説明

【課題】緊締操作を極めて容易に行うことができる靴を提供すること。
【解決手段】前側開口部4に沿設する靴本体1の上側左右部と下側左右部とに夫々ベルト通し部A,B,C,Dを設けると共に、この各ベルト通し部A,B,C,Dは、前記タン部材5の前側に位置するように構成し、この上側一方のベルト通し部Aに緊締ベルト7の一端を固定し、この緊締ベルト7の他端を前記タン部材5の前側に配し斜め下方に位置する下側他方のベルト通し部Bに通してから、水平に折り返して下側一方のベルト通し部Cに通し、続いて斜め上方へ折り返して上側他方のベルト通し部Dに通し、この緊締ベルト7の他端を着脱自在に結合する結合具8をこの緊締ベルト7の一端に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊締操作が容易で良好なフィット感が得られる靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
靴の緊締構造としては、甲部分から履き口にかけてに靴紐を通して締め上げる構造が知られており、例えばスノーボード用のブーツのように、足首部より高さのある上方ホールド部を有する形状の靴にも、この靴紐による緊締構造は多く採用されている。
【0003】
ところが、この靴紐による緊締構造は、つま先側から順番に締め上げていくが、スノーボード用ブーツのように上方ホールド部がすね途中にまで達する靴においては、つま先からすね途中の上方部分まで締め上げていくことは強い力が必要であると共に手間も時間もかかり、更には上方部分を締め上げるころにはつま先側が緩んできてしまったりしてしっかりと緊締することが難しかった。
【0004】
そこで、この厄介な緊締を容易に且つ迅速に行うことができるようにと、従来から様々な工夫がなされたスノーボード用ブーツが提案されている。
【0005】
例えば、ブーツの足甲部分と、足すね部分とに夫々独立した靴紐が設けられていて足甲部と足すね部の緊締具合を緩まないように別々に調整できると共に、夫々の靴紐に紐止め手段が設けられていてこの紐止め手段により靴紐を簡単に緩まないようにできる緊締構造を有するスノーボード用ブーツ(特許文献1参照。)が提案されており、このブーツによれば、足甲部と足すね部とを別々に緊締するので緩みが生じにくく、且つ力の弱い人でも締付操作を行うことができる。
【0006】
また、靴紐をダイヤル式の器具で巻き上げることで簡単に締め上げできる緊締構造を有するスノーボード用ブーツも提案されており、このブーツによれば、緊締に力がいらない上、巻き上げられた靴紐がダイヤルに巻かれて結び目が表出しないので体裁良好であると共に、靴紐の結び目がバインディングのストラップベルトに干渉しないというメリットもある。
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3115773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記前者のブーツは、確かに甲部分から履き口にかけてに靴紐が通された構成に比べれば、緊締に要する時間短縮は図れるものの、靴紐の締め上げ操作自体がさほど操作性の良い緊締手段ではないため、満足の行く操作性が得られているとはいえなかった。
【0009】
また、前記後者のブーツには、緊締できる範囲が足首から上方の上部サポート部が中心で、つま先から足首にかけては良好なフィット感が出づらい上、ダイヤル式巻き取り器具の故障が多く、一度故障すると簡単には修繕できないので、現地(スキー場)でユーザーが困惑する場面も少なくないという問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来のスノーボード用ブーツの現状に鑑み、これらよりももっと簡単且つ迅速に緊締操作を行えるようにできないかと試行錯誤して製品開発を進めた末に完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、誰でも簡単且つ迅速に緊締操作を行うことができる極めて実用性に秀れた画期的な靴を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0013】
履き口部2の前側から甲部分3にかけて開口する前側開口部4を有する靴本体1の、この前側開口部4にタン部材5を配設すると共に、この前側開口部4に緊締手段6を設けた靴において、前記緊締手段6は、前記前側開口部4に沿設する前記靴本体1の上側左右部と下側左右部とに夫々ベルト通し部A,B,C,Dを設けると共に、この各ベルト通し部A,B,C,Dは、前記タン部材5の前側に位置するように構成し、この上側一方のベルト通し部Aに緊締ベルト7の一端を固定するか若しくは着脱自在な固定具を用いて固定し、この緊締ベルト7の他端を前記タン部材5の前側に配し斜め下方に位置する下側他方のベルト通し部Bに通してから、水平に折り返して下側一方のベルト通し部Cに通し、続いて斜め上方へ折り返して、前記タン部材5の前側で上側一方のベルト通し部Aと下側他方のベルト通し部Bの間に配した緊締ベルト7の途中部とクロスさせてから上側他方のベルト通し部Dに通して、この緊締ベルト7の他端を引動することで前記タン部材5と共に前記靴本体1を緊締し得るように設け、この引動した緊締ベルト7の他端を着脱自在に結合する結合具8をこの緊締ベルト7の一端に設けた構成としたことを特徴とする靴に係るものである。
【0014】
また、前記靴本体1は、足首より上方をホールドする上部ホールド部9を具備した構成とし、この上部ホールド部9に存する前記前側開口部4の上側開口部分4Aに前記緊締手段6を設けたことを特徴とする請求項1記載の靴に係るものである。
【0015】
また、前記靴本体1は、足首より上方をホールドする上部ホールド部9を具備した構成とし、この上部ホールド部9に存する前記前側開口部4の上側開口部分4Aと、靴本体1の前記甲部分3に存する前側開口部4の下側開口部分4Bとのいずれか一方若しくは双方に前記緊締手段6を設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の靴に係るものである。
【0016】
また、前記各ベルト通し部A,B,C,Dを、前記靴本体1の前側開口部4の開口周縁部より内側に向けて突設してこの各ベルト通し部A,B,C,Dが前記タン部材5の前側に位置するように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の靴に係るものである。
【0017】
また、少なくとも前記緊締ベルト7の他端を通した前記上側他方のベルト通し部Dは、前記靴本体1に対し上下方向に移動可能に設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の靴に係るものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上述のように構成したから、緊締ベルト他端を引動した際の緊締ベルトとベルト通し部との摩擦抵抗が比較的少ないために、この緊締ベルトの引動操作を簡単に且つ迅速に行って靴本体を足にフィットさせることができ、また、引動して緊締した緊締ベルトの他端を緊締ベルトの一端に設けた結合具に結合してロックすると、緊締ベルトが靴本体の前側開口部に略8の字形に配されてこの緊締ベルトの存する範囲をタン部材と共に良好に緊締することになるので、単に一本の緊締ベルトによって緊締する構造でありながら足への良好なフィット感が得られることになり、しかも、緊締ベルトの一端を上側一方のベルト通し部に固定しているため、この緊締ベルトの一端に設けた結合具の位置が結合操作に不都合な位置に移動してしまうようなことがなく、確実に前側開口部付近で緊締ベルトの結合操作を行うことができて操作性が良好であるなど、極めて実用性に秀れた画期的な靴となる。
【0019】
また、請求項2記載の発明においては、靴本体の上部ホールド部を容易に且つ迅速に緊締することができるので、例えば、上部ホールド部を有して靴本体の広範囲を緊締する必要のあるスノーボード用ブーツに本発明を適用すれば、少なくとも上部ホールド部を容易に且つ迅速に緊締することができる上に、上部ホールド部に緊締手段を設けたことで、甲部分には別の緊締手段を設けることができ、これにより甲部分と上部ホールド部とを別個に緊締して良好なフィット感を得ることができる商品価値の高いスノーボード用ブーツが実現することになる。
【0020】
また、請求項3記載の発明においては、靴本体の甲部分と上部ホールド部とのいずれか一方若しくは双方を、容易に且つ迅速に緊締することができる極めて実用性に秀れた構成の靴が実現することとなる。
【0021】
また、請求項4記載の発明においては、緊締ベルトが靴本体の前側開口部の周縁部などに接触しない構成であるため緊締ベルトの引動抵抗が一層小さくなり、よってこの緊締ベルトの引動操作(緊締操作)を一層簡単に且つ迅速に行うことができる極めて実用性に秀れた構成の靴となる。
【0022】
また、請求項5記載の発明においては、緊締ベルトの他端を引動する際に、少なくとも上側他方のベルト通し部が、引っ張った緊締ベルトの動きに追従して靴本体に対し上下方向に移動するために、たとえ幅のある緊締ベルトであったとしても緊締ベルト他端がねじれたりすることなく、この引動操作を容易に行うことができる極めて操作性に秀れた構成の靴となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0024】
履き口部2から靴本体1内に足を挿入し、靴本体1の上側他方のベルト通し部Dに通した緊締ベルト7の他端を引動すると、この緊締ベルト7は、その一端が靴本体1の前側開口部4に沿設する上側一方のベルト通し部Aに固定されていて、他端が下部他方のベルト通し部B,下部一方のベルト通し部C,上部他方のベルト通し部Dの順に通されているため、この緊締ベルト7が存する靴本体1の前側開口部4の所定範囲がタン部材5と共に緊締されて靴本体1が足にフィットすることになる。
【0025】
また、下部他方のベルト通し部B,下部一方のベルト通し部C,上部他方のベルト通し部Dのわずか三箇所に通された緊締ベルト7は、この緊締ベルト7他端を引動操作した際のベルト通し部B,C,Dとの摩擦抵抗(引動抵抗)が比較的小さいため、この引動操作に大きな抵抗を生じず、よって簡単に且つ迅速に引動操作を行うことができて靴本体1を簡単に且つ迅速に足にフィットさせることができる。
【0026】
そして、緊締終了後に緊締ベルト7の他端を緊締ベルト7の一端に設けた結合具8に結合すると、この緊締状態がロックされて靴本体1の前側開口部4に緊締ベルト7が略8の字形に配されることになり、この略8の字形の緊締ベルト7が靴本体1の前側開口部4の所定範囲をタン部材5と共に緊締して足への良好なフィット感が得られた状態が維持されることになる。
【0027】
また、この際、緊締ベルト7の一端を上側一方のベルト通し部Aに固定していることで、この緊締ベルト7の一端に設けた結合具8の位置が緊締ベルト7他端の結合に不都合な位置に移動してしまうようなことがなく、確実に前側開口部4付近で緊締ベルト7の結合操作を行うことができるので、操作性に秀れる。
【0028】
従って、このように緊締ベルト7他端の引動操作(緊締操作)が容易に行われて迅速に緊締ロックすることができるし、略8の字形に通される緊締ベルト7によって前側開口部4に沿設する靴本体1の上下範囲をタン部材5と共に極めて良好に緊締することができる緊締手段6を備えた極めて実用性に秀れた靴となる。
【0029】
また、緊締ベルト7の一端を着脱自在な固定具を用いて上側一方のベルト通し部Aに固定する構成を採用した場合には、固定具を上側一方のベルト通し部Aから取り外すことで、緊締ベルト7をよりデザイン性の高いものに交換したり、損傷した緊締ベルト7を新品と交換することも可能となる。
【0030】
また、例えば、前記靴本体1は、足首より上方をホールドする上部ホールド部9を具備した構成とし、この上部ホールド部9に存する前記前側開口部4の上側開口部分4Aに前記緊締手段6を設ければ、上部ホールド部9を具備して緊締範囲が広範囲な靴のこの上部ホールド部9を容易に且つ迅速に緊締することができる。
【0031】
従って、例えば、上部ホールド部9を有するスノーボード用ブーツに本発明を適用すれば、スノーボード用ブーツは、足が中で浮いたりしないように靴本体1の甲部分3から上部ホールド部9に至るまでの広範囲をしっかりと緊締する必要があるが、少なくとも上部ホールド部9をこれまでになく簡単に且つ迅速に緊締することができるので、装着作業が簡易化してスピーディーに行われることになり、しかも、上部ホールド部9に緊締手段6を設けたことで、甲部分3には別の緊締手段を設けることができ、これにより甲部分3と上部ホールド部9とを別個に緊締できて緩みを生じにくく良好なフィット感を得ることができる商品価値の高いスノーボード用ブーツが実現することになる。
【0032】
また、例えば、上部ホールド部9を具備する靴において、靴本体1の甲部分3にも、前記緊締手段6を設ければ、この甲部分3も簡単に且つ迅速に緊締することができ、一層実用的となる。
【0033】
また、例えば、スノーボード用ブーツに適用して、甲部分3と上部ホールド部9との双方に夫々前記緊締手段6を設ければ、甲部分3も上部ホールド部9も極めて簡単に且つ迅速に緊締することができる極めて商品価値の高いスノーボード用ブーツが実現することになる。
【0034】
本発明の靴を脱ぐ時は、結合具8から緊締ベルト7の他端の結合を解除することで、緊締ベルト7を容易に緩めることができる。
【実施例】
【0035】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0036】
本実施例は、スノーボード用のブーツに適用した場合を示している。
【0037】
このスノーボード用ブーツの靴本体1について簡単に説明すると、図1,図2,図4に示すように、足首より高さがあってすね部途中までを覆う上部ホールド部9を備え、履き口部2の前側から甲部分3にかけて開口する前側開口部4を備え、この前側開口部4にタン部材5を備え、この前側開口部4に緊締手段を備えている。また、靴本体1(アウターブーツ)内に、すね途中までをホールドする高さのあるインナーブーツ10を着脱自在に設けている。
【0038】
本実施例では、前記靴本体1の甲部分3に存する前側開口部4の下側開口部分4Bに第一緊締手段16を設けると共に、前記靴本体1の前記上部ホールド部9に存する前側開口部4の上側開口部分4Aに本発明の緊締手段6たる第二緊締手段6を設けている。即ち、本実施例では、甲部分3と上部ホールド部9とを一つの緊締手段で緊締する構成ではなく、甲部分3と上部ホールド部9とに別々の緊締手段を設けた構成としている。
【0039】
具体的には、本実施例の第一緊締手段16は、甲部分3の下側開口部分4Bの開口縁部の数箇所に紐通し部12を形成し、この各紐通し部12に靴紐11を通してこの靴紐11で甲部分3を緊締する構成としている。
【0040】
また、本実施例の第二緊締手段6は、前記前側開口部4の上側開口部分4Aに沿設する前記上部ホールド部9の上側左右部と下側左右部とに夫々ベルト通し部A,B,C,Dを設けると共に、この各ベルト通し部A,B,C,Dは、前記タン部材5の前側に位置するように構成している。
【0041】
更に詳しくは、上部ホールド部9の上側開口部分4Aの開口縁より外側の上側左右部と下側左右部との計四箇所から、帯状の取付ベルト13を夫々上側開口部分4Aに向かって突設し、この各取付ベルト13の突出先端に細長い環状を呈するリングを連結して、この各リングをベルト通し部A,B,C,Dとしている。
【0042】
また、本実施例では、この各ベルト通し部A,B,C,Dを構成する各リングが前記靴本体1の前側開口部4(上側開口部分4A)の開口周縁部より内側に配置してこの各ベルト通し部A,B,C,Dが前記タン部材5の前側に位置するように、前記各取付ベルト13の突出度(長さ寸法)を設定構成している。
【0043】
そして、図2に示すように、この上側一方(図面においては上側右方)のベルト通し部Aに緊締ベルト7の一端を通した後折り返し重合し、この重合部を互いに止着(例えば、ビス留め)することで、この緊締ベルト7の一端を上側一方のベルト通し部Aに固定し、この緊締ベルト7の他端を前記タン部材5の前側に配し斜め下方に位置する下側他方のベルト通し部Bに通してから、水平に折り返して下側一方のベルト通し部Cに通し、続いて斜め上方へ折り返して、前記タン部材5の前側で上側一方のベルト通し部Aと下側他方のベルト通し部Bの間に配した緊締ベルト7の途中部とクロスさせてから上側他方のベルト通し部Dに通して、図3中の矢印のようにこの緊締ベルト7の他端を引動することで前記タン部材5と共に前記上部ホールド部9を緊締し得るように構成している。
【0044】
また、この際、緊締ベルト7は、下部他方のベルト通し部B,下部一方のベルト通し部C,上部他方のベルト通し部Dのわずか三箇所に対して移動する構成であるため、各ベルト通し部B,C,Dに対する緊締ベルト7の移動摩擦抵抗は比較的小さく、しかも、この下部他方のベルト通し部B,下部一方のベルト通し部C,上部他方のベルト通し部Dは、上側開口部分4Aの開口周縁部より内側に配置しているため、緊締ベルト7と上部ホールド部9とには実質的に摩擦抵抗を生じず、よって、この緊締ベルト7の他端の引動操作は、強い抵抗を生じることなく簡単に引動操作することができる構成としている。出願人の試作実験によると、女性の力でも簡単に緊締ベルト7他端を引動して緊締可能であることが確認されている。
【0045】
また、この引動した緊締ベルト7の他端を着脱自在に結合して緊締ロック状態とする結合具8をこの緊締ベルト7の一端に設けている。
【0046】
結合具8は、ベルトを通して折り返しすることで結束できる既存のベルト留め具を採用し、このベルト留め具8を緊締ベルト7の一端の重合部を利用して連結している。従って、このような既存のベルト留め具8を採用したことで、結合具8を簡易に設計実現可能であると共に、緊締ベルト7の着脱操作も容易に行われる構成としている。
【0047】
また、本実施例では、前記緊締ベルト7の一端の重合部を上側開口部分4Aに向けて突出配設すると共に、この重合部の重合寸法(上側一方のベルト通し部Aからの突出度)を、この重合部に連結した前記結合具8たるベルト留め具8が前記上側開口部分4Aの略中央に位置するように設定構成している(図5参照。)。
【0048】
従って、緊締ベルト7の他端を引動緊締操作した際に、この緊締ベルト7の一端が上側一方のベルト通し部Aに固定されているために、この緊締ベルト7の一端に設けた結合具8の位置が緊締ベルト7他端の結合に不都合な位置に移動してしまうようなことがなく、確実に前側開口部4(上側開口部分4A)の略中央位置で緊締ベルト7の一端と他端の結合操作を行うことができる構成としている。
【0049】
また、この際、図示したように、下側一方のベルト通し部Cから斜め上方へ折り返した緊締ベルト7の他端を、上側一方のベルト通し部Aと下側他方のベルト通し部Bの間に配した緊締ベルト7の途中部の下側へクロスさせて上側他方のベルト通し部Dに通すようにすると、このクロス部分で緊締ベルト7他端がタン部材5に押さえ付けられて挟み込まれた状態となって、引動(緊締調整)後に緊締ベルト7他端が戻る(緩む)ことが阻止されることになり、これによりベルト緩みを気にすることなく結合具8による結合操作を行うことができることになるので、好ましい。
【0050】
そして、この結合具8で緊締ベルト7の一端と他端を結合すると、この緊締状態がロックされて靴本体1の上側開口部分4Aに緊締ベルト7が略8の字形に配されることになり、この略8の字形の緊締ベルト7が存する靴本体1の上側開口部分4Aの所定範囲がタン部材5と共に極めて良好に緊締されて上部ホールド部9の足(足首より上方部分)への良好なフィット感が得られることになる構成としている。
【0051】
また、本実施例の緊締ベルト7は、軟質性(例えばナイロン製)を有し、幅23〜25mm程度のものを採用している。この程度の幅の緊締ベルト7を採用すると、引動(緊締)操作が容易で、且つ略8の字形に配されるこの緊締ベルト7によって上部ホールド部9の十分な緊締作用が得られることが出願人により確認されている。
【0052】
また、本実施例では、前記緊張ベルト7の一端を固定した上側一方のベルト通し部Aと、緊締ベルト7の他端を通した上側他方のベルト通し部Dとを、前記靴本体1(上部ホールド部9)に対し上下方向に移動可能に設けている。
【0053】
具体的には、この上側一方のベルト通し部Aと上側他方のベルト通し部Dとが設けられる上側左右部の前記各取付ベルト13の基端を、上部ホールド部の左右部起伏回動自在に枢着した構成とし、この取付ベルト13の起伏動に伴って上側一方のベルト通し部Aと上側他方のベルト通し部Dとが上下移動(起伏動)する構成としている。
【0054】
従って、これにより特に緊締ベルト7の他端を引動して緊締操作を行う際には、緊締ベルト7他端を斜め上方へ向かって引動するが、この際、図4に示すように上側他方のベルト通し部Dも連動して上方へ起動することで緊締ベルト7がねじれたりすることが防止されて引動操作し易い構成としている。また、この際、緊締ベルト7の一端が固定されている上側一方のベルト通し部Aも適度に動いて引動し易さが向上する構成である。
【0055】
また、本実施例では、上側他方のベルト通し部Dが設けられる取付ベルト13の途中部に、前記結合具8に折り返し結合した緊締ベルト7の他端の長く余った部分を格納するためのベルト格納用リング14を設け、図1に示すようにこのベルト格納用リング14に余った緊締ベルト7の他端を通すことにより、この他端を上部ホールド部9に沿設状態にできて、この他端が邪魔になったり体裁を害することのないようにしている。
【0056】
また、本実施例では、緊締ベルト7を緩めるためのベルト緩め具15を備えた構成としている。このベルト緩め具15は、例えば図6に示すように、下側他方のベルト通し部Bと下側一方のベルト通し部Cとの間に存する緊締ベルト7に装備しておき、前記結合具8による緊締状態を解除した後でこのベルト緩め具15を図中矢印方向へ引っ張れば、緊締ベルト7を簡単に緩めることができるようにしたものである。
【0057】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【0058】
また、本実施例では、スノーボード用ブーツに適用した場合を示したが、例えば、足首部分より高さのある上部ホールド部9を備えた登山靴や、トレッキングシューズや、その他、上部ホールド部9のない靴にも適用可能である。
【0059】
また、本実施例では、上部ホールド部9にのみ本発明の緊締手段6(第二緊締手段6)を設けた場合を示したが、甲部分3の第一緊締手段16として本発明の緊締手段6を設けても良いし、上部ホールド部9と甲部分3との双方に本発明の緊締手段6を設けても良い。
【0060】
尚、甲部分3に緊締手段6を設ける場合、請求項1中の「上側」なる記載は、甲部分3の足首側を指し、請求項1中の「下側」なる記載は、甲部分3のつま先側を指す意味合いで用いている。また、上記第二緊締手段6の説明において、「上側開口部分4A」を「下側開口部分4B」に置き換えることで、甲部分3に緊締手段6を設ける場合についてを説明できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施例の第一緊締手段と第二緊締手段とをロックした状態を示す説明斜視図である。
【図2】本実施例の第二緊締手段の緊締ベルト他端を結合具から取り外した状態を示す説明正面図である。
【図3】本実施例の第二緊締手段の緊締ベルト他端を引動して上部ホールド部を緊締した状態を示す説明正面図である。
【図4】図3の側面図である。
【図5】本実施例の第二緊締手段の緊締ベルト他端を引動して上部ホールド部を緊締し、緊締ベルト他端を緊締ベルト一端に設けた結合具に結束した状態(緊締ロック状態)を示す説明正面図である。
【図6】本実施例の第二緊締手段の緊締ベルトを緩める様子を示す部分説明正面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 靴本体
2 履き口部
3 甲部分
4 前側開口部
4A 上側開口部分
4B 下側開口部分
5 タン部材
6 緊締手段
7 緊締ベルト
8 結合具
9 上部ホールド部
A (上側一方の)ベルト通し部
B (下側他方の)ベルト通し部
C (下側一方の)ベルト通し部
D (上側他方の)ベルト通し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履き口部の前側から甲部分にかけて開口する前側開口部を有する靴本体の、この前側開口部にタン部材を配設すると共に、この前側開口部に緊締手段を設けた靴において、前記緊締手段は、前記前側開口部に沿設する前記靴本体の上側左右部と下側左右部とに夫々ベルト通し部を設けると共に、この各ベルト通し部は、前記タン部材の前側に位置するように構成し、この上側一方のベルト通し部に緊締ベルトの一端を固定するか若しくは着脱自在な固定具を用いて固定し、この緊締ベルトの他端を前記タン部材の前側に配し斜め下方に位置する下側他方のベルト通し部に通してから、水平に折り返して下側一方のベルト通し部に通し、続いて斜め上方へ折り返して、前記タン部材の前側で上側一方のベルト通し部と下側他方のベルト通し部の間に配した緊締ベルトの途中部とクロスさせてから上側他方のベルト通し部に通して、この緊締ベルトの他端を引動することで前記タン部材と共に前記靴本体を緊締し得るように設け、この引動した緊締ベルトの他端を着脱自在に結合する結合具をこの緊締ベルトの一端に設けた構成としたことを特徴とする靴。
【請求項2】
前記靴本体は、足首より上方をホールドする上部ホールド部を具備した構成とし、この上部ホールド部に存する前記前側開口部の上側開口部分に前記緊締手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記靴本体は、足首より上方をホールドする上部ホールド部を具備した構成とし、この上部ホールド部に存する前記前側開口部の上側開口部分と、靴本体の前記甲部分に存する前側開口部の下側開口部分とのいずれか一方若しくは双方に前記緊締手段を設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の靴。
【請求項4】
前記各ベルト通し部を、前記靴本体の前側開口部の開口周縁部より内側に向けて突設してこの各ベルト通し部が前記タン部材の前側に位置するように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の靴。
【請求項5】
少なくとも前記緊締ベルトの他端を通した前記上側他方のベルト通し部は、前記靴本体に対し上下方向に移動可能に設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−89902(P2009−89902A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263519(P2007−263519)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(394006462)株式会社クレブ (6)
【Fターム(参考)】