説明

非石綿系摩擦材

【課題】金属繊維の分散を均一にし、かつ制動力に優れ得る非石綿系摩擦材を提供する。
【解決手段】繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を主成分に有する非石綿系原料混合物を成形してなる非石綿系摩擦材であって、繊維基材として、鉄系繊維と非鉄系繊維を用い、かつ有機繊維を有していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を主成分に有する非石綿系原料混合物を成形してなる非石綿系摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦材は、様々な変遷を経て現在の摩擦材に至っている。例えば従来、繊維基材として石綿(アスベスト)を含有する摩擦材が知られていたが、石綿の人体への影響を懸念して、石綿を含まない非石綿系摩擦材が開発された。例えば、繊維基材としてスチール繊維のみを有する摩擦材や、有機繊維と金属繊維とを併用した摩擦材などが開発されている。特許文献1,2には、アラミド繊維とステンレス繊維を併用した摩擦材や、アラミド繊維とスチール繊維を併用した摩擦材が開示されている。
【特許文献1】特開2005−24005号公報
【特許文献2】特開2005−207437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし繊維基材としてスチール繊維のみを有する摩擦材は、ディスクロータが同じスチールであるために摩擦係数が高くなく、制動力に優れていないなどの問題があった。
有機繊維と金属繊維を併用する摩擦材は、有機繊維が綿のように繊維径が細く嵩が大きいために、原料混合時に有機繊維と金属繊維が絡まり偏析をおこして、金属繊維が均一に分散されないという問題があった。そして金属繊維の分散が不均一になることで、ディスクロータに条痕が形成される等の問題が発生する場合があった。
そこで本発明は、金属繊維の分散を均一にし、かつ制動力に優れ得る非石綿系摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える非石綿系摩擦材であることを特徴とする。
すなわち請求項1に記載の発明によると、繊維基材として、二種以上の金属繊維を有しており、かつ有機繊維を有していない。
【0005】
したがって本発明に係る摩擦材は、有機繊維を有していないために、原料混合時に、有機繊維と金属繊維が絡まり偏析をおこして金属繊維の分散が阻害される心配がない。そのため金属繊維を均一に分散することができる。これにより金属繊維が不均一に分散された際に生じ得る相手材摺動面の局部磨耗を抑制でき、相手材の磨耗粉が摩擦材に付着するメタルキャッチも抑制される。したがって局部磨耗やメタルキャッチによって生じる相手材の条痕磨耗を防止することができる。
また摩擦材は、繊維基材として金属繊維を二種以上有している。そのためこれら金属繊維の配合比を調整することで適度な摩擦係数を得ることができる。
【0006】
請求項2に記載の発明によると、繊維基材は、金属繊維として、ステンレス繊維と、ステンレス繊維よりも延伸性の高い金属繊維とを有している。
したがって本摩擦材は、ステンレス繊維を有しているためにスチール繊維に比べて摩擦係数を高くすることができる。そして他の金属繊維との併用によって摩擦係数が高すぎることを防止することができ、適度な摩擦係数を得ることができる。
他の金属繊維は、ステンレス繊維と形状が似ているために、原料混合時にステンレス繊維の分散を阻害するおそれが少ない。したがってステンレス繊維を均一に分散することができる。これによりステンレス繊維の分散の不均一によって生じ得る相手材への条痕磨耗を防止することができる。
【0007】
ステンレス繊維よりも延伸性の高い金属繊維としては、金繊維,銀繊維,銅繊維,青銅繊維などを利用することができる。あるいは請求項3に記載の発明のように真鍮繊維を利用することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明によると、ステンレス繊維と真鍮繊維の配合比が、体積比で10:2〜10:4である。
実験結果から、真鍮繊維の体積がステンレス繊維10に対して2よりも少ない場合は、摩擦材の磨耗量が多くなって摩擦材の寿命が短くなった。一方、真鍮繊維の体積が4よりも多い場合は、真鍮成分が相手材に移着して制動力が安定しないことがわかった。したがって本発明によると、摩擦材の耐久性を十分に高くすることができ、かつ制動力を十分に安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にかかる摩擦材は、非石綿系原料混合物を成形してなる非石綿系摩擦材であって、非石綿系原料混合物は、繊維基材と摩擦調整剤(充填材)と結合剤を主成分に有している。そして本摩擦材は、繊維基材として二種以上の金属繊維を有しており、アラミド繊維やアクリル繊維、フェノール繊維などの有機繊維を有していない。
【0010】
金属繊維としては、鉄系繊維と、非鉄系繊維の組み合わせからなるものが好ましく、鉄系繊維としては、ステンレス繊維が好ましい。ステンレス繊維と併用される非鉄系繊維としては、ステンレス繊維よりも延伸性の高い金属繊維であることが好ましく、真鍮繊維,青銅繊維,銅繊維などの銅系繊維や、金繊維,銀繊維,アルミニウム繊維などが好ましい。
【0011】
ステンレス繊維の添加量は、5〜15体積%であることが好ましい。15体積%よりも多い場合は、相手材(ディスクロータ)への攻撃性が増大して相手材に条痕を形成する場合があるからである。一方、5体積%以上にすることによって摩擦係数を十分に高くすることが可能になるからである。
【0012】
ステンレス繊維よりも延伸性の高い金属繊維の添加量は、1〜5体積%が好ましく、より好ましくは2〜4体積%である。実験結果から、延伸性の高い金属繊維を多く添加することで、摩擦材の磨耗量が少なくなり、摩擦材の耐久性が高くなることがわかった。同時に、ステンレス繊維によって相手材を削りすぎることを抑制し得ることもわかった。一方、延伸性の高い金属繊維の添加量を多く添加しすぎた場合には、延伸性の高い真鍮成分などの金属成分が相手材の摺動面に移着して、制動効力にばらつきが生じ、制動効力が不安定になる場合があった。
【0013】
ステンレス繊維と延伸性の高い金属繊維(真鍮繊維等)の配合比は、体積比において10:1〜10:5であることが好ましく、10:2〜10:4、10:2.8〜10:3.2であることがより好ましい。これによりステンレス繊維を均一に分散させ得るからである。
金属繊維は、平均繊維径が20μm以上、60μm以下であって、繊維長さが0.5mm以上、10mm以下のものが好ましい。
【0014】
摩擦調整剤(充填材)としては、無機充填材、有機充填材、潤滑剤などが適宜含まれる。無機充填材としては、アルミナ,酸化鉄,硫酸バリウム,氷晶石,消石灰,炭酸カルシウム,水酸化カルシウム,雲母(マイカ),カオリン,タルクなどが適宜含まれる。有機充填材としては、カシューダスト,コークス,ラバーダストが適宜含まれ、潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト),三硫化アンチモン,二硫化モリブデン,二硫化亜鉛などが適宜含まれる。
【0015】
結合剤は、繊維基材と充填材を結着させるものであって、有機物である樹脂やゴムなどが使用される。例えばフェノール樹脂,イミド樹脂,ゴム変性フェノール樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂,NBR,ニトリルゴム,アクリルゴムなどが使用される。これら結合剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。結合剤の添加量は、摩擦材全体の10〜20体積%であることが好ましい。
【0016】
摩擦材の製造方法は、先ず、摩擦材原料を乾式にて均一に混合し、原料混合物を得る。混合機としては、アイリッヒミキサー、ユニバーサルミキサー、レーディゲミキサーなどを利用することができる。
次に、原料混合物を成形用金型にて加圧加熱成形して成形体を得る。なお加圧加熱成形の成形温度は、130〜200℃、成形圧力は、10〜50MPa、成形時間は、2〜15分である。
次に、成形体を140〜400℃、2〜48時間によって硬化させる。
【0017】
上記するように、本摩擦材の製造方法は、従来のように原料混合物を予備成形して予備成形体を得た後に成形するものではなく、原料混合物を直接、成形型にて成形している。予備成形体工程を省略できる理由は、原料混合物に有機繊維が含まれていないために、原料混合物の嵩が有機繊維を含む従来の原料混合物に比べて小さく、二回に分けて圧縮して嵩を小さくする必要がないためである。そして原料混合物の嵩が小さいために、成形時におけるバックリングが少なく、摩擦材の側面に皺やひびなどが発生することが少ない。したがって本形態によると、摩擦材の成形工程を少なくすることができ、かつ成形性が向上する。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明に係る実施例1〜5と比較例とを具体的な数字を用いて説明する。
実施例1〜5に係る摩擦材と、比較例に係る摩擦材は、図1に示す原料成分と配合量にて配合された原料混合物から形成している。
実施例1〜5に係る摩擦材は、図1に示すように繊維基材としてステンレス繊維と真鍮繊維を有しており、有機繊維を有していない。そして実施例1〜5の順に真鍮繊維の配合量が多い。
【0019】
比較例に係る摩擦材は、繊維基材としてステンレス繊維とアラミド繊維(有機繊維)を有している。すなわち比較例に係る摩擦材は、実施例に含まれる真鍮繊維に代えて有機繊維であるアラミド繊維を有している。
【0020】
実施例1〜5に係る摩擦材の製造方法は、図1に示す原料をユニバーサルミキサーによって5分間乾式にて混合し、原料混合物を得た。そして原料混合物を成形温度160℃、成形圧力200kgf/cm2、成形時間6分にて加熱加圧成形し、成形体を得た。その後、成形体を210℃、2時間の条件にて硬化させた。
一方、比較例に係る摩擦材は、原料混合物を得た後に、原料混合物を予備成形型にて予備成形し、その予備成形体を加熱加圧成形した。
【0021】
次に、摩擦材の特性を測定し、その測定結果を図2にまとめた。
各特性は、以下のように測定した。
<条痕磨耗> JASO C−406に従って各種試験を行い、試験後においてディスクロータの摺動面を表面粗さ計にて測定し、条痕磨耗の有無を判定した(図3,4参照)。
【0022】
<磨耗試験> JASO C−406に従って各種試験を行い、試験後において摩擦材の磨耗量を測定した。
<真鍮成分の相手材への移着> JASO C―406に従って各種試験を行い、試験後にディスクロータの摺動面への真鍮成分の移着の有無を目視にて確認した。
<第2効力のばらつき> JASO C―406に従って第2効力を測定し、その第2効力のばらつきを計算した。
【0023】
図3に示すように比較例では、ディスクロータの摺動面に局部的に表面粗さが荒くなった条痕磨耗が発現した。比較例に係る摩擦材において条痕磨耗が発生する原因は、研削力の強いステンレス繊維が不均一に分散されたためであり、ステンレス繊維が不均一に分散されることで、ディスクロータの摺動面に局部磨耗が発生し、ディスクロータの削れ粉が摩擦材に付着するメタルキャッチが発生し、局部磨耗とメタルキャッチとによってディスクロータの摺動面に異常磨耗が生じるためである。そしてステンレス繊維の分散が不均一になった原因は、ステンレス繊維が原料混合の際にアラミド繊維と絡まり、アラミド繊維によってステンレス繊維の分散が阻害されたためであると思慮された。
【0024】
これに対して実施例3では、図4に示すように条痕磨耗が発現しなかった。同様に、他の実施例(1,2,4,5)においても条痕磨耗が発現しなかった。実施例において条痕磨耗が発生しなかった原因は、ステンレス繊維が均一に分散されたためである。そしてステンレス繊維の分散が均一になった原因は、ステンレス繊維の分散が真鍮繊維によって阻害されなかったためであると思慮される。
【0025】
摩擦材の磨耗量は、比較例が一番多くなり、実施例1〜5の順に少なくなることがわかった。このことからアラミド繊維に代えて真鍮繊維を有することによって摩擦材の磨耗量が少なくなることがわかった。そして真鍮繊維の配合量が多いほど、摩擦材の磨耗量が少なくなり、摩擦材の耐久性が高くなることがわかった。そして摩擦材の耐久性の観点から、ステンレス繊維と真鍮繊維の配合比が体積比において10:1以上、好ましく10:2以上であることがわかった。
【0026】
真鍮成分のディスクロータへの移着は、実施例5において発現した。したがって真鍮繊維の配合量が多い場合に、ディスクロータに真鍮成分が移着することがわかった。そして実施例5において第2効力のばらつきが大きくなるために、ディスクロータに真鍮成分が移着することで、制動効力にばらつきが生じ、制動効力が不安定になることがわかった。そして制動効力の安定性の観点から、ステンレス繊維と真鍮繊維の配合比が体積比において10:5以下、好ましくは10:4以下であることがわかった。
【0027】
また実施例に係る摩擦材は、製造工程において予備成形することなく原料混合物を直接、成形型にて成形することで得られた。そして摩擦材の側面には、皺やひびが発生しないことが確認できた。したがって実施例は、比較例よりも生産性に優れ、かつ成形性に優れ得ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、乗用車、鉄道車両、荷物車両、産業機械に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシングなどに利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例と比較例に係る摩擦材の原料成分と配合量の図である。
【図2】実施例と比較例に係る摩擦材の測定結果をまとめた図である。
【図3】比較例に係る摩擦材を摺接させたディスクロータ摺動面の表面粗さの測定結果である。
【図4】実施例3に係る摩擦材を摺接させたディスクロータ摺動面の表面粗さの測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を主成分に有する非石綿系原料混合物を成形してなる非石綿系摩擦材であって、
繊維基材として、二種以上の金属繊維を有しており、かつ有機繊維を有していないことを特徴とする非石綿系摩擦材。
【請求項2】
請求項1に記載の非石綿系摩擦材であって、
繊維基材は、金属繊維として、ステンレス繊維と、ステンレス繊維よりも延伸性の高い金属繊維とを有していることを特徴とする非石綿系摩擦材。
【請求項3】
請求項2に記載の非石綿系摩擦材であって、
ステンレス繊維よりも延伸性の高い金属繊維として、真鍮繊維を有していることを特徴とする非石綿系摩擦材。
【請求項4】
請求項3に記載の非石綿系摩擦材であって、
ステンレス繊維と真鍮繊維の配合比が、体積比において10:2〜10:4であることを特徴とする非石綿系摩擦材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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