説明

音響信号処理装置、音響信号処理方法、プログラム、および、記録媒体

【課題】リスナーの正中面から左または右に外れた位置の音像の定位感を向上させる。
【解決手段】バイノーラル化処理部は、音源逆側HRTFを音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、音源側HRTFを音響信号に重畳した信号の成分のうち、音源逆側HRTFの第1ノッチ、第2ノッチが現れる帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成する。クロストーク補正処理部は、第1のバイノーラル信号および第2のバイノーラル信号に対して、音響伝達特性およびクロストークをキャンセルするクロストーク補正を行う。本技術は、例えば、AVアンプリファイアに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、音響信号処理装置、音響信号処理方法、プログラム、および、記録媒体に関し、特に、仮想サラウンドを実現するための音響信号処理装置、音響信号処理方法、プログラム、および、記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体音響の分野では、側方や後方だけでなく、上方にもスピーカを追加して上下方向の音場感も表現しようとする流れが起こっている。
【0003】
一方、ホームシアターにチャンネル数分のスピーカを設置する家庭は少なく、フロントスピーカだけでサラウンド音場を擬似的に作り出す仮想サラウンド方式(フロントサラウンド方式)の製品が人気である。
【0004】
従って、側方や後方と同様に、上方のスピーカを設置する家庭は少ないと予想され、従来のフロントサラウンド方式と同様に、フロントスピーカだけで上方のスピーカを擬似的に生成する手法の確立が求められている。
【0005】
ところで、HRTF(Head-Related Transfer Function、頭部音響伝達関数)の振幅−周波数特性において高域側に現れるピークやディップが、上下方向および前後方向の音像の定位感に対する重要な手がかりとなることが知られている(例えば、特許文献1参照)。これらのピークやディップは、主に耳の形状による反射、回折、共鳴により形成されると考えられている。
【0006】
また、図1に示されるように、これらのピーク、ディップの中で、4kHz近傍に現れる正のピークP1と、ピークP1が現れる周波数以上の帯域において最初に現れる2つのノッチN1,N2が、特に上下前後の定位感に対する寄与率が高いことが指摘されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
ここで、本明細書において、ディップとは、HRTFの振幅−周波数特性などの波形図において、周囲と比較して凹んでいる状態の部分を指す。また、ノッチとは、ディップのうち、特に幅(例えば、HRTFの振幅−周波数特性では帯域)が狭く、所定の深さ以上のもの、すなわち、波形図に現れる急峻な負のピークを指す。
【0008】
ピークP1は、音源の方向に対する依存性が認められず、音源の方向に関わらずほぼ同じ帯域に現れる。そして、非特許文献1では、ピークP1は、人間の聴覚システムが、ノッチN1,N2を探索するためのリファレンス信号であり、実質的に上下前後の定位感に寄与する物理パラメータは、ノッチN1,N2であると考えられている。
【0009】
なお、以下、HRTFのノッチN1、ノッチN2を、それぞれ第1ノッチ、第2ノッチと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−211834号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】飯田他、空間音響学、日本、コロナ社、2010年7月、p.19-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した非特許文献1の上下前後の定位感に対する検討は、リスナーの頭を前後方向に切る平面である正中面内の範囲内に留まっている。従って、例えば、正中面から左または右に外れた位置に音像を定位させる場合に、非特許文献1の理論が有効であるかどうかは不明である。
【0013】
そこで、本技術は、リスナーの正中面から左または右に外れた位置の音像の定位感を向上させるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本技術の第1の側面の音響信号処理装置は、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成する第1のバイノーラル化処理部と、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成する第2のバイノーラル化処理部と、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行うクロストーク補正処理部とを含む。
【0015】
前記第1のバイノーラル化処理部には、前記第1のバイノーラル信号の成分のうち前記第1の帯域および前記第2の帯域の成分を減衰させた第3のバイノーラル信号を生成させ、前記クロストーク補正処理部には、前記第2のバイノーラル信号および前記第3のバイノーラル信号に対して前記クロストーク補正処理を行わせることができる。
【0016】
前記所定の周波数を、前記第1の頭部音響伝達関数の4kHz近傍において正のピークが現れる周波数とすることができる。
【0017】
本技術の第1の側面の音響信号処理方法は、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成し、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成し、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行うステップを含む。
【0018】
本技術の第1の側面のプログラムまたは本技術の第1の側面の記録媒体に記録されているプログラムは、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成し、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成し、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行うステップを含む処理をコンピュータに実行させる。
【0019】
本技術の第2の側面の音響信号処理装置は、第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成する減衰部と、前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行う信号処理部とを含む。
【0020】
前記所定の周波数を、前記第1の頭部音響伝達関数の4kHz近傍において正のピークが現れる周波数とすることができる。
【0021】
前記減衰部を、IIR(無限インパルス応答)フィルタにより構成し、前記信号処理部を、FIR(有限インパルス応答)フィルタにより構成することができる。
【0022】
本技術の第2の側面の音響信号処理方法は、第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成し、前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行うステップを含む。
【0023】
本技術の第2の側面のプログラムまたは本技術の第2の側面の記録媒体に記録されているプログラムは、第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成し、前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行うステップを含む処理をコンピュータに実行させる。
【0024】
本技術の第1の側面においては、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号が生成され、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号が生成され、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理が行われる。
【0025】
本技術の第2の側面においては、第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号が生成され、前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理が一体化して行われる。
【発明の効果】
【0026】
本技術の第1の側面または第2の側面によれば、リスナーの正中面から左または右に外れた位置の音像の定位感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】HRTFの一例を示すグラフである。
【図2】HRTFをベースにしたフロントサラウンド方式を実現する音響信号処理システムの一実施の形態を示す図である。
【図3】リスナーの前方左斜め上に配置した音源に対するHRTFの測定結果の一例を示すグラフである。
【図4】音源側のHRTFのノッチのリスナーの聴感に対する影響を調べる実験を説明するための図である。
【図5】音源と逆側のHRTFのノッチのリスナーの聴感に対する影響を調べる実験を説明するための図である。
【図6】音源側のHRTFに音源と逆側のHRTFのノッチを形成した場合のリスナーの聴感に対する影響を調べる実験を説明するための図である。
【図7】本技術を適用した音響信号処理システムの第1の実施の形態を示す図である。
【図8】第1の実施の形態の音響信号処理システムにより実行される音響信号処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】本技術を適用した音響信号処理システムの第2の実施の形態を示す図である。
【図10】第2の実施の形態の音響信号処理システムにより実行される音響信号処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】本技術を適用した音響信号処理システムの第3の実施の形態を示す図である。
【図12】第3の実施の形態の音響信号処理システムにより実行される音響信号処理を説明するためのフローチャートである。
【図13】本技術を適用したオーディオシステムの機能の構成例を模式的に示す図である。
【図14】コンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本技術を実施するための形態(以下、実施の形態という)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.本技術に適用する理論
2.第1の実施の形態(ノッチ形成イコライザを音源側にだけ設ける例)
3.第2の実施の形態(ノッチ形成イコライザを音源側と音源と逆側に設ける例)
4.第3の実施の形態(トランスオーラル処理を一体化して行う例)
5.変形例
【0029】
<1.本技術に適用する理論>
まず、図2乃至図6を参照して、本技術に適用する理論について説明する。
【0030】
両耳元に配置したマイクロフォンで録音した音をヘッドフォンにより両耳元で再生する手法は、バイノーラル録音/再生方式として知られている。バイノーラル録音により録音された2チャンネルの信号はバイノーラル信号と呼ばれ、人間にとって左右だけでなく上下方向や前後方向の音源の位置に関する音響情報が含まれる。
【0031】
また、このバイノーラル信号を、ヘッドフォンではなく左右の2チャンネルのスピーカを用いて再生する手法は、トランスオーラル再生方式と呼ばれている。ただし、バイノーラル信号に基づく音をそのままスピーカから出力しただけでは、例えば、右耳用の音がリスナーの左耳にも聴こえてしまうようなクロストークが発生してしまう。さらに、例えば、右耳用の音の波形が、リスナーの右耳に到達するまでの間にスピーカから右耳までの音響伝達特性が重畳され、変形してしまう。
【0032】
そのため、トランスオーラル再生方式では、クロストークや余計な音響伝達特性をキャンセルするための事前処理が、バイノーラル信号に対して行われる。以下、この事前処理を、クロストーク補正処理と称する。
【0033】
ところで、バイノーラル信号は、耳元のマイクで録音しなくても生成することができる。具体的には、バイノーラル信号は、音響信号に対し、その音源の位置から両耳元までのHRTFを重畳したものである。従って、HRTFが分かっていれば、音響信号に対してHRTFを重畳する信号処理を施すことによりバイノーラル信号を生成することができる。以下、この処理をバイノーラル化処理と称する。
【0034】
そして、HRTFをベースにしたフロントサラウンド方式では、このバイノーラル化処理およびクロストーク補正処理が行われる。
【0035】
図2は、HRTFをベースにしたフロントサラウンド方式を実現する音響信号処理システム101の一実施の形態を示すブロック図である。
【0036】
音響信号処理システム101は、音響信号処理部111、および、スピーカ112L,112Rを含むように構成される。また、スピーカ112L,112Rは、音響信号処理システム101において理想的な所定のリスニング位置の前方に左右対称に配置される。
【0037】
そして、音響信号処理システム101は、スピーカ112L,112Rを用いて、仮想の音源である仮想スピーカ113を実現する。すなわち、音響信号処理システム101は、所定のリスニング位置にいるリスナー102に対して、スピーカ112L,112Rから出力される音の像を、仮想スピーカ113の位置に定位させることが可能である。
【0038】
なお、以下、特に断りがない限り、図2に示されるように、仮想スピーカ113の位置が、リスニング位置(リスナー102)の前方左斜め上に設定されている場合について説明する。
【0039】
また、以下、リスニング位置を基準とする左右方向のうち、仮想スピーカ113に近い方を音源側と称し、仮想スピーカ113から遠い方を音源と逆側または音源逆側と称する。従って、図2の例の場合、リスニング位置から見て左側が音源側となり、右側が音源逆側となる。
【0040】
さらに、以下、仮想スピーカ113とリスナー102の左耳103Lとの間のHRTFを頭部音響伝達関数HLと称し、仮想スピーカ113とリスナー102の右耳103Rとの間のHRTFを頭部音響伝達関数HRと称する。また、以下、上記の2つの頭部音響伝達関数のうち、リスナー102の音源側(仮想スピーカ113に近い方)の耳に対応する方を音源側HRTFと称し、リスナー102の音源逆側(仮想スピーカ113から遠い方)の耳に対応する方を音源逆側HRTFと称する。さらに、以下、リスナー102の音源逆側の耳を影側の耳とも称する。
【0041】
また、以下、説明を簡単にするために、スピーカ112Lとリスナー102の左耳103Lとの間のHRTFと、スピーカ112Rとリスナー102の右耳103Rとの間のHRTFが同じであるものとし、当該HRTFを頭部音響伝達関数G1と称する。さらに、以下、説明を簡単にするために、スピーカ112Lとリスナー102の右耳103Rとの間のHRTFと、スピーカ112Rとリスナー102の左耳103Lとの間のHRTFが同じであるものとし、当該HRTFを頭部音響伝達関数G2と称する。
【0042】
音響信号処理部111は、バイノーラル化処理部121およびクロストーク補正処理部122を含むように構成される。バイノーラル化処理部121は、バイノーラル信号生成部131L,131Rを含むように構成される。クロストーク補正処理部122は、信号処理部141L,141R、信号処理部142L,142R、および、加算部143L,143Rを含むように構成される。
【0043】
バイノーラル信号生成部131Lは、外部から入力される音響信号Sinに対して頭部音響伝達関数HLを重畳することにより、バイノーラル信号BLを生成する。バイノーラル信号生成部131Lは、生成したバイノーラル信号BLを信号処理部141Lおよび信号処理部142Lに供給する。
【0044】
バイノーラル信号生成部131Rは、外部から入力される音響信号Sinに対して頭部音響伝達関数HRを重畳することにより、バイノーラル信号BRを生成する。バイノーラル信号生成部131Rは、生成したバイノーラル信号BLを信号処理部141Rおよび信号処理部142Rに供給する。
【0045】
信号処理部141Lは、頭部音響伝達関数G1,G2を変数とする所定の関数f1(G1,G2)をバイノーラル信号BLに重畳することにより、音響信号SL1を生成する。信号処理部141Lは、生成した音響信号SL1を加算部143Lに供給する。
【0046】
同様に、信号処理部141Rは、関数f1(G1,G2)をバイノーラル信号BRに重畳することにより、音響信号SR1を生成する。信号処理部141Rは、生成した音響信号SR1を加算部143Rに供給する。
【0047】
なお、関数f1(G1,G2)は、例えば、次式(1)により表される。
【0048】
f1(G1,G2)=1/(G1+G2)+1/(G1−G2) ・・・(1)
【0049】
信号処理部142Lは、頭部音響伝達関数G1,G2を変数とする所定の関数f2(G1,G2)をバイノーラル信号BLに重畳することにより、音響信号SL2を生成する。信号処理部142Lは、生成した音響信号SL2を加算部143Rに供給する。
【0050】
同様に、信号処理部142Rは、関数f2(G1,G2)をバイノーラル信号BRに重畳することにより、音響信号SR2を生成する。信号処理部142Rは、生成した音響信号SR2を加算部143Lに供給する。
【0051】
なお、関数f2(G1,G2)は、例えば、次式(2)により表される。
【0052】
f2(G1,G2)=1/(G1+G2)−1/(G1−G2) ・・・(2)
【0053】
加算部143Lは、音響信号SL1と音響信号SR2を加算することにより、音響信号SLoutを生成する。加算部143Lは、音響信号SLoutをスピーカ112Lに供給する。
【0054】
加算部143Rは、音響信号SR1と音響信号SL2を加算することにより、音響信号SRoutを生成する。加算部143Rは、音響信号SRoutをスピーカ112Rに供給する。
【0055】
スピーカ112Lは、音響信号SLoutに基づく音を出力し、スピーカ112Rは、音響信号SRoutに基づく音を出力する。
【0056】
これにより、理論的には、バイノーラル信号生成部131L,131Rに適用する頭部音響伝達関数HL,HRを調整することにより、仮想スピーカ113を自在に配置することができるはずである。
【0057】
しかしながら、実際に測定した頭部音響伝達関数HL,HR,G1,G2を音響信号処理部111に適用して実験したところ、リスナー102が安定的な定位感を得るのが難しいことが分かった。特に、高域側の帯域で音像がぼやけたり、再生に使用するスピーカ側に寄った位置に音像が定位したりして、仮想スピーカ113の位置に安定して音像を定位させることが難しいことが分かった。
【0058】
次に、音源の位置がリスニング位置における正中面から左または右に外れた位置にある場合に、音源側HRTFおよび音源逆側HRTFの第1ノッチ、第2ノッチがそれぞれどのように作用するかを調べる実験を行った。
【0059】
まず、リスナー102(実際には、実物大の人形)の前方左斜め上に配置したスピーカ201から音を出力した場合のリスナー102の左耳103Lおよび右耳103Rに対するHRTFを測定した。図3は、そのときの測定結果を示している。
【0060】
この測定結果を見ると、音源側の左耳103Lに対する音源側HRTFにおいて、第1ノッチN1sおよび第2ノッチN2sが現れている。また、音源と逆側の右耳103Rに対する音源逆側HRTFには、第1ノッチN1cおよび第2ノッチN2cが現れている。このように、音源側HRTFと音源逆側HRTFの両方ともに、第1ノッチおよび第2ノッチが現れる。
【0061】
次に、音源側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチと音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチのリスナーの聴感に対する影響を比較する実験を行った。
【0062】
まず、音源側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチのリスナーの聴感に対する影響を調べる実験を行った。具体的には、図4に示されるように、リスナー102の正中面から左または右に外れた音源に対する音源側HRTFおよび音源逆側HRTFを任意の音響信号に重畳し(バイノーラル化処理)、リスナー102の左右の耳にイヤフォン211L,211Rで供給する。このとき、ピーキングEQ(イコライザ)により音源側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチを埋めた場合と埋めない場合とで、リスナー102の聴感を比較した。
【0063】
なお、この図では、音源の位置がリスナー102の前方左斜め上にあり、リスナー102の左耳103Lが音源側となり、右耳103Rが音源逆側となる例を示している。
【0064】
その結果、ピーキングEQをオフしたときにリスナー102が感じる音像の位置P1と、オンしたときにリスナー102が感じる音像の位置P2との間に大差はなかった。そして、音源側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチを埋めても、音像の上方感がほとんど劣化しないことが分かった。
【0065】
次に、同様の方法により、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチのリスナーの聴感に対する影響を調べる実験を行った。すなわち、図5に示されるように、ピーキングEQ(イコライザ)により音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチを埋めた場合と埋めない場合とで、リスナー102の聴感を比較した。
【0066】
その結果、ピーキングEQをオフしたときにリスナー102が感じる音像の位置P1と、オンしたときにリスナー102が感じる音像の位置P3との間に大きな差が生じた。そして、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチを埋めると、音像の上方感が有意に劣化することが分かった。
【0067】
この実験結果から、音源の位置がリスナーの正中面から左または右に外れた場合、音源逆側HRTFに現れる第1ノッチおよび第2ノッチの再現が、音像の上下方向の定位感に対して重要になるものと推測される。これは、音像の前後方向の定位感についても同様である。
【0068】
従って、トランスオーラル再生方式では、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチをリスナーの影側の耳元で再現できれば、音像の上下前後の定位感を安定させることが可能になると言える。しかし、これは、以下の理由により容易ではないと考えられる。
【0069】
音源逆側HRTFの第1ノッチ、第2ノッチが現れる帯域だけに注目すると、リスナーの影側の耳元では小さな信号レベルを再現し、音源側の耳元では、それよりもずっと大きな信号レベルを再現する必要がある。これは、クロストーク補正処理が理想的に作用していれば可能であるが、一般的なリスニング環境では、誤差が生じやすい。そして、クロストーク量に誤差が生じれば、クロストークの影響により、音源逆側HRTFの第1ノッチ、第2ノッチが埋まってしまい、リスナーの影側の耳元で再現できなくなる。
【0070】
このように、音源逆側HRTFの第1ノッチ、第2ノッチを影側の耳元で再現するのは非常に困難であり、これが、図2の音響信号処理システム101において、音像の上下前後の定位感が不安定になる原因の一つと考えられる。
【0071】
次に、以上のトランスオーラル再生方式の問題を鑑みて、もう一つ実験を行った。
【0072】
具体的には、図6に示されるように、音源逆側ライクノッチEQにより音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチを音源側HRTFに形成した場合と形成しない場合とで、リスナー102の聴感を比較した。
【0073】
その結果、音源逆側ライクノッチEQをオフしたときにリスナー102が感じる音像の位置P1と、オンしたときにリスナー102が感じる音像の位置P4との間に大差はなかた。そして、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチを音源側HRTFに形成しても、音像の上方感がほとんど劣化しないことが分かった。
【0074】
以上の実験結果から、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチをリスナーの影側の耳元で再現できれば、音源側の耳元における当該ノッチが現れる帯域の音の振幅は、音像の上下方向の定位感に有意な影響を与えないものと推測される。これは、音像の前後方向の定位感についても同様である。
【0075】
以上の実験結果により示されるHRTFの性質を応用したものが、以下に述べる本技術の実施の形態である。
【0076】
<2.第1の実施の形態>
次に、図7および図8を参照して、本技術を適用した音響信号処理システムの第1の実施の形態について説明する。
【0077】
[音響信号処理システム301の構成例]
図7は、本技術の第1の実施の形態である音響信号処理システム301の機能の構成例を示す図である。なお、図中、図2と対応する部分には、同じ符号を付してあり、処理が同じ部分については、その説明は繰り返しになるので、適宜省略する。
【0078】
音響信号処理システム301は、図2の音響信号処理システム101と比較して、音響信号処理部111の代わりに音響信号処理部311が設けられている点が異なる。また、音響信号処理部311は、音響信号処理部111と比較して、バイノーラル化処理部121の代わりにバイノーラル化処理部321が設けられている点が異なる。さらに、バイノーラル化処理部321は、バイノーラル化処理部121と比較して、バイノーラル信号生成部131Lの前段にノッチ形成イコライザ331Lが設けられている点が異なる。
【0079】
ノッチ形成イコライザ331Lは、外部から入力される音響信号Sinの成分のうち、音源逆側HRTFにおいて第1ノッチおよび第2ノッチが現れる帯域の成分を減衰させる処理(以下、ノッチ形成処理と称する)を行う。ノッチ形成イコライザ331Lは、ノッチ形成処理の結果得られた音響信号Sin’をバイノーラル信号生成部131Lに供給する。
【0080】
なお、この例では、リスナー102の右耳103Rが影側である場合の構成を示している。一方、リスナー102の左耳103Lが影側である場合には、ノッチ形成イコライザ331Lの代わりに、バイノーラル信号生成部131Rの前段にノッチ形成イコライザ331Rが設けられる。
【0081】
[音響信号処理システム301による音響信号処理]
次に、図8のフローチャートを参照して、図7の音響信号処理システム301により実行される音響信号処理について説明する。
【0082】
ステップS1において、ノッチ形成イコライザ331Lは、音源側の音響信号Sinに音源逆側HRTFのノッチと同帯域のノッチを形成する。すなわち、ノッチ形成イコライザ331Lは、音響信号Sinの成分のうち、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチと同じ帯域の成分を減衰させる。これにより、音響信号Sinの成分のうち、音源逆側HRTFの振幅が所定の深さ以上となるノッチが所定の周波数(4kHz近傍の正のピークが現れる周波数)以上において現れる帯域のうち最も低い帯域および2番目に低い帯域の成分が減衰される。そして、ノッチ形成イコライザ331Lは、その結果得られた音響信号Sin’をバイノーラル信号生成部131Lに供給する。
【0083】
ステップS2において、バイノーラル信号生成部131L,131Rは、バイノーラル化処理を行う。具体的には、バイノーラル信号生成部131Lは、音響信号Sin’に頭部音響伝達関数HLを重畳することにより、バイノーラル信号BLを生成する。バイノーラル信号生成部131Lは、生成したバイノーラル信号BLを信号処理部141Lおよび信号処理部142Lに供給する。
【0084】
このバイノーラル信号BLは、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチと同帯域のノッチを音源側HRTFに形成したHRTFを音響信号Sinに重畳した信号となる。換言すれば、このバイノーラル信号BLは、音響信号Sinに音源側HRTFを重畳した信号の成分のうち、音源逆側HRTFにおいて第1ノッチおよび第2ノッチが現れる帯域の成分を減衰させた信号となる。
【0085】
また、バイノーラル信号生成部131Rは、音響信号Sinに頭部音響伝達関数HRを重畳することにより、バイノーラル信号BRを生成する。バイノーラル信号生成部131Rは、生成したバイノーラル信号BLを信号処理部141Rおよび信号処理部142Rに供給する。
【0086】
ステップS3において、クロストーク補正処理部122は、クロストーク補正処理を行う。具体的には、信号処理部141Lは、上述した関数f1(G1,G2)をバイノーラル信号BLに重畳することにより、音響信号SL1を生成する。信号処理部141Lは、生成した音響信号SL1を加算部143Lに供給する。
【0087】
同様に、信号処理部141Rは、関数f1(G1,G2)をバイノーラル信号BRに重畳することにより、音響信号SR1を生成する。信号処理部141Rは、生成した音響信号SR1を加算部143Rに供給する。
【0088】
また、信号処理部142Lは、上述した関数f2(G1,G2)をバイノーラル信号BLに重畳することにより、音響信号SL2を生成する。信号処理部142Lは、生成した音響信号SL2を加算部143Rに供給する。
【0089】
同様に、信号処理部142Rは、関数f2(G1,G2)をバイノーラル信号BRに重畳することにより、音響信号SR2を生成する。信号処理部142Rは、生成した音響信号SL2を加算部143Lに供給する。
【0090】
加算部143Lは、音響信号SL1と音響信号SR2を加算することにより音響信号SLoutを生成する。加算部143Lは、生成した音響信号SLoutをスピーカ112Lに供給する。
【0091】
同様に、加算部143Rは、音響信号SR1と音響信号SL2を加算することにより音響信号SRoutを生成する。加算部143Rは、生成した音響信号SRoutをスピーカ112Rに供給する。
【0092】
ステップS4において、スピーカ112Lおよびスピーカ112Rから、それぞれ音響信号SLoutまたは音響信号SRoutに基づく音が出力される。
【0093】
これにより、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチの帯域だけに注目すると、スピーカ112L,112Rの再生音の信号レベルが小さくなり、リスナー102の両耳に到達する音において、当該帯域のレベルは安定して小さくなる。従って、仮にクロストークが発生したとしても、リスナー102の影側の耳元において、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチが安定して再現される。その結果、トランスオーラル再生方式において問題となっていた上下前後の定位感の不安定さが解消される。
【0094】
<3.第2の実施の形態>
次に、図9および図10を参照して、本技術を適用した音響信号処理システムの第2の実施の形態について説明する。
【0095】
[音響信号処理システム401の構成例]
図9は、本技術の第2の実施の形態である音響信号処理システム401の機能の構成例を示す図である。なお、図中、図7と対応する部分には、同じ符号を付してあり、処理が同じ部分については、その説明は繰り返しになるので、適宜省略する。
【0096】
音響信号処理システム401は、図7の音響信号処理システム301と比較して、音響信号処理部311の代わりに音響信号処理部411が設けられている点が異なる。また、音響信号処理部411は、音響信号処理部311と比較して、バイノーラル化処理部321の代わりにバイノーラル化処理部421が設けられている点が異なる。さらに、バイノーラル化処理部421は、バイノーラル化処理部321と比較して、バイノーラル信号生成部131Rの前段にノッチ形成イコライザ331Rが設けられている点が異なる。
【0097】
ノッチ形成イコライザ331Rは、ノッチ形成イコライザ331Lと同様のイコライザである。従って、ノッチ形成イコライザ331Rからは、ノッチ形成イコライザ331Lと同様の音響信号Sin’が出力され、バイノーラル信号生成部131Rに供給される。
【0098】
[音響信号処理システム401による音響信号処理]
次に、図10のフローチャートを参照して、図9の音響信号処理システム401により実行される音響信号処理について説明する。
【0099】
ステップS21において、ノッチ形成イコライザ331L,331Rは、音源側および音源逆側の音響信号Sinに音源逆側HRTFのノッチと同帯域のノッチを形成する。すなわち、ノッチ形成イコライザ331Lは、音響信号Sinの成分のうち、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチと同じ帯域の成分を減衰させる。そして、ノッチ形成イコライザ331Lは、その結果得られた音響信号Sin’をバイノーラル信号生成部131Lに供給する。
【0100】
同様に、ノッチ形成イコライザ331Rは、音響信号Sinの成分のうち、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチと同じ帯域の成分を減衰させる。そして、ノッチ形成イコライザ331Rは、その結果得られた音響信号Sin’をバイノーラル信号生成部131Rに供給する。
【0101】
ステップS22において、バイノーラル信号生成部131L,131Rは、バイノーラル化処理を行う。具体的には、バイノーラル信号生成部131Lは、音響信号Sin’に頭部音響伝達関数HLを重畳することにより、バイノーラル信号BLを生成する。バイノーラル信号生成部131Lは、生成したバイノーラル信号BLを信号処理部141Lおよび信号処理部142Lに供給する。
【0102】
同様に、バイノーラル信号生成部131Rは、音響信号Sin’に頭部音響伝達関数HRを重畳することにより、バイノーラル信号BRを生成する。バイノーラル信号生成部131Rは、生成したバイノーラル信号BRを信号処理部141Rおよび信号処理部142Rに供給する。
【0103】
このバイノーラル信号BRは、実質的に音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチをさらに深くしたHRTFを音響信号Sinに重畳した信号となる。従って、このバイノーラル信号BRは、音響信号処理システム301におけるバイノーラル信号BRと比較して、音源逆側HRTFにおいて第1ノッチおよび第2ノッチが現れる帯域の成分がさらに小さくなる。
【0104】
その後、ステップS23において、図8のステップS3の処理と同様に、クロストーク補正処理が行われ、ステップS24において、図8のステップS4の処理と同様に、スピーカ112L,112Rから音が出力され、音響信号処理は終了する。
【0105】
上述したように、音響信号処理システム401では、音響信号処理システム301と比較して、バイノーラル信号BRにおいて、音源逆側HRTFにおいて第1ノッチおよび第2ノッチが現れる帯域の成分が小さくなる。従って、最終的にスピーカ112Rに供給される音響信号SRoutの同帯域の成分も小さくなり、スピーカ112Rから出力される音の同帯域のレベルも小さくなる。
【0106】
しかし、これは、リスナー102の影側の耳元において、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチの帯域のレベルを安定して再現するという点で、悪影響を及ぼすものではない。従って、音響信号処理システム401においても、音響信号処理システム301と同様に、上下前後の定位感を安定させる効果を得ることができる。
【0107】
また、リスナー102の両耳に到達する音において、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチの帯域のレベルは元々小さいため、それをさらに小さくしても音質に悪影響を及ぼすものではない。
【0108】
<4.第3の実施の形態>
次に、図11および図12を参照して、本技術を適用した音響信号処理システムの第3の実施の形態について説明する。
【0109】
[音響信号処理システム501の構成例]
図11は、本技術の第3の実施の形態である音響信号処理システム501の機能の構成例を示す図である。なお、図中、図9と対応する部分には、同じ符号を付してあり、処理が同じ部分については、その説明は繰り返しになるので、適宜省略する。
【0110】
図11の音響信号処理システム501は、図9の音響信号処理システム401と比較して、音響信号処理部411の代わりに音響信号処理部511が設けられている点が異なる。音響信号処理部511は、ノッチ形成イコライザ331およびトランスオーラル一体化処理部521を含むように構成される。トランスオーラル一体化処理部521は、信号処理部541L,541Rを含むように構成される。
【0111】
ノッチ形成イコライザ331は、図9のノッチ形成イコライザ331L,331Rと同様のイコライザである。従って、ノッチ形成イコライザ331からは、ノッチ形成イコライザ331L,331Rと同様の音響信号Sin’が出力され、信号処理部541L,541Rに供給される。
【0112】
トランスオーラル一体化処理部521は、音響信号Sin’に対して、バイノーラル化処理およびクロストーク補正処理の一体化処理を行う。例えば、信号処理部541Lは、音響信号Sin’に対して次式(3)に示される処理を施し、音響信号SLoutを生成する。
【0113】
SLout={HL*f1(G1,G2)+HR*f2(G1,G2)}×Sin' ・・・(3)
【0114】
この音響信号SLoutは、音響信号処理システム401における音響信号SLoutと同じ信号となる。
【0115】
同様に、例えば、信号処理部541Rは、音響信号Sin’に対して次式(4)に示される処理を施し、音響信号SRoutを生成する。
【0116】
SRout={HR*f1(G1,G2)+HL*f2(G1,G2)}×Sin' ・・・(4)
【0117】
この音響信号SRoutは、音響信号処理システム401における音響信号SRoutと同じ信号となる。
【0118】
なお、トランスオーラル再生方式において、このようにバイノーラル化処理とクロストーク補正処理を一体化することは信号処理の負荷を節減するためにしばしば実施される。
【0119】
また、この一体化処理を実現するにあたり、処理対象となる信号の周波数特性が一般的に複雑になるため、信号処理部541L,541Rは、通常FIR(有限インパルス応答)フィルタにより構成される。
【0120】
このとき、FIRフィルタに、バイノーラル化処理とクロストーク補正処理を合成した特性を十分に再現可能な高次数処理ができる信号処理リソースを確保できれば問題ない。しかし、一般的には、必要な次数より低次数の処理しかできない信号処理リソースしか確保できない場合が多い。
【0121】
このような低次数のFIRフィルタでは、振幅−周波数特性のうち、特に周囲と比較して振幅(ゲイン)が低い部分の特性を確保することが難しい。例えば、低次数化により、振幅−周波数特性に現れるディップの形状が鈍ったり、周波数ズレを起こしたりする。
【0122】
従って、信号処理部541L,541Rを低次数のFIRフィルタにより実装する場合、ノッチ形成イコライザ331の処理を信号処理部541L,541Rの中にマージしたのでは、形成されるノッチの特性を確保するのは難しい。これに対して、ノッチ形成イコライザ331を、信号処理部541L,541Rの外側に、IIR(無限インパルス応答)フィルタとして実装することにより、ノッチ形成イコライザ331により形成されるノッチの特性をより安定して確保することが可能になる。
【0123】
一方、信号処理部541L,541Rの外側にノッチ形成イコライザ331を実装する場合、音源側の音響信号Sinだけにノッチ形成処理を行う経路は存在しない。従って、音響信号処理部511では、信号処理部541Lおよび信号処理部541Rの前段にノッチ形成イコライザ331を設け、音源側および音源逆側の両方の音響信号Sinに対してノッチ形成処理を行い、信号処理部541L,541Rに供給する。すなわち、音響信号処理システム401と同様に、音源逆側の音響信号Sinに対して、実質的に音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチをさらに深くしたHRTFを重畳することになる。
【0124】
しかしながら、上述したように、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチをさらに深くしても、上下前後の定位感および音質に悪影響は与えない。むしろ、信号処理部541L,信号処理部541Rを低次数のFIRフィルタにより構成することにより、振幅−周波数特性のディップに鈍りが生じる場合には、積極的に音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチを深くした方がよい場合も想定される。
【0125】
[音響信号処理システム501による音響信号処理]
次に、図12のフローチャートを参照して、図11の音響信号処理システム501により実行される音響信号処理について説明する。
【0126】
ステップS41において、ノッチ形成イコライザ331は、音源側および音源逆側の音響信号Sinに音源逆側HRTFのノッチと同帯域のノッチを形成する。すなわち、ノッチ形成イコライザ331は、音響信号Sinの成分のうち、音源逆側HRTFの第1ノッチおよび第2ノッチと同じ帯域の成分を減衰させる。ノッチ形成イコライザ331は、その結果得られた音響信号Sin’を信号処理部541L,541Rに供給する。
【0127】
ステップS42において、トランスオーラル一体化処理部521は、トランスオーラル一体化処理を行う。具体的には、信号処理部541Lは、図11を参照して上述したように、音響信号Sin’に対して、スピーカ112Lから出力すべき音響信号を生成するためのバイノーラル化処理とクロストーク補正処理を一体化して行い、音響信号SLoutを生成し、スピーカ112Lに供給する。同様に、信号処理部541Rは、図11を参照して上述したように、音響信号Sin’に対して、スピーカ112Rから出力すべき音響信号を生成するためのバイノーラル化処理とクロストーク補正処理を一体化して行い、音響信号SRoutを生成し、スピーカ112Rに供給する。
【0128】
ステップS43において、図8のステップS4の処理と同様に、スピーカ112L,112Rから音が出力され、音響信号処理は終了する。
【0129】
これにより、音響信号処理システム501でも、音響信号処理システム401と同様の理由により、上下前後の定位感を安定させる効果を得ることができる。また、音響信号処理システム401と比較して、一般的に信号処理の負荷を軽減することが期待できるものである。
【0130】
<5.変形例>
以下、上述した本技術の実施の形態の変形例について説明する。
【0131】
[変形例1:仮想スピーカを複数生成する場合]
以上の説明では、仮想スピーカ(仮想音源)を1ヶ所のみ生成する例を示した。一方、仮想スピーカを2ヶ所以上生成する場合、例えば、図7の音響信号処理部311、図9の音響信号処理部411、または、図11の音響信号処理部511を、仮想スピーカ毎に並列に設けるようにすればよい。
【0132】
音響信号処理部311を並列に設ける場合、例えば、各音響信号処理部311に対して、それぞれ対応する仮想スピーカに応じた音源側HRTFおよび音源逆側HRTFを適用するようにすればよい。そして、各音響信号処理部311から出力される音響信号のうち左スピーカ用の音響信号を加算して左スピーカに供給し、右スピーカ用の音響信号を加算して右スピーカに供給するようにすればよい。
【0133】
なお、この場合、バイノーラル化処理部321のみを仮想スピーカ毎に設け、クロストーク補正処理部122を共有化することも可能である。
【0134】
また、音響信号処理部411を並列に設ける場合も同様に、例えば、各音響信号処理部411に対して、それぞれ対応する仮想スピーカに応じた音源側HRTFおよび音源逆側HRTFを適用するようにすればよい。そして、各音響信号処理部411から出力される音響信号のうち左スピーカ用の音響信号を加算して左スピーカに供給し、右スピーカ用の音響信号を加算して右スピーカに供給するようにすればよい。
【0135】
なお、この場合も、バイノーラル化処理部421のみを仮想スピーカ毎に設け、クロストーク補正処理部122を共有化することも可能である。
【0136】
さらに、音響信号処理部511を並列に設ける場合、例えば、各音響信号処理部511に対して、それぞれ対応する仮想スピーカに応じた音源側HRTFおよび音源逆側HRTFを適用するようにすればよい。そして、各音響信号処理部511から出力される音響信号のうち左スピーカ用の音響信号を加算して左スピーカに供給し、右スピーカ用の音響信号を加算して右スピーカに供給するようにすればよい。
【0137】
図13は、左右のフロントスピーカを使用して所定のリスニング位置の前方左斜め上および右斜め上の2ヶ所の仮想スピーカから仮想的に音を出力できるようにしたオーディオシステム601の機能の構成例を模式的に示すブロック図である。
【0138】
オーディオシステム601は、再生装置611、AV(Audio/Visual)アンプリファイア612、フロントスピーカ613L,613R、センタスピーカ614、および、リアスピーカ615L,615Rを含むように構成される。
【0139】
再生装置611は、前方左、前方右、前方中央、後方左、後方右、前方左上、前方右上の少なくとも6チャンネルの音響信号を再生可能な再生装置である。例えば、再生装置611は、記録媒体602に記録されている6チャンネルの音響信号を再生することにより得られる前方左用の音響信号FL、前方右用の音響信号FR、前方中央用の音響信号C、後方左用の音響信号RL、後方右用の音響信号RR、前方左斜め上用の音響信号FHL、および、前方右斜め上用の音響信号FHRを出力する。
【0140】
AVアンプリファイア612は、音響信号処理部621L,621R、加算部622L,622R、および、増幅部623を含むように構成される。
【0141】
音響信号処理部621Lは、図7の音響信号処理部311、図9の音響信号処理部411、または、図11の音響信号処理部511により構成される。音響信号処理部621Lは、前方左斜め上用の仮想スピーカに対応し、当該仮想スピーカに応じた音源側HRTFおよび音源逆側HRTFが適用される。
【0142】
そして、音響信号処理部621Lは、音響信号FHLに対して、図8、図10または図12を参照して上述した音響信号処理を行い、その結果得られた音響信号FHLL,FHLRを生成する。音響信号処理部621Lは、音響信号FHLLを加算部622Lに供給し、音響信号FHLRを加算部622Rに供給する。
【0143】
音響信号処理部621Rは、音響信号処理部621Lと同様に、図7の音響信号処理部311、図9の音響信号処理部411、または、図11の音響信号処理部511により構成される。音響信号処理部621Rは、前方右斜め上用の仮想スピーカに対応し、当該仮想スピーカに応じた音源側HRTFおよび音源逆側HRTFが適用される。
【0144】
そして、音響信号処理部621Rは、音響信号FHRに対して、図8、図10または図12を参照して上述した音響信号処理を行い、その結果得られた音響信号FHRL,FHRRを生成する。音響信号処理部621Lは、音響信号FHRLを加算部622Lに供給し、音響信号FHRRを加算部622Rに供給する。
【0145】
加算部622Lは、音響信号FL、音響信号FHLL、および、音響信号FHRLを加算することにより音響信号FLMを生成し、増幅部623に供給する。
【0146】
加算部622Lは、音響信号FR、音響信号FHLR、および、音響信号FHRRを加算することにより音響信号FRMを生成し、増幅部623に供給する。
【0147】
増幅部623は、音響信号FLM乃至音響信号RRを増幅し、フロントスピーカ613L乃至リアスピーカ615Rにそれぞれ供給する。
【0148】
フロントスピーカ613Lとフロントスピーカ613Rは、例えば、所定のリスニング位置の前方に左右対称に配置される。そして、フロントスピーカ613Lは、音響信号FLMに基づく音を出力し、フロントスピーカ613Rは、音響信号FRMに基づく音を出力する。これにより、リスニング位置にいるリスナーは、フロントスピーカ613L,613Rだけでなく、前方左斜め上および前方右斜め上の2ヶ所に仮想的に配置された仮想スピーカからも音が出力されているように感じる。
【0149】
センタスピーカ614は、例えば、リスニング位置の前方の中央に配置される。そして、センタスピーカ614は、音響信号Cに基づく音を出力する。
【0150】
リアスピーカ615Lとリアスピーカ615Rは、例えば、リスニング位置の後方に左右対称に配置される。そして、リアスピーカ615Lは、音響信号RLに基づく音を出力し、リアスピーカ615Rは、音響信号RRに基づく音を出力する。
【0151】
[変形例2:音響信号処理部の構成の変形例]
また、例えば、図7のバイノーラル化処理部321において、ノッチ形成イコライザ331Lとバイノーラル信号生成部131Lの順序を入れ替えることが可能である。同様に、図9のバイノーラル化処理部421において、ノッチ形成イコライザ331Lとバイノーラル信号生成部131Lの順序、および、ノッチ形成イコライザ331Rとバイノーラル信号生成部131Rの順序を入れ替えることも可能である。
【0152】
さらに、例えば、図9のバイノーラル化処理部421において、ノッチ形成イコライザ331Lとノッチ形成イコライザ331Rを1つにまとめることが可能である。
【0153】
[変形例3:仮想スピーカの位置の変形例]
また、以上の説明では、主に仮想スピーカをリスニング位置の前方左斜め上に配置する場合を中心に説明した。しかし、本技術は、リスニング位置の正中面から左右に外れた位置に仮想スピーカを配置する全ての場合に有効である。例えば、本技術は、仮想スピーカをリスニング位置の後方の左斜め上または右斜め上に配置する場合にも有効である。また、例えば、本技術は、仮想スピーカをリスニング位置の前方の左斜め下または右斜め下や、リスニング位置の後方の左斜め下または右斜め下に配置する場合にも有効である。さらに、例えば、本技術は、仮想スピーカを実際のスピーカの前あるいは後ろ、または、左または右に配置する場合も有効である。
【0154】
[変形例4:仮想スピーカの生成に用いるスピーカの配置の変形例]
さらに、以上の説明では、説明を簡単にするために、リスニング位置の前方に左右対称に配置されたスピーカを用いて仮想スピーカを生成する場合について説明した。しかし、本技術では、必ずしもスピーカをリスニング位置の前方に左右対称に配置する必要はなく、例えば、リスニング位置の前方に左右非対称にスピーカを配置することも可能である。また、本技術では、必ずしもスピーカをリスニング位置の前方に配置する必要はなく、リスニング位置の前方以外の場所(例えば、リスニング位置の後方)にスピーカを配置することも可能である。なお、スピーカを配置する場所によって、適宜クロストーク補正処理に用いる関数を変更する必要がある。
【0155】
なお、本技術は、例えば、上述したAVアンプリファイアなど、仮想サラウンド方式を実現するための各種の機器やシステムに適用することができる。
【0156】
[コンピュータの構成例]
上述した一連の処理は、ハードウエアにより実行することもできるし、ソフトウエアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウエアにより実行する場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、コンピュータにインストールされる。ここで、コンピュータには、専用のハードウエアに組み込まれているコンピュータや、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどが含まれる。
【0157】
図14は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウエアの構成例を示すブロック図である。
【0158】
コンピュータにおいて、CPU(Central Processing Unit)801,ROM(Read Only Memory)802,RAM(Random Access Memory)803は、バス804により相互に接続されている。
【0159】
バス804には、さらに、入出力インタフェース805が接続されている。入出力インタフェース805には、入力部806、出力部807、記憶部808、通信部809、及びドライブ810が接続されている。
【0160】
入力部806は、キーボード、マウス、マイクロフォンなどよりなる。出力部807は、ディスプレイ、スピーカなどよりなる。記憶部808は、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる。通信部809は、ネットワークインタフェースなどよりなる。ドライブ810は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリなどのリムーバブルメディア811を駆動する。
【0161】
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU801が、例えば、記憶部808に記憶されているプログラムを、入出力インタフェース805及びバス804を介して、RAM803にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
【0162】
コンピュータ(CPU801)が実行するプログラムは、例えば、パッケージメディア等としてのリムーバブルメディア811に記録して提供することができる。また、プログラムは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供することができる。
【0163】
コンピュータでは、プログラムは、リムーバブルメディア811をドライブ810に装着することにより、入出力インタフェース805を介して、記憶部808にインストールすることができる。また、プログラムは、有線または無線の伝送媒体を介して、通信部809で受信し、記憶部808にインストールすることができる。その他、プログラムは、ROM802や記憶部808に、あらかじめインストールしておくことができる。
【0164】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0165】
また、本明細書において、システムとは、複数の構成要素(装置、モジュール(部品)等)の集合を意味し、すべての構成要素が同一筐体中にあるか否かは問わない。したがって、別個の筐体に収納され、ネットワークを介して接続されている複数の装置、及び、1つの筐体の中に複数のモジュールが収納されている1つの装置は、いずれも、システムである。
【0166】
さらに、本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0167】
例えば、本技術は、1つの機能をネットワークを介して複数の装置で分担、共同して処理するクラウドコンピューティングの構成をとることができる。
【0168】
また、上述のフローチャートで説明した各ステップは、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【0169】
さらに、1つのステップに複数の処理が含まれる場合には、その1つのステップに含まれる複数の処理は、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【0170】
また、例えば、本技術は以下のような構成も取ることができる。
【0171】
(1)
所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成する第1のバイノーラル化処理部と、
前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成する第2のバイノーラル化処理部と、
前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行うクロストーク補正処理部と
を含む音響信号処理装置。
(2)
前記第1のバイノーラル化処理部は、前記第1のバイノーラル信号の成分のうち前記第1の帯域および前記第2の帯域の成分を減衰させた第3のバイノーラル信号を生成し、
前記クロストーク補正処理部は、前記第2のバイノーラル信号および前記第3のバイノーラル信号に対して前記クロストーク補正処理を行う
上記(1)に記載の音響信号処理装置。
(3)
前記所定の周波数は、前記第1の頭部音響伝達関数の4kHz近傍において正のピークが現れる周波数である
上記(1)または(2)に記載の音響信号処理装置。
(4)
所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成し、
前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成し、
前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行う
ステップを含む音響信号処理方法。
(5)
所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成し、
前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成し、
前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行う
ステップを含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
(6)
上記(5)に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
(7)
第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成する減衰部と、
前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行う信号処理部と
を含む音響信号処理装置。
(8)
前記所定の周波数は、前記第1の頭部音響伝達関数の4kHz近傍において正のピークが現れる周波数である
上記(7)に記載の音響信号処理装置。
(9)
前記減衰部は、IIR(無限インパルス応答)フィルタにより構成され、
前記信号処理部は、FIR(有限インパルス応答)フィルタにより構成される
上記(7)または(8)に記載の音響信号処理装置。
(10)
第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成し、
前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行う
ステップを含む音響信号処理方法。
(11)
第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成し、
前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行う
ステップを含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
(12)
上記(11)に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【符号の説明】
【0172】
101 音響信号処理システム, 102 リスナー, 103L,103R 耳, 111 音響信号処理部, 112L,112R スピーカ, 113 仮想スピーカ, 121 バイノーラル化処理部, 122 クロストーク補正処理部, 131L,131R バイノーラル信号生成部, 141L乃至142R 信号処理部, 143L,143R 加算部, 301 音響信号処理システム, 311 音響信号処理部, 321 バイノーラル化処理部, 331,331L,331R ノッチ形成イコライザ, 401 音響信号処理システム, 411 音響信号処理部, 421 バイノーラル化処理部, 501 音響信号処理システム, 511 音響信号処理部, 521 トランスオーラル一体化処理部, 541L,541R 信号処理部, 601 オーディオシステム, 612 AVアンプリファイア, 621L,621R 音響信号処理部, 622L,622R 加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成する第1のバイノーラル化処理部と、
前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成する第2のバイノーラル化処理部と、
前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行うクロストーク補正処理部と
を含む音響信号処理装置。
【請求項2】
前記第1のバイノーラル化処理部は、前記第1のバイノーラル信号の成分のうち前記第1の帯域および前記第2の帯域の成分を減衰させた第3のバイノーラル信号を生成し、
前記クロストーク補正処理部は、前記第2のバイノーラル信号および前記第3のバイノーラル信号に対して前記クロストーク補正処理を行う
請求項1に記載の音響信号処理装置。
【請求項3】
前記所定の周波数は、前記第1の頭部音響伝達関数の4kHz近傍において正のピークが現れる周波数である
請求項1に記載の音響信号処理装置。
【請求項4】
所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成し、
前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成し、
前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行う
ステップを含む音響信号処理方法。
【請求項5】
所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数を音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号を生成し、
前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記音響信号に重畳した信号の成分のうち、前記第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2のバイノーラル信号を生成し、
前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルするクロストーク補正処理を行う
ステップを含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成する減衰部と、
前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行う信号処理部と
を含む音響信号処理装置。
【請求項8】
前記所定の周波数は、前記第1の頭部音響伝達関数の4kHz近傍において正のピークが現れる周波数である
請求項7に記載の音響信号処理装置。
【請求項9】
前記減衰部は、IIR(無限インパルス応答)フィルタにより構成され、
前記信号処理部は、FIR(有限インパルス応答)フィルタにより構成される
請求項8に記載の音響信号処理装置。
【請求項10】
第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成し、
前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行う
ステップを含む音響信号処理方法。
【請求項11】
第1の音響信号の成分のうち、所定のリスニング位置における正中面から左または右に外れた仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源から遠い方の第1の耳との間の第1の頭部音響伝達関数の振幅が所定の深さ以上となる負のピークが所定の周波数以上において現れる帯域のうち最も低い第1の帯域および2番目に低い第2の帯域の成分を減衰させた第2の音響信号を生成し、
前記第1の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第1のバイノーラル信号、および、前記仮想の音源と前記リスニング位置において前記仮想の音源に近い方の第2の耳との間の第2の頭部音響伝達関数を前記第2の音響信号に重畳した第2のバイノーラル信号を生成する処理、並びに、前記第1のバイノーラル信号および前記第2のバイノーラル信号に対して、前記リスニング位置に対して左右対称に配置されたスピーカのうち前記第1の耳に近い方の第1のスピーカと前記第1の耳との間の音響伝達特性、前記第2の耳に近い方の第2のスピーカと前記第2の耳との間の音響伝達特性、前記第1のスピーカから前記第2の耳へのクロストーク、および、前記第2のスピーカから前記第1の耳へのクロストークをキャンセルする処理を一体化して行う
ステップを含む処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−110682(P2013−110682A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256142(P2011−256142)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】