説明

食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料

【課題】ポリフェノールの抗酸化作用を維持できる食塩含有食品加工残液及び残渣を配合した飼料を提供すること。
【解決手段】本発明に係る食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料は、食塩含有食品加工残液濃縮物と飼料配合剤とを混合してなる食塩含有食品加工残液含有配合飼料であって、前記食塩含有食品加工残液濃縮物は、ポリフェノール類を含有し、且つ、該ポリフェノール類の抗酸化機能を食塩を残存させることによって維持できる範囲まで脱塩されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食塩を共存させることによってポリフェノール類が持つ抗酸化作用を維持できる食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素複素環構造を持つ植物成分の一つであるフラボノイドは、そのナフトキノン環などに複数のフェノール性水酸基を有しているので、総称してポリフェノールと呼ばれている。
【0003】
ポリフェノール類には、カテキン類、アントシアニン類、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、カルコン類、イソフラボン類など多数の種類があり、その良好な酸化還元反応性から、活性酸素類に対する抗酸化機能を有している。これらのポリフェノール類は、本来植物成分として含有されていたもののほかに、発酵などの加工過程でも生成され、加工残液や残渣中に比較的多く含まれている場合がある。ポリフェノール類は植物性ではなく、動物性発酵残液や残渣中にも、通常に含有されている。
【0004】
ところで、近年、資源確保及び環境保全の観点から、廃棄物のリサイクルが活発に行われているが、加工食品の製造工程から副生する植物等の加工残液及び残渣についても再資源化の試みがなされている。
【0005】
しかし、例えば梅干等の生産時に副生される梅残液のような食塩含有食品加工残液は、高濃度に食塩を含有するが故に、直接利用や加工が困難であり、このことが再資源化の妨げとなり、従来は、廃棄され、環境汚染の原因となっていた。
【0006】
これに対して、特許文献1では、梅干の生産時に副生される梅酢を、真空乃至減圧濃縮、加熱濃縮し、電気透析処理により脱塩して得られる脱塩濃縮梅酢を、養魚用飼料に配合する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−206501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、食品加工残液に含まれるポリフェノールに着目し、食品加工残液を飼料に配合して抗酸化作用を付与することを検討した。
【0009】
ところで、ポリフェノールのベンゼン環上にあるフェノール性水酸基は、酸化還元電位が低く、容易に自身が酸化され、活性酸素を捕捉する。これが、ポリフェノールが抗酸化性を示す理由である。
【0010】
しかし、同時に、酸化された状態のポリフェノール(ポリフェノール酸化態)は、抗酸化作用を有さないばかりか、活性酸素の発生源にも成り得ることに注意しなければならない。
【0011】
即ち、活性酸素の発生を排除して、抗酸化作用を好適に得るためには、ポリフェノールを還元された状態(ポリフェノール還元態)に保つことが極めて重要である。
【0012】
本発明者は、上記の知見に加えて、食品加工工程から副生する食品加工残液及び残渣においては、ポリフェノールを還元態に保つことが特に困難となることを見出した。
【0013】
即ち、食品の中でも、主に植物は、通常、ポリフェノールと共に、ポリフェノールオキシダーゼを含有している。
【0014】
ポリフェノールオキシダーゼは、ポリフェノール酸化態の形成を促進する作用を有する酵素である。
【0015】
加工前の植物において、ポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼとは、隔離された状態で貯蔵されている。そのため、ポリフェノールオキシダーゼによるポリフェノール酸化態の形成はほとんど進行しない。
【0016】
ところが、植物の加工を行うと、植物の組織が破壊されるため、隔離された状態で貯蔵されていたポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼと酸素とが接触可能な状態となる。この結果、ポリフェノールオキシダーゼによるポリフェノール酸化態の形成が促進される。
【0017】
特に植物加工残液及び残渣中においては、ポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼとの接触頻度が極めて高いため、ポリフェノール酸化態の形成が著しく促進される。
【0018】
以上は植物加工残液及び残渣におけるポリフェノールを還元態に保つことが特に困難となる理由であるが、このことは植物以外の食品でも類推できる。
【0019】
この結果、食品加工残液及び残渣を飼料に配合した場合は、抗酸化作用に劣るばかりか、活性酸素の発生源に成り得るポリフェノール酸化態が多く生成して、これらが抗酸化作用とは逆の作用、即ち酸化性を付与する恐れすらある。
【0020】
本発明者は、ポリフェノールを還元態に保つことについて鋭意検討し、食塩含有食品加工残液に含有される食塩に着目した。
【0021】
即ち、食塩から生成する塩化物イオン(Cl)は、ポリフェノールオキシダーゼの活性を阻害して、ポリフェノールの酸化を防止する機能を有する。一例として、リンゴの切り口に食塩を含ませることにより、褐色化が抑えられることはよく知られている。
【0022】
本発明者は、食塩含有食品加工残液及び/又は残渣を配合してなる食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料において、食塩含有食品加工残液及び残渣に由来する食塩をある程度残存させることにより、ポリフェノール還元態を保持して、ポリフェノールの抗酸化作用を維持できることを見出して、本発明を完成させた。
【0023】
特許文献1には、上述したポリフェノールの抗酸化作用の維持のためにある程度の食塩を残存させるという思想が開示されていない。また電気透析処理によって、食塩含量が1%程度になるまで高度に脱塩を行おうとすると、高コストである。
【0024】
そこで、本発明の課題は、ポリフェノール還元態を保持できる食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料を提供することにある。
【0025】
また本発明の他の課題は、ポリフェノールの抗酸化作用を維持できる食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料を提供することにある。
【0026】
さらに本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0028】
(請求項1)
食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物と飼料配合剤とを混合してなる食塩含有食品加工残液及び残渣含有配合飼料であって、
前記食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物は、ポリフェノール類を含有し、且つ、該ポリフェノール類の抗酸化機能を食塩を残存させることによって維持できる範囲まで脱塩されていることを特徴とする食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料。
【0029】
(請求項2)
前記食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物は、残存する食塩濃度が4重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ポリフェノール還元態を保持できる食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料を提供することができる。
【0031】
また、本発明によれば、ポリフェノールの抗酸化作用を維持できる食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料を提供することができる。
【0032】
更に、本発明によれば、ポリフェノールの抗酸化作用が維持されることにより、食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料中における過酸化脂質の生成を抑制することができる。
【0033】
更にまた、本発明によれば、従来、廃棄され、環境汚染の原因となっていた食塩含有食品加工残液及び残渣を低コストに再資源化できるため、環境保護に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例2の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に用いられる食塩含有食品加工残液及び残渣としては、特に植物性のものに限定されないが、梅残液及び残渣、野菜等下漬液、食品発酵残渣等を好ましく例示できる。
【0036】
上述した食塩含有食品加工残液は、そのままの状態で飼料に配合しても、抗酸化作用が十分に得られないため、これを濃縮し、ポリフェノール類の濃度を上昇させる必要がある。
【0037】
そこで、本発明において、上述した食塩含有食品加工残液及び残渣は、濃縮工程に供される。
【0038】
濃縮によって、食塩含有食品加工残液中におけるポリフェノール類濃度が上昇し、抗酸化作用が向上する。このとき、食塩も同時に濃縮(飽和状態)されるため、向上した抗酸化作用は好適に保持される。
【0039】
また、濃縮によって、食塩含有食品加工残液及び残渣の腐敗防止性が向上する。即ち、本発明に用いられる食塩含有食品加工残液及び残渣は、酸化防止用飼料に抗酸化作用を付与すると同時に、栄養源をも付与するものであるが、この栄養源が腐敗微生物によって利用された場合は腐敗を生じる。腐敗は、家畜や養魚の嗜好性を著しく低下させる等の深刻な問題を生じる。濃縮を行うことにより、含水率が低下し、更に、クエン酸等の腐敗防止成分の濃度が上昇するので、腐敗微生物の生育が阻害され、腐敗が防止される効果も得られる。
【0040】
更に、濃縮により食塩含有食品加工残液及び残渣は減容されるため、輸送時の取扱い性や積載量を向上することができる。
【0041】
濃縮液中において、食塩により還元状態を保持されたポリフェノール類が、効率よく酸素を捕捉するため、酸素により脂質が酸化されることが防止され、過酸化脂質の生成を抑制できる。この効果は、濃縮液を飼料に配合した後も継続されるため、飼料中の脂質が酸化されることによる過酸化脂質の生成をも抑制できる。
【0042】
本発明の酸化防止用飼料中において、過剰な食塩は、家畜や養魚の嗜好性を低下させ、また、過剰な塩分摂取は生育の障害になる。そこで、食塩は、抗酸化作用の維持という重要な役割を維持できるように、ある程度残存させるように除去する必要がある。
【0043】
上記の理由から、本発明において、食塩含有食品加工残液を濃縮して得られる食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物は、残存する食塩濃度が、4重量%以上、好ましくは4.5〜25重量%、より好ましくは5〜10重量%である。食塩含有量はICP発光分析法によってNaを定量し、NaClに換算する。
【0044】
また、ポリフェノール類を0.05重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上含有する。ポリフェノール類は、酸化還元測定法もしくはICP発光分析法で測定する。
【0045】
ポリフェノール類は高濃度ほど飼料化の際の抗酸化機能が増加するが、5重量%を超えるとその効果は飽和してくる。ポリフェノール類濃度が5重量%を超える場合は、他の配合材混合によってポリフェノール類濃度を5重量%以下に抑え、製品としての飼料量を増量させることも好ましい。
【0046】
濃度調整手段としては、食塩、ポリフェノール共に濃縮法や膜を用いる方法等が挙げられる。
【0047】
本発明の濃縮工程に用いられる濃縮手段としては、特に限定されるものではないが、蒸発缶を好ましく例示できる。
【0048】
濃縮工程として蒸発缶を用いれば、濃縮に伴って析出する過飽和食塩を、後段の固液分離工程により除去することで、食塩含有食品加工残液濃縮物中の食塩含有量を、目的の重量%の範囲に調整することができる。
【0049】
固液分離工程に用いられる固液分離手段としては、特に限定されるものではないが、遠心分離機等を好ましく例示できる。
【0050】
また、固液分離工程において、濃縮液から分離された食塩は、牛塩等の配合飼料として有効利用することができる。
【0051】
食塩含有食品加工残液濃縮物は、飼料に配合することで、食塩含有食品加工残液配合飼料が得られる。
【0052】
前記飼料としては、特に限定されるものではないが、エクストルーダ処理した固形飼料(EP)を好ましく例示できる。
【0053】
EPとしては、粉末飼料を二軸のエクストルーダなどで加圧成型したものが好適である。
【0054】
EPの形状としては、径2〜10mmの押し出し成形機によって加圧成形された円盤状、柱状の固形物であり、その径は対象飼料によって選択される。このEPは加圧及び自らの粘着性によって、運搬、給餌のときに形状を維持できるだけの飼料として硬すぎないまでの圧縮強度を有するように成型され、その強度は、荷重式の圧縮試験で0.5〜5.0kg/cmである。また、嵩比重が0.3〜0.7、含水率が10重量%以下であることが好ましい。この範囲のEPであれば、濃縮液の吸収性に優れ、効率的に食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料を得ることができる。
【0055】
食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物を上記固形飼料と配合する際の配合比は、食品加工残液及び残渣濃縮物が、乾燥重量として5〜50重量%となるように設定する。
【0056】
前記配合比が5重量%未満の場合は、抗酸化作用が劣り、50重量%を超える場合は、飼料中の食塩含有率が過多となるため、家畜又は養魚の嗜好性低下を招く。
【0057】
本発明の食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料は、抗酸化作用により過酸化脂質の生成が抑制される。
【0058】
特に養魚用の固形飼料は、養魚の高い脂質要求性を満たすために10〜40%程度の粗脂肪分を含有している。また、養魚用の固形飼料に粗脂肪分を提供するために用いられる魚油中には、易酸化性の脂質である高度不飽和脂肪酸の含有量も多い。そのため、従来、養魚用の固形飼料においては、過酸化脂質の生成が大きな問題となっていた。これに対して、本発明の食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料は、これら粗脂肪分に対する抗酸化作用により、経時的またはエクストルーダー等による加工による、過酸化脂質の生成を抑制できるため、嗜好性が高く、品質に優れるものである。
【0059】
また、本発明によれば、従来、廃棄され、環境汚染の原因となっていた食塩含有食品加工残液及び残渣を再資源化でき、また特許文献1の電気透析処理のような高コストな工程を含まないため、低コストに環境保護に貢献することができる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0061】
実施例1(EP飼料)
養魚用EP成形(製造)時の脂質過酸化物生成の食塩濃度依存性について検討した。
【0062】
飼料配合材(カタクチイワシ魚粉、カタクチイワシ魚油、小麦粉、大豆、油粕、ビタミン類)、麦焼酎粕濃縮液及び食塩を加えて混練し、エクストルーダにて成形し、成形物を分析した。
【0063】
ポリフェノール類濃度は鉄3価イオンを滴定試薬とする酸化還元滴定法、脂質過酸化物濃度はヨードメトリー、食塩濃度は塩化物イオンの沈殿測定(電位差測定)によって把握した。
【0064】
その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
上記表1より、試料1、2は、食塩含有量を5重量%以上含有することにより、ポリフェノール類が0.05重量%以上含有する飼料を製造することができた。それにより、試料3に比べて、脂質過酸化物含有量が大幅に少なく、ポリフェノールの抗酸化作用が維持できていることがわかる。
【0067】
実施例2
梅残液(1)と、その梅残液(1)を電気透析処理によって脱塩した脱Na梅残液(2)、(3)の分析値を表2に示す。脱Na梅残液(2)と(3)は、脱塩処理による食塩濃度が異なり、脱Na梅残液(2)は実施例であり、(3)は比較例である。
【0068】
【表2】

【0069】
食塩含有量とポリフェノール含有量の相関を明らかにするために、上記表2の(1)、(2)、(3)の各々の液を、50℃の温度環境で攪拌し、経時的にサンプリングして、含有ポリフェノール濃度を測定した。
【0070】
そのポリフェノール濃度の変化を図1に示す。
【0071】
図1より、食塩含有量とポリフェノール含有量の相関関係が示され、(1)及び(2)の液では、ポリフェノール濃度が高く維持され、食塩が抗酸化機能の維持に寄与することがわかる。一方、(3)の液では、脱塩後の食塩濃度が3.2重量%であったために、ポリフェノール濃度は経時的に急激に低下して、残存食塩による、ポリフェノール還元態を保持できておらず、その結果、ポリフェノールの抗酸化作用を維持できないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物と飼料配合剤とを混合してなる食塩含有食品加工残液及び残渣含有配合飼料であって、
前記食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物は、ポリフェノール類を含有し、且つ、該ポリフェノール類の抗酸化機能を、食塩を残存させることによって維持できる範囲まで脱塩されていることを特徴とする食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料。
【請求項2】
前記食塩含有食品加工残液及び残渣濃縮物は、残存する食塩濃度が4重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の食塩含有食品加工残液及び残渣配合飼料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−205554(P2012−205554A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74535(P2011−74535)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】