説明

非繊維状チタン酸カリウム

【課題】 繊維形状を有する粒子を実質的に零にしたチタン酸カリウムを提供する。
【解決手段】 焼成後解砕して得た非繊維状チタン酸カリウム結晶であって、直径が3μm以下、長さが5μm以上でかつ長さと直径との比が3:1以上の粒子が個数比率で3%以下であることを特徴とする非繊維状チタン酸カリウムである。このものは、焼成によりTiOとKOを生成する原料をそれぞれ5.5:1〜6.5:1のモル比に混合し、被加熱物の温度が800℃から1000〜1300℃までの領域を20℃/分以上の昇温速度で焼成し、その焼成物を冷却後解砕することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、摩擦材、塗料、潤滑材、耐熱材、断熱材、紙の添加剤等に使用されるチタン酸カリウムに関し、特に衛生面に関わる形状的特性を重視した非繊維状チタン酸カリウムに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸カリウムは、繊維形状を有し、プラスチック、塗料、摩擦材等の分野で実用化され、広く普及している。しかし、繊維状粉末は、嵩高く、流動性が悪く、扱いにくいという性質がある。さらに繊維状粉末は粉塵が発生しやすく作業環境上の問題もある。
【0003】
例えば、アスベストの発ガン性が問題になっているが、その原因は繊維状の形状に関係するとの見方もある。スタントン(Stantan)の仮説では、繊維の径が0.25μm以下で長さが8μm以上の繊維が催腫瘍性が高いとしている。また、世界労働機関(ILO)では直径が3μm以下、長さが5μm以上かつ長さと直径との比が3:1以上の繊維を吸入性繊維としている。
【0004】
チタン酸カリウム繊維が呼吸器系などの健康に影響を生ずる可能性については明らかではないが、いずれにしても吸入性繊維は少ないことが望ましい。
【0005】
微粒子チタン酸アルカリについては、球状粒子の集合体で、電子顕微鏡によって確認される大きさが0.01〜0.5μm、BET法による比表面積が約100m/g以上の粉末がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
特許文献1によれば、多くの文献や特許に開示されているチタン酸アルカリは、通常数μm〜数十μmの長径をもつ繊維状で、比表面積も20m/g以下と小さく、焼成法、溶解法、水熱法、フラックス法、融体法等が知られているが、特許文献1では、これらの従来技術では得られない表面活性な微粒子チタン酸アルカリを開示している。
【0007】
この粉末は、有機カルボン酸を溶解した水溶液に四塩化チタンの水溶液を加え、生成する水和酸化チタン〜有機酸の反応縮合物の水懸濁液に水酸化アルカリ金属を添加し、pH8以上、50℃以上100℃以下の温度で反応させて得られる。
【0008】
この粉末は数十〜数百Åの球状粒子の集合体である。
【特許文献1】特開平4−280815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
チタン酸カリウムとしては、2チタン酸カリウム(KO・2TiO)、4チタン酸カリウム(KO・4TiO)、6チタン酸カリウム(KO・6TiO)、8チタン酸カリウム(KO・8TiO)が知られている。このうち、加熱合成で直接生成するものは、2、4又は6チタン酸カリウムの組成のものである。2チタン酸カリウムあるいは4チタン酸カリウムは加熱により容易に繊維形状を有するが、6チタン酸カリウムは元来繊維状の成長をしない。しかしながら、初期原料であるTi源とK源を加熱した時、先に融解するのは、K源より生成する酸化カリウムであるため、初期融解部分においてはカリウムリッチとなるので、2チタン酸カリウムや4チタン酸カリウムが生成する。さらに加熱を継続すると、周辺の酸化チタンを取り込んでいくが、形状としては、初期に成長した繊維形状を残す部分がある。
【0010】
本発明は、吸入性繊維の形状を有する粒子を実質的に零にしたチタン酸カリウム結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために鋭意開発されたもので、焼成後解砕して得た非繊維状チタン酸カリウム結晶であって、直径が3μm以下、長さが5μm以上でかつ長さと直径との比が3:1以上の粒子が個数比率で3%以下であることを特徴とする非繊維状チタン酸カリウムを提供する。
【0012】
ここで、繊維性の判定基準として、結晶形状の直径、長さ、及び長さと直径との比を掲げたが、衛生的な観点に関する非繊維状チタン酸カリウムの形状の制限については、いまだ明確な規定がなく、上記ILOの吸入性繊維を参照して規定した。そして、この規定に該当する個数比率が3%以下という基準を定めこれにより判断することとした。この個数比率についても、衛生的な観点からの基準はいまだ確定的なものはなく、確率的な観点から安全性を十分に見込んで、発明者らが本発明において独自に定めたものである。
【0013】
一方、市販のチタン酸カリウム繊維の吸入性繊維の割合を減らす手段として、チタン酸カリウムを微粉砕することが考えられる。しかし、チタン酸カリウムは嵩高く、流動性が悪いため、供給が困難で、供給路の壁に付着しこれを閉塞させるといった問題を生じると共に、大幅なコストアップになるため、工業的に製造することは困難である。
【0014】
実験室レベルでの微粉砕による吸入性繊維の割合は5%程度が限界であるのに対し、本発明は上記個数比率を3%以下とすることができる製造方法によって達成されたものである。
【0015】
このような特性を有するチタン酸カリウムは次の手段によって製造することができる。すなわち、焼成によりTiOを生成するTi源の粉末とKOを生成するK源の粉末をTiO:KOのモル比で5.5:1〜6.5:1の割合で混合し、被加熱物の温度が800℃から目標最高温度1000〜1300℃まで到達する昇温速度を20℃/分以上として焼成し、その焼成物を冷却後解砕するチタン酸カリウムの製造方法によって製造することができる。
【0016】
Ti源としては、酸化チタン、含水酸化チタン等を用いることができ、K源としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、硫酸塩等を用いることができる。K源の代わりに加熱によりNaOを生成するNa源を用いても、6チタン酸カリウムと同様の特性をもつ6チタン酸ナトリウムが生成するので、Na源を適用することも可能である。
【0017】
モル比を5.5:1〜6.5:1とするのは、最終生成物のモル比と合致させるためであり、好ましくは、6:1がよいが、必ずしも化学量論的でなく上記モル比の範囲内であればX線回折測定で確認する限りにおいて6チタン酸カリウムが生成される範囲である。
【0018】
焼成は800℃から目標最高到達温度1000〜1300℃まで20℃/分以上の昇温速度で行う。800℃から目標到達温度までの温度領域を急速加熱するのは、2又は4チタン酸カリウムの生成を抑制するためである。この温度領域の上限は6チタン酸カリウムの融点を考慮すれば、好ましくは1200℃までとするのがよい。
【0019】
なお、800℃未満の領域の昇温速度は緩急何れでもよいが、800℃以上の領域を急速に加熱するので、これに合わせて800℃未満の領域も急速加熱するのが実技的である。
【0020】
昇温速度を20℃/分以上としたのは、20℃/分未満では2又は4チタン酸カリウムの生成を抑制することが困難であるためである。昇温速度の上限は、設備的な観点から制約され、耐火物の保護、設備保全の制約、経済的な観点からの制限等によって定められる。
【0021】
Ti源とK源の粉末をTiO/KOのモル比で5.5:1〜6.5:1の割合で混合し、これを加熱焼成する場合、前述のように、昇温速度が緩慢であると、先に融解したカリウムリッチ相において、2チタン酸カリウムや、4チタン酸カリウムの繊維成長を助長させてしまい、目的の非繊維状にならない。そこで、2チタン酸カリウムや4チタン酸カリウムの成長しやすい温度域をできるだけ速く通過させる急速加熱を行う。その結果、到達温度1200℃までの昇温速度を20℃/分以上の急昇温によって、2チタン酸カリウム、4チタン酸カリウムの成長を抑え、目的とする非繊維状の6チタン酸カリウムを得ることができる。このように焼成された6チタン酸カリウムの焼成物はわずかに焼結状態となっているため、冷却後粉砕機で適当な粒度に解砕して製品とする。
【0022】
チタン酸カリウムは、高白色度、低モース硬度、低熱伝導率、高屈折率といった物性を持ち、耐熱性、耐薬品性、摺動特性に優れる物質としての特性を持っている。従って、補強繊維としての用途以外に、プラスチック、摩擦材、塗料、潤滑剤、耐熱材、断熱材、紙の添加剤等にも利用することができる。更に、繊維状粉末が、嵩高く流動性が悪く扱いにくいのに対し、本発明のチタン酸カリウムは、これらの欠点が改良されている点で、適用範囲は広い。
【0023】
その適用において、目的に沿うよう、カップリング処理等の表面処理を施すことも可能である。
【0024】
また、本発明の非繊維状チタン酸カリウム粉末は摩擦材料に用いると、従来のチタン酸カリウム粉末を用いるよりも、低温から高温まで安定した摩擦性能を発揮することが見い出されている。その理由は、明らかではないが、従来のチタン酸カリウム粉末に比べ、本発明のチタン酸カリウム粉末は、繊維性が低いので、角柱結晶であるチタン酸カリウムの側面側結晶面や、底面側結晶面が、摩擦剤摺動部に平均的に配置することによるものと思われる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の非繊維状チタン酸カリウムは、繊維と定義される領域の粒子が実質的に零と見なされるようなチタン酸カリウムである。この物質には従来の繊維状チタン酸カリウムの特性の内、補強性は余り期待することはできないが、衛生面において十分安全に使用することができる各種用途の原料物質として、広く世の中に受け入れられる材料であり、貢献するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
チタン酸カリウムの各々生成物の融点は
2チタン酸カリウム 965℃
4チタン酸カリウム 1114℃
6チタン酸カリウム 1370℃
であり、結晶の成長はこれら融点よりやや低めのところで起る。従って2チタン酸カリウム、4チタン酸カリウムの結晶成長温度域を20℃/分以上のできるだけ速い昇温速度で通過させることによって2チタン酸カリウムや4チタン酸カリウムに由来する形状を抑制し、本発明の非繊維状の非繊維状チタン酸カリウムを得ることができる。
【実施例】
【0027】
酸化チタン粉末と炭酸カリウム粉末を、TiO:KOのモル比が6:1になるように配合し、この原料をブレンダーで10分間混合し、この混合粉を温度プログラムコントローラ付の電気炉で、800℃から1130℃をその昇温速度をそれぞれ7℃/分、20℃/分、30℃/分の条件で昇温し、20分間保持した後、衝撃式ミルで粉砕した。
【0028】
得られたチタン酸カリウム粉末の電子顕微鏡画像を画像解析処理により、各粒子の直径、長さから、直径が3μm以下、長さが5μm以上でかつ長さと直径との比が3:1以上の粒子の個数比率を算出したところ、表1に示す結果を得た。
【0029】
尚、比較のためにチタン酸カリウム繊維の代表的市販品2種類についても直径が3μm以下、長さが5μm以上でかつ長さと直径との比が3:1以上の粒子の個数比率を求め、表1に併記した。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成後解砕して得た非繊維状チタン酸カリウム結晶であって、直径が3μm以下、長さが5μm以上でかつ長さと直径との比が3:1以上の粒子が個数比率で3%以下であることを特徴とする非繊維状チタン酸カリウム。

【公開番号】特開2008−110918(P2008−110918A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16231(P2008−16231)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【分割の表示】特願平9−46108の分割
【原出願日】平成9年2月28日(1997.2.28)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】