説明

靴の中底及び靴の製造方法

【課題】本発明は、タックスの抜き取り作業や両面粘着テープを中底ごとに貼り付ける作業が不要になり、靴を製造する際の作業性が向上する靴の中底と靴の製造方法とを提供する。
【解決手段】ボード材2のおもて面に、帯状の両面粘着テープ7を一端から他端まで連続した状態で貼り付けて、同両面粘着テープ7が靴幅方向に設けられた状態になるように、ボード材2を型抜きして形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴の中底と同中底を用いた靴の製造方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
靴の製造工程において、甲皮を靴型(ラストとも言う)に馴染ませる吊り込みと呼ばれる工程がある。この工程では、天然皮革やレザーボード又はパルプボードなどの剛性を有する材料で形成された中底を、木製や硬質樹脂製のラストの裏面にタックスと呼ばれる釘で固定し、この中底を固定したラストに甲皮を被せ、甲皮の下縁部を中底裏面に巻き込むようにして引張り、甲皮をラストに馴染ませる。そして、甲皮の下縁部を中底裏面の周縁部に接着する。
【0003】
この吊り込み工程のあとは底付け工程に入り、甲皮の中底裏面の周縁部に接着した部分をバフがけし、接着剤を塗布して靴底を圧着する。
【0004】
吊り込み工程において、中底の固定に用いたタックスは、そのまま残しておくと先端部が中底や中敷を貫通して靴内に突出し、靴を履いたときに足の裏を怪我するおそれがあるため、吊り込み作業が終了すれば抜き取られるようになっている。
【0005】
しかしながら、抜き忘れる場合があるため、一品ずつ検査しタックスが間違いなく抜き取られているかどうかのチェックが行われている。この検査は、中敷のおもて面を手で触る触診によって行われる場合もあるが、特に、大手の卸売り業者や小売業者等は、上記のような商品の欠陥による事故が起これば、商品のリコールや被害者への損害賠償等によって甚大な損害が生じる可能性があることから、レントゲンなどによる検査を義務付けているところもある。
【0006】
しかし、触診ではヒューマンエラーによって検査漏れが起こる可能性があり、一方、レントゲンなどによる検査では、検査用機器が高価であるうえに、検査用機器を設置するスペースの問題や検査にかかる人件費の問題等があり、専門業者に委託して検査を行っている。すると、割安になるとはいえ検査費用がかかり、また、商品を専門業者に送って検査し、検査済みの商品を一旦引き取ったのちに卸売り業者や小売業者に納入するので、専門業者との間で商品を往復させる輸送コストがかかる。さらに、検査や検査のための商品の輸送などにより、商品を納品するまでに時間がかかってしまう。
【0007】
そこで、タックスの代わりに、上記検査を必要としない両面粘着テープを用いて中底をラストに固定する靴の製造法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。即ち、特許文献1の実施例によれば、中底のラストへの取付け面に、ラストに対して剥離可能な楕円形の両面粘着テープを貼り付け、この両面粘着テープによって中底をラストに固定して、甲皮の吊り込み作業を行っている。
【特許文献1】特開平08−112106号公報(第3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように楕円形の両面粘着テープを貼り付ける場合、中底ごとに貼り付ける必要があるため、特に、靴が量産品の場合には多くの手間と時間とを要する。
【0009】
そこで本発明は、タックスの抜き取り作業や両面粘着テープを中底ごとに貼り付ける作業が不要になり、靴を製造する際の作業性が向上する靴の中底と靴の製造方法とを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の靴の中底は、つま先部と踏み付け部及び土踏まず部と踵部とからなる靴の中底であって、ボード材のおもて面に、帯状の両面粘着テープを一端から他端まで連続した状態で貼り付けて、同両面粘着テープが靴幅方向に設けられた状態になるように、前記ボード材を型抜きして形成することを特徴としている。
【0011】
この請求項1の靴の中底によれば、前記ボード材を型抜きすることによって、前記両面粘着テープが貼り付けられた前記中底を形成することができ、前記中底ごとに前記両面粘着テープを貼り付ける手間や時間を省くことができる。しかも、前記両面粘着テープは靴長方向ではなく靴幅方向に設けられているため、粘着力が大きくなりすぎず、前記中底と靴型とを剥離しやすい。また、吊り込みを行う際、前記中底を前記両面粘着テープで靴型に固定することができるため、タックスを抜き取る手間が不要になり、タックスの抜き忘れによる事故もなくすことができる。
【0012】
請求項2記載の靴の中底は、両面粘着テープが、踏み付け部に貼り付けられた状態にすることを特徴としている。この請求項2の靴の中底によれば、前記両面粘着テープを、従来タックスを打ち込んでいた前記踏み付け部に設けることにより、吊り込み作業が安定して行え、且つ、靴型を靴から抜き取りやすい状態で前記中底を前記靴型に固定することができる。
【0013】
請求項3記載の靴の中底は、両面粘着テープが貼り付けられている部分の剛性が低い程、前記両面粘着テープの幅を狭くすることを特徴としている。この請求項3の靴の中底によれば、前記両面粘着テープの幅を狭くすることによって粘着力を弱くすることができるので、前記両面粘着テープが貼り付けられている部分の剛性が低くても、前記中底と靴型とが剥がしやすくなる。
【0014】
請求項4記載の靴の製造方法は、上記請求項1〜3のいずれかに記載の中底を、前記両面粘着テープで靴型の底面に貼り付け、前記靴型に甲皮を被せて吊り込みを行ったのちに、前記中底の裏面に靴底を固着し、そのあと前記靴型を前記両面粘着テープを剥がして靴内から抜き取り、前記中底のおもて面に中敷を取り付けることを特徴としている。
【0015】
この請求項4の靴の製造方法によれば、前記両面粘着テープを前記中底ごとに貼り付ける手間が不要になり、製造工程を簡略化することができる。しかも、前記中底と前記靴型とを剥離しやすいため、前記靴型を靴から抜き取りやすく作業性が良い。また、前記中底を前記両面粘着テープで前記靴型に貼り付けて吊り込みを行うことができるため、タックスを抜き取る手間が省け、且つ、タックスの抜き忘れによる事故が発生しない靴を製造することができる。
【0016】
請求項5の靴の製造方法は、中底の両面粘着テープが貼り付けられる部分の剛性に応じて、前記両面粘着テープの幅を変更することを特徴としている。この請求項5の靴の製造方法によれば、前記中底の前記両面粘着テープが貼り付けられる部分の剛性が低い程、前記両面粘着テープの幅を狭くして粘着力を弱くすることによって、前記中底と前記靴型とが剥離しやすくなり、前記靴型を靴から抜き取る作業が簡単になる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の靴の中底は、両面粘着テープを中底ごとに貼り付ける手間を省き、且つ、中底と靴型とを剥離しやすく靴型を靴から簡単に抜き取ることができるため、靴の生産性が向上し、また、タックスを使用せずに中底を靴型に固定することができるため、検査費用を省くことができ、靴の生産や品質管理にかかるコストを抑えることができる。そして、タックスを使わなくて済むため、タックスの抜き忘れによる事故をなくすことができる。
【0018】
請求項2の靴の中底は、吊り込みを安定して行うことができ、且つ、靴型を靴から容易に抜き取ることができるため、作業性が向上する。
【0019】
請求項3の靴の中底は、両面粘着テープが貼り付けられている部分の剛性によらず、靴型を靴から簡単に抜き取ることができ、作業性が良くなる。
【0020】
請求項4の靴の製造方法は、作業性が良く、且つ、タックスを使用しないため、低コストで安全な靴の製造が可能になる。
【0021】
請求項5の靴の製造方法は、中底の両面粘着テープが貼り付けられている部分の剛性が低い場合であっても、作業性が低下することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る中底及び靴の製造方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0023】
本実施形態の中底1は、図1〜3に示すように、パルプのボード材2を靴の形状に型抜きすることにより形成されている。
【0024】
このボード材2は、図2(a),(b)に示すように、厚み1.5mmの矩形状のボード片3と、剛性を有する厚み3.0mmの矩形状のボード片4(バッカーボードとも呼ばれる)とを、長辺側の端部を3.0mmのボード片4が上になるように重ね合わせて接着し一枚にしたものである。各ボード片3,4の接着面は、互いに逆勾配となるように斜めにカットした状態で接着され、接着部2aの厚みが厚くなることを防いでいる。また、1.5mmのボード片3のおもて面には、3.0mmのボード片4との間に所定の間隔をあけ且つボード材2の長手方向と平行に、帯状の厚み1.0mmの補強用ボード片5が接着されている。さらに、ボード材2のおもて面には、1.5mmのボード片3上であって1.0mmのボード片5寄りに、長手方向の一端から他端まで連続した状態で幅10.0mmの両面粘着テープ7が貼着されている。一方、ボード材2の裏面には、吊り込みの際に甲皮と中底1の裏面との接着性を良くするため、目の粗い布材6が貼着されている(*内容が正しいかどうか確認ください)。
【0025】
このボード材2を、1.0mmのボード片5で補強されている部分がつま先部1aに対応し、3.0mmのボード片4が土踏まず部1c及び踵部1dに対応するように、靴の形状に型抜きすることで、両面粘着テープ7が踏み付け部1bに貼り付けられている中底1を形成することができる(図3)。このように、型抜きされた中底1には、両面粘着テープ7が貼り付けられた状態になっているため、中底1ごとに両面粘着テープ7を貼る手間を要しない。
【0026】
形成された中底1は、つま先部1a及び踏み付け部1bに、複数の通気孔1eが穿設され、土踏まず部1cには踵部1dの高さが高くなるように傾斜が付けられるとともに、踵部1dは足の納まりを良くするため、中央部がやや窪んだ形状にくせ付けされている。そして、土踏まず部1cから踵部1dにかけての裏面には、鋼製のシャンク8が取り付けられている(図1(a),(b))。シャンク8は靴長方向に細長く、踵側の端部が二股になった形状を有し、長手方向中間部には靴幅方向に沿った断面形状を略弓型にして突出部8aを設けることによって補強され、カシメ金具9によって中底1に固定されている。
【0027】
この中底1は、踏み付け部2bがその他の部分よりも剛性が低く、歩行時の足の動きに合わせて屈曲しやすくなっている。また、つま先部2aは1.0mmのボード片6で補強されているため蹴り出しが安定し、土踏まず部2c及び踵部2dは剛性を有する3.0mmのボード片4で形成され、さらに、シャンク9で補強されているため、足裏からかかる荷重をしっかりと支えることができ、安定した歩行を行うことができる。
【0028】
なお、中底1は、ボード材2のように複数種類のボード片を組み合わせたものを型抜きして形成する場合の他、一種類のボード材を型抜きして形成する場合もある。また、材質は、レザーやパルプなどが用いられる。
【0029】
次に、この中底1を用いた婦人靴11の製造方法を図4に基づいて説明する。
【0030】
中底1の両面粘着テープ7の台紙を剥がし、靴型10(以下、ラストとも言う)の底面に貼り付ける。このラスト10に甲皮12を被せ、下縁部を中底1の裏面に巻き込むように引張りながら甲皮12をラスト10になじませるとともに、下縁部を中底1の裏面に接着する。この際に、中底1は、踏み付け部1bに貼り付けられている両面粘着テープ7によって、ラスト10にしっかりと固定されているため、安定した吊り込み作業を行うことができる。また、中底1の裏面には布材6(図1(b))を貼着しているため、中底1と甲皮12とを強固に固定することができる。
【0031】
そして、中底1の裏面に接着した甲皮12の下縁部の表面をバフがけし、接着剤を塗布して靴底13を圧着するとともに、ヒール14を取り付ける。靴底13及びヒール14の取り付け作業が終了すれば、ラスト10を靴11から抜き取る。この際、中底1は踏み付け部1bの一箇所で両面粘着テープ7によってラスト10に取り付けられているため、簡単に抜き取ることができる。しかも、ラスト10を抜き取ったあとは、中敷15を入れて中底1の上面を覆ってしまうため、中底1に貼り付いている両面粘着テープ7を剥がす手間を要しない。この中敷15と中底1との間には、足の土踏まずを支持するためのアーチクッション16を配置して、履き心地を良くしている。
【0032】
このように製造された靴11は、吊り込み作業の際、タックスなどの釘類を使用しないため、タックスを抜き取る作業や抜き忘れをチェックする検査が不要になるとともに、抜き忘れによる事故もなくすことができる。また、両面粘着テープ7を中底1ごとに貼り付ける作業が不要で、且つ、吊り込みや靴型10の抜き取り等の作業性も良いため、生産性に優れている。したがって、検査機器や検査を行う作業者の人権費などを削減できるとともに、効率良く生産することができるため、コストを抑えることができる。
【0033】
また、両面粘着テープ7は、中底1に貼り付けられている部分の剛性に応じて、両面粘着テープ7の幅を変更することにより、作業性を向上させることができる。つまり、前記部分の剛性が低い程、両面粘着テープ7の幅を狭くして粘着力を弱くすることによって、中底1と靴型10とを剥離しやすくし、作業性を向上させることができる。
【0034】
上記の実施形態では、婦人靴11を例にあげて説明しているが、紳士靴にも適応可能であり、また、靴底は別体のヒールを備えたものであっても、ヒールを一体に備えたものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)本発明に係る中底を示す斜視図。(b)本発明に係る中底を示す底面図。(c)図(b)におけるA−A矢視断面図。
【図2】(a)本発明に係る中底を形成するボード材の斜視図。(b)図(a)に示したボード材の長手方向から見た側面図。
【図3】図2(a)に示したボード材から、本発明に係る中底を型抜きする様子を示した平面図。
【図4】本発明に係る靴の製造方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0036】
1 中底
1a つま先部
1b 踏み付け部
1c 土踏まず部
1d 踵部
2 ボード材
7 両面粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
つま先部と踏み付け部及び土踏まず部と踵部とからなる靴の中底であって、
ボード材のおもて面に、帯状の両面粘着テープを一端から他端まで連続した状態で貼り付けて、同両面粘着テープが靴幅方向に貼り付けられた状態になるように、前記ボード材を型抜きして形成されたことを特徴とする靴の中底。
【請求項2】
前記両面粘着テープが、前記踏み付け部に貼り付けられていることを特徴とする請求項1記載の靴の中底。
【請求項3】
前記両面粘着テープが貼り付けられている部分の剛性が低い程、前記両面粘着テープの幅が狭くなっていることを特徴とする請求項1又は2記載の靴の製造方法。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれかに記載の中底を、前記両面粘着テープで靴型の底面に取り付け、前記靴型に甲皮を被せて吊り込みを行ったのちに、前記中底の裏面に靴底を固着して、そのあと前記靴型を前記両面粘着テープを剥がして靴内から抜き取り、前記中底のおもて面に中敷を取り付けることを特徴とする靴の製造方法。
【請求項5】
前記中底の前記両面粘着テープが貼り付けられる部分の剛性に応じて、前記両面粘着テープの幅を変更することを特徴とする請求項4記載の靴の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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