説明

食品カビの発生防止方法

【課題】 食品本来の風味や食感を損うことなく、食品カビの発生,増殖を長期間に亘って抑制できる食品カビの発生防止方法を提供する。
【解決手段】 マイタケの傘部3と一緒に食パン2を容器1内に保管することにより、マイタケの傘部3から蒸発する殺菌成分のガスによって食品カビの発生,増殖を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 この発明は、食品カビの発生防止方法に関し、詳しくは、食品本来の風味や食感を損うことなく、食品カビの発生,増殖を長期間に亘って抑制できる食品カビの発生防止方法に関する。
【0002】
【従来の技術】 古くから料理の薬味や香辛料として使用されているニンニク、タマネギ、ショウガ、ワサビ等には、ある種の殺菌成分が含まれており、そのエキスには殺菌作用のあることが一般に知られている。また、シイタケから抽出されるエキスには、麺類のカビの増殖を抑制する機能のあることが開示されている(特開昭51−12953号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】 ところで、前述したニンニク、タマネギ、ショウガ、ワサビ、シイタケ等においては、これらから抽出されるエキスが殺菌作用を発揮する。従って、例えばパン等の食品カビの増殖を抑制するためには、予めパン生地に前記エキスを混入しておくか、あるいは焼き上ったパンの表面にエキスを散布する等の必要がある。しかしながら、このような方法では、パン等の食品の本来の風味や食感を損うという問題がある。
【0004】そこで、本願の発明者は、キノコ類について食品カビの殺菌成分の有無を鋭意研究した結果、マイタケには食品カビの殺菌成分が含まれており、この殺菌成分がマイタケの傘部から蒸発することを発見し、この発明を完成するに至った。すなわち、この発明は、食品本来の風味や食感を損うことなく、食品カビの発生,増殖を長期間に亘って抑制できる食品カビの発生防止方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】 前記の目的を達成するため、この発明に係る食品カビの発生防止方法は、マイタケの傘部から蒸発する殺菌成分のガスによって、食品カビの発生,増殖を抑制することを特徴とする。具体的には、マイタケの傘部と一緒に食品を容器内空間に保存することを特徴とする。収容する食品としては、少なくともパン類または餅類が好適である。
【0006】この発明の食品カビの発生防止方法においては、マイタケの傘部から蒸発する殺菌成分のガス中に食品が置かれることにより、食品に対する食品カビの発生,増殖が抑制される。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、この発明に係る食品カビの発生防止方法を、図面を参照して説明する。なお、参照する図面において、図1は容器内の食パンおよびマイタケの傘部の収容状態を示す断面図である。図2は容器内の丸餅およびマイタケの収容状態を示す断面図である。
【0008】この発明に係る食品カビの発生防止方法は、マイタケの傘部から蒸発する殺菌成分のガスによって、食品カビの増殖を抑制することを特徴とする。具体的には、マイタケの傘部と一緒に食品を容器内空間に保存することを特徴とする。
【0009】使用するマイタケは、タコウキン科の食用キノコであり、通常、ナラ、栗、シイ等の老木の根株の際に自生するが、近年、オガクズ栽培によって盛んに栽培されている。このマイタケは、肉質の薄い扇子状をなして重なり合う多数の薄茶色の傘を有している。
【0010】前記マイタケの成分は、四訂日本食品標準成分表(科学技術庁資源調査会編)によれば、水分=91g、たんぱく質=3.7g、脂質=0.7g、糖質=2.4g、繊維=1.4g、灰分=0.8g、カルシウム=1mg、リン=130mg、鉄=0.5mg、ナトリウム=1mg、カリウム=330mg、ビタミンB1=0.25mg、ビタミンB2=0.49mg、ナイアシン=9.1mgである。
【0011】マイタケの傘部から蒸発する殺菌成分は、未だ特定されていないが、マイタケが食用されている以上、人体に無害である。そして、この殺菌成分は、デンプン質の食品に広く見られる青カビに対し、その発生,増殖を抑制する作用が極めて高い。なお、人体に無害な殺菌成分としては、銀イオンAg+、銅イオンCu2+、亜鉛イオンZn2+等の重金属イオンが知られている。
【0012】保存する食品は、特に限定されないが、デンプン質の加工食品、例えばパン類や餅類、麺類などが好適である。パン類としては、食パンやフランスパンの他、各種の菓子パンが挙げられる。また、餅類としては、丸餅や切餅の他、団子なども挙げられる。
【0013】容器としては、マイタケの傘部と一緒に食品を容器内空間に保存できる限り、いかなる形状の容器も使用できる。例えば、ガラス製の蓋付き丸形容器や、合成樹脂製の蓋付き角型容器を使用できる。
【0014】この発明の食品カビの発生防止方法によれば、マイタケの傘部から蒸発する殺菌成分のガス中に食品が置かれることにより、食品カビ、特に青カビの発生,増殖が抑制される。従って、食品本来の風味や食感を損うことなく、食品カビの発生,増殖を長期間に亘って抑制することができる。
【0015】
【実施例】[実施例1〜4]図1に示すように、容器1内に食パン2とマイタケの傘部3のみを一緒に収容し、食パン2にカビが発生するまでの経過日数を調べた。容器1が置かれた室内の温度および湿度は表1に示すとおりである。
【0016】
【表1】


【0017】使用した容器1は、合成樹脂製の蓋付き容器(タケヤ化学工業(株)製)であり、抗菌処理は施されていない。容器1の内容積は1,400ccである。容器本体1Aはポリカーボネート樹脂製であり、その耐熱温度は140℃、耐冷温度は−30℃のである。また、蓋1Bはポリエチレン樹脂製であり、その耐熱温度は70℃、耐冷温度は−30℃である。
【0018】食パン2は新鮮なものを使用し、容器1内の片側に寄せて立掛けた。一方、マイタケの傘部3は、新鮮な秋田産マイタケから切分けて使用し、アルミホイル4を受皿として容器本体1Aの底に置いた。そして、食パン2に直接接触することがないように、マイタケの傘部3は食パン2から離して置いた。
【0019】実施例1においては、食パン30gに対してマイタケの傘部のみを30g一緒に収容し、実施例2においては、食パン35gに対してマイタケの傘部のみを35g一緒に収容し、実施例3においては、食パン35gに対してマイタケの傘部のみを25g一緒に収容し、実施例4においては、食パン35gに対してマイタケの傘部のみを45g一緒に収容した。
【0020】比較例1では、実施例1に対してマイタケの傘部を取り除き食パンのみとした。また、比較例2では、マイタケの傘部30gを茎付きの全マイタケ30gに変更し、比較例3では、マイタケの傘部30gをマイタケの茎部マイタケ30gに変更した。
【0021】上記条件により食パンにカビが発生するまでの日数を調べたところ、実施例1〜実施例4はいずれも12日目まではカビは発生せず、13日目になって青カビが発生した。一方、比較例1〜3ではいずれも5日目には青カビが発生した。結果は表2に示すとおりである。
【0022】
【表2】


【0023】[実施例5〜7]図2に示すように、容器1内に丸餅5とマイタケの傘部3のみを一緒に収容し、丸餅5にカビが発生するまでの経過日数を調べた。この実施例5では、1個40gの丸餅5に対してマイタケの傘部のみを40g一緒に収容し、実施例6では、マイタケの傘部のみを20gに変更したほか多実施例5と同じ条件であり、実施例7では、マイタケの傘部のみを50gに変更した他は実施例5と同じ条件である。比較例4では、丸餅のみを容器に収容した。
【0024】上記条件により食パンと同様に、丸餅5にカビが発生するまでの経過日数を調べた。容器が置かれた室内の温度および湿度は表3に示すとおりである。
【0025】
【表3】


【0026】結果は、実施例5〜実施例7のいずれも13日目まではカビは発生せず、14日目になって白カビが発生した。一方、丸餅のみを容器に収容した比較例4では3日目には青カビが発生した。結果は表4に示すとおりである。
【0027】
【表4】


【0028】上記結果から、食パン2に発生するカビの発生防止には、マイタケの傘部3のみが有効に機能し、茎部には発生防止機能の無いことが判明した。そして、マイタケの傘部3は、食パン2に発生する青カビ等を最長12日間にわたって発生防止できることが判明した。
【0029】また、実施例3について考察した結果、マイタケの傘部3は、食パン2の70%程度の重量であっても最長12日間にわたって青カビ等を発生防止できることが判明した。
【0030】さらに、実施例5〜7について考察した結果、マイタケの傘部3は、丸餅5に発生するカビの発生防止にも有効に機能し、丸餅5の75%程度の重量であっても青カビ等を最長13日間にわたって発生防止できることが判明した。
【0031】実施例4と同一の条件下における11目の食パン2と、実施例7と同一の条件下における12目の丸餅5を供試料「食パン」および「餅」として横浜市衛生研究所(横浜市磯子区滝頭1−2−17)にカビの食品検査を依頼したところ、その何れについても「陰性」であるとの検査成績を得た(食細依No.134 衛研第2592号)。
【0032】
【発明の効果】以上説明したとおり、この発明の食品カビの発生防止方法によれば、マイタケの傘部から蒸発する殺菌成分のガス中に食品が置かれることにより、食品に対する食品カビの発生,増殖が抑制される。従って、食品本来の風味や食感を損うことなく、食品カビの発生,増殖を長期間に亘って抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による食品カビの発生防止方法の実施状態として、容器内の食パンおよびマイタケの傘部の収容状態を示す断面図である。
【図2】容器内の丸餅およびマイタケの傘部の収容状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 容器
1A 容器本体
1B 蓋
2 食パン
3 マイタケの傘部
4 アルミホイル
5 丸餅

【特許請求の範囲】
【請求項1】 マイタケの傘部から蒸発する殺菌成分のガスによって、食品カビの発生、増殖を抑制することを特徴とする食品カビの発生防止方法。
【請求項2】 マイタケの傘部と一緒に食品を容器内空間に保存することを特徴とする食品カビの発生防止方法。
【請求項3】 前記食品が、少なくともパン類または餅類であることを特徴とする請求項2に記載の食品カビの発生防止方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3013895号(P3013895)
【登録日】平成11年12月17日(1999.12.17)
【発行日】平成12年2月28日(2000.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−309656
【出願日】平成10年10月30日(1998.10.30)
【審査請求日】平成10年10月30日(1998.10.30)
【出願人】(598150008)
【参考文献】
【文献】特開 平3−219872(JP,A)