説明

音響インピーダンスの計算方法及びシステム

【課題】本発明は、高精度な音響インピーダンスの計算方法及びシステムを提供する。
【解決手段】試料近傍の測定点で測定した音圧及び音響粒子速度の実測値から試料表面での音響インピーダンスを求め、当該試料表面の音響インピーダンスの推定値の初期値とし、この当該試料表面の音響インピーダンスの推定値から測定点の音圧及び音響粒子速度を試料表面近傍の音場を球面波音場として再計算し、試料表面での音響インピーダンスの初期値と一致するまで再計算を繰り返して、当該試料表面の音響インピーダンスを計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響インピーダンスの計算方法及びシステムに係り、特に音響材料の音響インピーダンスの計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の音響インピーダンスや吸音率を測定する目的は、ある空間の音場を予測するためにその音場内にある物体の境界条件を得るためであり、また試料の音響性能を評価するためである。
主な測定方法としては、管内法と音場法があり、垂直入射吸音率やノーマル音響インピーダンスなどの測定を行う。
管内法は、音響管を用いた二つのマイクロホンを用いた伝達関数法や定在波比法が一般的であり、JIS A 1405(非特許文献1)、ISO 10534(非特許文献2)といった形で規格化されている。そして、試料が小さく、測定時間も短いという利点を有する。しかし、計測できる周波数範囲が限定され、及び試料サイズによりデータが異なるという欠点がある。
それに対して、音場法は、周波数範囲、試料サイズが限定されず、斜入射吸音率も測定可能であるという利点を有する。しかし、試料面積の影響を受け易く、規格化されていないため一般的に用いられることが少ない。
【0003】
音場法を用いた測定では、音源から受音点または試料表面までは十分離れており、その距離は波長に比べて十分大きく、受音点または試料表面近傍の音場は平面波音場であり、試料は局所作用性であることを仮定して行っている。(特許文献1、非特許文献3−5)。
音場法による測定では、2つのマイクロホンで2点の音圧を測定する2マイクロホン法(PP法)(非特許文献3,特許文献1)と、マイクロホンと音響粒子速度センサーを用いて一点の同一測定点で音圧及び音響粒子速度を測定するSurface impedance method(PU法)(非特許文献4,5)が用いられることが多い。
また、PP法では、実測値に対して補正を行うことによって、音響材料の音響インピーダンス及び吸音率を補正する方法が提唱されている(非特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−66627号公報
【非特許文献1】JIS A 1405, 音響管による吸音率及びインピーダンスの測定
【非特許文献2】ISO 10534, Acoustics - Determination of sound absorption coefficient and impedance in impedance tubes
【非特許文献3】J. F. Allard and Y. Champoux, “In Situ Two−Microphone Technique for the Measurement of the Acoustic Surface Impedance of Materials”, Noise Contr. Eng. J. 32(1), pp.15−23 (1989)
【非特許文献4】廣澤邦一,中川博,金誠,山本亜樹(日東紡音響), pu−プローブを用いた自由音場法による音響材料の吸音率測定 -その3 境界要素法による試料面積と受音点位置の検討-, 日本音響学会2008年秋季研究発表会講演論文集, pp.1173−1176
【非特許文献5】R. Lanoye, et al., “Measuring the free field acoustic impedance and absorption coefficient of sound absorbing materials with a combined particle velocity−pressure sensor”, J. Acoust. Soc. Am., 119(5), pp.2826−2831 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、音響材料の音響インピーダンス及び吸音率の測定において音場法を用いた場合、実際には音源から受音点または試料表面までは十分離れておらず、その距離は波長に比べて十分大きくなく、音源が試料に近いと平面波でなく球面波となるため、正確な値を求めることができなかった。また、従来の測定方法(PP法)は測定点が2点必要で、測定する周波数域によってマイクロホン間隔を変更せねば精度を確保できないという煩雑さがあった。また、受音点が試料から遠くなるため、試料面積の影響などに代表される外乱の影響を受けやすいという問題もあった。PP法の補正処理は、この外乱の影響を排除するものではないため精度を確保することが難しく、さらに真値に近づくような精度の高い測定方法の補正処理が必要であった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の音響インピーダンスの計算方法は、音響インピーダンスの計算方法であって、試料近傍での測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から試料表面での音響インピーダンスの計算を行う第1の演算工程と、先に計算された試料表面での音響インピーダンスに基づいて、前記測定点における音圧及び音響粒子速度を計算し、該計算された音圧及び音響粒子速度から前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行う第2の演算工程と、前記第2の演算工程で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算工程で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるかどうかの判定を行う判定工程とを備えて、前記判定工程において試料表面での音響インピーダンスが同一であると判定した場合には、直前の第2の演算工程において再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスを当該試料表面の音響インピーダンスとすることを特徴とする。
本発明の音響インピーダンスの計算方法は、前記判定工程で同一であると判定されなかった場合には、前記第2の演算工程で前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行い、前記第2の演算工程で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算工程で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるまで前記第2の演算工程の計算を繰り返し行うことを特徴とする。
本発明の音響インピーダンスの計算方法は、前記第1の演算工程は、前記測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第3の演算工程と、該第3の演算工程で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第4の演算工程とを備え、前記第2の演算工程は、直前の第1の演算工程で計算された又は第2の演算工程で再計算された試料表面での音響インピーダンスから前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第5の演算工程と、該第5の演算工程で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第6の演算工程とを備えることを特徴とする。
本発明の音響インピーダンスの計算方法は、前記第2の演算工程における再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスは、前記第2の演算工程において計算された試料表面での音響インピーダンスと前記第1の演算工程において計算された試料表面での音響インピーダンスとの差異を小さくするように再計算されることを特徴とする。
本発明の音響インピーダンスの計算システムは、音響インピーダンスの計算システムであって、試料近傍での測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から試料表面での音響インピーダンスの計算を行う第1の演算手段と、先に計算された試料表面での音響インピーダンスに基づいて、前記測定点における音圧及び音響粒子速度を計算し、該計算された音圧及び音響粒子速度から前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行う第2の演算手段と、前記第2の演算手段で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算手段で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるかどうかの判定を行う判定手段とを備えて、前記判定手段において試料表面での音響インピーダンスが同一であると判定した場合には、直前の第2の演算手段において再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスを当該試料表面の音響インピーダンスとすることを特徴とする。
本発明の音響インピーダンスの計算システムは、前記判定手段で同一であると判定されなかった場合には、前記第2の演算手段で前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行い、前記第2の演算手段で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算手段で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるまで前記第2の演算手段の計算を繰り返し行うことを特徴とする。
本発明の音響インピーダンスの計算システムは、前記第1の演算手段は、前記測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第3の演算手段と、該第3の演算手段で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第4の演算手段とを備え、前記第2の演算手段は、直前の第1の演算手段で計算された又は第2の演算手段で再計算された試料表面での音響インピーダンスから前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第5の演算手段と、該第5の演算手段で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第6の演算手段とを備えることを特徴とする。
本発明の音響インピーダンスの計算システムは、前記第2の演算手段における再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスは、前記第2の演算手段において計算された試料表面での音響インピーダンスと前記第1の演算手段において計算された試料表面での音響インピーダンスとの差異を小さくするように再計算されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マイクロホンと音響粒子速度センサーを用いて測定したPU法で音源からの距離による影響を補正することによって、PP法で補正を行った場合と比較して、真値との誤差が小さくなるため精度高く値を補正することが可能となる。また、PU法で補正を行った場合には、従来のPP法で補正を行った場合よりも少ない繰り返し回数で収束することが示され、実施の際のコストを低減させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<実施の形態>
[システム構成]
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る音響インピーダンスの計算システムXの構成について説明する。
まず、本発明の実施の形態に係る音響インピーダンスの計算システムXでは、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20を用いて、音圧及び音響粒子速度を同一点で測定する。なお、音響粒子速度とは、音波が空気中を疎密波として伝搬する時の、空気分子が音圧により前後に動く際の空気分子の動き速度をいう。
マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20は、インターネットやイントラネット等であるネットワーク5を介して、サーバー100に接続されている。そして、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20を用いて同一点で測定した音圧及び音響粒子速度のデータは、サーバー100において実際に音響インピーダンス測定の補正を実行する計算処理に供される。
【0010】
マイクロホン10は、無指向性又は指向性であってもよく、さらなる識別精度を追及するためにマイクロホンの出力信号に周波数帯域毎のフィルタ及び目的音源に特化したフィルタを用いることも可能である。
【0011】
マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20で収集したアナログ信号の電気信号である音圧信号及び音響粒子速度信号は、A/D変換装置でデジタル信号へ変換される。
また、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20で測定した音圧信号及び音響粒子速度信号をサンプリングし、ほぼリアルタイムでこの信号の経時変化(時系列)のデータをLANインターフェイス等を用いて送信することができる。ここでは実際の音圧波形や音響粒子速度波形を、例えば、16ビット、サンプリング周波数44.1kHzでデジタルサンプリングし、場合によっては原波形を完全に復元することができるロスレスコーデックで圧縮して送信することができる。そして、このデータは、上述のネットワーク5の形態に合わせて送信する。
【0012】
ネットワーク5は、LAN、電灯線LAN、cLink、無線LAN、携帯電話又はPHS網、有線電話回線、専用の回線等、音圧及び音響粒子速度データの転送レートに応じた回線速度を持つものであればいかなるネットワークでも用いることができる。また、ネットワークの形態としても、IPネットワークやその他のスター状やリング状のネットワーク等を用いることができる。さらに、フレキシブルディスク、各種フラッシュメモリカード、HDD(ハード・ディスク・ドライブ)等の記憶媒体を介してデータをやり取りすることもできる。
サーバー100は、PC/AT互換機を用いたPCサーバーや汎用機等であり、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20から音圧及び音響粒子速度を解析して、以下に述べる音場法による音響インピーダンス測定の補正を行う機能を有するプログラムを実行する。なお、以下では、例として、音響材料の音響インピーダンスの計算について説明するが、いかなる材料における音響インピーダンスの計算にも適用できることは言うまでもない。
【0013】
[制御構成]
次に、図2を参照して、本発明の実施の形態に係るサーバー100の制御構成について、より詳しく説明する。
サーバー100は、音圧信号及び音響粒子速度信号の解析と演算を行うことができる構成部位であり、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20で取得した音圧及び音響粒子速度データ等を入力する入力部110(入力手段)、入力されたデータや各データ処理結果等を記憶する記憶部120(記憶手段)、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20で取得した音圧及び音響粒子速度データから音場法による音響材料の音響インピーダンスデータの初期値を計算する初期値計算部130(初期値計算手段)、音場法による音響材料の音響インピーダンスデータの初期値から補正を行う補正処理部140(補正処理手段)、CPU(セントラル・プロセッシング・ユニット、中央処理装置)やMPU(マイクロ・プロセッシング・ユニット)等である制御部150(特定音源除去手段)、LCDディスプレイ等の表示装置やプリンタやプロッタや波形出力機等である出力部160(出力手段)とを主に備えている。
なお、音場法による音響材料の音響インピーダンスデータの初期値を計算するための音圧データ及び音響粒子速度データは、サーバー100が、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20により検出された音圧及び音響粒子速度データを取得しても、別のセンサー等や情報サイト等の情報を直接ネットワーク5から取得するようにしても、記憶媒体を介して直接取得するようにしてもよい。
【0014】
さらに具体的に説明すると、入力部110は、LANインターフェイス等であり、また、キーボードやポインティングデバイスや光学・磁気スキャナ等の入力手段も含む。これにより、入力部110は、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20からのデータや、予め測定員が測定したデータ等を入力することができる。さらに、入力されたマイクロホン10及び音響粒子速度センサー20の音圧及び音響粒子速度データについて、測定員がデータの種類等を入力するためのユーザインターフェイスも備えていてもよい。
記憶部120は、RAMやROMやフラッシュメモリやHDD等である。記憶部120は、マイクロホン10及び音響粒子速度センサー20から入力された音圧及び音響粒子速度データや予め測定員が測定した音圧及び音響粒子速度データ、音圧及び音響粒子速度データから計算された音響インピーダンスデータ、音場法による音響材料の音響インピーダンス測定を行う際の補正処理用のアルゴリズム、補正処理による結果等を記憶する。
初期値計算部130及び補正処理部140は、専用の演算用DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)や物理演算専用演算装置やGPU(Graphics Processing Unit)等のリアルタイムに演算可能な演算器を用いることが好ましい。また、初期値計算部130及び補正処理部140の機能を、制御部150の演算機能を用いて実現してもよい。
制御部150は、実際に以下の音場法による音響材料の音響インピーダンス測定の補正を行う際の制御と演算を行う構成部位である。このために、記憶部120のROMやHDD等に記憶しているプログラムに従って、A/D変換器で変換されたデジタル信号である音響インピーダンスデータに対して各種の制御と演算の処理を実行する。
【0015】
[補正処理工程]
本発明の実施の形態に係る音響インピーダンス測定のPU法による補正処理の概要を図3に示し、その補正処理の流れを図4に示す。
図3で示すように入射角θで音波が吸音面Fに入射すると考える。この時、実音源(スピーカ)Sと受音点(マイクロホン及び音響粒子速度センサーの位置)Rの距離をr、虚音源(スピーカの虚像)S’とRの距離をr’とし、それぞれがZ軸となす角をθ,θ’とする。また、SがRよりも波長に対して十分離れていて、R近傍における音波が平面波であるとみなし、吸音面Fに局所作用を仮定する。
【0016】
本発明の実施の形態に係る音響インピーダンス測定のPU法による補正処理工程は、実音場では、音源から受音点又は試料表面までは十分離れておらず、その距離は波長に比べて十分大きくなく、受音点又は試料表面近傍の音場は平面波音場ではなく球面波となるため、図4で示すような補正を行う。
【0017】
まず、PU法による当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値の初期値を求めるため、同一測定点(R点)においてマイクロホン10及び音響粒子速度センサー20を用いて音圧と音響粒子速度の実測値から試料表面での音響インピーダンスZ(θ)を求め、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値の初期値とする。この当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値を求めるために、計算パラメータとして必要な値を各ステップS1からステップS3で求める。
すなわち、ステップS1では、同一測定点(R点)での音響インピーダンスZ(R)を音圧と音響粒子速度の実測値から求める。また、ステップS2では、ステップS1で求めたR点での音響インピーダンスZ(R)から試料の音圧反射係数R(θ)を求める。また、ステップS3では、ステップS2で求めた試料の音圧反射係数R(θ)から試料表面での音響インピーダンスZ(θ)を求める。
そして、ステップS4で当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値の初期値として実測値から得られた試料表面での音響インピーダンスZ(θ)をZ(θ)に設定する。
【0018】
次に、試料表面の音響インピーダンスの補正を行うため、ステップS4で求めた当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値を用いて受音点及び試料表面近傍の音場を球面波音場として再計算を行う。これに必要な計算パラメータとして必要な値を各ステップS5からステップS7で求める。
すなわち、ステップS5では、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値を用いてR点の音圧と音響粒子速度を再計算し、同一測定点(R点)の音響インピーダンスZ’(R)を求める。また、ステップS6では、ステップS5で再計算したR点での音響インピーダンスZ’(R)から試料の音圧反射係数R’(θ)を再計算する。また、ステップS7では、ステップS6で求めた試料の音圧反射係数R’(θ)から試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)を求める。
【0019】
そして、ステップS8では、試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)が試料表面での音響インピーダンスZ(θ)に同一とみなせるかどうかを判定して、値が収束したかどうかを確認する。
同一でないと判定した場合(NO)には、ステップS9で当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値の再計算を行い、試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)の値がZ(θ)に収束するまでステップS5〜ステップS8を繰り返す。
また、ステップS8で同一であると判定した場合(YES)には、ステップS5での再計算の基となった直前の当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値を最終的に当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)として決定する。さらに、ステップS10で補正された音響インピーダンスである当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)を用いて吸音率α(θ)の計算を行う。
なお、図5に音場の数式表現についての基本的な関係を示す。以下、具体的に補正処理工程を説明する。
【0020】
(ステップS1)
まず、初期値計算部130は、R点での音響インピーダンスZ(R)の計算を行う。初期値計算部130は、音圧p(R)と音響粒子速度u(R)の実測値からR点での音響インピーダンスZ(R)を求める。なお、実際の実測値の測定は、一点のみの測定点の値を用いてもよいし、複数の測定点の値を平均して用いてもよい。ここに音響インピーダンスZ(R)は音圧p(R)と−z軸方向の粒子速度u(R)の比であり、(式1)のように表される。
【0021】
【数1】

【0022】
(ステップS2)
次に、初期値計算部130は、試料の音圧反射係数R(θ)の計算を行う。ここで入射角θの平面波に対する試料の音圧反射係数R(θ)は、(式2)に対してステップS1で求めた音響インピーダンスZ(R)を代入して求める。
【0023】
【数2】

ただし、kは波数を表しk=ω/cであり、ωは角周波数を表し、ρは空気の密度を表し、cは空気中の音速を表し、jは虚数単位を表す。
【0024】
(ステップS3)
次に、初期値計算部130は、試料表面での音響インピーダンスZ(θ)の計算を行う。なお、実際の試料表面での音響インピーダンスZ(θ)は、試料表面の一点のみの値を用いてもよいし、複数点の値を平均して用いてもよい。ここで試料表面での音響インピーダンスZ(θ)は、(式3)に対してステップS2で求めた試料の音圧反射係数R(θ)を代入して求める。
【0025】
【数3】

ただし、kは波数を表しk=ω/cであり、ωは角周波数を表し、ρは空気の密度を表し、cは空気中の音速を表し、Rは図3に示すようにRから試料へ下ろした垂線と試料表面の交点から音源までの距離を表し、jは虚数単位を表す。
【0026】
(ステップS4)
次に、初期値計算部130は、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値の初期値の計算を行う。初期値計算部130は、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値の初期値が試料表面の音響インピーダンスZ(θ)となるようにする。
【0027】
(ステップS5)
次に、補正処理部140は、R点での音響インピーダンスZ’(R)の再計算を行う。補正処理部140は、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値からR点の音圧p(R)と音響粒子速度u(R)を求め、R点の音響インピーダンスZ’(R)を再計算する。これは、受音点または試料表面近傍の音場は平面波音場であることが成り立たないため、受音点または試料表面近傍の音場を球面波音場として再計算して試料の音響インピーダンスを補正するものである。
ここで、有限な音響インピーダンスを持つ無限大反射面上の球面波に対する音場の数式表現は様々な形で提案されており、本発明はこの音場に関してある特定の数式に限定するものではない。例えば、以下にあげる数式表現に当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値を代入して、有限インピーダンスを持つ無限大平板試料上の球面波音場における速度ポテンシャルφ(R)を求め、R点の音圧p(R)と音響粒子速度u(R)を得ることができる。例えば、球面波反射音場の数式表現としては、図6の(式6)に示すようなNobile&Hayekが提唱する漸近解(M. A. Nobile and S. I. Hayek, “Acoustic propagation over an impedance plane”, J. Acoust. Soc. Am., 78(4), pp.1325−1336 (1985))を用いて求めることができる。
また例えば、球面波反射音場の数式表現としては、図7の(式7)に示すようなIngardが提唱する厳密解(U. Ingard, “On the Reflection of a Spherical Sound Wave from an Infinite Plane”, J. Acoust. Soc. Am., 23(3), pp.329−335 (1951))を用いて求めることができる。
【0028】
そして、R点での音響インピーダンスZ’(R)は、(式4)に上記で求めた有限インピーダンスを持つ無限大平板試料上の球面波音場における速度ポテンシャルφ(R)を代入して求める。
【0029】
【数4】

ただし、音圧p(R)は速度ポテンシャルφ(R)を時間で微分して表し、音響粒子速度u(R)は速度ポテンシャルφ(R)をn方向(例えば、図6,7における−z方向)に微分して表す。
【0030】
(ステップS6)
次に、補正処理部140は、試料の音圧反射係数R’(θ)の再計算を行う。ここで試料の音圧反射係数R’(θ)は、ステップS2で示した(式2)に対してステップS5で求めたR点での音響インピーダンスZ’(R)を代入して求める。
【0031】
(ステップS7)
次に、補正処理部140は、試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)の再計算を行う。ここで試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)は、ステップS3で示した数(式3)に対してステップS6で求めた試料の音圧反射係数R’(θ)を代入して求める。
【0032】
(ステップS8)
次に、補正処理部140は、料表面での音響インピーダンスZ’(θ)が試料表面での音響インピーダンスZ(θ)と同一とみなせるかどうかの判定を行う。試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)が試料表面での音響インピーダンスZ(θ)と同一でないと判定した場合(NO)には、ステップS9に進む。試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)が試料表面での音響インピーダンスZ(θ)と同一であると判定した場合(YES)には、ステップS10に進む。
【0033】
(ステップS9)
次に、補正処理部140は、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値の再計算を行う。好ましくは、補正処理部140は、ステップS8で試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)が試料表面での音響インピーダンスZ(θ)と同一でない場合(NO)には、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値は、試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)と試料表面での音響インピーダンスZ(θ)との差異が小さくなるように再計算を行う。例えば、補正処理部140は、ステップS8で試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)が試料表面での音響インピーダンスZ(θ)と同一でない場合(NO)には、(式5)で示すように当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値は、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値に対してステップS7で求めた試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)を加算して、試料表面での音響インピーダンスZ(θ)を減算して再計算を行う。すなわち、Z’(θ)とZ(θ)の差分を補正値としてZ(θ)に加える。そして、ステップS5に戻り補正処理の計算を繰り返して行う。
【0034】
【数5】

【0035】
(ステップS10)
次に、補正処理部140は、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の決定を行う。補正処理部140は、ステップS8で試料表面での音響インピーダンスZ’(θ)が試料表面での音響インピーダンスZ(θ)と同一である場合には、ステップS5において再計算の基となった直前の当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)の推定値を最終的に当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)として決定する。
また、求められた当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)から吸音率α(θ)を求めることもできる。ここで吸音率α(θ)は、当該音響材料を代表する試料表面の音響インピーダンスZ(θ)を(式8)に代入して試料の音圧反射係数R’’(θ)を求め、さらに、(式9)に対して試料の音圧反射係数R’’(θ)を代入して求める。
【0036】
【数6】

【0037】
【数7】

【0038】
PP法における補正は2点の音圧から計算されるのに対し、PU法における補正はマイクロホン及び音響粒子速度センサーで同一点で測定した音圧と音響粒子速度から計算される。したがって、本発明の実施の形態に係るPU法における補正では、新たに音響粒子速度の計算を導入する必要がありPP法における補正を適用することができなかった。
しかし、本発明の実施の形態で示すように、マイクロホン及び音響粒子速度センサーを用いた測定における補正を行うことによって、真値により近い音響インピーダンス及び吸音率を求めることができるようになる。特に、本発明の実施の形態に係る補正処理を適用することによって、低い周波数領域において精度の高い測定結果をより少ない繰返し回数で得ることが可能となり、その補正を行う計算繰り返し回数も全周波数域に渡って低減される。
なお、ここで真値とは、Allardらによって示されたモデル式(Jean−F. Allard and Yvan Champoux, “New empirical equations for sound propagation in rigid frame fibrous materials”, J. Acoust. Soc. Am. 91 (6), pp.3346−3353 (1992))を用いて伝搬定数と特性インピーダンスを求め、それらと試料の厚さをパラメータとする伝達マトリクス法によって得られる吸音率である(非特許文献4)。すなわち、無限平面の試料に平面波が入射する場合を想定しており、試料面積の影響は含まれない。
【0039】
また、2つのマイクロホンで2点の音圧を測定する2マイクロホンを用いた方法(PP法)におけるアルゴリズムを用いて補正を行った場合と、同一点の音圧及び音響粒子速度を測定するマイクロホン及び音響粒子速度センサーを用いた方法(PU法)におけるアルゴリズムを用いて補正を行った場合とを比較して、PU法における補正の方が真値に近いより正確な値を推定でき、誤差が小さくなる。
すなわち、PP法では2点で測定を行うため、各点間で一旦スイッチングをさせて測定を行うため、少なくとも測定作業量はPU法の場合と比べて2倍となり、また、同じ場所でスイッチングを行って計算をすることの困難性から再現性もあまり担保されていない。また、PP法に粒子速度は必要ないが、暗に粒子速度を2点間の有限差分近似で用いていると解釈でき、直接粒子速度を求めるPU法と比較すると、原理的に精度は悪いといえる。それに対して、PU法では、同一点でマイクロホン及び音響粒子速度センサーによって測定された音圧と音響粒子速度の値に対して補正を行うため、誤差は少なくなる。
【0040】
さらに、PU法による補正処理を行うことによって、PP法で補正を行った場合と比較してより少ない繰り返し回数で値が収束するようになる。これによって、計算処理速度が高まり、サーバーに対する負荷を低減することが可能となる。また、運用コストを低減させることも可能となる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例により、本願発明をさらに説明する。しかし、本実施例により、本願発明が、限定的に解釈されるものではない。
【0042】
[実施例1]
本発明の実施の形態に係る補正処理が音響インピーダンス及び吸音率の計算において優れていることを示すため、真値、測定値、及びPU法による補正値を、吸音面の面積や音源との距離の値を変更して比較する。
【0043】
図8は、PU法を用いて吸音率の測定を行った場合の各周波数の補正を行っていない場合の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。入射角は、0度である。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印は音源と試料の距離が1mである時の各周波数の吸音率(測定値r=1m)、△印は音源と試料の距離が2mである時の各周波数の吸音率(測定値r=2m)の例を示す。
【0044】
このように音源との距離がr=1mもしくは2mと小さい場合には、低周波領域で真値と測定値は、大きく乖離することが分かる。また、音源との距離がr=2mよりもr=1mのより音源との距離が近い場合の方が、その乖離の度合いは大きくなることが分かる。この正確な値を求めることができない原因は、音源から受音点または試料表面までは十分離れており、その距離は波長に比べて十分大きく、受音点または試料表面近傍の音場は平面波音場であるという仮定が実音場では成り立たないからと解される。すなわち、音源から受音点または試料表面までは十分離れているとは言えず、試料表面近傍の音場は平面波音場でなく球面波音場であるからである。そして、特に波長が長い低周波数域でこの矛盾が甚だしく、低周波数であるほど測定値と真値が乖離する傾向にある。したがって、PU法を用いて吸音率の測定を行う場合には、何らかの補正を行わないと真値に近い値を得ることができず、現実にこの値を使用することは困難を伴う。
ちなみに、音源との距離は、少なくとも10m以上は離れないとその影響を無視することができない。なお、この現象は、PP法を用いて吸音率の測定を行った場合にも確認することができる。
そこで、受音点または試料表面近傍の音場は平面波音場であることが成り立たないため、受音点または試料表面近傍の音場を球面波音場として再計算し、試料の音響インピーダンスを補正する例を示す。そして、補正された音響インピーダンスを用いて吸音率を求める。
【0045】
図9は、PU法を用いて吸音率の測定を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は無限大であり、入射角は0度であり、音源との距離rは0.5mである。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印は各周波数の吸音率をPU法で測定した補正前の値(測定値)、△印は各周波数の吸音率の測定値を本発明の実施の形態に係る補正処理によって補正した値(補正値)の例を示す。
図9に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、補正値は殆ど真値と変わらない値となる。
【0046】
図10は、PU法を用いて吸音率の測定を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は無限大であり、入射角は0度であり、音源との距離rは2.0mである。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印は各周波数毎の吸音率をPU法で測定した補正前の値(測定値)、△印は各周波数毎の吸音率の測定値を本発明の実施の形態に係る補正処理によって補正した値(補正値)の例を示す。
図10に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、補正値は殆ど真値と変わらない値となる。
【0047】
図11は、PU法を用いて吸音率の測定を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は1m×1mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは0.5mである。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印は各周波数毎の吸音率をPU法で測定した補正前の値(測定値)、△印は各周波数毎の吸音率の測定値を本発明の実施の形態に係る補正処理によって補正した値(補正値)の例を示す。
図11に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、補正値は殆ど真値と変わらない値となる。
【0048】
図12は、PU法を用いて吸音率の測定を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は1m×1mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは2.0mである。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印は各周波数の吸音率をPU法で測定した補正前の値(測定値)、△印は各周波数の吸音率の測定値を本発明の実施の形態に係る補正処理によって補正した値(補正値)の例を示す。
図12に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、補正値は殆ど真値と変わらない値となる。
【0049】
以上のように、同一点でマイクロホン及び音響粒子速度センサーでによって測定された値を用いるPU法による補正処理を行った後の値は、吸音面の面積や音源との距離を様々な値に変更した場合においても、補正した値は殆ど真値と変わらない値となった。
したがって、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理は、音場法による音響材料の音響インピーダンス及び吸音率測定の正確な値を推定する上で有用な方法であると解される。
【0050】
[実施例2]
本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理がPP法による補正処理よりも音響インピーダンス及び吸音率の計算において優れていることを示すため、真値、PP法による補正値、及びPU法による補正値を、吸音面の面積や音源との距離の値を変更して比較する。
実施例2で用いるPP法による補正値は、非特許文献3の手法を用いて算出する。
【0051】
図13は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は0.5m×0.5mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは0.5mである。実線は実際の各周波数毎の吸音率(真値)、●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PU法)の例を示す。
図13に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法による補正を行った場合と比較してより真値に近づくことが分かる。
【0052】
図14は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は0.5m×0.5mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは2.0mである。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PU法)の例を示す。
図14に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法による補正を行った場合と比較してより真値に近づくことが分かる。
【0053】
図15は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は1.0m×1.0mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは0.5mである。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PU法)の例を示す。
図15に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法による補正を行った場合と比較してより真値に近づくことが分かる。
【0054】
図16は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の測定例を示す。縦軸に吸音率及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は1.0m×1.0mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは2.0mである。実線は実際の各周波数の吸音率(真値)、●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の吸音率の値(PU法)の例を示す。
図16に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法による補正を行った場合と比較してより真値に近づくことが分かる。
【0055】
以上のように、同一点でマイクロホン及び音響粒子速度センサーによって測定された値を用いるPU法による補正処理を行った後の値は、吸音面の面積や音源との距離を様々な値に変更した場合においても、PP法による補正を行った値よりも誤差が少ない値を得ることできることが示される。すなわち、PU法におけるアルゴリズムを用いて補正を行った場合には、実際の補正した値を比較しても、2つのマイクロホンで2点の音圧を測定する2マイクロホン法(PP法)におけるアルゴリズムを用いて補正を行った場合と比較して、誤差が小さくなった。
【0056】
[実施例3]
本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理がPP法よりも音響インピーダンス及び吸音率の計算において、より補正に必要な繰り返し回数が少ないことを示すため、PP法による補正繰り返し回数、及びPU法による補正繰り返し回数を、吸音面の面積や音源との距離の値を変更して比較する。
実施例3で用いるPP法による補正値は、非特許文献3の手法を用いて算出する。
【0057】
図17は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の補正に必要な繰り返し回数を示す。縦軸に繰り返し回数及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は0.5m×0.5mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは0.5mである。●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PU法)の例を示す。
図17に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法で補正を行った場合と比較してより少ない繰り返し回数で行うことができることが分かる。
【0058】
図18は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の補正に必要な繰り返し回数を示す。縦軸に繰り返し回数及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は0.5m×0.5mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは2.0mである。●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PU法)の例を示す。
図18に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法で補正を行った場合と比較してより少ない繰り返し回数で行うことができる。
【0059】
図19は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の補正に必要な繰り返し回数を示す。縦軸に繰り返し回数及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は1.0m×1.0mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは0.5mである。●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PU法)の例を示す。
図19に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法で補正を行った場合と比較してより少ない繰り返し回数で行うことができることが分かる。
【0060】
図20は、PP法及びPU法を用いて吸音率の補正を行った場合の各周波数の補正に必要な繰り返し回数を示す。縦軸に繰り返し回数及び横軸に周波数(対数目盛)を示す。吸音面の面積は1.0m×1.0mであり、入射角は0度であり、音源との距離rは2.0mである。●印はPP法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PP法)、△印はPU法を用いて吸音率の補正を行った後の各周波数の補正繰り返し回数(PU法)の例を示す。
図20に示したように、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、PP法で補正を行った場合と比較してより少ない繰り返し回数で行うことができることが分かる。
【0061】
以上のように本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行うことによって、吸音面の面積や音源との距離を様々な値に変更した場合においても、PP法で補正を行った場合と比較してより少ない繰り返し回数で収束することが示される。これは前述した原理的な精度によって、PU法の方が有利であることに起因する。これによって、計算処理速度が高まり、サーバーに対する負荷を低減することが可能となり、結果的に、運用コストを低減させることも可能となることが示される。
また、本発明の実施の形態に係るPU法による補正処理を行い、PP法等で補正を行った場合よりもより真値に近い結果を得ることができたことは、本発明は、音場法による音響材料の音響インピーダンス及び吸音率測定の測定精度や値の補正の正確性を担保するために特に有用であると解される。
【0062】
なお、上記実施の形態の構成、解析及び測定は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは言うまでもない。
また、上記実施の形態の構成、解析及び測定で示した処理工程は、当業者にとって実際の処理の一部または全部を行い、若しくはその処理工程・ステップの順番を変更しても、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態に係る音響インピーダンスの計算システムの構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るサーバーの制御構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るPU法を用いた音響インピーダンスの補正処理の概要を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るPU法を用いた音響インピーダンスの補正処理の流れを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る音場の数式表現についての基本的な関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る球面波反射音場の数式表現の例(Nobile&Hayekが提唱する漸近解)を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る球面波反射音場の数式表現の例(Ingardが提唱する厳密解)を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係るPU法を用いた補正を行っていない吸音率の測定例を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例1に係るPU法を用いた吸音率(吸音面の面積は無限大、入射角は0度、音源との距離は0.5m)の測定比較例を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例1に係るPU法を用いた吸音率(吸音面の面積は無限大、入射角は0度、音源との距離は2.0m)の測定比較例を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例1に係るPU法を用いた吸音率(吸音面の面積は1m×1m、入射角は0度、音源との距離は0.5m)の測定比較例を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例1に係るPU法を用いた吸音率(吸音面の面積は1m×1m、入射角は0度、音源との距離は2.0m)の測定比較例を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例2に係るPU法及びPP法を用いた吸音率(吸音面の面積は0.5m×0.5m、入射角は0度、音源との距離は0.5m)の測定比較例を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例2に係るPU法及びPP法を用いた吸音率(吸音面の面積は0.5m×0.5m、入射角は0度、音源との距離は2.0m)の測定比較例を示すグラフである。
【図15】本発明の実施例2に係るPU法及びPP法を用いた吸音率(吸音面の面積は1.0m×1.0m、入射角は0度、音源との距離は0.5m)の測定比較例を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例2に係るPU法及びPP法を用いた吸音率(吸音面の面積は1.0m×1.0m、入射角は0度、音源との距離は2.0m)の測定比較例を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例3に係るPU法及びPP法を用いた補正繰り返し回数(吸音面の面積は0.5m×0.5m、入射角は0度、音源との距離は0.5m)の測定比較例を示すグラフである。
【図18】本発明の実施例3に係るPU法及びPP法を用いた補正繰り返し回数(吸音面の面積は0.5m×0.5m、入射角は0度、音源との距離は2.0m)の測定比較例を示すグラフである。
【図19】本発明の実施例3に係るPU法及びPP法を用いた補正繰り返し回数(吸音面の面積は1.0m×1.0m、入射角は0度、音源との距離は0.5m)の測定比較例を示すグラフである。
【図20】本発明の実施例3に係るPU法及びPP法を用いた補正繰り返し回数(吸音面の面積は1.0m×1.0m、入射角は0度、音源との距離は2.0m)の測定比較例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
5 ネットワーク
10 マイクロホン
20 音響粒子速度センサー
100 サーバー
110 入力部
120 記憶部
130 初期値計算部
140 補正処理部
150 制御部
160 出力部
X 音響インピーダンスの計算システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響インピーダンスの計算方法であって、
試料近傍での測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から試料表面での音響インピーダンスの計算を行う第1の演算工程と、
先に計算された試料表面での音響インピーダンスに基づいて、前記測定点における音圧及び音響粒子速度を計算し、該計算された音圧及び音響粒子速度から前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行う第2の演算工程と、
前記第2の演算工程で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算工程で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるかどうかの判定を行う判定工程とを備えて、
前記判定工程において試料表面での音響インピーダンスが同一であると判定した場合には、直前の第2の演算工程において再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスを当該試料表面の音響インピーダンスとすることを特徴とする音響インピーダンスの計算方法。
【請求項2】
前記判定工程で同一であると判定されなかった場合には、前記第2の演算工程で前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行い、
前記第2の演算工程で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算工程で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるまで前記第2の演算工程の計算を繰り返し行うことを特徴とする請求項1に記載の音響インピーダンスの計算方法。
【請求項3】
前記第1の演算工程は、
前記測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第3の演算工程と、
該第3の演算工程で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第4の演算工程とを備え、
前記第2の演算工程は、
直前の第1の演算工程で計算された又は第2の演算工程で再計算された試料表面での音響インピーダンスから前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第5の演算工程と、
該第5の演算工程で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第6の演算工程とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の音響インピーダンスの計算方法。
【請求項4】
前記第2の演算工程における再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスは、前記第2の演算工程において計算された試料表面での音響インピーダンスと前記第1の演算工程において計算された試料表面での音響インピーダンスとの差異を小さくするように再計算されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の音響インピーダンスの計算方法。
【請求項5】
音響インピーダンスの計算システムであって、
試料近傍での測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から試料表面での音響インピーダンスの計算を行う第1の演算手段と、
先に計算された試料表面での音響インピーダンスに基づいて、前記測定点における音圧及び音響粒子速度を計算し、該計算された音圧及び音響粒子速度から前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行う第2の演算手段と、
前記第2の演算手段で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算手段で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるかどうかの判定を行う判定手段とを備えて、
前記判定手段において試料表面での音響インピーダンスが同一であると判定した場合には、直前の第2の演算手段において再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスを当該試料表面の音響インピーダンスとすることを特徴とする音響インピーダンスの計算システム。
【請求項6】
前記判定手段で同一であると判定されなかった場合には、前記第2の演算手段で前記試料表面での音響インピーダンスの再計算を行い、
前記第2の演算手段で再計算された試料表面での音響インピーダンスが前記第1の演算手段で計算された試料表面での音響インピーダンスと同一とみなせるまで前記第2の演算手段の計算を繰り返し行うことを特徴とする請求項5に記載の音響インピーダンスの計算システム。
【請求項7】
前記第1の演算手段は、
前記測定点における音圧及び音響粒子速度の実測値から前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第3の演算手段と、
該第3の演算手段で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第4の演算手段とを備え、
前記第2の演算手段は、
直前の第1の演算手段で計算された又は第2の演算手段で再計算された試料表面での音響インピーダンスから前記測定点での音響インピーダンスの計算を行う第5の演算手段と、
該第5の演算手段で計算された測定点での音響インピーダンスから試料の音圧反射係数の計算を行う第6の演算手段とを備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の音響インピーダンスの計算システム。
【請求項8】
前記第2の演算手段における再計算の基となった試料表面での音響インピーダンスは、前記第2の演算手段において計算された試料表面での音響インピーダンスと前記第1の演算手段において計算された試料表面での音響インピーダンスとの差異を小さくするように再計算されることを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載の音響インピーダンスの計算システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−139476(P2010−139476A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318451(P2008−318451)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(390029023)日東紡音響エンジニアリング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】