説明

非鉄金属のダイカスト用離型剤

【課題】ミスト給油装置によりミスト状で給油した場合に離型性に優れた非鉄金属のダイカスト用油性離型剤を提供すること。特に、油膜付水滴方式で給油された場合に、最適な付着量を確保でき、離型性に優れたアルミダイカスト用油性離型剤を提供すること。
【解決手段】TBN150〜500mgKOH/gの過塩基性アルキル土類金属塩を含む非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属のダイカスト用油性離型剤に関する。詳しくは、油膜付水滴により給油する場合に最適な金型用離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の非鉄金属のダイカスト法では、金型の保護のため、水溶性離型剤が使用され効果をおさめている。この離型剤としてはシリコーンエマルションが主に使用され、これに界面活性剤、極圧添加剤、防錆剤、防腐剤を加えたものが一般的に使用されている。これらの水溶性離型剤は、通常循環使用され、噴霧法にて金型に塗布されている。しかし、離型後の金型温度が400℃前後の高温であり、水溶性の離型剤を噴霧しても水蒸気膜が発生して付着しないため、多量に供給して金型を冷却している。このため、多量の廃液が発生し、環境負荷が高い。また、ヒートサイクルにより金型寿命も低下する。
【0003】
上記のように、水溶性離型剤は環境汚染問題があり、これに対応するため、油性離型剤が検討されている。特許文献1には油性ダイカスト用離型剤及びスプレー装置について開示されている。しかしながら、油性のミストでは火災の可能性があり危険である。
【0004】
このような火災の危険性に対して、切削・研削加工の分野では、特許文献2に開示された油膜付水滴が利用されている。油性加工油剤と共に水が同時に供給されるため火災の危険性が少ない。また、水の粒子は通常のミスト給油装置のオイルミストよりも大きく、その表面に油膜が形成されるため、ミスト粒子の持つ運動エネルギーが大きく、離れた位置からでも給油することができる。さらに、油膜付水滴ではない、単なる油と水の混合ミストの場合は、水の粒子が先に金型に付着するため油を弾き、また水蒸気膜が発生するため油が付着しない。しかしながら、油膜付水滴では、最初に油が金型表面に接触するため、付着しやすいという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2006−25368号公報
【特許文献2】特開2001−150294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ミスト給油装置によりミスト状で給油した場合に離型性に優れた非鉄金属のダイカスト用油性離型剤を提供することであり、特に、油膜付水滴方式で給油された場合に、最適な付着量を確保でき、離型性に優れたアルミダイカスト用油性離型剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の離型剤を提供するものである。
(1)TBN150〜500mgKOH/gの過塩基性アルキル土類金属塩を含むことを特徴とする非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(2)過塩基性アルキル土類金属塩が、TBN300〜400mgKOH/gの過塩基性スルホネート及び/又は過塩基性サリシレートである上記(1)記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(3)過塩基性アルキル土類金属塩が、離型剤100質量部中、0.1〜100質量部の量で含まれる上記(1)又は(2)記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(4)さらに、25℃における動粘度が20〜1000mm/s2のシリコーンオイルを含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(5)シリコーンオイルがメチルフェニルシリコーンである上記(4)記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(6)さらに、付着向上剤として、ヨウ素価130以上のエステル、及びヨウ素価130以上のエステルから作られた重合油からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことをを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(7)さらに、溶媒としてナフテン系(N系)鉱物油を含むことを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(8)油膜付水滴の形態で使用するための離型剤である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
(9)非鉄金属がアルミニウム合金である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤は、従来の油性離型剤より最適な付着量が得られ、優れた離型効果をもたらす。特に、ミスト給油装置によりミスト状で給油した場合、更に特に、油膜付水滴方式で給油した場合に、優れた付着性及び離型性を発揮する。加えて、本発明の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤は、従来の水溶性離型剤の欠点である廃液処理の必要がなく、金型温度を一定に保つためことが可能なため、ヒートサイクルによる金型寿命の低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において「アルカリ土類金属」とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、を意味するものとする。
本発明の離型剤には「TBN150〜500mgKOH/gの過塩基性アルキル土類金属塩」が含まれる。TBNは、全塩基価(Total Base Number)の略であり、JIS K 2501 石油製品及び潤滑油−過塩素酸法で測定できる。
過塩基性アルキル土類金属塩としては、公知の種々のものを使用可能であるが、過塩基性スルホネート、過塩基性サリシレート、過塩基性フェネート、過塩基性カルボキシレートのアルキル土類金属塩が挙げられる。
【0010】
過塩基性スルホネートとしては、例えば、下記式(1)で表される有機スルホン酸塩を過塩基化したものがあげられる。
[R1‐C65‐SO32M (1)
式中、R1は、炭素数1〜22の直鎖又は分岐アルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、アルキルフェニル基及び石油高沸点留分残基を表す。Mはアルカリ土類金属を表す。
【0011】
過塩基性サリシレートとしては、例えば、下記式(2)で表されるアルキルサリチル酸塩を過塩基化したものがあげられる。
[R23‐C65(OH)−COO]2M (2)
式中、R2は炭素数5〜28のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基を示す。
3は水素原子、炭素数1〜28のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を示す。Mはアルカリ土類金属を表す。
【0012】
過塩基性フェネートとしては、例えば、アルキルフェノール硫化物を過塩基化したものがあげられる。過塩基性カルボキシレートとしては、例えば、アルキルサリチル酸塩を過塩基化したものがあげられる。
【0013】
中でも、過塩基性スルホネート、過塩基性サリシレートが好ましく、過塩基性カルシウムスルホネート、過塩基性カルシウムサリシレート、過塩基性マグネシウムスルホネートがさらに好ましい。
【0014】
これらは単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
TBNは150〜500mgKOH/g、好ましくは300〜400mgKOH/gである。150mgKOH/g未満では潤滑性が低く、500mgKOH/gを超えるものは潤滑性の向上が小さくなり実用的でない。
なお、過塩基性アルキル金属塩は乳化剤としての効果があり、正常な油膜付水滴の形成を阻害するため、油膜付水滴用離型剤としては適さない。
本発明の潤離型剤中、上記過塩基性アルカリ土類金属塩の量は、離型剤100質量部中、好ましくは0.1〜100質量部、さらに好ましくは1〜90質量部である。
【0015】
本発明の離型剤に使用される「25℃における動粘度が20〜1000mm/s2のシリコーンオイル」としては、ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーン、アラルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。好ましくはジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンである。特に好ましくはメチルフェニルシリコーンである。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
該シリコーンオイルの25℃における動粘度は20〜1000mm/s2であり、100〜500mm/s2であるのが好ましい。25℃における動粘度が20mm/s2未満では潤滑性、付着性共悪く、1000mm/s2を超えると給油が困難になる。
本発明の潤離型剤中、「25℃における動粘度が20〜1000mm/s2のシリコーンオイル」の量は、離型剤100質量部中、好ましくは0.1〜99.9質量部、さらに好ましくは10〜99質量部である。
【0016】
本発明の離型剤は、さらに、前記過塩基性アルキル土類金属塩の金型への付着向上剤として、ヨウ素価130以上のエステル、及びヨウ素価130以上のエステルから作られた重合油からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。ヨウ素価は、JIS K 0070により測定できる。
ヨウ素価が130以上のエステルを本発明の離型剤に含ませると、前記過塩基性アルキル土類金属塩が金型へ付着するのを向上させることができる。ダイカスト鋳造は、通常400℃程度の高温で行うため、ヨウ素価が130以上のエステルが金型に接触すると、その表面で重合反応が起こる。その重合物が付着向上剤として作用する。従って、付着向上剤としてしては、ヨウ素価が130以上のエステルを使用することもできるし、ヨウ素価が130以上のエステルを予め重合させて得られる重合油もまた使用することができる。ヨウ素価が130未満では、付着向上剤としての効果が期待できない。
「ヨウ素価130以上のエステル」としては、麻実油、亜麻仁油、サフラワー油、大豆油、ひまわり種子油、桐油等の植物油、いわし油、さんま油、さば油等の魚油、サメ類、エイ類等の肝油、あざらし油、あしか油等の海獣油が挙げられる。また、これらの再生油が挙げられる。好ましくは亜麻仁油、桐油である。
「ヨウ素価130以上のエステルから作られた重合油」の製造方法は問わない。一般にボイル油、スタンド油と呼ばれる。好ましくは亜麻仁油、桐油の重合油である。これらは煮亜麻仁油、煮桐油とも呼ばれる。
これらは単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の離型剤中、「付着向上剤」の量は潤滑剤100質量部中、好ましくは0〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部である。10質量部を超えると離型剤の酸化安定性が悪くなり、長期の貯蔵性が低下する。また、金型周辺に堆積し、作業性が低下する。
【0017】
本発明の離型剤はさらに、溶媒としてナフテン系(N系)鉱物油を含むことが好ましい。
N系鉱物油としては、環分析値%CNが35%以上かつ、%CAと%CN合計が50%以上、引火点が80℃以上のN系鉱物油が望ましい。好ましくは引火点が180℃以上、さらに好ましくは引火点が200℃以上の消防法危険物第四類第四石油類に分類されるN系鉱物油が最も望ましい。引火点が200℃以上でより安全性が高まる。環分析値%CNが35%未満、かつ、%CAと%CN合計が50%未満のパラフィン系(P系)鉱物油では、シリコーンオイルが溶解しないため、本発明の離型剤がシリコーンオイルを含む場合、溶媒としての機能を果たせない。また、引火点が80℃未満のN系鉱物油を高温の金型に噴霧するのは、水を同時に噴霧する場合であっても危険である。また、蒸気が発生しやすく、付着を阻害するおそれがある。
本発明の離型剤中、「溶剤」の量は離型剤100質量部中、好ましくは0〜95質量部である。
【0018】
本発明の離型剤は上記成分を互いに溶解又は分散させ製造する。溶解又は分散時間を短縮させる為に、ホモジナイザー、ホモミクサー、モントン−ゴーリン分散機等を用いても良い。
本発明の離型剤には、さらに防腐剤、防錆剤、酸化安定剤等、通常の潤滑剤に使用されている添加剤を通常の量添加してもよい。
【0019】
本発明の離型剤はミスト給油装置によりミスト状で給油した場合非鉄金属のダイカストの離型剤として好ましく使用され、油膜付水滴方式において、アルミニウムダイカストの離型剤として、特に好ましく使用される。具体的には、例えば、圧縮空気等によりノズルから水を噴霧して水滴を形成し、そこに本発明の離型剤を霧状にして適用すると、水滴の表面に油膜が形成される。水、本発明の離型剤及び圧縮空気の使用量は、例えば、0L/h超1L/h以下、10〜50mL/h、60〜100NL/minである。このようにして形成された油膜付水滴の直径は約100μm前後であり、油膜の厚さは約1000Å前後である。
【実施例】
【0020】
本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明する。
表1〜表4に示す組成の成分(質量部)の離型剤試料(実施例1〜25及び比較例1〜9)を作製した。市販油性離型剤を比較例10とした。
これらの試料で、以下の試験法により付着性の評価を行った。
〔付着性〕
これらの離型剤を、油膜付水滴供給装置から、加熱した試験片に噴霧し、室温まで冷却後、重量を測定する。これを1平米当たりに計算し、付着量とする。
1)金型:SKD−11 150×150×75mm
2)金型温度:300、350、400℃
4)試験片:SPCC−SD 100×100mm
5)油膜付水滴供給方法:大同メタル製の商品名 JOOM
6)油量:50mL/H
7)空気量:100NL
8)水量:1L/H
9)ノズル位置:金型から250mm
10)噴霧時間:10秒
11)評価:市販油性離型剤の付着量を基準として評価した。
金型温度 付着量
300℃ ○:150mg/m2より多い
×:150mg/m2以下
350℃ ○:150mg/m2より多い
×:150mg/m2以下
400℃ ○:240mg/m2より多い
×:240mg/m2以下
〔潤滑性〕
表1〜表4に示す組成の離型剤を、試験片上に20mg滴下し、500℃に加熱した。試験片上の残渣及び皮膜の摩擦係数を、バウデン試験機にて測定した。
1)試験温度:25℃
2)試験片:A1050P 50×25×1mm
4)鋼球:SUJ−2、直径3/16インチ
5)錘:0.3kg
6)滑り速度:4.0mm/sec
7)摺動長さ:8mm
8)摺動回数:1回
9)評価:市販油性離型剤の摩擦係数(0.31)を基準として評価した。
○:0.31未満
×:0.31以上
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
TBN150〜500の過塩基性アルキル土類金属塩を含む本発明の実施例1〜25の離型剤は優れた潤滑性、付着性を示す。
さらにシリコーンオイルを含む本発明の実施例4〜8、12〜13、17〜18、20〜25の離型剤は、さらに優れた潤滑性、付着性を示す。但し、実施例23から、シリコーンオイルの動粘度が実施例20のシリコーンオイルの動粘度よりも低い場合、潤滑性、付着性が低下しており、所定範囲の動粘度が最適であることがわかる。実施例24は、実施例20のシリコーンオイルを、25℃の動粘度が400mm/s2のメチルフェニルシリコーンから、25℃の動粘度が500mm/s2のジメチルシリコーンへ置き換えたものである。潤滑性、付着性が低下しており、シリコーンオイルの中では、メチルフェニルシリコーンが特に優れていることがわかる。
さらに付着向上剤(ヨウ素価130以上のエステル、及びヨウ素価130以上のエステルから作られた重合油)を含む本発明の実施例9〜13、19〜25は、さらに付着性が向上している。但し、実施例25から、付着向上剤のヨウ素価が実施例20の付着向上剤のヨウ素価よりも低い場合、付着性が低下しており、所定範囲のヨウ素価が最適であることがわかる。
溶媒としてN系鉱物油を含む本発明の実施例14〜18,20〜25の離型剤は大きな性能低下も見られず、優れた潤滑性、付着性を示す。
これに対してTBN150〜500の過塩基性アルキル土類金属塩を含まない比較例1〜9の潤滑剤及び、市販油性離型剤は、潤滑性及び付着性のいずれか、または潤滑性が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TBN150〜500mgKOH/gの過塩基性アルキル土類金属塩を含むことを特徴とする非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項2】
過塩基性アルキル土類金属塩が、TBN300〜400mgKOH/gの過塩基性スルホネート及び/又は過塩基性サリシレートである請求項1記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項3】
過塩基性アルキル土類金属塩が、離型剤100質量部中、0.1〜100質量部の量で含まれる請求項1又は2記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項4】
さらに、25℃における動粘度が20〜1000mm/s2のシリコーンオイルを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項5】
シリコーンオイルがメチルフェニルシリコーンである請求項4記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項6】
さらに、付着向上剤として、ヨウ素価130以上のエステル、及びヨウ素価130以上のエステルから作られた重合油からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことをを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項7】
さらに、溶媒としてナフテン系(N系)鉱物油を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項8】
油膜付水滴の形態で使用するための離型剤である、請求項1〜7のいずれか1項記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。
【請求項9】
非鉄金属がアルミニウム合金である、請求項1〜8のいずれか1項記載の非鉄金属のダイカスト用油性離型剤。