説明

食品用耐油性シート

【課題】
フライドポテトやクッキー等の油分を含む食品の包装等に利用可能な耐油性に極めて優れた食品用耐油性シートを提供する。
【解決手段】
JIS P−8121に準じてパルプ濃度0.03質量%で測定されるパルプのろ水度(カナダ標準フリーネス)が450ml以下である木材パルプのみからなる繊維シートであって、JIS P−8146に準じて測定されるテレビン油の浸透時間が50〜3000秒であることを特徴とする食品用耐油性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維化パルプを用いた食品用耐油性シートに関するものである。さらに詳しく述べるならば、本発明は主としてフライドポテトやクッキー等の油分を含む食品の包装等に利用可能な食品用耐油性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハンバーガー、フライドポテト、フライドチキン等のファーストフード食品や、天ぷら、トンカツ、サラダ等の惣菜類に代表されるような調理済み食品、特に食用油を使用して揚げられた食品の需要が増加している。これらを店頭において包装する場合、その包装材料には、包装材料から外部に油分が染み出さないことが要求される。
【0003】
従来、耐油性の包装材料には耐油剤が使用されてきたが、この耐油剤としてはフッ素系樹脂(リン酸エステル型、ポリアクリル酸エステル型)やワックスを使用するものが主流となっている(非特許文献1)。水溶性フッ素樹脂を使用して紙に耐油性を付与する方法としては、フッ素樹脂をパルプに混合してから抄紙する内添法とサイズプレスまたはコーター等により塗布または含浸する外添法が知られている(特許文献1、特許文献2)。従来から、フッ素系樹脂を含浸した紙は、著しく耐油性に優れているが、フッ素系樹脂自体が高価であること等から、得られる耐油紙の用途が限られ、特に内添法の場合には紙力が低下するという問題がある。一方、ワックス紙は、溶融状態に保持されたワックスを紙表面に塗布したり、含浸したりして製造されている。しかしながら、最近ワックス紙を食品包装に使用した場合、食品にワックスが移行するという研究報告があり、例えば、トフィーという菓子では、食品の中に0.7g/kg(食品)ものワックスが検出されている(非特許文献2)。このようにワックス紙ではワックスの食品への移行という問題がある。また、フッ素系化合物を使用した耐油剤を使用した耐油紙を使用し、レンジ等で100℃以上の高温で処理した際に、人体に蓄積され害を及ぼすガス(フッ化アルコール系化合物)が発生することが明らかになり、フッ素系樹脂の耐油剤の使用が大きな問題となっている。
そこで、これら耐油剤を使わないで、特定の保水度を有する微細繊維化パルプを全原料パルプ中に特定量含有する透明紙が耐油性に優れることが知られているが、油分を多く含む食品用に使用する耐油紙としては耐油性が不充分であった(特許文献3)。
上記の理由から、耐油剤を使わないで、食品用として優れた耐油性を示す安価な基材は提供されていないのが現状である。
【0004】
【非特許文献1】紙加工便覧編集委員会編「最新 紙加工便覧」株式会社テックタイムス発行、昭和63年8月20日、594〜598頁
【非特許文献2】Laurence Castile et. al, Food, Additives and Contaminants, Vol.11,No.1, 79(1994).
【特許文献1】特開昭55−142796号公報
【特許文献2】特開昭57−191399号公報
【特許文献3】特開平08−188980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐油剤を必要とせず、特定のろ水度を有するパルプ繊維を用いて抄紙することにより、食品用途として優れた耐油性を示す低価格の食品用耐油性シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の(1)〜(3)の構成を採用する。
(1)JIS P−8121に準じてパルプ濃度0.03質量%で測定されるパルプのろ水度(カナダ標準フリーネス)が450ml以下である木材パルプのみからなる繊維シートであって、JIS P−8146に準じて測定されるテレビン油の浸透時間が50〜3000秒であることを特徴とする食品用耐油性シート。
【0007】
(2)木材パルプの長さ加重平均繊維長が0.3〜0.8mmである上記(1)に記載の食品用耐油性シート。
【0008】
(3)食品用耐油性シートの密度が0.7〜1.4g/cmである上記(1)または(2)に記載の食品用耐油性シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、高度に叩解を進めたパルプを抄紙し、必要に応じて平滑化処理を行って製造したシートを、フライドポテト等油分を多く含む食品の包装袋等の用途に使用すると、優れた耐油性が得られることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の食品用耐油性シートを構成する木材パルプは、JIS P 8121に準じてパルプ濃度0.03質量%の条件で測定されるろ水度が450ml以下である。450mlに達しないと、食品用耐油性シートとして要求される耐油性が得られなくなるおそれがある。ここで、パルプのろ水度を測定する濃度条件として通常0.3質量%が採用されているが、本発明のパルプをこの条件で測定すると、ほとんど0mlとなってしまい、正確な評価ができないため、濃度0.03質量%での測定を採用した。
この測定法で150mlより叩解が進むと、食品用耐油性シートを包装袋として使用した際の強度が低下し過ぎるおそれがある。
さらに、この木材パルプを用いて抄紙し、平滑化処理して製造された食品用耐油性シートのJIS P 8146に準じて測定されるテレビン油の浸透時間が50〜3000秒であることが必要であり、好ましい範囲としては、1000〜2500秒である。テレビン油の浸透時間が3000秒を超えると、食品用耐油性シートを製造する歩留が低下してしまうおそれがあり、50秒未満であると食品用耐油性シートとして要求される耐油性が得られなくなるおそれがある。
【0011】
本発明において使用される木材パルプは、長さ加重平均繊維長が0.3〜0.8mmであることが好ましく、0.4〜0.7mmであることがより好ましい。長さ加重平均繊維長が0.3mm未満であると、抄紙の際の脱水性が悪くなるおそれがあり、0.8mmを超えると、食品用耐油性シートとして要求される耐油性が得られなくなるおそれがある。
【0012】
本発明の食品用耐油性シートは、密度が0.7〜1.4g/cmであることが好ましく、0.9〜1.3g/cmであることがさらに好ましい。密度が0.7g/cm未満であると、食品用耐油性シートとして要求される耐油性が得られなくなるおそれがあり、1.4g/cmを超えると、食品用耐油性シートを包装袋として使用した際の強度が低下し過ぎるおそれがある。
【0013】
本発明の食品用耐油性シートは、透気度についてJAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.5−2(2000)に規定される王研式透気度試験方法に準じて測定されるがが、10万秒以上であることが好ましく、50万秒以上であることがより好ましい。透気度が10万秒未満であると、食品用耐油性シートとして要求される耐油性が得られなくなるおそれがある。
【0014】
本発明の食品用耐油性シートに使用する木材パルプは、通常製紙用として使用されるあらゆるものが使用できる。例えば、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒しサルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、古紙パルプ等が使用できる。これら製紙用パルプののうち、耐油性に優れるパルプとして針葉樹材の一つであるアラバマ系のパルプが好ましい。
【0015】
本発明の食品用耐油性シートには、上述のようにろ水度450ml以下に叩解したパルプを使用し抄造する。
平滑化処理の条件は、高度の耐油性を得る場合と、耐油性は若干低くても高透明度を避け、白く(不透明)にする場合で異なる。高度の耐油性を得る場合は、水分15〜38%、好ましくは20〜33%において、表面温度80℃以上、好ましくは120℃以上の一対のロール間に通紙することにより平滑化処理して製造することが好ましい。耐油性は若干低くても高透明度を避けたい場合は、水分5〜10%、好ましくは6〜8%において、表面温度30〜60℃、好ましくは35〜50℃の一対のロール間に通紙することにより平滑化処理して製造することが好ましい。
平滑化処理の水分が5%未満であると、所望の密度が得られず、食品用耐油性シートとして要求される耐油性が得られなくなるおそれがあり、また38%を超えると平滑化処理用ロールへの貼付きが発生するので好ましくない。
【0016】
本発明の食品用耐油性シートを製造するのに使用される木材パルプの叩解機は、ダブルディスクリファイナー、シングルディスクリファイナー、コニカルリファイナー、円筒型リファイナー、媒体撹拌ミル、振動式ミル等の任意の叩解機を使用することができる。
【0017】
叩解の条件は、特に限定されないが、各種リファイナーの刃の形状、回転数、パルプの濃度、パルプの繊維長、パルプの粗度等が叩解後のパルプの物性に影響することが知られており、所望のろ水度が得られるように適宜選択される。
【0018】
本発明に使用する抄紙機としては、エアクッションヘッドボックスあるいはハイドロリックヘッドボックスを有する長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ型ツインワイヤー抄紙機等を挙げることができる。
また、プレス配列は、ストレートスルー、トランスファー、トライニップ、ツインバー、エクステンデッドニップ等が挙げられ、それらを組み合わせることも可能である。
但し、本発明の微細繊維化パルプからシートを作製する場合、脱水性が通常叩解パルプに比べて劣るため、例えば、脱水能を強化した抄紙機や抄紙機のワイヤー上、または連続式流延装置のスチールベルトの替わりにワイヤーベルトを使用したワイヤー上に、固形分濃度0.5〜6質量%の原料を用い押出し法により紙層を形成し、その後プレス処理、乾燥処理することによりシートを作製することが好ましいが、これらに限定するものではない。
【0019】
本発明において、食品用耐油性シートの抄紙の際には必要に応じてサイズ剤、紙力剤、サイズ定着剤、ろ水性向上剤等を使用することができる。
【0020】
サイズ剤としては、ロジン系サイズ剤、または反応性サイズ剤が好ましく、さらに反応性サイズ剤の中でもアルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系が好ましい。
また、紙力剤としては、グリオキザール、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド尿素ホルムアルデヒド樹脂、ケトン樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂等が挙げられる。これらの紙力剤は、単独または2種以上を併用して使用してもよく、内添またはサイズプレス、塗工機にてシート表面に塗布することにより耐水性を改善することができる。
サイズ定着剤としては、硫酸バンド、カチオン変性デンプン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級塩やジメチルアリルアンモニウムクロライド等とアクリルアミドとの共重合体、ビニルアミン系(共)重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドとフマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸とアクリルアミド共重合体、両性高分子、ポリアリルアミン、アミジン構造を有するカチオン性高分子等を挙げることができる。
ろ水性向上剤としては、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、変性ポリアクリルアミド、ポリアミドアミン、カチオン化ビニル系高分子等が挙げられる。
【0021】
本発明で使用する平滑化処理に用いる装置としては、マシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダー、グロスカレンダー等が使用できる。
【0022】
本発明の食品用耐油性シートの坪量は、20〜60g/m、好ましくは30〜40g/mである。用途により必要とされる坪量も変化してくるが、坪量20g/m未満では包装袋としての強度が低下し過ぎるおそれがあり、60g/mを超えると、抄紙時ワイヤー上での脱水が悪化し、抄紙困難となる。
【0023】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例において示す「部」及び「%」は特に明示のない限り質量部及び質量%である。
【0024】
試験方法
(1)ろ水度:
パルプのろ水度は、JIS P 8121に準じて測定した。パルプ濃度を0.03質量%に調製して、カナダ標準ろ水度試験用装置を用いて常法により測定した。
(2)耐油性1(テレビン油の浸透時間):
耐油性は、JIS P 8146に準じて測定した。1枚のコート紙の上に試験片を載せ、試験片に着色したテレビン油1.1mlを滴下して、コート紙に最初の赤い着色が見られた時間を浸透時間とする。
(3)耐油性2:
本発明の食品用耐油性シートを用いて袋を作製し、その中に三立製菓社製ベイクドココナッツクッキー(原材料は、砂糖、小麦粉、バター等)を入れ、油分の染込み状態を目視判定した。

○:油分の染込みがなく、問題ないレベルである
△:若干油分の染込みがあるが、実用上問題ないレベルである
×:油分の染込みが酷く、実用できないレベルである
(4)長さ加重平均繊維長:
繊維の長さ加重平均繊維長は、繊維長測定装置(フィンランド/KAJAANI社製、型式FS−200)にて測定した。
(5)保水度:
保水度は、JAPAN TAPPI No.26−78に準じて測定した。固形分濃度5〜10質量%に濃縮した微細繊維化パルプを絶乾質量で約0.5g相当量をG2のガラスフィルターを有する遠心分離器の遠心管に入れ、遠心力3000Gで15分間遠心脱水した。遠心脱水処理したパルプを遠心管より取り出し、湿潤状態の質量を測定し、その後105℃の乾燥機において恒量になるまで乾燥し、乾燥質量を測定した。保水度は、下記の式(1)により算出した。
保水度(%)={(W−D)/D}×100…(1)
ここで、式(1)中のWは、遠心脱水後のパルプの湿潤質量(g)、Dはパルプの絶乾質量(g)である。
(6)総合評価
食品用耐油性シートとしての総合評価を行った。
○:食品用耐油性シートとして優れている
△:食品用耐油性シートとして若干問題があるが、実用上問題ないレベルである
×:食品用耐油性シートとして問題があり、実用できないレベルである
【実施例】
【0025】
<実施例1>
固形分濃度3.0質量%の針葉樹晒しクラフトパルプ(アラバマ)懸濁液をダブルディスクリファイナー(三菱重工業社製、商品名「三菱−ベロイト3020型」)にて循環処理して、ろ水度(フリーネス220ml)、長さ加重平均繊維長0.55mm、保水度275%の微細繊維化パルプを得た。この微細繊維化パルプを原料パルプとして用い、その原料パルプ100質量%に対して、サイズ剤(荒川化学工業社製、アルキルケテンダイマー「SPK−903」)0.1質量%、サイズ定着剤(硫酸バンド)1.0質量%、ろ水性向上剤(ダイヤファイン社製、「カルタレチンF」)0.5質量%、水を加えて水性懸濁液を調製し、長網抄紙機を用いて抄紙し、坪量35g/m、水分25%のシートを得た。このシートをロール表面温度120℃のスーパーキャレンダーを用いて平滑化処理をして密度1.26g/cm3、透気度10万秒以上の本発明の食品用耐油性シートを得た。
【0026】
<実施例2>
実施例1と同様にして、叩解して微細繊維化パルプを得、水性懸濁液を調製して抄紙し、坪量35g/m、水分8%のシートを得た。このシートをロール表面温度40℃のスーパーキャレンダーを用いて平滑化処理をして密度0.89g/cm3、透気度10万秒以上の本発明の食品用耐油性シートを得た。
【0027】
<実施例3>
実施例2と同様にして、叩解して微細繊維化パルプを得、食品用耐油性シートを得た。ただし、ろ水度(フリーネス150ml)、長さ加重平均繊維長0.40mm、保水度395%の微細繊維化パルプとして使用した。密度1.03g/cm3、透気度10万秒以上であった。
【0028】
<比較例1>
固形分濃度3.0質量%の針葉樹晒しクラフトパルプ(アラバマ)懸濁液をダブルディスクリファイナー(三菱重工業社製、商品名「三菱−ベロイト3020型」)にて循環処理して、ろ水度(フリーネス500ml)、長さ加重平均繊維長1.07mm、保水度150%のパルプを得た。このパルプを原料パルプとして用い、その原料パルプ100質量%に対して、サイズ剤(荒川化学工業社製、ロジンエマルジョンサイズ「SPN−776」)0.2質量%、サイズ定着剤(硫酸バンド)1.0質量%、水を加えて水性懸濁液を調製し、長網抄紙機を用いて抄紙し、坪量40g/m、水分14%のシートを得た。このシートをロール表面温度120℃のスーパーキャレンダーを用いて平滑化処理をして密度1.07g/cm、透気度18000秒のグラシン紙を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から、実施例1〜2の本発明の食品用耐油性シートは、耐油性に優れ、油性食品の包装紙として問題なく使用可能である。一方、比較例1では、耐油性に劣り、フライドチキンやクッキー等の油分を含む食品を包装する材料には使用することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明による食品用耐油性シートは、耐油性に極めて優れ、フライドチキンやクッキー等の油分を含む食品の包装シートに適した食品用耐油性シートを提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS P−8121に準じてパルプ濃度0.03質量%で測定されるパルプのろ水度(カナダ標準フリーネス)が、450ml以下である木材パルプのみからなる繊維シートであって、JIS P−8146に準じて測定されるテレビン油の浸透時間が50〜3000秒であることを特徴とする食品用耐油性シート。
【請求項2】
木材パルプの長さ加重平均繊維長が0.3〜0.8mmである請求項1に記載の食品用耐油性シート。
【請求項3】
密度が0.7〜1.4g/cmである請求項1または2に記載の食品用耐油性シート。

【公開番号】特開2007−39847(P2007−39847A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226884(P2005−226884)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】