の非水電解質二次電池(図4)を作製した。なお、図4中の上蓋3は、非水電解質二次電池の密閉蓋を兼ねており、電池内の圧力が上昇すると開裂して電池内部の圧力を開放する開裂弁が備え付けられている。その後、JEVS D713:2003の条件に準じて、充電深度50%の非水電解質二次電池の入出力特性を評価した。その結果、出力密度が2900W/kg、入力密度が2700W/kgであることがわかった。
以上の実施例1〜3及び比較例1〜2における測定結果を表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜3と比較例1との比較から、数平均重合度が1000以上1500以下のCMCを用いた電池は、数平均重合度が2000のCMCを用いた電池に比べて入出力密度が大きいことがわかる。この理由として、数平均重合度が1500以下のCMCを用いることにより、黒鉛炭素表面へのCMCの吸着によるリチウムイオンの吸蔵放出阻害が抑制され、電極抵抗が小さくなったことが考えられる。また、実施例1〜3と比較例2との比較から、数平均重合度が1000以上1500以下のCMCを用いた電池は、数平均重合度が600のCMCを用いた電池に比べて入出力密度が大きいことがわかる。この理由として、数平均重合度が600のCMCを用いた電池では、黒鉛炭素が十分に結着せず、電極抵抗が大きくなったことが考えられる。
【0042】
CMCの平均重合度と入出力密度との関係を図5に示す。図5から明らかなように、数平均分子量が1000以上1500以下のCMCを用いることにより、車載用リチウムイオン二次電池の重要特性の一つである入出力特性に優れた電池が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
1 電池容器
2 ガスケット
3 上蓋
4 上蓋ケース
5 正極集電板
6 負極集電板
7 軸芯
8 電極群
9 正極リード
12 正極タブ
13 負極タブ
14 正極電極材
15 負極電極材
16 正極合剤層
17 負極合剤層
18 セパレータ
21 負極活物質
22 負極バインダ
23 増粘剤
31 インシュレータ
41 正極電極材
42 負極電極材
43 正極合剤層
44 負極合剤層
45 セパレータ
46 電極群
47 ラミネート袋
48 正極タブ
49 負極タブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極とを有し、非水電解質を介して充放電を行う非水電解質二次電池において、
負極が、負極電極材と前記負極電極材上に形成される負極合剤層とから構成され、負極合剤層が、負極活物質、負極バインダ及びカルボキシメチルセルロースを含有し、かつ前記カルボキシメチルセルロースの数平均重合度が1000以上1500以下である非水電解質二次電池。
【請求項2】
負極活物質が黒鉛炭素であり、負極バインダがゴムバインダである請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
カルボキシメチルセルロースのエーテル化度が、0.6〜1.0である請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
車載用である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−48013(P2013−48013A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286722(P2009−286722)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】