説明

靴及び靴の製造方法

【課題】紐付き靴と同等の外観を有し、脱ぎ履きが容易で、かつ履いている間は常に適度な大きさの締付力を足に付与すること。
【解決手段】靴10を、靴10の前方に配置される爪先革20と、爪先革20の上部後縁に設けられたベロ24と、爪先革20の左右側方に設けられた腰革22と、腰革22の前方上部に設けられ、靴紐12を通す紐孔42を有する左右一対の羽根14と、腰革22の前部上縁とベロ24の側縁との間であって、羽根14の下側に設けられた、伸縮性を有する弾性部材26と、紐孔42に通された、長手方向に伸縮性を有する靴紐12と、を備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴紐と、伸縮自在な弾性部材とを備えた履き脱ぎが容易な靴及び靴の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビジネス用の紳士靴では、革製で、紐を用いて靴の甲部分を締める形式の靴が広く一般的に知られている。特にフォーマルな席やビジネス等においては、紐なし靴より紐有りの靴の方がふさわしい靴であると思われている。又、靴の甲部分にゴムを用いて脱ぎ履きを容易にした、紐なしの靴も知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、紐有りの靴は、靴を履いたり脱ぐたびに靴紐を結んだり、ほどいたりする必要が生じる。特に、ほこりを嫌う室内へは履物を代えて入室することがあり、入室のたびに靴紐を解いたり締めたりして靴を脱ぎ履きするのは仕事中に面倒となることがある。
【0005】
又、靴紐の締め加減が緩いと脱げるような感じが生じ、歩き方もだらしなくなるおそれがあり、一方、靴紐をきつく締めすぎると窮屈な感じがし、歩きにくくもなる。良好な履き心地を得るには、靴紐の締め加減を毎回適切に調整する必要が生じる。
【0006】
又、靴紐がなく、靴の上部や側面に弾性部材を用いて、脱ぎ履きを容易にした靴では、十分な締め付けが得られない場合には、履いている途中で、脱げてしまうおそれがある。更に、紐なしで、伸縮自在の弾性部材が表面に露出した靴は、見た目の上でビジネスの雰囲気にそぐわないとも考えられる。
【0007】
本発明は、紐付き靴と同等の外観を有し、脱ぎ履きが容易で、かつ履いている間は常に適度な大きさの締付力を足に付与することができる靴及び靴の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる靴及び靴の製造方法は、次のように構成されている。すなわち、靴を、靴の前方に配置される爪先革と、爪先革の上部後縁に設けられたベロと、爪先革の左右側方に設けられた腰革と、腰革の前方上部に設けられ、靴紐を通す紐孔を有する左右一対の羽根と、ベロの側縁と腰革の前部上縁との間であって、羽根の下側に設けられた、伸縮性を有する弾性部材と、紐孔に通された、長手方向に伸縮性を有する靴紐と、を備えて構成した。
【0009】
又、靴の製造方法を、靴の前方に配置される爪先革の上部後縁にベロを有し、かつ爪先革の左右側方に腰革を有するアッパーを形成する第1工程と、ベロの側縁と腰革の前部上縁との間に形成された切欠き部に、切欠き部の裏側から弾性部材を仮止めする第2工程と、靴紐を通す紐孔を設け、かつ下縁に切込み部を形成し、下縁に沿って切込み部の後方に第1基端部が、又切込み部の前方に第2基端部が設けられた羽根を形成する第3工程と、
羽根の第1基端部を、腰革と弾性部材との間に差し入れるとともに第2基端部を腰革の外方に配置し、かつライニングをアッパーの内側に配置する第4工程と、切欠き部に沿って腰革と羽根の第1基端部と弾性部材とライニングとを縫い付ける第5工程と、羽根を、第1基端部の縫付部を折り返し線として下方に折り返し、第5工程の縫付け作業に連続させて切欠き部に沿ってベロと弾性部材とライニングとを縫い付ける第6工程と、羽根の折り返しを戻し、羽根の第2基端部を爪先革や腰革に縫い付ける第7工程と、紐孔に、長手方向に伸縮する靴紐を通す第8工程と、を備えて構成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紐付き靴と同等の外観を有し、脱ぎ履きが容易で、かつ履いている間は常に適度な大きさの締付力を足に付与することできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる靴を示す斜視図である。
【図2】同靴を示す平面図である。
【図3】同靴のアッパーを示す斜視図である。(第1、及び2工程)
【図4】同靴のアッパーとライニングを示す斜視図である。(第3工程)
【図5】同靴のアッパーを示す斜視図である。(第4、及び第5工程)
【図6】同靴のアッパーを示す斜視図である。(第6工程)
【図7】同靴のアッパーを示す斜視図である。(第7工程)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態にかかる靴10について図を用いて説明する。図1は、靴紐12を締めた状態の靴10の左片方を示す斜視図、図2は、羽根14を開いた状態を示す靴10の平面図である。以下、靴10について、靴10の爪先側を前方、踵側を後方とし、その前後方向を基準に左右を定め、靴の内部から底に向かう方向を下方、その逆を上方として説明する。更に、靴10の外表面から内部に向かう方向を内側、その逆を外側という。又、図1には、靴10の左のみを示すが、靴10の右は、左と基本的に左右対称であるので説明は省略する。
【0013】
図1に示すように、靴10は、紳士用の革製靴で、アッパー16と底部18を備えている。アッパー16は、羽根14と、爪先革20と、腰革22と、ベロ24を備え、内部にライニング50が取り付けられている。底部18は、底板19と踵部21を備え、アッパー16の下部に取り付けられている。
【0014】
爪先革20は、靴10の前方に設けられ、爪先革20の後部左右両側に腰革22が縫い付けてある。又、爪先革20の後部中央部分には、図2に示すようにベロ24が縫い付けてある。
【0015】
羽根14は、図2に示すように紐孔42が4箇所に設けてあり、羽根14の下縁が爪先革20の後部及び腰革22の前方上部に縫い付けてある。羽根14は、靴10の甲部分28の左右に、一対設けられている。紐孔42には、靴紐12が通してあり、図1に示すように左右の羽根14を結びつけている。尚、紐孔42の数は4に限るものではない。靴紐12は、通常の靴紐の外観を有するとともに、内部にゴム紐が編みこまれており、長手方向に適度な力で伸張し、又、所定の力で収縮して元の状態に復元する弾性を有している。
【0016】
ベロ24と腰革22との間には、切欠き部40(図3参照。)が形成してあり、その間に図2に示すように弾性部材26が縫い付けてある。弾性部材26は、平板状で、内部にゴム部材が編み込まれた部材で、適度な力で面に沿って伸張し、又、所定の力で収縮して元の状態に復元する弾性を備えている。羽根14は、弾性部材26の上面を覆うように設けられている。弾性部材26は、靴10内に足を入れたとき、適度に伸張され、足に適度な締め付け力を付与する大きさに形成されている。
【0017】
又、羽根14の紐孔42に通し締結されている靴紐12は、靴10を履いたり脱いだりして、弾性部材26が伸張し、左右の羽根14の間隔が拡がった場合でも、羽根14間の拡がりに追従するに十分な弾性力を有している。
【0018】
したがって、本実施形態の靴10によれば、靴紐12により靴10の甲部分28が締められた、革製の紐有り靴と同等の外観を有し、ビジネスやフォーマルな靴として問題なく着用することができる。
【0019】
そして、ベロ24と腰革22の間に弾性部材26が取り付けられており、かつ靴紐12が弾性を有する部材から形成されているので、これらが伸張することにより、靴紐12をほどくことなく靴10の口周りが拡がり、靴10内に足を差し入れて靴10を容易に履くことができる。
【0020】
靴10を履いた後は、弾性部材26が収縮して、足を適度な締め付け力で締め付け、良好な履き心地が得られる。かつ、靴紐12を適度な締め付け力で締結することによって、靴10の甲部分28で靴紐12がきちんと結ばれている状態となるとともに、靴紐12の弾性力が弾性部材26での収縮力に加えられ、足を所望の状態に締め上げることができる。
【0021】
そして、靴10を脱ごうとする際には、靴紐12をほどくことなく足を靴10から引き抜くことにより、靴紐12及び弾性部材26が適度に伸張し、左右の羽根14の間が適度に拡がり、靴10から足を引き抜いて、靴10を容易に脱ぐことができる。
【0022】
このように、本実施形態によれば、紐付き靴と同等の外観を有し、脱ぎ履きが容易で、かつ履いている間は常に適度な大きさの締付力で足を保持することができる靴を提供できる。
【0023】
次に、本実施形態にかかる靴10の構造を、靴10の製造方法の説明に従って説明する。図3は、靴10のアッパー16を示す斜視図である。尚、本説明では、靴10のアッパーとしてはパーツが不足する場合があっても、底部18に対する構成部材として、便宜上、それらもアッパーと呼ぶこととする。又、実際は平面状で縫製する場合も、説明の都合上立体で行うようにして示す。
【0024】
図3に示すアッパー16は、爪先革20と、腰革22と、ベロ24を備え、第1縫付部30、第2縫付部32、第3縫付部34で、それぞれが縫い付けられている(第1工程)。第1縫付部30等各縫付部は、基本的に連続した一連の縫い付け部分を指し、第1縫付部30等を有する部材が、最上層に重ねて縫い付けられている。
【0025】
ベロ24は、左右に第1縁部36を有し、腰革22の前部上端に設けられた第2縁部38との間に、切欠き部40が形成されている。切欠き部40は、ベロ24の左右両側にほぼ同様に設けられている。尚、切欠き部40は、左右のいずれか一方のみに設けられていてもよい。
【0026】
切欠き部40に、靴10の内側より弾性部材26を粘着テープなどで仮止めする(第2工程)。弾性部材26は、ゴム材を編み込んだ弾性力を備えた部材であり、切欠き部40を覆うに十分な大きさを有している。
【0027】
図4は、弾性部材26を切欠き部40に仮止めしたアッパー16と、羽根14と、ライニング50を示す斜視図である。アッパー16には、前述したように切欠き部40に弾性部材26が仮止めされている。
【0028】
ライニング50は、先裏(腰裏を含む。)52と、ベロ裏54と、口裏56と、滑り止め58を備えている。ベロ裏54と口裏56は、同一の部材で連続して形成してあり、口周り(トップライン)68より若干の長さ、例えば5mm程度長く形成されている。又、ベロ裏54と口裏56との間には、切欠き部40に対応した切欠き部44が、ベロ裏54の左右両側に設けられている。
【0029】
羽根14は、予め裏を縫い付け、紐孔42を設けて形成されている。羽根14は、下縁46に、切込み部64を備え、切込み部64の上部に形成された第1基端部60と切込み部64の下部に形成された第2基端部62を有している。又、第2基端部62は、第1基端部60より下方に突出して形成されている(第3工程)。図4には、ベロ24の左側に取り付ける羽根14を示すが、アッパー16の右側にも左側と同様に右用の羽根14が用意されている。
【0030】
ライニング50は、アッパー16の内側に重ね合わせ、仮止めする。羽根14は、第1基端部60を、第2縁部38と弾性部材26の間から、腰革22の内側に、切込み部64が第2縁部38にかかるまで差し入れる。羽根14は、ベロ24の右側にも同様に差し入れる(第4工程)。
【0031】
図5は、ライニング50をアッパー16の内側に重ね合わせ、羽根14を腰革22の内側に差し入れた状態を示す斜視図である。図5に示すアッパー16は、口周り68を第4縫付部66に沿ってアッパー16とライニング50とを一緒に縫い付ける。第4縫付部66は、口周り68から第2縁部38に沿って進み、腰革22と羽根14の第1基端部60と弾性部材26とライニング50の口裏56とを一緒に縫い付ける(第5工程)。尚、ここでは、アッパー16とライニング50とを縫い付けたものもアッパーと呼ぶ。
【0032】
図6は、アッパー16の羽根14を折り返し、羽根14を裏返しにした状態を示す斜視図である。第4縫付部66が第2縁部38の下端である切込み部64に達したなら、第4縫付部66を折り返し線として羽根14を図6に示すように下方に折り返す。図6に示すアッパー16では、第2縁部38の下端に達した第4縫付部66を、羽根14を折り返し、第1縁部36に沿って縫い進める。そして、第1縁部36の縫い付けが終了したなら、ベロ24の上部に沿い、右側の羽根14に第4縫付部66を進める(第6工程)。第1縁部36であるベロ24の左右端部では、ベロ24と弾性部材26とライニング50のベロ裏54が一緒に縫い付けられる。
【0033】
図7は、羽根14の折り返しを戻した状態を示す斜視図である。右の羽根14を第4縫付部66で縫い付けたなら、図7に示すように羽根14の折り返しを戻す。アッパー16は、口周り68から突出したライニング50のベロ裏54と口裏56を、口周り68に合わせて切り取る(市切り)。折り返しを戻した羽根14の第2基端部62を、第5縫付部70で縫い付ける。第5縫付部70は、第2基端部62を、爪先革20の後部と腰革22の先端とを跨ぐようにしてライニング50とともに縫い付ける(第7工程)。第5縫付部70により左右の羽根14の縫い付けが終了し、その後アッパー16が完成したなら、アッパー16に底部18を取り付け、紐孔42に長手方向に伸縮自在な靴紐12を通す(第8工程)。図1に、アッパー16に底部18を取り付け、靴紐12を締めて完成させた状態の靴10を示す。
【0034】
したがって靴10は、図1に示すように従来の紐付き靴と同等の外観を有し、ビジネスやフォーマルに支障なく着用できる。弾性部材26により、脱ぎ履きが容易にできる。靴10を履いた場合、適度な締め付け力を足に付与し、良好な履き心地を付与することができる。更に、靴紐12の締め具合を加減することにより、甲部分28での締め付け力を所望の状態に調整できる。ベロ24の左右両側縁が弾性部材26に取り付けられていることから、足を入れたときに、ベロ24が靴10の奥に引き込まれることがなく、支障なく円滑に靴10を着用できる。
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、紐付き靴と同等の外観を有し、脱ぎ履きが容易で、かつ履いている間は常に適度な大きさの締付力を足に付与することができる靴及び靴の製造方法を提供することができる。
【0036】
尚、本発明は前記実施形態に限られるものではなく、適宜変更して実施できる。例えば、革でなく合成皮革でもよく、又紳士用に限るものではない。更に、ビジネス用でなく、運動用や作業用の靴に応用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
靴の甲部分に弾性部材を備えた靴に適応できる。
【符号の説明】
【0038】
10…靴、12…靴紐、14…羽根、16…アッパー、20…爪先革、22…腰革、24…ベロ、26…弾性部材、28…甲部分、30…第1縫付部、36…第1縁部、38…第2縁部、40…切欠き部、42…紐孔、44…切欠き部、46…下縁、50…ライニング、52…先裏、54…ベロ裏、56…口裏、60…第1基端部、62…第2基端部、64…切込み部、66…第4縫付部、70…第5縫付部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴の前方に配置される爪先革と、
前記爪先革の上部後縁に設けられたベロと、
前記爪先革の左右側方に設けられた腰革と、
前記腰革の前方上部に設けられ、靴紐を通す紐孔を有する左右一対の羽根と、
前記ベロの側縁と前記腰革の前部上縁との間であって、前記羽根の下側に設けられた、伸縮性を有する弾性部材と、
前記紐孔に通された、長手方向に伸縮性を有する靴紐と、を備えたことを特徴とする靴。
【請求項2】
前記羽根は、下縁に切込み部を備え、前記下縁に、前記切込み部を境にして、前記切込み部の後方に第1基端部を有し、前記切込み部の前方に第2基端部を有し、前記第1基端部を前記腰革と前記弾性部材の間に差し入れ、前記第2基端部を前記爪先革の外方に配置させたことを特徴とする請求項1に記載の靴。
【請求項3】
靴の前方に配置される爪先革の上部後縁にベロを有し、かつ前記爪先革の左右側方に腰革を有するアッパーを形成する第1工程と、
前記ベロの側縁と前記腰革の前部上縁との間に形成された切欠き部に、前記切欠き部の裏側から弾性部材を仮止めする第2工程と、
靴紐を通す紐孔を設け、かつ下縁に切込み部を形成し、前記下縁に沿って前記切込み部の後方に第1基端部が、又前記切込み部の前方に第2基端部が設けられた羽根を形成する第3工程と、
前記羽根の前記第1基端部を、前記腰革と前記弾性部材との間に差し入れるとともに前記第2基端部を前記腰革の外方に配置し、かつライニングを前記アッパーの内側に配置する第4工程と、
前記切欠き部に沿って前記腰革と前記羽根の前記第1基端部と前記弾性部材と前記ライニングとを縫い付ける第5工程と、
前記羽根を、前記第1基端部の縫付部を折り返し線として下方に折り返し、前記第5工程の縫付け作業に連続させて前記切欠き部に沿って前記ベロと前記弾性部材と前記ライニングとを縫い付ける第6工程と、
前記羽根の折り返しを戻し、前記羽根の前記第2基端部を前記爪先革や前記腰革に縫い付ける第7工程と、
前記紐孔に、長手方向に伸縮する靴紐を通す第8工程と、を備えたことを特徴とする靴の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−81714(P2013−81714A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225221(P2011−225221)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(399079461)株式会社丸井グループ (2)
【Fターム(参考)】