説明

顕微鏡観察標本用容器

【課題】コンパクトなサイズで多数の検体を収容でき、容易に密封でき、しかも清掃も容易な顕微鏡観察標本用容器を提供する。
【解決手段】円形状の開口部5と矩形状の収納部2を有する容器本体と、該開口部5に螺着する蓋体6からなる顕微鏡観察標本を収納する樹脂製の容器であって、長辺内側面に支持凸部3が列設され、該支持凸部3の下端と収納部底面2dの間に清掃用間隙8が設けられ、収納部2の長辺外面に転倒防止部材4が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は病理組織や生物学的液体(血液や尿など)等の検体がスライドガラス上に固定されてなる顕微鏡観察用標本を収容するための顕微鏡観察標本用容器に関し、特にコンパクトなサイズで多くの標本を収容することができ、容易に密閉することができ、かつ内部の清掃が容易な顕微鏡観察標本用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、病理組織の切片が固定され、又は生物学的液体が塗布されたスライドガラスからなる標本は、アルコールやホルマリンの中に浸して保存又は運搬されていた。そのための容器としては、例えば特許文献1に記載されたような水密性容器がある。これは標本を充分に保護でき、さらに蓋を容器に螺合させるようになっているため容易に密封できる点で好ましい容器である。しかし、複数の標本をこの容器に入れるとお互いに衝突して破損するおそれがあるという欠点がある。
【特許文献1】特開2001−2109号公報
【0003】
この点を改良して、現在では図17に示すような、外形が円筒状で断面略正方形の穴が穿設された容器の内側にいくつかの支持凸部を設けた容器が用いられている。これは支持凸部の間に標本を挿入することにより、標本同士が衝突することもなく、保管したり、容易に持ち運ぶことができる容器である。しかしながら、少数の標本しか収納できないという問題があり(図17の従来例では4枚)、主として、少数の標本を携帯する目的で使用されているにすぎない。
【0004】
ところで、最近ではもっとたくさんの標本を収容でき、容易に持ち運ぶことができる顕微鏡観察標本用容器が望まれてきている。しかし、現在使用されている図17の顕微鏡観察標本用容器をそのまま大型化すると、収納部の側部(図18の破線矢印参照)が非常に厚くなってしまい、収納量の割には容器のサイズが過大に大きくなり、持ち運びや保存が却って困難になってしまう。また、材料面での無駄も無視できない。
【0005】
そこで、このような問題を解決せんとして、図19に示したようなものがある。これはガラス製で、断面が矩形になっており一列に標本を並べるようになっている。この場合には、上記したサイズが過大となる問題は解消されるものの、矩形であるため円形の場合のように蓋を螺着して容易に密封するということが不可能である。従って、この容器ではこれを密封するときに、蓋と容器とを引っ掛けるタイプの止め具を使用する必要があり、構造が複雑になるばかりでなく、作業が煩雑である。また、矩形であるため長辺方向に沿った力に対しては安定であるものの、短辺方向に沿った力に対しては不安定で転倒し易く、開蓋状態で転倒した場合には貴重な標本が台無しになる虞れがある。また、ガラス製であるため、割れたり、欠けたりして、標本を台無しにしたり、また重くて持ち運びに不便であるという欠点もある。
【0006】
他方、容器の内部は標本から剥離した病理組織、生物学的液体又はこれらを固定染色するための薬剤等により汚染され、この汚れは容器底面付近に沈着する。このため定期的に容器内を清掃する必要があるが、標本を収容するための支持凸部が邪魔となり掃除し難いという欠点がある。即ち、支持凸部の狭い隙間は極細の布片、ブラシなどの掃除具を挿入し、該支持凸部に沿って上下に動かすことによって掃除することに制限され、例えば布片やブラシを指先で汚染物質の付着した壁面や隅部に擦り付け剥し取ることは不可能である。このため、掃除に時間と手間が掛り、特に底面との隅部については、時間と手間をかけても汚染物質を完全に除去することは困難である。
汚染物質を完全に除去しないまま該容器が再利用されると、残存する汚染物質が検査の精度に悪影響を及ぼし、これにより検査の信頼性が損なわれるという深刻な事態を惹き起こす虞れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑み、上記従来の問題を解消し、標本の収納量が大きくかつコンパクトであり、また転倒し難く、密封が容易であり、容器内部の清掃も容易に行う事ができ、検査の信頼性を高める顕微鏡観察標本用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に係る本発明は、円形状の開口部と矩形状の収納部を有する容器本体と、該開口部に螺着する蓋体からなる顕微鏡観察標本を収納する樹脂製の容器であって、長辺内側面に支持凸部が列設され、該支持凸部の下端と収納部底面の間に該支持凸部が設けられていない清掃用間隙が設けられ、収納部の長辺外面に転倒防止部材が設けられていることを特徴とする顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、隣接する支持凸部の間隔に、下部が狭く上部が広いテーパが付けられていることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、支持凸部の上端が収納部の上端付近に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、支持凸部の上端が収納部の底面から1 /2〜2/3の高さに配置されているることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、支持凸部の上端及び下端、及び収納部の上端が面取り又はアール処理されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、収納部の内側面と底面の境界がアール処理されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、開口部外側下方に把持突縁部が周設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、転倒防止部材が長辺側外面の両端部付近に突設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、樹脂が透明材料であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器を内容とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の顕微鏡観察標本用容器は、開口部には蓋体を螺着できシール性(密封)の容易な円形状を採用するとともに、標本の収納部にはコンパクトなサイズ、形状で効率的に標本を収納できる矩形状を採用したことを特徴とするものである。更に、上記ユニークな形状から来る安定性に対する問題を転倒防止材により解消したことを特徴とするものである。更に、清掃を容易にするという観点から、支持凸部の下に清掃用間隙を設けたことを特徴とするものである。
【0018】
即ち、開口部が円形状で、かつで開口部に蓋体が螺着するようになっているため、容器密閉のための作業が容易であるという利点がある。また収納部が矩形状で、かつ支持凸部が列設されているため、コンパクトなサイズ、形状で多数の標本を安全に収容することができ、しかもサイズが過大とならないという利点がある。
また、支持凸部の下部の清掃用間隙には清掃の邪魔になる凹凸がないため、布片など通常の掃除具を指先で擦り付けながら横方向に往復移動させることにより容易に清掃することができ、これにより汚染物質を容易且つ確実に除去する事ができる。その結果、検査は汚染物質の影響を受ける虞れがなく、高精度で信頼性の高い検査を行うことができる。
さらに、転倒防止部材が設けられているため、不用意に転倒することがなく、安全に標本の収容又は取り出し作業ができ、さらにまた、樹脂製であるから軽量であり持ち運びがしやすいという利点がある。
【0019】
請求項2に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、隣接する支持凸部の間隔に下部が狭く上部が広いテーパが付けられているため、入り口が広くなって標本の収納又は取り出し作業がしやすくなるという利点がある。更に、下部が狭くなっているので顕微鏡観察標本用容器を持ち運ぶ際にこれが揺動したとしても、内部にある標本のがたつきが抑えられ、標本を安定に保管することができ、検体が破損する危険性が減少する。
【0020】
請求項3に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、支持凸部の上端が収納部の上端付近に配置されているので、支持凸部は標本の大部分を支持することになり、標本を極めて安定的に収納できるという利点がある。
【0021】
請求項4に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、支持凸部の上端が収納部の底面から1 /2〜2/3の高さに配置されているため、標本の収納や取り出しの際に手を高く掲げる必要がなくなり、標本を収納又は取り出しやすいという利点がある。特に取り出しの際には標本が支持凸部の間隙から大きくはみ出しているため、この部分をつかみ易く、より取り出しやすくなる。
【0022】
請求項5に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、支持凸部の上端及び下端、及び収納部の上端が面取り又はアール処理されているため、この部分に標本上の検体が衝突したとしても衝撃は分散されるため損傷しにくくなり、また、標本の収納又は取り出しを安全に行う事ができるという利点がある。更に、掃除する際に、手指を傷つける虞れがない。
【0023】
請求項6に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、収納部の内側面と底面の境界がアール処理されているため、汚染物質が容器の隅に入り込むようなことがなく、布片など通常の掃除具により容易に汚れを落とすことができ、その結果、検査結果が汚染物質により影響を受けるようなことがなく、より信頼性の高い検査を行うことができる利点がある。
【0024】
請求項7に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、開口部外側下方に把持突縁部が周設されているため、該突縁部に指を掛けることができ、持ち運んだり、蓋体を開閉したりする際の取り扱い性が高められるという利点がある。
【0025】
請求項8に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、転倒防止部材が長辺側外面の両端部付近に突設されているため、安定性が増し、顕微鏡観察標本用容器がより倒れにくいという利点がある。
【0026】
請求項9に係る発明の顕微鏡観察標本用容器は、樹脂が透明材料であるため、標本の有無が外観から判断でき、作業性が向上するという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の顕微鏡観察標本用容器を図面に基づいて説明する。
なお、図1は実施例1の一部切除正面図、図2はその一部切除平面図、図3はその一部切除側面図、図4はその底面図である。
図5は実施例2の一部切除正面図、図6はその一部切除平面図、図7はその一部切除側面図、図8はその底面図である。
図9は実施例3の一部切除正面図、図10はその一部切除平面図、図11はその一部切除側面図、図12はその底面図である。
図13は実施例4の側面図、図15は実施例5の底面図である。
また、図中、1は本発明の顕微鏡観察標本用容器を、2は収納部を、2aは短辺側を、2bは長辺側を、2cは内側面を、2dは底面を、3は支持凸部を、4は転倒防止部材を、5は開口部を、5aは把持突縁部を、6は蓋体を、6aはシール材を、7は凹部を、8は清掃用間隙を、Sは標本をそれぞれ表す。
【0028】
本発明の顕微鏡観察標本用容器1は容器本体と蓋体6からなる。容器本体は収納部2と開口部5を有する。検体を固定した標本Sはアルコールやホルマリンなどの保存用の薬液で満たされた収納部2内に挿入されて、保存、運搬される。
【0029】
収納部2は断面形状が矩形状の箱型である。ここで矩形状とは厳密な意味での矩形である必要はなく、角はアール処理などされていてもよいし、短辺側2a又は長辺側2bは装飾等のためある程度の曲面とされていてもよい。つまり、標本Sの表面及び裏面を短辺側2aに向けて、長辺の方向に並べて保存できる形状であればここで言う矩形状に当てはまる。
【0030】
長辺側2bの両内壁には支持凸部3が列設されている。標本Sはその側部を支持凸部3の間に入れて収納される。これにより標本Sは立った状態で保存され、かつ支持凸部3を挟んで収納された標本Sがお互いに衝突することがなく、検体が損傷することがない。
【0031】
短辺側2aには収納部2の内壁と検体との衝突を防ぐための構造が設けられていてもよい。例えば標本Sの中央(通常、ここに検体が固定される)と内壁が衝突しないよう、凹部を設けることもできる。具体例として図2には支持凸部3を短辺側2a内壁と連続して設けることにより短辺側2a内壁に凹部7を設けた例を示す。これにより標本Sの表面を壁側に向けたとしても検体が壁面との衝突により損傷することがない。なお、壁面の凹部は任意の構成であり、凹部が設けられていない顕微鏡観察標本用容器1であっても本発明の技術的範囲に含まれることは云うまでもない。この場合、標本Sはその裏面(検体が存在しない側)を壁側に向けて保存するほうが好ましい。
【0032】
支持凸部3の下端と収納部の底面2dの間には支持凸部が設けられていない平面状の清掃用間隙8が設けられる。この清掃用間隙8には掃除の邪魔になるような凹凸がないため、収納部の底面2dに沈着した汚染物質を除去する際には、例えば、指先に布片等を巻き付けてこの清掃用間隙8及び底面2dを擦り付け横方向に往復運動させることにより、汚染物質を容易に剥離除去することができるので、清掃作業が容易になるとともに、清掃効率が向上する。
清掃用間隙8の大きさ、即ち支持凸部3の下端と収容部底面2dとの間の距離は特に限定されないが、清掃の際には収容部2の内部を指でこする事もある点を考慮し、指が楽に入る程度の大きさ、具体的には8〜15mm程度が好ましい。8mm未満だと指が入り難くなる場合があり、また、15mmを超えても清掃効率は上昇しない上に標本Sを支える部分が減少するため標本Sが若干不安定になる。
【0033】
隣接する支持凸部3の間隔に下部が狭く上部が広いテーパを付ける、即ち支持凸部3の幅に上側で狭く下側で広いテーパを付けることができる。標本Sは支持凸部3の間に上方から挿入するため、かかるテーパを付けると入り口が広くなり、標本Sの収納や取り出しがしやすくなる。また下部が狭いためこの部分で標本Sのがたつきを抑えることができ、これにより標本Sを安定に保管することができ、検体が破損する危険性が減少する。
【0034】
支持凸部3の上端は、通常、収納部2の上端付近に配置され、これにより標本が安定的に収納される。標本Sの挿入しやすさの点からは、収納部2の上端よりも5〜10mm低い位置に配するのが好ましい。また支持凸部3の上端を収納部2の底面から1 /2〜2/3の高さに配置することもできる。このようにすることにより、標本Sの収納時に、標本Sを持つ手を高く掲げる必要がなくなるとともに、標本Sを収納又は取り出す際に、標本Sを傾けられる角度が大きくなるので作業が容易となる。特に取り出しの際には標本が支持凸部3の間隙から大きくはみ出しているため、この部分をつかみ易く、より取り出しやすくなっている。
ここで支持凸部3の上端が2/3を超えた位置に配置された場合は、収納部2の上端付近に配置した場合と比較し大差がない。また、1/2未満の位置に配置されるとその上端は標本Sの重心よりも低くなってしまうため、標本Sを充分支えきれず不安定となるおそれがあるため好ましくない。
【0035】
支持凸部3の上端及び下端、及び収納部2の上端は、アール処理または面取りがされていることが好ましい。これは、第1には、標本Sを安全に出し入れできるようにするためである。即ち、標本Sを収納または取り出す際に、これが支持凸部の上端、下端、収納部の上端などと衝突した場合でも、形成されたアールにより衝撃が分散されるため、検体が損傷することが防止される。
第2には支持凸部3や掃除用間隙8を掃除する際に、手指を傷つけることが防止される。
【0036】
支持凸部3の高さ(突出高さ)は、支持凸部と支持凸部との間に標本を安定的に保持できる程度であればよく、通常、2〜5mm程度である。
支持凸部3の間隔は特に限定されないが、標本Sが1枚、又は2枚入る程度が望ましい。標本Sの表面にある検体が隣の標本Sと衝突しないようにできるからである。なお、ひとつの間隙に2枚の標本Sを入れる場合はお互いを裏面(検体が存在しない面)で合わせるようにすればよい。また、3枚以上(図10参照)入る程度の間隔としてもよい。
【0037】
尚、支持凸部3を断面が正弦波状に設け、標本が常に該正弦波状凹部の中央に位置するように設けると、標本が狭広の差異なく略等間隔に整列することになるので指で摘んで取り出し易く、また、外観も良好となるので好ましい。
【0038】
収納部の内側面2cと底面2dの境界をアール処理することもできる。通常の場合、隅の部分に付着した汚れは落としにくく、先の細いブラシや布片などで何度もこすってやっときれいにすることができるが、この部分をアール処理することにより隅になる部分をなくした場合、単に布片など通常の掃除具で拭くことにより汚染物質を除去することができ、清掃が容易になる。これにより洗い残しの汚染物質がアルコールやホルマリンなどに溶け出して検体に付着し、検査結果を乱すような事態を防止できるので、より信頼性の高い検査を行うことができる。
【0039】
本発明の顕微鏡観察標本容器には転倒防止部材4が設けられる。本発明の顕微鏡観察標本用容器1における収納部2は断面が矩形状の箱型であり、収納部2の上部に断面が円形状の筒型である開口部5が設けられている。このため重心が高く、短辺側2aからは非常に安定で倒れにくいが、長辺側2bからは倒れやすい。これを防ぐため、長辺側2bの両外面には転倒防止部材4が設けられている。これにより、顕微鏡観察標本用容器1の転倒が防がれる。
【0040】
転倒防止部材4の形状は顕微鏡観察標本用容器1の転倒を防止できる形状であれば特に限定されないが、例えば長辺側2bの両端部から外面と直交する方向に突設された板状部材が例示できる。この場合、転倒防止部材4の間隔が最も広くなって安定性が増し、顕微鏡観察標本用容器がより倒れにくいため好ましい。
【0041】
また、この転倒防止部材4を収納部2の半分ほどの高さである2枚の板状部材とすることもできる。この場合、必要に応じ、この転倒防止部材4を標本Sの仮置用の台としても使用できる。
さらに、長辺側2bの下辺中央部から突出される棒状部材、外面に直交する方向に突設された三角形の板状部材、棒状部材の先端から横設された円弧状部材とすることもできる。
【0042】
転倒部材4の突設長さは大きい程転倒防止効果は大きくなるが、外観上及び取り扱い性の面では好ましくないので、円形状の開口部の範囲内、又は把持突縁部を設ける場合は把持突縁部の範囲内とするのが好ましい。
【0043】
開口部5は断面形状が円形状の筒状部材であり、その外周にはねじ山が螺刻されている。即ち、顕微鏡観察標本用容器1を密閉するには単に蓋体6を開口部5に螺着させるだけでよく、極めて容易である。
【0044】
開口部5の外側下方には把持突縁部5aを周設するのが好ましい。この把持突縁部5aに指を掛けることができるので作業性が高められる。また、把持突縁部5aを片手で持って蓋体6を螺着したり螺離することもできる。
【0045】
把持突縁部5aの形状は特に限定されないが、リング状の平板をつけるのが好ましい。顕微鏡観察標本用容器1がどのような置き方をされていても好適に把持突縁部5aに指を掛けることができるからである。
【0046】
蓋体6の裏面にはシール材6aが設けられる。シール材6aの形状は開口部5と蓋体6の間を密閉できる限り特に限定されず、Oリング型、平板リング型、円盤型などさまざまな形状が採用できる。
その材質も特に限定されず、軟質塩化ビニル、軟質ポリエチレン等の軟質プラスチック、シリコーンゴム、天然ゴム等のエラストマーなどが例示できる。
【0047】
本発明の顕微鏡観察標本用容器は造形性や軽量化を考慮して樹脂製である。使用できる樹脂としては特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチロール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられる。
また、透明な樹脂を使用するとより好ましい。標本Sの有無や検体の種類を外観から判断することができ、作業性が向上するからである。透明材料としては、特に限定されないがポリプロピレン、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂等が例示できる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
【0049】
実施例1
図1乃至図4に本発明の顕微鏡観察標本用容器1の実施例1を示す。実施例1は矩形状の収納部2と円形状の開口部5を有しており、開口部5に蓋体6が螺着している。開口部5の下方には平板リング状の把持突縁部5aが設けられているため、この把持突縁部5aに指を掛けて持ち運びでき、また、これを押さえながら蓋体6を回すことにより、強く締め付けることができ密封しやすく、また、蓋体6を取り外しやすい。
収納部2の長辺側2bの両端部から転倒防止部材4が突設されているため(図4参照)、顕微鏡観察標本用容器1はより倒れにくくなっている。なお転倒防止部材4は開口部5の下面にまで延設されているため、顕微鏡観察標本用容器1の強度増強にも役立っている。
【0050】
図2に示すように収納部2の長辺側2b内壁には片面あたり11個の支持凸部3が列設されている。支持凸部3の間隔は標本Sが1枚入る程度なので、合計10枚の標本Sを収納できる。また支持凸部3の上端及び下端はアール処理されているため、ここに標本Sがぶつかったとしても衝撃は少なく、検体を損傷する危険が減少する。なお、収納部2の上端、即ち開口部5との境目にもアール処理がされており、衝突による検体損傷の危険性はさらに低くなっている。更に掃除の際に手指を傷つけることが防止される。
【0051】
支持凸部3の間隙には、図3に示す通り、下部が狭く上部が広いテーパが付けられている。つまり入り口が広くなっているため標本Sを支持凸部3の間に入れやすく、また取り出しやすい。また支持凸部3の間隙に入る標本Sは1枚であるので標本S同士が衝突することがなく、最も安全に保存、運搬をすることができる。
なお、実施例1では支持凸部3の上端は収納部の上端付近(収納部2の上端より7〜8mm下方)に設けられており、標本Sの挿入又は取り出しが容易である。
【0052】
支持凸部3の下端と底面2dの間には15mm程度の清掃用間隙8が設けられている。この間隙には清掃の邪魔になるような凹凸がないため、収納部2の内部に沈殿、付着した汚染物質を除去する場合、例えば、布片を指先に巻き付け、清掃用間隙8内を内側面2cに沿って擦り付けることにより容易に拭き取ることができる。また、内側面2cと底面2dの間はアール処理されているため、汚染物質が隅の部分に入り込むようなことがなく、清掃がより容易になる。
【0053】
なお、材質は不透明な材質、透明な材質のいずれでもよいが、透明材料を用いると標本Sの有無や検体の種類を視認でき、作業性が向上する。
【0054】
実施例2
図5乃至図8に本発明の顕微鏡観察標本用容器1の実施例2を示す。実施例2は収納部2の長辺側2bのやや内側から転倒防止部材4が突設されている(図8参照)。本実施例では転倒防止部材4の高さは収納部2の半分ほどとなっており、必要に応じ、その上に標本Sを仮置きできるようになっているため作業性が向上する。なお、この実施例にも平板リング状の把持突縁部5aが設けられ、取り扱い性、蓋体6の螺着又は螺離が容易となっている。
【0055】
図6に示すように収納部2の長辺側2b内壁には片面あたり7個の支持凸部3が列設されている。本実施例では支持凸部3の間隔は標本Sが2枚入る程度に設計されているので、合計16枚の標本Sを収納できる。この場合、標本Sの裏面同士を合わせて収納することにより検体が隣り合う標本Sと衝突することを防止でき、安全かつより多数の標本Sを保存、運搬することができる。また支持凸部3の上端及び下端はアール処理されているため、ここに標本Sがぶつかったとしても衝撃が分散されて小さくなり、検体を損傷する危険が減少する。更に掃除の際に手指を傷つけることが防止される。
【0056】
支持凸部3の間隙には、図7に示す通り、下部が狭く上部が広いテーパが付けられている。つまり入り口が広くなっているため標本Sを支持凸部3の間に入れやすく、また取り出しやすい。また、下部が狭くなっているため、標本Sのがたつきはこの部分により抑えられ検体Sが損傷する危険性は減少する。
【0057】
なお、実施例2では支持凸部3の上端は収納部2の底面から約2/3の高さに配置されている。この程度の高さとすることにより、標本Sを支持凸部3の間に挿入したり取り出す際に手を高く上げる必要がなく、また、標本Sの傾斜角度の自由度が大きくなるので標本Sの収納又は取り出しが容易である。
【0058】
支持凸部3の下端と底面2dの間には8mm程度の清掃用間隙8が設けられ、内側面2cと底面2dの間はアール処理されている。これにより収納部2内部の清掃が容易になる点は実施例1と同様である。
【0059】
実施例3
図9乃至図12に本発明の顕微鏡観察標本用容器1の実施例3を示す。実施例3は収納部2の長辺側2bの下部中央から棒状の転倒防止部材4が突設されているため(図12参照)、実施例1、実施例2と比較するとやや安定性に欠けるが、通常の使用をする分には十分な安定性を有する。また、転倒防止部材4自体の体積は最も小さいため、安価かつ軽量の顕微鏡観察標本用容器1を得ることができる。
【0060】
図10に示すように収納部2の長辺側2b内壁には片面あたり5個の支持凸部3が列設されている。本実施例では支持凸部3の間隔は標本Sが3枚入る程度に設計されており、合計18枚の標本Sを収納できる。また支持凸部3の上端及び下端はアール処理されているため、ここに標本Sがぶつかったとしても衝撃は少なく、検体を損傷する危険が減少する。なお、収納部2の上端、即ち開口部5との境目にもアール処理がされており、衝突による検体損傷の危険性はさらに低くなっている。更に掃除の際に手指を傷つけることが防止される。
【0061】
支持凸部3の間隙には、図11に示す通り、下部が狭く上部が広いテーパが付けられている。つまり入り口が広くなっているため標本Sを支持凸部3の間に挿入しやすく、また取り出しやすい。また支持凸部3の間隙に入る標本Sは3枚であるので、多数の標本Sを保存、運搬することができる。
【0062】
なお、実施例3では支持凸部3の上端は収納部2の上端付近(収納部2の上端と略同じ)に配置されている。このようにすると標本Sは最も安定し、検査時にあっては倒れ難く、運搬時でも標本Sはがたつき難くなり、検体が破損する虞れが減少する。
【0063】
支持凸部3の下端と底面2dの間には10mm程度の清掃用間隙8が設けられ、内側面2cと底面2dの間はアール処理されている。これにより収納部2内部の清掃が容易になる点は実施例1及び実施例2と同様である。
【0064】
実施例4
図13に本発明の顕微鏡観察標本用容器1の実施例4を示す。実施例4は収納部2の長辺側2bから突設された転倒防止部材4を略3角形の板状部材とした例である。これは実施例2と同等の安定性、強度を保ちつつ軽量化を図った例である。なお、この例では把持突縁部5aが設けられていないが、収納部2などを押さえることにより蓋体6を締め込み、又は取り出すことができる。支持凸部3及び清掃用間隙8については実施例1と同様である。
【0065】
実施例5
図14、図15に本発明の顕微鏡観察標本用容器1の実施例5を示す。実施例5は収容部2の短辺側が円形状の開口部5の一部を利用した弧状からなり、また、転倒防止部材4は、収納部2の長辺側2bから突設された棒状部材の先端から環状部材を横設したもので、それ以外は実施例3と同様である。この環状部材により、安定性が一層高められる。
【0066】
実施例6
図16に支持凸部3の他の例を示す。即ち、本実施例の支持凸部3はその断面が正弦波状に設けられ、隣接する支持凸部3の間に形成される間隙である正弦波状凹部の略中央に標本Sが位置するように形成されている。かくして、標本Sは狭広の差異なく略等間隔で整列するため、標本Sを指で摘んで取り出し易いばかりでなく、見た目にも綺麗である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
叙上のとおり、本発明の顕微鏡観察標本用容器は、コンパクトなサイズ、形状であるにも拘らず、多数の標本を収納でき、密封が容易である。しかも清掃が容易であるので、汚染物質による検査精度への悪影響が避けられ、信頼性の高い検査を行うことができ、特に、病院など、大量の検体を検査する場合に、頗る有用性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1の一部切除正面図である。
【図2】実施例1の一部切除平面図である。
【図3】実施例1の一部切除側面図である。
【図4】実施例1の底面図である。
【図5】実施例2の一部切除正面図である。
【図6】実施例2の一部切除平面図である。
【図7】実施例2の一部切除側面図である。
【図8】実施例2の底面図である。
【図9】実施例3の一部切除正面図である。
【図10】実施例3の一部切除平面図である。
【図11】実施例3の一部切除側面図である。
【図12】実施例3の底面図である。
【図13】実施例4の側面図である。
【図14】実施例5の一部切除平面図である。
【図15】実施例5の底面図である。
【図16】実施例6の支持凸部の他の例を示す要部断面図である。
【図17】従来の顕微鏡観察標本用容器の説明図である。
【図18】従来の顕微鏡観察標本用容器の欠点を表す説明図である。
【図19】従来の顕微鏡観察標本用容器の説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 顕微鏡観察標本用容器
2 収納部
2a 短辺側
2b 長辺側
2c 内側面
2d 底面
3 支持凸部
4 転倒防止部材
5 開口部
5a 把持突縁部
6 蓋体
6a シール材
7 凹部
8 清掃用間隙
S 標本
A 従来の顕微鏡観察標本用容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形状の開口部と矩形状の収納部を有する容器本体と、該開口部に螺着する蓋体からなる顕微鏡観察標本を収納する樹脂製の容器であって、長辺内側面に支持凸部が列設され、該支持凸部の下端と収納部底面の間に該支持凸部が設けられていない清掃用間隙が設けられ、収納部の長辺外面に転倒防止部材が設けられていることを特徴とする顕微鏡観察標本用容器。
【請求項2】
隣接する支持凸部の間隔に、下部が狭く上部が広いテーパが付けられていることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察標本用容器。
【請求項3】
支持凸部の上端が収納部の上端付近に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の顕微鏡観察標本用容器。
【請求項4】
支持凸部の上端が収納部の底面から1 /2〜2/3の高さに配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の顕微鏡観察標本用容器。
【請求項5】
支持凸部の上端及び下端、及び収納部の上端が面取り又はアール処理されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器。
【請求項6】
収納部の内側面と底面の境界がアール処理されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器。
【請求項7】
開口部外側下方に把持突縁部が周設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器。
【請求項8】
転倒防止部材が長辺側外面の両端部付近に突設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器。
【請求項9】
樹脂が透明材料であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の顕微鏡観察標本用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−122146(P2008−122146A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304160(P2006−304160)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(591242450)村角工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】