説明

音響処理装置

【課題】 どんな音声信号でも明瞭度を向上させることができる音響処理装置を提供すること。
【解決手段】 分析手段15は、A/D変換器12から入力される入力信号を分析し、入力信号の周波数特性から周波数成分間のマスキングが発生する帯域を検出し、マスキングを起す周波数帯域とマスキングされる周波数帯域とが第1の音声出力手段18と第2の音声出力手段19に分割されて出力されるように低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の通過帯域を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響処理装置に関し、特に、聴覚補償などの補聴処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
補聴処理が必要となる難聴は、障害のある部位によって伝音性難聴と感音性難聴に大別される。
【0003】
伝音性難聴は、内耳まで音が伝わっていきにくい状態であり、内耳まで音の振動が到達しさえすれば、聴神経以降の経路は障害無く信号が伝播する。したがって、耳に入力する音を単に増幅することで聴力が回復する。
【0004】
これに対して、感音性難聴は、内耳までは健聴者と同様に音の振動が伝わっているが、感覚細胞の変形または消失によって神経を十分に興奮させることができない状態である。このため、感音性難聴では健聴者に比べて様々な聴覚系機能の低下をもたらすことが知られている。その代表的な聴力特性として、ラウドネス補充現象、周波数選択性の低下、時間分解能の低下があげられる。
【0005】
ラウドネス補充現象とは、感音性難聴では最小可聴値は健聴者に比べ上昇しているのに対し、レベルが大きく不快に感じる不快閾値は健聴者と変わらないため、音がひとたび最小可聴値以上の強さになると、音の感覚的な大きさであるラウドネスが急激に増加するという現象である。
【0006】
従来の補聴器は伝音性難聴および感音性難聴のラウドネス補充現象に着目し、入力音声のレベルを聴力特性の低下に応じて増幅して再生するものが大部分であった。また、それら片耳用の補聴器を左右の耳それぞれに装用し、両耳再生を行うものもあった。
【0007】
一方、周波数選択性の低下により、周波数帯域成分間のマスキング、とりわけ低域周波数成分による高域周波数成分のマスキング(上向性マスキング)の影響が増大する。音声信号では、この周波数帯域間のマスキングを低減し、音声入力信号の明瞭度の向上を図る補聴処理として、入力信号を周波数軸上で左右耳に分割し提示する両耳分離受聴がある。
【0008】
例えば、音声を低域と高域の2帯域に分け、難聴者に対して片耳に高低両帯域を提示した場合よりも、左右耳に低域、高域を別々に分けて提示した場合の方が音声の明瞭度が高くなることが報告されている(例えば非特許文献1参照)。
【0009】
また、18個の周波数帯域に分割し、隣接する帯域を左右耳に交互に割り当てる補聴処理が示され、感音性難聴者の音声明瞭度が向上したと報告されている(例えば非特許文献2参照)。
【0010】
図9は、従来の補聴処理装置を示すブロック図である。
【0011】
図9において、従来の補聴処理装置は、アナログの電気信号に変換された音声信号を入力される音声入力手段101と、音声入力手段101に入力されたアナログ信号をディジタル信号に変換するアナログディジタル(A/D)変換器102と、左耳用にそれぞれ所定の周波数帯域のみを通過させる複数のバンドパスフィルタ103a〜103iを有する左耳用周波数帯域通過フィルタ103と、右耳用にそれぞれ所定の周波数帯域のみを通過させる複数のバンドパスフィルタ104a〜104iを有する右耳用周波数帯域通過フィルタ104と、左耳用周波数帯域通過フィルタ103の複数の出力を加算する左耳用加算器105と、右耳用周波数帯域通過フィルタ104の複数の出力を加算する右耳用加算器106と、左耳用加算器105の出力するディジタル信号をアナログ信号に変換する左耳用ディジタルアナログ(D/A)変換器107と、右耳用加算器の出力するディジタル信号をアナログ信号に変換する右耳用ディジタルアナログ(D/A)変換器108と、左耳用ディジタルアナログ変換器107が出力するアナログ信号を変換して音声信号を出力する左耳用音声出力手段109と、右耳用ディジタルアナログ変換器108が出力するアナログ信号を変換して音声信号を出力する右耳用音声出力手段110とを備えている。
【0012】
このような補聴処理装置において、音声入力手段101に入力された音声信号は、A/D変換器102によりアナログ信号からディジタル信号に変換され、左耳用周波数帯域通過フィルタ103と右耳用周波数帯域通過フィルタ104にそれぞれ入力される。
【0013】
左耳用周波数帯域通過フィルタ103の各バンドパスフィルタ103a〜103iでは、入力されたデジタル信号の設定された周波数帯域のみを通過させ、それぞれのバンドパスフィルタ103a〜103iの出力が左耳用加算器105で加算され、図10に示すように、櫛型の周波数特性成分のみ通過するように加工され、左耳用D/A変換器107でアナログ信号に変換された後、左耳用音声出力手段109により音声信号に変換され左耳に与えられる。
【0014】
右耳用周波数帯域通過フィルタ104の各バンドパスフィルタ104a〜104iでは、入力されたデジタル信号の設定された周波数帯域のみを通過させ、それぞれのバンドパスフィルタ104a〜104iの出力が右耳用加算器106で加算され、図10に示すように、左耳とは相補的な周波数帯域特性になるように加工され、右耳用D/A変換器108でアナログ信号に変換された後、右耳用音声出力手段110により音声信号に変換され右耳に与えられる。
【0015】
このように、左耳と右耳とで周波数帯域の異なる音声信号を与えることで、周波数帯域間のマスキングを低減し、音声明瞭度を向上させることができる。
【非特許文献1】Barbara Franklin, "The Effect of Cobining low- and high-frequency passbands on consonant recognition in the hearing impaired",(米国),Journal of Speech and Hearing Research 1975
【非特許文献2】D.S.Chaudhari and P.C.Pandey, "Dichotic Presentation of Speech Signal Using Critical Filter Bank for Bilateral Sensorineural Hearing Impairmanet",(米国), Proc.16th ICASSO' 98,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
両耳分離受聴による音声明瞭度の向上は、入力される音声信号の周波数特性と両耳分離受聴の周波数分割条件が適合した場合には有効であるが、音声信号では、男声と女声では基音周波数やフォルマント周波数が異なり、また、同じ話者でも、母音の違いや、母音、子音の組み合わせなどによって周波数特性は様々に異なってくる。
【0017】
音声信号では、母音はフォルマント構造を有しており、一般に子音に比べて母音のレベルは大きい。また、聴覚特性において、2つの音が経時的に与えられた場合にも相互にマスキングが起こり、先行音が後続音をマスクするforward maskingと後続音が先行音をマスクするbackward maskingが存在する。
【0018】
難聴者では時間分解能も低下することから、会話などの連続した音節では、先行するレベルの大きい母音のフォルマント成分が、後続する子音や母音、とりわけ母音に比べてレベルの低い子音に対して、上向性マスキングと経時マスキングの2つのマスキングが発生することから、音声の聞き取りが健聴者に比べて非常に困難になると考えられる。
【0019】
しかも、母音や子音はそれぞれ周波数特性が異なるため、それら上向性マスキングや経時マスキングが発生する周波数帯域は、母音や子音によって異なる。また、話者が異なれば、声の高い人、低い人の違いから、マスキングにより聞き取りが阻害される周波数帯域は異なる。
【0020】
したがって、従来の固定的な周波数帯域分割による両耳分離受聴では、必ずしも音声の明瞭度が向上するわけではなかった。
【0021】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、どんな音声信号でも明瞭度を向上させることができる音響処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の音響処理装置は、入力信号の周波数特性を変更して出力する少なくとも1つの周波数特性変更手段と、前記入力信号の特性を分析し、分析の結果に基づいて前記周波数特性変更手段を制御して、左右の耳に異なる周波数特性の信号を与える分析手段とを備える構成を有している。
【0023】
この構成により、入力信号の特性に基づいて左右の耳に異なる周波数特性の信号が与えられる。したがって、入力信号によらず音声の明瞭度を向上させることができる。
【0024】
ここで、前記分析手段は、入力信号の周波数成分間でマスキングが発生する帯域を検出し、マスキングを起す周波数帯域とマスキングされる周波数帯域とが左右の耳に別々に出力されるように前記周波数特性変更手段を制御する構成とした。
【0025】
この構成により、マスキングを起す周波数帯域とマスキングされる周波数帯域とが左右の耳に別々に出力され、マスキングを回避することができ、音声の明瞭度を向上させることができる。
【0026】
また、前記分析手段は、入力信号の母音の種類を判別し、母音の種類に対応した周波数特性の信号を出力するよう前記周波数特性変更手段を制御する構成とした。
【0027】
この構成により、母音の種類に応じて、出力される信号の周波数特性が変えられる。したがって、母音の種類により異なるマスキング周波数によるマスキングを回避することができ、音声の明瞭度を向上させることができる。
【0028】
さらに、前記分析手段は、入力信号のフォルマント周波数を検出し、検出したフォルマント周波数に基づいて母音の種類を判別する構成とした。
【0029】
この構成により、フォルマント周波数により母音の種類が判別され、母音によるマスキングが回避される。したがって、音声の明瞭度を向上させることができる。
【0030】
また、前記分析手段は、入力信号の第1フォルマント周波数を検出し、第1フォルマント周波数に対応した周波数特性の信号を出力するよう前記周波数特性変更手段を制御する構成とした。
【0031】
この構成により、第1フォルマント周波数に応じて、出力される信号の周波数特性が変えられる。したがって、第1フォルマント周波数によるマスキングを回避することができ、音声の明瞭度を向上させることができる。
【0032】
さらに、前記分析手段は、第1フォルマント周波数成分について、一方の耳側では通過させ、他方の耳側では遮断あるいは減衰させる構成とした。
【0033】
この構成により、第1フォルマント周波数によるマスキングが回避される。したがって、音声の明瞭度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、分析手段で入力信号を分析し、入力信号に適した、左右の耳で異なる周波数特性の信号を与えているので、入力信号によらず音声の明瞭度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
まず、本発明の基本となる両耳分離受聴による明瞭度の向上効果に関して説明する。上述のように、両耳分離受聴により音声明瞭性が向上することが知られている。しかしながら、それら知見では、帯域分割周波数について詳細に検討したものは無かった。
【0036】
本発明者は、vowel-consonant-vowel(VCV)音節を用いて、難聴者を対象に、両耳分離受聴の帯域分割周波数を変えて明瞭度実験を実施した。
【0037】
その結果、先行母音の種類によって明瞭度の向上効果が表れる帯域分割周波数が変化することを見出した。一例として、図2にVCV音節の先行母音ごとに帯域分割周波数を変化させた場合の音声明瞭度の変化を示す。
【0038】
周波数帯域分割の方法としては、2帯域分割を用い、左耳には音声信号に低域通過フィルタ(LPF)処理した低域成分を、右耳には音声信号に高域通過フィルタ(HPF)処理した高域成分を与えた。
【0039】
先行母音として/a/と/u/の2種類のVCV音節を用い、帯域分割周波数を母音の第1フォルマント周波数付近で変化させたものである。
【0040】
図の横軸は、帯域分割周波数であり、縦軸は音声明瞭度であり、上にいくほど明瞭度が高いことを示している。
【0041】
図2に示すように、同じ先行母音であっても、帯域分割周波数を変化させると、明瞭度が変化することが分かる。また、先行母音の種類によって明瞭度が最も向上する帯域分割周波数が異なることが分かる。
【0042】
この知見を踏まえると、入力音声信号の特性、例えば、入力音声信号中の母音の種類を特定し、その母音に最適な帯域分割周波数で両耳分離受聴を行わせることで、その母音に後続する音節の明瞭度が向上すると考えられる。
【0043】
すなわち、入力音声信号の特性に応じて帯域分割周波数を変更することで、帯域分割周波数が固定の場合に比べ明瞭度が向上するといえる。
【0044】
ここでは、母音の種類を例としたが、連続する音節の組み合わせによって周波数帯域フィルタの特性を変更することも明瞭度の向上に有効と考えられる。
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0046】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態の音響処理装置を示すブロック図である。
【0047】
図1において、本実施の形態の音響処理装置は、補聴器のマイクロフォンの出力やオーディオ機器の出力などのアナログの電気信号に変換された音声信号が入力される音声入力手段11と、音声入力手段11に入力されたアナログ信号をディジタル信号に変換するアナログディジタル(A/D)変換器12と、例えば左耳用に低い周波数帯域のみを通過させるとともに通過させる帯域を変更可能な低域通過フィルタ13と、例えば右耳用に高い周波数帯域のみを通過させるとともに通過させる帯域を変更可能な高域通過フィルタ14と、A/D変換器12が出力するデジタル信号を分析して入力音声信号に最適な周波数分割となるように低域通過フィルタ13と高域通過フィルタ14の通過帯域を設定する分析手段15と、低域通過フィルタ13の出力するデジタル信号をアナログ信号に変換する第1のディジタルアナログ(D/A)変換器16と、高域通過フィルタ14の出力するディジタル信号をアナログ信号に変換する第2のディジタルアナログ(D/A)変換器17と、第1のD/A変換器16が出力するアナログ信号を変換して音声信号を出力する第1の音声出力手段18と、第2のD/A変換器17が出力するアナログ信号を変換して音声信号を出力する第2の音声出力手段19とを備えている。
【0048】
このような音響処理装置において、音声入力手段11に入力されたアナログ信号は、A/D変換器12によりディジタル信号に変換され、低域通過フィルタ13、高域通過フィルタ14、分析手段15のそれぞれに入力される。
【0049】
分析手段15は、入力信号の特性分析を行い、入力信号の周波数特性から周波数成分間のマスキングが発生する帯域を検出し、マスキングを起す周波数帯域とマスキングされる周波数帯域とが第1の音声出力手段18と第2の音声出力手段19に分割されて出力されるように低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の通過帯域を設定する。
【0050】
また、入力信号の周波数特性から、先行母音の種類を検出し、/a/の場合は、図2のf2を帯域分割周波数に(低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の遮断周波数にf2を設定)し、/u/の場合は、図2のf1を帯域分割周波数に(低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の遮断周波数にf1を設定)する。
【0051】
先行母音の種類を検出するには、フォルマント周波数を検出すればよく、第1及び第2フォルマント周波数を検出すれば先行母音の種類を検出することができる。
【0052】
また、第1フォルマント周波数のみを検出し、第1フォルマント周波数成分について、一方の耳側では通過させ、他方の耳側では遮断あるいは減衰させるようにしてもよい。
【0053】
低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14は、分析手段15の設定に従い、低域通過フィルタ13は、遮断周波数以下の周波数帯域を通過させ、高域通過フィルタ14は、遮断周波数以上の周波数帯域を通過させる。
【0054】
低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14から出力されたディジタル信号は、それぞれ第1のD/A変換器16、第2のD/A変換器17でアナログ信号に変換され、第1の音声出力手段18、第2の音声出力手段19によりそれぞれ音声信号として出力される。
【0055】
このように本実施の形態においては、分析手段15で入力音声信号の特性を分析し、入力音声信号に応じて低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の遮断周波数を変更して、第1の音声出力手段18と第2の音声出力手段19とで異なる周波数特性の音声信号を出力しているので、第1の音声出力手段18と第2の音声出力手段19の出力を左右耳に別々に与えれば、どんな音声でも明瞭度を向上させることができる。
【0056】
なお、本実施の形態においては、低域と高域の2帯域に分割する場合を示したが、両耳に異なる周波数特性の音声信号を与えればよく、片耳だけ帯域制限を行ってもよく、あるいは2帯域以上に分割してもよい。
【0057】
また、本実施の形態の低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14について、図3に示すように、それぞれ第1の全域通過フィルタ(APF)20、第2の全域通過フィルタ21と時間的に切り替えるようにしてもよい。
【0058】
この場合、分析手段22は、入力信号の特性分析を行い、音声以外の入力音や十分明瞭性のある入力音については、第1のスイッチ23及び第2のスイッチ24を制御してA/D変換器12の出力を第1の全域通過フィルタ20、第2の全域通過フィルタ21に切り替えて帯域制限することなく通過させ、それぞれ第1の加算器25、第2の加算器26を通して第1のD/A変換器16、第2のD/A変換器17に出力させ、第1の音声出力手段18及び第2の音声出力手段19で同じ音声信号を出力させるようにする。
【0059】
このようにすることで、音声以外の入力音や十分明瞭性のある入力音については両耳受聴とすることができる。
【0060】
なお、全域通過フィルタ20、21を設けず、図4に示すように、フィルタ処理をバイパスする構成としてもよい。
【0061】
また、低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14のフィルタ係数の設定を変更して、全域を通過させるようにしてもよい。
【0062】
また、本実施の形態においては、低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の出力をそのまま第1の音声出力手段18と第2の音声出力手段19により出力したが、低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の出力を増幅して第1の音声出力手段18と第2の音声出力手段19により出力するようにしてもよい。
【0063】
(第2の実施の形態)
次に、図5は本発明の第2の実施の形態の音響処理装置を示す図である。なお、本実施の形態は、上述の第1の実施の形態と略同様に構成されているので、同様な構成には同一の符号を付して特徴部分のみ説明する。
【0064】
本実施の形態は、周波数帯域毎にゲインを調整する第1の周波数帯域別増幅手段31、第2の周波数帯域別増幅手段32と、入力信号の周波数帯域毎のパワーを分析し聞き取りやすい音の大きさになるよう第1の周波数帯域別増幅手段31、第2の周波数帯域別増幅手段32のゲインを設定するラウドネス補償量算出手段33とを備え、周波数帯域毎のパワーを調整して明瞭度を向上させることを特徴としている。
【0065】
このような音響処理装置において、音声入力手段11に入力されたアナログ信号は、A/D変換器12によりディジタル信号に変換され、低域通過フィルタ13、高域通過フィルタ14、分析手段15、ラウドネス補償量算出手段33のそれぞれに入力される。
【0066】
分析手段15は、上述の実施の形態同様に、入力信号を分析し、低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14の通過帯域を設定する。
【0067】
ラウドネス補償量算出手段33は、入力信号の周波数帯域毎のパワーを分析し、ダイナミックレンジが狭くなった難聴者の左右それぞれの耳の聴力特性に応じて聞き取りやすい音の大きさになるよう周波数帯域毎のゲイン量を算出し、第1の周波数帯域別増幅手段31及び第2の周波数帯域別増幅手段32に、左右それぞれの耳の聴力特性に応じて算出されたゲイン設定値を設定する。
【0068】
第1の周波数帯域別増幅手段31及び第2の周波数帯域別増幅手段32は、ラウドネス補償量算出手段33の設定に従って、例えば図6に示すように、入力信号特性に応じて聞き取りやすいラウドネスとなるように周波数帯域毎にゲイン調整し、それぞれ第1のD/A変換器16、第2のD/A変換器17に出力する。
【0069】
第1の周波数帯域別増幅手段31及び第2の周波数帯域別増幅手段32から出力されたディジタル信号は、それぞれ第1のD/A変換器16、第2のD/A変換器17でアナログ信号に変換され、第1の音声出力手段18、第2の音声出力手段19によりそれぞれ音声信号として出力される。
【0070】
このように本実施の形態においては、ラウドネス補償量算出手段33により入力信号の周波数帯域毎のパワーを分析し、難聴者の聴力特性に応じて聞き取りやすい音の大きさになるように第1の周波数帯域別増幅手段31及び第2の周波数帯域別増幅手段32にゲイン設定しているので、より明瞭度を向上させることができる。
【0071】
なお、図7に示すように、低域通過フィルタ13及び高域通過フィルタ14による周波数通過帯域特性の制御を第1の周波数帯域別増幅手段35及び第2の周波数帯域別増幅手段36により行うようにしてもよい。
【0072】
この場合、分析手段34は、入力信号の特性分析を行い、第1の周波数帯域別増幅手段35には、遮断周波数以下の周波数帯域を通過させるようゲイン設定し、第2の周波数帯域別増幅手段36には、遮断周波数以上の周波数帯域を通過させるようゲイン設定し、第1の周波数帯域別増幅手段35及び第2の周波数帯域別増幅手段36では、例えば図8に示すような周波数帯域別ゲイン設定をする。
【0073】
また、上述の各実施の形態においては、1つの音声信号を2つに分けて出力するようにしたが、2つの音声信号を入力し、それぞれを分析して周波数特性を変更するようにしてもよく、また、2帯域以上に分割するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明にかかる音響処理装置は、入力信号によらず音声の明瞭度を向上させることができるという効果を有し、補聴器、音響機器、携帯電話、公共拡声などの音声再生、音声通話を行う装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施の形態における音響処理装置のブロック図
【図2】(a)先行母音が/a/のVCV音節を帯域分割周波数を変化させて両耳分離聴させた場合の明瞭度の変化を示す図 (b)先行母音が/u/のVCV音節を帯域分割周波数を変化させて両耳分離聴させた場合の明瞭度の変化を示す図
【図3】本発明の第1の実施の形態における音響処理装置の第1の他の態様のブロック図
【図4】本発明の第1の実施の形態における音響処理装置の第2の他の態様のブロック図
【図5】本発明の第2の実施の形態における音響処理装置のブロック図
【図6】本発明の第2の実施の形態における音響処理装置のラウドネス補償ゲイン設定を示す図
【図7】本発明の第2の実施の形態における音響処理装置の他の態様のブロック図
【図8】本発明の第2の実施の形態における音響処理装置の他の態様のラウドネス補償ゲイン設定を示す図
【図9】従来の補聴処理装置のブロック図
【図10】従来の補聴処理装置の両耳分離聴における両耳に与えられる音声信号の周波数特性を示す図
【符号の説明】
【0076】
11 音声入力手段
12 アナログディジタル(A/D)変換器
13 低域通過フィルタ
14 高域通過フィルタ
15 分析手段
16 第1のディジタルアナログ(D/A)変換器
17 第2のディジタルアナログ(D/A)変換器
18 第1の音声出力手段
19 第2の音声出力手段
20 第1の全域通過フィルタ
21 第2の全域通過フィルタ
22 分析手段
23 第1のスイッチ
24 第2のスイッチ
25 第1の加算器
26 第2の加算器
31 第1の周波数帯域別増幅手段
32 第2の周波数帯域別増幅手段
33 ラウドネス補償量算出手段
34 分析手段
35 第1の周波数帯域別増幅手段
36 第2の周波数帯域別増幅手段
101 音声入力手段
102 アナログディジタル(A/D)変換器
103 左耳用周波数帯域通過フィルタ
103a〜103i バンドパスフィルタ
104 右耳用周波数帯域通過フィルタ
104a〜104i バンドパスフィルタ
105 左耳用加算器
106 右耳用加算器
107 左耳用ディジタルアナログ(D/A)変換器
108 右耳用ディジタルアナログ(D/A)変換器
109 左耳用音声出力手段
110 右耳用音声出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の周波数特性を変更して出力する少なくとも1つの周波数特性変更手段と、前記入力信号の特性を分析し、分析の結果に基づいて前記周波数特性変更手段を制御して、左右の耳に異なる周波数特性の信号を与える分析手段とを備えることを特徴とする音響処理装置。
【請求項2】
前記分析手段は、入力信号の周波数成分間でマスキングが発生する帯域を検出し、マスキングを起す周波数帯域とマスキングされる周波数帯域とが左右の耳に別々に出力されるように前記周波数特性変更手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の音響処理装置。
【請求項3】
前記分析手段は、入力信号の母音の種類を判別し、母音の種類に対応した周波数特性の信号を出力するよう前記周波数特性変更手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の音響処理装置。
【請求項4】
前記分析手段は、入力信号のフォルマント周波数を検出し、検出したフォルマント周波数に基づいて母音の種類を判別することを特徴とする請求項3に記載の音響処理装置。
【請求項5】
前記分析手段は、入力信号の第1フォルマント周波数を検出し、第1フォルマント周波数に対応した周波数特性の信号を出力するよう前記周波数特性変更手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の音響処理装置。
【請求項6】
前記分析手段は、第1フォルマント周波数成分について、一方の耳側では通過させ、他方の耳側では遮断あるいは減衰させることを特徴とする請求項5に記載の音響処理装置。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−87018(P2006−87018A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272159(P2004−272159)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)