説明

食品素材及びその製造方法

【課題】ざらつき感がなく、非常にきめの細かいばかりでなく、高植物性蛋白質、低炭水化物、高食物繊維、ポリフェノール含有量も豊富で、なおかつ従来の加工品と比べ色彩も鮮やかで今までにない新しい素材を供給する。
【解決手段】小豆等雑豆類を酵素処理しながら酵母を添加し酵素分解および酵母発酵を並行して行い、腐敗を防止し炭水化物をアルコールに替え除去し炭水化物含有量を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑豆類の餡粒子を酵素分解し、同時に酵母を添加して生成する糖分をアルコール発酵させ、アルコール等を除去することにより得られる新規な食品素材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の技術向上に伴い様々なサプリメントを初めとする機能性食品や特定保健用食品が開発され流通しているが、予防医療においては機能性食品の摂取よりもまずは日常の食生活の見直しが先決であり、それらの成分だけを高濃度で摂取し続けた場合の慢性毒性についても解明されていない部分が多いので、医師及び栄養士からは積極的採用は時期尚早との意見もある。
【0003】
また、厚生労働省による生活習慣病予防のための本格的取り組みが決定しており、医療費抑制のために国が動いている。今後は検診及び保健指導が一体化されリスクに応じた層別化を図り医療機関による食事療法の指導などが実施される。
【0004】
しかし、現在でも医療機関において食事療法を受けている患者の20%〜40%が低栄養障害で、その人に必要なたんぱく質とエネルギーが摂取されていない低栄養状態でビタミンやミネラルなど各種の栄養不足も伴い体重減少と免疫力の低下を招く、感染症など多くの病気にかかりやすくなっている。
【0005】
アメリカでは、既にメディカルフードが定着しており、日本においても食事療法のように治療目的や生活習慣病を予防するための食事が必要になっている。
【0006】
豆類は健康によい食品として認知され、様々な研究が行われている。
【0007】
大豆の持つ機能性のみならず、小豆、いんげん豆などの雑豆類も機能性の高い食品として、その摂取が推奨されている。
【0008】
日本では古来豆類は様々な食品や調味料及び菓子原料として利用されているが、近年の和菓子離れや乾豆からの調理における手間の多さなどから、雑豆類の既存の用途での消費の伸びが今後期待し難い。
【0009】
そのため、小豆やいんげん豆等の雑豆類の需要を増やすには新たな食の提案が必要不可欠である。これに関して、本来は大豆の加工品である味噌などについて、原料を小豆とした加工の提案がある。
なお、雑豆類とは、小豆などのささげ属、金時、手亡などのいんげん属、えんどう属の豆類である。
【特許文献1】特開2005−304413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況から、小豆、いんげん豆等の雑豆類を用いた用途の広い食品素材が提案される。しかし、小豆、インゲン豆等の雑豆類は、タンパク質や炭水化物等の構成が大豆とは次の通り異なっている。
雑豆類: 炭水化物約60%、タンパク質約20%、脂肪約2%
大豆 : 炭水化物約30%、タンパク質約35%、脂肪約20%
【0011】
このため、大豆のようにうまみを求める調味料への利用は向いていない。
【0012】
小豆、インゲン豆等の雑豆類は煮熟時の加熱により餡粒子が形成されるため、豆独特のざらつきが生じる。このざらつきの原因となる餡粒子は、蛋白質などによる膜が澱粉粒を取り囲んだ構造であり、大豆では形成されず、雑豆に特徴的に形成される。
【0013】
このため、雑豆類を餡やペーストにした場合、餡粒子のざらつきによる舌触りの悪さが生じ、食するのに敬遠されるもっとも大きな要因となる。このざらつきを無くし、嚥下性を向上させることが強く求められている。
【0014】
また、既存の小豆餡をペーストにしたものは茶系の色彩が強く、一般的には小豆をイメージする紫を帯びた色彩ではないため、他の食品に加える際には、着色料で希望する色に着色されているのが現状である。
【0015】
そこで、この問題を解決するため煮熟後の小豆やいんげん豆を摩砕したものを、アミラーゼ、プロテアーゼ、グルコアミラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼなどに属する酵素剤を2乃至3種類組み合わせた酵素反応を行い、餡粒子を崩壊させ、ざらつきの改善を検討した。
【0016】
この方法では若干のざらつきの改善は見られたが、舌触りが良いと言えるものではなかった。また、酵素反応による餡粒子の分解では、雑豆に付着しているバチルス属菌等による腐敗が生じた。 雑豆類の用途を拡大するためには、腐敗を押さえつつ、餡粒子を崩壊させざらつきを無くし、豆の持つ色を残した新規食材とすることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、上記の問題を解決するため、雑豆類の餡粒子に、アミラーゼ、プロテアーゼ、グルコアミラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼなどに属する酵素に酵素反応を行うと同時に、酵母を添加して分解物をアルコール発酵させることにより、餡粒子を効率よく崩壊させると同時に腐敗を抑制し、芳醇で非常にきめ細かい嚥下性の優れた豆の色を残したペーストが得られることを可能にした。
【0018】
酵素処理に用いられる酵素は、アミラーゼ、プロテアーゼ、グルコアミラーゼ、キシラナーゼ、ぺクチナーゼを主体とした。
【0019】
さらに、アルコール発酵に用いられる酵母は、酵素処理により糖化、液化された糖分を分解し、アルコール発酵させる、バチルス等による腐敗を抑制する。
【発明の効果】
【0020】
この発明によると、ざらつき感がなく、非常にきめ細かい嚥下性の優れたペーストを得られることを可能とした。また、嚥下性の向上ばかりではなく、脂肪分が少なく炭水化物が低減され植物性蛋白及び食物繊維が豊富に含まれ、ポリフェノール含有量も豊富で、なおかつ、芳醇で、従来の加工製品と比べ色彩も鮮やかで今までにない新しい素材を得ることができた。
【0021】
また、ざらつきのない嚥下性の優れた食品素材とすることにより各種食品及び調味料等に利用可能となる。これにより豆類の新たな食の提案が幅広い年代層に可能となり、近年の高脂肪食及び過剰糖分摂取などにより、メタボリック症候群の急増や、蛋白質が不足している低栄養障害、または、老人介護食などにも利用層が期待でき、生活習慣病予防や予防医療における食事療法で、高植物性蛋白質、高食物繊維、低炭水化物、高ポリフェノール含有など、従来の製法によるものに比べ機能性豊で、従来ざらつきがあって敬遠された豆類が本発明の食品素材を利用することで解消され、日常の食生活のなかでも機能性豊かな雑豆類を摂取することができ、国内の雑豆類における新たな需要も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。図5は、本発明に係る生産工程の流れを示すフローチャートである。
【0023】
乾豆の雑豆類、主に小豆を原料に用いる。その他、金時、手亡、中長等を原料にすることもできる。
【0024】
これら乾豆を秤量後、淡水にて洗浄する。
【0025】
次に、乾豆の状態で水又は温水から炊き上げ(煮熟)る。この際、乾豆を予め水浸した状態から炊き上げることも可能である。炊き込み時間、水分量については、季節、乾豆の水分量などを鑑みながら調整する。
【0026】
次に、煮熟後の豆及び煮汁をマスコロイダーにて摩砕する。摩砕はマスコロイダー機器によるものの他、ミキサー等あるいはハンマーミルなど、煮豆をできるだけ潰砕できるものであればどのような機器でもよい。
この結果の生成物を「豆粗ペースト」と称することにする。
【0027】
次に、豆粗ペーストに、速やかに酵素を添加し、恒温状態で酵素反応を進行させる。本実施例では、50℃で、2〜3時間の反応時間とする。
【0028】
加水分解の進んだ豆粗ペーストの糖度を確認し、酵母活性の至適温度に調整し、酵母を添加・攪拌する。糖度はブリックスで10%以上、至適温度(酵母活性温度)25℃である。この酵母の添加により、雑菌の繁殖が防止され、なおかつ、酵素処理と酵母による発酵が同時に行われるため分解効率のよい処理が可能になる。
【0029】
次は、アルコール発酵の段階であり、恒温室にて、酵素反応、アルコール発酵が促進される。温度20℃、約72時間の発酵を行う。
【0030】
発酵修了後、フィルタープレス機器等を用いて、豆粗ペーストの脱水を行う。分離は遠心分離機等でも可能である。
【0031】
分離された豆粗ペーストを水により洗浄する。
【0032】
さらに、フィルタープレス機器等により脱水する。
【0033】
次に、加熱による酵素の失活及び酵母の殺菌を行う。
【0034】
以上の工程により、雑豆類を用いた新規食材(豆ペースト)が得られる。
【実施例】
【0035】
本実施例では、雑豆類として小豆を使用し、酵素はペクチナーゼ製剤、アミラーゼ製剤、キシラナーゼ製剤の3種類を使用した。
【0036】
また、酵母はアルコール発酵に使用されているものであれば何れでもよく、乳糖発酵性酵母でもよい。本実施例で使用した酵母は清酒用きょうかい701号(日本醸造協会)である。
【0037】
雑豆類を小豆とする場合につき説明する。最初に小豆を炊き、熱いままマスコロイダーにて磨砕する。
【0038】
磨砕された小豆を50℃に冷却し3種類の酵素を添加し、2時間、酵素反応を行う。2時間後にはブリックス値が上昇する。
【0039】
次いで、25℃まで冷却し酵母の添加を行う。
【0040】
20℃で3日間酵母によるアルコール発酵を行う。アルコール発酵を行うことにより本磨砕物中のアルコール濃度は約7%となる。
【0041】
次いで、プレスにより脱水を行う。
【0042】
次いで、真空包装処理した後レトルト殺菌し、酵素の失活および殺菌処理を行う。
【0043】
以上の工程により、豆ペーストが完成する。
【0044】
図1に乾豆と餡粒子、豆ペーストの電子顕微鏡写真を示す。
【0045】
乾豆のでんぷんは蛋白質の膜に取り囲まれた状態で存在し(図1の上左側)、加熱を加えると蛋白質の膜が凝固して餡粒子が形成される(図1の上右側)。写真から判るように、本発明に係る豆ペーストは餡粒子が崩壊している(図1の下)。
【0046】
これにより得られた豆ペーストの成分の比較を図2に示す。
【0047】
図2(小豆ペーストの成分表)の表から判るように、豆ペーストは乾燥豆やさらし餡と比較して植物性蛋白質が豊富であり、酵母の発酵によって糖分が消費されたことから炭水化物が減少している。また、乾豆と比較して食物繊維含有量及びポリフェノール含有量が高いことが判る。
【0048】
次に、得られた豆ペーストの粒度分布を図3に示す。
【0049】
図3の表は全ての検体が平均粒子径40μm〜60μmである。これは、通常の餡粒子の径90μm〜110μmと比較して大幅に小さくなっている。通常舌触りがなめらかと感じられる粒子径は80〜90μm程度であるので、極めて舌触りがなめらかであることが判る。この結果、本発明の豆ペーストはざらつき感がなく、舌触りが良いことが判る。
【0050】
また、得られた豆ペーストの粘度を図4に示す。
【0051】
図4から従来の小豆の粘度(BU)(●で示す)が温度の上昇とともに増加していくのに対し、本発明の豆ペースト(■で示す)は0点を示したまま全く増加しない。この面から、本発明の豆ペーストは餡粒子が崩壊され、でんぷんが分解されていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る小豆ペーストの電子顕微鏡写真
【図2】本発明に係る小豆ペーストの成分表
【図3】本発明に係る小豆ペーストの粒度分布表
【図4】本発明に係る小豆ペーストの粘度図
【図5】本発明に係る新規食品素材(豆ペースト)の製造フロー図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雑豆類の餡粒子を酵素処理にて分解し、同時に酵母を添加し、生成する糖分をアルコールに変換し、このアルコールを分離除去して得られる雑豆類を原料とした新規な食品素材。
【請求項2】
雑豆類の餡粒子を酵素分解すると同時に酵母による発酵とを並行させ、得られたアルコールを除去してなる新規な食品素材の製造方法。
【請求項3】
雑豆類がささげ属、いんげん属、えんどう属、小豆、金時、手亡、中長であることを特徴とする請求項1又は2記載の新規な食品素材又は新規な食品素材の製造方法。
【請求項4】
酵素処理に用いられる酵素剤は、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼであることを特徴とする請求項1又は2記載の新規な食品素材又は新規な食品素材の製造方法。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−148616(P2008−148616A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339290(P2006−339290)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【特許番号】特許第3967366号(P3967366)
【特許公報発行日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(501189750)株式会社丸勝 (2)
【Fターム(参考)】