説明

頭部音響伝達関数補間装置、そのプログラムおよび方法

【課題】従来のものより頭部音響伝達関数の補間を正確に行うことができるとともに、全体的な聴感上の精度向上が可能な頭部音響伝達関数補間装置を提供する。
【解決手段】予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを蓄積する合成用スペクトル蓄積手段41と、所定の複数の方位のうち1つ以上の方位の頭部音響伝達関数が新たに測定された場合、測定された頭部音響伝達関数および合成用スペクトル蓄積手段41に蓄積された該1つ以上の方位の合成用スペクトルを用いて加算係数を算出する加算係数算出手段44と、加算係数および合成用スペクトル蓄積手段41に蓄積された補間対象方位の合成用スペクトルを用いて、補間対象方位の頭部音響伝達関数を補間する頭部音響伝達関数補間手段45と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定、音響シミュレーションなどにより求められた離散的な頭部音響伝達関数を補間する頭部音響伝達関数補間装置、そのプログラムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヘッドホン受聴時の音像定位技術として、頭部音響伝達関数(HRTF:Head Related Transfer Function)を用いて設計された制御フィルタとヘッドホンの逆フィルタとを用いるものが一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
頭部音響伝達関数とは、人間の耳介や頭の周辺物によって生じる音の変化を伝達関数として表現したもので、自由音場に頭がないときの両耳の中心位置から、頭があるときの外耳道入口または鼓膜までの伝達関数であり、音源位置を十分遠方として、この音源位置から到来する平面波の入射角と周波数の関数として定義される。通常、この頭部音響伝達関数は、人頭を模擬したダミーヘッドや上半身を模擬したHATS(Head And Torso Simulator)などの音響測定用のマネキンまたは被験者の両耳にマイクロホンを設置することにより測定される。
【0004】
図1は、頭部音響伝達関数を測定するときの測定イメージ図である。頭部10の中心を原点とした球面上に存在する所定の複数の測定位置11のそれぞれにスピーカ12を移動させた状態で測定用の音響信号を再生し、再生された音響信号が両耳の外耳道入口または鼓膜前に設置されたマイクロホン13によって収音される。
【0005】
この収音された音響信号から、スピーカ12やマイクロホン13などの測定機材の特性、および測定に用いられた音響信号の特性を除去することで頭部音響伝達関数が測定される。通常は、予め定められた方位角、仰角から定まる測定位置11に対応して、図1に示すように一定間隔ごとに頭部音響伝達関数が算出される。
【0006】
また、計算機の処理能力向上に伴い、境界要素法や有限要素法などの解析手法と頭部のモデリングを組み合わせた計算機によるシミュレーションができるようになり、このシミュレーションで頭部音響伝達関数を算出する方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、このような算出手法は、モデルの精度が高くなるほど演算量が増大するため、通常は、予め決められた方位角、仰角それぞれに対応した位置で、一定間隔ごとに頭部音響伝達関数が算出される。
【0007】
図2は、頭部音響伝達関数を用いた音像定位技術を使用した音像定位装置の典型的な例を示す図である。姿勢センサー21は、ヘッドホン22を装着した受聴者9の頭部姿勢を計測し、頭部姿勢を表す情報を相対頭部姿勢計算部23に逐次出力する。
【0008】
相対頭部姿勢計算部23は、姿勢センサー21より出力された頭部姿勢を表す情報に対応する音像位置8に対する方位角と仰角、すなわち相対姿勢を計算し、計算した結果を制御フィルタ決定部24に出力する。
【0009】
制御フィルタ決定部24は、相対頭部姿勢計算部23によって計算された相対姿勢に対応する適切なフィルタを左右それぞれの耳の分について決定する。通常、制御フィルタ決定部24は、相対姿勢を表す方位角および仰角の組み合わせに対応した制御フィルタを適切なフィルタとして選択する。
【0010】
制御フィルタバンク25は、事前に測定された頭部音響伝達関数より導出される制御フィルタ、若しくは頭部音響伝達関数そのものを制御フィルタとして方位角および仰角の組み合わせごとに蓄積するとともに、制御フィルタ決定部24によって決定された制御フィルタを左右のチャンネルについて制御フィルタ畳み込み部27に提供する。
【0011】
ヘッドホン逆フィルタ畳み込み部26は、音像定位処理の対象となる音源信号をヘッドホン22の周波数特性の逆特性となるフィルタで左右のチャンネルについて畳み込み、制御フィルタ畳み込み部27に出力する。ここで、制御フィルタ決定部24で決定された、相対姿勢を表す方位角および仰角の組み合わせに対応した左右の制御フィルタが、制御フィルタバンク25から制御フィルタ畳み込み部27に提供される。
【0012】
制御フィルタ畳み込み部27は、提供された左右の制御フィルタとヘッドホン逆フィルタ畳み込み部26の出力となるデジタル信号とを左右のチャンネルについて畳み込み、デジタルアナログ変換部28に出力する。
【0013】
デジタルアナログ変換部28は、制御フィルタ畳み込み部27より出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換し、左右それぞれのチャンネルのアナログ信号をヘッドホン22に出力する。
【0014】
前述のとおり、頭部音響伝達関数は、図1のように一定間隔離れた測定位置ごとに離散的に測定されるため、上述した音像定位装置は、測定されていない方向に音像定位を正確に行うことはできない。
【0015】
全方向に対する連続的な音像定位を実現するためには、予め決められた方位角および仰角に対応する方向の測定位置で測定された頭部音響伝達関数を近似することが必要である。
【0016】
例えば、同一仰角内で所望方位角に隣接する測定位置の頭部音響伝達関数に対して、内分比を掛け、加算することにより所望の頭部音響伝達関数を導出する方法がある(例えば、特許文献2参照)。他では、球面上において測定位置によりメッシュを構成し、所望方位角、仰角を包含するメッシュを構成する4点の測定位置によって重心補間することにより、所望の頭部音響伝達関数を導出する方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【0017】
以上のように、指定された任意の方向に音像定位を行うには、指定された方向の付近で測定された頭部音響伝達関数を用いて、指定された方向の頭部音響伝達関数を補間する手法が採用されている。
【特許文献1】特開2002−209300号公報
【特許文献2】特開平7−248255号公報
【特許文献3】特開平10−42399号公報
【非特許文献1】角張勲、外2名、「高精度頭部3次元モデルを用いたHRTF解析手法の検証」、日本音響学会講演論文集、日本音響学会、2003年9月、p.513−514
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、頭部音響伝達関数は音源位置から両耳収音位置までの伝搬過程における皮膚や耳介、鼻など頭部全体での反射や回折によって定まる関数であるため、特許文献1〜3および非特許文献1に開示された従来の音像定位技術のように、近接する測定点での頭部音響伝達関数のみを用いた局所的な補間方法では誤差の拡大が考えられ、期待される音像定位が得られないことがあるという問題があった。
【0019】
また、人の聴覚の分解能は方位によって異なっており、局所的な補間方法による誤差に対する感度も方位、周波数成分によって異なることが最近の知見として得られている。したがって、方位、周波数によらず均一な精度で頭部音響伝達関数を導出した場合、方位によりその歪が知覚されてしまうという問題があった。
【0020】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、従来のものより頭部音響伝達関数の補間を正確に行うことができるとともに、全体的な聴感上の精度向上が可能な頭部音響伝達関数補間装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の頭部音響伝達関数補間装置は、予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを蓄積する合成用スペクトル蓄積手段と、所定の複数の方位のうち1つ以上の方位の頭部音響伝達関数が新たに測定された場合、前記新たに測定された頭部音響伝達関数および前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記1つ以上の方位の合成用スペクトルを用いて加算係数を算出する加算係数算出手段と、前記加算係数算出手段によって算出された加算係数、および、前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記所定の複数の方位のうち新たに測定された方位以外の方位の合成用スペクトルを用いて、前記新たに測定された方位以外の方位の頭部音響伝達関数を補間する頭部音響伝達関数補間手段と、を備えた構成を有している。
【0022】
この構成により、本発明の頭部音響伝達関数補間装置は、予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを用いて、新たに測定された方位以外の方位の頭部音響伝達関数を補間するため、従来のものより頭部音響伝達関数の補間を正確に行うことができるとともに、全体的な聴感上の精度を向上することができる。
【0023】
また、本発明の頭部音響伝達関数補間装置は、前記合成用スペクトル蓄積手段が、前記予め取得された前記複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を前記方位ごとに重み付けした後に主成分分析することによって得られる主成分を合成用スペクトルとして算出する合成用スペクトル算出手段と、前記合成用スペクトル算出手段によって算出された合成用スペクトルを記憶する合成用スペクトル記憶手段と、を含む構成を有している。
【0024】
この構成により、従来のものより頭部音響伝達関数の補間を正確に行うことができる。
【0025】
また、本発明の頭部音響伝達関数補間装置は、前記合成用スペクトル算出手段が、人の聴覚特性に基づいて定められた重み係数ベクトルを用いて前記頭部音響伝達関数の振幅応答に対する重み付けを行うものである構成を有している。
【0026】
この構成により、本発明の頭部音響伝達関数補間装置は、全体的な聴感上の精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを用いて、新たに測定された方位以外の方位の頭部音響伝達関数を補間するため、従来のものより頭部音響伝達関数の補間を正確に行うことができるとともに、全体的な聴感上の精度向上が可能な頭部音響伝達関数補間装置を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る頭部音響伝達関数補間装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0029】
図3は、本発明の実施形態に係る頭部音響伝達関数補間装置のハードウエア構成を示すブロック図である。頭部音響伝達関数補間装置30は、コンピュータからなっており、プログラムを実行するCPUなどの演算装置31、演算装置31によって処理されるデータを一時的に記憶するメモリ32、ハードディスクなどの記憶装置33、周辺機器インターフェイス(I/F)34がバス35を介して相互に結合された構成を有する。なお、周辺機器インターフェイス(I/F)34には、表示パネル341、キーボード342、マウス343が接続される。
【0030】
図4は、本発明の実施形態に係る頭部音響伝達関数補間装置の機能的なブロック図である。頭部音響伝達関数補間装置30は、合成用スペクトル蓄積手段41、加算係数算出手段44、および頭部音響伝達関数補間手段45によって構成されている。なお、合成用スペクトル蓄積手段41、加算係数算出手段44、および頭部音響伝達関数補間手段45は、例えば、プログラムのモジュールであり、演算装置31によって実行される。
【0031】
合成用スペクトル蓄積手段41は、合成用スペクトル算出手段42および合成用スペクトル記憶手段43によって構成されている。合成用スペクトル蓄積手段41は、予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析し、その解析結果を合成用スペクトルとして蓄積する。なお、複数の頭部音響伝達関数は、複数の人の頭部から得られたものである。
【0032】
合成用スペクトル算出手段42は、予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けした後に主成分分析することによって得られる主成分を合成用スペクトルとして算出する。ここで、振幅応答に対する重み付けは、人の聴覚特性に基づいて定めることが好ましい。
【0033】
また、合成用スペクトル記憶手段43は、合成用スペクトル算出手段42によって算出された合成用スペクトルをデータベースとなる記憶装置33に記憶させる。
【0034】
加算係数算出手段44は、所定の複数の方位のうち1つ以上の方位の頭部音響伝達関数が新たに測定された場合、新たに測定された頭部音響伝達関数および合成用スペクトル蓄積手段41に蓄積された該1つ以上の方位の合成用スペクトルを用いて、所定の複数の方位のうち新たに測定された方位以外の方位(以下、補間対象方位と記す)の頭部音響伝達関数の補間を行うための加算係数を算出する。
【0035】
頭部音響伝達関数補間手段45は、加算係数算出手段44によって算出された加算係数、および、合成用スペクトル蓄積手段41に蓄積された所定の複数の方位のうち補間対象方位の合成用スペクトルを用いて、補間対象方位の頭部音響伝達関数を補間する。
【0036】
以上のように構成された頭部音響伝達関数補間装置30の動作の一例について図面を用いて以下に説明する。この例では、予め決められた所定の方位の数が8個であり、例えば5つの方位で頭部音響伝達関数が新たに測定され、測定されなかった残りの3つの方位の頭部音響伝達関数が補間される状況を想定している。
【0037】
すなわち、加算係数算出手段44によって、新たに測定された5つの方位の頭部音響伝達関数および合成用スペクトル蓄積手段41に蓄積された該5つの方位の合成用スペクトルから加算係数が算出される。加算係数算出手段44によって算出された加算係数および合成用スペクトル蓄積手段41に蓄積された残りの3つの方位の合成用スペクトルに基づいて、頭部音響伝達関数補間手段45によって残りの3つの位置の頭部音響伝達関数が補間される。
【0038】
図5は、演算装置31が実行する合成用スペクトル蓄積処理のフローチャートである。なお、所定の複数の方位に対応する頭部音響伝達関数が記憶装置33に既に記憶されているものとする。
【0039】
まず、頭部音響伝達関数補間装置30の操作者の指示等なんらかの契機により、演算装置31は、記憶装置33に記憶されている予め取得された頭部音響伝達関数を読み込み、メモリ32に格納する(ステップS51)。
【0040】
次に、演算装置31は、記憶装置33に記憶されている重み係数ベクトルΩを読み込み、メモリ32に格納する(ステップS52)。
【0041】
次に、演算装置31は、メモリ32に格納された全ての方位の頭部音響伝達関数の振幅応答について周波数成分と方位の組み合わせを変量として分散・共分散を計算し、分散・共分散行列Sを形成してメモリ32に格納する(ステップS53)。
【0042】
ここで、例えば、方位i1、j1番目周波数成分の振幅応答と方位i2、j2番目周波数成分の振幅応答との共分散をS(i1−j1)(i2−j2)と表すとき、分散・共分散行列Sは[数1]のように表わされる。
【数1】

【0043】
次に、演算装置31は、ステップS54において、分散・共分散行列SとステップS52で読み込んだ[数2]に示す重み係数ベクトルΩを用いて、[数3]に示す計算用行列Tを形成し、メモリ32に格納する。
【0044】
ここで、ωi−jは方位i、j番目周波数成分に対する重み係数を表す。例えば、方位i1、j1番目周波数成分の精度を方位i2、j2番目周波数成分のα倍に設定したい場合、ωi1−j1の値をωi2−j2の値のα倍に設定する。なお、[数3]における「×」は行列の要素ごとの積演算を表す。
【数2】

【数3】

【0045】
次に、演算装置31は、メモリ32に格納された計算用行列Tを用いて公知の主成分分析を行い、分析結果をメモリ32に格納する(ステップS55)。
【0046】
次に、演算装置31は、主成分分析によって得られた主成分を方位ごとに分割しメモリ32に格納する(ステップS56)。例えば、第k主成分Pkを[数4]のように表わすとき、全方位の主成分Pk1〜Pkdは[数5]のようになる。
【数4】

【数5】

【0047】
最後に、演算装置31は、ステップS56で計算された方位別の主成分を合成用スペクトルとして記憶装置33に記憶させる(ステップS57)。
【0048】
図6は、新たに測定された頭部音響伝達関数Hに関する加算係数を算出する加算係数算出処理のフローチャートである。
【0049】
まず、演算装置31は、新たに測定された頭部音響伝達関数Hを頭部音響伝達関数補間装置30のメモリ32に格納する(ステップS61)。
【0050】
なお、新たに頭部音響伝達関数Hが測定されたときの方位をd1〜daとすると、例えば方位d1で測定された頭部音響伝達関数は[数6]で表わされる。また、方位d1〜daで測定された頭部音響伝達関数Hは、[数7]で表わされる。
【数6】

【数7】

【0051】
次に、演算装置31は、合成用スペクトル蓄積処理のステップS57において記憶装置33に格納された合成用スペクトルのうち、方位d1〜daに対応する合成用スペクトルを読み込んでメモリ32に格納する(ステップS62)。
【0052】
次に、演算装置31は、ステップS62で読み込んだ方位d1〜daに対応する合成用スペクトルから合成用スペクトル行列Pを形成する(ステップS63)。なお、合成用スペクトル行列Pは[数8]で表わされる。ここで、a、bはそれぞれ、測定方位、合成用スペクトルの数であり、例えばP1d1は第1合成用スペクトル(第1主成分P1)のうち方位d1に関する成分である。
【数8】

【0053】
次に、演算装置31は、ステップS61でメモリ32に格納された頭部音響伝達関数HとステップS63で形成された合成用スペクトル行列Pとから加算係数Wを算出する(ステップS64)。なお、加算係数Wは[数9]で求まる。なお、"\"は、左除算を表す。
【数9】

【0054】
図7は、加算係数Wが計算されたときに補間対象方位の頭部音響伝達関数を補間する頭部音響伝達関数補間処理のフローチャートである。すでに述べたように補間対象方位とは、所定の複数の方位のうち頭部音響伝達関数が新たに測定された方位以外の方位である。
【0055】
まず、演算装置31は、合成用スペクトル蓄積処理のステップS57において記憶装置33に格納された合成用スペクトルのうち、補間対象方位d'1〜d'cの合成用スペクトルを読み込んでメモリ32に格納する(ステップS71)。
【0056】
次に、演算装置31は、ステップS71で読み込まれた合成用スペクトルから合成用スペクトル行列P'を形成する(ステップS72)。なお、合成用スペクトル行列P'は[数10]で表わされる。c、eはそれぞれ、補間対象方位、合成用スペクトルの数である。
【数10】

【0057】
次に、演算装置31は、加算係数算出処理のステップS64で算出された加算係数Wと本処理のステップS72で形成された合成用スペクトル行列P'とから補間頭部音響伝達関数H'を計算する(ステップS73)。なお、補間頭部音響伝達関数H'は[数11]で求まる。
【数11】

【0058】
ここで、例えば補間対象方位d'1の頭部音響伝達関数は[数12]で表わされる。また、補間対象方位d'1〜d'cに対応する補間頭部音響伝達関数H'は[数13]で表わされる。
【数12】

【数13】

【0059】
以上の手続きにより、測定された頭部音響伝達関数Hから、補間対象方位d'1〜d'cの補間頭部音響伝達関数H'の振幅応答を得ることができる。記憶装置33に記憶された頭部音響伝達関数は、例えば、図2で説明したような制御フィルタとして用いられる。
【0060】
以上説明したように、本発明に係る頭部音響伝達関数補間装置は、予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを用いて、新たに測定された方位以外の方位の頭部音響伝達関数を補間するため、従来のものより頭部音響伝達関数の補間を正確に行うことができるとともに、全体的な聴感上の精度向上が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明に係る頭部音響伝達関数補間装置は、従来のものより頭部音響伝達関数の補間を正確に行うことができるとともに、全体的な聴感上の精度向上を可能にするという効果を有し、バーチャルリアリティアミューズメント、ゲームの音響効果技術などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】頭部音響伝達関数を測定するときの測定イメージ図
【図2】頭部音響伝達関数を用いた音像定位技術を使用した音像定位装置の典型的な例を示すブロック図
【図3】本発明の実施形態に係る頭部音響伝達関数補間装置のハードウエア構成を示すブロック図。
【図4】本発明の実施形態に係る頭部音響伝達関数補間装置の機能的なブロック図
【図5】本発明の実施形態に係る頭部音響伝達関数補間装置の演算装置が実行する合成用スペクトル蓄積処理のフローチャート
【図6】本発明の実施形態に係る頭部音響伝達関数補間装置の演算装置が実行する加算係数算出処理のフローチャート
【図7】本発明の実施形態に係る頭部音響伝達関数補間装置の演算装置が実行する頭部音響伝達関数補間処理のフローチャート
【符号の説明】
【0063】
30 頭部音響伝達関数補間装置
41 合成用スペクトル蓄積手段
42 合成用スペクトル算出手段
43 合成用スペクトル記憶手段
44 加算係数算出手段
45 頭部音響伝達関数補間手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを蓄積する合成用スペクトル蓄積手段と、
所定の複数の方位のうち1つ以上の方位の頭部音響伝達関数が新たに測定された場合、前記新たに測定された頭部音響伝達関数および前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記1つ以上の方位の合成用スペクトルを用いて加算係数を算出する加算係数算出手段と、
前記加算係数算出手段によって算出された加算係数、および、前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記所定の複数の方位のうち新たに測定された方位以外の方位の合成用スペクトルを用いて、前記新たに測定された方位以外の方位の頭部音響伝達関数を補間する頭部音響伝達関数補間手段と、を備えたことを特徴とする頭部音響伝達関数補間装置。
【請求項2】
前記合成用スペクトル蓄積手段が、
前記予め取得された前記複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を前記方位ごとに重み付けした後に主成分分析することによって得られる主成分を合成用スペクトルとして算出する合成用スペクトル算出手段と、
前記合成用スペクトル算出手段によって算出された合成用スペクトルを記憶する合成用スペクトル記憶手段と、を含む請求項1に記載の頭部音響伝達関数補間装置。
【請求項3】
前記合成用スペクトル算出手段が、人の聴覚特性に基づいて定められた重み係数ベクトルを用いて前記頭部音響伝達関数の振幅応答に対する重み付けを行うものである請求項2に記載の頭部音響伝達関数補間装置。
【請求項4】
コンピュータに、
予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを蓄積する合成用スペクトル蓄積処理と、
所定の複数の方位のうち1つ以上の方位の頭部音響伝達関数が新たに測定された場合、前記新たに測定された頭部音響伝達関数および前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記1つ以上の方位の合成用スペクトルを用いて加算係数を算出する加算係数算出処理と、
前記加算係数算出手段によって算出された加算係数、および、前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記所定の複数の方位のうち新たに測定された方位以外の方位の合成用スペクトルを用いて、前記新たに測定された方位以外の方位の頭部音響伝達関数を補間する頭部音響伝達関数補間処理と、を実行させることを特徴とする頭部音響伝達関数補間プログラム。
【請求項5】
予め取得された複数の頭部音響伝達関数の振幅応答を方位ごとに重み付けして統計的に解析することにより得られた合成用スペクトルを蓄積する合成用スペクトル蓄積ステップと、
所定の複数の方位のうち1つ以上の方位の頭部音響伝達関数が新たに測定された場合、前記新たに測定された頭部音響伝達関数および前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記1つ以上の方位の合成用スペクトルを用いて加算係数を算出する加算係数算出ステップと、
前記加算係数算出手段によって算出された加算係数、および、前記合成用スペクトル蓄積手段に蓄積された前記所定の複数の方位のうち新たに測定された方位以外の方位の合成用スペクトルを用いて、前記新たに測定された方位以外の方位の頭部音響伝達関数を補間する頭部音響伝達関数補間ステップと、を備えたことを特徴とする頭部音響伝達関数補間方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−45489(P2010−45489A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206776(P2008−206776)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】