説明

食い違い修正用治具

【課題】支点部材の当接部位を修正すべきフランジの板面の基準面となるダイヤフラムの板面に当接させ、押圧ボルトを締付回動することによりフランジの修正すべき板面を接触部に強制的に接触させ、フランジとダイヤフラムとの突き合わせ部分の食い違いを容易に修正することができる。
【解決手段】治具本体1はフランジFの食い違いを修正すべき板面Fに接触可能な接触部2aをもつ受け部材2及びフランジの修正すべき板面と背中合わせの反対側の板面Fを押圧してフランジの修正すべき板面を接触部に接触させる押圧ボルト3が螺着された保持部材4を備え、治具本体にフランジの修正すべき板面の基準面となるダイヤフラムの板面に当接可能な支点部材6を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば鋼構造物における鉄骨柱のダイヤフラムと梁鋼材のフランジとを溶接する際に用いられ、ダイヤフラムと梁鋼材のフランジとの突き合わせ部に生じている食い違いを修正する食い違い修正用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の食い違い修正用治具として、例えば、突き合わせ状態の一対のH形鋼のフランジ間溶接に際し、フランジ突き合わせ部分の相互の芯ずれやウエブ幅方向における各直角度の不具合など、いわゆる食い違いを修正するため、一方のフランジに治具本体を挟着状態に取り付け、この治具本体に他方のフランジを変位させる変位可動部を設けた構造のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3125686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来構造の場合、食い違い修正作業にあっては、食い違い量を目視等により確認しながら変位可動部による移動量を調節する必要があり、それだけ、修正作業が厄介であると共に修正のための作業時間が掛かることがあり、又、変位可動部のフランジの内面を押圧する部位は構造上比較的大きくなり易く、これに対し、鉄骨柱からのダイヤフラムの突出量は例えば25mm程度と小さく、しかも、ダイヤフラムの板面には隅肉溶接によるビードも存在していて変位可動部が押圧する部位の接触面積は更に狭くなっており、それだけ、使用し難かったり、使用できないことがあるという不都合を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこれらの不都合を解決することを目的とするもので、本発明のうちで、請求項1記載の発明は、鉄骨柱のダイヤフラムと梁鋼材のフランジとの突き合わせ部分に生じているダイヤフラムの板面とフランジの板面との間の食い違いを修正する治具であって、上記フランジに嵌脱自在な治具本体からなり、該治具本体は該フランジの食い違いを修正すべき板面に接触可能な接触部をもつ受け部材及び該フランジの修正すべき板面と背中合わせの反対側の板面を押圧して該フランジの修正すべき板面を該接触部に接触させる押圧ボルトが螺着された保持部材を備えてなり、該治具本体に該フランジの修正すべき板面の基準面となる上記ダイヤフラムの板面に当接可能な支点部材を設け、該ダイヤフラムの基準面となる板面に当接する支点部材の当接部位と該フランジの修正すべき板面に接触する接触部との変位を零を含む所定寸法に設定してなることを特徴とする食い違い修正用治具にある。
【0006】
又、請求項2記載の発明にあっては、上記押圧ボルトの先端部に球状運動可能な接面部を設けてなることを特徴とするものであり、又、請求項3記載の発明は、上記押圧ボルトは上記フランジの長手方向に並列して二個設けられていることを特徴とするものであり、又、請求項4記載の発明は、上記支点部材の当接部位は先尖り状に形成されていることを特徴とするものであり、又、請求項5記載の発明は、上記治具本体に略C形状の補強部材を配設してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上述の如く、請求項1記載の発明にあっては、治具本体をフランジに嵌合し、支点部材の当接部位を修正すべきフランジの板面の基準面となるダイヤフラムの板面に当接させると共に押圧ボルトを締付回動すると、受け部材の接触部の辺縁が修正すべきフランジの板面に当接して治具本体は若干斜め状に配置され、この状態で押圧ボルトを締付回動してフランジの修正すべき板面を上記接触部に強制的に接触させ、このとき、支点部材の当接部位と接触部との変位は零を含む所定寸法に設定されているので、変位を零とすれば、フランジの修正すべき板面とダイヤフラムの基準面となる板面とは面一状となり、変位を所定寸法にすれば、ダイヤフラムの板面よりフランジの板面が所定寸法下がった段差状となり、これによりフランジとダイヤフラムとの突き合わせ部分に生じている食い違いを容易に修正することができ、支点部材の存在により接触面積の狭いダイヤフラムと梁鋼材との食い違い修正にも適用することができ、食い違い修正の作業性を向上することができる。
【0008】
又、請求項2記載の発明にあっては、上記押圧ボルトの先端部に球状運動可能な接面部を設けてなるから、フランジの押圧される板面と押圧ボルトのボルト軸線との傾き角度に応じて接面部が球状運動して両者の接触状態を良好に保持することができ、又、請求項3記載の発明にあっては、上記押圧ボルトは上記フランジの長手方向に並列して二個設けられているから、フランジの押圧される板面の押圧を良好に行うことができると共に二個の押圧ボルトを交互に締付回動することによりフランジからの治具本体の不測の離脱を防ぐことができ、又、請求項4記載の発明にあっては、上記支点部材の当接部位は先尖り状に形成されているから、ダイヤフラムの幅狭い板面と支点部材との当接状態を良好にすることができると共に当接を容易に行うことができて作業性を向上することができ、又、請求項5記載の発明にあっては、上記治具本体に略C形状の補強部材を配設してなるから、治具本体の剛性及び機械的強度を高めることができ、食い違い修正精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の第一形態例の全体斜視図である。
【図2】本発明の実施の第一形態例の全体斜視図である。
【図3】本発明の実施の第一形態例の使用状態の斜視図である。
【図4】本発明の実施の第一形態例の使用状態の部分平面図である。
【図5】本発明の実施の第一形態例の使用状態の断面図である。
【図6】本発明の実施の第一形態例の使用状態の断面図である。
【図7】本発明の実施の第一形態例の使用状態の断面図である。
【図8】本発明の実施の第一形態例の使用状態の断面図である。
【図9】本発明の実施の第二形態例の使用状態の断面図である。
【図10】本発明の実施の第二形態例の使用状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1乃至図10は本発明の実施の形態例を示し、図1乃至図8は第一形態例、図9、図10は第二形態例である。
【0011】
図1乃至図8の第一形態例において、この場合、図3、図4、図5の如く、鉄骨柱TにダイヤフラムDが突設され、この場合、通しダイヤフラム構造となっており、鉄骨柱Tの側面に連結プレートTが溶接により突設され、連結プレートTに複数個の通穴Tが形成され、一方、梁鋼材HはウエブW及び上下のフランジF・FからなるH型鋼であって、この梁鋼材HのウエブWに通穴Wが形成され、鉄骨柱Tの連結プレートTと梁鋼材HのウエブWとを重ね合わせ、通穴T及び通穴WにボルトBを挿通し、ボルトBにナットNを螺着し、これによりダイヤフラムDとフランジFとを突き合わせ状に連結するようにしている。
【0012】
Kは食い違い修正用治具であって、図1、図2、図4の如く、上記梁鋼材HのフランジFに嵌脱自在な治具本体1からなり、治具本体1は上記フランジFの食い違いを修正すべき板面Fに接触可能な接触部2aをもつ受け部材2及びフランジFの修正すべき板面Fと背中合わせの反対側の板面Fを押圧してフランジFの修正すべき板面Fを上記接触部2aに接触させる押圧ボルト3が螺着された保持部材4並びに受け部材2と保持部材4とを連結する側部材5を備え、これら三部材が一体に形成されてなり、この治具本体1にフランジFの修正すべき板面Fの基準面となる上記ダイヤフラムDの板面Dに当接可能な支点部材6が設けられ、かつ、このダイヤフラムDの基準面となる板面Dに当接する支点部材6の当接部位6aとフランジFの修正すべき板面Fに接触する接触部2aとの変位Eを想像線Pのように零(E=0)に設定している。尚、この接触部2aは面となっているが受け部材2に凸部状等の他の接触部材を設けた場合には、その部位が接触部2aとなるものである。
【0013】
この場合、図5の如く、上記押圧ボルト3の先端部に球状運動可能な接面部Rを設けられ、かつ、この場合、上記押圧ボルト3は上記フランジFの長手方向に並列して二個設けられている。
【0014】
又、この場合、上記支点部材6の当接部位6aは先尖り状に形成され、この場合、上記治具本体1の受け部材2、保持部材4及び側部材5の外周に略C形状の補強部材1aを配設している。
【0015】
この実施の第一形態例は上記構成であるから、図4、図5、図6の如く、鉄骨柱Tの連結プレートTと梁鋼材HのウエブWとを重ね合わせ、通穴T及び通穴WにボルトBを挿通し、ボルトBにナットNを仮締め状態に螺着し、これによりダイヤフラムDとフランジFとを突き合わせ状に仮締め連結し、そして、治具本体1をフランジFに嵌合し、支点部材3の当接部位3aを修正すべきフランジFの板面Fの基準面となるダイヤフラムDの板面Dに当接させると共に押圧ボルト3を締付回動すると、修正すべき板面Fと板面Dとの食い違いが存在することにより、図5、図7の如く、治具本体1の支点部材6から離れた位置の接触部2aの辺縁2bがフランジFの板面Fに当接し、フランジFの板面Fと接触部2aとの間には三角状の隙間Qが形成されて、治具本体1は若干斜め状に配置され、この状態で押圧ボルト3・3を更に締付回動し、押圧ボルト3・3はフランジFの修正すべき板面Fと背中合わせの反対側の板面Fを押圧し、図8の如く、この押圧によってフランジFを上向きに変位してフランジFの修正すべき板面Fを上記接触部2aに強制的に接触させ、隙間Qが無くなって治具本体1は斜めの状態から水平状態に起きることになり、この場合、図7の如く、支点部材6の当接部位6aと接触部2aとの変位Eは零に設定されているので、フランジFの修正すべき板面FとダイヤフラムDの基準面となる板面Dとは想像線Pのように面一状となり、これによりフランジFとダイヤフラムDとの突き合わせ部分Mに生じている食い違いを容易に修正することができ、食い違い修正後において、仮締め状態のボルトB及びナットNを本締めしてフランジFと鉄骨柱TのダイヤフラムDとを溶接することになり、溶接後に治具本体1をフランジFから取り外すことになる。
【0016】
したがって、治具本体1をフランジFに嵌合し、支点部材3の当接部位3aを修正すべきフランジFの板面Fの基準面となるダイヤフラムDの板面Dに当接させると共に押圧ボルト3を締付回動すると、受け部材2の接触部2aの辺縁が修正すべきフランジFの板面Fに当接して治具本体1は若干斜め状に配置され、この状態で押圧ボルト3・3を締付回動してフランジFの修正すべき板面Fを上記接触部2aに強制的に接触させ、このとき、支点部材の当接部位と接触部との変位Eは零に設定されているので、フランジFの修正すべき板面FとダイヤフラムDの基準面となる板面Dとは面一状となり、これによりフランジFとダイヤフラムDとの突き合わせ部分Mに生じている食い違いを容易に修正することができ、かつ、支点部材6の存在により接触面積の狭いダイヤフラムDの食い違い修正にも適用することができ、食い違い修正の作業性を向上することができる。
【0017】
この場合、上記押圧ボルト3の先端部に球状運動可能な接面部Rを設けてなるから、フランジFの押圧される板面Fと押圧ボルト3のボルト軸線との傾き角度に応じて接面部Rが球状運動して両者の接触状態を良好に保持することができ、又、この場合、上記押圧ボルト3は上記フランジFの長手方向に並列して二個設けられているから、フランジFの押圧される板面Fの押圧を良好に行うことができると共に二個の押圧ボルト3・3を交互に締付回動することによりフランジFからの治具本体1の不測の離脱を防ぐことができ、又、この場合、上記支点部材6の当接部位6aは先尖り状に形成されているから、ダイヤフラムDの幅狭い板面Dと支点部材6との当接状態を良好にすることができると共に当接を容易に行うことができて作業性を向上することができ、又、この場合、上記治具本体1に略C形状の補強部材1aを配設してなるから、治具本体1の剛性及び機械的強度を高めることができ、食い違い修正精度を高めることができる。
【0018】
図9、図10の第二形態例は別例構造を示し、上記第一形態例においては、ダイヤフラムDの基準面となる板面Dに当接する支点部材6の当接部位6aとフランジFの修正すべき板面Fに接触する接触部2aとの変位Eを零(E=0)に設定したが、この場合、接触部2aからの想像線Pと当接部位6aからの想像線Cとの差のようにダイヤフラムDの板面DよりフランジFの板面Fが所定寸法分下がった変位Eとなるように設定している。
【0019】
したがって、図9の如く、支点部材3の当接部位3aを修正すべきフランジFの板面Fの基準面となるダイヤフラムDの板面Dに当接させると共に押圧ボルト3を締付回動すると、受け部材2の接触部2aの辺縁が修正すべきフランジFの板面Fに当接して治具本体1は若干斜め状に配置され、この状態において押圧ボルト3・3を更に締付回動し、押圧ボルト3・3はフランジFの修正すべき板面Fと背中合わせの反対側の板面Fを押圧し、図10の如く、この押圧によってフランジFを上向きに変位してフランジFの修正すべき板面Fを上記接触部2aに強制的に接触させ、隙間Qが無くなって治具本体1は斜めの状態から水平状態に起きることになり、この場合、図9の如く、支点部材6の当接部位6aと接触部2aとの変位Eは所定寸法に設定されているので、図10の如く、ダイヤフラムDの板面DよりフランジFの板面Fが所定寸法下がった段差状となり、これによりフランジFとダイヤフラムDとの突き合わせ部分Mに生じている食い違いを容易に修正することができ、支点部材6の存在により接触面積の狭いダイヤフラムDと梁鋼材Hとの食い違い修正にも適用することができ、食い違い修正の作業性を向上することができる。
【0020】
尚、上記第一形態例及び第二形態例をウエブWを境にして反対側のフランジFに上下逆にして使用したりすることもでき、この場合、治具本体1が上下逆に配置されることになり、接触部2aは上記食い違いを修正すべき板面Fとは背中合わせの反対側の板面に接触し、押圧ボルト3・3は上記修正すべき板面Fを押圧する状態となり、よって、フランジFは上側に位置する押圧ボルト3・3により下向きに押圧されて食い違い修正がなされることになる。
【0021】
又、図示省略しているが、上記第一形態例とは左右対称の構造を備えている食い違い修正用治具Kを製作し、この食い違い修正用治具Kの使用に当たって、第一形態例及び第二形態例と同位置のフランジFに第一形態例及び第二形態例とは上下逆にしてフランジFに治具本体1を嵌合し、支点部材6の当接部位6aを上記板面Fと反対側の板面に当接し、上記同様に、上側に位置する押圧ボルト3・3によってフランジFの上記板面Fを下向きに押圧して使用することにより上記第一形態例及び第二形態例と同様な作用効果を得ることができる。
【0022】
又、本発明は上記実施の形態例に限られるものではなく、治具本体1、受け部材2、押圧ボルト3、保持部材4及び支点部材6の形態は適宜変更して設計されるものである。
【0023】
以上、所期の目的を充分達成することができる。
【符号の説明】
【0024】
K 食い違い修正用治具
T 鉄骨柱
D ダイヤフラム
H 梁鋼材
F フランジ
板面
板面
板面
E 変位
R 接面部
M 突き合わせ部分
1 治具本体
1a 補強部材
2 受け部材
2a 接触部
3 押圧ボルト
4 保持部材
6 支点部材
6a 当接部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱のダイヤフラムと梁鋼材のフランジとの突き合わせ部分に生じているダイヤフラムの板面とフランジの板面との間の食い違いを修正する治具であって、上記フランジに嵌脱自在な治具本体からなり、該治具本体は該フランジの食い違いを修正すべき板面に接触可能な接触部をもつ受け部材及び該フランジの修正すべき板面と背中合わせの反対側の板面を押圧して該フランジの修正すべき板面を該接触部に接触させる押圧ボルトが螺着された保持部材を備えてなり、該治具本体に該フランジの修正すべき板面の基準面となる上記ダイヤフラムの板面に当接可能な支点部材を設け、該ダイヤフラムの基準面となる板面に当接する支点部材の当接部位と該フランジの修正すべき板面に接触する接触部との変位を零を含む所定寸法に設定してなることを特徴とする食い違い修正用治具。
【請求項2】
上記押圧ボルトの先端部に球状運動可能な接面部を設けてなることを特徴とする請求項1記載の食い違い修正用治具。
【請求項3】
上記押圧ボルトは上記フランジの長手方向に並列して二個設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の食い違い修正用治具。
【請求項4】
上記支点部材の当接部位は先尖り状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の食い違い修正用治具。
【請求項5】
上記治具本体に略C形状の補強部材を配設してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の食い違い修正用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−224643(P2011−224643A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99130(P2010−99130)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(310004806)株式会社北陸製作所 (2)