説明

音質向上効果を有するオーディオ信号を生成するオーディオ装置及び方法

【課題】ノイズが少なく、且つ空間感及びハーモニックが向上した音質向上効果を有するオーディオ信号を生成するオーディオ装置及び方法を提供する。
【解決手段】オーディオ装置は、初期反射領域(early reflection region)の内部に適用する減衰パターン(decay pattern)を生成し、生成された減衰パターンを音源(sound source)のPCM Rawデータ(PCM raw data)とコンボリューションし、減衰パターンが適用されたオーディオ信号を生成する減衰パターン生成器と、減衰パターンが適用されたオーディオ信号から残響(reverberation)を発生させる残響発生器と、PCM Rawデータと残響発生器の出力とを加算し、音質向上効果を有する出力信号を生成する加算器と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ装置及びオーディオ信号の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代以後にMP3のようなデジタル音源が広く普及され、より容易に音楽に接することができるようになった。特に、最近、スマートフォンやポータブルプレーヤーの拡散に伴い、より多くの人々がMP3音楽を聴いている。MP3方式は、音楽を効率的に圧縮させて、少ない容量でも音楽を聴くことができるようにする長所があるが、圧縮率が大きくなるほど量子化誤差が大きくなるようになる。量子化誤差は、再生時に耳に逆らうノイズ発生の原因である。したがって、長時間イヤホンやヘッドホーンを用いてMP3音楽を聴くか、車両や居間でMP3音楽を聴く場合、聴き疲れ感が加重される。また、MP3音楽は、元々録音環境での空間感や自然な響きのような感じを正確に伝達しないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ノイズが少なく、且つ空間感及びハーモニックが向上した音質向上効果を有するオーディオ信号を生成するオーディオ装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様によるオーディオ装置は、初期反射領域(early reflection region)の内部に適用する減衰パターン(decay pattern)を生成し、前記生成された減衰パターンを音源(sound source)のPCM Rawデータ(PCM raw data)とコンボリューションし、減衰パターンが適用されたオーディオ信号を生成する減衰パターン生成器と、前記減衰パターンが適用されたオーディオ信号から残響(reverberation)を発生させる残響発生器と、前記PCM Rawデータと前記残響発生器の出力とを加算し、音質向上効果を有する出力信号を生成する加算器とを含む。
【0005】
本発明の第2態様によるオーディオ信号の生成方法は、初期反射領域(early reflection region)の内部に適用する減衰パターン(decay pattern)を生成する段階と、前記生成された減衰パターンを音源(sound source)のPCM Rawデータ(PCM raw data)とコンボリューションし、減衰パターンが適用されたオーディオ信号を生成する段階と、前記減衰パターンが適用されたオーディオ信号から残響(reverberation)を発生させる段階と、前記PCM Rawデータと前記残響発生器の出力とを加算し、音質向上効果を有する出力信号を生成する段階とを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、次の効果を奏することができる。但し、特定の実施例が次の効果をすべて含まなければならないかまたは次の効果のみを含まなければならないという意味ではないので、本発明の権利範囲は、これによって制限されるものと理解すべきものではない。
【0007】
本発明の一実施例によるオーディオ装置は、オーディオ信号に減衰パターンを適用し、減衰パターンが適用されたオーディオ信号に対して残響を発生させて、オーディオ信号に加算することによって、ノイズが少なく、且つ空間感及びハーモニックが向上した音質向上効果を有するオーディオ信号を出力する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】音の残響効果による時間領域でのインパルス応答を示す図である。
【図2】本発明の一実施例によるオーディオ装置を示すブロック図である。
【図3】図2の減衰パターン生成器が生成する初期反射の内部に存在する減衰パターンの一例を示す図である。
【図4】図2の減衰パターン生成器と残響発生器から生成される減衰パターンが適用されたオーディオ信号の一例を示す図である。
【図5】従来の技術によってPCM Rawデータを残響発生器とコンボリューションする場合に生成されるオーディオ信号の一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施例によるオーディオ信号の生成方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に関する説明は、構造的または機能的説明のための実施例に過ぎないので、本発明の権利範囲は、本明細書に記述された実施例によって制限されるものと解釈すべきものではない。すなわち、本発明の実施例は、多様な変更が可能であり、様々な形態を有することができるので、本発明の権利範囲は、技術的思想を実現することができる均等物を含むものと理解すべきである。
【0010】
なお、本発明において記述される用語の意味は、次のように理解すべきである。単数の表現は、文脈上、明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含むものと理解すべきであり、“含む”または“有する”などの用語は、記述された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性をあらかじめ排除しないものと理解すべきである。
【0011】
各段階は、文脈上、明白に特定の手順を記載しない以上、記述された手順と異なって行われることができる。すなわち、各段階は、記述された手順と同一に行われてもよく、実質的に同時に行われてもよく、反対の手順に行われてもよい。
【0012】
ここで使用されるすべての用語は、異なって定義されない限り、本発明の属する分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。一般的に使用される事前に定義された用語は、関連技術の文脈上の意味と一致するものと解釈すべきであり、本発明において明白に定義しない限り、理想的なものまたは過度に形式的な意味を有するものと解釈されることができない。
【0013】
図1は、音(sound)の残響効果(reverberation effect)による時間領域でのインパルス応答(impulse response)を示す図である。
【0014】
図1は、音源Sから送出された音を入力信号とし、目的地Rで受信された音を出力信号とする場合、入力信号と出力信号間の時間領域でインパルス応答を示す。図1において、水平軸は、時間に該当し、垂直軸は、応答の大きさに該当する。
【0015】
図1を参照すれば、インパルス応答は、入力信号に対して互いに異なる減衰レベルを有する互いに異なる遅延信号の和で表現され、残響効果を有する出力信号を形成する信号の組み合わせに該当する。図1のように、残響効果は、初期反射(Early Reflection)(以下、ERという)R1と以後クラスタ(cluster)R2及び後期残響(late reverberation)R3に区分され、初期反射R1は、第1初期反射(first early reflection)と残存初期反射(remnant early reflection)とに区分されることができる。ここで、第1初期反射は、初期反射音のうち先に到達する信号を意味する。例えば、聴き空間が六面体なら、第1初期反射は、壁面、天井及び底のような反射面に1回反射した後、目的地Rに受信される信号である。参照として、クラスタ領域は、残響で 存在することもしないこともありえる。
【0016】
図2は、本発明の一実施例によるオーディオ装置を示すブロック図である。図3は、図2の減衰パターン生成器が生成するER領域内部の減衰パターンの一例を示す図であり、図4は、図2の減衰パターン生成器と残響発生器から生成される減衰パターンが適用されたオーディオ信号の一例を示す図であり、図5は、従来の技術によってPCM Rawデータを残響発生器とコンボリューションする場合に生成されるオーディオ信号の一例を示す図である。
【0017】
図2を参照すれば、オーディオ装置200は、PCM変換器210、減衰パターン生成器220、残響発生器230及び加算器240を含む。ここで、減衰パターン生成器220及び残響発生器230は、音質向上制御部250を構成する。
【0018】
PCM変換器210は、音源(audio source)からPCM Rawデータ(pulse code modulation raw data)を生成する。例えば、PCM変換器210は、音源からヘッダー情報やフラグを除去し、PCM Rawデータを生成することができる。他の例として、PCM変換器210は、I2Sのような音源の場合、音源と同期化してPCM Rawデータを生成することができる。前記2つの例は、音源が非圧縮ビットストリームの場合であり、音源が圧縮ビットストリームの場合は、デコーディング段階をさらに経た後、PCM Rawデータを生成することができる。
【0019】
減衰パターン生成器220は、ER(early reflection)領域の内部に減衰パターン(decay pattern)を生成し、生成された減衰パターンをPCM変換器210から受信されたPCM Rawデータとコンボリューションする。ここで、減衰パターンは、初期反射に適用する減衰パターンであって、第1初期反射に適用する減衰パターンと残存初期反射に適用する減衰パターンとは、互いに異なることがある。減衰パターンの長さは、第1初期反射部分の各反射音の間の信号区間を超過しない。すなわち、減衰パターンの長さは、第1初期反射部分の各反射音の間の長さの最小長さと同一であるか、または小さい。これを数式で表現すれば、次の数式1の通りである。
【0020】
【数1】

【0021】
初期反射領域は、残響発生器230の構成によって決定される。ここで、減衰パターンは、視聴覚室、コンサートホール、オラトリウムのような場所で測定されるインパルス応答と類似のインパルス応答を有するFIRフィルタ(finite impulse response filter)から生成されることができる。例えば、減衰パターン生成器220は、図3の(a)または(b)のような振幅特性と図3の(c)のような周波数特性を有するように、減衰パターンを生成することができる。図3を参照すれば、減衰パターンは、時間領域に対してエンベロープが指数関数的に減少する形態を有し、200Hzから20kHz間の周波数領域に対して40dB範囲内で多数個のピーク(peak)と谷(valley)を有する。
【0022】
残響発生器230は、減衰パターン生成器220から減衰パターンが適用されたオーディオ信号を受信し、オーディオ信号に対する残響を発生させる。例えば、残響発生器230は、コムフィルタ(comb filter)、並列コムフィルタ(parallel comb filter)、全域通過フィルタ(all pass filter)、FIRフィルタ(finite impulse response filter)、及びフィードバック遅延ネットワーク(feedback delay network)のうちいずれか1つまたはこれらの組み合わせで具現されることができる。例えば、残響発生器230が並列コムフィルタで具現される場合、各コムフィルタは、マルチプライアー(multiplier)とディレイ(delay)を含むフィードバック構造を形成することができる。ここで、各コムフィルタのディレイの遅延時間は、互いに異なり、最も長い遅延時間は、最も短い遅延時間に対して1.5倍またはそれ以下であることがある。
【0023】
したがって、PCM変換器210の出力であるPCM Rawデータは、減衰パターン生成器220及び残響発生器230と順にコンボリューションされ、図4のような減衰パターンが適用されたオーディオ信号に変換される。例えば、第1初期反射(first ER's)は、約10msから約70msの時間の間に維持されることができ、残存初期反射及び後期残響(Remnant ER's+Late Reverberation)は、最大3秒まで維持されることができる。図4のER11及びER1Nは、第1初期反射(first ER's)部分の最初の反射音及び最後の反射音を示し、ER21は、残存初期反射(Remnant ER's)の最初の反射音を示す。また、ER12、ER14、ER1N、ER21によるパターンは、従来の残響発生器によるオーディオ信号の反射音が負数に該当するので(図5)、減衰パターンが位相反転されたことを示すために、色相を反転して表示した。図5は、従来の技術によってPCM Rawデータを残響発生器とコンボリューションする場合に生成されるオーディオ信号の一例を示す図である。
【0024】
加算器240は、PCM変換器210の出力と残響発生器230の出力とを加算し、オーディオ音質向上効果を有する出力信号を生成する。
【0025】
本発明の一実施例によるオーディオ装置は、MP3プレーヤー、携帯電話、車両用サウンドシステム、テレビ、ホームシアター、マルチメディアコンピュータ、CDプレーヤー、DVDプレーヤー、デジタルラジオのような多様な装置に採用されることができる。また、本発明は、MP3、AAC、Dolby Digital、DTSのような圧縮音源及びCD、DVDのような非圧縮音源に適用されることができる。また、オーディオ装置は、音源(sound source)がステレオ信号である場合、Left信号及びRight信号に対して各々異なる減衰パターン生成器及び残響発生器を使用することができる。
【0026】
図6は、本発明の一実施例によるオーディオ信号の生成方法を示す流れ図である。図6を参照すれば、段階610で、オーディオ装置は、音源(audio source)からPCM Rawデータ(PCM raw data)を生成する。例えば、オーディオ装置は、音源からヘッダー情報やフラグを除去し、PCM Rawデータを生成することができる。他の例として、オーディオ装置は、I2Sのような音源の場合、音源と同期化してPCM Rawデータを生成することができる。前記2つの例は、音源が非圧縮ビットストリームの場合であり、音源が圧縮ビットストリームの場合は、デコーディング段階をさらに経た後、PCM Rawデータを生成することができる。
【0027】
段階620で、オーディオ装置は、ER領域の内部に減衰パターン(decay pattern)を生成し、生成された減衰パターンをPCM Rawデータとコンボリューションし、減衰パターンが適用されたオーディオ信号を生成する。ここで、減衰パターンは、初期反射に適用する減衰パターンであって、第1初期反射に適用する減衰パターンと残存初期反射に適用する減衰パターンとは、互いに異なることができる。減衰パターンの長さは、第1初期反射部分の各反射音の間の信号区間を超過しない。すなわち、減衰パターンの長さは、第1初期反射部分の各反射音の間の長さの最小長さと同一であるか、または小さい。これを数式で表現すれば、前述した数式1と同一である。
【0028】
段階630で、オーディオ装置は、減衰パターンが適用されたオーディオ信号に対する残響を発生させる。例えば、オーディオ装置は、コムフィルタ(comb filter)、並列コムフィルタ(parallel comb filter)、全域通過フィルタ(all pass filter)、FIRフィルタ(finite impulse response filter)及びフィードバック遅延ネットワーク(feedback delay network)のうちいずれか1つまたはこれらの組み合わせで減衰パターンが適用されたオーディオ信号をフィルタリングし、残響を発生させることができる。
【0029】
段階640で、オーディオ装置は、段階630で生成された減衰パターンが適用され、残響を有するオーディオ信号と段階610で生成されたPCM Rawデータ(PCM raw data)とを加算し、オーディオ音質向上効果を有する出力信号を生成する。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施例を参照して説明したが、当該技術分野の熟練された当業者なら、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から脱しない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更させることができることを理解することができる。
【符号の説明】
【0031】
210 PCM変換器
220 減衰パターン生成器
230 残響発生器
240 加算器
250 音質向上制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期反射領域の内部に適用する減衰パターンを生成し、前記生成された減衰パターンを音源のPCM Rawデータとコンボリューションし、減衰パターンが適用されたオーディオ信号を生成する減衰パターン生成器と、
前記減衰パターンが適用されたオーディオ信号から残響を発生させる残響発生器と、
前記PCM Rawデータと前記残響発生器の出力とを加算し、音質向上効果を有する出力信号を生成する加算器と
を含むオーディオ装置。
【請求項2】
前記減衰パターンの長さは、前記初期反射領域の第1初期反射部分に存在する各反射音の間の長さを超過しないことを特徴とする請求項1に記載のオーディオ装置。
【請求項3】
前記減衰パターンは、時間領域でエンベロープが指数関数的に減少する形態を有し、200Hzから20kHz間の周波数応答は、40dB範囲内で多数個のピークと谷を有することを特徴とする請求項1に記載のオーディオ装置。
【請求項4】
前記残響発生器は、コムフィルタ、並列コムフィルタ、全域通過フィルタ、FIRフィルタ及びフィードバック遅延ネットワークのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のオーディオ装置。
【請求項5】
前記音源がステレオ信号である場合、Left信号及びRight信号に対して各々異なる前記減衰パターン生成器及び前記残響発生器の組み合わせを使用することを特徴とする請求項1に記載のオーディオ装置。
【請求項6】
初期反射領域の内部に適用する減衰パターンを生成する段階と、
前記生成された減衰パターンを音源のPCM Rawデータとコンボリューションし、減衰パターンが適用されたオーディオ信号を生成する段階と、
前記減衰パターンが適用されたオーディオ信号から残響を発生させる段階と、
前記PCM Rawデータと前記残響発生器の出力とを加算し、音質向上効果を有する出力信号を生成する段階と
を含むオーディオ信号の生成方法。
【請求項7】
前記減衰パターンの長さは、前記初期反射領域の第1初期反射部分に存在する各反射音の間の長さを超過しないことを特徴とする請求項6に記載のオーディオ信号の生成方法。
【請求項8】
前記減衰パターンは、時間領域でエンベロープが指数関数的に減少する形態を有し、200Hzから20kHz間の周波数応答は、40dB範囲内で多数個のピークと谷を有することを特徴とする請求項6に記載のオーディオ信号の生成方法。
【請求項9】
前記減衰パターンが適用されたオーディオ信号から残響を発生させる段階は、コムフィルタ、並列コムフィルタ、全域通過フィルタ、FIRフィルタ及びフィードバック遅延ネットワークのうち少なくとも1つを使用して残響を発生させることを特徴とする請求項6に記載のオーディオ信号の生成方法。
【請求項10】
前記音源がステレオ信号である場合、Left信号及びRight信号に対して各々異なる前記減衰パターン生成器及び前記残響発生器の組み合わせを使用することを特徴とする請求項6に記載のオーディオ信号の生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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