説明

飛翔害虫捕殺具

【課題】基材を複数枚貼り合せて積層した飛翔害虫捕殺具において、粘着剤の糊ダレおよび基材周囲への漏出(染み出し)を防止した捕殺具を提供すること。
【解決手段】複数の基材が、各基材間にポリブテン系樹脂を含む粘着剤が塗布された状態で積層されてなり、前記粘着剤が塗布された基材を1枚ずつ剥がして使用される飛翔害虫捕殺具において、飛翔害虫補殺具の側面がエマルジョン系接着剤で皮膜処理されたことを特徴とする、飛翔害虫捕殺具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛翔害虫を効果的に捕殺することができる捕殺具に関し、特に、粘着剤が塗布された基材を複数貼り合せて積層した飛翔害虫捕殺具において、粘着剤の糊ダレおよび基材(粘着板)周囲への漏出を防止した捕殺具を提供することにある。本発明の飛翔害虫捕殺具は、農林園芸用、家庭用、工場用、畜産用に広く展開しうるものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に農林園芸において、病害虫の防除にあたっては、化学農薬を使用する場合が多い。しかしながら、化学農薬を使用する場合は病害虫ばかりでなく人畜等の他の生物にも害を与える場合がある。近年、これらの化学薬剤の人畜に及ぼす影響あるいは環境汚染等が問題視されてきている。また、作業者自身の健康に対して悪影響を与える可能性があるといった欠点もある。そこで、環境保全、食への安全性の高まり、有機栽培の生産需要の高まりなどの理由で、化学農薬の使用を減らし、生物的防除、耕種的防除や、物理的防除による総合防除管理が実施されるようになってきている。
【0003】
そのうち物理的防除法においては、光による色の波長を利用する粘着トラップ板が多用されるようになってきている。また、ハエ捕り用としても粘着捕殺シートが利用されている。
従来の光による色の波長を利用する粘着トラップ板(約10cm幅×約25cm長)では、当初は10アール当たり5枚程度が使用されていたが、近年は大量捕殺を目的として10アール当たり害虫の発生量に応じて300〜1200枚が使用されるようになり、紙類やプラスチック板、あるいは、プラスチックフィルムなどの粘着捕殺シートが、現場に張りめぐられた紐やワイヤーに洗濯鋏等で吊るして使用される。当該粘着捕殺シートの使用量が多いことから、1枚1枚別々に粘着捕殺シートを用いるのではなくて、重層された粘着捕殺シートを現場で剥がしながら取り付けるようになってきている。
【0004】
しかし、従来のシート(非特許文献1)では、粘着剤が基材の横部からはみ出しており、個装袋にも付着し見栄えが悪く、袋からも取り出しにくいこと、粘着剤の流動につられて重層した粘着板がずれてしまうこと、などの問題点が発生していた。また、その運搬時および重層シートの引き剥がし時に粘着剤で手を汚してしまい、場合によっては作業着にも粘着剤を付着させてしまい、煩わしいものであった。また、粘着剤の塗布量が多いと粘着剤がたれて作物に付着するという問題もあった。一方で、粘着剤の塗布量が少ないと害虫が十分捕殺できないという問題もあった。
そこで、本発明者らは、シートに粘着剤を塗布する際に外縁に余白を設けることにより重ねても粘着剤がはみ出しにくい飛翔害虫捕殺具を開発した(特願2008−37704)。しかしながら、漏出量は減少したものの依然として粘着剤の漏出がありさらなる改善の必要があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】バイオコントロール vol10. No.2 ,p12-16(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、飛翔害虫誘引捕殺板の誘引捕殺能力は損なわずに、商品の保管・輸送時などの場面で荷重がかかっても粘着剤の糊ダレおよび基材周囲への漏出(染み出し)が起こりにくい飛翔害虫補殺具を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、複数の基材が、各基材間にポリブテン系樹脂を含む粘着剤が塗布された状態で積層されてなり、前記粘着剤が塗布された基材を1枚ずつ剥がして使用される飛翔害虫捕殺具において、飛翔害虫補殺具の側面がエマルジョン系接着剤で皮膜処理されたことを特徴とする、飛翔害虫捕殺具を提供する。
【0008】
ここで、基材としては平板状の基材が好ましく、フィルム、シート、板等が用いられる。材質はポリスチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、およびプラスチック等が用いられる。
【0009】
粘着剤は、ポリブテン系樹脂を含む粘着剤である。ポリブテン系樹脂を含む粘着剤は飛翔害虫を効率よく付着させることができる。ただし、飛翔害虫を捕獲できる程度の粘着力があれば、アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤など他の粘着剤を含んでもよい。また、害虫を効率よくトラップするために前記粘着剤中に害虫誘引剤を配合させておくことが好ましい。なお、害虫を誘引するために基材に色を付けておいてもよい。
【0010】
本発明の捕殺具は、基材の上にポリブテン系樹脂を含む粘着剤を塗布し、さらにその上に別の基材を載せ、この操作を所望量の基材について繰り返すことにより基材の積層体を作製し、この積層体の側面にエマルジョン系接着剤で皮膜処理を施すことによって作製することができる。
【0011】
粘着剤を基材に塗布する際には、基材の外縁に幅0.5〜5mmの余白が生じるように塗布することが好ましい。ただし、後述するような取り付け部を形成する場合には、基材上の取り付け部側の外縁は5mm以上の余白があってもよい。
【0012】
基材を積層させて得られる積層体の側面にはエマルジョン系接着剤で皮膜処理が施されるが、ここで「側面」とは、積層された複数の基材によって形成される厚み方向の面をいう。エマルジョン系接着剤は補殺具の全ての側面に塗布されていることが好ましいが、後述するように基材に取り付け部を設け、その周囲および上部には粘着剤を塗布しない場合は、取り付け部側の側面には皮膜処理がなされなくともよい。
皮膜処理に用いるものは、刷毛等で簡便に外周に塗布でき、速乾性があり、捕殺用粘着剤の漏出を抑えることのできる水性系のエマルジョン系接着剤が用いられるが、具体的には酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、アクリル樹脂系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンが、乾燥しやすく、乾燥硬化後においても、商品輸送時の振動や衝撃など、ある程度応力が生じた場合にも被覆を維持可能な柔軟性を有することから好ましく、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンおよびアクリル樹脂系エマルジョンがより好ましい。
エマルジョン系接着剤は、水に溶けないプラスチックが小さな粒になって水の中に分散しているという状態をとっており、被着材の隙間に浸透して、くさびのように硬化する「投錨効果」が期待できる接着剤であるため、本発明の目的に適合している。
【0013】
前記各基材には、前記飛翔害虫捕殺具を紐やワイヤーなどの取り付け部材に取り付けるための取り付け部が設けられ、該取り付け部とその周囲にも粘着剤が塗布されていないことが好ましい。取り付け部を設けることにより、紐やワイヤーなどに簡単に取り付けることができる。取り付け部は、貫通孔や、曲線状の切れ目などの形状が挙げられる。取り付け部とその周囲に粘着剤が塗布されないことで、基材を重ねても粘着剤が貫通孔や切れ目を通して外側に漏れないという利点がある。なお、取り付け部は飛翔害虫捕殺具の上部に設けることが好ましい。ここで、上部とは、捕殺具を地面に垂直方向に取り付けたときに上にくる部分を言う。
【0014】
基材は0.1mm以上の厚みであることが好ましい。基材厚みを0.1mm以上にすることにより、持ちやすく、取り付け等の作業をしやすくすることができる。基材厚みは0.3mm以上にすることがより好ましい。
【0015】
なお、本発明の捕殺具の捕殺対象となる「飛翔害虫」は特に制限されないが、広く各種農作物、樹木等に被害を与える害虫が挙げられ、カミキリムシ類、コガネムシ類、コナジラミ類、スリップス類、アブラムシ類、アザミウマ類、ハモグリバエ類、ハエ類、ウンカ類、ヨコバイ類、コナガ類等が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の捕殺具により、保管や商品輸送時などに粘着剤の糊ダレおよび基材周囲への漏出を防止でき、さらに、個装袋から基材(粘着板)を取り出しやすくなり、使用現場での設置作業を簡便化、迅速化することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の飛翔害虫捕殺具の基材の模式図。
【図2】本発明の飛翔害虫捕殺具の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の飛翔害虫捕殺具についてより具体的に説明する。ただし、本発明の飛翔害虫捕殺具は以下の態様には限定されない。
【0019】
図1に本発明の捕殺具1の基材10を示す。
基材10は四角形の平板であり、上部に取り付け部13となる孔が設けられている。そして、取り付け部13より下方において、基材の外縁に幅0.5〜5mmの余白部12が形成されるように粘着剤が塗布されている(粘着剤塗布部11)。
【0020】
図2に、基材10を複数枚積層させて得られる本発明の捕殺具1の模式図を示す。
上記のように粘着剤が塗布された基材10を、その粘着剤塗布面と他の基材の粘着剤非塗布面が重なるように複数枚重ねて基材の積層体を得、この積層体の側面(厚み方向の面)にエマルジョン系接着剤で皮膜処理を施して皮膜処理面14とすることにより、本発明の捕殺具1が得られる。なお、一番上には粘着剤面がくるため、シートを付して粘着剤面を覆うことが好ましい。
本発明の捕殺具は側面がエマルジョン系接着剤によって皮膜処理されているため、粘着剤がはみ出さず、取り扱いがしやすい。
【0021】
本発明の捕殺具は、使用時に一枚ずつ基材をはがし、各基材を取り付け部13により、ビニールハウスや農耕地の作物の上に張られた紐などに吊るしたり、引っ掛けたりして使用することが出来る。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を参照してより具体的に説明する。
以下の実施例では、ポリスチレンを素材とする基材(縦25.8cm、横10cm、厚み0.3mm)を用いた飛翔害虫捕殺具を使用した。図1に示すように、基材の上部には取り付け部となる孔を設け、孔より下の部分において、基材上にポリブテン系樹脂を含む粘着剤を外縁に3mmの余白ができるように塗布し、これを12枚積層して基材の積層体を得た。
【0023】
参考例
皮膜処理剤として合成ゴム系接着剤(商品名:コニシ株式会社製、ボンドGPクリヤー)を使用し、刷毛を用いて上記積層体の側面(取り付け部側以外の3つの側面)に塗布し、30分間自然乾燥させて飛翔害虫補殺具を得た。
その後、5kgの重しを乗せ、30℃24時間後の粘着剤の漏出を目視調査した。
【0024】
実施例1
皮膜処理剤として酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤(水性系接着剤:商品名:コニシ株式会社製、ボンド木工用・水性)を使用し、刷毛を用いて上記積層体の側面(取り付け部側以外の3つの側面)に塗布し、30分間自然乾燥させて飛翔害虫補殺具を得た。
その後、補殺具の上に5kgの重しを乗せ30℃で24時間おいた後、粘着剤の漏出を目視調査した。
【0025】
実施例2
皮膜処理剤としてアクリル樹脂エマルジョン(コーキング剤:商品名:ヤヨイ化学工業株式会社製、ジョイントコーク・A)を使用し、刷毛を用いて上記積層体の側面(取り付け部側以外の3つの側面)に塗布し、30分間自然乾燥させて飛翔害虫補殺具を得た。
その後、補殺具の上に5kgの重しを乗せ30℃で24時間おいた後、粘着剤の漏出を目視調査した。
【0026】
比較例1
皮膜処理剤としてアクリル系合成樹脂塗料(商品名:SOFT99コーポレーション社製、ボデーペン)を使用し、使用前にスプレー缶をよく振った後、ビニール袋の中でプラスチック容器に近接スプレーし、容器に溜まった塗料を、刷毛を用いて上記積層体の側面(取り付け部側以外の3つの側面)に塗布し、30分間自然乾燥させて飛翔害虫補殺具を得た。
その後、補殺具の上に5kgの重しを乗せ30℃で24時間おいた後、粘着剤の漏出を目視調査した。
【0027】
比較例2(従来製品)
上記積層体について皮膜処理を行わず、そのままの状態で補殺具の上に5kgの重しを乗せ、常温で24時間おいた後、粘着剤の漏出を目視調査した。
【0028】
結果を表1に示した。
【表1】

【符号の説明】
【0029】
1…飛翔害虫捕殺具、10…基材、11…粘着剤塗布部、12…余白、13:取り付け部、14…皮膜処理面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基材が、各基材間にポリブテン系樹脂を含む粘着剤が塗布された状態で積層されてなり、
前記粘着剤が塗布された基材を1枚ずつ剥がして使用される飛翔害虫捕殺具におい て、
飛翔害虫補殺具の側面がエマルジョン系接着剤で皮膜処理されたことを特徴とする 、
飛翔害虫捕殺具。
【請求項2】
前記複数の基材はポリブテン系樹脂を含む粘着剤が基材の外縁に幅0.5mm〜5mmの余白部が設けられるように塗布された状態で積層される、請求項1記載の飛翔害虫捕殺具。
【請求項3】
前記基材がポリオレフィン系樹脂またはプラスチックのいずれかである、請求項1または2記載の飛翔害虫捕殺具。
【請求項4】
前記エマルジョン系接着剤が、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、アクリル樹脂系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンのいずれかである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の飛翔害虫捕殺具。
【請求項5】
前記エマルジョン系接着剤が、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンまたはアクリル樹脂系エマルジョンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の飛翔害虫捕殺具。
【請求項6】
表面に粘着剤が塗布された複数の基材を積層する工程、および積層された基材の側面にエマルジョン系接着剤を用いて皮膜処理することを特徴とする、飛翔害虫捕殺具の製造方法。
【請求項7】
前記エマルジョン系接着剤が、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、アクリル樹脂系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンおよび酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンのいずれかである、請求項6記載の飛翔害虫捕殺具の製造方法。
【請求項8】
前記エマルジョン系接着剤が、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンまたはアクリル樹脂系エマルジョンである、請求項6記載の飛翔害虫捕殺具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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