説明

面質変換方法、記録物、面質変換システム、面質変換装置

【課題】簡便に、被記録媒体の面質を全体的または部分的に変える方法、特に任意の画像が形成された記録媒体の面質を部分的に変える方法を提供すること。
【解決手段】被記録媒体に中空樹脂粒子を含むインク組成物で隠蔽画像を記録する第一の工程と、前記隠蔽画像に含まれる前記中空樹脂粒子を破壊することにより、前記隠蔽画像を、隠蔽性が低減した画像に変換する第二の工程と、を有することを特徴とする、面質変換方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、被記録媒体(記録媒体および予め任意の画像が記録された記録媒体のいずれも含む)の面質を全体的または部分的に変える方法に関し、特に、予め任意の画像が形成された記録媒体の面質を部分的に変える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、中空樹脂粒子を含有させた白色インク組成物が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。この中空樹脂粒子は、その内部に空洞を有しており、その外殻が液体透過性の樹脂から形成されている。この様な構造により、インク組成物中では、中空樹脂粒子の内部空洞は溶媒によって満たされて中空樹脂粒子の比重とインク組成物の比重とが実質的に同一になるため、中空樹脂粒子はインク組成物中に安定に分散することができる。そして、このインク組成物を用いて記録媒体上に画像を形成すると、乾燥時に中空樹脂粒子の内部空間が空気で置換されるため、中空樹脂粒子は、その外殻と空洞の間における光の屈折率の差により生じる光散乱によって隠蔽効果を発揮する(即ち、白色を呈する)。一般的に、中空樹脂粒子自体はアクリル等の透明樹脂により形成されている。
【0003】
この中空樹脂粒子は種々の改良が成されており、例えば、特許文献5では、120℃以上の高温に晒すと中空樹脂粒子(中空微小球)が軟化することで白色印字が脱色(白色度が低下)するとして、中空樹脂粒子の耐熱性を向上させための方法を開示している。
【0004】
一方、任意の画像が形成された記録物表面に樹脂またはマット化剤を含んだ樹脂等でパターンを形成することにより、その処理部分の表面光沢度を変えて印刷効果を高める等の方法(Overprint Varnish)が知られている。パターンを形成する樹脂としては、例えば透明な紫外線硬化型樹脂、ポリプロピレン、樹脂ワニス等が挙げられる。このパターンを形成する方法としては種々の方法が検討されている。
【0005】
例えば特許文献6では、転写材上に形成されたトナー像を溶融して固着する、回動する定着手段を有する画像形成装置において、定着した転写材上へ溶融ワックス滴を供給するワックス滴供給手段を有する画像形成装置を開示している。当該画像形成装置では、予備走査によって予め原稿の光沢画像範囲を読み取っておき、記録紙に付着させたトナーの定着時に、記録紙上の前記光沢画像範囲に溶融ワックスを塗布することで光沢を付与している。
【0006】
また、特許文献7では、印刷物に紫外線硬化型樹脂ワニスを塗布した後、この紫外線硬化型樹脂ワニス塗布面に、鏡面を有する透光性フィルム材を圧着し、該フィルム材上から紫外線を照射し、その後、フィルム材を印刷物から剥離することを特徴とする印刷物の光沢加工法を開示している。当該光沢加工法によれば、塗布面の平滑性を向上させることができると記載されている。
【0007】
更に、近年では、印刷物などの任意の画像が形成された記録物の面質を部分的に変えるスポットバーニッシュ(Spot Varnish)技法の需要が高まっている。ここで言う「面質」には、例えば、光沢感、立体感、表面均質感等がある。面質は、これらの特性を記録物に単に付与することで変えることができるが、人間の視覚や触覚等の複数の知覚に依存した質感表現によっても変えることができる。質感表現には、例えば、同じ記録物であっても光沢の程度を変えることにより、立体感や表面均質感が異なって感じられる、あるいは、記録物に付与された微小な厚みの変化が、視覚が捉える光沢感と相乗することにより、観測者が触れた際には実際の厚みよりも大きく感じられるなど、様々な表現が可能である。
そして、近年、上記技法の需要の高まりに応じて、簡便に、記録物の面質を部分的に変えることが可能な新規な方法が求められている。
【特許文献1】米国特許第4,880,465号明細書
【特許文献2】特開2000−103995号公報
【特許文献3】特開2000−239585号公報
【特許文献4】特開2005−154568号公報
【特許文献5】特許第3639479号公報
【特許文献6】特開平11−174758号公報
【特許文献7】特開平5−50027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡便に、被記録媒体の面質を全体的または部分的に変える方法、特に任意の画像が形成された記録媒体の面質を部分的に変える方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、外殻と空洞の間における光の屈折率の差により生じる光散乱による隠蔽効果により白色等の色を呈する中空樹脂粒子の耐熱性に着目して鋭意検討した結果、被記録媒体に上記の様な中空樹脂粒子を含むインク組成物で隠蔽画像を形成した後、前記隠蔽画像中に含まれる中空樹脂粒子を加熱する等の方法で破壊することによって得られる隠蔽性が低減された画像が、光沢感を有することを知見した。これは、中空樹脂粒子が、破壊により内部空洞がつぶれて収縮した状態へ変化するため、光散乱による隠蔽効果がなくなり、樹脂本来の透明度に起因した光沢を発現したためと考えられる。従って、隠蔽性が低減された画像は略透明であり、予め任意の画像が記録された記録媒体に適用した場合にも、下地画像を隠蔽することはない。
また、中空樹脂粒子を破壊することにより得られる、前記隠蔽性が低減された画像は、更に、立体感を与えることを知見した。ここでいう立体感とは、観測者が記録物に触れた時に感じる前記隠蔽性が低減された画像形成部の厚みの変化が、視覚が捉える光沢感と相乗することにより、隠蔽性が低減された画像の実際の層厚よりも大きく感じられる質感を指す。加熱等によって、中空樹脂粒子が内部空洞がつぶれて収縮した状態へ変化したため、隠蔽画像を形成していた中空樹脂粒子や定着性樹脂等の配列秩序が崩れたことにより、上記のような立体感を付与できたものと考えられる。
本発明者は、上記知見に基づき、簡便な方法で被記録媒体の面質を全体的または部分的に変えること、特に、簡便な方法で、任意の画像が形成された記録媒体の面質を部分的に変えることが可能であることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
(1) 被記録媒体に中空樹脂粒子を含むインク組成物で隠蔽画像を記録する第一の工程と、
前記隠蔽画像に含まれる前記中空樹脂粒子を破壊することにより、前記隠蔽画像を、隠蔽性が低減した画像に変換する第二の工程と、
を有することを特徴とする、面質変換方法。
(2) 前記被記録媒体が、予め、任意の画像が記録された記録媒体であることを特徴とする、上記(1)記載の面質変換方法。
(3) 前記隠蔽画像が、前記被記録媒体の任意の位置に部分的に記録されることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の面質変換方法。
(4) 前記隠蔽性が低減した画像が光沢感を与えることを特徴とする、上記(1)〜(3)の何れか一項に記載の面質変換方法。
(5) 前記中空樹脂粒子の破壊が加熱により行なわれることを特徴とする、上記(1)〜(4)の何れか一項に記載の面質変換方法。
(6) 前記加熱温度が100〜200℃であることを特徴とする、上記(5)記載の面質変換方法。
(7) 更に、前記被記録媒体上に形成された前記隠蔽性が低減した画像が立体感を与えることを特徴とする、上記(1)〜(6)の何れか一項に記載の面質変換方法。
(8) 前記隠蔽画像がインクジェット記録方式により記録されることを特徴とする、上記(1)〜(7)の何れか一項に記載の面質変換方法。
(9) 上記(1)〜(8)の何れか一項に記載の面質変換方法により得られることを特徴とする、記録物。
(10) 被記録媒体上に中空樹脂粒子を含む白色インクによって隠蔽画像を形成する隠蔽画像形成手段と、前記隠蔽画像に含まれる前記中空樹脂粒子を破壊する中空樹脂粒子破壊手段と、を備えたことを特徴とする、面質変換システム。
(11) 上記(10)記載の隠蔽画像形成手段と中空樹脂粒子破壊手段とを一体に備えたことを特徴とする、面質変換装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、汎用の、白色中空樹脂粒子を含む白インク組成物やインクジェット記録装置などによって、簡便に、被記録媒体の面質を変えることが可能であり、特に近年需要が高まっているスポットバーニッシュ技法として、予め任意の画像が記録された記録媒体に、下地画像を隠蔽することなく(即ち、前記下地画像の色彩を残した状態で)、部分的に光沢感や立体感等を付与する場合に好適である。従って、本発明の方法によれば、画像表現の幅を広げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の面質変換方法、記録物、面質変換システム、および面質変換装置について、詳細に説明する。
本発明の面質変換方法は、被記録媒体に中空樹脂粒子を含むインク組成物で隠蔽画像を記録する第一の工程と、前記隠蔽画像に含まれる前記中空樹脂粒子を破壊することにより、前記隠蔽画像を、隠蔽性が低減した画像に変換する第二の工程と、を有することを特徴とする。本発明を、例えば、白色を呈する中空樹脂粒子を含む白インク組成物を使用して行った場合には、被記録媒体に隠蔽性の高い白色画像を記録する第一の工程と、該白色画像に含まれる中空樹脂粒子を破壊することにより、前記白色画像を白色度が低減した画像に変換する第二の工程を有する。
【0013】
本発明において、「被記録媒体」とは、記録媒体および予め任意の画像が形成された記録媒体のいずれも含み、「中空樹脂粒子」とは、外殻と空洞の間における光の屈折率の差により生じる光散乱による隠蔽効果によって白色等の色を呈する中空樹脂粒子を意味する。「隠蔽画像」とは前記の白色等の色を呈した中空樹脂粒子を含むインク組成物により形成された画像を意味し、下地画像を完全に隠蔽する画像であっても、あるいは下地画像が観測できる程度の隠蔽度の画像であってもよい。「面質」とは、光沢感および/または立体感を示す。
【0014】
以下、隠蔽画像を記録するインク組成物として、外殻と空洞の間における光の屈折率の差により生じる光散乱による隠蔽効果によって白色を呈する中空樹脂粒子を含む白色インク組成物を用いた例を挙げて本発明の面質変換方法を詳細に説明するが、本発明で使用される中空樹脂粒子は上記した白色以外の色を呈していても良いのは言うまでもなく、例えば上記した中空樹脂粒子を構成する樹脂を他の色に着色したものであってもよい。かかる態様の場合においても、以下に説明する白色中空樹脂粒子を使用する態様と同様にして本発明を実施することが可能である。
【0015】
[白インク組成物]
1.中空樹脂粒子
本発明における中空樹脂粒子としては、その内部に空洞を有しており、その外殻が液体透過性を有する樹脂から形成されていることが好ましい。かかる構成により、中空樹脂粒子が水性インク組成物中に存在する場合には、内部の空洞は水性媒質で満たされることになる。水性媒質で満たされた粒子は、外部の水性媒質とほぼ等しい比重を有するため、水性インク組成物中で沈降することなく分散安定性を保つことができる。これにより、白色インク組成物の貯蔵安定性や吐出安定性を高めることができる。
【0016】
また、本発明における白色インク組成物を、紙その他の記録媒体上に吐出させると、粒子の内部の水性媒質が乾燥時に抜けることにより空洞となる。粒子が内部に空気を含有することにより、粒子は屈折率の異なる樹脂層および空気層を形成し、入射光を効果的に散乱させるため、白色を呈することができる。
【0017】
本発明で用いられる中空樹脂粒子は、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。例えば、米国特許第4,880,465号や特許第3,562,754号などの明細書に記載されている中空樹脂粒子を好ましく用いることができる。
【0018】
中空樹脂粒子の平均粒子径(外径)は、好ましくは0.2〜1.0μmであり、より好ましくは0.4〜0.8μmである。外径が1.0μmを超えると、粒子が沈降するなどして分散安定性を損なうことがあり、またインクジェット式記録ヘッドの目詰まりなど信頼性を損なうことがある。一方、外径が0.2μm未満であると、白色度が不足する傾向にある。また、内径は、0.1〜0.8μm程度が適当である。
【0019】
中空樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
【0020】
上記中空樹脂粒子の含有量(固形分)は、白色インク組成物の全質量に対して、好ましくは5〜20質量%であり、より好ましくは8〜15質量%である。中空樹脂粒子の含有量(固形分)が20質量%を超えると、インクジェット式記録ヘッドの目詰まりなど信頼性を損なうことがある。一方、5質量%未満であると、白色度が不足する傾向にある。
【0021】
上記中空樹脂粒子の調製方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を適用することができる。中空樹脂粒子の調製方法として、例えば、ビニルモノマー、界面活性剤、重合開始剤、および水系分散媒を窒素雰囲気下で加熱しながら撹拌することにより中空樹脂粒子エマルジョンを形成する、いわゆる乳化重合法を適用することができる。
【0022】
ビニルモノマーとしては、非イオン性モノエチレン不飽和モノマーが挙げられ、例えば、スチレン、ビニルトルエン、エチレン、ビニルアセテート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0023】
また、ビニルモノマーとして、二官能性ビニルモノマーを用いることもできる。二官能性ビニルモノマーとして、例えば、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタン−ジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが挙げられる。上記単官能性ビニルモノマーと上記二官能性ビニルモノマーとを共重合させて高度に架橋することにより、光散乱特性だけでなく、耐熱性、耐溶剤性、溶剤分散性などの特性を備えた中空樹脂粒子を得ることができる。
【0024】
界面活性剤としては、水中でミセルなどの分子集合体を形成するものであればよく、例えば、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0025】
重合開始剤としては、水に可溶な公知の化合物を用いることができ、例えば、過酸化水素、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0026】
水系分散媒としては、例えば、水、親水性有機溶媒を含有する水などが挙げられる。
【0027】
2.白インク組成物
本発明おける白インク組成物において、中空樹脂粒子の含有量(固形分)は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは5〜20質量%であり、より好ましくは8〜15質量%である。中空樹脂粒子の含有量(固形分)が20質量%を超えると、例えば白色画像形成手段であるインクジェット式記録ヘッドの目詰まりなど信頼性を損なうことがある。一方、5質量%未満であると、白色度が不足する傾向にある。
【0028】
本発明における白インク組成物は、中空樹脂粒子を定着させる樹脂を含む。係る樹脂としては、アクリル系樹脂(例えば、アルマテックス(三井化学社製))、ウレタン系樹脂(例えば、WBR−022U(大成ファインケミカル社製))が挙げられる。
これらの定着樹脂の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.5〜10質量%であり、より好ましくは0.5〜3.0質量%である。
【0029】
本発明おける白インク組成物は、アルカンジオールおよびグリコールエーテルから選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。アルカンジオールやグリコールエーテルは、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
【0030】
アルカンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどの炭素数が4〜8の1,2−アルカンジオールであることが好ましい。この中でも炭素数が6〜8の1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールは、記録媒体への浸透性が特に高いため、より好ましい。
【0031】
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いると良好な記録品質を得ることができる。
【0032】
これらのアルカンジオールおよびグリコールエーテルから選択される少なくとも1種の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0033】
また、本発明における白インク組成物は、アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
【0034】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0035】
ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えば、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社製)などが挙げられる。
【0036】
さらに、本発明における白インク組成物は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのその他の界面活性剤を含有することもできる。
【0037】
上記界面活性剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0038】
本発明おける白インク組成物は、多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールは、本発明おける白インク組成物をインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクの目詰まりを防止することができる。
【0039】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
【0040】
上記多価アルコールの含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜3.0質量%であり、より好ましくは0.5〜20質量%である。
【0041】
本発明における白インク組成物は、第三級アミンを含有することが好ましい。第三級アミンは、pH調整剤としての機能を有し、インク組成物のpHを容易に調整することができる。
【0042】
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0043】
上記第三級アミンの含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0044】
本発明における白インク組成物は、通常溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を紫外線照射または過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、長期間に亘りカビやバクテリアの発生を抑制することができるので好ましい。
【0045】
さらに、本発明おける白インク組成物は、必要に応じて、水溶性ロジンなどの定着剤、安息香酸ナトリウムなどの防黴剤・防腐剤、アロハネート類などの酸化防止剤・紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤などの添加剤を含有させることができる。これらの添加剤は、1種単独で用いることもできるし、もちろん2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0046】
本発明おける白インク組成物は、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミルなどを使用して、従来の顔料インクと同様に調製することができる。調製に際しては、メンブランフィルターやメッシュフィルターなどを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0047】
[隠蔽画像(白色画像)の記録方法]
本発明における白インク組成物を用いた被記録媒体への白色画像の記録方法としては、特に限定されることはなく、各種インクジェット記録方式に適用することができる。インクジェット記録方式としては、例えば、サーマルジェット式インクジェット、ピエゾ式インクジェット、連続インクジェット、ローラーアプリケーション、スプレーアプリケーションなどが挙げられる。
【0048】
被記録媒体上に吐出される白インク組成物の吐出量は、白色画像から変換される白色度が低減した画像が発現する光沢感や立体感を確保する観点から、5〜40g/m2であることが好ましく、10〜25g/m2であることがより好ましい。
【0049】
[被記録媒体]
本発明における被記録媒体の素材としては、特に限定されることはなく、例えば、紙、厚紙、繊維製品、シートまたはフィルム、プラスチック、ガラス、セラミックスなどが挙げられる。
【0050】
[隠蔽性が低減した画像(白色度が低減した画像)への変換方法]
被記録媒体上に記録された白色画像は、乾燥により内部空洞に空気相が形成された中空樹脂粒子の外殻と空気相との屈折率差に起因した隠蔽効果により白色を呈している。本発明では、白色画像中の中空樹脂粒子を破壊し、その内部空洞をつぶして中空樹脂自体を収縮させることによって、白色画像を、白色度が低減されて樹脂本来の透明度に起因した光沢を発現する画像へ変換する。白色度が低減された画像は略透明ではあるが、予め任意の画像が形成された記録媒体に本発明の方法を適用する場合には、この白色画像は下地画像を遮蔽することがない透明光沢画像へ変換されることが好ましい。中空樹脂粒子は、一般的にアクリル等で構成されているため、加熱や加圧によって容易に破壊することが可能であり、少なくとも加熱により破壊されることが好ましい。本発明においては、面質を変換したい箇所にのみ白色画像を記録し、その全部を白色度が低減された画像に変換しても良く、あるいは、白色画像の一部を選択的に白色度が低減した画像に変換し、残部を白色画像として記録物中に残しても良い。
中空樹脂の破壊方法は特に限定されることはないが、ラミネーターを使用した加熱、加熱や加圧が可能なレーザー、加熱こて、ドライヤー、赤外線ヒーター、セラミックヒーター、アイロン等を適用できる。
【0051】
加熱による中空樹脂粒子の破壊は、画像記録面の加熱温度が100〜200℃であることが好ましく、120〜180℃であることがより好ましい。加熱温度を100〜200℃とすることにより、被記録媒体に良好な光沢感と立体感の両方を付与することが可能である。
【0052】
加圧による中空樹脂粒子の破壊は、例えば印刷物をホットプレス機にはめ込み、圧力と加熱を同時に行ったり、また加熱したラミネーターに印刷物を通すことで行うことが可能である。
【0053】
[記録物]
本発明は、上記の方法によって画像が形成された記録物を提供することができる。
隠蔽性が低減した画像は、隠蔽性の低下によって粒子を形成する樹脂本来が有する透明度を発現した略透明な光沢画像であるため、任意の画像が形成された記録媒体に付与した場合においても下地画像を隠蔽することがない。従って、本発明によれば、前記下地画像部分の色彩を残した状態で、当該部分の光沢感や立体感等の面質のみを変化させた記録物を得ることができる。
【0054】
[面質変換システム、面質変換装置]
本発明は、記録媒体上に、上記の中空樹脂粒子を含むインク組成物によって隠蔽画像を形成する隠蔽画像形成手段と、前記隠蔽画像に含まれる前記中空樹脂粒子を破壊する中空樹脂粒子破壊手段とを備えた面質変換システムを提供することができる。かかる面質変換システムは、前記中空樹脂粒子破壊手段として、例えば、中空樹脂粒子を破壊することができる程度の上記した様な加熱や加圧ができる手段を備えていればよい。
本発明の面質変換システムは、前記隠蔽画像形成手段と前記中空樹脂粒子破壊手段とが一体化された装置であってもよく、両者が別体となった装置(例えば、インクジェット記録装置で記録後、別体のラミネーターで通紙して加熱する)であってもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0056】
まず、表1に記載の組成に従って、白色中空樹脂粒子を含む白色インク組成物(インク1、インク2)を調製した。尚、表中の数値は質量%である。
【0057】
【表1】

【0058】
次いで、記録媒体にブラックインクのベタを印刷した。記録媒体には、写真用紙(セイコーエプソン(株)社製)を使用した。
その後で、上記組成の白インクを充填したプリンタを用いて、白色インクを任意の文字で記録し、黒下地に白文字が記録された状態を作った。
【0059】
そして、上記の白色画像が形成された記録用紙を、市販のラミネーターJOL-DIGITAL-4R(JOL社製/日本オフィスラミネーター(株)輸入)に通紙した。この装置は温度が可変にできるようになっており、90℃、110℃、150℃、190℃、220℃にそれぞれ変化させて通紙した。また、白色画像を形成せずブラックのベタ印刷のみのサンプル(表2:白なし)も用意した。
【0060】
加熱後、文字の部分のL値を測定した。印刷物を測定用の標準黒色色紙の上に乗せて、「938 Spectrodensitometer」(X−rite社製)を用いて色を測定した。尚、光源はD50とした。このとき得られた明度(L)を白色度の指標とした。
値はその数値が大きいほど白いことを示し、小さいほど黒いことを示す(即ち、Lが小さい程、文字の透明度が高いことを示している)。更に、数値が違うということは相対的に面質が変化したことも示している。結果を表2に示す。
【0061】
また、観測者による触覚試験によって、下記を評価基準として立体感の変化について評価した。結果を表2に示す。
立体感の評価基準は下記の通りである。
AA:立体感もあり、表面も滑らかでつやも非常に高い
A:立体感もあり、表面も滑らか
B:立体感はあるが、表面がややでこぼこしている
C:立体感よりも、表面のざらつきが気になる
【0062】
【表2】

【0063】
表2の結果から、通紙したものは、白色度を失い、光沢感を有するような透明な文字に変化したことが判る。但し、温度が低い場合(90℃)には、白さは少し残っており、100℃以上で通紙したものよりも品位は落ちているように見えた。また、ラミネーターの温度を220℃まで上げると、透明度は増すものの、立体感が低減することにより、逆に背景の黒下地との面質の違いがあまり感じられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体に中空樹脂粒子を含むインク組成物で隠蔽画像を記録する第一の工程と、
前記隠蔽画像に含まれる前記中空樹脂粒子を破壊することにより、前記隠蔽画像を、隠蔽性が低減した画像に変換する第二の工程と、
を有することを特徴とする、面質変換方法。
【請求項2】
前記被記録媒体が、予め、任意の画像が記録された記録媒体であることを特徴とする、請求項1記載の面質変換方法。
【請求項3】
前記隠蔽画像が、前記被記録媒体の任意の位置に部分的に記録されることを特徴とする、請求項1または2に記載の面質変換方法。
【請求項4】
前記隠蔽性が低減した画像が光沢感を与えることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の面質変換方法。
【請求項5】
前記中空樹脂粒子の破壊が加熱により行なわれることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の面質変換方法。
【請求項6】
前記加熱温度が100〜200℃であることを特徴とする、請求項5記載の面質変換方法。
【請求項7】
更に、前記被記録媒体上に形成された前記隠蔽性が低減した画像が立体感を与えることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の面質変換方法。
【請求項8】
前記隠蔽画像がインクジェット記録方式により記録されることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の面質変換方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の面質変換方法により得られることを特徴とする、記録物。
【請求項10】
被記録媒体上に中空樹脂粒子を含むインク組成物によって隠蔽画像を形成する隠蔽画像形成手段と、前記隠蔽画像に含まれる前記中空樹脂粒子を破壊する中空樹脂粒子破壊手段と、を備えたことを特徴とする、面質変換システム。
【請求項11】
請求項10記載の隠蔽画像形成手段と中空樹脂粒子破壊手段とを一体に備えたことを特徴とする、面質変換装置。

【公開番号】特開2010−69821(P2010−69821A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242340(P2008−242340)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】