説明

風による粒子状物質および液体の攪乱を低減するためのマット

風による粒子状物質の攪乱を低減させるためのマットは、きめの粗い網状材料の第1の層、およびきめの粗い網状材料の第2の層を有する。第1の層は、第2の層に対して実質的に固定された位置に保持される。このマットは、それを使用しない場合に、塵、砂、雪、水、あるいはその他の粒子または液体が攪乱を生じ、視界の低下、ヘリコプタの部品に対する損傷または磨耗、および近くの人または設備に対する傷害または損傷をもたらしかねない状態のもとで、ヘリコプタ用着陸マットとして使用するのに特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風による粒子状物質の攪乱を低減するためのマットに関する。このマットはまた、風による水等の液体および小さな固形物の攪乱を低減するために使用することができる。本発明は、特に、塵、砂、雪、またはその他の粒子状物質、あるいは水、泥、またはその他の液状物質が相当量ある区域で使用するのに適したヘリコプタ用着陸マットに関するが、それに限定されるものではない。本発明を、特にヘリコプタ用着陸マットの例示的な事例に関して説明するが、本発明が、むきだしの砂丘、海岸、雪、乾燥土等の風の強い環境における塵およびその他の粒子の抑制にも適用可能であることが理解できよう。
【背景技術】
【0002】
塵およびその他の粒子状物質は、回転翼航空機の操縦者に対して重大な危険をもたらしうる。本明細書では、「その他の粒子状物質」は、砂、雪、水の小滴、石、礫、草、小枝、土、屑、およびその他の小さなばらのものを含む。離陸および着陸の間、ならびに、地面近くで空中停止飛行中に、塵またはその他の粒子の雲がヘリコプタの周囲に発生することがある。これにより、視界の低下、塵または砂の場合は「ブラウンアウト」、あるいは雪の場合は「ホワイトアウト」が生じうる。粒子は、航空機のエンジンの空気取入れ口を詰まらせ、その結果過熱を引き起こすおそれがあり、また、エンジンから吸い込まれた微粒子が、損傷および機械的故障を引き起こしうる。粒子は、回転翼および回転翼の歯車の消耗を加速する原因となりうる。空気中を浮遊するよりきめの粗い粒子は、航空機の近くにいる人に目の傷害およびその他のタイプの傷害を引き起こすおそれがあり、また、その区域にある他の航空機、車両、設備および施設が損傷する可能性がある。
【0003】
ヘリコプタ用着陸パッドは、通常、コンクリート、アスファルト、瀝青、またはその他の固体地表面から作られている。しかし、固体着陸パッドのない場所で着陸する必要がある場合、塵およびその他の粒子による問題がしばしば生じる。1つの解決策として、運搬可能な着陸パッドを作製することがあり、そのような運搬可能な着陸パッドは、通常、ヘリコプタの下降気流によって吹き飛ばされる可能性のない、鋼または他の丈夫で比較的固く重い材料で作られる。しかし、そのような着陸パッドは、持ち運びが面倒であり、迅速な配備には不適切である。
【0004】
塵または砂のある地表面で一時的なヘリコプタ用着陸パッドを作る1つの方法は、地表面に水を撒くものである。この技法に効果があるかどうかは、水が十分利用可能であるかどうかにかかっており、水が乾いてしまうと着陸地表面は利用可能ではなくなってしまうが、それは、環境によってはほんの数分の問題であるかもしれない。より長期間の着陸パッドは、サンプオイル、ディーゼル燃料、またはその他の不揮発性の液体を使用して作ることができるが、その有効性は依然として一時的であり、オイルまたはディーゼル燃料の供給が得られる必要があり、環境の損傷が著しい。より環境に優しい解決策が、エンバイロタックII、または「ルヒノスノット」として知られている製品によって提供されるが、これもなお、必要なときに供給が得られることが必要である。
【0005】
着陸パッドは、通常、帆布またはポリ塩化ビニルのタール塗り防水帆布などの布製の材料からは作られない。それは、布が風で浮き上がってヘリコプタの回転翼に引っかかることに伴う危険があるからである。仮に、タール塗り防水帆布が全ての側面でしっかりと固定されていたとしても、特に露出した岩が地面にある場合、激しい着陸の際に、ヘリコプタのスキッドまたは車輪が、帆布を破いてしまう可能性が依然としてある。そして、ヘリコプタの下降気流が帆布の破れた部分に当たると、空気が帆布の下を流れて帆布を持ち上げ、固定箇所に追加の緊張をもたらすとともに、破れを大きくしてしまい、帆布の破れた部分がヘリコプタの回転翼に引っかかってしまうという危険を伴う。
【0006】
ある種の軍事活動では、着陸マットがアルミニウムのシート(硬質の金属ではなく、繊維様のものでよい)で作られている。アルミニウムは、帆布よりも危険が少ないが、風がマットの下に入り、あるいは、マットまたはマットの断片を吹き散らし、その結果、地上にいる人に傷害を負わせるとともに、ヘリコプタを危険にさらすという大きな困難および危険がある。
【0007】
たわみやすい着陸パッドの使用に伴う他の問題が、ヘリコプタの下降気流が着陸パッドの縁部に与える影響から生じる。ヘリコプタの下降気流は、地面に近づくにつれて、外側に向かい、それにより着陸パッドの縁部の近くの空気流が速くなり、また、ほぼ水平になる。着陸パッドの上側の流れの速い空気は、着陸パッドの下側の静止した空気よりも圧力が低く、それにより、着陸パッドの縁部が浮き上がってしまう。以前は、着陸パッドの縁部を、空気流によって動かされないほど重くすることによってこの問題に対処していたが、そうすると、着陸パッドの運搬性が著しく低減してしまう。あるいは、着陸パッドを固定するために大きく重いくいを用いるが、そうすると、パッドが運搬しにくくなり、設置または梱包により時間がかかるようになる。
【0008】
米国陸軍は、「モービマット」として知られる、比較的軽く一時的に路面を覆うタイプのマット材料を使用している。モービマットは、本質的に、空気を通すポリエステル製の網である。これは、通常、かさのある重い大きなロールの形で保管され、使用時にはマットは1メートルのくいで押さえられる。マットの標準的なサイズは、幅4.2m、厚さ0.4m、長さ8m、12m、または20mである。8mのマットの重さは56.5kg、12mのマットの重さは84kg、20mのマットの重さは149kgである。したがって、各マットは、運搬に2人以上の人が必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、
(a)きめの粗い網状材料の第1の層と、
(b)きめの粗い網状材料の第2の層とを含み、
第1の層が第2の層に対して実質的に固定された位置に保持される、風による粒子状物質または液体の攪乱を低減するためのマットが提供される。
【0010】
2つ以上の層を有する網状材料は、ルーピング、断続的な縫合、スティッチング、またはウィービングを使用して、多層材料が1つの層に見えるように作製することができる。このような材料は、本発明では、2つ以上の層を有すると見なされるものである。
【0011】
マットの下の粒子状物質の大部分を逃がさないようにすると同時に、風の一部をマットに通すために、きめの粗い網状材料を2層以上有するマットが有効であり得ることが判明している。これにより、マットの上側と下側の圧力差が減少し、このマットが、帆布など孔のない布から作製された同等のマットよりも、破れに強くなり強い風に耐える可能性がずっと高くなる。さらに、マットの表面に当たる風の発散「タンブリング」効果が、きめの粗い網状材料の布地模様によって生み出され、「アップリフト」効果を生み出すのではなくマットを地面に押し付けるようである。
【0012】
この網状材料は、適切などんなタイプの材料でもよい。網状材料は、編目(stitch)の平均長さが2mm〜6mmの編んだ材料であり、第1の層と第2の層の平均距離が2mm〜10mmの間であることが好ましい。
【0013】
この網状材料は、どんなタイプの繊維からも形成することができる。毛や綿などの天然繊維を使用することもできるが、網状材料がプラスチック繊維から形成された場合に、特に望ましい結果がもたらされることが判明した。
【0014】
この網状材料の多孔率、すなわち、繊維ではなく孔からなる、網の表面積の割合は、任意の適切な値でよい。網状材料の各層が10%〜50%の多孔率を有することが好ましい。
【0015】
マットに当たる風は、一部はマットを通り抜け、一部はマットによって阻止される。その結果、マットの風下側の風速が、風上側の風速に対して相対的に減衰される。網状材料の各層が、網状材料に時速50kmで直角に向かってくる風に対して40%〜80%の風力減衰率を有することが好ましい。
【0016】
本発明の別の態様によれば、上記に説明したタイプのマットを1以上含むヘリコプタ用着陸マットが提供される。このヘリコプタ用着陸マットは、単位面積あたりの質量が網状材料より大きい周縁領域を有し、第1の層が第2の層にこの周縁領域で結合されている。
【0017】
ヘリコプタ用着陸マットは、ヘリコプタの回転翼の全長を超える長さおよび幅を有すことが好ましい。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、
(a)きめの粗い網状材料の第1の層ときめの粗い網状材料の第2の層とを含み、第1の層が第2の層に対して実質的に固定された位置に保持されるマットで地表面を覆うステップと、
(b)マットの周縁の複数箇所でマットを地表面に固定するステップ
とを含む風による地表面上での粒子状物質の攪乱を低減する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を、本発明の例示的形態を示す添付の図面を参照してより詳細に説明する。これらの図面の具体的詳細が、本発明の上記の一般的説明に取って代わるものではないことを理解されたい。
【0020】
初めに、図1を参照すると、本発明の一実施形態による、風による粒子状物質の攪乱を低減するためのマット1の切断した角の部分が示してある。このマットは、きめの粗い網状材料の第1の層2、およびきめの粗い網状材料の第2の層3を含む。第1の層は、第2の層に対して実質的に固定された位置に保持される。補強材料4が縁部に沿って設けられているが、そのような補強は必須ではないことが試験で分かっている。
【0021】
図2は、適切なタイプの網状材料のより詳細を示す。好ましいタイプの網状材料は、編目の平均長さが2mm〜6mmの編んだ材料である。例示の実施形態では、編目の平均長さは約3mmである。望ましい編目のサイズは、ある程度は粒子のサイズによって決まり、より細かい粒子には、より細かい編目のサイズが適切である。編んだ材料の方が、織った材料よりも好ましい。その理由は、1つの編目が破れても、より破損しにくく、また、通常、より適切なサイズおよび形状の孔が可能となるからである。編んだ構造はまた、マットが損傷または切断されたとき、破れ、および「伝線」が生じる傾向がかなり低減する。
【0022】
第1の層と第2の層の平均距離は、マットが本質的に3次元の網を形成するように、2mm〜10mmの間が好ましい。マットは第3の層、および場合によってはさらなる層を含んでもよいが、望ましい特徴、すなわち、一方では上の層から下の層まで風を通すという特徴、また他方ではマットの下からの粒子状物質が層を通り抜けるのを阻止するという特徴の間で折り合いを付ける必要がある。層が多くありすぎると、風力減衰率が、網が効果的に機能するには高すぎる数値にまで増大してしまう。
【0023】
網状材料は、綿またはその他の天然繊維から作ることができるが、好ましい構成では、網状材料は、プラスチック繊維から形成される。滑らかなプラスチック繊維は、通常、天然繊維よりも滑らかであり、したがって、風に対する抵抗の程度が低く、それにより、風力減衰率が小さくなる。
【0024】
ヘリコプタの周囲の地面に燃料または油、あるいは作動油が撒き散らされるのは珍しいことではない。したがって、マットが燃料のこぼれ、油、作動油、水、およびその他のタイプのしみおよび汚染に対して少なくとも多少は耐性がある材料で作られることが好ましい。さらに、ヘリコプタの部品の周囲に高い温度が発生するため、耐燃性および/または難燃性も大変望ましい。
【0025】
本発明のマットは、静電気の蓄積に対して耐性があることもまた望ましい。静電気を防止する1つの方法は、マットを地面に固定する金属のくいおよび/またはマットを横断する金属線などにより、マットを電気的に接地するものである。
【0026】
本発明のマットは、どんな色でもよい。1つの好ましい構成では、マットの色は、例えば砂漠の場所であれば砂の色、また、草の生えた区域では緑色など、周囲の環境と同じである。別の構成では、マットは、空中から容易に場所が分かるように、周囲の環境と対照的な色をしている。別の構成では、マットは、表裏の色が異なっている。
【0027】
網状材料の多孔率、すなわち、繊維ではなく孔からなる部分の、網の表面積の割合は、10%〜50%の間が好ましい。図2に示す実施形態では、多孔率は約30%である。
【0028】
マットの、全体的な風力減衰率は、使用される繊維の滑らかさ、個々の孔のサイズ(これは編んだ材料の編目の長さに関係する)、および、網状材料の各層の多孔率を含む、いくつかの要因によって決まる。各層の風力減衰率は異なってもよいが、網状材料の各層が、網状材料に時速50kmで直角に向かってくる風に対して40%〜80%の風力減衰率を有することが好ましい。
【0029】
本発明のマットは、塵またはその他の空気中浮遊粒子の望ましくない影響を低減すべき多くの異なる状況で使用するのに適している。このマットは、これまで述べてきたように、塵のある地面、砂のある地面、あるいは雪の上でヘリコプタ用着陸マットに使用される。また、軍事キャンプ、難民キャンプ、野外会場(コンサート、スポーツイベントなど)、動物用の囲い地、および、(特に干ばつ時の)乾燥して塵の多い状態が支配的なその他の場所など、広大な地面において、塵または空気中浮遊粒子を抑制するために用いてもよい。
【0030】
本発明のマットの風を通す多孔性のため、マットを地面に固定することがすべての場合に必須ではない。模擬的なヘリコプタ下降気流にさらされた、コンクリート製の地表面上のマットで行われた試験では、マットが地面に固定されておらず、また、マットの縁部が補強によって重くされていなかったのにもかかわらず、縁部の周りで浮き上がることはなかった。それでもなお、たいていの場合、マットの周縁部を地面に固定することが望ましいが、多くの場合、固定の程度はかなり小さくてよい。
【0031】
図3は、複数の異なるマットが接合されて1つの合成マットを形成している、ヘリコプタ用着陸マットの一構成を示す。この構成における個々のマットは、単位面積あたりの質量が網状材料より大きい周縁領域を有し、この周縁領域で、網状材料の2つの層が互いに接合されている。隣り合うマットは、適切な方式および適切な構成で互いに固定される。適切な固定手段には、ロープまたはワイヤ、面ファスナ、金属またはプラスチックのクリップまたはタイ、あるいはテント用くい(着陸するヘリコプタの邪魔になるおそれのある突出部分を最小限に抑えるために頂部を平らにするとよい)でマットを互いに締める、または結ぶことがある。隣り合うマットの重なった縁部は、(例えば面ファスナで接合された場合、)着陸パッドの中央部から縁部に向かう吹き下ろしが接合部を押し付けるように、ヘリコプタ用着陸パッドの中央部に最も近いマットの縁部を、隣接するマットの上に重なるように配置することが望ましい。
【0032】
ヘリコプタ用着陸マットは、ヘリコプタの回転翼の全長を、理想的にはかなりの量だけ超える長さおよび幅を有し、それにより、マットの周囲にある粒子状物質が捕らえられて土煙になる可能性が低減される。図3に示す例では、合成マットは、21m×21mのサイズで、7つのより小さなマットで構成され、そのうち中央部のマットは7m×7m、他の6つはそれぞれ約3.5m×14mのサイズである。マットをきつく引っ張り、地面にくい止めできるように、各マットの縁部は補強されてもよいが、試験によると補強は必須ではないことが明らかになっている。各マットは運搬可能で、約20〜22kgの重さなので、全体の重さは約190kgである。マットを折りたたんだとき、全体で約1m3の体積を占める。各マットはそれ専用の袋に保管でき、1人または2人の人で楽々と持ち上げることができる。保管および運搬のために、全てのマットを1つの運搬用袋に保管して、一式をひとまとまりにしておくことができる。あるいは、マットは、保管および運搬のために、折りたたみ、かつ/または巻いてから革ひもやバックルで固定することもできる。
【0033】
このマットは抗張力が大きく、地面に直接敷かれる。中央の着陸マットにさらに補強を施してもよい。このマット敷きは、2人の人によって30秒未満で敷くことができ、2人の人によって1時間未満で片付けることができる。これは、従来の「運搬可能な」構造のヘリコプタ用着陸パッドの数日の設置時間とは対照的である。
【0034】
個々のマットのサイズと重さの値は、マットのサイズと多孔率に応じて異なってもよい。例えば、1枚のマットが25kg以上の重さになってもよい。図3に示すマットのサイズおよび形状は、例示的なものにすぎない。設置に許される時間および必要とされる保護のレベルなど、具体的な特定の状況および要求に応じて、様々なサイズおよび構成を使用することができる。本発明のマットは、例えば、1m×1mほどの小ささ、あるいは、60m×60mほどの大きさでよい。「ブラックホークス」のようなより大きな軍用ヘリコプタには、負荷の大きい中央の着陸パッドが12m×12mで、全体の構成が約40〜50m×40〜50mであることが望ましい。
【0035】
1つの有用な構成は、それぞれが6.3m×6.3mの寸法で、重さが25kgの25枚のマットセグメントからなる、100ft×100ft(約30m×30m)の合成マットである。この合成マットは、より大きな航空機に対応でき、より高い風速に対してよりよい保護を与える。このマットは、全体の重さが約625kgであるが、6〜8人の人によって1時間未満で敷くことができ、1時間強で片付けることができる。保護の必要がより小さい場合、あるいは、マットを敷くのに時間および人手がより少ない場合、他の構成を使用してもよい。
【0036】
その他の構成では、着陸パッドを構成する全てのマットを、中央のマットに特別な補強を施さずに、実質的に同じサイズおよび重さにしてもよい。そうすれば、全てのマットが交換可能となり、マットの磨耗量が均等になるように、マットのそれぞれの位置を入れ替えることができる。損傷を受けたマットを、損傷を受けていないマットと交換することができる。
【0037】
ある適用例では、着陸パッドの全体の形状が正方形であるのが適切である。他の構成では、マットを三角形あるいはその他の適切な形状に配置してもよい。
【0038】
図3に示すマットは、くいによって地面に固定されるが、マットの固定には他の多くの方法を用いることができる。砂質の、および/または乾燥したゆるい土においては、マット(通常、すでに互いに結びつけられている)を地面に固定するのに、砂袋、水嚢、および他の手段を採用してもよい。
【実施例】
【0039】
模擬実験
本発明の一実施形態のサンプルマットに対して試験を行った。試験の目的は、軍用ヘリコプタの下の地面で予想される風速に匹敵する風速にさらされたときに、マットが粒子を閉じ込める効率を判定することであった。
【0040】
ヘリコプタの回転翼の伴流の速度は、ヘリコプタの翼面荷重によって決まる。翼面荷重は、回転翼のディスク面積(πR2)をヘリコプタの総重量で割ったものである。一般に、ヘリコプタの吹き下ろしは、ヘリコプタのサイズに伴って増加する。最大総重量が5,320kgのシコスキーS−76Cヘリコプタでは、翼面荷重は、37.6kg/m2である。これは、回転翼平面において時速約45kmの吹き下ろし速度をもたらす。流れは、ヘリコプタの下に降りていくにつれて加速し、回転翼よりも下におよそ1回転翼直径分だけ離れた所では、回転翼平面における速度の約2倍、すなわち時速約90kmの最大スピードに達する。したがって、試験ではこの風速に達するかあるいは超えることを目指した。
【0041】
粒子はあらかじめ秤量し、その後1.4×1.7mの領域に均等に分散させた。次いで、マットでそれを覆い、マットをテープで定位置に留めた。次に、定格風速時速233km(時速145マイル)を送る空気噴射機で、80cmの高さから60秒間マットに風を噴射させた。その後、マットを慎重に取り除き、粒子状物質を回収し、その重さを量って、マット敷きの下から移動した物質の量を判定した。
【0042】
対照基準として、比較評価のために、マット無しで試験を再び行った。試験は細かい粒子状物質および粗い粒子状物質の両方に対して行われた。普通の小麦粉を細かい粒子として使用し、海岸の砂を粗い粒子として使用した。
【0043】
試験の結果を以下の表に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

図4は、試験の設営を示す。試験の結果は、マットが空気中を浮遊する砂および空気中を浮遊する粉の両方の発生率を減少させるのに有効であり、マット敷きが空気中を浮遊する砂の発生率の減少により高い効果があることを示すようである。
実地試験
本発明に従って作製されたマットは、次いで、ベル206B「ジェットレンジャー」、ユーロコプターAS350B「スクイレル」、ベルUH−1N「ホーイ」、シコスキーUH−60L「ブラックホーク」、およびシコスキーCH−53E「スーパースタリオン」を含む、いくつかの異なるタイプのヘリコプタを使用して試験が行われた。
【0046】
マットに使用される構造のタイプが図5〜図9に示してある。図5は、面ファスナ型の締結具によって、隣接するマットと結合されるマット1を示す。マット1の2つの側部5および6は、上方を向いた突起ループの縁部を有し、もう一方の2つの側部7および8は、下方を向いたフックの縁部を有する。縁部には規則正しい間隔でDリング9が並び、このDリングは、隣接するマットの革ひも10(詳細は図6を参照)と相互に作用して隣り合うマット同士を固定する助けとなることができ、また、マットの縁部を地面にくい止めするのに使用することができる。革ひも10は、折り返すことができ、面ファスナ型の締結具によって定位置に保持される。
【0047】
図7および図8は、互いに接合された隣り合う2つのマットの詳細を示す。図8は、片方のマットの角の1つをめくった図である。
【0048】
図9は、長さの調節可能な革ひもで縛った折りたたまれたマットを示す。
【0049】
図示のマットの実施形態によって、広範囲の条件および温度において効果的な方式で、マットを非常に迅速に配備することができることが理解できよう。典型的な配備では、マットを隣り合わせに並べ、合致するフックとループを互いに押し付け、外周部分を地面にくい止めするだけでよい。追加の安全策が必要な場合、革ひも10をリング9と一緒に使用して、隣り合うマット間の接合部を強化し、また、着陸パッドの周縁部よりも内側の箇所でマットを地面にくい止めしてもよい。
【0050】
他のタイプのヘリコプタ着陸地表面と比較して、このマットはかなり小型で軽い。必要とされる定着の量も少なく、これらのことは全て他のタイプの着陸地表面よりも設置および解体をかなり速くする手助けとなる。
【0051】
任意選択の機能として、マットが、迅速に梱包できるようにマットを定着具からはずせるようにする、すぐにほどける革ひもを有してもよい。
【0052】
上記のヘリコプタで実地試験を行った。まず、本発明の1セットの着陸マットの下の比較的固い地表面上に砂をおき、ジェットレンジャーおよびスクイレルヘリコプタを着陸マットに着陸させ、マットの周りを旋回させ、マットから離陸させた。試験中、マットを通して立ち上る砂は全くなく、ヘリコプタが接近してマットの周囲を旋回したときでさえ、マットの移動は最小限であった。
【0053】
マットの上に砂をおいた場合、ヘリコプタの伴流が砂を下に押してマットを通過させ、砂は試験の残りの間そこにとどまった。
【0054】
次いで、柔らかく塵のある環境で、ホーイ、ブラックホークおよびスーパースタリオンヘリコプタを使用してさらなる試験を行った。図10は、マットのない塵のある区域に着陸するスーパースタリオンヘリコプタを示す。ヘリコプタの吹き下ろしによって生じた砂塵あらしによって、ヘリコプタを見ることがほとんど不可能である。
【0055】
図11は、今度は本発明の1セットのマットから形成された着陸パッドを用いた場合の、同じ場所に着陸する同じヘリコプタを示す。ヘリコプタが着陸パッドに接近するときにまき上がった塵が、ヘリコプタの後ろに見えるが、それにもかかわらず視界は非常に向上し、また、着陸パッド上には塵が全くないことに注目されたい。
【0056】
図12は、着陸パッドからある距離だけ上空を空中停止飛行しているスーパースタリオンヘリコプタを示す。空気中を浮遊する塵が着陸パッドの周縁部の周りに見えるが、着陸パッドの網を通ってくる塵はない。この着陸パッドは、回転翼の全長が短いヘリコプタ用に設計されたものである。この事例では、着陸パッドの寸法は、回転翼の全長の寸法とほぼ同じであるが、着陸パッドの寸法が、回転翼の全長の寸法の少なくとも1.5倍であることが好ましい。
【0057】
図13は、ホーイヘリコプタのスキッドによってマットにできた跡を示す。マットの下の地面は柔らかく塵があり、マットのたわみやすい性質により、ヘリコプタのスキッドがマットに損傷を与えずに地面に少し沈み込んだ。このホーイヘリコプタの重さは約4トンであった。
【0058】
図14はブラックホークヘリコプタの車輪によってできた同様のくぼみを示す。このブラックホークヘリコプタの重さは約6トンであった。スーパースタリオンヘリコプタの重さは約20トンであった。
【0059】
また本発明のマットはたわみやすいので、異物による損傷に対するある程度の耐性が与えられる。マットは、破れるのではなく、異物の周りでたわむ傾向がある。有利なことに、網の構造になっているので、破れの危険や伝線の形成が低減され、それにより、マットは、切断されたり損傷したりしてもなお使用できる。
【0060】
マットが実際に損傷を受けた場合、破れを繕う、あるいは破れた定着箇所を取り替えることによって比較的容易に修理することができる。マットを現場修理キット付きで供給することができる。
【0061】
さらなる試験によって、本発明に従って作製されたマットが、ぬかるみの地表面に着陸する際にも有用であることが判明している。この試験では、水はマットを浸透して上ってくるが、泥は大部分その下に閉じ込められていた。普通なら激しく掻き回されて深いぬかるみになるような通行量の多い着陸区域も、マットによって実質的に保護される。
【0062】
本発明の範囲を逸脱せずに、上記で説明してきた部品に様々な改変、追加、および/または変更を加えることができることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態のマットの破断された角の部分における、編んだ網状材料の2つの層を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態で使用するのに適切な、編んだ網状材料のサンプルを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態のヘリコプタ用着陸マットを形成するように接合された複数のマットの拡張可能な配置を概略形式で示す図である。
【図4】砂を覆うマット上のヘリコプタの下降気流のシミュレーションを使用する実験の設営を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態のマットを示す図である。
【図6】図5のマットの詳細図である。
【図7】互いに接合された、図5で示したタイプの2つのマットの詳細図である。
【図8】互いに接合された、図5で示したタイプの2つのマットの詳細図である。
【図9】本発明のマットを梱包したときの構成を示す図である。
【図10】マットのない塵のある区域に着陸するヘリコプタを示す図である。
【図11】塵のある区域で、本発明の一実施形態に従って作製された複数のマットから形成された着陸パッド上に着陸する、図10のヘリコプタを示す図である。
【図12】着陸パッドからある距離だけ上空を空中停止飛行している、図11のヘリコプタを示す図である。
【図13】ヘリコプタのスキッドによって本発明のマットにできたくぼみを示す図である。
【図14】ヘリコプタの車輪によって本発明のマットにできたくぼみを示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 マット
2 きめの粗い網状材料の第1の層
3 きめの粗い網状材料の第2の層
4 補強材料
5、6、7、8 側部
9 Dリング
10 革ひも

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)きめの粗い網状材料の第1の層と、
(b)きめの粗い網状材料の第2の層とを含み、前記第1の層が前記第2の層に対して実質的に固定された位置に保持される、
風による粒子状物質の攪乱を低減するためのマット。
【請求項2】
前記網状材料が、編目の平均長さが2mm〜6mmの編んだ材料であり、前記第1の層と前記第2の層の平均距離が、2mm〜10mmの間である、請求項1に記載のマット。
【請求項3】
前記網状材料がプラスチック繊維から形成される、請求項1または2に記載のマット。
【請求項4】
前記網状材料の各層が10%〜50%の多孔率を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のマット。
【請求項5】
前記網状材料の各層が、前記網状材料に時速50kmで直角に向かってくる風に対して40%〜80%の風力減衰率を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のマット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のマットを1以上有し、単位面積あたりの質量が前記網状材料より大きい周縁領域をさらに有し、前記第1の層が前記第2の層に前記周縁領域で結合されている、ヘリコプタ用着陸マット。
【請求項7】
前記マットが、ヘリコプタの回転翼よりも大きな長さおよび幅を有する、請求項6に記載のヘリコプタ用着陸マット。
【請求項8】
実質的に、図面を参照して本明細書に記載した通りのヘリコプタ用着陸マット。
【請求項9】
(a)きめの粗い網状材料の第1の層ときめの粗い網状材料の第2の層とを有し、前記第1の層が前記第2の層に対して実質的に固定された位置に保持されるマットで表面を覆うステップと、
(b)前記マットの周縁の複数の箇所で前記マットを前記表面に固定するステップとを含む、
風による地表面上の粒子状物質の攪乱を低減する方法。
【請求項10】
前記網状材料の各層が、プラスチック繊維から形成され、編目の平均長さが2mm〜6mmの編んだ材料であり、前記第1の層と前記第2の層の平均距離が2mm〜10mmの間であり、前記網状材料の各層が、10%〜50%の多孔率を有するとともに、前記網状材料に時速50kmで直角に向かってくる風に対して40%〜80%の風力減衰率を有する、請求項9に記載の風による地表面上の粒子状物質の攪乱を低減する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2007−510079(P2007−510079A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538599(P2006−538599)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/AU2004/001535
【国際公開番号】WO2005/045138
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(506153941)シー ギアー オーストラリア ピーティーワイ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】C GEAR AUSTRALIA PTY LTD
【Fターム(参考)】