説明

顔料及びその製造方法

【課題】層間化合物を利用した顔料、及び、製造工程を簡略化することの容易な顔料の製造方法を提供する。
【解決手段】顔料は、層状無機化合物の層間に有機化合物の加熱処理物が介在されて構成されている。有機化合物は、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有している。そして顔料は、有機化合物の加熱処理物に基づいて着色されている。顔料の製造方法は、層状無機化合物の層間に有機化合物を挿入して層間化合物を得る挿入工程と、その有機化合物を層状無機化合物の層間において加熱処理する加熱工程とを含む。加熱工程は、層間化合物を昇温することにより実施される。加熱工程では、層間化合物は、有機化合物の沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度を超える温度になるまで昇温される。こうした昇温により、有機化合物の色が変化されることで、顔料は製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に顔料は、有機顔料、有機系レーキ顔料、無機顔料等に分類されている。こうした顔料は、例えば樹脂材料に配合される樹脂材料用途等の各種用途に広く使用されている。特許文献1には、希土類、アルカリ土類金属、及び鉄を構成元素とする複合酸化物系黒色顔料が開示されている。特許文献1の顔料は、乾式法又は湿式法により製造される。乾式法は、原材料を混合して焼成する方法である。湿式法は、構成元素を含む化合物の水溶液に対してアルカリ水溶液を添加することによって構成元素の水酸化物を沈殿させる方法である。
【特許文献1】特開2004−83616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した乾式法によって顔料を得る場合には、原材料を焼成するに際して金属が融着することで粒径のばらつきが大きい粗粒が形成される。このため、そうした粗粒について、解膠、粉砕、分級等を行う工程が複雑化するという問題があった。一方、上述した湿式法によって顔料を得る場合には、アルカリ水溶液を用いて、水酸化物を生成させてその水酸化物を沈殿させる操作、及び沈殿した水酸化物を分離する操作が必要となる。そして、こうした湿式法であっても焼成に伴って上述した粗粒が形成されることになる。このように湿式法では、乾式法よりもさらに工程が複雑化するという問題があった。
【0004】
以上のように、従来の顔料においては、未だ改善の余地を残すものとなっている。本発明は、層状無機化合物の層間に有機化合物を挿入することで得られる層間化合物について、特有の現象を見出すことによりなされたものである。本発明の目的は、層間化合物を利用した顔料、及び、製造工程を簡略化することの容易な顔料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の顔料は、層状無機化合物の層間に、有機化合物の加熱処理物が介在されてなり、前記有機化合物は、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有し、前記有機化合物の加熱処理物に基づいて着色されてなることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明の顔料は、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有する有機化合物が層状無機化合物の層間に挿入された層間化合物を昇温することで、前記層状無機化合物の層間において前記有機化合物を加熱処理することにより、前記有機化合物の色を変化させて得られることを要旨とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の顔料において、前記有機化合物は、沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度が40℃以上の有機化合物であることを要旨とする。
【0008】
請求項4に記載の発明の顔料の製造方法は、層状無機化合物の層間に、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有する有機化合物を挿入して層間化合物を得る挿入工程と、前記有機化合物を前記層状無機化合物の層間において加熱処理する加熱工程とを含み、該加熱工程では、前記有機化合物の沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度を超える温度になるまで前記層間化合物を昇温することで、前記有機化合物の色を変化させることを要旨とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の顔料の製造方法において、前記有機化合物は、沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度が40℃以上の有機化合物であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、層間化合物を利用した顔料が提供される。また本発明によれば、製造工程を簡略化することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態における顔料は、層状無機化合物の層間に有機化合物の加熱処理物が介在されて構成されている。有機化合物は、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有している。そして顔料は、有機化合物の加熱処理物に基づいて着色されている。こうした顔料は、層間化合物を原料としている。層間化合物は、層状無機化合物の層間に前記有機化合物が挿入されたものである。そして顔料は、層間化合物を昇温することで、層状無機化合物の層間において有機化合物を加熱処理することにより、有機化合物の色を変化させて得られる。
【0012】
<層状無機化合物>
層状無機化合物は、顔料の基材として用いられるとともに、層間において有機化合物を加熱処理するために用いられる。一般に層状無機化合物は、陽イオン交換性化合物及び陰イオン交換性化合物に分類される。
【0013】
陽イオン交換性化合物は、層間に交換性の陽イオンが存在している化合物であって、例えば膨潤性雲母(膨潤性マイカ)、スメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト族粘土鉱物、ゼオライト、セピオライト等が挙げられる。
【0014】
膨潤性雲母としては、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等が挙げられる。スメクタイト族粘土鉱物としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトナイト、スティブンサイト等が挙げられる。バーミキュライト族粘土鉱物としては、3八面体型バーミキュライト、2八面体型バーミキュライト等が挙げられる。
【0015】
また、陽イオン交換性化合物としては、例えば下記一般式(1)で示される膨潤性層状珪酸塩を挙げることもできる。
〔A(X)(Si4−dAl)O10(OH2−e)〕 …(1)
一般式(1)中におけるaの値は0.2≦a≦1.0、bの値は0≦b≦3、cの値は0≦c≦2、dの値は0≦d≦4、及びeの値は0≦e≦2である。
【0016】
一般式(1)中のAは、交換性陽イオンを示し、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選ばれる少なくとも1個の陽イオンである。Aで示される交換性金属イオンの金属原子としては、例えばLi、Na等が挙げられる。
【0017】
一般式(1)中におけるX及びYは、膨潤性層状珪酸塩の構造内における八面体シートに入る陽イオンであって、XはMg、Fe、Mn、Ni、Zn及びLiから選ばれる少なくとも一つの金属原子が構成する陽イオンであり、YはAl、Fe、Mn及びCrから選ばれる少なくとも一つの金属原子が構成する陽イオンである。
【0018】
陰イオン交換性化合物は、層間に陰イオンが存在している化合物であって、例えばハイドロタルサイト、及びハイドロタルサイト状化合物を含むハイドロタルサイト類が挙げられる。ハイドロタルサイト類は、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide:LDH)の一種であって、例えば下記一般式(2)で示される。
【0019】
〔M2+1−x3+(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x− …(2)
一般式(2)中におけるM2+は二価の金属原子、M3+は三価の金属原子、An−はn価の交換性の金属イオン、x=0.2〜0.33、yは環境湿度によって変化するため特に限定されないが、例えば0<y<1である。M2+としては、例えばMg2+、Mn2+、Ni2+、Zn2+等が挙げられる。M3+としては、例えばAl3+、Cr3+、Fe3+、Co3+等が挙げられる。An−としては、例えばOH、Cl、NO、SO、CO2−等が挙げられる。なお、ハイドロタルサイトはMgAl(OH)16CO・4HOで示される。
【0020】
なお、層状無機化合物の層間に存在する交換性のイオンのイオン量は、例えばカラム浸透法(「粘土ハンドブック」第二版 日本粘土学会編、第576〜577項、技法堂出版)やメチレンブルー吸着法(日本ベントナイト工業会標準試験法、JBAS−107−91)等の方法によって、イオン交換容量として示される。このイオン交換容量は、陽イオン交換性化合物の場合には、陽イオン交換容量(Cation−Exchange Capacity,CEC)と呼ばれ、陰イオン交換性化合物の場合には、陰イオン交換容量(Anion−Exchange Capacity,AEC)と呼ばれる。
【0021】
上述した層状無機化合物は、単独種を用いてもよいし、複数種の混合物として用いてもよい。層状無機化合物の粒度は、顔料の用途等に応じて適宜選択される。
<有機化合物>
有機化合物は、層状無機化合物の層間において、着色源となる加熱処理物を生成させるために用いられる。有機化合物は、上述した分子構造を有しているため、その加熱処理物は、層状無機化合物の着色源として十分に機能すると推測される。有機化合物の具体例としては、鎖式炭化水素類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類等が挙げられる。有機化合物には、非共有電子対を有する窒素原子の他に、共有電子対のみを有する窒素原子の他に、硫黄原子、酸素原子、ハロゲン原子等を有していてもよい。また、こうした有機化合物は、酸性有機化合物であってもよいし、塩基性有機化合物であってもよい。また、有機化合物はイオン性有機化合物であってもよいし、非イオン性有機化合物であってもよい。
【0022】
有機化合物は、顔料に対して所望する色合い、顔料の用途等に応じて適宜選択される。なお、有機化合物は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
有機化合物の中でも、層状無機化合物の層間に挿入することが容易であるという観点から、好ましくは分子量が500未満の有機化合物、より好ましくは分子量が300未満の有機化合物、さらに好ましくは分子量が200未満の有機化合物である。また、有機化合物の中でも、層状無機化合物の層間に保持され易く、その層間において加熱処理物を生成させることが容易であるという観点から、沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度が40℃以上の有機化合物が好適である。なお、本明細書でいう熱分解温度は、JIS K 7120−1987に準拠した熱重量/示差熱分析(TG/DTA)法による加熱試験で測定される熱分解温度であって、窒素中にて昇温速度10℃/分の条件において試料が5重量%減量するときの温度を示す。また、本明細書でいう沸騰温度及び昇華温度は、いずれも標準大気圧下における温度を示す。
【0023】
<層間化合物>
層間化合物は、層状無機化合物と有機化合物とが接触した状態において、層状無機化合物及び有機化合物に対して、剪断力、衝撃力等の運動エネルギーを加えることにより、得ることができる。すなわち、層状無機化合物の層間に存在する交換性のイオンとのイオン交換を利用せずに、層状無機化合物及び有機化合物に外力を加えることで、層状無機化合物の層間に有機化合物を挿入する。なお、こうして得られた層間化合物では、その層間において、層状無機化合物の有している交換性のイオン量が保持されている。層間化合物を構成する層状無機化合物の層間には、非イオン化状態で挿入された有機化合物が介在している。
【0024】
層状無機化合物に対する有機化合物の配合量は、層状無機化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.1〜70質量部、さらに好ましくは0.1〜50質量部である。この配合量が0.1質量部未満の場合、有機化合物の層間挿入量を十分に確保することが困難となるおそれがある。一方、100質量部を超えて配合した場合、層間挿入量について向上率の低下を招くため、不経済となるおそれがある。
【0025】
<顔料>
顔料は、層間化合物を昇温することで、層状無機化合物の層間において有機化合物を加熱処理することで得られる。この層間化合物を昇温するに際して、有機化合物は層状無機化合物の層間に挿入されているため、その有機化合物の気化、昇華等は抑制される。従って、層状無機化合物の層間に有機化合物は留まることになる。このため、有機化合物は層状無機化合物の層間において着色源となり得る。そして有機化合物の加熱処理によって生成した加熱処理物に基づいて、顔料は着色される。加熱処理物としては、有機化合物が炭化した炭化物、有機化合物が部分的に熱分解した熱分解物等が挙げられる。こうした熱分解物による着色は、加熱処理物自体が上述した分子構造に基づいて発色することで生じると考えられる。また、有機化合物の加熱処理に際して、層状無機化合物の層間に存在する交換性のイオンと有機化合物とが複合化した複合体が生成されると推測され、こうした複合体も加熱処理物として顔料の着色に寄与すると考えられる。こうした複合体は、層状無機化合物の層間に存在する交換性のイオンが、窒素原子の非共有電子対に配位したり、二重結合、三重結合等の不飽和結合に配位したりすることで生成されると考えられる。
【0026】
本実施形態の顔料は、層間化合物を利用することで得られ、その顔料は有機化合物の種類、加熱処理の温度等に応じた色を呈する。このように層間化合物の現象を利用して得られた顔料においては、加熱処理物が層状無機化合物の層間に介在されているため、その加熱処理物は層状無機化合物の層間から離脱し難い。従って、得られた顔料の洗浄は、極めて高い清浄性が要求されない限り、省略することができる。また、層状無機化合物の層間において有機化合物を加熱処理するため、その加熱処理に際して、層状無機化合物が有機化合物によって融着する現象は極めて発生し難い。従って、予め所定の粒度を有する層状無機化合物を用いることで、所定の粒度を有する顔料が得られ易いため、解膠、粉砕、分級等の操作を簡略化したり、省略したりすることも可能である。
【0027】
顔料の用途としては、例えば樹脂材料着色用、塗料用、インク用、ガラス着色用、複写機のトナー用、フラットパネルディスプレー用等を挙げることができる。なお、顔料を構成する層状無機化合物は、光を反射し易い鱗片状をなしているため、本実施形態の顔料は、光輝性の顔料としての利用価値は高い。
【0028】
<顔料の製造方法>
顔料の製造方法は、層状無機化合物の層間に上述した分子構造を有する有機化合物を挿入して層間化合物を得る挿入工程と、有機化合物を層状無機化合物の層間において加熱処理する加熱工程とを含む。
【0029】
挿入工程では、上記<層間化合物>欄に述べたように、層状無機化合物と有機化合物とが接触した状態において、層状無機化合物及び有機化合物に対して運動エネルギーを加える。すなわち、イオン交換を伴わない乾式の挿入方法によって、層状無機化合物の層間には有機化合物が挿入される。挿入工程では、例えばボールミル、ハンマーミル、ジェットミル、ニーダー等の装置が好適に使用される。
【0030】
加熱工程では、有機化合物の沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度を超える温度になるまで層間化合物を昇温する。この昇温により、有機化合物を層状無機化合物の層間において加熱処理することで、有機化合物の色を変化させる。こうした有機化合物の色の変化により、所定の色合いを呈する顔料が得られる。加熱工程における加熱には、例えば加熱炉、電熱ヒータ等の加熱装置を用いることができる。加熱工程における加熱時間及び加熱温度は、製造効率等を考慮して適宜変更することができる。層間化合物を加熱する温度は、顔料の製造時間を短縮するという観点から、有機化合物の沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度よりも、50℃以上高い温度が好ましく、100℃以上高い温度がより好ましい。
【0031】
加熱工程によって得られた顔料は、必要に応じて、洗浄工程、粉砕工程、分級工程等に供される。こうした加熱工程によって得られた顔料は、上述した理由によって、加熱工程後における洗浄工程、解膠工程、粉砕工程、分級工程等を簡略化したり、省略したりすることが可能である。
【0032】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の顔料は層間化合物について、特有の現象を見出すことでなされたものである。すなわち、顔料は、層状無機化合物の層間において、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有する有機化合物を加熱処理することにより、有機化合物の色が変化する現象を利用したものである。このように層間化合物を利用した顔料は、例えば光輝性等の層状無機化合物の特性を発揮させた顔料としての利用価値は高い。また、上述した現象を利用することにより、三原色(青緑、赤紫及び黄)以外の色の顔料を得ることができる。例えば、三原色以外の顔料として茶系、黒系、橙系等の色合いに着色した顔料を得ることができる。
【0033】
(2)本実施形態の顔料では、加熱処理物は層状無機化合物の層間に介在されているため、その加熱処理物は層状無機化合物の層間から離脱し難い。従って、得られた顔料の洗浄は、極めて高い清浄性が要求されない限り、省略することができる。また、こうした現象を利用して得られる顔料は、従来のように金属化合物の焼成を伴わないため、そうした金属化合物が融着した粗粒の形成を回避することができる。よって、解膠、粉砕、分級等の操作を簡略化したり、省略したりすることも可能である。従って、製造工程を簡略化することが容易であるため、生産効率を高めることができる。また、製造工程の簡略化に伴って、廃水等の廃棄物ついて、その発生量を削減することもできる。
【0034】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・前記層間化合物は、イオン交換を伴わない乾式の挿入方法を用いて、層状無機化合物の層間に有機化合物を挿入している。こうした乾式の挿入方法を湿式の挿入方法に変更してもよい。湿式の挿入方法は、イオン性の有機化合物と層状無機化合物の層間に存在する交換性のイオンとをイオン交換することで、層間化合物を得る方法である。乾式の挿入方法と湿式の挿入方法とを比較した場合、溶媒又は分散媒の除去が不要であり、非イオン性の有機化合物も挿入可能であるという観点から、乾式の挿入方法を用いることが好適である。
【0035】
・前記挿入工程又は前記加熱工程を加圧下で実施してもよい。
・前記挿入工程を強制的に冷却して実施してもよい。この場合、沸騰温度の低い有機化合物を層状無機化合物の層間に効率的に挿入することができる。
【0036】
・前記挿入工程後において層間化合物を洗浄する洗浄工程を実施した後、前記加熱工程を実施してもよい。
【実施例】
【0037】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
層状無機化合物として合成マイカ[Na型テトラシリシックフッ素雲母:ソマシフ(商品名)ME−100、コープケミカル(株)製]10gに対して、無水コハク酸1gを配合し、ボールミルを用いて室温(25℃)で45分間混合することにより合成マイカの層間に無水コハク酸を挿入した。なお、ボールミルの条件は以下のとおりである。
【0038】
ボールミルポットの容量:500mL
ボールの種類:直径19mmの鉄製ボール25個、直径9.5mmの鉄製ボール25個
線速度:55m/min
次に、得られた層間化合物を加熱炉内に配置して大気圧、空気下、600℃、10分間の条件で加熱処理することにより、顔料を調製した。得られた顔料を加熱炉内に所定時間放置した後、加熱炉から取り出して、室温(25℃)まで自然冷却した。
【0039】
(実施例2〜4)
表1に示すように、原料、加熱条件等を変更した以外は、実施例1と同様にして顔料を調製した。
【0040】
(比較例1)
合成マイカ[Na型テトラシリシックフッ素雲母:ソマシフ(商品名)ME−100、コープケミカル(株)製]10gを原料として、層間挿入を省略した以外は、実施例1と同様にして加熱処理を行い、試料を調製した。
【0041】
(比較例2)
層状無機化合物として合成マイカ[Na型テトラシリシックフッ素雲母:ソマシフ(商品名)ME−100、コープケミカル(株)製]10gに対して、テトラヒドロフラン(THF)1mLを配合し、ボールミルを用いて室温(25℃)で45分間混合することにより合成マイカの層間にTHFを挿入した。なお、ボールミルの条件は実施例1と同様である。次に、実施例1と同様にして加熱処理を行い、試料を調製した。
【0042】
(比較例3)
比較例3は、比較例2において使用したTHFをメタノールに変更した以外は、比較例2と同様にして試料を調製した。
【0043】
【表1】

各例の着色結果を表1に示している。表1の結果から明らかなように、実施例1〜4では、加熱処理に基づいて着色した顔料が得られた。なお、実施例1及び2において用いた無水コハク酸は二重結合を含む分子構造を有している。また、実施例3において用いたピペラジン及び実施例4において用いたモルホリンは非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造を有している。
【0044】
これに対して、比較例1〜3では、原料として用いた合成マイカの色である白色を呈しており、着色されていないことがわかる。なお、比較例2で用いたTHF、及び比較例3で用いたメタノールは、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造のいずれも有していない。
【0045】
また、実施例1〜4の顔料では、粒子が融着して粗粒が形成されることなく、粉末状をなしていた。こうした結果から、実施例1〜4の層間化合物において合成マイカの表面に付着していた有機化合物は、加熱処理により気化したため、顔料粒子の融着を防止することができたと推測される。このように、原料として用いた合成マイカの粒子形状は、得られた顔料においても保持されることがわかった。さらに、実施例1〜4の顔料をそれぞれポリアミドに配合して混練機を用いてポリアミドと混練した結果、ポリアミドは、表1の着色結果に示した色合いに着色されることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状無機化合物の層間に、有機化合物の加熱処理物が介在されてなり、前記有機化合物は、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有し、前記有機化合物の加熱処理物に基づいて着色されてなることを特徴とする顔料。
【請求項2】
非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有する有機化合物が層状無機化合物の層間に挿入された層間化合物を昇温することで、前記層状無機化合物の層間において前記有機化合物を加熱処理することにより、前記有機化合物の色を変化させて得られることを特徴とする顔料。
【請求項3】
前記有機化合物は、沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度が40℃以上の有機化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の顔料。
【請求項4】
層状無機化合物の層間に、非共有電子対を有する窒素原子を含む分子構造及び不飽和結合を含む分子構造の少なくとも一方の分子構造を有する有機化合物を挿入して層間化合物を得る挿入工程と、
前記有機化合物を前記層状無機化合物の層間において加熱処理する加熱工程とを含み、
該加熱工程では、前記有機化合物の沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度を超える温度になるまで前記層間化合物を昇温することで、前記有機化合物の色を変化させることを特徴とする顔料の製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物は、沸騰温度、昇華温度及び熱分解温度のいずれかの温度が40℃以上の有機化合物であることを特徴とする請求項4に記載の顔料の製造方法。