説明

風味原料素材の製造法

【課題】 メチオニンと糖との加熱反応を利用するフレーバー組成物の製造において、より高濃度にメチオナールを含有させることが可能となる製造法、および該製造法によって製造された組成物を含有する食品などを提供すること。
【解決手段】 メチオニンと糖を混合し、当該混合物を2段階のpH条件で特定時間、特定温度で加熱する。またメチオニンと糖を混合し加熱する際に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸塩の少なくとも1種類以上を含み、当該混合物を特定pH条件、特定時間、特定温度で加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニンと糖との加熱反応を利用するフレーバー組成物の製造において、より高濃度にメチオナールを含有させることが可能となる製造法、および該製造法によって製造された組成物を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸と糖との加熱反応であるメイラード反応は、ロースト香やミート様の香気など様々なフレーバー化合物を生成することが知られており、近年香料や調味料の製造や食品への香味付与において、該反応を利用する例も数多く見られる(特許文献1参照)。
その中でメチオニンと糖のメイラード反応により生成する主要フレーバー成分であるメチオナール(非特許文献1、2参照)は近年蒸しポテトやミート系のフレーバー成分として知られるようになり、その重要度は高くなってきている。
一方で、メイラード反応は複雑な反応経路を有し、必要なフレーバー化合物だけを高純度で得ることは困難であるが、いくつかの報文において反応を促進させる検討も非特許文献3のような例として見受けられる。
【0003】
【特許文献1】特開平01−206968号公報
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem., 47, 2355, 1999
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem., 43, 1641, 1995
【非特許文献3】J. Agric. Food Chem., 52, 953, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが上述した特許文献1の発明や非特許文献1、2に見られる製造法は、成分について同定しているのみで定量化はしておらず、また実用性という点ではメチオナールの含量が低いといった課題がある。また、非特許文献3の内容のように、リン酸塩が糖の分解を促進して、ジカルボニル化合物生成を触媒することは知られていたが、これをメチオニンの加熱反応系に応用すること、更にストレッカー分解を起こすことで、メチオナールなどのストレッカーアルデヒドの生成を促進する方法は知られていなかった。
【0005】
上記背景下において、本発明は、メチオニンと糖との加熱反応を利用するフレーバー組成物の製造において、より高濃度にメチオナールを含有させることが可能となる製造法、および該製造法によって製造された組成物を含有する食品などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。本発明は以下の各発明を包含する。
(1)メチオニンと糖を混合し、当該混合物を、1段階目のpHを4.0以上8.0以下、及び2段階目のpHを3.0以上7.0以下で、かつ1段階目のpHと2段階目のpHが0.5以上異なるpH条件において、それぞれ40℃以上180℃以下の温度で、15分以上10時間以内加熱することを特徴とするフレーバー組成物の製造法。
(2)メチオニンと糖を混合し加熱する際に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸塩の少なくとも1種類以上を含み、当該混合物を、pH3以上8以下のpH条件において、40℃以上180℃以下の温度で、15分以上10時間以内加熱することを特徴とするフレーバー組成物の製造法
(3)発明(1)または発明(2)記載の製造法によって得られるフレーバー組成物を喫食時に1ppb以上20重量%以下含む食品
【0007】
なお本発明は、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で置きかえたものも含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、メチオニンと糖との加熱反応を利用するフレーバー組成物の製造において、より高濃度にメチオナールを含有させることが可能となる製造法、および該製造法によって製造された組成物を含有する食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるフレーバー組成物は、メチオニンと糖を加熱する際にpHを2段階に調整することを特徴とする。
メチオニンと糖とを加熱する際に2段階に調整するpHは1段階目が4.0以上8.0以下で、2段階目が3.0以上7.0以下と調整することを特徴とする。より好ましくは1段階目のpHが6.0以上8.0以下、2段階目のpHが3.0以上6.0以下、更に好ましくは1段階目のpHが6.5以上8.0以下、2段階目のpHが3.0以上5.5以下と調整することを特徴とする。また1段階目のpHと2段階目のpHが0.5以上異なるpH条件とすることを特徴とする。pHが範囲外になるに従って、メチオナールの生成量は低下し、好ましくない。
また、加熱する際の温度が40℃以上180℃以下、15分以上10時間以下加熱することを特徴とし、より好ましくは温度が70℃以上120℃以下、1時間以上8時間以下加熱することを特徴とする。加熱温度が低くなり、加熱時間が短くなるに従って、フレーバー組成物の生成量は低下し、好ましくない。また、加熱温度が高くなり、加熱時間が長くなるに従って焦げ香など好ましくない風味が増加する。
【0010】
本発明においてpHの調整法は食品で用いられる調整剤であれば特に限定は無いが、流通性の点から塩酸、燐酸、クエン酸、蟻酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が好ましい。
また、メチオニンと糖を加熱する際に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸塩の少なくとも1種類以上を含むことを特徴とする。より好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸2水素ナトリウムの効果が特に高い。
【0011】
本発明において、フレーバー組成物とは、メチオニンと糖を特定pHや温度で反応させてできたもの全体を意味する。
【0012】
本発明でいう、フレーバーとは香気、風味、呈味すべてを指す。
【0013】
アミノ酸であるメチオニンは、D体とL体が存在するが、本発明においてはそのどちらでも、また混合物であるラセミ体でも効果は変わらない。
【0014】
本発明で用いる糖とは、単糖、2糖、多糖などの糖類すべてを指し、反応効率の点から好ましくはグルコース、キシロース、スクロース、マルトース、フルクトースが良い。
【0015】
本発明において用いられるフレーバー組成物の原料は飲食品に使用できるものであれば、合成品、醗酵品など様々な履歴のものを用いることができる。またこれらフレーバー組成物を食品へ使用する際は、直接添加、水や溶媒等を用いた希釈、酵母エキスや畜肉エキスや魚介エキスやタンパク加水分解物などの形態での調味料組成物への混合、肉等の煮込み時等、利用形態に特に制限はない。
【0016】
また本発明のフレーバー組成物の形態に特に限定はなく、例えば乾燥粉末、ペースト、溶液などの形態で利用することが出来る。
【0017】
また本発明においてフレーバー組成物を添加する食品に特に限定はないが、畜肉エキス、特にチキンエキス、ビーフエキス、ポークエキスを用いた飲食物でより顕著な効果があり、具体的には、チキンコンソメスープ、カレー、ビーフシチュー、ホワイトシチュー、ハム、ハンバーグ、ステーキなどの洋風料理、中華系料理、和風系の料理、ウスターソース、デミグラスソース、ケチャップ、各種タレや風味調味料類などの各種調味料、肉じゃがや筑前煮などの和風煮物料理、から揚げやトンカツなどの揚げ物、おにぎりやピラフなどの米飯類が好ましい。
食品への添加濃度は喫食時に1ppb以上20重量%以下まで様々な濃度使用することができる。好ましくは10ppb以上5重量%以下、更に好ましくは100ppb以上1重量%以下、さらに好ましくは100ppb以上〜10ppm以下が好ましい。濃度が低すぎると効果が得られず、濃度が高すぎると食品として自然でなく人工的な風味が付与されてしまうため好ましくない。
【0018】
以下、本発明について実施例でさらに説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0019】
(実施例1 反応pHの変更によるメチオナール濃度の評価)
メチオニン0.4g、キシロース0.44g、塩化ナトリウム3.79gを水19.16gに混合溶解してpHを4.5〜7.5に調整後、95℃で1時間加熱した。更に各反応液のpHを4.5〜7.5に調整後、95℃で1時間加熱して、メチオナール溶液を得た。pHを6.0で固定したままで、95℃2時間加熱した場合をコントロールとした。
【0020】
(メチオナールの評価方法)
<分析機器>
GC-MS;Agilent社製 GC-MS(5973N)
オートサンプラー(前処理、注入装置);GESTEL社 MPS2
<分析前処理>
サンプル10mlをセプタム付40ml容バイアルビンに入れ、50℃に加熱しながら、SPMEファイバー(65μmPolydimethylsiloxane-Divinylbenzene)をヘッドスペース部分に45分暴露し、成分を吸着させた。
<GC-MS条件>
カラム TC−5(0.25mm×60M、ID=0.25μm)GLサイエンス社製
注入条件 温度;200℃、モード;スプリットレス、ヘッド圧力;127kPa
オーブン条件 50℃で5分保持後、4℃/分で220℃まで昇温し、220℃で5分保持。
上記方法にてフレーバー分析を行った。結果を表1に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の結果から、1段階目のpHを7.5、2段階目のpHを4.5にした系において、メチオナール生成量が最も多く、コントロールの約1.6倍となった。また1段階目と2段階目のpHを変え、1段階目をpH4.0以上8.0以下、2段階目をpH3.0以上7.0以下とした系において、コントロールや1段階目と2段階目のpHが同じ系に比べてメチオナール生成量が多く好ましくなった。更に1段階目と2段階目のpHを変え、1段階目をpH4.5以上7.5以下、2段階目をpH4.5以上6.5以下とした系において、更にメチオナール生成量が多く好ましくなった。
【0023】
(実施例2 塩類1種類添加によるメチオナール濃度変化の評価)
メチオニン0.4g、キシロース0.36を19.24gの水に溶解したものに、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムのうちいずれか一種類を0.065モル添加溶解後、95℃で2時間加熱した。メチオニン、キシロース、水のみで95℃で2時間加熱した場合をコントロールとした。
【0024】
(メチオナールの評価方法)
<分析機器>
GC-MS;Agilent社製 GC-MS(5973N)
オートサンプラー(前処理、注入装置);GESTEL社 MPS2
<分析前処理>
サンプル10mlをセプタム付40ml容バイアルビンに入れ、50℃に加熱しながら、SPMEファイバー(65μmPolydimethylsiloxane-Divinylbenzene)をヘッドスペース部分に45分暴露し、成分を吸着させた。
<GC-MS条件>
カラム TC−5(0.25mm×60M、ID=0.25μm)GLサイエンス社製
注入条件 温度;200℃、モード;スプリットレス、ヘッド圧力;127kPa
オーブン条件 50℃で5分保持後、4℃/分で220℃まで昇温し、220℃で5分保持。
上記方法にてフレーバー分析を行った。結果を表2に示した。
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果から、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウムを添加した系において、メチオナール生成量がコントロールよりも多くなり、塩化マグネシウム、塩化鉄、炭酸ナトリウムを添加した系において、メチオナール生成量がコントロールよりも少なくなったことが判明した。
【0027】
(実施例3 塩類2種類の添加によるメチオナール濃度変化の評価)
メチオニン40g、キシロース44gを水1916gに混合溶解してpHを7.5に調整後、95℃で1時間加熱した。該溶液に対しリン酸二水素ナトリウム78g(0.65モル)、塩化ナトリウム379g(6.49モル)を添加溶解し、pHを4.5に調整後、95℃で1時間加熱して、メチオナール溶液を得た。リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム添加なしで、pH5.6で固定して95℃2時間加熱した場合をコントロールとした。
【0028】
(メチオナールの評価方法)
<分析機器>
GC-MS;Agilent社製 GC-MS(5973N)
オートサンプラー(前処理、注入装置);GESTEL社 MPS2
<分析前処理>
サンプル10mlをセプタム付40ml容バイアルビンに入れ、50℃に加熱しながら、SPMEファイバー(65μmPolydimethylsiloxane-Divinylbenzene)をヘッドスペース部分に45分暴露し、成分を吸着させた。
<GC-MS条件>
カラム TC−5(0.25mm×60M、ID=0.25μm)GLサイエンス社製
注入条件 温度;200℃、モード;スプリットレス、ヘッド圧力;127kPa
オーブン条件 50℃で5分保持後、4℃/分で220℃まで昇温し、220℃で5分保持。
上記方法にてフレーバー分析を行った。結果を表3に示した。
【0029】
【表3】

【0030】
表3の結果から、2回目の加熱前にリン酸二水素ナトリウムと塩化ナトリウムを組合せて添加し酸性領域で加熱することにより、コントロールに比べ4.5倍のメチオナール濃度向上効果が得られた。更に、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム単独で添加した場合に比べても多くのメチオナールが生成した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、メチオニンと糖との加熱反応を利用するフレーバー組成物の製造において、より高濃度にメチオナールを含有させることが可能となる製造法、および該製造法によって製造された組成物を含有する食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチオニンと糖を混合し、当該混合物を、1段階目のpHを4.0以上8.0以下、及び2段階目のpHを3.0以上7.0以下で、かつ1段階目のpHと2段階目のpHが0.5以上異なるpH条件において、それぞれ40℃以上180℃以下の温度で、15分以上10時間以内加熱することを特徴とするフレーバー組成物の製造法
【請求項2】
メチオニンと糖を混合し加熱する際に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸塩の少なくとも1種類以上を含み、当該混合物を、pH3以上8以下のpH条件において、40℃以上180℃以下の温度で、15分以上10時間以内加熱することを特徴とするフレーバー組成物の製造法
【請求項3】
請求項1または2記載の製造法によって得られるフレーバー組成物を喫食時に1ppb以上20重量%以下含む食品