説明

靴のアッパー体用シートおよび靴

【課題】無菌室やクリーンルームで使用可能な靴に使用するアッパー体用シートおよび当該アッパー体用シートを用いた靴を提供すること。
【解決手段】アッパー体用シート40は、耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層41と、綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層42との貼り合わせによって形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレーブ(高温・高圧蒸気による滅菌処理)対応の靴および当該靴に使用するアッパー体用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表布と裏布を接着剤層を介して接着した靴に使用する布の製造方法が知られている(特許文献1)。当該方法による靴用貼合せ布は、広温度域で安定した腰強度(剛軟度)を保持し、優れた耐水接着強度、耐屈曲性、洗濯保型性、通気性、透湿性、乾燥性を有するものとして記載されている。当該方法は、布が通気性を有するように、多孔性の接着剤層を全面に塗布して表裏のシートを貼り合わせたものである。また、特許文献1に記載された布は、裏布が合成繊維で構成され、表布が合成繊維若しくは天然繊維によって構成されたものである。
【特許文献1】特開平9−66576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1記載に記載された布は、表層に天然繊維等を設けたものであるため、発塵性があるとともに菌等が付着しやすく、無菌室やクリーンルーム等での使用には適さないものである。
また、上記無菌室等で使用する靴は、使用する度に洗浄を行い、水蒸気によって高温高圧の環境を生成するオートクレーブ装置によって滅菌処理を行うものである。オートクレーブ処理は靴等を構成する素材に対してかなり過酷なものであることから、靴にはオートクレーブ処理をある程度繰り返しても容易に破壊されない強度が要求される。そのため、従来の靴は、靴底およびアッパー体をゴムにより一体的に形成した総ゴム製の靴が主流であり、通気性や靴としてのクッション性も極めて少ない履き心地の悪いものであった。
さらに、天然繊維を使用した場合には、高温の水蒸気に触れることによって繊維の色素等がにじみ出て、靴表面層にしみが発生する現象が生じる。
【0004】
本願発明は、上記課題に鑑み、無菌室やクリーンルーム等での使用を目的とした靴であって、オートクレーブ処理に対する強度を有すると共に、履き心地のよい靴およびしみが発生しない靴の提供と、当該靴に使用するシートの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明は下記の構成を有していることを特徴とする。すなわち、
靴底の上面に接着固定される靴のアッパー体に用いるシートであって、
当該シートは、耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層との貼り合わせによって形成されていることを特徴とする靴のアッパー体用シート。
【0006】
上記課題を解決するために、本願請求項2記載の発明は下記の構成を有していることを特徴とする。すなわち、
靴底の上面に接着固定される靴のアッパー体に用いるシートであって、
当該シートは、耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層との貼り合わせ
によって形成されており、
前記天然繊維による編み物若しくは織物によるシートは、予め漂白処理を行った繊維によって形成若しくはシート形成後に漂白処理が行われていることを特徴とする靴のアッパー体用シート。
【0007】
上記課題を解決するために、本願請求項3記載の発明は下記の構成を有していることを特徴とする。すなわち、
前記化学繊維により形成した表層と天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成した内層を構成する各シートは、両シートを接着した接着部と両シートを接着しない未接着部を有するように貼り合わされていることを特徴とする請求項1又は2記載の靴のアッパー体用シート。
【0008】
上記課題を解決するために、本願請求項4記載の発明は下記の構成を有していることを特徴とする。すなわち、
耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層とを貼り合わせて形成したシートによって足入れ部となるアッパー体を構成し、
当該アッパー体を靴底の上面に設けたことを特徴とする靴。
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項5記載の発明は下記の構成を有していることを特徴とする。すなわち、
耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、予め漂白処理を行った繊維によって形成若しくはシート形成後に漂白処理を行った綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層との貼り合わせによって形成したシートによって足入れ部となるアッパー体を構成するとともに、
当該アッパー体を靴底上面に設けたとを特徴とする靴。
【0010】
上記課題を解決するために、本願請求項6記載の発明は下記の構成を有していることを特徴とする。すなわち、
前記化学繊維により形成した表層と天然繊維若しくは混紡繊維により形成した内層を構成する各シートは、両シートを接着した接着部と両シートを接着しない未接着部を設けるように貼り合わされていることを特徴とする請求項4又は5記載の靴。
【発明の効果】
【0011】
本願発明に係るアッパー体用のシート(複合シート)を構成する表層シートは、耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の化学繊維により形成されているので、オートクレーブ処理に対する耐久性を有するとともに繊維自体にも発塵性がなく、しかも細い繊維による織物として形成されているので水蒸気は透過させるものの塵や菌類等の大きさの物体を通過させないという性質を有している。さらに、内層シートは、綿等の天然繊維を含んだものであるから吸湿性を有しており、結露の発生を防ぎつつ吸湿した水分を前記表層シートを介して外部に放出させることができるようになっている。さらに、綿等の天然繊維から塵が発生したとしても、表層シートは天然繊維から発生した塵を通過させないようになっている。洗浄やオートクレーブ処理後の乾燥時間も短縮することができるものである。
また、表層シートと内層シートは無接着部分を形成した状態で接着剤によって接着されているので、当該無接着部分によって両シート間の水分の移動を妨げることが無く、足から発生した汗等の水分を内層シートから表層シートに伝えて発散させることができるという効果を有している。
また、表層シートとして用いられる化学繊維のシートは一般的に薄手で腰がないため単独ではアッパー体の素材として用いることは難しいが、厚手の内層シートを張り合わせることにより保形性を得ることができアッパー素材として用いることが可能になる。
また、綿等の天然繊維を含んだ内層シート若しくは繊維を予め漂白処理しておくことで、繊維自体から発生した色素等によって生じる表層シートにおけるしみの発生を無くすことができるという効果を有している。
また、本願発明に係る靴は、前述した効果を有するとともに発汗による蒸れも少なく、内部にリブを設けて軽量化とクッション性を持たせた靴底との併用によって、さらに履き心地が良いという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本願発明に係る靴1の側面図であり、図2は靴1の背面図を表している。また、図3は、靴1の図2に示したB−B’線断面図、図4は靴1の図3に示したA−A’線断面図を表している。靴1は、前記各図に示すように、主として合成ゴム(NBR)によって一体的に形成された靴底2と、当該靴底2上に接着されたアッパー体3とから構成されている。また、図5は靴底2単体の平面(上面)図を表しており、図6は同靴底2単体の底面(裏面)図である。
なお、本発明の記載において、靴1および靴底2の上下とは、図1を基準とする上下方向のことであって、前後とは、図1を基準とする左右方向のことであって、左右とは、図1を基準として紙面の表裏方向のことである。
【0013】
靴底2の裏面には、床面との接触体として構成された接地面7を有する複数の接地ブロック4が設けられている。当該接地ブロック4は、前足底部分C1、土踏まず部分C2および踵部分C3に亘って靴底面を形成する所定の厚み以上の肉厚を有する底板8の裏面に設けられている。本実施の形態においては、底板8の厚さは、ブロックが設けられていない土踏まず部分C2でほぼ3mm以上の肉厚を有しており、底板8の裏面から接地面7までの高さは約4mmとして形成されている。また、接地ブロック4には、歩行時の荷重によって変形し接地面7が床面を捉えられなくなることがないように、接地ブロック4の周囲を取り囲む錐状の傾斜部であるサポート9が一体的に形成されており、接地ブロック4の変形を防止している。
接地ブロック4を設けた側の反対に相当する底板8の表面側(アッパー体3側)には、上方に向かって立設した外周壁10が当該底板8の外周部に設けられている。また、当該外周壁10の内側の空間には、上方に向かってほぼ直角に立設した複数の凸体11が一体的に設けられている。前記外周壁10の上面には、外周から内側に向かってなだらかに湾曲しながら下降傾斜する幅広部12が設けられている。当該幅広部12は、アッパー体3との接着面を成す部分である。
【0014】
前記外周壁10の内側における底板8の上面には、上方に向かって立設した凸体11が複数個設けられている。本実施の形態における各凸体11は、厚さ約3mmの板状体として形成されたものであり、図5に示すようにリブ状に規則的に配置されたものである。なお、各凸体11は、踵側では厚さよりも高さの寸法が上回っているが、爪先側では厚さよりも高さの寸法が小さくなっている。
また、踵部に配置された凸体11の側面および端部には、当該凸体11の側面から90°以内の内角で斜め後方に突出した突出部13が設けられている。当該突出部13は、凸体11と同じ幅に形成されており、凸体11の倒れを防止するとともに、凸体11とともに歩行時の荷重を弾力的に受け止める作用を有するものである。
本実施の形態に係る各凸体11は、図5に示すように、一端が底板8の左右(図面上の上下方向)の外周壁10と接合するとともに、中央側(中心線CL側)は他の部位と接合しない自由端となっている。また、各凸体11は、前記自由端が後方に向かって規則的に
斜めに傾斜するように設けられており、各凸体11の自由端同士は、互いに接触せず少なくとも約3mm程度の間隔があけられている。
【0015】
前記のように配列された隣り合う各凸体11は、側面が互いに平行となるように配置されており、当該配列によって底板8の中心線CL側に開口を形成した小空間15を複数形成している。
本実施の形態においては、靴底内に形成された全ての小空間15は中心線CL付近で開口しており、当該開口は靴の先端側から踵側端部に亘って途切れることなく形成された1つの通路20(図5においてジグザグ状の模様を付けた部分)と連通している。
当該通路20は、各凸体11の自由端に沿って左右に屈曲しながら靴の先端部と踵側端部とを結んでいる。そして、前記小空間15を形成する凸体11は、全て後方に向かって傾斜するように配置されており、凸体11に設けられた突出部13も凸体11に対して後方側に設けられている。当該構成によって、前記小空間15を形成する凸体11は、踵側を下向きにして靴底2を傾斜させた際に、前記小空間15に貯まった水等の排出を妨げることがなく、前記通路20に沿って踵側に水等を導くことができるようになっているものである。
【0016】
前記通路20後端の延長線上に位置する踵側の外周壁10上には、外部との仕切壁となる薄壁部21を有した凹部22が設けられている。当該薄壁部21は、目的に応じて切り取りが容易となるように形成された部位であり、取り除くことによって外部と靴底内部を連通させる構造となっているものである。なお、薄壁部21の代わりに、栓によって自由に開閉できる孔を設けたり、内圧をかけた場合にだけ開く弁体を設けてもよい。
【0017】
また、当該薄壁部21を予め取り除き、内外を連通させる開口を形成しておいても構わない。
図7は、前記薄壁部21を取り除いて開口23を形成した靴1の断面図を表している。当該開口23は、前述した凸体11および通路20とともに、靴底内部に貯った水を排出する作用を有する。すなわち、踵側を下にして靴1を立てると、水が貯まった全ての小空間15の通路20に面した開口が斜め下方を向くことになり、凸体11に案内される形で小空間15内の水が通路20内に導かれ、当該通路20を通って外周壁10の開口23から水が排出されるものである。
靴底内に形成したリブ状の凸体11は、靴1を立てた場合に、開口23に向かって移動する水の流れを妨げない形状および配置となるように形成されている。なお、当該作用を有するのであれば、凸体11の形状は図に示した例に限らないものであり、後述する図14に示す他の実施例の形状であっても構わない。
また、前述した例は、踵側に薄壁部21若しくは開口23を設けたが、当該薄壁部若しくは開口をつま先側に形成してもよい。この場合、凸体11の形状および配置は前方に向かう水の流れを妨げないような形状および配置となることは言うまでもない。
【0018】
次に、図8、9、10を用いて、前記靴底上に設けられる袋状部分24を中心としたアッパー体3の主要部について説明する。図8はアッパー体3の側面側からみた中央断面図、図9は上面側からみた要部断面図(図8のC−C’線断面図)、図10は背面側から見た要部断面図(図8のD−D’線断面図)である。当該各図に示すように、アッパー体3は足の甲から踵までを覆い足を保持する袋状部分24と、当該袋状部分24の爪先部分の表面を覆うゴム製の保護カバー25と、袋状部分24の下端部外周を取り巻くように貼り付けられた帯状ゴム26とから構成されている。
【0019】
アッパー体3は、詳細には後述するポリエステル等の化学繊維の糸により織られた表層シートと、天然繊維である木綿等の糸により織られた若しくは編まれた裏層シートの貼り合わせによる複合シートによって、立体的形状を成すように縫製されたものである。本実
施の形態では、発塵性の少ない素材による繊維を用いて目が細かく密に織られた表層シートが用いられる。なお、裏層シートは、ポリエステル繊維と木綿繊維の混紡繊維によって形成してもよい。
立体的に縫製された袋状部分24は、上部に足入れ部となる上部開口と、足の底部を包み込むように内側に向かって巻き込んだ下端縁によって形成された下部開口を有した形状になっており、当該下部開口に中底17の下面が接着されている。
前記立体的に縫製された袋状部分24の爪先付近の甲部には、保護カバー25が貼り付けられている。保護カバー25は、靴底と同様に耐熱性の高いゴム素材によって袋状部分24に沿って立体的に形成されたものである。各部材の接着には、耐熱性の高い接着剤が使用されている。保護カバー25は、洗浄時の衝撃やオートクレーブによる温度や圧力によるストレスに対する強度を高め、靴全体を保護し、型崩れを防ぐ作用を有するものである。また、靴を障害物にぶつけた際、使用者の爪先を保護する作用も有する。
【0020】
前記保護カバー25が接着された袋状部分24の内側に向かって巻き込まれた下端部分の表面には、角部分を中心として帯状ゴム26が貼り付けられている。当該帯状ゴム26は、前記保護カバー25の下部および袋状部分24の下部を覆うことで、靴としての強度を高め洗浄やオートクレーブ滅菌処理時のアッパー素材の収縮による靴の変形を抑えるとともに、靴底の幅広部12に対する接着面となるものである。当該帯状ゴム26と幅広部12との接着は、図11に示すような器具により強固に行われるようになっている。これにより、当該接着部を介して靴底内部とアッパー体3の外部とが連通することが無いようになっている。当該帯状ゴム26は、靴外側に露出した部分の幅は約20mmで、通常の作業靴の当該部分の幅が約10mmであるのに比べ幅広に設けられている。このため、当該帯状ゴム26と袋状部分24の接着面積が広くなり洗浄やオートクレーブ滅菌処理による剥離が起こりにくくなっているとともに、保形性がより高められている。
また、図9に示すように、内側に折り曲げられた袋状部分24下端の踵側部分に、切欠部27を形成しても良い。当該切欠部27は、靴底2に形成した凹部22の近傍に位置するように設けられるものであり、凹部22付近に導かれた水等を中底17部分を介して排出させようとする際に設けられるものである。なお、靴底2内からアッパー体3内部への排水を効率良く行わせるために、中底17若しくは中底17および後述するゴムシート18に複数の小孔(図示せず)を穿設しても構わない。
【0021】
図11は、アッパー体3と靴底2の接着工程を簡略的に表した説明図である。接着の際には、袋状部分24内に押し型K1が挿入されるとともに支持台K2に靴底2が載置され、押し型K1と支持台K2を近接させることで、両者を密着させるようになっている。この押し型K1と支持台K2の近接は、接着剤が接着面に対して有効に付着するように、強い力で行われることが望ましい。しかし、極端に強い力をかけた場合には、靴底2の上面が左右に開くように変形してしまう。
本実施の形態における靴底2は、当該左右への変形をできるだけ最小限に止めるために、内部に設けた凸体11をリブ状に形成し、左右の凸体11を中央付近で互い違いになるように配置し、左右方向への変形に対する剛性を高めている。
【0022】
靴底2との接着が終了した袋状部分24の内部には、底面に中物と称されるゴムシート18を貼り付けたクッション性のある中底17が接着剤を用いて貼り付けられる。この際、ゴムシート18は、凸体11の靴底2の中心線に沿った所定幅の領域の上面に接着されることになる。この靴底2の凸体11とゴムシート18との接着によって、歩行時の加重が靴底2に作用した場合であっても、靴底2上面が左右に開くのを防止し、かつ凸体11の上下方向への弾性変形を行わせることができるようになっている。また、ゴムシート18の外周縁と、内側に折り曲げられた袋状部分24の下端縁との間には、若干の隙間19(図13参照)が形成されており、靴底2とアッパー体3内部との間では、僅かながら通気性、通水性を有するようになっている。なお、より積極的に通水性を持たせる場合には
、中底17若しくは中底17およびゴムシート18に通水・通気用の孔を設けてもよい。
【0023】
前記ゴムシート18は、図12に示すように上面に中底17が貼り付けられた後、当該中底とともに袋状部分24内部の底部分に貼り付けられる。中底17は、クッション性を良くするために設けられたもので、通気性のある連続気泡の発泡素材を主体とした肉厚の板状体表面に綿繊維若しくは綿とポリエステルの混紡繊維により形成された吸湿性の表皮層が貼り付けられ、裏面に寒冷紗が貼り付けられたものである。吸湿性の表皮層と通気性のある発泡素材により靴内部が蒸れにくくなっている。
【0024】
図20は、アッパー体3と靴底2の前記の接着工程とは異なる他の接着工程を簡略的に表した説明図である。以下に、アッパー体3と靴底2の接着について他の工程を説明する。
アッパー体3の形成の手順としては、まず、木型K3の下面に中底17を仮付けする。次に、中底17の開放面(木型に仮付けした面と反対側の面)に、中底17の外周を覆うようにして袋状部分24を貼り付ける。このとき、袋状部分24を、中底17の開放面が袋状部分24によって完全に覆われることなく一部が露出するように貼り付ける。次に袋状部分24の爪先付近に保護カバー25を接着剤により貼着し、さらに外周に帯状ゴム26を接着剤によって貼着してアッパー体を形成する。その後、中底17の開放面の露出部分に、ゴムシート18を貼り付ける。
以上のように中底17とゴムシート18を貼着したアッパー体3は、靴底2の上部に対して位置決めされた後、当該靴底2とともに支持台K2の上に載置され、木型K3の上面に当接する押し型K4に対し、支持台K2を上方へ近接させることで、両者を密着させるようになっている。この際、ゴムシート18は、凸体11の靴底2の中心線に沿った所定幅の領域の上面に接着されることになる。上記押し型K4と支持台K2の近接は、接着剤が接着面に対して有効に付着するように、強い力で行われることが望ましい。しかし、極端に強い力をかけた場合には、靴底2の上面が左右に開くように変形してしまう。
本実施の形態における靴底2は、当該左右への変形をできるだけ最小限に止めるために、内部に設けた凸体11をリブ状に形成し、左右の凸体11を中央付近で互い違いになるように配置し、左右方向への変形に対する剛性を高めている。
【0025】
靴底2と、中底17およびゴムシート18を貼着したアッパー体3の接着によって、ゴムシート18は、凸体11の靴底2の中心線に沿った所定幅の領域の上面に接着されることになる。この靴底2の凸体11とゴムシート18との接着によって、歩行時の加重が靴底2に作用した場合であっても、靴底2上面が左右に開くのを防止し、かつ凸体11の上下方向への弾性変形を行わせることができるようになっている。また、ゴムシート18の外周縁と、内側に折り曲げられた袋状部分24の下端縁との間には、若干の隙間19(図13参照)が形成されており、靴底2とアッパー体3内部との間では、僅かながら通気性、通水性を有するようになっている。なお、図13では前記隙間19を視認しやすくするため、中底17の図示を省略している。
【0026】
中底17は、クッション性を良くするために設けられたもので、通気性のある連続気泡の発泡素材を主体とした肉厚の板状体の表面に綿繊維若しくは綿とポリエステルの混紡繊維により形成された吸湿性のある表皮層が貼り付けられ、裏面に寒冷紗が貼り付けられたものである。吸湿性の表皮層と通気性のある発泡素材により靴内部が蒸れにくくなっている。
【0027】
本実施の形態に係る靴1は無菌室やクリーンルームでの使用を考慮して形成されたものである。無菌室等では、靴自体がウイルスや菌を保持したり、菌や塵を放出することは許されない。このために、靴1は、使用の都度、当該使用後に洗浄とオートクレーブ滅菌と称される高温・高圧蒸気による滅菌処理が行われる。
洗浄とは、一例として、円筒状の洗濯槽内で水流を回転させる一般的な構造の洗濯機を利用し、洗濯槽内で洗浄液によって洗浄した後に水でゆすぎ、回転による遠心力によって脱水するというものである。
当該洗浄の後、靴はオートクレーブ滅菌と称される摂氏約120度(当該温度は、飽和蒸気の環境下でウイルスや菌が死滅するとされている温度であり、使用するオートクレーブ装置によっては摂氏約130度程度まで加熱する場合もある。)の高温と約0.2MPa程度(圧力は温度との関係で変動する)の高圧を発生させる蒸気槽内に投入され滅菌処理が行われる。そして、当該滅菌処理の後に、温風等による乾燥処理が行われる。
【0028】
前記乾燥工程は、靴底内に残留している水が少ないほど乾燥時間が短くなる。本実施の形態に係る靴の場合には、当該靴底内に残留している水を排出する方法として2通りの方法がある。
第1に、靴底2の踵部に形成した薄壁部21を切り取らず残している場合、踵側を下にして靴底2を立てた状態に保持することにより、靴底2内の水が途中で止まることなく踵側に移動させることができ、大半の水を前記アッパー体3とゴムシート18との隙間19を介して排出させることができる。靴底2内から排出された水は熱風と直接接触することができるので、乾燥が促進される。また、アッパー体3内部において、前方(爪先付近)もしくは後方(踵付近)に、アッパー体3内部から靴底2の小空間15に貫通する貫通孔(図示せず)を設けることにより、靴底2内の水の排水をさらに促進させることができる。このとき、貫通孔を前方と後方の双方に設けることにより、一方の貫通孔が排水、他方の貫通孔が吸気の役割をなし、さらに排水が促進される。
第2に、靴底2の踵部に形成した薄壁部21を切り取った場合、踵側を下にして靴底2を立てた状態に保持することにより、薄壁部21を切り取らない場合に比べて、さらに多くの水を排出することができる。この場合、アッパー体3内に排出される水は少なくなるので、さらに乾燥速度を早くすることができる。また、上記薄壁部21を切り取らず残している場合と同様に、アッパー体3内部から靴底2の小空間15に貫通する貫通孔(図示せず)を設けることにより、靴底2内の水の排水をさらに促進することができる。
なお、上記何れの場合であっても、遠心式脱水機によって回転させたり、手に持って振ることで単に立てかけた場合よりも排水の効率を良くすることができる。
【0029】
次に、図14を用いて、本願発明に係る靴底の他の実施の形態について説明する。図14において30は靴底を表している。当該靴底30には、外周壁31によって囲まれた靴底内部に、複数の凸体32が設けられている。前述した靴底2と当該靴底30との相違点は、凸体32の形状および配置のみであり、他の点については同一である。当該同一の点については、説明を省略する。
凸体32は、外周壁31から中心線CL2に向かって、やや後方に傾斜して配置された複数のリブ状の壁33と、当該壁33から後方に向かって短く伸びた複数の突出壁34を有した形状に形成されている。そして、中心線CL2に沿った中央の領域は、先端から後端にかけて連通した通路となっている。
当該靴底30も靴底2と同様に、踵側を下に向けた際に、途中で水が止まることなく下端まで流れるようになっているものである。
【0030】
次に、アッパー体3を形成する複合シートについて説明する。図15および図16は、本願発明に係る靴に使用する複合シート40の説明図である。図15は、当該複合シート40の断面図であって、説明のために縮尺を拡大して表したものである。図16は、当該複合シート40表面の一部を表したものである。
複合シート40は、ポリエステル繊維による織物として形成された表層シート41と、ポリエステル繊維と綿の混紡繊維若しくは綿繊維により織物若しくは編み物として形成された内層シート42を有している。当該表層シート41と内層シート42は、接着剤によって貼り合わされている。図中43は、接着剤による接着層を表している。図15および
図16に示すように、表層シート41と内層シート42は、全面が接着されているのではなく、斜め格子状に塗布した接着剤によって接着剤層43と未接着部44が設けられるようになっている。
【0031】
表層シート41は、繊度80〜90dtxの線径の細い繊維により密に織られたものであり、0.3μmの塵の捕集効率が約70%で、ホコリや菌等の通過を許容しないように
なっている。しかし、400g/cm/hrの透湿度で水蒸気を透過することができる。しかし、全面に接着剤層43を形成すると、水蒸気の透過を許容しなくなってしまうため、部分的な接着部を設け、水蒸気の透過を可能としている。
また、内層シート42は、履き心地の向上に重要な役割を果たす要素である。内層シート42は、天然繊維を含んでいるので、ある程度の水分を繊維間に保持できる性質を有しており、蒸れによって靴内部に水滴が発生するのを低減させるとともに、靴内の水分を前記表層シート41に受け渡す作用を有している。
【0032】
図17および図18は、複合シートの他の例を表している。表層シートと内層シートは前述の物と同じであるが、図17においては接着剤の塗布位置を格子状ではなく点在させた点が、図18においては接着剤を縦縞状に塗布させた点が異なっている。45および48は、接着部位を表している。図17に示した複合シート46および図18に示した複合シート47も、全面に接着剤層を設けるのではなく、未接着領域を形成することで、接着剤による水分の透過を妨げることなく、水分を透過させることができるようになっているものである。
【0033】
また、前記複合シート40、46、47は、ともに天然繊維を含んでいるため、オートクレーブ処理によって水蒸気のある状態で加熱・加圧したところ、繊維が有している色素が表層シート41との間ににじみ出てしまう現象が生じた。すなわち、白色の表層シート41にうす茶色のしみが発生した。
当該現象を回避する手段として、本実施の形態においては天然繊維を含んでいる内層シートに漂白処理(晒し)を行っている。当該漂白処理の結果、しみの発生は無くなった。なお、当該漂白処理は、生地を形成した後に行っても、生地を形成する前の糸の段階で行っても構わない。
【0034】
また、前述した靴は、丈の短い靴を例として説明したが、アッパー体の上部に足のふくらはぎ部分までを包むスパッツ状のフードを設けてもよい。当該フードは、靴内で発生する塵等の外部への放出を防止するものであり、前述したアッパー体の表層シートと同様に、目の細かいポリエステル繊維によって織られたものである。
【0035】
なお、以上に述べた実施の形態においては、表層シート41およびフードの素材としてポリエステル繊維を用いているが、耐熱および耐加水分解性を有し発塵性のない化学繊維であれば、ポリエステル繊維に限らず、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などを用いることもできる。
【0036】
以上説明した本願発明に係る靴および靴底は、次に説明する作用を有するものである。
第1に、履き心地がよく、疲れにくい靴であるということである。従来の無菌室用の靴は、靴底内部への菌の進入を防止するという観点から、内部に空間の無い中実の靴底を使用するものがほとんどであった。したがって、靴底自体にはクッション性がほとんど無く、硬い床面で作業を行う人間にとっては膝や腰に負担がかかるものであり、非常に疲れる靴であった。しかし、本願発明に係る靴は、内部に弾性変形しやすいリブ状の凸体を複数設けたものであるから、当該リブ状の凸体が適度に変形して歩行時の衝撃を吸収し、作業者の負担を軽減させることができるというものである。また、内部に設けた空間の容積に比例して、中実のものよりも靴底を軽量化することができるものである。
第2に、靴底内に空間を形成したにもかかわらず、洗浄時およびオートクレーブ時に入った水が排水されやすいようになっている。これにより、本願発明に係る構造を有していない、図19に示したような内部に空間を有する従来例のような靴底と比較して、乾燥時間を短くすることができるものである。
【0037】
第3に、前記複合シート(アッパー体用シート)を用いてアッパー体を構成することにより、靴内部における蒸れを軽減することができるという作用を有している。すなわち、総ゴム製であった従来の靴の場合には、足から発生した汗等が発散されず、内壁表面に結露して靴内部をぬらしてしまっていたが、複合シートは内層が汗を吸収して表層が汗を発散させる作用を有しているので、靴内部における蒸れを防止若しくは軽減することができるようになっている。
また、アッパー体を構成する天然繊維を含んだシートを予め晒し(漂白)処理することにより、洗濯やオートクレーブ時に生じるしみの発生を回避することができるという作用を有している。しみが生じると不潔に見えるため、実際には清潔であっても清潔であるか否かの判断がつきにくくなり、無菌室やクリーンルームでの使用はできなくなってしまう。本願発明では、晒し処理をしたシートを使用することにより当該問題を解決している。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本願発明に係るアッパー体用シートおよび当該アッパー体用シートを用いた靴は、無菌室やクリーンルームでの使用に適した靴に利用可能な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本願発明に係る靴の側面図である。
【図2】本願発明に係る靴の背面図である。
【図3】図2に示した靴のA−A’線断面図
【図4】図3に示した靴のB−B’線断面図
【図5】本願発明に係る靴底単体の平面(上面)図である。
【図6】本願発明に係る靴底単体の底面(裏面)図である。
【図7】本願発明の他の例に係る靴の断面図である。
【図8】アッパー体要部の側面側からみた中央断面図である。
【図9】アッパー体要部の上面側からみた要部断面図(図8のC−C’線断面図)
【図10】アッパー体要部の背面側からみた要部断面図である。
【図11】アッパー体と靴底の接着工程を簡略的に表した説明図である。
【図12】アッパー体の中底の装着状態を表す説明図である。
【図13】袋状部分とゴムシートの装着状態の説明図(図12のE−E’線断面図)である。
【図14】靴底の他の実施例を表す平面図である。
【図15】アッパー体を構成する複合シートの拡大断面図である。
【図16】アッパー体を構成する複合シートの一部側面図である。
【図17】アッパー体を構成する他の複合シートの一部側面図である。
【図18】アッパー体を構成する他の複合シートの一部断面図である。
【図19】従来の靴底の平面図である。
【図20】アッパー体と靴底との他の接着工程を簡略的に表した説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 靴
2 靴底
3 アッパー体
4 ブロック(接触体)
7 接地面
8 底板
9 サポート
10 外周壁
11 凸体
12 幅広部
13 突出部
14 小空間
17 中底
18 ゴムシート
19 隙間
20 通路
21 薄壁部
22 凹部
23 開口
24 袋状部分
25 保護カバー
26 帯状ゴム
27 切欠部
40 複合シート
41 表層シート
42 内層シート
43 接着剤層
44 未接着部
45 接着部位
46 複合シート
47 複合シート
48 接着部位



【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底の上面に接着固定される靴のアッパー体に用いるシートであって、
当該シートは、耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層との貼り合わせによって形成されていることを特徴とする靴のアッパー体用シート。
【請求項2】
靴底の上面に接着固定される靴のアッパー体に用いるシートであって、
当該シートは、耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層との貼り合わせによって形成されており、
前記天然繊維による編み物若しくは織物によるシートは、予め漂白処理を行った繊維によって形成若しくはシート形成後に漂白処理が行われていることを特徴とする靴のアッパー体用シート。
【請求項3】
前記化学繊維により形成した表層と天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成した内層を構成する各シートは、両シートを接着した接着部と両シートを接着しない未接着部を有するように貼り合わされていることを特徴とする請求項1又は2記載の靴のアッパー体用シート。
【請求項4】
耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層とを貼り合わせて形成したシートによって足入れ部となるアッパー体を構成し、
当該アッパー体を靴底の上面に設けたことを特徴とする靴。
【請求項5】
耐熱および耐加水分解性を有するポリエステル等の発塵性のない化学繊維により形成した織物シートによる表層と、予め漂白処理を行った繊維によって形成若しくはシート形成後に漂白処理を行った綿等の天然繊維若しくは当該天然繊維と化学繊維との混紡繊維により形成された編み物若しくは織物シートによる内層との貼り合わせによって形成したシートによって足入れ部となるアッパー体を構成するとともに、
当該アッパー体を靴底上面に設けたことを特徴とする靴。
【請求項6】
前記化学繊維により形成した表層と天然繊維若しくは混紡繊維により形成した内層を構成する各シートは、両シートを接着した接着部と両シートを接着しない未接着部を設けるように貼り合わされていることを特徴とする請求項4又は5記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−117312(P2007−117312A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311957(P2005−311957)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】