説明

音場空間制御システム

【課題】音響効果がよい所定の空間に具現される音質の音を他の空間に再現することができる音場空間制御システムを提供する。
【解決手段】音場空間制御システム10Aでは、差分信号出力装置26,27,31,32が音楽を目標音波に近似させるための周波数特性変更要素や残響特性変更要素を含む差分信号を生成し、干渉信号生成装置25,30がリファランスマイクロフォン13から受信した第1信号と差分信号出力装置26,27,31,32から受信した差分信号とを用いて第2音波となる干渉信号を生成する。このシステム10Aは、音楽と第2音波とを干渉させることで、音楽のうちの所定の周波数帯を増幅、減衰、消音するとともに、音楽の残響特性を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源から発生して音場空間を伝播する音を制御する音場空間制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
演奏者または歌唱者が携帯し、演奏音または歌唱音をオーディオ信号として送信するワイヤレスマイクと、ワイヤレスマイクから送信されたオーディオ信号を受信する複数のオーディオ信号受信装置と、それらオーディオ信号受信装置が受信したオーディオ信号の受信電界強度に基づいてそのオーディオ信号の送信元であるワイヤレスマイクの所在位置を測位する位置測位手段と、位置測位手段によって測位された所在位置に音像位置を有する音が複数のスピーカによって出力されるように、それらオーディオ信号受信装置の出力信号からそれらスピーカを駆動する信号を合成する音像定位制御装置とから形成された音場制御システムがある。
【0003】
この音場制御システムにおける制御手順を説明すると、以下のとおりである。楽器演奏者や歌唱者がステージ上を移動しながら楽器を演奏しまたは歌唱曲を歌うと、演奏音や歌唱音がオーディオ信号としてワイヤレスマイクから送信され、そのオーディオ信号がオーディオ信号受信装置に受信される。位置測位手段では、それらオーディオ信号受信装置が受信したオーディオ信号の受信電界強度に基づいてワイヤレスマイクの所在位置を測位する。音像定位制御装置では、複数のスピーカから出力される音の音像位置がワイヤレスマイクの所在位置に定位するように、各スピーカに供給する駆動信号のレベル調整を行う。
【特許文献1】特開2006−324999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンサートホールやライブハウス、オペラハウス等の音楽堂の内部空間では、その箇所によって音響効果が異なり、演奏者や歌唱者から伝搬した音楽の音質が異なる。したがって、音楽堂は、最も音響効果がよく、最上の音質の音楽を聴くことができるS席、S席の次に音響効果がよく、S席の次によい音質の音楽を聴くことができるA席、音響効果がS席やA席よりも劣り、A席の次の音質の音楽を聴くことができるB席等に区分されている。前記特許文献1に開示の音場制御システムは、演奏音や歌唱音の発生位置を特定し、その位置の音像に定位したスピーカ再生音を得ることができ、臨場感に富んだ音場を形成することができる。しかし、この音場制御システムは、コンサートホールやライブハウス、オペラハウス等の音楽堂の所定の空間に具現される音質の音楽をその音楽堂の他の空間に再現することはできない。ゆえに、この音場制御システムを利用したとしても、音楽堂の最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質の音楽をその音楽堂の他の空間に再現することはできず、A席やB席にいながらS席の音質の音楽を聴取することはできない。
【0005】
本発明の目的は、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質の音を他の空間に再現することができる音場空間制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明にかかる音場空間制御システムは、音場空間に第1音波を発生する音源から所定寸法離間して配置され、音源から音場空間を伝播する第1音波に干渉する第2音波を該音場空間に発生する第1〜第nの音波発生装置と、音源とそれら音波発生装置との間に配置され、第1音波と第2音波との合成音波を検出し、検出した合成音波を第1信号として出力する合成音波検出センサと、第1〜第nの音波発生装置を挟んで合成音波検出センサから所定寸法離間して配置され、第1音波と第2音波との干渉によって生じた干渉音波を検出し、検出した干渉音波を第2信号として出力する第1〜第nの干渉音波検出センサと、音源から所定寸法離間して音場空間の任意の箇所に配置され、音場空間を伝播する第1音波のうちの目標音波を検出し、検出した目標音波を第3信号として出力する目標音波検出センサと、第1〜第nの干渉音波検出センサと対応関係を有し、干渉音波検出センサから第2信号を受信しつつ目標音波検出センサから第3信号を受信し、第2信号と第3信号との差を示す差分信号を出力する第1〜第nの差分信号出力装置と、第1〜第nの音波発生装置と対応関係を有し、合成音波検出から受信した第1信号と第1〜第nの差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて第2音波となる干渉信号を生成し、生成した干渉信号を第1〜第nの音波発生装置に出力する第1〜第nの干渉信号生成装置とを有する。
【0007】
本発明にかかる音場空間制御システムの一例として、この音場空間制御システムでは、第1音波に前記第2音波を干渉させることで、第1音波の所定の周波数帯を増幅、減衰、消音するとともに、第1音波の残響時間を調整し、それにより、音場空間内の所定の箇所における周波数特性および残響特性をその音場空間内の他の箇所に再現する。
【0008】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例として、このシステムは、第1〜第nの音波発生装置と対応関係を有し、それら音波発生装置から合成音波検出センサに達する第2音波を推定した擬似フィードバック信号を生成する第1〜第nの擬似フィードバック信号生成フィルタと、合成音波検出センサから第1信号を受信しつつそれら擬似フィードバック信号生成フィルタから擬似フィードバック信号を受信し、第1信号から擬似フィードバック信号を除いた第4信号を出力する第1〜第nの第4信号出力装置とを含み、干渉信号生成装置は、第4信号出力装置から受信した第4信号と差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて干渉信号を生成する。
【0009】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例として、干渉信号生成装置は、干渉信号を生成するためのアダプティブデジタルフィルタと、差分信号出力装置から受信した差分信号を用いてアダプティブデジタルフィルタを更新する適応制御演算部とから形成されている。
【0010】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例として、干渉信号生成装置は、音波発生装置から干渉音波検出センサまでの時系列伝達特性を模擬するデジタルフィルタを含み、適応制御演算部は、デジタルフィルタが模擬する時系列伝達特性と差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いてアダプティブデジタルフィルタを更新する。
【0011】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例としては、音源から目標音波検出センサまでの距離が音源から干渉音波検出センサまでの距離と略同一または音源から干渉音波検出センサまでの距離よりも長い。
【0012】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例としては、音源から目標音波検出センサまでの距離が音源から干渉音波検出センサまでの距離よりも短く、目標音波検出センサと差分信号出力装置との間には、音源から目標音波検出センサに目標音波が伝播するまでの時間遅延を補正する時間遅延補正装置が接続されている。
【0013】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例としては、音場空間制御システムにおけるサンプリング周波数が3kHz〜40kHzの範囲にある。
【0014】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例としては、干渉音波検出センサの個数が音波発生装置の個数と同数または該音波発生装置の個数よりも多い。
【0015】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例としては、音波発生装置と干渉音波検出センサとが干渉音波を聴取する聴衆の近傍に配置される。
【0016】
本発明にかかる音場空間制御システムの他の一例としては、音場空間がコンサートホール、多目的ホール、ライブハウス、オペラハウス、講義室、リスニングルームのいずれかの内部空間であり、第1音波が音楽若しくは音声である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る音場空間制御システムによれば、第1〜第nの差分信号出力装置が第1音波を目標音波に近似させるための周波数特性変更要素や残響特性変更要素を含む差分信号を生成し、第1〜第nの干渉信号生成装置が合成音波検出センサから受信した第1信号と差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて第2音波となる干渉信号を生成するから、第1音波と第2音波とを干渉させることで、目標音波検出センサの位置の空間に具現された音質および残響の音を干渉音波検出センサの位置の空間に再現することができる。この音場空間制御システムは、目標音波検出センサが位置する空間の音響効果が最もよく、その空間の音の音質や残響が最上の場合、その音質や残響の音を他の空間において再現することができるから、音場空間のうちの最も音響効果がよい空間の良好な音響環境を他の空間に適用することができ、音場空間のいかなる箇所においても最上の音質や残響の音を聴取することができる。
【0018】
音場空間制御システムは、第1〜第nの音波発生装置を配置して、第2音波をそれら音波発生装置から音場における制御対象の三次元空間に満遍なく伝播させることで、その三次元空間に広がる第1音波に第2音波を確実に干渉させることができ、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質や残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。この音場空間制御システムは、第1〜第nの干渉音波検出センサを配置し、音場における制御対象の三次元空間に広がる干渉音波をそれら干渉音波検出センサに検出させることで、第1音波を目標音波に限りなく近似させることができ、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質や残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。
【0019】
第1音波に第2音波を干渉させることで、第1音波の所定の周波数帯を増幅、減衰、消音するとともに、第1音波の残響時間を調整する音場空間制御システムは、第2音波を利用して第1音波の周波数特性を調整することができ、第1音波の残響特性を調整することができる。この音場空間制御システムは、目標音波検出センサの位置の空間に具現された音質および残響の音を干渉音波検出センサの位置の空間に再現することができるから、目標音波検出センサが位置する空間の音響効果が最もよく、その空間の音の音質や残響が最上の場合、その音質や残響の音を他の空間において再現することができ、音場空間のいかなる箇所においても最上の音質や残響の音を聴取することができる。
【0020】
擬似フィードバック信号生成フィルタが音波発生装置から合成音波検出センサに達する第2音波を推定した擬似フィードバック信号を生成するとともに、第4信号出力装置が第1信号から擬似フィードバック信号を除いた第4信号を出力し、干渉信号生成装置が第4信号出力装置から受信した第4信号と差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて干渉信号を生成する音場空間制御システムは、音波発生装置から合成音波検出センサまでの時系列伝達特性を反映させた状態で、第4信号出力装置が合成信号から第2音波と推定し得る擬似フィードバック信号を除いた第4信号を生成し、その第4信号を干渉信号生成装置に出力するから、干渉信号生成装置に出力される第4信号に、合成音波検出センサに達する第2音波を推定した擬似フィードバック信号が含まれることはなく、合成音波検出センサにおけるハウリングを防ぐことができる。第2音波となる干渉信号を含む合成信号がそのまま干渉信号生成装置に出力されると、干渉信号を増幅、減衰、消音する音波を含んだ干渉信号や干渉信号の残響特性を調整する音波を含んだ干渉信号が生成されてしまうが、この音場空間制御システムでは、合成信号から擬似フィードバック信号を除いた第4信号が干渉信号生成装置に出力されるから、干渉信号にそれを増幅、減衰、消音する音波やそれの残響特性を調整する音波が含まれることはない。
【0021】
この音場空間制御システムは、干渉信号生成装置が第4信号出力装置から受信した第4信号と差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて干渉信号を生成するから、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。この音場空間制御システムは、目標音波検出センサが位置する空間の音響効果が最もよく、その空間の音の音質や残響が最上の場合、その音質や残響の音を他の空間において再現することができ、音場空間のいかなる箇所においても最上の音質や残響の音を聴取することができる。
【0022】
干渉信号生成装置がアダプティブデジタルフィルタと適応制御演算部とから形成された音場空間制御システムは、適応制御演算部がアダプティブデジタルフィルタを更新しつつ、そのアダプティブデジタルフィルタによって干渉信号が生成されるから、干渉音波検出センサが位置する空間の音響環境の変化や差分信号の変化に追従しつつ、第1〜第nの音波発生装置から発生する第2音波を利用することで、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。この音場空間制御システムは、目標音波検出センサが位置する空間の音響効果が最もよく、その空間の音の音質や残響が最上の場合、その音質や残響の音を他の空間において再現することができ、音場空間のいかなる箇所においても最上の音質や残響の音を聴取することができる。
【0023】
干渉信号生成装置がデジタルフィルタを含む音場空間制御システムは、デジタルフィルタによって音波発生装置から干渉音波検出センサまでの時系列伝達特性が適用されるから、適応制御演算部が音波発生装置から干渉音波検出センサまでの時系列伝達特性を考慮しつつ差分信号を用いてアダプティブデジタルフィルタを更新することができ、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。この音場空間制御システムは、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質や残響の音を他の空間において聴取することができる。
【0024】
音源から目標音波検出センサまでの距離が音源から干渉音波検出センサまでの距離と略同一または音源から干渉音波検出センサまでの距離よりも長い音場空間制御システムは、干渉音波検出センサから出力される第2信号と目標音波検出センサから出力される第3信号との間の因果性を保持することができるから、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。この音場空間制御システムは、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質や残響の音を他の空間において聴取することができる。
【0025】
音源から目標音波検出センサまでの距離が音源から干渉音波検出センサまでの距離よりも短く、音源から干渉音波検出センサに第1音波が伝播するまでの時間遅延を補正する時間遅延補正装置が目標音波検出センサと差分信号出力装置との間に接続された音場空間制御システムは、時間遅延補正装置によって音源から干渉音波検出センサに第1音波が伝播するまでの時間遅延が補正され、音源から干渉音波検出センサに第1音波が伝播するまでの時間と音源から目標音波検出センサに目標音波が伝播するまでの時間とを一致させることができ、干渉音波検出センサから出力される第2信号と目標音波検出センサから出力される第3信号との間の因果性を保持することができる。この音場空間制御システムは、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができ、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質や残響の音を他の空間において聴取することができる。
【0026】
サンプリング周波数が3kHz〜40kHzの範囲にある音場空間制御システムは、システムが単位時間内に前記周波数でサンプリングするから、第1音波を目標音波に限りなく近似させることができ、音波発生装置から発生する第2音波を利用することで、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。この音場空間制御システムは、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質や残響の音を他の空間において聴取することができる。
【0027】
干渉音波検出センサの個数が音波発生装置の個数と同数または音波発生装置の個数よりも多い音場空間制御システムは、前記個数の干渉音波検出センサを配置し、音場の制御対象の三次元空間に広がる干渉音波をそれら干渉音波検出センサに検出させることで、第1音波を目標音波に限りなく近似させることができ、音波発生装置から発生する第2音波を利用することで、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を干渉音波検出センサが位置する空間に確実に再現することができる。この音場空間制御システムは、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質や残響の音を他の空間において聴取することができる。
【0028】
音波発生装置と干渉音波検出センサとが干渉音波を聴取する聴衆の近傍に配置される音場空間制御システムは、目標音波検出センサが位置する空間に具現される音質および残響の音を聴衆が位置する空間に確実に再現することができ、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質や残響の音を聴衆が聴取することができる。
【0029】
音場空間がコンサートホール、多目的ホール、ライブハウス、オペラハウス講義室、リスニングルームのいずれかの内部空間であり、第1音波が音楽若しくは音声である音場空間制御システムは、最も音響効果がよい所定の空間に具現される最上の音質および残響の音楽または音声を他の空間において聴取することができ、たとえば、A席やB席にいながらS席の音質や残響の音楽や音声を聴取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
添付の図面を参照し、本発明に係る音場空間制御システムの詳細を説明すると、以下のとおりである。図1は、一例として示す音場空間制御システム10Aの構成図であり、図2は、このシステム10Aを利用した音場空間12の一例を示す概念図である。図3は、応答特性を説明する図であり、図4は、マイクロフォン13,14,15とスピーカ17,19との間の時系列伝達特性を表す図である。図5は、音源11から目標マイクロフォン16までの距離L1と音源11からエラーマイクロフォン14,15までの距離L2との関係を示す図である。
【0031】
図2では、縦方向を矢印X、前後方向を矢印Yで示し、横方向を矢印Zで示す。図2の音場空間12は、コンサートホール、多目的ホール、ライブハウス、オペラハウス、講義室、リスニングルームのいずれかの内部空間を示す。図4では、調整用スピーカ17,18からリファランスマイクロフォン13までの時系列伝達特性を(Hr)で示し、調整用スピーカ17,18からエラーマイクロフォン14,15までの時系列伝達特性を(C)で示す。図2では、聴衆21,22を4人図示しているが、実際には多数の聴衆が存在し、それら聴衆の近傍にマイクロフォン14,15やスピーカ17,19が配置される。なお、図2では、聴衆2人のグループにマイクロフォン14,15やスピーカ17,19が配置されているが、聴衆4人のグループにマイクロフォン14,15やスピーカ17,19が配置されてもよく、聴衆8人のグループにマイクロフォン14,15やスピーカ17,19が配置されてもよい。
【0032】
この音場空間制御システム10Aは、第1および第2の2系統(2チャンネル)の制御ユニットを利用し、音源11から発生して音場空間12を伝搬する音を制御している。しかし、制御ユニットの数に特に限定はなく、ユニットが1系統、4系統、8系統、16系統等であってもよい。なお、このシステム10Aにおけるサンプリング周波数は、3kHz〜40kHzの範囲、好ましくは、10kHz〜40kHzの範囲、より好ましくは、20kHz〜40kHzの範囲にある。
【0033】
音源11は、楽団が演奏する音楽、歌手が歌う歌(音楽)、スピーカから出力される音楽放送、講演者の話し声を例示することができる。なお、音源11から発生する音には、音楽や音声のみならず、鳴き声、自然環境の音、効果音等の他のあらゆる音が含まれる。音源11は、音場空間12の内部に存在する。なお、音場空間12をコンサートホールや多目的ホール、ライブハウス、オペラハウス、講義室、リスニングルームの内部空間に限定するものではなく、車や飛行機、電車等の乗り物内の空間、ビルや一般家屋、野外ホール、体育館、室内運動場、ドーム球場、野外球場、ドームサッカー場、野外サッカー場等の建造物内の空間の他のあらゆる音場空間にこのシステム10Aを利用することができる。
【0034】
第1の制御ユニットは、リファランスマイクロフォン13(合成音波検出センサ)と、第1および第2のエラーマイクロフォン14,15(第1および第2の干渉音波検出センサ)と、目標マイクロフォン16(目標音波検出センサ)と、第1の調整用スピーカ17(第1の音波発生装置)と、第1のコントローラ18とから形成されている。リファランスマイクロフォン13やエラーマイクロフォン14,15、目標マイクロフォン16、調整用スピーカ17は、インターフェイスを介してコントローラ18に接続されている。
【0035】
第2の制御ユニットは、リファランスマイクロフォン13(合成音波検出センサ)と、第1および第2のエラーマイクロフォン14,15(第2の干渉音波検出センサ)と、目標マイクロフォン16(目標音波検出センサ)と、第2の調整用スピーカ19(第2の音波発生装置)と、第2のコントローラ20とから形成されている。リファランスマイクロフォン13やエラーマイクロフォン14,15、目標マイクロフォン16、調整用スピーカ19は、インターフェイスを介してコントローラ20に接続されている。第1および第2の制御ユニットは、1つのリファランスマイクロフォン13および1つの目標マイクロフォン16を共用し、第1および第2のエラーマイクロフォン14,15を共用している。
【0036】
なお、制御ユニットが4系統の場合は、第1〜第4のエラーマイクロフォンや調整用スピーカ、コントローラを必要とし、制御ユニットが8系統の場合は、第1〜第8のエラーマイクロフォンや調整用スピーカ、コントローラを必要とする。制御ユニットの数に限定がない以上、制御ユニットを第n系統まで設置することができる。この場合は、第1〜第nのエラーマイクロフォン、第1〜第nの調整用スピーカ、第1〜第nのコントローラを必要とする。エラーマイクロフォン14,15の個数は調整用スピーカ17,19のそれと同数であるが、エラーマイクロフォンの個数が調整用スピーカのそれより多くてもよく、エラーマイクロフォンの個数≧調整用スピーカの個数である。
【0037】
リファランスマイクロフォン13は、音場空間12において音源11の近傍に配置されている。ここで、音源11の近傍とは、音源11から音の伝播方向へ約1〜100cm離間した位置をいう。なお、リファランスマイクロフォン13は、音源11の近傍に配置されることが好ましいが、音源11と調整用スピーカ17,19との間であって音源11から所定寸法離間した位置に配置されていればよく、必ずしも音源11の近傍に配置される必要はない。リファランスマイクロフォン13には、それが検出した音波を増幅するアンプ(図示せず)が接続されている。コントローラ18,20とアンプとの間には、A/D変換装置(図示せず)が接続されている。
【0038】
リファランスマイクロフォン13は、音源11から発生するアナログの音楽(第1音波)と調整用スピーカ17,19から発生する後記するアナログの第2音波との合成音波を検出し、検出した合成音波をアンプに出力する。ただし、システム10Aの起動時では、リファランスマイクロフォン13は音楽のみを検出する。合成音波は、アンプにおいて増幅された後、A/D変換装置においてデジタルの第1入力信号(第1信号)に変換される。第1入力信号は、A/D変換装置からコントローラ18,20に出力される。
【0039】
第1および第2の調整用スピーカ17,19は、音場空間12において聴衆21,22の近傍に配置されている。ここで、聴衆21,22の近傍とは、聴衆21,22の耳から約3〜100cm離間した位置をいう。なお、それら調整用スピーカ17,19は、聴衆21,22の近傍に配置されることが好ましいが、リファランスマイクロフォン13を挟んで音源11から所定寸法離間した位置に配置されていればよく、必ずしも聴衆21,22の近傍に配置される必要はない。調整用スピーカ17,19は、音楽と干渉する第2音波を音場空間12に発生する。調整用スピーカ17,19には、第2音波を増幅するアンプ(図示せず)が接続されている。コントローラ18,20とアンプとの間には、D/A変換装置(図示せず)が接続されている。
【0040】
第1および第2のエラーマイクロフォン14,15は、音場空間12において調整用スピーカ17,19と聴衆21,22との間(聴衆21,22の近傍)に配置されている。ここで、聴衆21,22の近傍とは、聴衆21,22の耳から約1〜100cm離間した位置をいう。なお、それらエラーマイクロフォン14,15は、聴衆21,22の近傍に配置されることが好ましいが、調整用スピーカ17,19を挟んでリファランスマイクロフォン13から所定寸法離間した位置に配置されていればよく、必ずしも聴衆21,22の近傍に配置される必要はない。エラーマイクロフォン14,15には、検出した音波を増幅するアンプ(図示せず)が接続されている。コントローラ18,20とアンプとの間には、A/D変換装置(図示せず)が接続されている。
【0041】
エラーマイクロフォン14,15は、音楽(第1音波)と第2音波との干渉によって生じた干渉音波を検出し、検出した干渉音波をアンプに出力する。ただし、システム10Aの起動時では、エラーマイクロフォン14,15は音楽のみを検出する。干渉音波は、アンプにおいて増幅された後、A/D変換装置においてデジタルの第2入力信号(第2信号)に変換される。第2入力信号は、A/D変換装置からコントローラ18,20に出力される。
【0042】
目標マイクロフォン16は、音場空間12のうち、音響効果が最もよく、最上の音質および残響の音楽を聴くことができる箇所に配置されている。なお、目標マイクロフォン16は、音源11から所定寸法離間して音場空間12の任意の箇所に配置されていればよく、必ずしも最上の音質や残響の音楽を聴くことができる箇所に配置される必要はない。音源11から目標マイクロフォン16までの距離L1は、図5に示すように、音源11からエラーマイクロフォン14,15までの距離L2よりも長い。なお、音源11から目標マイクロフォン16までの距離L1が音源11からエラーマイクロフォン14,15までの距離L2と略同一であってもよい。目標マイクロフォン16には、検出した音波を増幅するアンプ(図示せず)が接続されている。コントローラ18,20とアンプとの間には、A/D変換装置(図示せず)が接続されている。
【0043】
目標マイクロフォン16は、音場空間12を伝播する音楽(第1音波)のうち、それが設置された箇所に広がる目標音波(音楽)を検出し、検出した目標音波をアンプに出力する。目標音波は、アンプにおいて増幅された後、A/D変換装置においてデジタルの第3入力信号(第3信号)に変換される。第3入力信号は、A/D変換装置からコントローラ18,20に出力される。
【0044】
第1のコントローラ18は、第1の擬似フィードバック信号生成フィルタ23、第1の第4信号出力装置24、第1の干渉信号生成装置25、第1の差分信号出力装置26,27を備えている。第2のコントローラ20は、第2の擬似フィードバック信号生成フィルタ28、第2の第4信号出力装置29、第2の干渉信号生成装置30、第2の差分信号出力装置31,32を備えている。コントローラ18,20は、図示はしていないが、フィルタ23,28やそれら装置24,25,26,27,29,30,31,32に各種手段を実行させる中央処理部と各種複数のデータを格納する大容量記憶部(メモリ)とを有するコンピュータである。コントローラ18,20の中央処理部には、畳み込み演算を高速に処理するDSP(Digital
Signal Processor)が利用されているが、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)を利用することもできる。制御ユニットを第n系統まで設置する場合は、第1〜第nの擬似フィードバック信号生成フィルタ、第1〜第nの第3信号出力装置、第1〜第nの干渉信号生成装置、第1〜第nの差分信号出力装置を必要とする。
【0045】
コントローラ18,20は、フィルタ23,28やそれら装置24,25,26,27,29,30,31,32を介して所定の干渉信号を生成し、調整用スピーカ17,19を介して第2音波を音場空間12に発生させ、音楽と第2音波との干渉を利用することで、音楽のうちの所定の周波数帯を増幅、減衰、消滅させる。また、音楽と第2音波との干渉を利用することで、音楽の残響特性を調整する。コントローラ18,20には、図示はしていないが、キーボードやマウス等の入力装置、ディスプレイやプリンタ等の出力装置がインターフェイスを介して接続されている。
【0046】
記憶部の内部アドレスファイルには、中央処理部を介してフィルタ23,28やそれら装置24,25,26,27,29,30,31,32にこのシステム10Aの各手段を実行させるためのアプリケーションが格納されている。コントローラ18,20の中央処理部は、記憶部に記憶されたオペレーティングシステムによる制御に基づいて、記憶部からアプリケーションを起動し、起動したアプリケーションに従って、フィルタ23,28やそれら装置24,25,26,27,29,30,31,32に以下の各手段を実行させる。中央処理部は、干渉信号生成装置25,30にデジタルの干渉信号を生成させ(干渉信号生成手段)、擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28にデジタルの擬似フィードバック信号を生成させる(擬似フィードバック信号生成手段)。中央処理部は、干渉信号を干渉信号生成装置25,30から調整用スピーカ17,19に出力させ(干渉信号出力手段)、擬似フィードバック信号を擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28から第4信号出力装置24,29に出力させる(擬似フィードバック信号出力手段)。
【0047】
干渉信号とは、音源11から発生して音場空間12を伝播する音楽のうち、特定の周波数帯を増幅させる第2音波となる信号、または、音楽のうち、特定の周波数帯を減衰させる第2音波となる信号、あるいは、音楽のうち、消音させる特定の周波数帯の第2音波となる信号、さらに、音源11から発生して音場空間12を伝播する音楽の残響特性を調整する第2音波となる信号である。擬似フィードバック信号とは、調整用スピーカ17,19からリファランスマイクロフォン13に達する第2音波と推定(同一視)し得る信号である。
【0048】
コントローラ18,20の中央処理部は、第4信号出力装置24,29に第1入力信号から擬似フィードバック信号を除いて第4入力信号(第4信号)を生成させ(第4信号生成手段)、その第4入力信号を第4信号出力装置24,29から干渉信号生成装置25,30に出力させる(第4信号出力手段)。中央処理部は、差分信号出力装置26,27,31,32に第2入力信号と第3入力信号との差を表すそれら信号の差分を演算させて差分信号を生成させ(差分信号生成手段)、その差分信号を差分信号出力装置26,27,31,32から干渉信号生成装置25,30に出力させる(差分信号出力手段)。
【0049】
それら擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28は、図4に示すように、調整用スピーカ17,19からリファランスマイクロフォン13までの時系列伝達特性(Hr)を模擬する。フィルタ23,28は、あらかじめ推定した調整用スピーカ17,19からリファランスマイクロフォン13までの音伝達経路における時系列伝達特性(Hr)(インパルス応答)を反映させた状態で第4信号出力装置24,29が第1入力信号から擬似フィードバック信号を減算し得るように、第4信号出力装置24,29に対してフィードフォワード制御を実行する。時系列伝達特性60は、図3に示すように、音源61から発生した音波62(パルス)が音伝送経路63を伝播して受音点64に達したときのその受音点64における応答特性である。すなわち、時系列伝達特性(Hr)は、調整用スピーカ17,19から発生した第2音波が音場空間12を伝播してリファランスマイクロフォン13に達したときのそのマイクロフォン13の位置における第2音波の応答特性を示している。
【0050】
第1の干渉信号生成装置25は、第1〜第2のデジタルフィルタ33,34(第2デジタルフィルタ)と、第1のアダプティブデジタルフィルタ35と、アダプティブデジタルフィルタ35を更新する第1〜第2の適応制御演算部36,37(Filterd−XLMSアルゴリズム)とから形成されている。第2の干渉信号生成装置30は、第3〜第4のデジタルフィルタ38,39(第2デジタルフィルタ)と、第2のアダプティブデジタルフィルタ40と、アダプティブデジタルフィルタ40を更新する第3〜第4の適応制御演算部41,42(Filterd−XLMSアルゴリズム)とから形成されている。
【0051】
それらデジタルフィルタ33,34,38,39は、図4に示すように、調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15までの時系列伝達特性(C)を模擬する。デジタルフィルタ33,34,38,39は、あらかじめ推定した調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15までの音伝達経路における時系列伝達特性(C)(インパルス応答)を反映させた状態で適応制御演算部36,37,41,42がアダプティブデジタルフィルタ35,40を更新し得るように、適応制御演算部36,37,41,42に対してフィードフォワード制御を実行する。時系列伝達特性(C)は、調整用スピーカ17,19から発生した第2音波が音場空間12を伝播してエラーマイクロフォン14,15に達したときのそのマイクロフォン14,15の位置における第2音波の応答特性を示している。
【0052】
適応制御演算部36,37,41,42は、アダプティブデジタルフィルタ35,49を適応制御アルゴリズムに基づいて更新する。アダプティブデジタルフィルタ35,49は、音場空間12の音響環境の変化に対応しつつ、音場空間12を伝播する音楽のうち、特定の周波数帯を増幅させる干渉信号を生成し、音楽のうち、特定の周波数帯を減衰させる干渉信号を生成するとともに、消音させる特定の周波数帯と逆位相同音圧の干渉信号を生成する。さらに、音場空間12を伝播する音楽の残響特性を調整する干渉信号を生成する。
【0053】
コンサートホール(音場空間12)において音楽が演奏される場合を例として、図1のシステム10Aにおける音場制御の手順を説明すると、以下のとおりである。音楽が演奏されると、コンサートホールの内部空間12(音場空間)にその音楽(第1音波)が伝播する。システム10Aを起動させると、コントローラ25,30は、記憶部に格納されたアプリケーションに従って、フィルタ23,28やそれら装置24,25,26,27,29,30,31,32に各種手段を実行させる。音楽は、図2に矢印f1で示すように、コンサートホールの内部空間12を縦横方向や前後方向へ三次元的に伝播しつつ、リファランスマイクロフォン13に達した後、エラーマイクロフォン14,15と目標マイクロフォン16とに達する。
【0054】
システム10Aの起動時では、調整用スピーカ17,19から第2音波が発生しておらず、リファランスマイクロフォン13に検出された音楽(第1音波)がコンサートホールの内部空間12を伝播してそのままエラーマイクロフォン14,15と目標マイクロフォン16とに達し、音楽がそれらマイクロフォン14,15,16に検出される。音源11の近傍において音楽を検出したリファランスマイクロフォン13は、音楽をアンプに出力する。リファランスマイクロフォン13に検出された音楽は、アンプにおいて増幅された後、A/D変換装置に出力され、A/D変換装置においてデジタルの第1入力信号に変換される。第1入力信号は、A/D変換装置から第4信号出力装置24,29に出力される。
【0055】
聴衆21,22の近傍において音楽を検出したエラーマイクロフォン14,15は、その音楽をアンプに出力する。エラーマイクロフォン14,15に検出された音楽は、アンプにおいて増幅された後、A/D変換装置に出力され、A/D変換装置においてデジタルの第2入力信号に変換される。第2入力信号は、A/D変換装置から差分信号出力装置26,27,31,32に出力される。音楽(目標音波)を検出した目標マイクロフォン16は、その音楽をアンプに出力する。目標マイクロフォン16に検出された音楽は、アンプにおいて増幅された後、A/D変換装置に出力され、A/D変換装置においてデジタルの第3入力信号に変換される。第3入力信号は、A/D変換装置から差分信号出力装置26,27,31,32に出力される。
【0056】
システム10Aの起動時では擬似フィードバック信号生成フィルタに23,28おいて擬似フィードバック信号は生成されていないから、擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28から出力される擬似フィードバック信号の出力信号は(0)である。システム10Aの起動時において第4信号出力装置24,29は、第1入力信号から擬似フィードバック信号(0)を減算して第4入力信号(第1入力信号と同一の値の信号)を生成し(第4信号生成手段)、その第4入力信号を干渉信号生成装置25,30に出力する(第4信号出力手段)。
【0057】
差分信号出力装置26,27,31,32は、音楽(第1音波)である第2入力信号と目標音波である第3入力信号との差を表すそれら信号の差分を演算して差分信号を生成し(差分信号生成手段)、その差分信号を干渉信号生成装置25,30に出力する(差分信号出力手段)。システム10Aの起動時では、第2入力信号と第3入力信号との差分である差分信号の値は最大となっている。干渉信号生成装置25,30を形成するデジタルフィルタ33,34,38,39は、あらかじめ推定した調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン17,19までの応答特性を模擬した時系列伝達特性(C)を適用し、第4入力信号にその時系列伝達特性(C)を畳み込み演算し、その結果を干渉信号生成装置25,30を形成する適応制御演算部36,37,41,42に出力する。
【0058】
適応制御演算部36,37,41,42は、時系列伝達特性(C)を考慮しつつ、差分信号を用いてアダプティブデジタルフィルタ35,40を更新する。具体的に適応制御演算部36,37,41,42は、アダプティブデジタルフィルタの更新量であるΔアダプティブデジタルフィルタ(ΔADF)をサンプリング周波数(3kHz〜40kHz)に合わせて所定の時間間隔で時系列に生成し、Δアダプティブデジタルフィルタを現在のアダプティブデジタルフィルタ(ADF)に加算することで現在から未来に向かってアダプティブデジタルフィルタ35,40を更新する。
【0059】
干渉信号生成装置25,30は、第4信号出力装置24,29から出力された第4入力信号にアダプティブデジタルフィルタ35,40を畳み込み演算して干渉信号を生成する(干渉信号生成手段)。干渉信号生成装置25,30は、生成した干渉信号を擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28とD/A変換装置とに出力する(干渉信号出力手段)。D/A変換装置は、デジタルの干渉信号をアナログの第2音波に変換し、その第2音波をアンプに出力する。アンプは、第2音波を増幅し、増幅した第2音波を調整用スピーカ17,19に出力する。
【0060】
調整用スピーカ17,19は、第2音波をコンサートホールの内部空間12に発生させる。第2音波は、図2に矢印f2で示すように、スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15に向かってコンサートホールの内部空間12を縦横方向や前後方向へ三次元的に伝播するとともに、スピーカ17,19からリファランスマイクロフォン13に向かってコンサートホールを伝播する。第2音波は、音楽と干渉しながらエラーマイクロフォン14,15に向かい、マイクロフォン14,15の位置において音楽と完全に干渉する。音楽は、第2音波と干渉することで、特定の周波数帯が増幅し、その周波数帯の音量が増加する。また、特定の周波数帯が減衰し、その周波数帯の音量が減少する。さらに、特定の周波数帯が消音し、その周波数帯の音量が消失する。音楽は、第2音波と干渉することで、その残響特性が調整される。
【0061】
システム10Aを継続稼動すると、差分信号が次第に小さくなり、最後に差分信号のレベルが(0)になって差分が消滅する。差分の消滅は、エラーマイクロフォン14,15の位置において聴取される音楽が目標マイクロフォン16の位置において聴取される音楽に限りなく近似した状態を表す。
【0062】
システム10Aの稼動中では、リファランスマイクロフォン13に向かう第2音波が音楽(第1音波)と合成され、それらの合成音波がマイクロフォン13に検出される。また、エラーマイクロフォン14,15に向かう第2音波がマイクロフォン14,15の位置において音楽と干渉し、それらの干渉音波がマイクロフォン14,15に検出される。合成音波は、アンプで増幅された後、A/D変換装置でデジタルの第1入力信号に変換されて第4信号出力装置24,29に出力される。干渉音波は、アンプで増幅された後、A/D変換装置でデジタルの第2入力信号に変換されて差分信号出力装置26,27,31,32に出力される。
【0063】
擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28は、あらかじめ推定した調整用スピーカ17,19からリファランスマイクロフォン13までの音伝達経路における時系列伝達特性(Hr)を干渉信号に畳み込み演算し、擬似フィードバック信号を生成する(擬似フィードバック信号生成手段)。擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28は、生成した擬似フィードバック信号を第4信号出力装置24,29に出力する(擬似フィードバック信号出力手段)。第4信号出力装置24,29は、合成信号から干渉信号と推定し得る擬似フィードバック信号を減算して第4入力信号を生成し(第4信号生成手段)、その第4入力信号を干渉信号生成装置25,30に出力する(第4信号出力手段)。
【0064】
差分信号出力装置26,27,31,32は、第2入力信号と第3入力信号との差を表すそれら信号の差分を演算して差分信号を生成し(差分信号生成手段)、その差分信号を干渉信号生成装置25,30に出力する(差分信号出力手段)。このとき、差分信号の出力レベルはシステム10Aの起動時よりも小さくなっている。デジタルフィルタ33,34,38,39は、あらかじめ推定した調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15までの応答特性を模擬した時系列伝達特性(C)を適用し、第4入力信号にその時系列伝達特性(C)を畳み込み演算し、その結果を干渉信号生成装置25,30を形成する適応制御演算部36,37,41,42に出力する。
【0065】
干渉信号生成装置25,30では、適応制御演算部36,37,41,42が時系列伝達特性(C)を考慮しつつ、差分信号を用いてアダプティブデジタルフィルタ35,40をサンプリング周波数に合わせて更新する。干渉信号生成装置25,30は、第4信号出力装置24,29から出力された第4入力信号にアダプティブデジタルフィルタ35,40を畳み込み演算し、干渉信号を生成する(干渉信号生成手段)。干渉信号生成装置25,30は、生成した干渉信号を擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28とD/A変換装置とに出力する(干渉信号出力手段)。干渉信号は、D/A変換装置によってアナログの第2音波に変換された後、アンプによって増幅され、第2音波として調整用スピーカ17,19に出力される。調整用スピーカ17,19に出力された第2音波は、音楽と干渉しながらエラーマイクロフォン14,15に向かい、マイクロフォン14,15の位置において音楽と完全に干渉する。エラーマイクロフォン14,15の位置において聴取される音楽は、目標マイクロフォン16の位置において聴取される音楽に限りなく近似する。
【0066】
図6は、システム10AのON,OFFによる周波数特性の変化の一例を示す図であり、図7は、システム10AのOFFにおけるエラーマイクロフォン14,15の位置の残響特性の一例を示す図である。図8は、目標マイクロフォン16の位置の残響特性の一例を示す図であり、図9は、システム10AのONにおけるエラーマイクロフォン14,15の位置の残響特性の一例を示す図である。図6において、実線S1で示す周波数特性は、目標マイクロフォン16の位置におけるそれを表し、点線S2で示す周波数特性は、システム10AのOFFにおけるエラーマイクロフォン14,15の位置におけるそれを表す。一点鎖線S3で示す周波数特性は、システム10AのONにおけるエラーマイクロフォン14,15に位置におけるそれを表す。
【0067】
図6では、縦軸に音圧レベル(dB)が表示され、横軸に周波数(Hz)が表示されている。図7〜図9では、縦軸に振幅が表示され、横軸に時間(sec)が表示されている。システム10Aでは、ディスプレイを介して図5に示す各マイクロフォン14,15,16の位置における周波数特性や図7〜図9に示す各マイクロフォン14,15,16の位置における残響特性をディスプレイを介して時系列にモニタリングすることができ、モニタリングした周波数特性や残響特性をプリンタを介して出力することができる。また、モニタリングした周波数特性や残響特性を記憶部に時系列に格納することができる。
【0068】
システム10AがOFFの場合、図6に示すように、目標マイクロフォン16の位置における周波数特性とエラーマイクロフォン14,15の位置における周波数特性とに乖離があり、エラーマイクロフォン14,15の位置において音楽を聴取したときのその音質が目標マイクロフォン16の位置において音楽を聴取したときのその音質と異なっていた。また、図7,8に示すように、目標マイクロフォン16の位置における残響特性とエラーマイクロフォン14,15の位置における残響特性とに乖離があり、エラーマイクロフォン14,15の位置において音楽を聴取したときのその残響が目標マイクロフォン16の位置において音楽を聴取したときのその残響と異なっていた。
【0069】
システム10Aを稼動させると、音楽が第2音波と干渉し、音楽のうちの特定の周波数帯が増幅、減衰、消音し、音楽の残響特性が調整された。それによって、図6に実線S1および一点鎖線S3で示すように、目標マイクロフォン16の位置における周波数特性とエラーマイクロフォン14,15の位置における周波数特性とが略一致し、エラーマイクロフォン14,15の位置において音楽を聴取したときのその音質が目標マイクロフォン16の位置において音楽を聴取したときのその音質に略一致した。
【0070】
また、図9に示すように、目標マイクロフォン16の位置における残響特性とエラーマイクロフォン14,15の位置における残響特性とが略一致し、エラーマイクロフォン14,15の位置において音楽を聴取したときのその残響が目標マイクロフォン16の位置において音楽を聴取したときのその残響に略一致した。このシステム10Aを利用することで、目標マイクロフォン16の位置における音楽の周波数特性と残響特性とをエラーマイクロフォン14,15の位置において再現することができた。
【0071】
音場空間制御システム10Aは、音楽(第1音波)に第2音波を干渉させることで、音の所定の周波数帯を増幅、減衰、消音することができ、音の残響特性を調整することができるから、目標マイクロフォン16の位置の音場空間12に具現された音質および残響の音をエラーマイクロフォン14,15の位置の音場空間12に再現することができる。このシステム10Aは、目標マイクロフォン16が位置する箇所(音場空間12)の音響効果が最もよく、その箇所の音の音質および残響が最上の場合、その音質や残響の音を他の箇所(音場空間12)において再現することができるから、音場空間12のうちの最も音響効果がよい空間の良好な音響環境を他の空間に適用することができ、音場空間12のいかなる箇所においても最上の音質や残響の音を聴取することができる。
【0072】
また、このシステム10Aは、複数の調整用スピーカ17,19を配置して、第2音波をそれらスピーカ17,19から聴衆21,22の近傍に広がる所定容積の三次元空間に満遍なく伝播させることで、その三次元空間に広がる音楽に第2音波を確実に干渉させることができ、目標マイクロフォン16の位置の空間に具現された音質および残響の音をエラーマイクロフォン14,15の位置の空間に確実に再現することができる。
【0073】
この音場空間制御システム10Aは、調整用スピーカ17,18からリファランスマイクロフォン13までの時系列伝達特性(Hr)を反映させた状態で、第4信号出力装置24,29が合成信号から第2音波と推定し得る擬似フィードバック信号を除いた第4入力信号を生成し、その第4入力信号を干渉信号生成装置25,30に出力するから、干渉信号生成装置25,30に出力される第4入力信号に擬似フィードバック信号が含まれることはなく、リファランスマイクロフォン13におけるハウリングを防ぐことができる。第2音波となる干渉信号を含む合成信号がそのまま干渉信号生成装置25,30に出力されると、干渉信号を増幅、減衰、消音させる音波や干渉信号の残響を調整する音波を含んだ干渉信号が生成されてしまうが、このシステム10Aでは、合成信号から擬似フィードバック信号を除いた第4入力信号が干渉信号生成装置25,30に出力されるから、干渉信号にそれを増幅、減衰、消音させる音波やそれの残響を調整する音波が含まれることを防ぐことができる。
【0074】
音場空間制御システム10Aは、適応制御演算部36,37,41,42がアダプティブデジタルフィルタ35,40を更新しつつ、そのアダプティブデジタルフィルタ35,40によって干渉信号が生成されるから、エラーマイクロフォン14,15が位置する空間の音響環境の変化や差分信号の変化に追従しつつ、それら調整用スピーカ17,19から発生する第2音波を利用することで、目標マイクロフォン16が位置する空間に具現される音質および残響の音楽をエラーマイクロフォン14,15が位置する空間に確実に再現することができる。また、デジタルフィルタ33,34,38,39によって調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15までの時系列伝達特性(C)が適用されるから、適応制御演算部36,37,41,42が調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15までの時系列伝達特性を考慮しつつ差分信号を用いてアダプティブデジタルフィルタ35,40を更新することができる。
【0075】
また、この音場空間制御システム10Aは、音源11から目標マイクロフォン16までの距離が音源11からエラーマイクロフォン14,15までの距離よりも長く、エラーマイクロフォン14,15から出力される第2入力信号と目標マイクロフォン16から出力される第3入力信号との間の因果性を保持することができるから、目標マイクロフォン16が位置する空間に具現される音質および残響の音をエラーマイクロフォン14,15が位置する空間に確実に再現することができる。
【0076】
図10は、他の一例として示す音場空間制御システム10Bの構成図であり、図11は、音源11から目標マイクロフォン16までの距離L1と音源11からエラーマイクロフォン14,15までの距離L2との関係を示す図である。図10に示すシステム10Bが図1のそれと異なるのは、音源11から目標マイクロフォン16までの距離L1が音源11からエラーマイクロフォン14,15までの距離L2よりも短く、音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽が伝播するまでの時間遅延を補正する時間遅延補正装置43が目標マイクロフォン16と差分信号出力装置26,27,31,32との間に接続されている点にあり、その他の構成は図1のシステム10Aのそれらと同一であるから、図1のシステム10Aと同一の符号を付すことで、このシステム10Bにおけるその他の構成の説明は省略する。
【0077】
このシステム10Bでは、目標マイクロフォン16と差分信号出力装置26,27,31,32との間に時間遅延補正装置43が介在している。時間遅延補正装置43は、音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽が伝播するまでの時間遅延を補正する。なお、時間遅延補正装置43と差分信号出力装置26,27,31,32との間には、図示はしていないが、A/D変換装置が接続されている。なお、このシステム10Bにおけるサンプリング周波数は、図1のシステム10Aのそれと同一である。
【0078】
図1のシステム10Aと同様に、コンサートホール(音場空間12)において音楽が演奏される場合を例として、図9のシステム10Bにおける音場制御の手順を説明すると、以下のとおりである。システム10Bの起動時では、調整用スピーカ17,19から第2音波が発生しておらず、リファランスマイクロフォン13に検出された音楽(第1音波)がコンサートホールの内部空間12を伝播してそのままエラーマイクロフォン14,15に達し、音楽がマイクロフォン14,15に検出される。音楽を検出したリファランスマイクロフォン13は、音楽をアンプに出力する。アンプは、音楽を増幅した後、その音楽をA/D変換装置に出力する。A/D変換装置は、音楽をデジタルの第1入力信号に変換し、その第1入力信号を第4信号出力装置24,29に出力する。第4信号出力装置24,29は、第1入力信号から擬似フィードバック信号(0)を減算して第4入力信号(第1入力信号と同一の値の信号)を生成し(第4信号生成手段)、その第4入力信号を干渉信号生成装置24,29に出力する(第4信号出力手段)。
【0079】
音楽を検出したエラーマイクロフォン14,15は、音楽をアンプに出力する。アンプは、音楽を増幅した後、その音楽をA/D変換装置に出力する。A/D変換装置は、音楽をデジタルの第2入力信号に変換し、その第2入力信号を差分信号出力装置26,27,31,32に出力する。音楽(目標音波)を検出した目標マイクロフォン16は、音楽をアンプに出力する。アンプは、音楽を増幅した後、その音楽を時間遅延補正装置43に出力する。
【0080】
時間遅延補正装置43は、音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽が伝播するまでの時間遅延を補正する。具体的には、音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽(第1音波)が伝播するまでの時間から音源11から目標マイクロフォン16に音楽(目標音波)が伝播するまでの時間を減算し、音源11から目標マイクロフォン16に音楽が伝播するまでの時間と音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽が伝播するまでの時間とを一致させる。時間遅延補正装置43は、時間遅延を補正した音楽をA/D変換装置に出力する。A/D変換装置は、音楽をデジタルの第3入力信号に変換し、その第3入力信号を差分信号出力装置26,27,31,32に出力する。差分信号出力装置26,27,31,32は、第2入力信号と第3入力信号との差を表すそれら信号の差分を演算して差分信号を生成し(差分信号生成手段)、その差分信号を干渉信号生成装置25,30に出力する(差分信号出力手段)。
【0081】
干渉信号生成装置25,30を形成するデジタルフィルタ33,34,38,39は、あらかじめ推定した調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15までの音伝送経路の応答特性を模擬した時系列伝達特性(C)を使用し、第4入力信号にその時系列伝達特性(C)を畳み込み演算し、その結果を干渉信号生成装置25,30を形成する適応制御演算部36,37,41,42に出力する。適応制御演算部36,37,41,42は、時系列伝達特性(C)を考慮しつつ、差分信号を用いてアダプティブデジタルフィルタ35,40を更新する。適応制御演算部36,37,41,42におけるアダプティブデジタルフィルタ35,40の更新は、図1のシステム10Aにおけるそれと同一である。
【0082】
干渉信号生成装置25,30は、第4信号出力装置24,29から出力された第4入力信号にアダプティブデジタルフィルタ35,40を畳み込み演算して干渉信号を生成する(干渉信号生成手段)。干渉信号生成装置25,30は、生成した干渉信号を擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28とD/A変換装置とに出力する(干渉信号出力手段)。D/A変換装置は、デジタルの干渉信号をアナログの第2音波に変換し、その第2音波をアンプに出力する。アンプは、第2音波を増幅した後、その第2音波を調整用スピーカ17,19に出力する。
【0083】
調整用スピーカ17,19は、第2音波をコンサートホールの内部空間12に発生させる。第2音波は、スピーカ17,19からリファランスマイクロフォン13に向かってコンサートホールを伝播するとともに、スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15に向かってコンサートホールを伝播する。第2音波は、エラーマイクロフォン14,15の位置において音楽と完全に干渉する。音楽は、第2音波と干渉することで、特定の周波数帯が増幅し、その周波数帯の音量が増加する。また、特定の周波数帯が減衰し、その周波数帯の音量が減少する。さらに、特定の周波数帯が消音し、その周波数帯の音量が消失する。音楽は、第2音波と干渉することで、その残響特性が調整される。システム10Bを継続稼動すると、差分信号が次第に小さくなり、最後に差分信号のレベルが(0)になって差分が消滅する。
【0084】
システム10Cの稼動中では、音楽(第1音波)と第2音波との合成音波がリファランスマイクロフォン13に検出される。合成音波は、アンプで増幅された後、A/D変換装置でデジタルの第1入力信号に変換されて第4信号出力装置24,29に出力される。擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28は、図1のシステム10Aと同様に、干渉信号に時系列伝達特性(Hr)を畳み込み演算し、擬似フィードバック信号を生成し(擬似フィードバック信号生成手段)、擬似フィードバック信号を第4信号出力装置24,29に出力する(擬似フィードバック信号出力手段)。第4信号出力装置24,29は、合成信号から擬似フィードバック信号を減算して第4入力信号を生成し(第4信号生成手段)、その第4入力信号を干渉信号生成装置25,30に出力する(第4信号出力手段)。
【0085】
システム10Bの稼動中では、音楽(第1音波)と第2音波との干渉音波がエラーマイクロフォン14,15に検出され、音楽(目標音波)が目標マイクロフォン16に検出される。干渉音波は、アンプで増幅された後、A/D変換装置でデジタルの第2入力信号に変換されて差分信号出力装置26,27,31,32に出力される。音楽(目標音波)は、アンプで増幅された後、時間遅延補正装置43に出力される。
【0086】
時間遅延補正装置43は、音源11から目標マイクロフォン16に音楽(目標音波)が伝播するまでの時間と音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽(第1音波)が伝播するまでの時間とを一致させる。時間遅延補正装置43は、時間遅延を補正した音楽をA/D変換装置に出力する。A/D変換装置は、音楽をデジタルの第3入力信号に変換し、その第3入力信号を差分信号出力装置26,27,31,32に出力する。差分信号出力装置26,27,31,32は、第2入力信号と第3入力信号との差を表すそれら信号の差分を演算して差分信号を生成し(差分信号生成手段)、その差分信号を干渉信号生成装置25,30に出力する(差分信号出力手段)。このとき、差分信号の出力レベルはシステム10Bの起動時よりも小さくなっている。
【0087】
デジタルフィルタ33,34,38,39は、あらかじめ推定した調整用スピーカ17,19からエラーマイクロフォン14,15までの音伝送経路の応答特性を模擬した時系列伝達特性(C)を使用し、第4入力信号にその時系列伝達特性(C)を畳み込み演算し、その結果を適応制御演算部36,37,41,42に出力する。適応制御演算部36,37,41,42は、時系列伝達特性(C)を考慮しつつ、差分信号を用いてアダプティブデジタルフィルタ35,40をサンプリング周波数に合わせて更新する。
【0088】
干渉信号生成装置25,30は、第4信号出力装置24,29から出力された第4入力信号にアダプティブデジタルフィルタ35,40を畳み込み演算し、干渉信号を生成する(干渉信号生成手段)。干渉信号生成装置25,30は、生成した干渉信号を擬似フィードバック信号生成フィルタ23,28とD/A変換装置とに出力する(干渉信号出力手段)。干渉信号は、D/A変換装置によってアナログの第2音波に変換された後、アンプによって増幅され、第2音波として調整用スピーカ17,19に出力される。調整用スピーカ17,19に出力された第2音波は、音楽と干渉しながらエラーマイクロフォン14,15に向かい、マイクロフォン14,15の位置において音楽と完全に干渉する。エラーマイクロフォン14,15の位置において聴取される音楽は、目標マイクロフォン16の位置において聴取される音楽に限りなく近似する。
【0089】
このシステム10Bは、時間遅延補正装置43によって音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽が伝播するまでの時間遅延が補正されるから、音源11からエラーマイクロフォン14,15に音楽(第1音波)が伝播するまでの時間と音源11から目標マイクロフォン16に音楽(目標音波)が伝播するまでの時間とを一致させることができ、エラーマイクロフォン14,15から出力される第2入力信号と目標マイクロフォン16から出力される第3入力信号との間の因果性を保持することができる。このシステム10Bは、音楽の音質および残響が最上の空間から音源11までの距離が音源11からエラーマイクロフォン14,15までの距離よりも短い場合でも、目標マイクロフォン16の位置の空間に具現された音質および残響の音をエラーマイクロフォン14,15の位置の空間に確実に再現することができる。なお、このシステム10Bは、前記効果の他に図1のシステム10Aと同一の効果を奏するが、図1のシステム10Aの効果を援用し、このシステム10Bのその他の効果の説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】一例として示す音場空間制御システムの構成図。
【図2】システムを利用した音場空間の一例を示す概念図。
【図3】応答特性を説明する図。
【図4】マイクロフォンとスピーカとの間の時系列伝達特性を表す図。
【図5】音源から目標マイクロフォンまでの距離と音源からエラーマイクロフォンまでの距離との関係を示す図。
【図6】システムのON,OFFによる周波数特性の変化の一例を示す図。
【図7】システムのOFFにおけるエラーマイクロフォンの位置の残響特性の一例を示す図。
【図8】目標マイクロフォンの位置の残響特性の一例を示す図。
【図9】システムのONにおけるエラーマイクロフォンの位置の残響特性の一例を示す図。
【図10】他の一例として示す能動的消音システムの構成図。
【図11】音源から目標マイクロフォンまでの距離と音源からエラーマイクロフォンまでの距離との関係を示す図。
【符号の説明】
【0091】
10A 音場空間制御システム
10B 音場空間制御システム
11 音源
12 音場空間
13 リファランスマイクロフォン(合成音波検出センサ)
14 第1のエラーマイクロフォン(第1の干渉音波検出センサ)
15 第2のエラーマイクロフォン(第1の干渉音波検出センサ)
16 目標マイクロフォン(目標音波検出センサ)
17 第1の調整用スピーカ(第1の音波発生装置)
18 第1のコントローラ
19 第2の調整用スピーカ(第2の音波発生装置)
20 第2のコントローラ
21 聴衆
22 聴衆
23 第1の擬似フィードバック信号生成フィルタ
24 第1の第4信号出力装置
25 第1の干渉信号生成装置
26 第1の差分信号出力装置
27 第1の差分信号出力装置
28 第2の擬似フィードバック信号生成フィルタ
29 第2の第4信号出力装置
30 第2の干渉信号生成装置
31 第2の差分信号出力装置
32 第2の差分信号出力装置
33 デジタルフィルタ(第2デジタルフィルタ)
34 デジタルフィルタ(第2デジタルフィルタ)
35 アダプティブデジタルフィルタ
36 適応制御演算部
37 適応制御演算部
38 デジタルフィルタ(第2デジタルフィルタ)
39 デジタルフィルタ(第2デジタルフィルタ)
40 アダプティブデジタルフィルタ
41 適応制御演算部
42 適応制御演算部
43 時間遅延補正装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音場空間に第1音波を発生する音源から所定寸法離間して配置され、前記音源から前記音場空間を伝播する第1音波に干渉する第2音波を該音場空間に発生する第1〜第nの音波発生装置と、
前記音源とそれら音波発生装置との間に配置され、前記第1音波と前記第2音波との合成音波を検出し、検出した合成音波を第1信号として出力する合成音波検出センサと、
前記第1〜第nの音波発生装置を挟んで前記合成音波検出センサから所定寸法離間して配置され、前記第1音波と前記第2音波との干渉によって生じた干渉音波を検出し、検出した干渉音波を第2信号として出力する第1〜第nの干渉音波検出センサと、
前記音源から所定寸法離間して前記音場空間の任意の箇所に配置され、前記音場空間を伝播する第1音波のうちの目標音波を検出し、検出した目標音波を第3信号として出力する目標音波検出センサと、
前記第1〜第nの干渉音波検出センサと対応関係を有し、前記干渉音波検出センサから第2信号を受信しつつ前記目標音波検出センサから第3信号を受信し、前記第2信号と前記第3信号との差を示す差分信号を出力する第1〜第nの差分信号出力装置と、
前記第1〜第nの音波発生装置と対応関係を有し、前記合成音波検出から受信した第1信号と前記第1〜第nの差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて前記第2音波となる干渉信号を生成し、生成した干渉信号を前記第1〜第nの音波発生装置に出力する第1〜第nの干渉信号生成装置とを有する音場空間制御システム。
【請求項2】
前記音場空間制御システムでは、前記第1音波に前記第2音波を干渉させることで、前記第1音波の所定の周波数帯を増幅、減衰、消音するとともに、前記第1音波の残響時間を調整し、それにより、前記音場空間内の所定の箇所における周波数特性および残響特性を該音場空間内の他の箇所に再現する請求項1記載の音場空間制御システム。
【請求項3】
前記音場空間制御システムが、前記第1〜第nの音波発生装置と対応関係を有し、それら音波発生装置から前記合成音波検出センサに達する第2音波を推定した擬似フィードバック信号を生成する第1〜第nの擬似フィードバック信号生成フィルタと、前記合成音波検出センサから第1信号を受信しつつそれら擬似フィードバック信号生成フィルタから擬似フィードバック信号を受信し、前記第1信号から前記擬似フィードバック信号を除いた第4信号を出力する第1〜第nの第4信号出力装置とを含み、
前記干渉信号生成装置が、前記第4信号出力装置から受信した第4信号と前記差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて前記干渉信号を生成する請求項1または請求項2に記載の音場空間制御システム。
【請求項4】
前記干渉信号生成装置が、前記干渉信号を生成するためのアダプティブデジタルフィルタと、前記差分信号出力装置から受信した差分信号を用いて前記アダプティブデジタルフィルタを更新する適応制御演算部とから形成されている請求項1ないし請求項3いずれかに記載の音場空間制御システム。
【請求項5】
前記干渉信号生成装置が、前記音波発生装置から前記干渉音波検出センサまでの時系列伝達特性を模擬するデジタルフィルタを含み、前記適応制御演算部が、前記デジタルフィルタが模擬する時系列伝達特性と前記差分信号出力装置から受信した差分信号とを用いて前記アダプティブデジタルフィルタを更新する請求項4記載の音場空間制御システム。
【請求項6】
前記音源から前記目標音波検出センサまでの距離が、前記音源から前記干渉音波検出センサまでの距離と略同一または前記音源から前記干渉音波検出センサまでの距離よりも長い請求項1ないし請求項5いずれかに記載の音場空間制御システム。
【請求項7】
前記音源から前記目標音波検出センサまでの距離が、前記音源から前記干渉音波検出センサまでの距離よりも短く、前記目標音波検出センサと前記差分信号出力装置との間には、前記音源から前記目標音波検出センサに前記目標音波が伝播するまでの時間遅延を補正する時間遅延補正装置が接続されている請求項1ないし請求項5いずれかに記載の音場空間制御システム。
【請求項8】
前記音場空間制御システムにおけるサンプリング周波数が、3kHz〜40kHzの範囲にある請求項1ないし請求項7いずれかに記載の音場空間制御システム。
【請求項9】
前記干渉音波検出センサの個数が、前記音波発生装置の個数と同数または該音波発生装置の個数よりも多い請求項1ないし請求項8いずれかに記載の音場空間制御システム。
【請求項10】
前記音波発生装置と前記干渉音波検出センサとが、前記干渉音波を聴取する聴衆の近傍に配置される請求項1ないし請求項9いずれかに記載の音場空間制御システム。
【請求項11】
前記音場空間が、コンサートホール、多目的ホール、ライブハウス、オペラハウス、講義室、リスニングルームのいずれかの内部空間であり、前記第1音波が、音楽若しくは音声である請求項1ないし請求項10いずれかに記載の音場空間制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−217092(P2009−217092A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62152(P2008−62152)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(591023479)ダイダン株式会社 (82)
【Fターム(参考)】