説明

音響空間共有装置

【課題】 この発明は、人々が会話をしながら空間を共に過ごすことにより、より深いコミュニケーションの記憶が得られるシステムを提供する。
【解決手段】 BSCスピーカ20a、20bによって音場を再現する音響空間10a、10bと、音響空間内に設けられる会話者の音声を収音するマイク16a、16bと、マイク16a、16bからの音声情報と共有する音場の情報に基き共有音場の空間データ情報を作成する共有音場データ作成手段と、共有音場データ作成手段からの空間データ情報に基づき音響空間10a、10bのスピーカの駆動を制御する制御手段11a、11bと、を有し、複数の音響空間からの音声情報が共有音場作成室30に与え、各音響空間に対応した共有音場の空間データ情報を作成し、各音響空間10a、10bは対応する空間データ情報に基づきスピーカ20a、20bの駆動が制御され共有音場を再現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のスピーカによって音場を合成再生し、共有するリアリティ音場を再現して、その音響空間を共有する装置に関し、特に、再生音場内にいる会話者が互いに話者にもなる音響空間を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある空間において、人々がコミュニケーションを交わすとき、言語的な意味の交換は勿論重要である。さらに、その空間を共に過ごしたという記憶が意外に重要である。電話の場合は、話すことが無くなれば、電話を切ることになるが、同一の空間にいる場合には話すことがなくなっても、一緒に空間を共有することができる。
【0003】
同一の空間にいる場合には、話をしていなければコミュニケーションが存在しないというわけではなく、非言語的で身体的なコミュニケーションが存在していると考えて良い。すなわち、意味を交換することだけではなく、共に同じ空間を過ごすという記憶を得ることが、会って話をするという会話本来の重要な機能である。しかし、この機能は現在の通信技術においては、欠落しているのが現状である。
【0004】
ところで、高い臨場感のある音場を生成するために多くの方法が提案されている。その中で、境界音場制御(Boundary Surface Control:BSC)の原理に基づいた音場再現方法が提案されている。
【0005】
境界音場制御(以下、BSCと略記する。)の原理は、境界から離れた点に音源を設置し、逆システムを用いて生成された信号を音源から出力する方法である。
【0006】
境界音場制御の原理によれば、その領域を囲む境界上の音圧と音圧勾配を制御することにより、3次元音場内の任意の領域内の音圧を制御できる。厳密に制御を行うためには、境界面を波長よりも十分短く離散化する必要がある。そこで、会話者の頭部周辺での音場再現を目的とした64chの収音・再生が可能なコンパクトな没入型聴覚ディスプレイシステムが提案されている(非特許文献1参照)。
【0007】
上記したBSC原理を用いた音場再現室を構成して、この室内に会話者が入ることで、会話者の音場を共有することが考えられる。例えば、このBSC原理を用いて、会話者との間で音場を共有するシステムを図11に示す。
【0008】
図11に示すように、音響空間を構成する音場再現室10内には、BSCスピーカ20が設けられている。このBSCスピーカ20は、BSCの原理による音場再現を行うために、複数のスピーカが所定の位置に配置されている。このBSCスピーカ20に対して、所定の位置に設けられた椅子15に、会話者1が着席して、BSCスピーカ20からの音を聴取する。BSCスピーカ20は、共有音場130で取得された音圧信号等に基づき、BSCシステム制御部11により駆動される。
【0009】
BSCの原理は、会話者1を取り囲む面S2上における音圧信号が共有音場130の面S1における音圧信号と同一になるように、BSCスピーカ20を駆動するものである。すなわち、共有音場130の面S1の内部に会話者1が存在していると仮定し、面S1の音圧信号を取得するべく、複数のマイクロフォンからなるBSCマイクロフォン(図示せず)が面S1に沿って配置されている。一方、会話者1が発した音声がマイク16で収音され、共有音場130に設置されたスピーカ32より出力される。よって、BSCマイクロフォンには、共有音場130内にいる会話者2からの音声、共有音場130内の音、スピーカ32から出力される会話者1の音が取得されることになる。
【0010】
BSCマイクロフォンからの音圧信号に基づき、スピーカ20の駆動をBSCシステム制御部11で制御し、会話者1を取り囲む面S2上における音圧信号が共有音場130の面S1における音圧信号と同一にする。この結果、会話者1を取り囲む空間V2内では、共有音場の空間V1と同一の音場が生成され、音場再現室10内にいる会話者1は、会話者2がいる共有音場130と同じ空間の音響効果を感じることができる。
【0011】
上記のように構成したシステムにおいては、音場再現室10内にいる会話者1は、会話話者2がいる共有音場130と同じ空間を感じることができる。しかし、その反対に、会話者2が会話者1の存在する空間を感じることはできない。
【0012】
会話者2の側にも音場再現システムを設置することも考えられるが、両者が互いに音場再現室内部の空間を感じることになり、同一の空間を感じるという目的を達成することは難しい。
【非特許文献1】日本音響学会誌62巻1号(2006),pp.32−41「コンパクトな没入型聴覚ディスプレイの試作と評価」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は、上記した、従来の課題に鑑み、人々が会話をしながら空間を共に過ごすことにより、より深いコミュニケーションの記憶が得られるシステム、すなわち、リアリティ音場通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の音響空間共有装置は、複数のスピーカによって音場を再現する音響空間と、この音響空間内に設けられる会話者の音声を取得する収音手段と、この収音手段からの音声情報と共有する音場の情報に基き共有音場の空間データ情報を作成する共有音場データ作成手段と、前記共有音場データ作成手段からの空間データ情報に基づき前記音響空間のスピーカの駆動を制御する制御手段と、を有し、複数の前記音響空間からの音声情報が前記共有音場データ作成手段に与えられ、前記共有音場データ作成手段は、各音響空間に対応した共有音場の空間データ情報を作成し、各音響空間は対応する共有音場データ作成手段からの空間データ情報に基づきスピーカの駆動が制御され共有音場を再現することを特徴とする。
【0015】
前記音響空間に設けられる複数のスピーカは、境界音場制御原理に基づき駆動を制御される。
【0016】
また、前記共有音場データ作成手段は、共有音場として仮定した空間を覆うように設置された複数のマイクロフォンからの音情報に基づき空間データ情報を作成するように構成できる。
【0017】
また、複数のマイクロフォンで形成された空間内に会話者の音声を出力するスピーカを設けるとよい。
【0018】
また、前記共有音場データ作成手段は、複数の共有音場に基づく空間データを格納する記憶手段を有し、この記憶手段からの空間データを読み出し、前記音響空間のスピーカの駆動を制御する制御信号を作成するように構成できる。
【0019】
前記音響空間及び共有音場データ作成手段に通信制御手段が設けられ、前記音響空間と共有音場データ作成手段とがネットワークを介して接続することができる。
【0020】
前記音響空間の複数のスピーカはドーム状に配置するとよい。
【発明の効果】
【0021】
この発明は、会話者が複数存在しても、各会話者の周囲に、共有空間を構成する他の同一の共有音場を生成することができ、同一の音響空間にて、コミュニケーションが行えるシステムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。図1は、この発明の音響空間共有装置の構成を示す模式図である。
【0023】
図1に示すように、この発明は、会話者が複数存在し、各会話者の周囲に、共有空間を構成する他の同一の共有音場を生成するものである。共有音場を生成することにより、同一の空間にて、コミュニケーションが行えるシステムを構築する。
【0024】
図1に示すように、会話者1、2の周囲に、共有音場作成室30内で得られた情報から作成される共有音場における空間データが与えられる。会話者1、2は、前述したものと同様の音場再現室10a(音場再現室1)、10b(音場再現室2)に、それぞれに入室している。この実施形態においては、音場再現室10a、10bで共有音場が再現され音響空間として機能する。
【0025】
この音場再現室10a、10bには、音場を再現するためのBSCシステム制御部11a、11bが設けられている。このBSCシステム制御部11a、11bは、会話者1、2の周囲に共有音場における空間データを与えるために、共有音場作成室30内の共有音場データ作成制御部(図示しない)と接続されている。BSCシステム制御部11a、11bと共有音場作成室30内の共有音場データ作成制御部とは、図示はしないが、LAN、ブロードバンドネットワークなどの通信手段を用いて接続されている。この図1においては、この発明のシステムの理解を容易にするために、通信手段等は省略している。
【0026】
音場再現室10a、10b内には、BSCの原理による音場再現を行うために、複数のスピーカが所定の位置に配置されたBSCスピーカ20a、20bが設けられている。このBSCスピーカ20a、20bに対して、所定の位置に設けられた椅子15a、15bに、会話者1、2がそれぞれ着席して、スピーカ20a、20bからの音を聴取する。
【0027】
スピーカ20a、20bは、共有音場作成室30内で取得された音圧信号に基づき、BSCシステム制御部11a、11bにより駆動される。
【0028】
共有音場作成室30には、会話者1の共有音場の音圧信号を取得するためのBSCマイクロフォン31a、会話者2の共有音場の音圧信号を取得するためのBSCマイクロフォン31bが配置されている。共有音場として仮定した共有音場再現室31の空間V1、V2に会話者1、2が存在している仮定し、空間V1、V2の音圧信号を取得するべく、複数のマイクロフォンからなるBSCマイクロフォン31a、31bを配置している。
【0029】
会話者1、2が発した音声は、音場再現室10a、10b内のマイク16a、16bで収音され、通信手段を介して共有音場作成室30に送られる。そして、共有音場作成室30内の音声再生用スピーカ32a、32bよりそれぞれ出力される。音声再生用スピーカ32a、32bは会話者1、2がそれぞれ存在していると仮定している箇所、すなわち、空間V1、V2に設置される。具体的には、BSCマイクロフォン32a、32bの空間内に設置される。
【0030】
共有音場作成室30では、会話者1、2の音声、共有音場内の音が、BSCマイクロフォン32a、32bで収音されることになる。
【0031】
このようにして、BSCマイクロフォン32aで会話者1のための共有音場データ、BSCマイクロフォン32bで会話者2のための共有音場データを取得する。すなわち、各会話者1、2の音声は音場再現室1、2内のマイクロフォン16a、16bによって収音され、共有音場作成室30の音声再生用スピーカ32a、32bによって再生される。共有音場作成室30で再生された音声は、BSCマイクロフォン32a、32bによって再び収音されて会話の相手の音場再現室1a、1b内のBSCスピーカ20a、20bにおいて再現されることになる。
【0032】
BSCマイクロフォン31a、31bは、例えば、図2に示すように設けられる。図2は、BSCマイクロフォン31a、31bの一例を示す模式図である。この実施形態において、BSCマイクロンフォン31a、31bは、空間をほぼ均等に区分けするための形状として、C80フラーレンの一部を利用している。システムの利用者(会話者)の頭部全体を覆うことが出来る程度のC80フラーレンからなるフレーム31を作成する。この実施形態におけるC80フラーレンは、80個のノードから頭部をフレーム内部に入れるための10個のノードを除いた70個のノードで構成する。70個のノードの位置は、6角形と5角形の組み合わせにより構成されている。マイクロフォンは、70個のノードの位置に1個ずつの70個を用いた。この実施形態においては、図2に示すように、BSCマイクロフォン31a、31bの内部に、音声再生用スピーカ32a、32bが設置される。
【0033】
このBSCマイクロンフォン31a、31bにて、共有音場の任意の位置の閉空間を囲む境界上の音圧と粒子速度を測定し、その測定結果に基づく音圧信号を出力する。この音圧信号に基づきBSCシステム制御部11a、11bは、BSCスピーカ20a、20bのスピーカと音場再現室10a、10bの会話者1、2の耳の位置との間の音響系の逆システムに基づいたフィルタ処理を行い、BSCスピーカ20a、20bの各スピーカから音を出力し、共有音場を再現する。
【0034】
上記したように、BSCの原理は、会話者を取り囲む面上における音圧信号が共有音場の面における音圧信号と同一になるように、BSCスピーカ20a、20bを駆動するものである。
【0035】
このBSCの原理は、境界面外側から到達する音波に対して成立する理論である。図1のように、音声再生用スピーカ32a、32bがBSCマクロフォン31a、31bの内部に設置される場合には、境界面内部の信号、すなわち、スピーカ32a、32bからの音声L11、L22の直接音部分をキャンセルする必要がある。従って、BSCシステム制御部11a、11bに必要な機能は、音場再現室10a、10b内の伝達関数M1、M2の逆システムおよび自らの音声L11、L22の直接音信号をキャンセルするシステムとを重ね合わせたものになる。また、厳密には、音場再現室10a、10b内で発生した際に生じる自分の音声の反響(M’1、M’2)を抑制する必要がある。しかし、共有音場の再現信号に比べて僅かなので、無視しても別条ない。
【0036】
上記したBSCシステム制御回路11a、11bは、基本的には、BSCの原理による音場再現を行うものである。BSCの原理によると、3次元空間内の任意の領域を囲む閉曲面上の音圧と音圧勾配を制御することが出来れば、領域内部の任意の点の音圧を制御することが可能となり、各会話者が共有音場を共有できるものである。BSCの原理につき簡単に説明する。
【0037】
BSCの原理は、図3に示すように、原音場内の領域Vの音場を、再生音場内の領域V’において、再現するシステムを考えている。ただし、領域Vと領域V’を囲む境界SとS’上の収録点(recording point)r、制御点(contorol point)r’と領域内部の点S、S’の相対位置は等しいとしている。このことから、下記(1)式が成立する。
【0038】
【数1】

【0039】
このとき内部に音源を含まない領域内の音圧p(s)、p(s’)は、Kirchhoff−Helmholtz積分方程式により、下記(2)になる。
【0040】
【数2】

【0041】
ただし、ωは角周波数、ρは媒質の密度、p(r)、∂p(r/s)/∂nはそれぞれ境界上の点rにおける音圧と法線n方向の音圧勾配、G(r/s)はグリーン関数とする。ここで式(2)の関係より、下記式(3)が成立する。したがって、下記式(4)が得られる。
【0042】
【数3】

【0043】
【数4】

【0044】
式(4)より、原音場で収音された境界面上の音圧と音圧勾配を再現音場においてそれぞれ等しくなるように制御すれば、領域V内の音場が領域V’において再現されることがわかる。
【0045】
ここで、音圧勾配境界上の点ri(添え字iは離散化した境界Sの微少要素の1つを表す)において、境界を挟む2点に設置したマイクロフォンで測定した音圧の差により求めることが出来る。しかしながら、境界値問題における解の一意性から、固有周波数を制御すれば、音圧勾配を制御することが出来、境界内部の音圧も制御できる。
【0046】
再生音場の制御点において、原音場の収録点で収録された信号を再現するためには、再生音場の全ての2次音源(Secondary source)と全ての制御点の間の伝達特性と空間ストロークを打ち消す逆フィルタを必要とする。
【0047】
図4に示す関係から逆フィルタマトリクスを求めることができる。逆システムの入力信号をx、伝達関数マトリクスを[G]、制御点における出力信号をx’とすると、逆フィルタマトリクスについて以下の式が成り立つ。
【0048】
x’=[G][H]x
ここで、逆フィルタマトリクス[H]は以下のように書くことが出来る。
【0049】
[H]=[G]
ただし、[G]は[G]の一般逆行列である。また、[G]、[H]、x、x’は次
の通りとする。
【0050】
【数5】

【0051】
上記した境界音場制御(BSC)の原理に基づいて、BSCマイクロンフォン31a、31bで収音したデータに基づき、BSCシステム制御部11a、11bはBSCスピーカ20a、20bを制御する。
【0052】
上記した70個のマイクロンフォンで収音した音を再生するためには、マイクロフォンの数以上のスピーカを用いることが望ましい。これは、フィルタ設計の演算において、マイクロフォンの数以上のスピーカであれば、近似解にならず、行列演算によりフィルタ特性が得られるからである。勿論、マイクロフォンの数より少ないスピーカを用いて、スピーカシステムを構成することもできる。この場合には、フィルタ演算は、近似解を用いることになる。
【0053】
次に、上記した音場再現室10a、10bとして用いて好適な音場再現室を図5、図6及び図7に従い説明する。音場再現室10a、10bは、同じ構成で実現されているので、図5、図6、図7においては、符号にa、bという添え字は省略している。
【0054】
図5は、この発明に用いて好適な音場再現室を示す斜視図、図6は、音場再現室の外側の壁面を除いて、BSCスピーカシステムの配置状態を示す斜視図、図7は、音場再現室におけるスピーカシステムを下方から見た図である。この実施形態においては、70個のマイクロンフォンに対して、70個のスピーカを用いて音場再現室を構成している。
【0055】
図5に示すように、この実施形態においては、外部からのノイズ等を遮断するために、3次元音場再生装置を設置する音場再現室10として防音室100を用いている。この防音室100内には、ドア101から内部に入り、ドア101を閉めることで、外部とは遮断された防音室100となる。
【0056】
音場再現室10は、内部に吸音処理が施されている。この防音室100の中央部にリフト装置102が設けられ、このリフト装置102上に会話者が座る椅子15が取り付けられている。リフト装置102は、音場再現領域の高さまで会話者の頭部を移動させるために上昇する。また、椅子15は回転可能であり、頭部が再現領域内部で回転出来るように構成されている。
【0057】
なお、図示はしないが、内部に映像投影用のスクリーン及びプロジェクタが設置され、映像を音とともに再生し、バーチャルリアリティを体験出来るように構成されている。また、会話者の音声を収音するマイク、会話者を撮影するビデオカメラを設けられている。
【0058】
会話者を中心とする3次元軸上の正負の位置にBSCスピーカ20として複数のスピーカ群210〜214を配置し、スピーカは会話者の定位の弁別限の小さな方向に多く配置している。
【0059】
図6及び図7に示すように、会話者を取り囲むように、スピーカの取り付け部材202が配置され、会話者の上方の取り付け部材2はアーチ状に曲げられている。会話者の頭部が位置する場所はドーム状に形成されている。
【0060】
すなわち、会話者の頭部より下方には、4隅に直線状の取り付け部材202が設けられ、この取り付け部材202の直線部分に、それぞれ2つずつのBSCスピーカ20の一部としてのスピーカ215…が取り付けられている。従って、会話者の頭部より下方には、計8個のスピーカ215…が取り付けられている。会話者の頭部より下方部に位置する8個のスピーカは、特に中低音を中心とした音が十分に再生できるスピーカを用いている。
【0061】
頭部より上方に位置する部分には、アーチ状に曲げられた取り付け部材202に、正中面に対する角度が異なる位置の水平面に対して、第2の取り付け部材203が取り付けられている。この第2の取り付け部材203に、それぞれ複数個のBSCスピーカ20の一部としてのフルレンジのスピーカ211〜214が取り付けられている。
【0062】
そして、人間の定位の弁別限の小さな方向に数多くのスピーカを配置している。このため、会話者の両耳が位置する水平面近傍に最大個数のスピーカを配置している。
【0063】
上記した実施形態においては、70個のスピーカを用いたが、スピーカの個数はこれに限るものではない。また、ドーム状にスピーカを配置しているが、ドーム状に限らず、単に円筒状や,四角柱状のスピーカ配置でもよく、それぞれのスピーカ配置に従い、予測・逆システムの演算を行い、フィルタ特性を設定すればよい。
【0064】
図8及び図9を参照して、この発明の音響空間共有装置の構成につき更に説明する。図8は、この発明の音響空間共有装置の構成を示すブロック図、図9は、この発明の音響空間共有装置における音場再生装置の構成例を示すブロック図である。尚、図9においては、便宜上、会話者1(2)の正面部分にスピーカを配置したように記載しているが、実際には会話者1(2)を取り囲むように70個のスピーカが配置されている。
【0065】
図8は、本実施形態にかかる音響空間共有装置の全体構成を示すブロック図である。
図8に示すように、音響空間共有装置は、ネットワーク50と接続される通信インターフェース40a(40b)、BSC制御装置11a(11b)、アンプ70a(70b)、BSCスピーカ20a(20b)、マイク16a(16b)、及び共有音場データ作成制御部300を備える。共有音場データ作成制御部300は、共有音場作成室30に設けられている。
【0066】
図に示すように、共有音場データ作成制御部300を除いた各部は、音場再現室の各々に個別に備え付けられる。この図8においては、2つの音場再現室を記載してるが、2以上の音場再生装置をネットワーク50に接続することができる。
【0067】
また、共有音場データ作成制御部300には、前述したように、会話者1、2の周囲の共有音場における空間データを与えるための音圧信号を作成し、対応する音場再現室にネットワーク50を介して音圧信号データなどからなる制御信号を送出する。このため、この共有音場データ作成制御部300は、接続される音源再生室にそれぞれ対応するBSCマクロフォン、音声スピーカなどが設けられている。そして、BSCマクロフォンからの信号を図示していないが通信インターフェースを介してネットワーク50に送出する。
【0068】
この音場再現室10a、10bには、音場を再現するためのBSCシステム制御部11a、11bが設けられている。このBSCシステム制御部11a、11bはそれぞれ通信インターフェース40a、40bを介してネットワーク50を介して共有音場作成データ制御部300と接続されている。
【0069】
音場再現室10a、10b内には、BSCの原理による音場再現を行うために、複数のスピーカが所定の位置に配置されたBSCスピーカ20a、20bが設けられている。スピーカ20a、20bは、共有音場作成データ制御部300で作成した音圧信号がネットワーク50、通信インターフェース40a、40bを介してBSCシステム制御部11a、11bに与えられる。BSCシステム制御部11a、11bは、共有音場作成データ制御部300から送られてきた音圧信号に基づき、上記したBSCの原理に基づいて、フィルタ係数等を演算し、その演算結果に基づきアンプが70a、70bが駆動され、スピーカ20a、20bが駆動される。
【0070】
次に、図9に従い、各音場再現室の動作につき、更に説明する。
【0071】
共有音場データ作成制御部300で作成した音圧信号が通信インターフェース40a(40b)に与えられ、通信インターフェース40a(40b)から音場データがBSC制御装置11a(11b)に与えられる。
【0072】
この通信インターフェース40a(40b)を介して与えられる音場データは、複数のデジタルフィルタ51,51‥‥51に供給される。デジタルフィルタ51,51‥‥51の伝達関数は、通信インターフェース40a(40b)から与えられる信号に基づいて前述したBSCの原理に基づき演算処理部80によって算出され、決定されるものである。
【0073】
デジタルフィルタ51,51‥‥51の出力の音場データは、DAコンバータ61,61‥‥61でアナログ音声信号に変換され、その変換後の音声信号が、それぞれ音声増幅回路71,71‥‥71で増幅されてスピーカ211〜214に供給される。スピーカ211〜214は、前述したスピーカの配置状態で構成される。
【0074】
演算処理部80は、図では省略したがCPU,ROMおよびRAMを備えるコンピュータ部として構成され、デジタルフィルタ51,51‥‥51のフィルタ係数を設定するものである。
【0075】
演算処理部80には、記憶装置部85が接続される。記憶装置部85は、BSCの原理に基づく演算結果のデータとして得られたデジタルフィルタ51,51‥‥51のフィルタ係数を記憶させておくものである。通信インターフェース40a(40b)から与えられる信号に基づいて、演算部80は、記憶部85から該当するフィルタ係数を読み出し、デジタルフィルタ51,51‥‥51のフィルタ係数を設定するものである。
【0076】
上記した手法により、共有空間の音場データを再生することにより、会話者は離れていても共通の空間を共有することができる。
【0077】
この図8に示すものは、会話者が2名であるが、会話者が増える場合には同一セットを増加させればよい。
【0078】
上記した音響空間共有装置では、共有音場作成室30にて、共有音場をリアルタイムで作成することができる。しかし、リアルタイムで共有音場を再現する必要がない場合もある。図10に示す実施形態は、リアルタイムで共有音場を再現する必要がない場合の音響空間共有装置を示す模式図である。
【0079】
図10に示すように、リアルタイムで共有音場を再現する必要がない場合には、予めBSCマイクロフォンを用いて予め共有音場の音を収音しておく。そして、収音したデータから共有音場のデータ(N)、(N)を共有音場再現室の共有音場データ作成制御部300の記憶装置などに格納しておく。そして、記憶装置から共有音場のデータ(N)、(N)を読み出し、再生する。
【0080】
また、各会話者1、2の音声に関しても、再生用スピーカからBSCマイクロフォンへの伝達関数(L12、L21)を音声信号に畳み込んだ信号を加えればよい。また、自分の音声信号に対しては、直接音成分を除いた伝達関数(L’11、L’22)を加えればよい。
【0081】
この図に示すものでは、共有音場データ作成制御部300に内に、BSC制御システム回路を構成し、逆システムに係るフィルタ係数、音場データを音場再現装置に送り、BSCスピーカを駆動するように構成している。共有音場のデータ(N)、(N)、再生用スピーカからBSCマイクロフォンへの伝達関数(L12、L21)、直接音成分を除いた伝達関数(L’11、L’22)を予め記憶装置に格納する。記憶装置には、様々な音場データを格納し、会話者1、2が希望する音場のデータを共有音場データ作成制御部300は読み出してBSC制御するものである。
【0082】
制御装置20にて、音源再生装置10a、10bから送られてくる音声信号に、各伝達関数を畳み込んだ信号を加えて、逆システム用の信号(M−1、M−1)を生成して、各音源再生装置10a、10bに送出する。各音源再生装置10a、10bでは、送られてきた逆システムに係るフィルタ係数、音場データにてBSCスピーカ20a、20bを駆動することで、共有音場を得ることができる。
【0083】
このようなシステムを構成するメリットは、蓄積した様々な音場のデータベースを共有音場のデータとして利用できる。すなわち、共有音場のデータ(N)、(N)、再生用スピーカからBSCマイクロフォンへの伝達関数(L12、L21)を多数の場所で計測し、蓄積することで会話者は様々な条件の音場を体験することができるようになる。伝達関数(L12、L21)は、無響室で計測したデータで代替えしたり、あるいは計算でもとめばよい。
【0084】
さらに、会話者をビデオカメラで撮像し、そのデータを相手方に送り、共有音場に相手方の映像を重ね合わせることで、よりリアリティある会話を楽しむことができる。
【0085】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
この発明は、リアリティ感のあるテレビ会議システム、臨場感あふれる映画観賞装置などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明の実施形態に係る音響空間共有装置の構成を示す模式図である。
【図2】この発明に用いられるBSCマイクロフォンの構成を示す模式的斜視図である。
【図3】境界音場制御の原理を説明するための模式図である。
【図4】逆フィルタマトリクスの関係示す説明図である。
【図5】この発明に用いて好適な音場再現室を示す斜視図である。
【図6】この発明に用いて好適な音場再現室の外側の壁面を除いて、BSCスピーカシステムの配置状態を示す斜視図である。
【図7】この発明に用いて好適な音場再現室におけるスピーカシステムを下方から見た図である。
【図8】この発明の音響空間共有装置の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の音響空間共有装置における音場再生装置の構成例を示すブロック図である。
【図10】この発明の異なる実施形態に係る音響空間共有装置の構成を示す模式図である。
【図11】BSC原理を用いて、会話者との間で空間を共有するシステムを示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1、2 会話者、10、10a、10b 音場再現室、11、11a、11b BSCシステム制御部、16a、16b マイク、20、20a、20b BSCスピーカ、30 共有音場作成室、31a、31b BSCマイクロフォン、32a、32b 音声スピーカ、300 共有音場データ作成制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカによって音場を再現する音響空間と、この音響空間内に設けられる会話者の音声を取得する収音手段と、この収音手段からの音声情報と共有する音場の情報に基き共有音場の空間データ情報を作成する共有音場データ作成手段と、前記共有音場データ作成手段からの空間データ情報に基づき前記音響空間のスピーカの駆動を制御する制御手段と、を有し、複数の前記音響空間からの音声情報が前記共有音場データ作成手段に与えられ、前記共有音場データ作成手段は、各音響空間に対応した共有音場の空間データ情報を作成し、各音響空間は対応する共有音場データ作成手段からの空間データ情報に基づきスピーカの駆動が制御され共有音場を再現することを特徴とする音響空間共有装置。
【請求項2】
前記音響空間に設けられる複数のスピーカは、境界音場制御原理に基づき駆動を制御されることを特徴とする請求項1に記載の音響空間共有装置。
【請求項3】
前記共有音場データ作成手段は、共有音場として仮定した空間を覆うように設置された複数のマイクロフォンからの音情報に基づき空間データ情報を作成することを特徴とする請求項1に記載の音響空間共有装置。
【請求項4】
複数のマイクロフォンで形成された空間内に会話者の音声を出力するスピーカが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の音響空間共有装置。
【請求項5】
前記共有音場データ作成手段は、複数の共有音場に基づく空間データを格納する記憶手段を有し、この記憶手段からの空間データを読み出し、前記音響空間のスピーカの駆動を制御する制御信号を作成することを特徴とする請求項1に記載の音響空間共有装置。
【請求項6】
前記音響空間及び共有音場データ作成手段に通信制御手段が設けられ、前記音響空間と共有音場データ作成手段とがネットワークを介して接続されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の音響空間共有装置。
【請求項7】
前記音響空間の複数のスピーカはドーム状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の音響空間共有装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−227773(P2008−227773A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61107(P2007−61107)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年9月1日付け、支出負担行為担当官総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「3次元音響空間を物理的に伝送するリアリティ音場通信に関する研究」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)