説明

飛翔体の推力発生装置

【課題】軽量小型で要求推力を速やかに且つ低騒音下で発生させることができる飛翔体の推力発生装置を提供する。
【解決手段】高圧ガスを噴射する高圧ガス噴射ノズル13をファン2の中心軸線C上に備える。噴射ノズル13からの高速噴流がファン2の後流に包み込まれるので、低騒音化を図ることができる。また、高圧ガス噴射は瞬時に高推力を発生できるため、飛翔体の姿勢制御を速やかに完了させることが可能となる。さらに、ファン回転数増大による推力制御方式と併用すれば、短時間の噴射で済むため、高圧ガス発生装置の小出力、小型軽量化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体の推力発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ファン(ロータ)径の小さな飛翔体の推力発生装置では、ファン(ロータ)のピッチ角を機械的に制御する装置を設置するスペースの確保が困難であり、ファン(ロータ)のピッチ角変化による推力制御を容易に行うことができない。そのため、飛翔体に複数個装着したファン(ロータ)の回転数を変化させて推力の調整を行い、飛翔体に発生する回転モーメントを調整することにより姿勢制御を行っていた。しかし、ファン(ロータ)の慣性により回転数はすぐには変化せず徐々に変化するため、要求される推力が得られるまでに時間がかかってしまう。また、ファン(ロータ)を駆動させる駆動源の追従性が劣ると、要求される推力が得られるまでに時間がかかってしまう。このような理由により、風向、風速が絶えず変化する強風条件で飛翔体が飛翔する際には、姿勢制御が困難となっていた。
【0003】
一方、要求されている推力が得られるまでの時間を短縮させるために、高圧空気をノズルから噴射させ、その反力を利用して補助的に推力を得る技術が知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【特許文献1】特開2002−284098号公報
【特許文献2】特開2004−82999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高圧空気をノズルから噴射させるために必要となるエネルギに対して、発生させることができる推力は小さいので、高圧空気をノズルから噴射させて推力を得るのは効率が悪い。したがって、大馬力で大型の高圧空気発生源が必要となり、飛翔体の重量増加、大型化が避けられなかった。
【0005】
さらに、高圧空気をノズルから噴射させるとノズル部から衝撃波が発生するので、騒音の発生が問題となった。
【0006】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、軽量小型で要求推力を速やかに且つ低騒音下で発生させることができる飛翔体の推力発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために本発明による飛翔体の推力発生装置は、高圧空気を噴射する高圧空気噴射ノズルをファンの中心軸線上に備えることを特徴とする。
【0008】
このように構成された飛翔体の推力発生装置では、ファンから流出する流体中に高圧空気を噴射することが可能となり、噴射ノズルからの高速噴流がファンからの流体に包み込まれるので、低騒音化を図ることができる。また、高圧空気噴射ノズルからは高圧の空気を速やかに噴射させることができるので、空気噴射の反力による推進力も速やかに得ることができ、飛翔体の姿勢制御を速やかに完了させることが可能となる。さらに、ファン回転数増大による推力制御方式と併用すれば短時間の噴射で済むため、必要とされる高圧空気は少量で済み、高圧空気発生装置の小出力化、小型軽量化が可能となる。
【0009】
なお、「ファン」は、ロータとしてもよく、「高圧空気」は高圧ガスとしても良い。
【0010】
また、本発明においては、前記高圧空気噴射ノズルへ高圧空気を供給するための通路である高圧空気通路をファンの中心軸にさらに備えることができる。
【0011】
すなわち、ファンの中心軸中に高圧空気通路を組み込むことが可能となり、装置の小型化が可能となる。
【0012】
本発明においては、前記ファンの推力を要求推力まで上昇させる間に飛翔体全体としての推力が目標の推力となるように前記高圧空気噴射ノズルから高圧空気を噴射させることができる。
【0013】
ここで、ファンのみで推力を上昇させようとしても、該ファンの推力が要求推力まで上昇するのに時間がかかる。一方、噴射ノズルから高圧空気を噴射させれば、速やかに推力を上昇させることができる。したがって、ファンの推力が上昇するまでに補助的に高圧空気を噴射させることにより、短時間に要求された推力に見合った推力を飛翔体全体として発生させることができる。また、高圧空気の噴射量は、ファンの推力が上昇するに伴い減少させるようにして、全体として目標推力を発生させるようにすれば、多量の高圧空気を必要とせず、高圧空気発生源の小出力、小型軽量化を図ることができ、飛翔体全体としても小型軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る飛翔体の推力発生装置では、低騒音下で要求推力を速やかに発生させることができ、飛翔体として軽量、小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る飛翔体の推力発生装置の具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本実施例に係る飛翔体の推力発生装置の概略構成図である。
【0017】
推力発生装置1は、動翼2および静翼3を備えて構成されている。
【0018】
動翼2は、動翼中心軸4に固定されており、該動翼中心軸4の中心軸を中心に回転する。一方、静翼3は、ケーシング5に固定されている。また、静翼3の中心軸周りには貫通穴が設けられており、該貫通穴内を動翼中心軸4が貫通している。
【0019】
動翼中心軸4には、該動翼中心軸4に動力を伝えるための第1歯車6が取り付けられている。この第1歯車6は、第2歯車7と噛み合い、該第2歯車7は、駆動源からの駆動力を動翼中心軸4に伝えるための動翼駆動軸8に取り付けられている。
【0020】
一方、動翼中心軸4は中心軸方向に貫通穴を有し、この貫通穴内には高圧空気の通路である高圧空気通路9が設置されている。この高圧空気通路9の一端は高圧空気を発生させる高圧空気発生源10に接続されている。この高圧空気発生源10は、例えば空気を圧縮するコンプレッサと、圧縮された空気を貯留するタンクとを備えて構成される。この高圧空気発生源10からの高圧空気は、推力発生装置1の前方から動翼中心軸4内を流れる。また、高圧空気発生源10から動翼中心軸4の貫通穴までの入り口までの間には、該高圧空気の流量を調整する高圧空気流量調整弁11が設けられている。この高圧空気流量調整弁11は、制御装置であるECU12と電気的に接続され、該ECU12により高圧空気
流量調整弁11が制御される。そして、高圧空気通路9の他端は、動翼中心軸4の後端部に位置する高圧空気噴射ノズル13に接続されている。
【0021】
なお、動翼2の中心軸、静翼3の中心軸、動翼中心軸4の中心軸、ケーシング5の中心軸、第1歯車6の中心軸、動翼中心軸4内の高圧空気通路9の中心軸、高圧空気噴射ノズル13の中心軸は全て同一の線C上にある。
【0022】
このように構成された推力発生装置1では、動翼駆動軸8が回転されると、第2歯車7、第1歯車6、動翼中心軸4の順に動力が伝わり、該動翼中心軸4と共に動翼2が回転する。この動翼2の回転により、空気が推力発生装置1の後方に流れ(この空気の流れを以下「ファンの後流」という。)、また推力発生装置1の前方に向く推力が発生する。この動翼2の回転により発生する推力を以下「ファンによる推力」と称する。
【0023】
一方、静翼3、高圧空気通路9、および高圧空気噴射ノズル13は、動翼中心軸4と共に回転しない。そして、高圧空気流量調整弁11がECU12により開弁されると、高圧空気発生源10からの高圧空気が高圧空気通路9を流れて高圧空気噴射ノズル13に到達し、該高圧空気噴射ノズル13から推力発生装置1の後方へと高圧空気が噴射される。この高圧空気の噴射の反力により推力発生装置1の前方に向く推力が発生する。この高圧空気噴射による推力を以下「高圧空気噴射による推力」と称する。
【0024】
このような推力発生装置1によれば、要求推力が変化していないときにはファンからの推力のみにより飛翔体を飛翔させ、姿勢制御時等で要求推力が上昇した場合に高圧空気噴射による推力を発生させることができる。
【0025】
次に、本実施例による推力制御について説明する。
【0026】
図2は、推力上昇時のファンによる推力と高圧空気噴射による推力との推移を示したタイムチャートである。横軸は時間、縦軸は推力をそれぞれ示している。
【0027】
動翼2の回転数は、該動翼2の慣性や駆動源の緩慢な出力上昇等に影響を受けて緩やかに上昇する。そして、要求されている推力を得ることができる回転数まで上昇するまでの間は、ファンによる推力だけでは要求された推力を得ることができない。
【0028】
そのため、本実施例においては、要求された推力とファンによる推力との差を高圧空気噴射による推力で補う。すなわち、ファンによる推力と高圧空気噴射による推力との合計が要求推力(若しくは目標推力)となるように、高圧空気噴射ノズル13から噴射させる高圧空気量を制御する。この制御は、ECU12が高圧空気流量調整弁11の開度を調整することにより行われる。高圧空気流量調整弁11の開度は、推力上昇後の動翼2の回転数の推定値と推力上昇前の動翼2の回転数との差および推力上昇開始からの経過時間に基づいて定められる。この関係は予め実験等により求めてマップ化しECU12に記憶させておいてもよい。また、単に推力上昇開始から所定時間、一定流量の高圧空気を噴射させるようにしてもよい。
【0029】
このように、本実施例においては、推力を上昇させる必要が生じる例えば姿勢制御時に、応答性の高い高圧空気噴射を併用する。そして、ファンによる推力が上昇するに従い高圧空気噴射による推力を減少させていき、要求された推力とファンによる推力とが等しくなったときに高圧空気の噴射を停止する。これにより、エネルギ変換効率の悪い高圧空気の噴射を極力抑えることができるので、高圧空気発生源10の小馬力化および小型軽量化を図ることができる。また、高圧空気通路9を動翼中心軸4内に設置し、高圧空気噴射ノズル13を動翼中心軸4の中心軸線上に設置しているので、推力発生装置1の小型化を図
ることができる。
【0030】
さらに、動翼中心軸4の中心軸線上に高圧空気噴射ノズル13を設置しているので、高騒音を発生させる高圧空気噴射ノズル13からの超高速噴流を、速度の低いファンの後流が包み込むようになり低騒音化を図ることができる。
【実施例2】
【0031】
図3は、本実施例に係る飛翔体の推力発生装置の概略構成図である。本実施例では、チップタービンを有した高圧ガス駆動ファンを採用した例について説明する。
【0032】
推力発生装置1は、動翼2および静翼3を備えて構成されている。
【0033】
動翼2は、動翼中心軸4に回転可能に取り付けられており、該動翼中心軸4を中心に回転する。一方、静翼3は、ケーシング5に固定されている。また、動翼中心軸4の後端部は静翼3の中部に固定されている。
【0034】
動翼2の端部には、高圧ガスを受けて動翼2を回転させるためのチップタービン15が取り付けられている。このチップタービン15は、ケーシング5内に設けられたチップタービン駆動用ガス通路16内まで突出する。そして、チップタービン駆動用ガス通路16の上流側は、チップタービン駆動用ガス発生源に接続され、下流側は、推力発生装置1の後方に向けて開放されている。
【0035】
一方、静翼3の内部には、高圧空気の通路である高圧空気通路9が設置されている。この高圧空気通路9の一端はケーシング5を貫通して高圧空気発生源10に接続されている。この高圧空気発生源10は高圧空気を発生させ、この高圧空気は、ケーシング5側から静翼3の内部を該静翼3の中心軸Cに向けて流れる。また、高圧空気発生源10からケーシング5の入り口までの間の高圧空気通路9には、該高圧空気の流量を調整する高圧空気流量調整弁11が設けられている。この高圧空気流量調整弁11は、制御装置であるECU12と電気的に接続され、該ECU12により高圧空気流量調整弁11が制御される。そして、高圧空気通路9の他端は、静翼3の中心軸の後端部に位置する高圧空気噴射ノズル13に接続されている。なお、この高圧空気発生源からの空気はチップタービン15駆動用として併用することも可能である。
【0036】
ここに、動翼2の中心軸、静翼3の中心軸、動翼中心軸4の中心線、ケーシング5の中心軸、高圧空気噴射ノズル13に接続される直前の高圧空気通路9の中心軸、高圧空気噴射ノズル13の中心軸は全て同一の線C上にある。
【0037】
このように構成された推力発生装置1では、チップタービン駆動用ガス通路16にチップタービン駆動用ガスが流れると、チップタービン15が駆動され、動翼2が動翼中心軸4の中心線を中心に回転する。この動翼2の回転により、空気が推力発生装置1の後方に流れ、また推力発生装置1の前方に向く推力が発生する。
【0038】
一方、静翼3、高圧空気通路9、および高圧空気噴射ノズル13は回転しない。そして、高圧空気流量調整弁11がECU12により開弁されると、高圧空気発生源10からの高圧空気が高圧空気通路9を流れて高圧空気噴射ノズル13に到達し、該高圧空気噴射ノズル13から推力発生装置1の後方へと高圧空気が噴射される。この高圧空気の噴射の反力により推力発生装置1の前方に向く推力が発生する。
【0039】
そして、実施例1と同様に本実施例では、推力を上昇させる必要が生じる例えば姿勢制御時に、応答性の高い高圧空気噴射を併用することができる。そして、ファンによる推力
が上昇するに従い高圧空気噴射による推力を減少させていき、要求された推力とファンによる推力とが等しくなったときに高圧空気の噴射を停止する。これにより、エネルギ変換効率の悪い高圧空気の噴射を極力抑えることができるので、高圧空気発生源10の小馬力化および小型軽量化を図ることができる。また、高圧空気通路9を静翼3内に設置し、高圧空気噴射ノズル13を静翼3の中心軸線上に設置しているので、推力発生装置1の小型化を図ることができる。
【0040】
また本実施例による推力発生装置1では、実施例1で説明した動翼駆動軸8、第1歯車6、および第2歯車7を必要とせず、高圧空気通路9を静翼3の内部に通すことができるので、より小型化を図ることができる。
【0041】
さらに、動翼中心軸4の中心軸線上に高圧空気噴射ノズル13を設置しているので、高騒音を発生させる高圧空気噴射ノズル13からの超高速噴流を、速度の低いファンの後流が包み込むようになり低騒音化を図ることができる。
【0042】
なお、推力制御については実施例1と同じなので説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1に係る飛翔体の推力発生装置の概略構成図である。
【図2】推力上昇時のファンによる推力と高圧空気噴射による推力との推移を示したタイムチャートである。
【図3】実施例2に係る飛翔体の推力発生装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0044】
1 推力発生装置
2 動翼
3 静翼
4 動翼中心軸
5 ケーシング
6 第1歯車
7 第2歯車
8 動翼駆動軸
9 高圧空気通路
10 高圧空気発生源
11 高圧空気流量調整弁
12 ECU
13 高圧空気噴射ノズル
15 チップタービン
16 チップタービン駆動用ガス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧空気を噴射する高圧空気噴射ノズルをファンの中心軸線上に備えることを特徴とする飛翔体の推力発生装置。
【請求項2】
前記高圧空気噴射ノズルへ高圧空気を供給するための通路である高圧空気通路をファンの中心軸にさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の飛翔体の推力発生装置。
【請求項3】
前記ファンの推力を要求推力まで上昇させる間に飛翔体全体としての推力が目標の推力となるように前記高圧空気噴射ノズルから高圧空気を噴射させることを特徴とする請求項1または2に記載の飛翔体の推力発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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