説明

非空気圧タイヤ

【課題】トレッド部分と、このトレッド部分の放射方向内側に配置された補強された環状バンドと、この補強された環状バンドを横断する方向にこの環状バンドから放射方向内側へ延び、ホイールまたはハブに固定される複数のウェブスポークとを有する構造的に支持される非空気圧タイヤを提供する。
【解決手段】環状バンド110はエラストマーの剪断層と、このエラストマーの剪断層の放射方向内側に接着された少なくとも一つの第1のメンブレンと、エラストマーの剪断層の放射方向外側に接着された少なくとも一つの第2のメンブレン140とを有する。各メンブレンはエラストマー剪断層の剪断弾性率より十分に大きな縦方向引張り弾性係数を有し、第2のメンブレン140の縦方向圧縮弾性率は第1のメンブレンの縦方向引張り弾性係数に少なくとも等しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造的に支持された (structurally supported) 非空気圧タイヤ(non-pneumatic tire)に関するものである。
本発明は特に、空気タイヤと同様な性能を有し、空気タイヤの代わりとして使用可能な、タイヤ構造部材によって荷重を支持する非空気圧タイヤに関するものである。
本願は米国特許第6,769,465号(発行日 2004年8月3日)になっている国際特許出願第PCT/US99/29366号(出願日 1999年12月10日)の一部継続出願である米国特許出願第10/081,571号(出願日 2002年2月22日)の一部継続出願である米国特許出願第10/782,999号(出願日 2004年2月20日)の一部継続出願である。上記米国特許出願第10/081,571号および第10/782,999号の開示は全て参考として本明細書の一部を成す。
【背景技術】
【0002】
空気タイヤは荷重を支持する能力、地面との衝撃を吸収する能力、そして力(加速、停止、方向転換)を伝達する能力を有し、それによって多くの車両、特に自転車、オートバイ、自動車、トラックで好んで採用されている。
【0003】
その代替物である非空気圧タイヤとしては、接地部分の圧縮によって荷重を支持するもの、例えばソリッドタイヤ、スプリングタイヤ、クッションタイヤ等が提案されてきたが、これらは空気タイヤのような優れた性能を有していない。そのため、特殊なものを除くと、空気タイヤの代わりに広く使用されている非空気圧タイヤは無い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来法の非空気圧タイヤの上記欠点を克服し、空気タイヤと同様な動作特性を有するものの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の構造的に支持される非空気圧タイヤは、タイヤに加わる荷重を支持する補強された環状バンドと、この補強された環状バンドとホイールまたはハブとの間で張力によって荷重力を伝達する複数のウェブスポークとを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
自動車用タイヤとして有用な実施例の本発明の構造的に支持されたタイヤは、トレッド部分と、このトレッド部分の放射方向内側に配置された補強された環状バンドと、この補強された環状バンドから環状バンドを横断する方向へタイヤ軸線へ向かって放射方向内側へ延びた複数のウェブスポークと、ウェブスポークをホイールまたはハブに連結する手段とを有する。
【0007】
本発明の構造的に支持されたタイヤは加圧空気を収容しておく空洞がない。従って、内部空気圧を維持するためのシールをホイールリムに対して形成する必要がない。すなわち、本発明の構造的に支持されたタイヤは空気タイヤの分野でホイールとよばれるものを必要としない。以下の説明では「ホイール」および「ハブ」とはタイヤを支持し、車軸に取付けるための任意の装置または構造物を意味し、同じ意味で使われる。
【0008】
補強された環状バンドはエラストマー剪断層を有し、このエラストマー剪断層の放射方向内側には少なくとも1つの第1のメンブレンが接着され、エラストマー剪断層の放射方向外側には少なくとも1つの第2のメンブレンが接着される。各メンブレンはエラストマー剪断層の剪断弾性率より大きな縦方向引張り弾性係数を有し、外部から荷重が加わった時に地面と接触したトレッド部分が基本的に円形から地面と一致する形へ変形する。一方、各メンブレンの長さは実質的に一定に維持される。各メンブレンの相対移動はエラストマー剪断層内の剪断力によって起る。各メンブレンはエラストマーの被覆層中に埋め込んだ実質的に伸びないコード補強材の積層体から成るのが好ましい。
【0009】
補強された環状バンドは第1のメンブレンの放射方向外側で、第2のメンブレンの放射方向内側のエラストマー剪断層中に中間層をさらに有することでできる。本発明の一つの設計例ではこの中間層はコード補強材を有し、このコード補強材の容積分率は0.005〜0.010であり、このコード補強材はタイヤの周方向に平行な方向に向けることができる。
【0010】
エラストマー剪断層は天然ゴムまたは合成ゴム、ポリウレタン、発泡ゴムおよびポリウレタン、セグメント化したコポリエステルおよびナイロンのブロックコポリマー等の材料で形成される。エラストマー剪断層材料は約3MPa〜約20MPaの剪断弾性率を有するのが好ましい。環状バンドは外部からの荷重によって通常の円形から地面などの接触面と一致した形状へ曲がることができる。
【0011】
ウェブスポークはホイールと環状バンドとの間で張力によって荷重力を伝達するように作用し、他にも種々の機能があるが、特に車両の重量を支持する機能を有する。車両を支持する力は環状バンドの地面接触部分に結合していないウェブスポーク内の張力によって生じる。ホイールまたはハブはタイヤ上部から吊り下げられているといえる。ウェブスポークは引張り対して有効な高い放射方向スティフネスと、圧縮に対して有効な低い放射方向スティフネスとを有するのが好ましい。圧縮スティフネスが低いことによって、環状バンドの地面接触部分に取付けられたウェブスポークは曲がることができ、地面の衝撃を吸収し、環状バンドを地面の凸凹に良く順応させることができる。
【0012】
トレッドの地面接触部分のウェブスポークの屈曲を容易にするために、ウェブスポークを湾曲させることができる。変形例として、成型中にウェブスポークに予備応力を加えて特定の方向に曲がるようにすることもできる。
本発明は添付図面を参照した以下の説明からよりよく理解できよう。
【実施例】
【0013】
本明細書では下記用語は以下のように定義される:
「赤道面」とはタイヤの回転軸線に直角なタイヤ構造を2つに分ける面を意味する。
「子午線面」とはタイヤの回転軸線を含む、タイヤを通る面を意味する。
エラストマー材料の「モジュラス、弾性率」とはASTM規格の試験方法D412で測定した10%伸びでの引張り弾性率を意味する。
メンブレンの「引張りモジュラス、弾性率」とは円周方向での1%伸びでの引張り弾性率にメンブレンの有効厚さを掛けたものを意味する。このモジュラスは下記[式1]で計算できる(従来タイヤのスチールベルト材料に対する式)。このモジュラスはダッシュ(')を付けて表すことにする。
本明細書でコード補強されたメンブレンに対して用いられるメンブレンの「圧縮モジュラス、圧縮率」は深さ30mm、幅24mm、長さ40mmの試験片を成形して求める。試験片はプライを構成するのに用いられるゴムおよび/または他の材料に入れた対象コードまたはその他の補強要素を用いて構成する。このコードを試験片(寸法40mm)の長さに沿った方向に向け、単一面内に互いに平行に整合させる。コードの間隔はプライの間隔と同じにする。試験片の力と圧縮荷重との関係をInstron 4466を用いて測定する。次いで、同じ関係をコードまたは補強要素を用いずに構成した(すなわち等方性ゴムおよび/またはその他の材料しか含まない)同じ寸法のサンプルに対しても求める。次いで、この2つのサンプルのスティフネスの差を用いてコード(「ケーブル」ともよばれる)の圧縮モジュラスを求める。このモジュラスもダッシュ(')を付けて表すことにする。
エラストマー材料の「剪断モジュラス、弾性率」とは弾性剪断弾性率を意味し、エラストマー材料の場合の上記定義の引張り弾性率の3分の1に等しいと定義される。
「ヒステリシス」とは運転時の歪み、温度、周波数で測定した動的損失のタンジェント(tanΔ)を意味する。運転条件は各用途によって異なる(例えばゴルフカートとスポーツカーでは要求される荷重および速度が違う)ので、歪み、温度、周波数を特定の用途に合わせなければならないということは当業者には理解できよう。
【0014】
[図1]は本発明の構造的に支持された弾性タイヤの赤道面での図である。「構造的に支持された」とは気体の膨張圧の支持なしにタイヤの構造要素のみによってタイヤが荷重を支持するということを意味する。以下に開示の構造的に支持された弾性タイヤの各構造は互いに類似した基本要素(成分)を利用する。従って、各変形例の図面では同じ参照番号を用いてある。図を明瞭にするために、図面の縮尺は正確ではなく、各要素の寸法は拡大、縮小してある。
【0015】
[図1]に示したタイヤ100は地面と接触するトレッド部分105と、このトレッド部分105の放射方向内側に配置された補強された環状バンド110と、この環状バンドを横断する方向にこの環状バンドから放射方向内側へ向って延びたウェブスポーク150と、このウェブスポーク150の放射方向内側端部の所にある取付けバンド160とを有している。タイヤ100はこの取付けバンド160を介してホイール10またはハブに固定される。「横断する方向に延びた」とはウェブスポーク150が軸線方向に整合するか、タイヤの軸線に対して斜めであることを指している。「放射方向内側へ向かって延びた」とはウェブスポーク150がタイヤ軸線に対して放射方向の面内にあるか、この放射方向面に対して斜めであることを意味する。以下で説明するように、複数の第2のウェブスポークを赤道面に配置することもできる。[図7]は本発明の一つの実施例のタイヤの一部の斜視図で、補強された環状バンド110をほぼ横断し、この環状バンドから放射方向内側へ向かって延びたウェブスポーク150を示している。
【0016】
[図2]はタイヤ100とホイール10の赤道面での断面図である。補強された環状バンド110はエラストマーの剪断層120と、このエラストマー剪断層120の放射方向最内側に接着された第1のメンブレン130と、エラストマー剪断層120の放射方向最外側に接着された第2のメンブレン140とから成る。第1および第2のメンブレン130、140の引張りスティフネスはエラストマー剪断層120の剪断スティフネスより高く、補強された環状バンド110が荷重下で剪断変形するようになっている。
【0017】
補強された環状バンド110はタイヤに加わる荷重を支持する。[図1]に示すように、タイヤ回転軸線Xに加わる荷重Lはウェブスポーク150中の張力によって環状バンド110へ伝達される。環状バンド110はアーチと同様な役目をし、荷重支持部材の役目をするのに十分なタイヤ赤道面内での周方向圧縮スティフネスおよび縦方向曲げスティフネスを与える。荷重下では地面との接触面Cでバンドの剪断変形を含めた機構によって環状バンドが変形する。剪断変形能力によって空気タイヤと同じように作用する柔軟な接地面Cが与えられ、空気タイヤと同様な有利な結果が得られる。
【0018】
[図3]と[図4]を参照することで堅い環状バンド122(荷重下で実質的に剪断変形しない均質な材料、例えば金属リングから成る)と比較した本発明の環状バンド110の剪断機構の利点が理解できよう。すなわち、[図3]の堅い環状バンド122では平衡力条件および曲モーメント条件を満足させる圧力分布は、接触面の両端部の一対の集中力F([図3]にはその一つが示してある)に集中したものになる。一方、本発明の構造の場合には環状バンドが[図4]に示すように剪断層120と内側補強層130と外側補強層140とからなり、剪断変形するので、接触領域における圧力分布Sが実質的に均一になる。
【0019】
本発明の環状バンドで好ましい結果が得られるのは接触面長全体でより均一な接地圧Sになるためである。これによって空気タイヤと同じようになり、他の非空気圧タイヤよりもタイヤ機能が向上する。
典型的なソリッドタイヤおよびクッションタイヤでは接触面でのタイヤ構造の圧縮によって荷重が支持され、耐荷重力は接触面に存在する材料の量と種類によって制限される。ある種のスプリングタイヤでは弾性ばね部材を介してハブまたはホイールに連結された堅い外側リングによってタイヤに加わる荷重を支持する。堅い外側リングは剪断機構を有しておらず、従って、既に述べたように、堅いリングによって接触面の両端部に接地反作用が集中するため、力を地面に伝達し、地面の衝撃を吸収するタイヤの能力が低下する。
【0020】
エラストマー剪断層120は剪断弾性率が約3〜約20MPaのエラストマー材料から成る。このエラストマー剪断層120に適した材料には天然ゴムおよび合成ゴム、ポリウレタン、発泡ゴムおよびポリウレタン、セグメント化されたコポリエステルおよびナイロンのブロックコポリマーが含まれる。
荷重下で繰返し回転すると、エラストマー剪断層120の変形によってヒステリシス損が生じ、タイヤに熱が蓄積される。エラストマー剪断層のヒステリシスは使用する材料の許容運転温度以下が維持されるようにしなければならない。従来のタイヤ材料(例えばゴム)を用いる場合、例えば、エラストマー剪断層のヒステリシスは連続使用するタイヤでタイヤ運転温度が約130℃以下に維持されるようにしなければならない。
【0021】
トレッド部分105には溝が無くてもよいが、複数の縦方向トレッド溝107([図2]の実施例のように縦方向のトレッドリブ109を形成する溝等)を有していてもよい。図ではトレッド部分105は端部から端部まで平らになっている。この平らなトレッドは自動車とその類似車両には適している。自転車、オートバイおよび二輪自動車では丸みがついたトレッドを用いることができる。任意のトレッドパターンを用いることができるということは当業者には理解できよう。
【0022】
好ましい実施例では、第1のメンブレン130および第2のメンブレン140は実質的に伸びないコード補強材をエラストマーの被覆層中に埋め込んだものから成る。弾性材料で作られたタイヤの場合にはこれらのメンブレン130および140は硬化したエラストマー材料によってエラストマー剪断層120に接着される。メンブレン130および140を化学的または機械的に接着する等の他の任意の固定方法でエラストマー剪断層120に接着しても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0023】
メンブレン130、140の補強要素は従来タイヤのベルト補強材として使用されている任意の材料、例えばスチール、アラミドのモノフィラメントまたはコードや、その他の高モジュラス織布で作ることができる。図示した実施例のタイヤの場合、この補強材は直径が0.28mmの4本のスチールワイヤコード(4×0.28)である。
好ましい実施例では、第1のメンブレンが2つの補強層131、132を有し、第2のメンブレン140も2つの補強層141、142を有する。
【0024】
図示した本発明の全ての変形例では各メンブレンがコード補強層を有しているが、環状バンドに要求される引張りスティフネス、曲げスティフネスおよび圧縮座屈抵抗特性の要求条件を満たす任意の材料をこれらメンブレンで使うことができる。メンブレン構造は種々変更でき、例えば均一材料(例えば薄い金属シート)にしたり、繊維補強されたマトリックスにしたり、ディスクリートな補強要素を有する層等にすることができる。
【0025】
第1の好ましい実施例では、第1のメンブレン130の層131および132はタイヤ赤道面に対して約10〜約45°の角度をなす基本的に互いに平行なコードを有する。各層のコードは互いに反対方向を向いている。同様に、外側のメンブレン140も赤道面に対して10〜45°の角度を成す基本的に互いに平行なコードを含む層141および142を有する。しかし、メンブレン内の互いに対を成す2つの層のコードが互いに等しい角度で逆方向を向いている必要は必ずしもなく、例えば、互いに対を成す2つの層のコードをタイヤ赤道面に対して非対称にすることもできる。
【0026】
別の実施例では、メンブレンの少なくとも1つの層のコードをタイヤ赤道面に対して0°またはほぼ0°の角度で配置してメンブレンの引張りスティフネスを高くすることができる。
各メンブレン層131、132および141、142のコードは一般に約3〜20MPaの剪断弾性率を有するエラストマーの被覆層中に埋め込まれている。この被覆層の剪断弾性率をエラストマー剪断層120の剪断弾性率とほぼ同じにして、環状バンドの変形が主としてエラストマー剪断層120内での剪断変形によって行われるようにするのが好ましい。
【0027】
荷重下での環状バンドの変形状態は、エラストマー剪断層120の剪断弾性率Gと、メンブレン130および140の縦方向有効引張り弾性係数(モジュラス)E'membraneとの関係を規定することによってコントロールできる。
従来タイヤのベルト材料を用い、補強コードを赤道面に対して少なくとも10°の角度で配置したメンブレンの有効引張り弾性係数E'membraneは下記式で求めることができる:
【0028】
【数1】

【0029】
(ここで、
rubber=エラストマー被覆材料の引張り弾性係数、
P=コード方向に対して直角に測定したコード間隔(コード中心間距離)、
D=コード直径、
ν=エラストマー被覆材料のポアソン比、
α=赤道面に対するコード角度、
t=互いに隣接する層内のケ−ブル間のゴム厚さ)
【0030】
補強コードが赤道面に対して10°以下の角度で配置されたエラストマー剪断層のメンブレンの引張り弾性係数E'membraneは下記式で求めることができる:
E'membrane=Ecable * V * tmembrane (2)
(ここで、
Ecable=ケーブルの弾性係数、
V=メンブレン内のケーブルの容積分率
tmembrane=メンブレンの厚さ)
均一材料または繊維等で補強されたマトリックスを有するメンブレンの弾性係数はこの材料またはマトリックスの弾性係数である。
【0031】
E'membraneはメンブレンの弾性係数にメンブレンの有効厚さをかけたものである。E'membrane/Gの比が相対的に低いときの荷重下での環状バンドの変形が均質バンドの変形に近くなり、[図3]に示す不均一接地圧が生じる。逆に、このE'membrane/Gの比が十分に大きいときの荷重下での環状バンドの変形は主として剪断層の剪断変形になり、メンブレンの縦方向圧縮または収縮はほとんどなく、従って、[図4]に示すような実質的に一様な接地圧になる。
本発明では、エラストマー剪断層の剪断弾性率Gに対するメンブレンの縦方向弾性係数E'membraneの上記比が少なくとも約100:1、好ましくは少なくとも約1000:1である。
【0032】
[図2]に示したタイヤのトレッド部分105、第1のメンブレン130および第2のメンブレン140の横断面形状は平らである。環状バンドの接触領域「C」([図1])の部分の歪みは第2のメンブレン140に対しては圧縮歪みである。タイヤの垂直撓みが増加すると、接触長さ「C」が増加し、第2のメンブレン140の圧縮応力が限界座屈応力を超え、メンブレンの縦方向座屈が起こる。この座屈現象によって接触領域の縦方向部分の接地圧が低下する。このメンブレンの座屈が避けられる場合には接地領域全体で均一な接地圧が得られる。
【0033】
一般にタイヤに用いられ且つメンブレンを補強するために使用できる補強材では、メンブレンの圧縮弾性率はメンブレンの引張り弾性率より低いという結果が出ることがわかった。第1のメンブレン130および第2のメンブレン140を同一のまたは同様なコード補強材で作った場合には、縦方向に測定したメンブレンの圧縮弾性率の値を、縦方向に測定したメンブレンの引張り弾性率の1/6〜1/3にすることができる。従って、第2メンブレン140が座屈する傾向を弱めるためには、第2のメンブレン140の縦方向圧縮弾性率を第1のメンブレン130の縦方向引張り弾性率と少なくとも等しくする必要があることがわかった。上記圧縮弾性率を達成するのに必要な補強材の正確な量は、上記の手順に従って製造および測定したサンプルを用いて求めることができる。
【0034】
メンブレンの縦方向引張り弾性係数E'membraneとエラストマー剪断層の剪断弾性率Gとの上記条件が満たされ且つ環状バンドが実質的にエラストマー剪断層の剪断によって変形したときに一つの有利な関係ができ、各用途にあった剪断弾性率Gの値と剪断層厚さhを求めることができる。
【0035】
【数2】

【0036】
(ここで、
Peff=接地圧
G=層120の剪断弾性率
h=層120の厚さ
R=第2のメンブレンの回転軸線に対する放射方向位置)
【0037】
PeffとRはタイヤの使用用途に従って選択される設計パラメ−タである。式(3)は剪断層の弾性剪断弾性率と剪断層の放射方向厚さとの積が、接地圧と第2のメンブレンの放射方向最外側位置との積にほぼ等しいということを示している。
【0038】
[図7]を参照すると、ウェブスポーク150はほぼシート状の要素で、放射方向の長さNと、一般に環状バンド110の軸線方向幅に対応する軸線方向の幅Wと、他の寸法に対して直角方向の厚さとを有する。厚さは長さNまたは幅Wよりはるかに小さく、好ましくはタイヤの半径Rの約1〜5%である。そうすることによって[図1]に示されるようにウェブスポークが圧縮下で曲がることができる。ウェブスポークを薄くすることによってほとんど圧縮抵抗なしに接触面で曲がり、荷重支持に有意な圧縮力を与えなくなる。
【0039】
ウェブスポークが厚くなると、ウェブスポークがある程度の圧縮荷重支持力を直接地面に与える。しかし、ウェブスポーク全体としての主たる荷重伝達作用は引張りである。ウェブスポーク厚さは各車両の要求条件を満たすように選択できる。
【0040】
本発明の好ましい実施例では、ウェブスポーク150は引張り弾性係数が高い材料、すなわち引張り弾性係数が約10〜100Mpaの材料で作られる。ウェブスポークは必要に応じて補強できる。さらに、ウェブスポーク材料は30%歪みを与えた後に初めの長さに戻る弾性挙動を示し、且つ、4%歪みを与えたときに一定の応力を示さなければならない。さらに、関連した運転条件でタンジェントΔが0.1を越えない材料が望ましい。これらの要求条件を満足する市販のゴムまたはポリウレタン材料を見つけることができる。本発明者はクロンプトン社のユニロイヤルケミカル部門(コネチカット州、ミドルベリー)の商標ビラタン(Vibrathane)B836のウレタンがウェブスポークに適していることを発見した。
【0041】
[図2]を参照すると、本発明の一実施例では各ウェブスポーク150は放射方向内側取付けバンド160によって互いに連結されている。このバンド160はタイヤを取付けるためのホイールまたはハブ10を取り囲んでいる。各ウェブスポーク150の放射方向外側端部は境界バンド170によって互いに連結されている。この境界バンド170がウェブスポーク150を環状バンド110に連結している。ウェブスポーク、取付けバンド160および境界バンド170は単一材料からユニットとして成形するのが便利である。
【0042】
変形例では、環状バンド110およびハブまたはホイール10の構造材料および取付け方法に応じて、別体の取付けバンド160または境界バンド170を無くして、ウェブスポークを環状バンドとホイールとに直接接着することもできる。例えば、環状バンドまたはホイールまたはハブのいずれかが同一材料またはコンパチブルな材料で形成されている場合には、ウェブスポークを環状バンドまたはホイールと一体成形することによって一段階でタイヤを製造することができる。この場合には取付けバンド160および/または境界バンド170をホイールまたは環状バンドの一部として一体成形する。さらに、[図8]に示すように、例えばホイール10の溝152と係合する各ウェブスポークの内側端部に拡大部分151を設けて、ウェブスポーク150をホイールに機械的に連結することもできる。
【0043】
接地圧、垂直方向荷重および接触面を選択することで、各用途にあった出発設計パラメ−タを選択することができるのが有利である。
【0044】
例えば、乗用車用タイヤを設計する場合には、設計者は接地圧Peffを1.5〜2.5DaN/cm2にし、タイヤ寸法の半径Rを約335mmに選択することができる。これらの値をかけ合わせることによって50.25〜83.75DaN/cmの「剪断層ファクタ」を求めることができ、これを用いて剪断層材料の厚さと剪断弾性率とを求めることができる。この場合、約3MPa〜約10MPaの剪断弾性率で、エラストマー剪断層の厚さhは少なくとも5mm、好ましくは約10mm〜約20mmである。
【0045】
公共事業または建設用途のようなより大型の重荷重用タイヤを設計する別の実施例の場合には、設計者は接地圧Peffを3.0〜5.0DaN/cm2にし、タイヤ寸法の半径Rを約420mmに選択することができる。この設計例では、約5MPaの剪断弾性率で、エラストマー剪断層の厚さhは約30mmである。この実施例のようにエラストマー剪断層が厚くなると、第1のメンブレン130の放射方向外側および第2のメンブレン140の放射方向内側およびエラストマー剪断層120の厚さ内に位置する中間層を追加することによってタイヤの製造法およびその性能の両方が向上することがわかっている。[図5]はこの構成の一実施例を示している。この実施例では、タイヤは第1のメンブレン130と第2のメンブレン140との間の放射方向の中間位置に中間層180を有する。この実施例では中間補強層180がタイヤの周方向に平行な方向を向いたスチールコード補強材を有している。スチールコードはタイヤ補強材に適した任意の材料の中から選択され、この実施例ではスチールコードは直径が0.35mmの9本のワイヤ(9×0.35)からなるケーブル構造を有する。
【0046】
中間補強層180はエラストマー剪断層の剪断挙動に与える影響は最小でなければならない。すなわち、この中間補強層180は第3のメンブレンの役目をさせるためのものではない。この効果はエラストマー剪断層の容積に対するコードの容積分率が約0.005〜約0.010であるときに得られる。容積分率はタイヤの断面図で中間補強層180中のケーブルの面積をエラストマー剪断層120の面積で割ることで求められる。このようにして、エラストマー剪断層の剪断特性を均質な剪断層の特性とあまり変わらないようにする。この実施例では、9×0.35スチールコードを軸線方向に約3mm〜約6mmの間隔をあけて配置することによって許容可能な容積分率が得られる。
【0047】
上記本明細書の内容から、上記以外の多数の変形例が当業者には可能であるということは理解できよう。特許請求の範囲で定義されるような変形例およびその他の変形例は本発明の範囲に入るものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】荷重下にある本発明タイヤの赤道面での概念図。
【図2】本発明タイヤを子午線面で切った断面図。
【図3】剪断変形を示さない対照例の均質バンドの場合の接地反作用を図示した概念図。
【図4】本発明の環状バンドの場合の接地反作用を図示した概念図。
【図5】本発明の変形例のタイヤを子午線面で切った断面図。
【図6】荷重が加わった本発明タイヤの子午線面での概念図で、荷重支持機構を説明するための所定の基準寸法を示す。
【図7】本発明の実施例のタイヤの一部の斜視図。
【図8】ホイールの係合溝に嵌合する拡大端部を有するウェブスポークの一部の斜視図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー剪断層と、このエラストマー剪断層に放射方向内側から接着した少なくとも1つの第1のメンブレンと、上記エラストマー剪断層に放射方向外側から接着した少なくとも1つの第2のメンブレンとを有する補強された環状バンドと、この補強された環状バンドの放射方向外側に配置されたトレッド部分と、上記補強された環状バンドを横断する方向へ補強された環状バンドから放射方向内側へ向って延びた複数のウェブスポークと、これら複数のウェブスポークをホイールに連結する手段とを有する構造的に支持されたタイヤにおいて、
上記メンブレンの各々が上記エラストマー剪断層の剪断弾性率より大きな縦方向引張り弾性係数を有し、一方のメンブレンの縦方向引張り弾性係数と上記エラストマー剪断層の剪断弾性率との比が少なくとも約100:1であり、第2のメンブレンの縦方向圧縮弾性率が第1のメンブレンの縦方向引張り弾性係数に少なくとも等しいことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
第1のメンブレンの放射方向外側で、第2のメンブレンの放射方向内側の上記エラストマー剪断層中に位置した中間層をさらに有する請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
上記中間層がコード補強材を有し、上記エラストマー剪断層の容積に対するこのコード補強材の容積分率が約0.005〜0.010である請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
上記中間層のコード補強材がタイヤの周方向に対して平行な方向を向いている請求項2に記載のタイヤ。
【請求項5】
少なくとも第1と第2のメンブレンの各々が、均質材料、繊維補強されたマトリックス、ディスクリートな補強要素を有する層および少なくとも上記エラストマー剪断層の弾性剪断弾性率に等しい弾性剪断弾性率を有するエラストマー中に埋め込まれた実質的に伸びないコード補強材の1つによって形成される請求項1に記載のタイヤ。
【請求項6】
第1と第2のメンブレンのコード補強材がタイヤの周方向に平行な方向を向いている請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
上記のコード補強材がタイヤの周方向に対して約10〜45°の角度を成す請求項5に記載のタイヤ。
【請求項8】
上記エラストマー剪断層の剪断弾性率に対する一方のメンブレンの縦方向引張り弾性係数の比が少なくとも約1000:1である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項9】
上記エラストマー剪断層が約3〜約20MPaの弾性剪断弾性率を有する請求項1に記載のタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−260514(P2008−260514A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−28836(P2008−28836)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(599140471)ソシエテ ドゥ テクノロジー ミシュラン (96)
【出願人】(597011441)ミシュラン ルシェルシェ エ テクニク ソシエテ アノニム (94)