説明

食害防止網付き法枠

【課題】
法枠を構築する際に植生工を施す事がある。植生工を施す地域に野生動物が多く生息している場合には、植生工により発芽した若芽を野生動物が食べてしまう食害が多発している。また、間伐材を使用して法枠を構築する方法においては、野生動物が間伐材のやわらかい樹皮の部分を食べてしまう。そのことにより間伐材を移動し法枠を破壊してしまう可能性もある。
【解決手段】
少なくとも横枠からなる法枠、あるいは少なくとも縦枠からなる法枠と、法枠の表面に取り付けた網よりなり、法面地山表面と網との間に保護育成高さを取った食害防止網付き法枠。保護育成高さとして網を発芽の長さだけ法面地山表面から離した高さに設定した食害防止網付き法枠。また、網には動物の嫌う臭いを付着させた食害防止網付き法枠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面に施した植生工について、野生動物による食害を防止する法枠である。
【背景技術】
【0002】
従来から、法面の崩壊防止、侵食防止のために法面に法枠を構築している。この際に、法面の崩壊や侵食の防止をより効果的にするため、また周辺環境への調和に役立つ緑化のために法枠内に植生工を施す事が行われている。一方、山林では木の育成を目的として、植林された木の一部を成育途中で伐採する間伐が行われるが、この間伐材を法枠として有効利用する方法がある。
【特許文献1】特開2002−371561
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記した法面形成法および間伐材の利用法においては、次のような問題点がある。
<イ> 植生工に対する食害
最近では、温暖化による積雪の減少で冬場に死ぬ鹿が減ったことや、狩猟禁止などの保護策により頭数が増えた鹿による食害が拡大している。かつては農作物が食い荒らされる被害が主だったが、近年は、全国で植物の被害が問題化している。草木が食い尽くされて裸山化すると、山の保水能力が衰え、土砂崩れのほか、将来的に水源枯渇も懸念される。
最近では、東京都民の水源である多摩川源流部で、鹿がこの10年で6.6倍の約2500頭に急増し、その食害で83ヘクタールの森が裸山化した。裸山化した斜面の土砂が豪雨で多摩川上部に流れ出し、東京都奥多摩町の水道取水口を泥でふさいでしまうという事件も発生した。
野生動物の食害は施工した植生工についても例外ではない。
植生工の施工により法面の侵食を防止するためには、植物が十分に成長し、客土層の下部地層にまで根が達し、さらに下部地層にて根を張り巡らせる必要性がある。
植物の生育の成否は若芽の時であり、植生後最初の数ヶ月が重要な時期である。
しかし、同時に、植物を主食とする野生動物は若芽の軟らかい状態を好んで摂食する。
その若芽時に野生動物が芽を摂食してしまえば、植物は十分に発育せず植生工が十分に機能しなくなる。

<ロ>法枠に間伐材を使用した場合の間伐材に対する食害
法枠による法面保護工においては、法枠をコンクリート等でなく、木材、例えば間伐材によって構築する場合もある。
この場合、野生動物は若芽を摂食するだけでなく、間伐材のやわらかい樹皮を摂食する場合もある。これにより間伐材自体が摂食され傷が付く事になり、法枠の弱体化などで法枠が破壊する可能性も考えられる。
また、野生動物が間伐材の樹皮を摂食する際に間伐材を移動してしまう場合がある。この場合においては、構築した法枠が崩れる事になり、客土の流出などが発生する事になる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような課題を解決するために、本発明の食害防止網付き法枠の構造は、少なくとも横枠からなる法枠、あるいは少なくとも縦枠からなる法枠と、法枠の表面に取り付けた網よりなり、法面地山表面と網との間に保護育成高さを取った事を特徴とするものである。保護育成高さとして網を発芽の長さだけ法面地山表面から離した高さに設定した事を特徴とするものである。また、網には動物の嫌う臭いを付着させた事を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の食害防止網付き法枠は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。

<1> 食害の防止
食害防止網を張る事で食害防止網と法面地山表面との間に保護育成高さが形成される。この保護育成高さが障害となり野生動物は法面地山表面から生えた若芽を摂食できなくなる。つまり、植生工により発芽した植物の若芽を野生動物の食害から防ぐ事ができる。

<2>間伐材を利用した法枠の保護
間伐材を法枠として使用した場合には、食害防止網を間伐材の上にも敷く事で、間伐材の樹皮などを野生動物の摂食から防ぐ。これにより法枠の保護、法面の侵食を防ぐ事ができる。
また、食害防止網が間伐材上に覆いかぶさる事により、間伐材をより強固に法面上に固定する事ができる。

<3>景観の向上
食害防止網にいろいろなデザイン、着色を施す事ができる。法面工事終了直後の法枠内は更地状であり、美観とは言い難いものがある。ここで、食害防止網に着色したり、様々なデザインを施すことで、法面の景観を向上させる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図面を参照にしながら本発明の食害防止網付き法枠の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0007】
<1> 法枠の構築
まず、崩壊防止、侵食防止が必要な法面に法枠1を構築する。
法枠1は少なくとも横枠2、あるいは少なくとも縦枠7で構成する。
横枠2は地面の法面を横断する方向に向けて構成した枠体である。
縦枠7は法面の傾斜に直交する方向に向けて構成した枠体である。
法枠1は図1のように縦枠をコンクリート、横枠を木材(間伐材)で構成した法枠以外に、木材のみで格子状に組み立てた法枠、又は木材を法面の縦方向のみに連続するか、間隔を設けて構成したもの、又は木材を横方向に連続するか、間隔を設けて構成したもの、又は木材を横方向に連続するか、間隔を設けて構成したもの、全体あるいは縦枠または横枠のみを鉄筋コンクリートで構成したもの等を採用する事ができる。
縦方向のみ、または横方向のみの木製法枠は、木材に貫通孔を設け、その貫通孔を通してアンカー5で法面地山に固定する。(図4、5)
コンクリートの法枠は公知の技術を利用して構成する。

【0008】
<2>間伐材の使用
横枠あるいは縦枠あるいは縦枠、横枠ともに間伐材を使用する事もできる。
間伐材を使用する事で通常は伐採後の処分が困難だった間伐材を有効に利用することができる。
間伐材は、年数を経ると腐食し、用土にもなる。この結果、法枠全体と植物との一体化が図れる。
さらに、法枠にコンクリートを使用する場合に比べ、間伐材を使用した場合には景観面で優れるという効果もある。
【0009】
<3>植生工の実施
法枠を構築後、縦枠と横枠で囲まれた植生工実施空間3に客土植生工を実施する。
客土は土と種子と肥料とから構成されており、客土を散布機械により法枠に吹き付けて客土植生工を実施する。
なお、客土植生工以外にも種子散布工などの様々な植生工を施工することも可能である。
【0010】
<4>食害防止網の敷設
食害防止網4を植生工実施空間3の上面に敷設する。
食害防止網4は法面全体に施設する事も、植生工実施空間3など法面の一部のみに敷設する事も可能である。
食害防止網4は対象となる野生動物6が引き剥せない程度の強固さで法枠等に固定する。
食害防止網4の張り方については、法面地山表面からある程度の高さ(保護育成高さh)を取って敷設する事で、網と法面地山表面に空間を形成する。
法面地山表面からの間隔である保護育成高さhは、植物10の種類に応じて、変化させる。
例えば、野生動物6が好む若芽時に背丈が高く育つような植物10であれば植生工実施層9をあらかじめ浅めに形成する事で、保護育成高さhを高めに取る事ができる。
植生工実施層9を浅めに形成してもなお保護育成高さhが十分に取れないようであれば、法枠1を構築する際に、法枠1をあらかじめ高めに構築する事で必要な保護育成高さhを確保することができる。
また、食害防止網4を敷設することで、例えば、法枠に間伐材を使用した場合には、間伐材間を連結する事になる。これにより、間伐材間の相互の移動が拘束され、間伐材をさらに強固に敷設し固定することができる。
【0011】
<5>食害防止網の構造
食害防止網は、網目の大きさ8が大きすぎると、その隙間から野生動物6の口あるいは舌の侵入を許し植生工によって発芽した若芽を摂取してしまう恐れがある。このため、網目の大きさ8は、野生動物6が植物を摂取する事が不可能な程度に小さくする必要性がある。
例えば、鹿の食害から植生工を行った植物を保護する場合には網目の大きさ8は1センチメートル以下とする必要がある。(図3参照)
食害防止網の素材については、金網、樹脂製網、その他公知の網を利用できる。ただし、野生動物が網を食いちぎらないように、十分な強度を持った網を選択する必要性がある。例えば、強力な歯を有する野生動物の食害を防ぐには、金網などを使う必要性がある。
また、食害防止網には、動物が嫌うような臭いを付着すると、動物が近寄ること自体を防ぎ、より大きな食害防止効果が得られる。
色は緑色、または迷彩色などにしておくことで、まだ植生が十分でない斜面でも、あたかも緑が生い茂っているように見える。緑色以外にも用途に応じて色やデザインを変化させることで景観にアクセントをつける事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の食害防止網付き法枠の実施例 (縦枠にコンクリート、横枠に間伐材を使用した例)
【図2】食害防止網付き法枠の実施例の側面図(横枠に間伐材を使用した例)
【図3】食害防止網付き法枠の実施例の断面図 (縦枠にコンクリート、横枠に間伐材を使用した例)
【図4】本発明の食害防止網付き法枠の実施例 (法枠を横枠のみで構成。間伐材を間隔を設けて設置し、横枠として使用した例)
【図5】本発明の食害防止網付き法枠の実施例 (法枠を縦枠のみで構成。縦枠に丸太法枠を使用した例)
【符号の説明】
【0013】
1...法枠
2...横枠
3...植生工実施空間
4...食害防止網
5...アンカー
6...野生動物
7...縦枠
8...網目の大きさ
9...植生工実施層
10...植物、若芽
h...保護育成高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも横枠からなる法枠と、
法枠の表面に取り付けた網よりなり、
法面地山表面と網との間に保護育成高さを取った事を特徴とする
食害防止網付き法枠。
【請求項2】
少なくとも縦枠からなる法枠と、
法枠の表面に取り付けた網よりなり、
法面地山表面と網との間に保護育成高さを取った事を特徴とする
食害防止網付き法枠。
【請求項3】
保護育成高さとして網を発芽の長さだけ法面地山表面から離した高さに設定した、
請求項1または2記載の食害防止網付き法枠。
【請求項4】
網には動物の嫌う臭いを付着させた、
請求項1記載の食害防止網付き法枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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