説明

鞍乗型車両用操舵装置

【課題】ステアリングステムの軸受部材への水等の侵入を抑制して軸受部材の整備の回数を少なくする。
【解決手段】体フレームに設けられたヘッドパイプ2hに対し,軸受部材11を介して回動自在に支持されたステアリングステム20に設けられたネジ部21に螺合されて,軸受部材11を位置決めするステムナット22と,ネジ部21に螺合されて,ステムナット22の回動を防止するロックナット23と,ステムナット22とロックナット23との間に介装された環状のステムワッシャ24とを備え,ステムナット22とロックナット23との間において,ステムワッシャ24の内側に環状のシール部材25を配置してシール部材25の内周面25bをネジ部21に当接させ,ステムワッシャ24をロックナット23とステムナット22の双方に直接当接させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,鞍乗型車両用操舵装置に関する。より詳しくは,二輪車その他の鞍乗型車両の操舵装置における防水技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,鞍乗型車両用操舵装置として,例えば特許文献1に見られるような鞍乗型車両用操舵装置が知られている。同文献の符号を借りて説明すると,この鞍乗型車両用操舵装置は,車体フレームに設けられたヘッドパイプ(1)と,このヘッドパイプ(1)に対し,該ヘッドパイプ(1)に設けられた上下の軸受部材(2)(2)を介して回動自在に支持されたステアリングステム(3)と,このステアリングステム(3)に螺合されて,上側の軸受部材(2)を位置決めするステムナット(5)と,ステアリングステム(3)に螺合されて,ステムナット(5)の回動を防止するロックナット(8)と,ステムナット(5)とロックナット(8)との間に介装された環状のステムワッシャ(6)と,を備え,上側の軸受部材(2)とステムナット(5)との間にダストカバー(4)が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04−038286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の鞍乗型車両用操舵装置よると,ヘッドパイプ1と上側の軸受部材(2)との間からヘッドパイプ(1)内へ侵入しようとする水等(液体およびダスト。以下同じ)を,ダストカバー(4)によって抑制することが可能である。
しかし,この従来の鞍乗型車両用操舵装置では,ステアリングステム(3)に形成されたネジ部に関しては何らの防水処理も施されていない。そのため,ネジ部を伝って水等がヘッドパイプ(1)内に侵入し,その水等が上下の軸受部材(2)に侵入してしまうので定期的に軸受部材をグリスアップする等の整備をする必要があった。
本発明が解決しようとする課題は,上記の問題を解決し,軸受部材への水等の侵入を抑制して軸受部材の整備の回数を少なくすることができる鞍乗型車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明の鞍乗型車両用操舵装置は,車体フレームに設けられたヘッドパイプと,
このヘッドパイプに対し,該ヘッドパイプに設けられた軸受部材を介して回動自在に支持されたステアリングステムと,
このステアリングステムに設けられたネジ部に螺合されて,前記軸受部材を位置決めするステムナットと,
前記ステアリングステムに設けられたネジ部に螺合されて,前記ステムナットの回動を防止するロックナットと,
前記ステムナットとロックナットとの間に介装された環状のステムワッシャと,を備えた鞍乗型車両用操舵装置であって,
前記ステムナットとロックナットとの間において,前記ステムワッシャの内側に環状のシール部材を配置して該シール部材の内周面を前記ネジ部に当接させるとともに,前記ステムワッシャを前記ロックナットとステムナットの双方に直接当接させたことを特徴とする。
この鞍乗型車両用操舵装置によれば,シール部材の内周面がステアリングステムに形成されたネジ部に当接しているため,このネジ部を経由してヘッドパイプ内に侵入しようとする水等を抑制して軸受部材の整備の回数を少なくすることができる。
しかも,ステムワッシャが,ステムナットとロックナットの双方に直接当接しているため,ロックナットの作用がステムワッシャを介してステムナットに適切に伝達され,ロックナットの機能が確保される。
望ましくは,前記ステアリングステムの軸線方向から見て,前記ロックナットとステムワッシャとの当接部と,前記ステムワッシャとステムナットとの当接部とが,少なくとも一部において重複している構成とする。
このように構成すると,ステムワッシャに作用するステアリングステムの軸線方向の力によってステムワッシャに仮に剪断応力または捩り応力が生じたとしても,その剪断応力または捩り応力を低減させることができる。
したがって,ステムワッシャの内側にシール部材を配置しているにもかかわらず,ステムワッシャの軽量化を図ることができる。
また望ましくは,前記環状のシール部材の断面形状を矩形とするとともに,前記ステアリングステムの軸線方向の長さに関し,前記シール部材を配置するために形成するステムワッシャの内側空間の長さを前記シール部材の厚さよりも小さくし,前記シール部材における前記ロックナットおよび/またはステムナットとの当接面における外側角部を面取りした構成とする。
このように構成すると,ロックナットの締め付け過程においてシール部材を弾性変形させ,ネジ部へのシール部材の密着性を向上させることができる。
また,前記ステアリングステムのネジ部に,ステアリングステムの軸線方向に延びるキー溝が形成されている場合には,前記シール部材には,前記キー溝に入り込む凸部を一体に形成する。
このように構成すると,キー溝を介してのヘッドパイプ内方への水等の浸入をシール部材で抑制することができる。
この場合望ましくは,前記凸部の基部両側には,環状部内周を外側に凹ませた切り欠き部を形成する。
このように構成すると,シール部材を圧縮して弾性変形させた際の,凸部の基部両側における過剰な変形を抑制することで,環状部および凸部のステアリングステムへの密着性を向上させてシール性を向上させることができる。
また望ましくは,前記ステムワッシャは,円環部と,この円環部の外周部から一体に垂下する垂下部とを有し,前記円環部の内周面を前記ステアリングステムに当接させ,前記垂下部の内側に前記シール部材を配置した構成とする。
このように構成すると,ステムワッシャとステアリングステムとの同心度を確保することができるので,ステムワッシャを介したシール部材の変形の均一化を図ることができる。
また望ましくは,前記ステムワッシャは,円環状の平板で構成し,前記シール部材が前記ロックナット及びステムナットに当接する構成とする。
このように構成すると,ステムワッシャを複雑な形状に形成する必要がないため,生産性及びコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明に係る鞍乗型車両用操舵装置の一実施の形態を用いた車両の一例であるスクータ型の自動二輪車の側面図。
【図2】操舵装置の主要構成を示す分解斜視図。
【図3】要部であるヘッドパイプ上部を示す図で,(a)は部分省略平面図,(b)は断面図。
【図4】(a)(b)(c)はそれぞれ主としてシール部材25の断面形状の例を示す図,(d)は図(c)に示す例の作用説明図。
【図5】他の実施の形態のヘッドパイプ上部を示す図で,(a)は部分省略平面図,(b)は断面図。
【図6】(a)(b)(c)はそれぞれ主としてシール部材25の断面形状の例を示す図。
【図7】さらなる他の実施の形態の主要構成を示す分解斜視図。
【図8】(a)は主としてシール部材25を示す平面図,(b)はシール部材25の変形例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下,本発明に係る鞍乗型車両用操舵装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は,本発明に係る鞍乗型車両用操舵装置の一実施の形態を用いた車両の一例であるスクータ型の自動二輪車の側面図である。
この自動二輪車1は,車体フレーム2の後部に,ピボット軸3とリアクッションユニット4とでユニットスイングエンジンEをピボット軸3回りに揺動自在に懸架した車両である。
フレーム2のヘッドパイプ2hに,操舵装置STが取り付けられている。
【0008】
図2は操舵装置の主要構成を示す分解斜視図,図3は要部であるヘッドパイプ上部を示す図で,(a)は部分省略平面図,(b)は断面図である。
これらの図に示すように,この操舵装置STは,上記車体フレーム2に設けられたヘッドパイプ2hと,このヘッドパイプ2hに対し,ヘッドパイプ2hに設けられた上下の軸受部材11,12を介して回動自在に支持されたステアリングステム20と,このステアリングステム20に設けられたネジ部21に螺合されて,上下の軸受部材11,12のうち上側の軸受部材11を位置決めするステムナット22と,ステアリングステム20のネジ部21に螺合されて,ステムナット22の回動を防止するロックナット23と,ステムナット22とロックナット23との間に介装された環状のステムワッシャ24とを備えている。
【0009】
この実施の形態では,ステムナット22には,合成樹脂製のマッドガード22gが装着されている。
上側の軸受部材11は,アウターレース11rとこのアウターレース11r内に組み込まれるボールアッシー11bとを有している。ボールアッシー11bにはインナーレース11iが含まれている。
下側の軸受部材12(図2)は,アウターレース12rとこのアウターレース12r内に組み込まれるボールアッシー12bとを有している。ボールアッシー12bにはインナーレース12iが含まれている。
【0010】
図2に示すように,下側の軸受部材12の下方には,下側の軸受部材12を位置決めするためのボトムコーン26と,ヘッドパイプ2hへの下方からのダストの侵入を防止するためのダストシール27と,ステアリングステム20の下端に結合されたボトムブリッジ20bの上面とヘッドパイプ2hの下面との間に介在されるワッシャ28とが順次配置される。
【0011】
したがって,ステアリングステム20は,該ステムにワッシャ28,ダストシール27,ボトムコーン26,および下側の軸受部材12を順次装着した状態で,該ステム20をヘッドパイプ2hに対して下方から挿入し,ヘッドパイプ2hを貫通したステム20の上部に,上側の軸受部材11(アウターレース11r,ボールアッシー11b),マッドガード22gを装着したステムナット22,ステムワッシャ24,後述するシール部材25,およびロックナット23を順次装着し,上側の軸受部材11をヘッドパイプ2hの上端内部に押し込んで,ステムナット22で締め付けて固定し,さらにステムワッシャ24を介してロックナット23を締め付けてステムナット22をロックすることによって,ヘッドパイプ2hに対して回動可能に取り付けられる。
【0012】
なお,ダストシール27,ボトムコーン26,下側の軸受部材12のインナーレース12i,上側の軸受部材11のインナーレース11i,マッドガード22gを装着したステムナット22,ステムワッシャ24,シール部材25,およびロックナット23は,いずれもステアリングステム20と一緒に回動する。
【0013】
ステアリングステム20の上部には,ハンドル30が固定される(図1参照)。
図2に示すように,ハンドル30の中心パイプ部31の後部には,中心パイプ部31の軸線方向に延びるスリット31sが形成されているとともに,このスリット31sを挟むようにして両側に一対の締め付け片31bが設けられている。
【0014】
したがって,ハンドル30は,その中心パイプ部31にステアリングステム20の上部を挿入し,その後,一対の締め付け片31b,31bにボルト32bを挿通してこのボルト32bとナット32nとで一対の締め付け片31b,31bをそれらの間隔を狭めるように締め付けることで,ステアリングステム20の上部に固定される。なお,32wはワッシャである。
【0015】
ステアリングステム20の下端には,ボトムブリッジ20bが結合されており,このボトムブリッジ20bの両端で一対のフロントフォーク5(図1)を支持し,このフロントフォーク5の下端に前輪6を回転自在に取り付けてある。
したがって,このような操舵装置STは,乗員がハンドル30を回動操作すると,ヘッドパイプ2hの前方でステアリングステム20回りすなわちヘッドパイプ2hの軸線回りに,一対のフロントフォーク5が回動し,前輪6を平面視で時計方向または反時計方向へ回動させて自動二輪車1を進路変更させることができる。
【0016】
図3に示すように,この実施の形態では,ステムナット22とロックナット23との間において,ステムワッシャ24の内側に環状のシール部材25を配置して該シール部材25の内周面25bをステアリングステム20に形成されたネジ部21に当接させるとともに,ステムワッシャ24をロックナット23とステムナット22の双方に直接当接させた構成としてある。
【0017】
このように構成すると,シール部材25の内周面25bがステアリングステム20に形成されたネジ部21に当接しているため,このネジ部21を経由してヘッドパイプ2h内に侵入しようとする水等を抑制して軸受部材(この実施の形態では上側の軸受部材11)の整備の回数を少なくすることができる。
しかも,ステムワッシャ24が,ステムナット22とロックナット23の双方に直接当接しているため,ロックナット23の作用がステムワッシャ24を介してステムナット22に適切に伝達され,ロックナット23の機能が確保される。
【0018】
シール部材25はゴム等の弾性部材で構成することができる。
シール部材25をゴム等の弾性部材で構成した場合において,仮に,ステムワッシャ24が,ステムナット22とロックナット23の双方には直接当接しない(ステムワッシャ24が,ステムナット22,ロックナット23のいずれか一方にのみ直接当接するか,いずれにも直接当接しない)とすると,ロックナット23によるステムナット22に対する締め付け力は弾性部材であるシール部材25を介してステムナット22に作用することとなるため,ロックナット23によるロック作用が低減するおそれがある。
【0019】
これに対し,この実施の形態によれば,ステムワッシャ24が,ステムナット22とロックナット23の双方に直接当接しているため,ロックナット23の作用(締め付け力によるロック作用)がステムワッシャ24を介してステムナット22に強固に伝達され,ロックナット23の機能が確保されることとなる。
【0020】
図2,図3に示すように,この実施の形態のステムワッシャ24は,円環状の平板で構成し,シール部材25がロックナット23及びステムナット22に当接する構成としてある。
このように構成すると,ステムワッシャ24を複雑な形状に形成する必要がないため,生産性及びコスト低減を図ることができる。また,シール部材25がロックナット23及びステムナット22に当接しているので,ロックナット23とステムワッシャ24との間からネジ部21へ向かおうとする水等や,ステムナット22とステムワッシャ24との間からネジ部21へ向かおうとする水等についても阻止することができる。
【0021】
図3に示すように,ステアリングステム20の軸線方向から見て,ロックナット23とステムワッシャ24との当接部(この場合当接面)23tと,ステムワッシャ24とステムナット22との当接部22tとは,少なくとも一部において重複している。重複部分を図3(b)において符号OLで,図3(a)において符号OLと斜線部分で示す。
このように構成すると,ステムワッシャ24の内側にシール部材25を配置しているにもかかわらず,重複部分OLにおいて,ロックナット23の作用(軸方向への力F)がステムワッシャ24を介してステムナット22に直線的に伝達されるため,ロックナット23の機能が確保される。
【0022】
シール部材25としては,断面形状が図4(a)に示すような円形のものを用いることもできるし,図4(b)に示すような矩形のもを用いることもできる。
いずれの場合も,ステアリングステム20の軸線方向(図4において上下方向)の長さに関し,シール部材25を配置するために形成するステムワッシャ24の内側空間の長さL1をシール部材25の厚さTよりも小さくする。
【0023】
このように構成すると,ロックナット23の締め付け過程においてシール部材25をステアリングステム20のネジ部21へ向けて弾性変形させ,ネジ部21へのシール部材25の密着性を向上させることができる。
なお,シール部材25の厚さTは,ステムワッシャ24の内側空間の長さL1を超え,長さL1の1.5倍程度までとするのが望ましい。
【0024】
シール部材の断面形状を矩形とする場合には,図4(c)に示すように,シール部材25におけるロックナット23との当接面25t1における外側角部25c1およびステムナット22との当接面25t2における外側角部25c2をそれぞれ面取りする。
仮に,シール部材25における上記外側角部25c1,25c2を面取りしていないとすると,ロックナット23の締め付け過程で,図4(d)に示すように,上記角部25c1,25c2が,ステムワッシャ24とロックナット23との当接面23tおよび/またはステムワッシャ24とステムナット22との当接面22tに侵入することによって,ステムワッシャ24とロックナット23および/またはステムナット22との直接的な当接状態が損なわれたり低減されるおそれがある。
【0025】
これに対し,上記面取りを施すことで,その角部25c1,25c2の上記侵入を防止または抑制できる。
したがって,ステムワッシャ24と,ロックナット23,ステムナット22双方との直接的な当接状態が確保されてロックナット23の機能が確保され,結果として,組付け性を向上させることができるとともに,管理工数を削減することができる。
【0026】
図5は他の実施の形態のヘッドパイプ上部を示す図で,(a)は部分省略平面図,(b)は断面図である。これらの図において上述した実施の形態と同一部分ないし相当する部分には同一の符号を付してある。
この実施の形態が上述した実施の形態と異なる点はステムワッシャ24の形状にありその他の点に変わりはない。
【0027】
この実施の形態のステムワッシャ24は,円環部24bと,この円環部24bの外周部から一体に垂下する垂下部24cとを有している。このステムワッシャ24は,円環部24bの内周面24dをステアリングステム20の外周に当接させる。シール部材25は,垂下部24cの内側に配置されている。
このように構成すると,ステムワッシャ24とステアリングステム20との同心度を確保することができるので,ステムワッシャ24を介したシール部材25の変形の均一化を図ることができる。
【0028】
この実施の形態においても,ステムワッシャ24はロックナット23とステムナット22の双方に直接当接している。その効果は前述したと同様である。
図5に示すように,ステアリングステム20の軸線方向から見て,ロックナット23とステムワッシャ24との当接部(この場合当接面)23tと,ステムワッシャ24とステムナット22との当接部22tとは,少なくとも一部において重複している。重複部分を図5(b)において符号OLで,図5(a)において符号OLと斜線部分で示す。重複部分OLにおいて,ロックナット23の作用(軸方向への力F)がステムワッシャ24を介してステムナット22に直線的に伝達されるため,ロックナット23の機能が確保されている。
【0029】
この実施の形態においても,シール部材25としては,断面形状が図6(a)に示すような円形のものを用いることもできるし,図6(b)に示すような矩形のもを用いることもできる。
いずれの場合も,ステアリングステム20の軸線方向(図6において上下方向)の長さに関し,シール部材25を配置するために形成するステムワッシャ24の内側空間の長さL1をシール部材の厚さTよりも小さくする。その効果は前述したと同様である。
【0030】
シール部材の断面形状を矩形とする場合には,図6(c)に示すように,シール部材25におけるステムナット22との当接面25t2における外側角部25c2を面取りする。これにより,ロックナット23の締め付け過程で,上記角部25c2がステムワッシャ24とステムナット22との当接面22tに侵入することを防止または抑制できる。
【0031】
この実施の形態では,シール部材25の上部がステムワッシャ24の円環部24bで覆われ,円環部24bの内周面24dがステアリングステム20の外周に当接しているので,シール部材25はステムワッシャ24とロックナット23との間には侵入し得ない。
したがって,ステムワッシャ24と,ロックナット23,ステムナット22双方との直接的な当接状態が確保されてロックナット23の機能が確保され,結果として,組付け性を向上させることができるとともに,管理工数を削減することができる。
【0032】
図7はさらなる他の実施の形態の主要構成を示す分解斜視図,図8(a)は主としてシール部材25を示す平面図で,図8(b)はシール部材25の変形例を示す平面図である。なお,この実施の形態における要部断面図は,図3(b)または図5(b)と同一である。図7,図8において上述した実施の形態と同一部分ないし相当する部分には同一の符号を付してある。
【0033】
この実施の形態が上述した実施の形態と異なる点はステアリングステム20とハンドル30との結合構造,ステムワッシャ24の平面形状,およびシール部材25の平面形状にありその他の点に変わりはない。
この実施の形態におけるステアリングステム20の上部には,ステアリングステム20の軸線方向に延びるキー溝20kが形成されている。このキー溝20kはネジ部21に対しても設けられている。
一方,ハンドル30の中心パイプ部31の内部には,キー溝20kに嵌り合うキー31kが形成されている。中心パイプ部31の後部には,上記実施の形態同様にスリット31sと一対の締め付け片31bが設けられている。
【0034】
ハンドル30は,そのキー31kをステアリングステム20のキー溝20kに嵌め合わせるようにして中心パイプ部31にステアリングステム20の上部を挿入し,その後,一対の締め付け片31b,31bにボルト32bを挿通してこのボルト32bとナット32nとで一対の締め付け片31b,31bをそれらの間隔を狭めるように締め付けることで,ステアリングステム20の上部に固定される。
【0035】
この実施の形態ように,ステアリングステム20のネジ部21に,ステアリングステム20の軸線方向に延びるキー溝20kが形成されている場合には,図8(a)に示すように,シール部材25には,キー溝20kに入り込む凸部25pを一体に形成する。
このように構成すると,キー溝20kを介してのヘッドパイプ2h内方への水等の浸入をシール部材25で抑制することができる。
望ましくは,ステムワッシャ24の平面形状も図8(a)に示すように,シール部材25の平面形状に適合させた形状,すなわち,キー溝20kに入り込む凸部24pを有する形状とする。
【0036】
また望ましくは,図8(b)に示すように,前記シール部材25の凸部25pの基部両側には,環状部25rの内周を外側に凹ませた切り欠き部25cを形成する。
このように構成すると,シール部材25を圧縮して弾性変形させた際の,凸部25pの基部両側における過剰な変形を抑制することで,環状部25rおよび凸部25pのステアリングステム20への密着性を向上させてシール性を向上させることができる。
【0037】
仮に上記切り欠き部25cを設けないとすると,シール部材25を圧縮して弾性変形させた際,凸部25pの基部両側には凸部25pからの膨張と環状部25rからの膨張とが重複して作用するから,その反作用で,凸部25pの基部両側に過剰な変形が生じて環状部25rおよび凸部25pのステアリングステム20への密着性が低下するおそれがある。
これに対し,凸部25pの基部両側に上記切り欠き部25cを形成することで,凸部25pの基部両側における過剰な変形を抑制し,ステアリングステム20への密着性を向上させることができる。
【0038】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく,本発明の要旨の範囲内において適宜変形実施可能である。
例えば,この実施の形態では,ステムナット22,ロックナット23,ステムワッシャ24,およびシール部材25からなるシール構造をヘッドパイプ2hの上部(上側の軸受部材11)に対して適用したが,ヘッドパイプ2hの下部(下側の軸受部材12)に対して適用することも可能である。その場合の構造は,図3または図5の天地を逆にした状態となるる。ただし,マッドガードは,ヘッドパイプ2hの下部に取り付け,ヘッドパイプ2hの下部からロックナット23までを覆う形状とすることができる。
【符号の説明】
【0039】
2 車体フレーム
2h ヘッドパイプ
11 軸受部材
20 ステアリングステム
20k キー溝
21 ネジ部
22 ステムナット
23 ロックナット
24 ステムワッシャ
24b 円環部
24c 垂下部
25 シール部材
25p 凸部
25c 切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに設けられたヘッドパイプと,
このヘッドパイプに対し,該ヘッドパイプに設けられた軸受部材を介して回動自在に支持されたステアリングステムと,
このステアリングステムに設けられたネジ部に螺合されて,前記軸受部材を位置決めするステムナットと,
前記ステアリングステムに設けられたネジ部に螺合されて,前記ステムナットの回動を防止するロックナットと,
前記ステムナットとロックナットとの間に介装された環状のステムワッシャと,を備えた鞍乗型車両用操舵装置であって,
前記ステムナットとロックナットとの間において,前記ステムワッシャの内側に環状のシール部材を配置して該シール部材の内周面を前記ネジ部に当接させるとともに,前記ステムワッシャを前記ロックナットとステムナットの双方に直接当接させたことを特徴とする鞍乗型車両用操舵装置。
【請求項2】
前記ステアリングステムの軸線方向から見て,前記ロックナットとステムワッシャとの当接部と,前記ステムワッシャとステムナットとの当接部とが,少なくとも一部において重複していることを特徴とする請求項1記載の鞍乗型車両用操舵装置。
【請求項3】
前記環状のシール部材の断面形状を矩形とするとともに,前記ステアリングステムの軸線方向の長さに関し,前記シール部材を配置するために形成するステムワッシャの内側空間の長さを前記シール部材の厚さよりも小さくし,前記シール部材における前記ロックナットおよび/またはステムナットとの当接面における外側角部を面取りしたことを特徴とする請求項1または2記載の鞍乗型車両用操舵装置。
【請求項4】
前記ステアリングステムのネジ部に,ステアリングステムの軸線方向に延びるキー溝が形成されており,前記シール部材には,前記キー溝に入り込む凸部が一体に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両用操舵装置。
【請求項5】
前記凸部の基部両側には,前記環状部内周を外側に凹ませた切り欠き部を形成したことを特徴とする請求項4記載の鞍乗型車両用操舵装置。
【請求項6】
前記ステムワッシャは,円環部と,この円環部の外周部から一体に垂下する垂下部とを有し,前記円環部の内周面を前記ステアリングステムに当接させ,前記垂下部の内側に前記シール部材を配置したことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両用操舵装置。
【請求項7】
前記ステムワッシャは,円環状の平板で構成し,前記シール部材が前記ロックナット及びステムナットに当接することを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の鞍乗型車両用操舵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−168171(P2011−168171A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33819(P2010−33819)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】