説明

音質制御装置、音質制御方法及び音質制御用プログラム

【課題】オーディオ信号に対して、その再生音の聴取時における周囲の暗騒音レベルを考慮した適切な音質制御処理を施すことを可能とした音質制御装置、音質制御方法及び音質制御用プログラムを提供すること。
【解決手段】実施の形態によれば、音質制御装置は、生成手段と推定手段と制御手段とを備える。生成手段は、入力オーディオ信号に対して環境音に対するマスキング補正のための第1の補正ゲインを生成する。推定手段は、環境音から暗騒音レベルを推定する。制御手段は、生成手段で生成された第1の補正ゲインと、推定手段で推定された暗騒音レベルに応じて生成された第2の補正ゲインとに基づいて、入力オーディオ信号に対して音質制御処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施の形態は、再生されたオーディオ(可聴周波数)信号に対して適応的に音質制御処理を施す音質制御装置、音質制御方法及び音質制御用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えばテレビジョン放送を受信する放送受信装置や、情報記録媒体からその記録情報を再生する情報再生機器等にあっては、受信した放送信号や情報記録媒体から読み取った信号等からオーディオ信号を再生する際に、オーディオ信号に音質制御処理を施すことによって、より一層の高音質化を図るようにしている。
【0003】
この場合、現在では、例えば放送受信装置によるテレビジョン放送番組等の視聴時に、番組コンテンツの再生音が周囲の環境音(背景雑音)によって聞きづらくならないようにするために、再生されたオーディオ信号に対して周囲の環境音に応じた適応的な音質制御処理を施す技術も提案されている。
【0004】
ところで、周囲の環境音としては、大半の人が実際に煩わしいと感じるレベルを有する明確な雑音(例えば電気掃除機の駆動音、台所水回りの流水音、屋外騒音等)だけに限らず、このような明確な雑音を除いた比較的小さく定常的に発生している、いわゆる、暗騒音によっても再生音に悪影響が及ぼされることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−154388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オーディオ信号に対して、その再生音の聴取時における周囲の暗騒音レベルを考慮した適切な音質制御処理を施すことを可能とした音質制御装置、音質制御方法及び音質制御用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態によれば、音質制御装置は、生成手段と推定手段と制御手段とを備える。生成手段は、入力オーディオ信号に対して環境音に対するマスキング補正のための第1の補正ゲインを生成する。推定手段は、環境音から暗騒音レベルを推定する。制御手段は、生成手段で生成された第1の補正ゲインと、推定手段で推定された暗騒音レベルに応じて生成された第2の補正ゲインとに基づいて、入力オーディオ信号に対して音質制御処理を施す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態におけるデジタルテレビジョン放送受信装置の一例を説明するために示す外観図。
【図2】同実施の形態におけるデジタルテレビジョン放送受信装置の信号処理系の一例を概略的に説明するために示すブロック構成図。
【図3】同実施の形態におけるデジタルテレビジョン放送受信装置が備える音質制御処理部の一例を説明するために示すブロック構成図。
【図4】同実施の形態における音質制御処理部を構成するマスキング補正ゲイン算出部が行なう処理動作の一例を説明するために示す図。
【図5】同実施の形態における音質制御処理部を構成する暗騒音推定部が行なう主要な処理動作の一例の一部を説明するために示すフローチャート。
【図6】同実施の形態における音質制御処理部を構成する暗騒音推定部が行なう主要な処理動作の一例の他の部分を説明するために示すフローチャート。
【図7】同実施の形態における音質制御処理部を構成する暗騒音推定部が行なう主要な処理動作の一例の残部を説明するために示すフローチャート。
【図8】同実施の形態における音質制御処理部を構成する補正特性制御部が行なう主要な処理動作の一例を説明するために示すフローチャート。
【図9】同実施の形態における補正特性制御部が行なう主要な処理動作の一例を説明するために示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態で説明するデジタルテレビジョン放送受信装置11の外観を示している。このデジタルテレビジョン放送受信装置11は、薄型のキャビネット12と、このキャビネット12を支持する支持台13とから構成されている。
【0010】
そして、上記キャビネット12には、その正面中央部に映像表示部としての映像表示パネル14が配置されている。また、このキャビネット12には、その上面中央部にマイクロホン15が設置されており、デジタルテレビジョン放送受信装置11の周囲の環境音を採取することができるようになっている。
【0011】
さらに、このキャビネット12には、その正面下方の両端部にそれぞれスピーカ16,16が配置されている。また、このキャビネット12には、その正面下部に、主電源スイッチ17aを含む操作部17と、リモートコントローラ18から送信される操作情報を受信するための受光部19とが配置されている。
【0012】
なお、上記支持台13は、キャビネット12の底面中央部に回動自在に連結されているもので、図示しない所定の水平面上に載置された状態で、キャビネット12を起立させて支持するように構成されている。
【0013】
図2は、上記デジタルテレビジョン放送受信装置11の信号処理系を概略的に示している。すなわち、アンテナ20で受信したデジタルテレビジョン放送信号は、入力端子21を介してチューナ部22に供給されることにより、所望のチャンネルの放送信号が選局される。
【0014】
このチューナ部22で選局された放送信号は、復調復号部23に供給されてデジタルの映像信号及びオーディオ信号等に復元された後、信号処理部24に出力される。この信号処理部24は、復調復号部23から供給されたデジタルの映像信号及びオーディオ信号に対してそれぞれ所定のデジタル信号処理を施している。
【0015】
そして、この信号処理部24は、デジタルの映像信号を合成処理部25に出力し、デジタルのオーディオ信号をオーディオ処理部26に出力している。このうち、合成処理部25は、信号処理部24から供給されるデジタルの映像信号に、OSD(on screen display)信号を重畳して出力している。
【0016】
この合成処理部25から出力されたデジタルの映像信号は、映像処理部27に供給される。この映像処理部27は、入力されたデジタルの映像信号を、後段の上記映像表示パネル14で表示可能なフォーマットのアナログ映像信号に変換している。そして、このアナログ映像信号が、上記映像表示パネル14に供給されて映像表示に供される。
【0017】
また、上記オーディオ処理部26は、入力されたデジタルのオーディオ信号を、上記スピーカ16,16で再生可能なフォーマットのアナログオーディオ信号に変換している。そして、このアナログオーディオ信号が、スピーカ16,16に供給されることによりオーディオ再生に供される。
【0018】
この場合、上記オーディオ処理部26は、詳細は後述するが、上記マイクロホン15によって採取した周囲の環境音に対応した信号を用いることにより、信号処理部24から供給されたデジタルのオーディオ信号に対して、その再生音の聴取時における周囲の暗騒音レベルを考慮した適切な音質制御処理を施している。
【0019】
ここで、このデジタルテレビジョン放送受信装置11は、上記した各種の受信動作を含む種々の動作を制御部28によって統括的に制御されている。この制御部28は、CPU(central processing unit)28aを内蔵しており、上記操作部17からの操作情報、または、上記リモートコントローラ18から送信され受光部19で受信された操作情報を受けることによって、その操作内容が反映されるように各部をそれぞれ制御している。
【0020】
この場合、制御部28は、メモリ部28bを利用している。このメモリ部28bは、主として、CPU28aが実行する制御プログラムを格納したROM(read only memory)と、該CPU28aに作業エリアを提供するためのRAM(random access memory)と、各種の設定情報及び制御情報等が格納される不揮発性メモリとを有している。
【0021】
また、この制御部28には、HDD(hard disk drive)29が接続されている。この制御部28は、ユーザによる操作部17やリモートコントローラ18の操作に基づいて、上記復調復号部23から得られるデジタルの映像信号及びオーディオ信号を、記録再生処理部30によって暗号化し所定の記録フォーマットに変換した後、HDD29に供給してハードディスク29aに記録させるように制御することができる。
【0022】
さらに、この制御部28は、ユーザによる操作部17やリモートコントローラ18の操作に基づいて、HDD29によりハードディスク29aからデジタルの映像信号及びオーディオ信号を読み出させ、上記記録再生処理部30によって復号化した後、信号処理部24に供給することによって、以後、上記した映像表示及びオーディオ再生に供させるように制御することができる。
【0023】
また、上記デジタルテレビジョン放送受信装置11には、その外部からデジタルの映像信号及びオーディオ信号を直接入力するための入力端子31が設けられている。この入力端子31を介して入力されたデジタルの映像信号及びオーディオ信号は、上記制御部28の制御に基づいて、記録再生処理部30を介した後、信号処理部24に供給されて、以後、上記した映像表示及びオーディオ再生に供される。
【0024】
さらに、この入力端子31を介して入力されたデジタルの映像信号及びオーディオ信号は、制御部28の制御に基づいて、記録再生処理部30を介した後、HDD29によるハードディスク29aに対しての記録再生に供される。
【0025】
また、上記制御部28には、ネットワークインターフェース32が接続されている。このネットワークインターフェース32は、外部のネットワーク回線網33に接続されている。そして、このネットワーク回線網33には、当該ネットワーク回線網33を介した通信機能を利用して各種のサービスを提供するためのネットワークサーバ34が接続されている。
【0026】
このため、制御部28は、ユーザによる操作部17やリモートコントローラ18の操作に基づき、ネットワークインターフェース32及びネットワーク回線網33を介して、ネットワークサーバ34にアクセスして情報通信を行なうことができ、そこで提供しているサービスを利用することができるようになっている。
【0027】
図3は、上記オーディオ処理部26において、オーディオ信号に音質制御処理を施すための音質制御処理部35の一例を示している。この音質制御処理部35では、上記信号処理部24から出力されたデジタルのオーディオ信号が入力端子36に供給されている。
【0028】
そして、この入力端子36に供給されたオーディオ信号がイコライザ制御部37に供給されてイコライザ制御処理を施された後、出力端子38から取り出されてスピーカ16,16によるオーディオ再生に供される。
【0029】
この場合、上記イコライザ制御部37にあっては、補正特性制御部39から通知される補正ゲイン特性に基づいて、入力されたオーディオ信号に対してその周波数特性を補正する処理を施している。
【0030】
一方、上記音質制御処理部35では、入力端子36に供給されたオーディオ信号が再生音解析部40に供給されている。この再生音解析部40では、入力されたオーディオ信号を数10msec程度のフレーム単位に切り出し、フレーム単位でオーディオ信号の信号パワーPplyを算出するとともに、それにDFT(digital fourier transform)等の時間周波数変換処理を施すことでパワースペクトル情報Sply[k](kは周波数index)を算出して、マスキング補正ゲイン算出部41に出力している。
【0031】
また、この音質制御処理部35は、上記マイクロホン15で採取した周囲の環境音に対応する信号が供給される入力端子42を備えている。ただし、この入力端子42に供給される信号は、上記マイクロホン15で採取した周囲の環境音に対応した信号から、エコーキャンセラ等を用いてオーディオ信号の再生音の回り込みを抑制したものとなっている。
【0032】
そして、この入力端子42に供給された信号は、環境音解析部43及び暗騒音推定部44にそれぞれ供給される。このうち、環境音解析部43は、上記再生音解析部40と同様に、入力された環境音信号を数10msec程度のフレームに分割する。そして、フレーム単位の信号パワーPenvを算出するとともに、聴覚の周波数マスキング特性に基づいてノイズマスキングレベルを算出する。このノイズマスキングレベルの算出は、環境音信号を時間周波数変換した周波数スペクトルから周波数帯域毎のパワーに基づいた周波数マスキング特性を、全帯域の周波数成分に対して重ね合わせることで実現される。
【0033】
この環境音解析部43で算出されたノイズマスキングレベルは、上記マスキング補正ゲイン算出部41に供給される。このマスキング補正ゲイン算出部41は、図4に示すように、上記再生音解析部40で算出されたオーディオ信号の周波数特性(パワースペクトラム)が、環境音解析部43で算出されたノイズマスキングレベル以下の帯域に対して、信号成分がノイズに埋もれて聴取しにくい事態が生じないように、図中矢印で示すように、ノイズマスキングレベル以上に引き上げるためのゲイン係数を補正ゲイン値として周波数帯域毎に算出している。
【0034】
ただし、過大なゲイン補正や、時系列での急激なゲインの変化は、聴感上の違和感を招くので、オーディオ信号の再生音のパワーPplyと環境音のパワーPenvとを揃えた状態でゲイン係数を算出し、そのゲイン係数にクリッピングや時間平滑化による修正を施した値を補正ゲイン値Gm[k]として周波数帯域毎に算出している。ここで、kは周波数帯域を示すインデックスである。
【0035】
また、上記暗騒音推定部44は、オーディオ再生時に明確に雑音(例えば電気掃除機の駆動音、台所水回りの流水音、屋外騒音等)と感じられる環境音ではなく、比較的に小さく定常的に発生している環境音を暗騒音レベルPbgnとして推定し、その推定された暗騒音レベルPbgnを出力している。
【0036】
そして、上記補正特性制御部39は、マスキング補正ゲイン算出部41から供給される補正ゲイン値Gm[k]や、暗騒音推定部44から供給された暗騒音レベルPbgnに基づいて生成した音量補正ゲインGvに基づいて、上記イコライザ制御部37に通知する補正ゲイン特性を生成している。
【0037】
図5乃至図7は、上記暗騒音推定部44が周囲の暗騒音レベルPbgnを推定する処理動作の一例をまとめたフローチャートを示している。ここで、暗騒音は、比較的小さく定常的に発生している環境音であり、明確な環境音(例えば電気掃除機の駆動音、台所水回りの流水音、屋外騒音等)の信号成分を除く信号レベルのものを意味している。
【0038】
すなわち、処理が開始(ステップS11)されると、暗騒音推定部44は、ステップS12で、環境音解析部43と同様に、マイクロホン15で採取した環境音に対応する信号を数10msec程度のフレームに分割し、フレーム単位の信号パワーPfrを算出する。この場合、暗騒音推定部44に供給される信号は、先に述べたように、マイクロホン15で採取した環境音に対応する信号から、エコーキャンセラ等を用いてオーディオ信号の再生音の回り込みを抑制したものである。なお、この信号パワーPfrとしては、環境音解析部43で算出する信号パワーPenvを利用することも可能である。
【0039】
その後、暗騒音推定部44は、ステップS13で、後段のステップで使用する例えば数秒レベルの短期解析区間での暗騒音レベルPshを算出するため、短期解析区間分の過去のフレームの信号パワーPfrを保存するとともに、最新のフレームの信号パワー値を更新する。
【0040】
また、暗騒音推定部44は、ステップS14で、仮の暗騒音レベルPbgnとして前回算出した暗騒音レベルprevPbgnを設定する。ただし、前回算出した暗騒音レベルprevPbgnがない場合には、経験的に求められる暗騒音レベルPbgnを初期値として設定する。
【0041】
次に、暗騒音推定部44は、ステップS15で、フレーム処理の回数から短期解析周期(数秒程度)であるか否かを判別し、短期周期のタイミングでないと判断された場合(NO)、特に暗騒音レベルPbgnの更新は行なわずにステップS27で、上限値TH_BGN_maxでクリップして、処理を終了(ステップS28)する。
【0042】
また、上記ステップS15で短期周期のタイミングであると判断された場合(YES)、暗騒音推定部44は、ステップS16で、短期解析区間内に存在する過去のフレームの信号パワーPfr[i](iはフレーム周期インデックス)のメジアン値を短期暗騒音レベルPshとして算出する。このように、メジアン値を用いることにより、最小値を用いる場合に比べて、短期暗騒音レベルPshとして聴感上の印象に近い値が得られる。
【0043】
さらに、暗騒音推定部44は、ステップS17で、短期暗騒音レベルPshを後段のステップにおける例えば数10秒レベルの長期解析で使用するため、長期解析区間分の過去の短期暗騒音レベルPshを保存するとともに、最新の短期暗騒音レベルの値を更新する。
【0044】
その後、暗騒音推定部44は、ステップS18で、算出した短期暗騒音レベルPshと前回の暗騒音レベルprevPbgnとを比較し、短期暗騒音レベルPshの方が小さいと判断された場合(YES)、ステップS19で、次式により、算出した短期暗騒音レベルPshと前回の暗騒音レベルprevPbgnとの重み平均をとることで平滑化した暗騒音レベルPbgnを算出する。なお、αは0<α<1の固定値である。
【0045】
Pbgn=α×Psh+(1−α)×prevPbgn
そして、暗騒音推定部44は、ステップS20で、前回の暗騒音レベルprevPbgnを、上式で算出した暗騒音レベルPbgnに更新するとともに、長期解析で使用するフレームカウンタである長期解析区間カウンタの値Clgをリセットする。この長期解析区間カウンタの値Clgは、後述する長期間の暗騒音レベル上昇を判断するためのカウンタ値であり、これを0にする。
【0046】
また、上記ステップS18で短期暗騒音レベルPshの方が大きいと判断された場合(NO)には、暗騒音レベルPbgnの上昇や明示的な環境音の発生等の可能性が考えられる。そして、前者であれば継続的な短期暗騒音レベルPshの上昇があり、後者であれば断続的な信号パワーPfrの変更が見られる傾向がある。
【0047】
このため、両者を識別するために、長期解析区間(数10秒)での過去の短期暗騒音レベルPsh[j](jは短期解析周期インデックス)に基づいて暗騒音レベルPbgnを推定する。ただし、この長期解析区間は一定でもよいが、長周期での解析は暗騒音レベルPbgnの更新が遅くなり制御の追従性が損なわれるため、以下のように長期解析区間を短縮することで信号追従性を改善することが可能となる。
【0048】
すなわち、環境音信号は、一般的な雑音特性に近いほど、暗騒音の可能性が高いと考えられる。このため、暗騒音推定部44は、ステップS21で、信号の雑音性(類似度)に基づいて長期解析の判定区間を短縮する。雑音性の判定は、上記環境音解析部43で得られた周波数スペクトルから生成される特徴パラメータであるスペクトル平坦度とスペクトル変動量との、いずれか一方または両方に基づいて行なわれる。
【0049】
一般的に、定常的な雑音はスペクトル平坦度が高くスペクトル変動量も少ないため、これらの特徴パラメータに基づいてスペクトル平坦度が閾値以上、または、スペクトル変動量が閾値以下の場合に雑音性が高いと判断している。そして、短期暗騒音レベルPsh[j]が継続して上昇しているか否かを判定するため、長期解析区間カウンタの値Clgとの比較対象となる閾値時間である暗騒音レベル上昇継続時間閾値Tlngを短縮する。
【0050】
次に、暗騒音推定部44は、ステップS22で、長期解析区間カウンタの値Clgと暗騒音レベル上昇継続時間閾値Tlngとを比較し、長期解析区間カウンタの値Clgが暗騒音レベル上昇継続時間閾値Tlng よりも大きいと判断された場合(YES)、継続的に暗騒音レベルPbgnが上昇していると判断し、ステップS23で、暗騒音レベル上昇継続時間閾値Tlngに達するまでに得られた過去の短期暗騒音レベルPsh[j]のうちの最小値を長期暗騒音レベルPlgとして算出する。
【0051】
そして、暗騒音推定部44は、ステップS24で、次式により、算出した長期暗騒音レベルPlgと前回の暗騒音レベルprevPbgnとの重み平均をとることで平滑化した暗騒音レベルPbgnを算出する。なお、βは0<β<1の固定値である。
【0052】
Pbgn=β×Plg+(1−β)×prevPbgn
その後、暗騒音推定部44は、ステップS25で、前回の暗騒音レベルprevPbgnを、上式で算出した暗騒音レベルPbgnに更新するとともに、長期解析区間カウンタの値Clgを、長期暗騒音レベルPlgとして採用した短期解析区間単位の時刻を基準とした現在までの経過時間(カウンタ値)に設定する。
【0053】
そして、上記ステップS20またはS25の後、あるいは、上記ステップS22で長期解析区間カウンタの値Clgが暗騒音レベル上昇継続時間閾値Tlng 以下であると判断された場合(NO)、暗騒音推定部44は、ステップS26で、長期解析区間カウンタの値Clgを短期解析周期タイミング毎に+1する。
【0054】
その後、暗騒音推定部44は、ステップS27で、暗騒音レベルPbgnを上限値TH_BGN_maxでクリップして、処理を終了(ステップS28)する。このクリップ処理は、長期解析においても継続的に明示的な環境音が発生している状況で、それに応じて暗騒音レベルPbgnが大きくなりすぎないように、想定される暗騒音レベル以下に抑えるためのものである。以上により、暗騒音推定部44による暗騒音レベルPbgnの算出が行なわれる。
【0055】
図8は、上記補正特性制御部39がイコライザ制御部37に通知する補正ゲイン特性を生成する処理動作をまとめたフローチャートを示している。すなわち、イコライザ制御部37の補正特性としては、マスキング補正ゲイン算出部41に基づく補正ゲイン特性Gm[k]と、全帯域に渡るゲイン補正(音量と同等)Gvとがある。
【0056】
これは、再生音と環境音とのパワーの乖離が大きいと、ノイズマスキング補正により原音特性との違いが大きくなりすぎて違和感に繋がる可能性があるため、再生音と環境音との両方のパワーを揃えた状態で、図4で説明したノイズマスキング補正ゲインを算出し、全帯域に渡るゲイン補正は、環境音のレベルに応じて補正強度を制御するようにしているからである。以下では、この全帯域に渡る補正ゲインGvの算出に関して説明する。
【0057】
まず、処理が開始(ステップS29)されると、補正特性制御部39は、ステップS30で、環境音解析部43や暗騒音推定部44と同じく数10msec程度のフレーム単位で、環境音信号のパワーとして環境音レベルPenvを求める。これは、明示的な環境音や暗騒音の区別なく環境音全体のパワーを示している。
【0058】
次に、補正特性制御部39は、ステップS31で、環境音レベルPenvに応じて標準となる音量補正ゲインGstを算出する。これは、図9に太線で示すような、環境音レベルと音量補正ゲインとの関係に応じて決定される。すなわち、環境音レベルが規定値TH_BGN_max以下の場合は、音量補正が行なわれないようになされる。これは、環境音信号の軽微な変動で補正音が変動すると違和感に繋がるためである。また、補正ゲイン値が大きくなりすぎないように上限GAIN_maxを設定している。
【0059】
その後、補正特性制御部39は、ステップS32で、暗騒音レベルPbgnと最小暗騒音レベルTH_BGN_minとを比較し、暗騒音レベルPbgnが最小暗騒音レベルTH_BGN_minより小さいと判断された場合(YES)、ステップS33で、標準となる音量補正ゲインGstを音量補正ゲインGvとしてそのまま使用する。
【0060】
また、上記ステップS32で暗騒音レベルPbgnが最小暗騒音レベルTH_BGN_min以上であると判断された場合(NO)、補正特性制御部39は、ステップS34で、暗騒音レベルPbgnと最大暗騒音レベルTH_BGN_maxとを比較し、暗騒音レベルPbgnが最大暗騒音レベルTH_BGN_maxより小さいと判断された場合(YES)、ステップS35で、標準となる音量補正ゲインGstを次式で補正した値を音量補正ゲインGvとして算出する。ここで、γは正の固定値である。暗騒音レベルPbgnに応じて補正ゲイン量を増加させることで聴感上の印象に合わせるようにしている。
【0061】
Gv=Gst+γ(Penv−Pbgn)
さらに、上記ステップS34で暗騒音レベルPbgnが最大暗騒音レベルTH_BGN_max以上であると判断された場合(NO)、補正特性制御部39は、ステップS36で、暗騒音レベルPbgnと最終暗騒音レベルTH_BGN_endとを比較し、暗騒音レベルPbgnが最終暗騒音レベルTH_BGN_endより小さいと判断された場合(YES)、ステップS37で、標準となる音量補正ゲインGstを次式で補正した値を音量補正ゲインGvとして算出する。ここで、GAIN_bgn_maxは暗騒音に応じた音量補正ゲインの最大値で(TH_BGN_max−TH_BGN_min)ある。暗騒音レベルPbgnに応じた補正量は、過剰な補正を防ぐため最大GAIN_bgn_maxに抑制する。
【0062】
Gv=Gst+GAIN_bgn_max
また、上記ステップS36で暗騒音レベルPbgnが最終暗騒音レベルTH_BGN_end以上であると判断された場合(NO)、補正特性制御部39は、ステップS38で、標準となる音量補正ゲインGstを次式で補正した値を音量補正ゲインGvとして算出する。環境音レベルPenvが最終暗騒音レベルTH_BGN_end以上の場合には、環境音が十分に大きいため、暗騒音に応じた補正成分を削減している。ここで、ζは正の固定値である。
【0063】
Gv=Gst+GAIN_bgn_max−ζPenv
上記ステップS33,S35,S37,S38に示すように、暗騒音レベルPbgnに応じた補正ゲインを考慮すると、音量補正ゲインGvは図9に一点鎖線で示す値となる。ただし、一点鎖線と太線とで囲まれた領域は、環境音信号に対するものではなく、暗騒音レベルに対する補正量を示している。
【0064】
そして、上記ステップS33,S35,S37またはS38の後、補正特性制御部39は、ステップS39で、音量補正ゲインGvが上限GAIN_maxを超えないようにクリップ処理を行ない、処理を終了(ステップS40)する。なお、補正特性制御部39がイコライザ制御部37に与える補正ゲイン特性は、マスキング補正ゲイン算出部41から供給される補正ゲイン値Gm[k]と、暗騒音推定部44から供給された暗騒音レベルPbgnに基づいて生成した音量補正ゲインGvとを加えた特性となる。
【0065】
上記した実施の形態によれば、環境音に応じて周波数帯域毎に適切な音質制御を行なうことができるとともに、暗騒音の信号レベルを推定し、その推定結果に応じて補正ゲイン特性を補正するようにしたので、オーディオ信号に対して、その再生音の聴取時における周囲の暗騒音レベルを考慮した適切な音質制御処理を施すことが可能となり、聴感上の補正ゲイン不足が解消され聞き易い音質で再生することができるようになる。
【0066】
また、暗騒音レベルの推定時に、環境音の雑音性に応じて判定時間を退縮することで、環境音の変化に対するゲイン補正の追従性を改善することが可能になる。
【0067】
なお、この発明は上記した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を種々変形して具体化することができる。また、上記した実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜に組み合わせることにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良いものである。さらに、異なる実施の形態に係る構成要素を適宜組み合わせても良いものである。
【符号の説明】
【0068】
11…デジタルテレビジョン放送受信装置、12…キャビネット、13…支持台、14…映像表示パネル、15…マイクロホン、16…スピーカ、17…操作部、17a…主電源スイッチ、18…リモートコントローラ、19…受光部、20…アンテナ、21…入力端子、22…チューナ部、23…復調復号部、24…信号処理部、25…合成処理部、26…オーディオ処理部、27…映像処理部、28…制御部、28a…CPU、28b…メモリ部、29…HDD、29a…ハードディスク、30…記録再生処理部、31…入力端子、32…ネットワークインターフェース、33…ネットワーク回線網、34…ネットワークサーバ、35…音質制御処理部、36…入力端子、37…イコライザ制御部、38…出力端子、39…補正特性制御部、40…再生音解析部、41…マスキング補正ゲイン算出部、42…入力端子、43…環境音解析部、44…暗騒音推定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力オーディオ信号に対して環境音に対するマスキング補正のための第1の補正ゲインを生成する生成手段と、
環境音から暗騒音レベルを推定する推定手段と、
前記生成手段で生成された第1の補正ゲインと、前記推定手段で推定された暗騒音レベルに応じて生成された第2の補正ゲインとに基づいて、前記入力オーディオ信号に音質制御処理を施す制御手段とを具備する音質制御装置。
【請求項2】
前記推定手段は、環境音の過去の短期解析区間内における信号パワーのメジアン値を短期暗騒音レベルとする請求項1記載の音質制御装置。
【請求項3】
前記推定手段は、環境音から前記短期暗騒音レベルを、長期解析区間に亘って解析することにより、暗騒音レベルを推定する請求項1記載の音質制御装置。
【請求項4】
前記推定手段は、環境音の雑音特性に基づいて長期解析区間の長さを変更する請求項3記載の音質制御装置。
【請求項5】
前記推定手段は、環境音が一般的な雑音特性に近いほど、長期解析区間の長さを短縮する請求項4記載の音質制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第1の補正ゲインと前記第2の補正ゲインとを加えた特性に基づいて、前記入力オーディオ信号に音質制御処理を施す請求項1記載の音質制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記入力オーディオ信号に対してイコライザ制御処理を施す請求項1記載の音質制御装置。
【請求項8】
オーディオ信号に対して生成手段により環境音に対するマスキング補正のための第1の補正ゲインを生成し、
環境音から推定手段により暗騒音レベルを推定し、
前記第1の補正ゲインと前記暗騒音レベルに応じて生成された第2の補正ゲインとに基づいて、制御手段により前記入力オーディオ信号に対して音質制御処理を施す音質制御方法。
【請求項9】
入力オーディオ信号に対して環境音に対するマスキング補正のための第1の補正ゲインを生成する処理と、
環境音から暗騒音レベルを推定する処理と、
前記第1の補正ゲインと前記暗騒音レベルに応じて生成された第2の補正ゲインとに基づいて、前記入力オーディオ信号に対して音質制御処理を施す処理とを、コンピュータに実行させる音質制御用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−106197(P2013−106197A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248855(P2011−248855)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】