食肉動物類の除骨方法及び除骨装置
【課題】食肉動物類の除骨方法及び除骨装置を提供する。
【解決手段】食肉動物類の食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、背骨をクランプする背骨クランプ部で、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、背骨切断、分離後、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、肋骨両側面に背骨側から肋骨側面切込ユニットで切込を入れ、その後、背骨側より肋骨にひも引きユニットでひもをかけて、引き剥がす肋骨除去工程、を有することを特徴とする食肉解体除骨方法、及びその装置。
【解決手段】食肉動物類の食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、背骨をクランプする背骨クランプ部で、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、背骨切断、分離後、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、肋骨両側面に背骨側から肋骨側面切込ユニットで切込を入れ、その後、背骨側より肋骨にひも引きユニットでひもをかけて、引き剥がす肋骨除去工程、を有することを特徴とする食肉解体除骨方法、及びその装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、豚、牛、馬、羊等の食肉動物類の肉塊から、骨を分離、除去する除骨方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、食肉解体除骨作業において、特に、背骨及び/又は肋骨の除骨工程を機械化・自動化することを可能とする背骨及び/又は肋骨の除骨方法及びその装置に関するものである。本発明は、食肉解体除骨作業における肋骨除去工程を機械化・自動化することによって、作業時間の短縮と、より衛生的で高度に改善された作業環境の構築と、食肉の鮮度向上等を可能とする除骨方法及び除骨装置に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我々の食生活は、大きく変化してきている。農産物や畜産物等の食料品の源流である生産現場の改善や、食品の加工方法、保存方法、及び輸送方法等の改善により、様々な食品が容易に入手できるようになり、その需要も、年々増加傾向にある。また、食の西洋化を例とするように、食そのものの形態も変化し、多様化している。
【0003】
食の変化と需要の増加に伴って、その主要な食材である食肉の需要も、年々増加傾向にある。農林水産省の統計によると、1960年(昭和35年)の国内年間食肉消費量は、約33万t(国民一人当たり3.5kg)であったのに対して、2007年(平成19年)の国内年間食肉消費量は、約360万t(国民一人当たり28.3kg)に増加している。この数値は、食肉の主要品である、牛肉、豚肉、鶏肉を総合したものであるが、この3種類の中でも、特に、豚肉は、国内トップの消費量である。このように、食肉の消費が年々増加傾向にある中で、その加工生産現場の環境や生産技術が見直されてきている。
【0004】
現在、食肉を解体する作業の大半は、人の手によって行なわれている。作業においては、食肉の品質と衛生の保持のために、冷所で作業を長時間行なう必要があること、肉と骨の分離作業において、肋骨の分離は、肉から引き剥がすために、大きな労力を必要とすること、背骨の分離は、包丁を使用するので、怪我をし易いこと等、その作業環境は、大変厳しいものとなっている。また、背骨の分離作業においては、熟練した技術が必要であり、その技術者の養育には、時間とコストがかかる。
【0005】
このように、解体現場では、多くの工程を経て食肉を加工し、出荷している。そして、現状の解体作業の流れは、生きている豚等の生体を屠殺し、屠殺体の頭部と四肢の先端、表皮、内臓等の不要部位を除去し、洗浄し(この不要部位を取り除いた骨付き肉のことを枝肉と呼ぶ)、枝肉を半分割にし(半丸枝肉と呼ぶ)、半分割にした枝肉を、肩、バラ・ロース、ももの3つの部位に分け、3分割にしたそれぞれの部位において、骨と肉の分離作業を行ない、整形、スライス、包装等(製品化)を行ない、これらの工程を経て、食肉は出荷されている。
【0006】
これらの加工作業の大半は、人の手作業によって行なわれており、各作業には、熟練した技術を必要とする。また、作業の対象が食品であるため、品質・衛生面の保持の都合上、10℃以下の冷所での作業となることから、作業環境も厳しいものとなっている。例えば、骨肉分離作業(除骨作業)は、肩肉で約10分、バラ・ロース肉(豚肉胴部)で約15分、もも肉で約10分の作業時間を要する。これは、熟練した技術者の場合であって、一般の人では、その2〜3倍の時間がかかる。
【0007】
このように、食肉解体除骨作業は、非常に力が必要な作業であり、また、常時、刃物を扱うため、危険な作業であること、また、肉の鮮度を保つため、作業者は、低温環境の室内で長時間作業をしなければならないこと、一方、肋骨周辺は、高級肉質であり、除去時に肉に傷がつくと、商品価値が低下すること、したがって、肉に傷をつけないように熟練した作業が要求されるため、人材育成に時間がかかること、等の問題点がある。
【0008】
従来、食肉解体除骨作業に関する方法及び装置として、例えば、牛豚バラ骨抜き取り機(特許文献1)、肉片から骨を抜取る装置(特許文献2)、リブ除去装置(特許文献3)、骨肉分離方法(特許文献4)、骨外し装置(特許文献5)、肉塊の残留小骨除去装置及び屠殺動物半部の骨除去装置(特許文献6)、半体から脊椎を除去する装置及びその除去方法(特許文献7)、等が提案されている。
【0009】
更に、例えば、自動ロース除骨機の刺突起剥離・肋骨関節部除骨装置(特許文献8)、ロース・ばら肉の肋骨除骨方法とそのシステム(特許文献9)、豚、羊等の食肉屠体の除骨方法とその食肉屠体の搬送除骨システム(特許文献10)、食肉屠体の処理方法とその処理装置(特許文献11)、屠畜解体方法(特許文献12)、食肉処理方法とそのシステム(特許文献13)、等が提案されている。
【0010】
これらの先行技術の中には、例えば、食肉解体除骨作業を改善することも試みられている事例が存在する。しかし、従来法では、食肉解体除骨の工程において、上述の各種問題点を確実に解消することができ、食肉解体除骨工程における高度の作業環境を形成することを可能とする、食肉動物類の除骨方法及び除骨装置については、開発例がないのが実情であり、当技術分野においては、上述の各種問題点を確実に解消して、高度に改善された作業環境を構築することが可能な新しい除骨方法及び除骨装置を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭56−85236号公報
【特許文献2】特開昭58−146231号公報
【特許文献3】特公昭60−192541号公報
【特許文献4】特開平1−281029号公報
【特許文献5】特開平1−312962号公報
【特許文献6】特開平7−135890号公報
【特許文献7】特開平8−228667号公報
【特許文献8】特開平10−179014号公報
【特許文献9】特開平10−179015号公報
【特許文献10】特開平10−286057号公報
【特許文献11】特開2001−258467号公報
【特許文献12】特開2003−164253号公報
【特許文献13】特開2004−097204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、食肉解体除骨作業の中でも、特に、背骨及び/又は肋骨除去に関する作業を機械化・自動化することを可能とする背骨及び/又は肋骨除骨方法及びその装置を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、特に、肋骨表面を覆う筋膜の切込方法、肋骨を効率的に露出させるための背骨把持方法、及び肋骨を効率よく脱骨するための肋骨除去方法等を特定の手法及び装置を用いて実行することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、食肉解体除骨作業において、肉の鮮度を保つために、常時室温10度という低温環境で作業を行っている作業者を、苛酷な環境から解放すること、作業者の安全性を向上すること、作業環境を改善すること、背骨及び/又は肋骨除去時の力仕事から作業者を解放すること、人材育成に要する時間を短縮すること、熟練作業から解放すること、肋骨周辺の高級肉質部分の、肋骨除去時における損傷及びそれによる商品価値の低下を回避すること、作業時間を短縮すること、雑菌繁殖を防止すること、等を可能とする新しい除骨方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)食肉動物類の食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、
背骨をクランプする背骨クランプ部で、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、
背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、
背骨切断、分離後、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、肋骨両側面に背骨側から肋骨側面切込ユニットで切込を入れ、その後、背骨側より肋骨にひも引きユニットでひもをかけて、引き剥がす肋骨除去工程、
を有することを特徴とする食肉解体除骨方法。
(2)肋骨の切込具とひも引きユニットは、多関節、かつ左右のスライドが可能な構造を有する、前記(1)に記載の方法。
(3)背骨を切断する背骨切断部で、クランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する、前記(1)に記載の方法。
(4)背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃を、背骨切断面に沿って一定の角度で固定し、移動させる、前記(1)に記載の方法。
(5)肋骨位置に基づいて、肋骨側面切り込みユニットで、肋骨の両側面に切り込みを入れて筋膜を切り裂く、前記(1)に記載の方法。
(6)ひも引きユニットに設置したひもを、肋骨の背骨側処理端部に入れ込み、該端部を把持し、背骨側からひも引き動作を行い、肋骨を分離する、前記(1)に記載の方法。
(7)背骨をクランプする背骨クランプ部、背骨を切断、分離する背骨切断部、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、背骨側より肋骨にひもをかけて引き剥がし、関節脱離させて、脱骨する脱骨手段を有する肋骨除骨部から構成されることを特徴とする除骨装置。
(8)背骨クランプ部が、背骨切断部に移動可能に配設されたクランプユニットを有する、前記(7)に記載の装置。
(9)背骨切断部が、背骨をクランプしたクランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する構造を有する、前記(7)に記載の装置。
(10)肋骨の両側面に切り込みを入れる肋骨側面切り込みユニットを具備した、前記(7)に記載の装置。
(11)肋骨の背骨側処理端部にひもを入れ込み、背骨側切断後の肋骨端部を把持し、ひも引き動作を行い、肋骨を分離するひも引きユニットを具備した、前記(7)に記載の装置。
(12)背骨及び/又は肋骨位置及び形状情報に基づいて、各工程における処理操作を連続的に行う機能を有する、前記(7)から(11)のいずれかに記載の装置。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
食肉解体除骨工程において、本発明が対象としている作業は、豚肉等の胴部(以下、豚肉胴部という)の除骨作業である。肩部、もも部については、自動除骨ロボットWANDAS II(ワンダス II)、自動除骨ロボットHAMDAS(ハムダス)等の除骨装置が既に製品化されている。豚肉胴部についても、3次元計測除骨装置ウェッジカッターVという背骨除骨装置が製品化されている。しかし、豚肉胴部の主要な除骨作業である肋骨の除骨装置に関しては、未だ製品化はされていない。
【0016】
本発明の対象である豚肉胴部の作業の既存の方法について説明すると、豚肉胴部の除骨作業工程は、以下の手順となっている。即ち、腹脂肪、残臓器を取り除き、ヒレ肉を分離させ、肋骨と肋軟骨を包丁で分離させ、肋骨端部を露出させる(この端部を、肋骨先端と呼ぶ)。肋骨及び肉表面に付着しているあま皮という脂肪膜を、金属棒を使用して取り除き、肋骨側面に包丁で切れ目を入れ、綿糸を肋骨先端にかけ、肋骨先端側から背骨側にかけて綿糸を引き上げ、肋骨と肉を分離させ、肋骨をねじりとる。
【0017】
ロースとバラを包丁で切り離し、肋横突起と背骨、棘突起を、骨の形状に沿うように包丁を動かして切り離す(除骨作業はこれで終了)。ロース・バラにおいて、それぞれの脂肪を削ぎ落し(規定で8mm以内の厚さにする)、加工・包装等を行ない、製品化する。
【0018】
これらの作業において、1)肋骨の分離作業では、綿糸を用いた力作業であるため、腱鞘炎を起こすことがある、2)背骨の除去作業は、肩、ももと違って凹凸の激しい骨形状であるため、複雑な包丁さばきを必要とし、怪我が多いだけではなく、包丁に伝わる骨の感触のみで分離させる必要があるため、その技術者の養成に時間がかかる、3)複雑な骨形状であるため、骨と肉を分離しきれず、歩留まりが安定しにくい、4)高価なロース肉を有するため、歩留まりの悪化が利益に大きく影響する、と言う問題点がある。
【0019】
本発明は、これらの問題を解決するために開発されたものであって、食肉解体除骨工程において、特に、肋骨周辺の除骨作業をする際に、背骨をクランプする工程、肋骨に沿って筋膜を切り裂く工程、適当な把持手段を利用して肋骨先端部(背骨側肋骨先端部)を露出させる工程、露出させた肋骨を把持し、背骨側を固定し、肋骨先端(背骨側)を把持し、ひもをかけて、肋骨を引き剥がす工程、等により、除骨することを特徴とするものである。
【0020】
本発明は、具体的には、食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き豚肉胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、肋骨側面に切り込みを入れ、肋骨の表面を覆う筋膜を切り裂く工程、背骨側を固定し、背骨側肋骨先端部を露出させる工程、露出させた肋骨を、ひもをかけて、肋骨を引き剥がし、脱骨する工程、から構成される。
【0021】
本発明は、好適には、例えば、豚、牛、馬、羊等の食肉動物類の肉塊から、特に、背骨及び/又は肋骨を分離、除去する際に、これらの食肉動物類の食肉解体除骨手段として適用される。本発明では、食肉解体除骨工程において、まず、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持し、次に、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する。
【0022】
次に、肋骨側面切込装置を利用して、肋骨の表面を覆う筋膜を切り裂く作業を行う。この場合、上記肋骨側面切込装置に装備されるナイフ等の工具を骨の上部及び/又は側部に導入して筋膜を切り裂く。肋骨周辺の食肉における肋骨位置は、背骨の実測データから推定するか、あるいは、肋骨位置を目視により確認する。本発明では、筋膜切り裂き時に肉塊に傷をつけないように肋骨周辺の高級肉質を保護するための保護手段を付加することができる。
【0023】
上記肋骨側面切込装置としては、例えば、筋膜を切断して肉塊に傷をつけることなく筋膜を破壊できる機能を有するものであれば、その種類等に制限されることなく使用することができる。また、本発明では、上記肋骨側面切込装置として、例えば、ナイフ、レザーメス、ウォータジェット等の工具を高精度に制御して動作させるロボット機能を具備した装置を使用することができる。
【0024】
次に、得られた肉塊の背骨側を固定具に固定し、把持して押し下げることによって、背骨側肋骨先端部を露出させる。次いで、露出させた肋骨先端を、1本又は複数本、あるいは全部を肋骨把持具で把持し、背骨側よりひもを引き、肋骨を引き剥がす。
【0025】
上記肋骨先端露出及び肋骨先端把持回転処理は、肉塊の背骨側を固定する固定具、肋骨先端部(背骨側)を把持する先端把持具、露出させた肋骨を把持して脱骨処理する肋骨把持具、及び肋骨を肋骨付け根(背骨側)よりひもを引いて脱骨する脱骨手段を具備している肋骨除去システムを利用して行われる。
【0026】
以上のように、本発明では、肋骨表面を覆う筋膜を効果的に切り裂きするために、肋骨に沿って筋膜を切り裂く。更に、本発明では、肋骨先端を露出させる先端処理具とその作動手段、及び肋骨の先端を把持して脱骨処理する肋骨把持具とその作動手段からなる肋骨除去システムが用いられる。これらの手段は、上述の各処理操作を行う機能を有するものであればそれらの具体的な構成は特に制限されるものではなく、これらについては、使用目的、種類及び大きさに応じて任意に設計することができる。また、本発明では、上述の各処理を連続的に行うことができるように、一部又は全部の工程を自動化することができる。
【0027】
このように、本発明では、肋骨除去システムが用いられるが、該肋骨除去システムでは、肋骨先端露出処理、肉塊の先端把握処理、及び脱骨処理が実行される。本発明では、脱骨の前に、肋骨の背骨側先端部を露出させる肋骨先端露出処理を実行することが、肋骨除去工程を機械化・自動化する上できわめて重要である。
【0028】
次に、先端把持では、露出させた背骨側肋骨を、肋骨把持具で把持し、かつ背骨側より肋骨にひもをかけて、脱骨する処理を実行する。上記肋骨除去システムでは、上述の肉塊の根本固定具、先端把持具、肋骨把持具、及びそれらの作動手段、処理手順、制御システム等の具体的構成は、特に制限されるものではなく、処理設備の規模、処理量等に応じて任意に設計することができる。
【0029】
本発明では、上述の背骨のクランプ処理手順、肋骨位置確認の処理手順、筋膜切り裂きの処理手段、肋骨除去システムによる肋骨除去の処理手順の構成が重要であり、これらの処理手順を採用することにより、肋骨除去作業を機械化・自動化すること、それにより、効率よく、安全に、高精度で、除骨作業を実行することが可能となる。上述の処理手順のいずれを欠いても、そのような除骨作業を実行することは不可能であり、本発明は、食肉解体作業における肋骨除去作業を機械化・自動化することを可能とする基本処理技術を確立し、食肉解体作業の全体の処理工程を機械化・自動化することを可能とするものである。
【0030】
豚、牛、馬、羊等の食肉動物類は、生物であるため、重量や大きさ、形状などは、個体毎に差が生じる(個体差)。除骨機械を設計するためには、個体差による装置の大きさ、駆動範囲、構造、機構等への影響を考えなければならない。また、例えば、豚肉胴部に切り分けられる前の工程、即ち、枝肉の半分割、及び3分割の工程における切り分け位置のずれによる豚肉胴部への影響も考慮する必要がある。
【0031】
一例として、豚肉胴部の形状と簡略化した図を、図1〜3に示す。図に示す肉は、腹脂肪とヒレ肉を分離した状態である。図に示す通り、この部位は、肉としてロースとバラ、骨として肋骨と背骨、及び背骨に接する各骨(肋横突起、棘突起、肉に埋まっている骨:乳頭突起)から成る。また、豚肉胴部は、肩との分離位置は、肩甲骨を避けて切り分け、ももとの分離位置は、尾骨を境目として切り分けられる。
【0032】
豚肉胴部の主要な骨である肋骨は、肩側からもも側にかけて骨が徐々に短く、細く変化していく。また、骨が大きく湾曲しているものもある。背骨は、背骨本体、棘突起、乳頭突起、肋横突起から成る骨で形成されている。背骨の裏側は、凹凸の激しい複雑な形状をしており、実際に解体するときは目に見えない部分であることから、骨肉分離には、熟練した技術が必要とされる。
【0033】
本発明では、装置の大きさを決定するために必要な豚肉胴部の全長、全幅、全高等の要素、装置の駆動範囲や除骨装置の機構の決定に必要な骨の厚さや幅、骨の配置間隔等を計測した。その計測結果の一例を、表1に示す。計測結果より、特に変動の激しかった項目は、脂肪の厚さと肋骨の配置間隔である。脂肪の厚さは、最小で1転回、最大で40[mm]とデータに大きなひらきがあり、個体によらず、脂肪の厚さには、背側(ロース側)>腹側(バラ側)、肩側>もも側という厚さの変動が生じるという傾向がみられる。肋骨の配置間隔は、主に肩側に近いほど間隔が長くなり、また、そのばらつきも個体毎に異なる。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、肋骨の計測を行なった。肋骨の長さ及び高さは、未解体時に寸法を計測した。また、肋骨幅と厚さに関しては、同一の肋骨においても、計測位置によって値が変わるので、それぞれ肋骨先端部(バラ側)、中間部そして背骨側(ロース側)の3カ所を計測した。計測結果の一例を、表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
この結果から、最大値と最小値の幅が、肋骨長さは85m回程度、肋骨高さには42[mm]程度の差が見られる。これは、もも側よりも肩側に近い位置の肋骨の方が大きいからであり、肋骨の大きさは、肩側>もも側という関係にある。また、肋骨幅、肋骨厚さもデータに幅がみられ、肋骨先端部は、肋軟骨と繋がる関節部であるため、中間部や背骨側よりも太めの傾向にある。
【0038】
次に、背骨の計測を行なった。計測結果の一例を、表3に示す。個体差による違いだけでなく、枝肉を半分割する際の背骨中心軸からのずれによる影響からか、全体的にデータにばらつきが見られ、背骨の厚さでは、17[mm]の最大最小差が、棘突起では、90[mm]の差が生じる。特に、棘突起に関しては、半分割の影響を大きく受け、個体によっては、ほとんど骨が残っていないものもある。
【0039】
【表3】
【0040】
次に、肋骨除去部(残突起処理を含む)では、背骨切断除去後の肉が載った状態で、処理エリアに移動し、肋骨除骨、残突起等の除骨を行う。その操作工程は、1)肉自体の形状を除骨に向いたものにする、2)肋骨切断端近くのじん帯を切断する、3)肋骨側面切り込みユニットで、肋骨の両側面に切り込みを入れる、4)ひも付きユニットのひもを背骨側処理端部に入れ込み、端部を把持する、5)ひも引き動作を行い、肋骨を分離する、6)残りの突起類を除去する、7)棘突起、肋横突起及び肋軟骨を手作業で処理して終了する、ことから成る。
【0041】
本発明では、肋骨の除骨を背骨側から引く方式が用いられるが、これにより、背骨切断において、肉のロスを少なく、装置を単純にすると共に、製造コスト低減、メンテナンス軽減が可能となる。背骨の切断除骨に関しては、形状が複雑で、これまでは、歩留まりが多少悪くとも、無視する切断や、形状をスキャンして、カッタ−を複雑に動かす切断が行なわれていた。
【0042】
背骨側からのひも引きを可能にする条件及び機構について説明すると、肋骨除骨では、背骨切断位置は、肋骨の背骨接続部の肋骨小頭部分を切断し、棘突起等や関節部分と完全に分離する。背骨側切断端部・肋骨結節下のじん帯を切断し、それと同時に、肋骨の周囲に骨表面に達する切込みを入れ、肋骨側面に肋骨表面に達する切込みを入れ、ひもを骨と骨はだの間に挿入し、引き動作する方法で、装置による、ひも引きが可能となる。
【0043】
肋骨のひも引きを可能にする条件として、肋骨端部周囲・側面に肋骨表面に達する切込みを入れ、骨と骨はだの間をひも引きする。肋骨の肋軟骨側には、じん帯の付着があり、従来方法では、ひも引き前に切断が必要であるが、本発明では、じん帯付着の繊維方向が逆になるので、ひも引きだけで分離が可能である。
【0044】
切込みの目的と効果については、端部処理切込で、肋骨切断端部の肋骨周囲の肋骨表面に達する切り込みにより、引きひもにじん帯や筋肉の巻込みを防ぎ、ひもを直接骨表面に掛けることが可能となる。肋骨側面切込で、骨はだの巻込みを防ぎ、肉段付の仕上りを確保することができる。
【0045】
従来の肋軟骨側からのひも引きは、肋骨の形状とじん帯・筋肉の付着状態(強度)から、補助器具を使用してのひも引きでも、肋骨の中途で止まってしまい、また、背骨側の肋骨に付着したじん帯には、肉が付着してしまう。また、手作業で、肋骨の側面に切込みを入れる際に、軟骨側の端部付着じん帯を切り離すため、ナイフのひねり動作が必要となる。
【0046】
本発明では、背骨切断を単純化するために、背骨形状の補正を行う。この背骨の強制補正方法は、複雑な形状の背骨を単純な切断装置で切断可能にする。背骨の切断と除骨において、歩留り確保・向上に理想的な切断は、背骨切断面を平面状に矯正(強制的に補正)し、単に直線的に、切断刃又は肉が動作することにより、理想的な切断を行うことを可能にする。
【0047】
これにより、装置の機構を単純化し(計測・処理装置、切断するための制御軸等を減らす)装置コストの低減により、普及をはかると同時に、メンテナンス等の維持管理を低減する。一般的装置で使用する丸鋸等の場合、背骨の切断面形状は平面であるが、本発明では、切断面が曲面等でも、同様に、装置の切断方法に合わせ、その歩留りが最大になるように、背骨形状を補正することが可能である。
【発明の効果】
【0048】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)食肉解体除骨工程における作業環境を質的に高度に改善することができる。
(2)肉を傷つけずに脱骨できるため、高品質な食肉を得ることができ、市場価値が下がらない高品質の食肉を供給することが可能となる。
(3)脱骨後の骨に肉片が残らないため、無駄が減少し、歩留りが向上する。
(4)人力を要さないので、過酷な労働環境、熟練を要する作業から、作業者を解放することができる。
(5)肋骨除去作業において、作業者が食肉に直接触れることがないため、より衛生的な作業と食肉生産が可能となる。
(6)肋骨除去工程を機械化・自動化することによって、作業時間の短縮と、食肉の鮮度保持が可能となる。
(7)作業者の安全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】豚肉胴部の簡略化した説明図を示す。
【図2】豚肉胴部の写真を示す。図中、マル1は全長、マル4は肋骨域の長さ、マル5は肋骨の配置間隔、である。
【図3】豚肉胴部の断面の写真を示す。図中、マル2は全高、マル3は全幅、マル6は脂肪の厚さ、である。
【図4】背骨矯正固定具、切断装置を有する背骨除去装置の説明図を示す。
【図5】切断刃の説明図を示す。
【図6】背骨の切断位置を示す説明図である。
【図7】背骨の切断位置を示す説明図である。
【図8】肋骨の高さ、長さ、幅、厚さ、曲り幅に対応して可動する肋骨除去装置及び先端部構造の一例を示す。
【図9】本発明の除骨工程で用いられる肉塊固定装置、背骨除去装置、肋骨側面切込装置、肋骨剥がし装置を有する除骨装置の一例を示す。
【図10】肉固定具、リニアアクチエータ(X軸)、リニアアクチエータ(Y軸)、肋骨剥がしユニットを有する肋骨除去装置に一例を示す。
【図11】肋骨引き剥がしユニットの一例(自由度のないタイプ1の部材)を示す。
【図12】2つの関節と肋骨先端の幅に対応する機構を備えた自由度のあるタイプ2の部材を示す。
【図13】肋骨剥がしユニットを肋骨の形状をなぞるように動かし、装置の駆動軌道を取得(ティーテング)する操作の説明図を示す。
【図14】3種類の紐状部材の違いによる肋骨剥がし力の計測結果の一例を示す。
【図15】自由度の有無による肋骨剥がし力の計測結果を示す。
【図16】肋骨幅に対応して可変する可変肋骨除骨ユニット先端の構造の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
本実施例では、背骨をクランプするクランプ部において、豚肉胴部の背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持して、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する作業を行い、クランプ及び切断刃の有効性の評価実験を実施した。
【0052】
(1)背骨付きロース・バラ肉のクランプ実験
本発明の除骨方法及び除骨装置は、背骨付きロース・バラ肉をクランプして固定する背骨クランプ部と、背骨を切断して肉から分離する背骨切断部と、背骨切断/除去後の肉から肋骨を分離する肋骨除骨部とから構成される。ロース・バラ肉をクランプして固定する背骨クランプ部では、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプした。
【0053】
その操作は、以下の工程により実施した。
1)肩側切断面を基準に、モモ側から押し付けて位置決めした。
2)高さ方向は、ロース・バラの下面を持上げて、上からの基準面まで持上げた。
3)背骨切断部に移動可能に配設したクランプユニットは、テーブルに対して、平行に配置した。
4)ほぼ水平にした状態で、背骨クランプ側が前進して、クランプユニット個々に背骨をクランプした後、クランプユニットを引き込み、個々の設定位置に固定し、背骨切断面を一直線に設定した。
5)クランプした状態で、下面の持上げユニットを下降させ、背骨のみで肉全体を保持した。
6)クランプ部を、モータ・ネジ棒駆動で、次工程の背骨切断部へ移動させた。
【0054】
(2)背骨の切断実験
次に、背骨切断部において、上記クランプユニットを移動させながら、背骨を切断した。その操作は、以下の工程により実施した。
1)切断くず防止用に、シャッターを、各工程の境に配置した。
2)切断用のカッター刃は、背骨切断面に沿って角度を持たせ、角度は、基本的に固定した状態にした。
3)カッターは、X方向のみ可動可能な調整機構とした。
4)クランプ部のクランプユニットを、モータ・ネジ棒で駆動し、切断部に送り、カッター自体は、固定した。
5)肋骨除骨部のテーブルユニットを、切断部に移動し、待機させた。
6)切断次第、把持されている背骨から肉を分離して、待機テーブル上に落下させた。
【0055】
(3)切断刃の評価
背骨除去に使用する刃の選定、刃の回転速度、刃の送り速度について検討を行った。 背骨は、凹凸の激しい複雑な形状をしているため、現状の手作業の模倣は困難と考え、より単純に、そして歩留りがよく除去できる方法を検討した。背骨を除去する装置は、既存のカッターが製品化されている。
【0056】
そこで、独自の除骨方法を検討した。表4に、既存のカッターとの違いを示す。まず、既存のカッターの場合、台上に肉を置いた自然体のままで背骨を切断除去するが、本実施例においては、背骨をL型のアングルに押し付け、直線状に矯正した後、背骨をスパイクで噛み込み、固定した。次に、既存のカッターでは、肋骨側と枝肉半分割面側に2方向から刃を入れ、背骨を切断除去するが、本実施例においては、枝肉半分割面側から肋骨側にかけて刃を貫通させるように入れ、1回の切断で背骨を除去した。
【0057】
【表4】
【0058】
背骨を切断する際は、既存のカッターでは、背骨の3次元的な曲りに対応するため、あらかじめ計測しておいた肉の三次元データを元に、ロボットアームで好適な位置を切断した。本実施例においては、刃の位置をリニアアクチュエータ3つと刃の角度調整用モータの計4つで調整したが、切断する際には、背骨に合わせて刃の位置と角度を固定するため、実際には、背骨長手方向(全長方向)の送り速度のみの制御とした。
【0059】
(4)装置の構成
背骨除去実験では、刃の回転速度や位置、角度、送り速度等の好適な背骨の切断条件や固定方法の手順等を、また、最終的に必要となる要素、除去できる要素等を検討した。装置の簡略図と装置の駆動を図4に示す。背骨矯正固定具は、背骨を直線状に矯正、固定するL型固定具と、L型固定具に肉を押し付ける背骨矯正押圧エアシリンダ、肉全体の高さを調節する高さ調節ジャッキから構成した。
【0060】
エアシリンダで肉全体を押し付け、背骨をL型固定具に押し付けた後、ジャッキで高さを調節し、背骨を直線状に矯正した後、スパイクで背骨を噛み込み固定した。切断装置は、XYZ軸それぞれのリニアアクチュエータと切断刃角度調節モータの計4つのアクチュエータで切断位置を決定した。
【0061】
なお、XYZ軸それぞれのリニアアクチュエータのストロークは、X軸:680[mm]、Y軸280[mm]、Z軸280[mm]で、切断刃の角度は、Y軸と平行の位置を0°として、−50〜70°までで調節した。なお、背骨固定時、背骨切断時ともに肉がずれることを防止するため、ずれ防止用スパイクを、背骨矯正押圧エアシリンダに取り付けた。
【0062】
(5)実験方法
以下に、背骨切断実験の手順を示す。肉を固定台に載せ、L型固定具上面と肉半分割面がほぼ平行になるようにジャッキで高さを調節し、肉の背脂を手で押し、L型固定具側面に背骨の緑線を押し付けて、直線状に矯正した。背骨矯正押圧エアシリンダを駆動させ、肉全体を把持し、再び、ジャッキで肉の高さを調節し、背骨半分割面をL型固定具に密着させ、背骨噛み込み用のエアシリンダを駆動させ、背骨を噛み込み固定した。
【0063】
角度調節モータを駆動させ、所定の角度にして、Z軸リニアアクチュエータを駆動させ、肉に接触しない位置まで切断装置を動かし(この位置を退避位置とする)、切断刃を回転させ、所定の切断位置まで、Y軸及びZ軸リニアアクチュエータを駆動させ、X軸リニアアクチュエータを駆動させ、背骨を切断した。本実験においては、図5に示す4種類の切断刃を使用し、その性能を比較した。刃の直径は(a)〜(c)が200[mm]、(d)は203[mm]である。
【0064】
(6)実験結果
1)切断刃
切断刃による背骨切断結果については、まず、通常の丸刃で背骨切断を試みたところ、骨表面で刃が滑り、骨を切断することができなかった。次に、U字溝付き刃を使用して切断を試みた。通常の丸刃と比較して、U字の溝部分が骨に喰い込み、数mm切り進むことができたが、背骨を切断しきることはできなかった。次に、のこぎり刃を使用して切断を試みた。前記2つの刃よりも骨に対する食い込みは良好であったが、背骨を切断しきることはできなかった。
【0065】
原因としては、これまでの3つの刃に共通する事柄であるが、刃の形状が丸刃の中心から刃先に向かって刃厚が薄くなっている形状であり、背骨を切り進むと、刃面に対しての圧力が増して抵抗が増加し、その結果、刃が停止してしまうものと考えられた。そこで、この点を考慮して、先端の刃厚が刃中心よりも厚いチップ付のこぎり刃で切断を試みた。骨への食い付きがよく、ほとんど刃の回転が停止することなく、背骨を切断しきることができた。これによって、切断には、チップ付のこぎり刃使用することが好適であることが分かった。
【0066】
2)切断刃の回転速度
切断刃の回転速度を変化させ、どの回転速度が背骨切断に適しているかを評価するための実験を行なった。切断刃の回転数は、500[rpm]〜1100[rpm]の間で変化させ、切断を行なった。評価としては、背骨切断後の断面に付着する骨粉の量と状態、切断時に飛び散る骨粉の状態、及び切断刃に付着する骨粉の状態から、適する回転数の評価を行なった。
【0067】
理想としては、骨粉の状態は、固まることなく、ばらついた状態で飛び散ること、また、切断刃には、極力切粉が付着しないこと、である。切断と同時に切粉を吸い込んで除去するため、骨粉がばらついた状態で飛び散ることで、除去し易くなる。切断刃への付着を避けるという理由は、刃の切れ味への影響を考えて、極力付着を避けることで、少しでも抵抗を減らすためである。
【0068】
500[rpm]〜700[rpm]の場合、切断後の骨粉は、固まった状態で残ることが多かった。また、切断刃に関しても、刃と刃の間に骨粉がかなり残留していた。回転数を上げて背骨の切断を試みた。800[rpm]以上の場合、切断後の骨粉は、ばらついた状態で残っており、また、切断刃に残留する骨粉に関しても少なめであった。これによって、回転数は、800[rpm]以上に設定し、切断を行なうことが好ましいことが分かった。
【0069】
3)切断位置
背骨切断において、好適な切断面は、肋骨、乳頭突起、棘突起、肋横突起それぞれの骨が繋がることなく、分離している状態である。この好適な切断位置を求めるために、評価実験を行なった。切断位置は、図6に示す切断刃の切断角度θ、及び、基準点からの背骨幅方向位置Y、背骨厚さ方向位置Zの3つの要素で決定した。なお、これらの要素は、切断装置のリニアアクチュエータ、モータそれぞれで、位置を調節、決定したものであり、実際に切断した背骨幅方向の切断量、背骨厚さ方向の切断量ではない。
【0070】
肋骨、乳頭突起、棘突起、肋横突起それぞれが分離しきったときの切断位置の情報を、表5に示す。実際に切断した背骨幅、背骨厚さは、図7に示す量である。実際に切断した背骨幅は、平均で約47[mm]、背骨厚さは、約24[mm]、切断刃の角度は、肩〜もも区間で一定の55[°]である。
【0071】
【表5】
【0072】
この切断条件で、背骨切断を行なった場合、それぞれの骨が他の骨と繋がることなく、分離した。これよりも、背骨の切断幅、厚さ、切断刃角度が浅い場合、背骨の途中を切断したり、それぞれの骨が繋がったままになってしまったりした。個体によっては、背骨が厚く、多少、繋がったまま残ってしまうことはあったが、ほぼ総じて、表5に示す切断位置で、すべての骨を分離しきることができた。これによって、これらの切断位置が適切なものであることが分かった。
【0073】
4)切断刃の送り速度
切断時の送り速度は、5[mm/s]〜15[mm/s]で変化させた。5[mm/s]の場合は、切断中にほとんど刃が停止することなく切り進むことができたが、15[mm/s]の場合、頻繁に切断刃が停止した。切断刃が停止する原因としては、骨だけではなく、肉及び関節部分の筋も切断しているので、これらに食い込むような形で刃が停止するものと考えられた。これに関連して、刃の形状がのこぎり刃であるので、骨を切る分には問題ないが、肉に対しては適していないと考えられ、これらの問題を解決するため、切断方法に工夫を施した。
【0074】
一定量の切り込みを進めた後、一度進行を停止、もしくは少し後進させた後、再度切り込みを進める、という方法を繰り返して、切断を行なった。一度停止させ、後進させる理由は、刃にまとわりついてくる肉や関節部分の筋を一度逃がすことで、刃に対する抵抗を減らすためである。この方法で切断を試みたところ、切断刃が停止した15[mm/s]でも、切断しきることができた。これまでの実験では、送り速度は、15[mm/s]としたが、装置の構造の改善、それに伴う、モータ出力の増大を行なうことで、より送り速度を上げることができることが分かった。
【0075】
(7)結果
以上の結果から、本実施例で検討した、豚肉胴部のクランプ方法、切断方法に関しては、背骨、肋骨、棘突起、乳頭突起、自力横突起を分離しきることが可能であり、有効であること、切断刃の形状に関しては、モータ出力、及び切断方法を工夫することで、肉、筋等も問題なく切れることが分かった。切断位置は、個体毎に切断幅位置、切断厚さ位置、切断刃角度を微妙に調節する必要があるが、総じて、本実験で適用した位置、角度で、骨を分離させることが可能であることが分かった。回転速度は、本実験では、1100[rpm]まで切断が可能であり、切断後の骨粉等の状態も良好であることが分かった。
【実施例2】
【0076】
本実施例では、肋骨除去基礎実験として、引き糸の選定と肋骨の除去に必要な力の測定、及び肋骨除骨装畳先端部材の構造の比較実験を行った。
(1)肋骨除去基礎実験
綿糸製の引き糸は、耐久性が低く、摩擦が大きいこともあり、除骨作業の機械化においては、肋骨剥離には向いていないと考えられた。ステンレス製とナイロン製の引き糸は、耐久性も高く、同程度の最大負荷であるが、総合的に見ると、ナイロン製の方が、低負荷で肋骨剥離していることや、ステンレスの場合、破断した際に、破片が肉口混入する可能性あることから、肋骨剥離には、ナイロン製の引き糸を用いることが妥当と考えられた。
【0077】
次に、その引き糸を使用し、単純ツールと多関節ツールの評価実験を行った。多関節ツールは、肋骨の曲がりに十分な対応を示し、かかる負荷も、単純ツールの三割近くまで低減することができた。肋骨除骨装置には、多関節ツールのように、個体差に十分な対応ができる機構が必要であることが分かった。
【0078】
以上の実験結果を基礎として、肋骨除去装置の製作を行なった。この装置において、上記結果を反映させた箇所を、肋骨長さ方向の肋骨側面切込移動距離、肋骨高さ方向の肋骨側面切込の切り下がり距離、肋骨の厚さ方向の肋骨側面切込の切込刃、肋骨の幅方向の切込刃の幅可変、肋骨の曲り幅に対する先端部のスライド等として、図8にまとめて示す。なお、本実験は、背骨除去後に、肋骨側面切込ユニットで側面に切り込みを入れる、肋骨端部を肋骨把持ユニットで掴む、肋骨剥がしユニットで肋骨を分離させる、という手順で行なった。
【0079】
(2)実験結果
肋骨側面切込ユニットで切込を始める際に、背骨を切断した後の肋骨の端面を、切込ユニット先端の刃で肋骨を挟み、その後、エアシリンダを駆動させ、切込ユニットを下降、引きを行ない、肋骨側面に切り込みを入れた。切込ユニットは、肋骨除去基礎実験で検討した多関節、先端幅可変の構造を有するため、肋骨の形状に追従し、切り込みを入れることができた。
【0080】
次に、肋骨端部把持ユニットで肋骨を把持し、肋骨剥がしユニットで、肋骨を剥がし始めた。これも、切込ユニットと同様に、多関節構造で肋骨に追従できる構造とした。肋骨を剥がした後の状態は、余分な肉が肋骨に付着せず、肋骨除去後の表面もきれいになっていることが分かった。
【0081】
本実験においては、部分的に切り込みが深い場所があったり、肋骨除去に際して、剥がし用のラインが破断したりすることがあったが、これらに関しては、装置に自由度を設け、ラインと剥がしユニット先端が接触する端部を面取りして、破断しにくくする対応を取ることで解決できることが分かった。
【実施例3】
【0082】
本実施例では、除骨装置に必要な要素、機構等を検討し、肉塊固定装置、背骨除去装置、肋骨側面切込装置、及び肋骨剥がし装置から成る、除骨工程及び装置を構築した。図9に、その一例の概略図を示す。
(1)工程及び装置の構築
肉塊固定装置は、肉が非常に変形し易いことから、作業中の肉のずれを防止するために必要であり、背骨除去装置、肋骨剥がし装置は、それぞれの骨を除去するために必要である。肋骨側面切込装置は、肋骨剥がし装置によって肋骨除骨を行なう際に、負荷を軽減するために必要である。
【0083】
これらの装置を用いた除骨は、以下の工程により実施した。
1)肉を肉塊固定装置に備え付け、作業中にずれが生じないように固定した。
2)背骨除去装置によって背骨を切断除去した。
3)肋骨側面切込装置で肋骨側面に切り込みを入れた。
4)肋骨剥がし装置によって肋骨を除去した。
【0084】
(2)肋骨除去の基礎実験
豚肉胴部の除骨作業において、一番重労働とされているのが肋骨の除去作業である。そこで、本実施例では、肋骨を肉から分離させるためには、どれほどの力を要するのかを負荷測定し、また、肋骨除去に必要な機構、分離方法等を検討した。
【0085】
(3)装置の構成
実験に使用した装置の一例の概略図を図10に示す。装置は、水平方向の(X軸)リニアアクチュエータに、垂直方向(Y軸)のリニアアクチュエータを取り付け、Y軸リニアアクチュエータの駆動ブロックに、肋骨剥がしユニットを取り付けた構造とした。リニアアクチュエータは、41[kgf]を100%とし、最大300%(123[kgf])まで出力が可能であり、また、付属の制御ソフトにて負荷の計測を行なうことが可能である。なお、本実施例では、肉の固定具を使用して、ずれが極力生じないようにして、力の計測を行なった。
【0086】
肋骨引き剥がしユニットは、自由度のない部材(タイプ1)(図11参照)と、2つの関節と肋骨先端の幅に対応する機構を備えた自由度のある部材(タイプ2)(図12参照)の2つを使用し、それぞれにおいて負荷を計測した。また、肋骨剥がしには、現状の手作業と同じように、骨形状に沿ってなぞることが可能な紐状の部材を用いて分離を行なった。種類としては、テグス(釣り糸、材質:ナイロン)、綿糸、ステンレスの3種類を使用した。
【0087】
(4)実験方法
肋骨剥がし実験は、以下の手順で実施した。
1)肉を肉固定具に載せ、肉押さえ具で、肉を押さえて固定した。
2)肉表面上部50[mm]の位置を、肋骨の形状をなぞるように動かし、装置の駆動軌道を取得した(ティーチング)。(図13参照)
3)実際の手作業と同様に、肋骨側面に包丁で切り込みを入れた。
4)ティーチングで得た軌道データを元に、装置を動かした。この時、軌道全長を6分割し、それぞれのポイントにおける負荷率(%表示)を記録し、剥がし力を調べた。
5)以上を全肋骨に対して行った。
【0088】
(5)実験結果
3種類の紐状部材の違いによる肋骨剥がし力の計測結果の一例を図14に示す。3種類の部材の中では、テグスが一番肋骨除去にかかった負荷が小さいことが分かる。また、綿糸に関しては、途中で破断しているが、これは、ティーチングの際の軌道データの誤差による過負荷と、肋骨の途中の小さな突起に引っ掛かったことによる負荷によって被断したものと考えられる。
【0089】
ステンレスの場合は、全体的に大きな負荷がかかっているが、これは、他の2種類の部材と比較して、ステンレスは、一度変形すると元の形状にはなかなか戻らず、それ以降の骨の形状に追従することができないためと考えられる。また、ここには示していないが、ティーチングのずれによって骨に追従できず、肉に肋骨荊がしユニットが侵入してしまった場合、リニアアクチュエータの限界負荷である300%(123[kgf])でも動くことができず止まってしまうことが分かった。
【0090】
次に、自由度の有無による肋骨剥がし力の計測結果を図15に示す。図からも分かる通り、自由度を付加した場合、肋骨剥がしに必要な力は、自由度がない場合と比較して、半分以下に抑えられていることが分かる。これは、肋骨の曲りに対して自由度があるユニットの場合、柔軟に追従し、また、ティーチングによるずれも多関節にしたことである程度吸収してくれたため、余計な力が加わらなかったと考えられる。
【0091】
以上の実験より、以下の結果が得られた。
1)肋骨の側面切込ユニット及び剥がしユニットは、肋骨の曲りに対応する、多関節構造が有効である。
2)ユニット先端幅は、肋骨の幅変化に対応する、可変構造が有効である(図16参照)。
3)多関節構造にすることで、個体毎に異なる肋骨の形状、大きさによる除骨軌道に対して、柔軟に追従させることが可能となる。
4)多関節構造にすることで、肋骨剥がし力を大きく軽減させることができるため、紐部材に大きな負荷を与えることなく、紐部材の寿命を延ばすことができる。
5)上記構造にすることで、肋骨除去に必要な力は、20[kgf]まで低減可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上詳述したように、本発明は、食肉動物類の除骨方法及び除骨装置に係るものであり、本発明により、食肉解体除骨作業において、肋骨除去作業を機械化・自動化することが可能な新しい除骨方法及びその装置を提供することができる。本解体システムは、特に大きな設置スペースを要さないので、現状の人海戦術による食肉解体工場に随時導入可能である。本発明は、食肉解体作業現場における安全性の向上、作業環境の質的向上、作業時間の短縮、除骨作業の機械化・自動化等が可能であり、それにより、高品質の食肉を高効率及び高精度の除骨作業で得ることを可能とするものとして有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、豚、牛、馬、羊等の食肉動物類の肉塊から、骨を分離、除去する除骨方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、食肉解体除骨作業において、特に、背骨及び/又は肋骨の除骨工程を機械化・自動化することを可能とする背骨及び/又は肋骨の除骨方法及びその装置に関するものである。本発明は、食肉解体除骨作業における肋骨除去工程を機械化・自動化することによって、作業時間の短縮と、より衛生的で高度に改善された作業環境の構築と、食肉の鮮度向上等を可能とする除骨方法及び除骨装置に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我々の食生活は、大きく変化してきている。農産物や畜産物等の食料品の源流である生産現場の改善や、食品の加工方法、保存方法、及び輸送方法等の改善により、様々な食品が容易に入手できるようになり、その需要も、年々増加傾向にある。また、食の西洋化を例とするように、食そのものの形態も変化し、多様化している。
【0003】
食の変化と需要の増加に伴って、その主要な食材である食肉の需要も、年々増加傾向にある。農林水産省の統計によると、1960年(昭和35年)の国内年間食肉消費量は、約33万t(国民一人当たり3.5kg)であったのに対して、2007年(平成19年)の国内年間食肉消費量は、約360万t(国民一人当たり28.3kg)に増加している。この数値は、食肉の主要品である、牛肉、豚肉、鶏肉を総合したものであるが、この3種類の中でも、特に、豚肉は、国内トップの消費量である。このように、食肉の消費が年々増加傾向にある中で、その加工生産現場の環境や生産技術が見直されてきている。
【0004】
現在、食肉を解体する作業の大半は、人の手によって行なわれている。作業においては、食肉の品質と衛生の保持のために、冷所で作業を長時間行なう必要があること、肉と骨の分離作業において、肋骨の分離は、肉から引き剥がすために、大きな労力を必要とすること、背骨の分離は、包丁を使用するので、怪我をし易いこと等、その作業環境は、大変厳しいものとなっている。また、背骨の分離作業においては、熟練した技術が必要であり、その技術者の養育には、時間とコストがかかる。
【0005】
このように、解体現場では、多くの工程を経て食肉を加工し、出荷している。そして、現状の解体作業の流れは、生きている豚等の生体を屠殺し、屠殺体の頭部と四肢の先端、表皮、内臓等の不要部位を除去し、洗浄し(この不要部位を取り除いた骨付き肉のことを枝肉と呼ぶ)、枝肉を半分割にし(半丸枝肉と呼ぶ)、半分割にした枝肉を、肩、バラ・ロース、ももの3つの部位に分け、3分割にしたそれぞれの部位において、骨と肉の分離作業を行ない、整形、スライス、包装等(製品化)を行ない、これらの工程を経て、食肉は出荷されている。
【0006】
これらの加工作業の大半は、人の手作業によって行なわれており、各作業には、熟練した技術を必要とする。また、作業の対象が食品であるため、品質・衛生面の保持の都合上、10℃以下の冷所での作業となることから、作業環境も厳しいものとなっている。例えば、骨肉分離作業(除骨作業)は、肩肉で約10分、バラ・ロース肉(豚肉胴部)で約15分、もも肉で約10分の作業時間を要する。これは、熟練した技術者の場合であって、一般の人では、その2〜3倍の時間がかかる。
【0007】
このように、食肉解体除骨作業は、非常に力が必要な作業であり、また、常時、刃物を扱うため、危険な作業であること、また、肉の鮮度を保つため、作業者は、低温環境の室内で長時間作業をしなければならないこと、一方、肋骨周辺は、高級肉質であり、除去時に肉に傷がつくと、商品価値が低下すること、したがって、肉に傷をつけないように熟練した作業が要求されるため、人材育成に時間がかかること、等の問題点がある。
【0008】
従来、食肉解体除骨作業に関する方法及び装置として、例えば、牛豚バラ骨抜き取り機(特許文献1)、肉片から骨を抜取る装置(特許文献2)、リブ除去装置(特許文献3)、骨肉分離方法(特許文献4)、骨外し装置(特許文献5)、肉塊の残留小骨除去装置及び屠殺動物半部の骨除去装置(特許文献6)、半体から脊椎を除去する装置及びその除去方法(特許文献7)、等が提案されている。
【0009】
更に、例えば、自動ロース除骨機の刺突起剥離・肋骨関節部除骨装置(特許文献8)、ロース・ばら肉の肋骨除骨方法とそのシステム(特許文献9)、豚、羊等の食肉屠体の除骨方法とその食肉屠体の搬送除骨システム(特許文献10)、食肉屠体の処理方法とその処理装置(特許文献11)、屠畜解体方法(特許文献12)、食肉処理方法とそのシステム(特許文献13)、等が提案されている。
【0010】
これらの先行技術の中には、例えば、食肉解体除骨作業を改善することも試みられている事例が存在する。しかし、従来法では、食肉解体除骨の工程において、上述の各種問題点を確実に解消することができ、食肉解体除骨工程における高度の作業環境を形成することを可能とする、食肉動物類の除骨方法及び除骨装置については、開発例がないのが実情であり、当技術分野においては、上述の各種問題点を確実に解消して、高度に改善された作業環境を構築することが可能な新しい除骨方法及び除骨装置を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭56−85236号公報
【特許文献2】特開昭58−146231号公報
【特許文献3】特公昭60−192541号公報
【特許文献4】特開平1−281029号公報
【特許文献5】特開平1−312962号公報
【特許文献6】特開平7−135890号公報
【特許文献7】特開平8−228667号公報
【特許文献8】特開平10−179014号公報
【特許文献9】特開平10−179015号公報
【特許文献10】特開平10−286057号公報
【特許文献11】特開2001−258467号公報
【特許文献12】特開2003−164253号公報
【特許文献13】特開2004−097204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、食肉解体除骨作業の中でも、特に、背骨及び/又は肋骨除去に関する作業を機械化・自動化することを可能とする背骨及び/又は肋骨除骨方法及びその装置を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、特に、肋骨表面を覆う筋膜の切込方法、肋骨を効率的に露出させるための背骨把持方法、及び肋骨を効率よく脱骨するための肋骨除去方法等を特定の手法及び装置を用いて実行することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、食肉解体除骨作業において、肉の鮮度を保つために、常時室温10度という低温環境で作業を行っている作業者を、苛酷な環境から解放すること、作業者の安全性を向上すること、作業環境を改善すること、背骨及び/又は肋骨除去時の力仕事から作業者を解放すること、人材育成に要する時間を短縮すること、熟練作業から解放すること、肋骨周辺の高級肉質部分の、肋骨除去時における損傷及びそれによる商品価値の低下を回避すること、作業時間を短縮すること、雑菌繁殖を防止すること、等を可能とする新しい除骨方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)食肉動物類の食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、
背骨をクランプする背骨クランプ部で、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、
背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、
背骨切断、分離後、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、肋骨両側面に背骨側から肋骨側面切込ユニットで切込を入れ、その後、背骨側より肋骨にひも引きユニットでひもをかけて、引き剥がす肋骨除去工程、
を有することを特徴とする食肉解体除骨方法。
(2)肋骨の切込具とひも引きユニットは、多関節、かつ左右のスライドが可能な構造を有する、前記(1)に記載の方法。
(3)背骨を切断する背骨切断部で、クランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する、前記(1)に記載の方法。
(4)背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃を、背骨切断面に沿って一定の角度で固定し、移動させる、前記(1)に記載の方法。
(5)肋骨位置に基づいて、肋骨側面切り込みユニットで、肋骨の両側面に切り込みを入れて筋膜を切り裂く、前記(1)に記載の方法。
(6)ひも引きユニットに設置したひもを、肋骨の背骨側処理端部に入れ込み、該端部を把持し、背骨側からひも引き動作を行い、肋骨を分離する、前記(1)に記載の方法。
(7)背骨をクランプする背骨クランプ部、背骨を切断、分離する背骨切断部、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、背骨側より肋骨にひもをかけて引き剥がし、関節脱離させて、脱骨する脱骨手段を有する肋骨除骨部から構成されることを特徴とする除骨装置。
(8)背骨クランプ部が、背骨切断部に移動可能に配設されたクランプユニットを有する、前記(7)に記載の装置。
(9)背骨切断部が、背骨をクランプしたクランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する構造を有する、前記(7)に記載の装置。
(10)肋骨の両側面に切り込みを入れる肋骨側面切り込みユニットを具備した、前記(7)に記載の装置。
(11)肋骨の背骨側処理端部にひもを入れ込み、背骨側切断後の肋骨端部を把持し、ひも引き動作を行い、肋骨を分離するひも引きユニットを具備した、前記(7)に記載の装置。
(12)背骨及び/又は肋骨位置及び形状情報に基づいて、各工程における処理操作を連続的に行う機能を有する、前記(7)から(11)のいずれかに記載の装置。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
食肉解体除骨工程において、本発明が対象としている作業は、豚肉等の胴部(以下、豚肉胴部という)の除骨作業である。肩部、もも部については、自動除骨ロボットWANDAS II(ワンダス II)、自動除骨ロボットHAMDAS(ハムダス)等の除骨装置が既に製品化されている。豚肉胴部についても、3次元計測除骨装置ウェッジカッターVという背骨除骨装置が製品化されている。しかし、豚肉胴部の主要な除骨作業である肋骨の除骨装置に関しては、未だ製品化はされていない。
【0016】
本発明の対象である豚肉胴部の作業の既存の方法について説明すると、豚肉胴部の除骨作業工程は、以下の手順となっている。即ち、腹脂肪、残臓器を取り除き、ヒレ肉を分離させ、肋骨と肋軟骨を包丁で分離させ、肋骨端部を露出させる(この端部を、肋骨先端と呼ぶ)。肋骨及び肉表面に付着しているあま皮という脂肪膜を、金属棒を使用して取り除き、肋骨側面に包丁で切れ目を入れ、綿糸を肋骨先端にかけ、肋骨先端側から背骨側にかけて綿糸を引き上げ、肋骨と肉を分離させ、肋骨をねじりとる。
【0017】
ロースとバラを包丁で切り離し、肋横突起と背骨、棘突起を、骨の形状に沿うように包丁を動かして切り離す(除骨作業はこれで終了)。ロース・バラにおいて、それぞれの脂肪を削ぎ落し(規定で8mm以内の厚さにする)、加工・包装等を行ない、製品化する。
【0018】
これらの作業において、1)肋骨の分離作業では、綿糸を用いた力作業であるため、腱鞘炎を起こすことがある、2)背骨の除去作業は、肩、ももと違って凹凸の激しい骨形状であるため、複雑な包丁さばきを必要とし、怪我が多いだけではなく、包丁に伝わる骨の感触のみで分離させる必要があるため、その技術者の養成に時間がかかる、3)複雑な骨形状であるため、骨と肉を分離しきれず、歩留まりが安定しにくい、4)高価なロース肉を有するため、歩留まりの悪化が利益に大きく影響する、と言う問題点がある。
【0019】
本発明は、これらの問題を解決するために開発されたものであって、食肉解体除骨工程において、特に、肋骨周辺の除骨作業をする際に、背骨をクランプする工程、肋骨に沿って筋膜を切り裂く工程、適当な把持手段を利用して肋骨先端部(背骨側肋骨先端部)を露出させる工程、露出させた肋骨を把持し、背骨側を固定し、肋骨先端(背骨側)を把持し、ひもをかけて、肋骨を引き剥がす工程、等により、除骨することを特徴とするものである。
【0020】
本発明は、具体的には、食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き豚肉胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、肋骨側面に切り込みを入れ、肋骨の表面を覆う筋膜を切り裂く工程、背骨側を固定し、背骨側肋骨先端部を露出させる工程、露出させた肋骨を、ひもをかけて、肋骨を引き剥がし、脱骨する工程、から構成される。
【0021】
本発明は、好適には、例えば、豚、牛、馬、羊等の食肉動物類の肉塊から、特に、背骨及び/又は肋骨を分離、除去する際に、これらの食肉動物類の食肉解体除骨手段として適用される。本発明では、食肉解体除骨工程において、まず、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持し、次に、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する。
【0022】
次に、肋骨側面切込装置を利用して、肋骨の表面を覆う筋膜を切り裂く作業を行う。この場合、上記肋骨側面切込装置に装備されるナイフ等の工具を骨の上部及び/又は側部に導入して筋膜を切り裂く。肋骨周辺の食肉における肋骨位置は、背骨の実測データから推定するか、あるいは、肋骨位置を目視により確認する。本発明では、筋膜切り裂き時に肉塊に傷をつけないように肋骨周辺の高級肉質を保護するための保護手段を付加することができる。
【0023】
上記肋骨側面切込装置としては、例えば、筋膜を切断して肉塊に傷をつけることなく筋膜を破壊できる機能を有するものであれば、その種類等に制限されることなく使用することができる。また、本発明では、上記肋骨側面切込装置として、例えば、ナイフ、レザーメス、ウォータジェット等の工具を高精度に制御して動作させるロボット機能を具備した装置を使用することができる。
【0024】
次に、得られた肉塊の背骨側を固定具に固定し、把持して押し下げることによって、背骨側肋骨先端部を露出させる。次いで、露出させた肋骨先端を、1本又は複数本、あるいは全部を肋骨把持具で把持し、背骨側よりひもを引き、肋骨を引き剥がす。
【0025】
上記肋骨先端露出及び肋骨先端把持回転処理は、肉塊の背骨側を固定する固定具、肋骨先端部(背骨側)を把持する先端把持具、露出させた肋骨を把持して脱骨処理する肋骨把持具、及び肋骨を肋骨付け根(背骨側)よりひもを引いて脱骨する脱骨手段を具備している肋骨除去システムを利用して行われる。
【0026】
以上のように、本発明では、肋骨表面を覆う筋膜を効果的に切り裂きするために、肋骨に沿って筋膜を切り裂く。更に、本発明では、肋骨先端を露出させる先端処理具とその作動手段、及び肋骨の先端を把持して脱骨処理する肋骨把持具とその作動手段からなる肋骨除去システムが用いられる。これらの手段は、上述の各処理操作を行う機能を有するものであればそれらの具体的な構成は特に制限されるものではなく、これらについては、使用目的、種類及び大きさに応じて任意に設計することができる。また、本発明では、上述の各処理を連続的に行うことができるように、一部又は全部の工程を自動化することができる。
【0027】
このように、本発明では、肋骨除去システムが用いられるが、該肋骨除去システムでは、肋骨先端露出処理、肉塊の先端把握処理、及び脱骨処理が実行される。本発明では、脱骨の前に、肋骨の背骨側先端部を露出させる肋骨先端露出処理を実行することが、肋骨除去工程を機械化・自動化する上できわめて重要である。
【0028】
次に、先端把持では、露出させた背骨側肋骨を、肋骨把持具で把持し、かつ背骨側より肋骨にひもをかけて、脱骨する処理を実行する。上記肋骨除去システムでは、上述の肉塊の根本固定具、先端把持具、肋骨把持具、及びそれらの作動手段、処理手順、制御システム等の具体的構成は、特に制限されるものではなく、処理設備の規模、処理量等に応じて任意に設計することができる。
【0029】
本発明では、上述の背骨のクランプ処理手順、肋骨位置確認の処理手順、筋膜切り裂きの処理手段、肋骨除去システムによる肋骨除去の処理手順の構成が重要であり、これらの処理手順を採用することにより、肋骨除去作業を機械化・自動化すること、それにより、効率よく、安全に、高精度で、除骨作業を実行することが可能となる。上述の処理手順のいずれを欠いても、そのような除骨作業を実行することは不可能であり、本発明は、食肉解体作業における肋骨除去作業を機械化・自動化することを可能とする基本処理技術を確立し、食肉解体作業の全体の処理工程を機械化・自動化することを可能とするものである。
【0030】
豚、牛、馬、羊等の食肉動物類は、生物であるため、重量や大きさ、形状などは、個体毎に差が生じる(個体差)。除骨機械を設計するためには、個体差による装置の大きさ、駆動範囲、構造、機構等への影響を考えなければならない。また、例えば、豚肉胴部に切り分けられる前の工程、即ち、枝肉の半分割、及び3分割の工程における切り分け位置のずれによる豚肉胴部への影響も考慮する必要がある。
【0031】
一例として、豚肉胴部の形状と簡略化した図を、図1〜3に示す。図に示す肉は、腹脂肪とヒレ肉を分離した状態である。図に示す通り、この部位は、肉としてロースとバラ、骨として肋骨と背骨、及び背骨に接する各骨(肋横突起、棘突起、肉に埋まっている骨:乳頭突起)から成る。また、豚肉胴部は、肩との分離位置は、肩甲骨を避けて切り分け、ももとの分離位置は、尾骨を境目として切り分けられる。
【0032】
豚肉胴部の主要な骨である肋骨は、肩側からもも側にかけて骨が徐々に短く、細く変化していく。また、骨が大きく湾曲しているものもある。背骨は、背骨本体、棘突起、乳頭突起、肋横突起から成る骨で形成されている。背骨の裏側は、凹凸の激しい複雑な形状をしており、実際に解体するときは目に見えない部分であることから、骨肉分離には、熟練した技術が必要とされる。
【0033】
本発明では、装置の大きさを決定するために必要な豚肉胴部の全長、全幅、全高等の要素、装置の駆動範囲や除骨装置の機構の決定に必要な骨の厚さや幅、骨の配置間隔等を計測した。その計測結果の一例を、表1に示す。計測結果より、特に変動の激しかった項目は、脂肪の厚さと肋骨の配置間隔である。脂肪の厚さは、最小で1転回、最大で40[mm]とデータに大きなひらきがあり、個体によらず、脂肪の厚さには、背側(ロース側)>腹側(バラ側)、肩側>もも側という厚さの変動が生じるという傾向がみられる。肋骨の配置間隔は、主に肩側に近いほど間隔が長くなり、また、そのばらつきも個体毎に異なる。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、肋骨の計測を行なった。肋骨の長さ及び高さは、未解体時に寸法を計測した。また、肋骨幅と厚さに関しては、同一の肋骨においても、計測位置によって値が変わるので、それぞれ肋骨先端部(バラ側)、中間部そして背骨側(ロース側)の3カ所を計測した。計測結果の一例を、表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
この結果から、最大値と最小値の幅が、肋骨長さは85m回程度、肋骨高さには42[mm]程度の差が見られる。これは、もも側よりも肩側に近い位置の肋骨の方が大きいからであり、肋骨の大きさは、肩側>もも側という関係にある。また、肋骨幅、肋骨厚さもデータに幅がみられ、肋骨先端部は、肋軟骨と繋がる関節部であるため、中間部や背骨側よりも太めの傾向にある。
【0038】
次に、背骨の計測を行なった。計測結果の一例を、表3に示す。個体差による違いだけでなく、枝肉を半分割する際の背骨中心軸からのずれによる影響からか、全体的にデータにばらつきが見られ、背骨の厚さでは、17[mm]の最大最小差が、棘突起では、90[mm]の差が生じる。特に、棘突起に関しては、半分割の影響を大きく受け、個体によっては、ほとんど骨が残っていないものもある。
【0039】
【表3】
【0040】
次に、肋骨除去部(残突起処理を含む)では、背骨切断除去後の肉が載った状態で、処理エリアに移動し、肋骨除骨、残突起等の除骨を行う。その操作工程は、1)肉自体の形状を除骨に向いたものにする、2)肋骨切断端近くのじん帯を切断する、3)肋骨側面切り込みユニットで、肋骨の両側面に切り込みを入れる、4)ひも付きユニットのひもを背骨側処理端部に入れ込み、端部を把持する、5)ひも引き動作を行い、肋骨を分離する、6)残りの突起類を除去する、7)棘突起、肋横突起及び肋軟骨を手作業で処理して終了する、ことから成る。
【0041】
本発明では、肋骨の除骨を背骨側から引く方式が用いられるが、これにより、背骨切断において、肉のロスを少なく、装置を単純にすると共に、製造コスト低減、メンテナンス軽減が可能となる。背骨の切断除骨に関しては、形状が複雑で、これまでは、歩留まりが多少悪くとも、無視する切断や、形状をスキャンして、カッタ−を複雑に動かす切断が行なわれていた。
【0042】
背骨側からのひも引きを可能にする条件及び機構について説明すると、肋骨除骨では、背骨切断位置は、肋骨の背骨接続部の肋骨小頭部分を切断し、棘突起等や関節部分と完全に分離する。背骨側切断端部・肋骨結節下のじん帯を切断し、それと同時に、肋骨の周囲に骨表面に達する切込みを入れ、肋骨側面に肋骨表面に達する切込みを入れ、ひもを骨と骨はだの間に挿入し、引き動作する方法で、装置による、ひも引きが可能となる。
【0043】
肋骨のひも引きを可能にする条件として、肋骨端部周囲・側面に肋骨表面に達する切込みを入れ、骨と骨はだの間をひも引きする。肋骨の肋軟骨側には、じん帯の付着があり、従来方法では、ひも引き前に切断が必要であるが、本発明では、じん帯付着の繊維方向が逆になるので、ひも引きだけで分離が可能である。
【0044】
切込みの目的と効果については、端部処理切込で、肋骨切断端部の肋骨周囲の肋骨表面に達する切り込みにより、引きひもにじん帯や筋肉の巻込みを防ぎ、ひもを直接骨表面に掛けることが可能となる。肋骨側面切込で、骨はだの巻込みを防ぎ、肉段付の仕上りを確保することができる。
【0045】
従来の肋軟骨側からのひも引きは、肋骨の形状とじん帯・筋肉の付着状態(強度)から、補助器具を使用してのひも引きでも、肋骨の中途で止まってしまい、また、背骨側の肋骨に付着したじん帯には、肉が付着してしまう。また、手作業で、肋骨の側面に切込みを入れる際に、軟骨側の端部付着じん帯を切り離すため、ナイフのひねり動作が必要となる。
【0046】
本発明では、背骨切断を単純化するために、背骨形状の補正を行う。この背骨の強制補正方法は、複雑な形状の背骨を単純な切断装置で切断可能にする。背骨の切断と除骨において、歩留り確保・向上に理想的な切断は、背骨切断面を平面状に矯正(強制的に補正)し、単に直線的に、切断刃又は肉が動作することにより、理想的な切断を行うことを可能にする。
【0047】
これにより、装置の機構を単純化し(計測・処理装置、切断するための制御軸等を減らす)装置コストの低減により、普及をはかると同時に、メンテナンス等の維持管理を低減する。一般的装置で使用する丸鋸等の場合、背骨の切断面形状は平面であるが、本発明では、切断面が曲面等でも、同様に、装置の切断方法に合わせ、その歩留りが最大になるように、背骨形状を補正することが可能である。
【発明の効果】
【0048】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)食肉解体除骨工程における作業環境を質的に高度に改善することができる。
(2)肉を傷つけずに脱骨できるため、高品質な食肉を得ることができ、市場価値が下がらない高品質の食肉を供給することが可能となる。
(3)脱骨後の骨に肉片が残らないため、無駄が減少し、歩留りが向上する。
(4)人力を要さないので、過酷な労働環境、熟練を要する作業から、作業者を解放することができる。
(5)肋骨除去作業において、作業者が食肉に直接触れることがないため、より衛生的な作業と食肉生産が可能となる。
(6)肋骨除去工程を機械化・自動化することによって、作業時間の短縮と、食肉の鮮度保持が可能となる。
(7)作業者の安全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】豚肉胴部の簡略化した説明図を示す。
【図2】豚肉胴部の写真を示す。図中、マル1は全長、マル4は肋骨域の長さ、マル5は肋骨の配置間隔、である。
【図3】豚肉胴部の断面の写真を示す。図中、マル2は全高、マル3は全幅、マル6は脂肪の厚さ、である。
【図4】背骨矯正固定具、切断装置を有する背骨除去装置の説明図を示す。
【図5】切断刃の説明図を示す。
【図6】背骨の切断位置を示す説明図である。
【図7】背骨の切断位置を示す説明図である。
【図8】肋骨の高さ、長さ、幅、厚さ、曲り幅に対応して可動する肋骨除去装置及び先端部構造の一例を示す。
【図9】本発明の除骨工程で用いられる肉塊固定装置、背骨除去装置、肋骨側面切込装置、肋骨剥がし装置を有する除骨装置の一例を示す。
【図10】肉固定具、リニアアクチエータ(X軸)、リニアアクチエータ(Y軸)、肋骨剥がしユニットを有する肋骨除去装置に一例を示す。
【図11】肋骨引き剥がしユニットの一例(自由度のないタイプ1の部材)を示す。
【図12】2つの関節と肋骨先端の幅に対応する機構を備えた自由度のあるタイプ2の部材を示す。
【図13】肋骨剥がしユニットを肋骨の形状をなぞるように動かし、装置の駆動軌道を取得(ティーテング)する操作の説明図を示す。
【図14】3種類の紐状部材の違いによる肋骨剥がし力の計測結果の一例を示す。
【図15】自由度の有無による肋骨剥がし力の計測結果を示す。
【図16】肋骨幅に対応して可変する可変肋骨除骨ユニット先端の構造の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
本実施例では、背骨をクランプするクランプ部において、豚肉胴部の背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持して、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する作業を行い、クランプ及び切断刃の有効性の評価実験を実施した。
【0052】
(1)背骨付きロース・バラ肉のクランプ実験
本発明の除骨方法及び除骨装置は、背骨付きロース・バラ肉をクランプして固定する背骨クランプ部と、背骨を切断して肉から分離する背骨切断部と、背骨切断/除去後の肉から肋骨を分離する肋骨除骨部とから構成される。ロース・バラ肉をクランプして固定する背骨クランプ部では、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプした。
【0053】
その操作は、以下の工程により実施した。
1)肩側切断面を基準に、モモ側から押し付けて位置決めした。
2)高さ方向は、ロース・バラの下面を持上げて、上からの基準面まで持上げた。
3)背骨切断部に移動可能に配設したクランプユニットは、テーブルに対して、平行に配置した。
4)ほぼ水平にした状態で、背骨クランプ側が前進して、クランプユニット個々に背骨をクランプした後、クランプユニットを引き込み、個々の設定位置に固定し、背骨切断面を一直線に設定した。
5)クランプした状態で、下面の持上げユニットを下降させ、背骨のみで肉全体を保持した。
6)クランプ部を、モータ・ネジ棒駆動で、次工程の背骨切断部へ移動させた。
【0054】
(2)背骨の切断実験
次に、背骨切断部において、上記クランプユニットを移動させながら、背骨を切断した。その操作は、以下の工程により実施した。
1)切断くず防止用に、シャッターを、各工程の境に配置した。
2)切断用のカッター刃は、背骨切断面に沿って角度を持たせ、角度は、基本的に固定した状態にした。
3)カッターは、X方向のみ可動可能な調整機構とした。
4)クランプ部のクランプユニットを、モータ・ネジ棒で駆動し、切断部に送り、カッター自体は、固定した。
5)肋骨除骨部のテーブルユニットを、切断部に移動し、待機させた。
6)切断次第、把持されている背骨から肉を分離して、待機テーブル上に落下させた。
【0055】
(3)切断刃の評価
背骨除去に使用する刃の選定、刃の回転速度、刃の送り速度について検討を行った。 背骨は、凹凸の激しい複雑な形状をしているため、現状の手作業の模倣は困難と考え、より単純に、そして歩留りがよく除去できる方法を検討した。背骨を除去する装置は、既存のカッターが製品化されている。
【0056】
そこで、独自の除骨方法を検討した。表4に、既存のカッターとの違いを示す。まず、既存のカッターの場合、台上に肉を置いた自然体のままで背骨を切断除去するが、本実施例においては、背骨をL型のアングルに押し付け、直線状に矯正した後、背骨をスパイクで噛み込み、固定した。次に、既存のカッターでは、肋骨側と枝肉半分割面側に2方向から刃を入れ、背骨を切断除去するが、本実施例においては、枝肉半分割面側から肋骨側にかけて刃を貫通させるように入れ、1回の切断で背骨を除去した。
【0057】
【表4】
【0058】
背骨を切断する際は、既存のカッターでは、背骨の3次元的な曲りに対応するため、あらかじめ計測しておいた肉の三次元データを元に、ロボットアームで好適な位置を切断した。本実施例においては、刃の位置をリニアアクチュエータ3つと刃の角度調整用モータの計4つで調整したが、切断する際には、背骨に合わせて刃の位置と角度を固定するため、実際には、背骨長手方向(全長方向)の送り速度のみの制御とした。
【0059】
(4)装置の構成
背骨除去実験では、刃の回転速度や位置、角度、送り速度等の好適な背骨の切断条件や固定方法の手順等を、また、最終的に必要となる要素、除去できる要素等を検討した。装置の簡略図と装置の駆動を図4に示す。背骨矯正固定具は、背骨を直線状に矯正、固定するL型固定具と、L型固定具に肉を押し付ける背骨矯正押圧エアシリンダ、肉全体の高さを調節する高さ調節ジャッキから構成した。
【0060】
エアシリンダで肉全体を押し付け、背骨をL型固定具に押し付けた後、ジャッキで高さを調節し、背骨を直線状に矯正した後、スパイクで背骨を噛み込み固定した。切断装置は、XYZ軸それぞれのリニアアクチュエータと切断刃角度調節モータの計4つのアクチュエータで切断位置を決定した。
【0061】
なお、XYZ軸それぞれのリニアアクチュエータのストロークは、X軸:680[mm]、Y軸280[mm]、Z軸280[mm]で、切断刃の角度は、Y軸と平行の位置を0°として、−50〜70°までで調節した。なお、背骨固定時、背骨切断時ともに肉がずれることを防止するため、ずれ防止用スパイクを、背骨矯正押圧エアシリンダに取り付けた。
【0062】
(5)実験方法
以下に、背骨切断実験の手順を示す。肉を固定台に載せ、L型固定具上面と肉半分割面がほぼ平行になるようにジャッキで高さを調節し、肉の背脂を手で押し、L型固定具側面に背骨の緑線を押し付けて、直線状に矯正した。背骨矯正押圧エアシリンダを駆動させ、肉全体を把持し、再び、ジャッキで肉の高さを調節し、背骨半分割面をL型固定具に密着させ、背骨噛み込み用のエアシリンダを駆動させ、背骨を噛み込み固定した。
【0063】
角度調節モータを駆動させ、所定の角度にして、Z軸リニアアクチュエータを駆動させ、肉に接触しない位置まで切断装置を動かし(この位置を退避位置とする)、切断刃を回転させ、所定の切断位置まで、Y軸及びZ軸リニアアクチュエータを駆動させ、X軸リニアアクチュエータを駆動させ、背骨を切断した。本実験においては、図5に示す4種類の切断刃を使用し、その性能を比較した。刃の直径は(a)〜(c)が200[mm]、(d)は203[mm]である。
【0064】
(6)実験結果
1)切断刃
切断刃による背骨切断結果については、まず、通常の丸刃で背骨切断を試みたところ、骨表面で刃が滑り、骨を切断することができなかった。次に、U字溝付き刃を使用して切断を試みた。通常の丸刃と比較して、U字の溝部分が骨に喰い込み、数mm切り進むことができたが、背骨を切断しきることはできなかった。次に、のこぎり刃を使用して切断を試みた。前記2つの刃よりも骨に対する食い込みは良好であったが、背骨を切断しきることはできなかった。
【0065】
原因としては、これまでの3つの刃に共通する事柄であるが、刃の形状が丸刃の中心から刃先に向かって刃厚が薄くなっている形状であり、背骨を切り進むと、刃面に対しての圧力が増して抵抗が増加し、その結果、刃が停止してしまうものと考えられた。そこで、この点を考慮して、先端の刃厚が刃中心よりも厚いチップ付のこぎり刃で切断を試みた。骨への食い付きがよく、ほとんど刃の回転が停止することなく、背骨を切断しきることができた。これによって、切断には、チップ付のこぎり刃使用することが好適であることが分かった。
【0066】
2)切断刃の回転速度
切断刃の回転速度を変化させ、どの回転速度が背骨切断に適しているかを評価するための実験を行なった。切断刃の回転数は、500[rpm]〜1100[rpm]の間で変化させ、切断を行なった。評価としては、背骨切断後の断面に付着する骨粉の量と状態、切断時に飛び散る骨粉の状態、及び切断刃に付着する骨粉の状態から、適する回転数の評価を行なった。
【0067】
理想としては、骨粉の状態は、固まることなく、ばらついた状態で飛び散ること、また、切断刃には、極力切粉が付着しないこと、である。切断と同時に切粉を吸い込んで除去するため、骨粉がばらついた状態で飛び散ることで、除去し易くなる。切断刃への付着を避けるという理由は、刃の切れ味への影響を考えて、極力付着を避けることで、少しでも抵抗を減らすためである。
【0068】
500[rpm]〜700[rpm]の場合、切断後の骨粉は、固まった状態で残ることが多かった。また、切断刃に関しても、刃と刃の間に骨粉がかなり残留していた。回転数を上げて背骨の切断を試みた。800[rpm]以上の場合、切断後の骨粉は、ばらついた状態で残っており、また、切断刃に残留する骨粉に関しても少なめであった。これによって、回転数は、800[rpm]以上に設定し、切断を行なうことが好ましいことが分かった。
【0069】
3)切断位置
背骨切断において、好適な切断面は、肋骨、乳頭突起、棘突起、肋横突起それぞれの骨が繋がることなく、分離している状態である。この好適な切断位置を求めるために、評価実験を行なった。切断位置は、図6に示す切断刃の切断角度θ、及び、基準点からの背骨幅方向位置Y、背骨厚さ方向位置Zの3つの要素で決定した。なお、これらの要素は、切断装置のリニアアクチュエータ、モータそれぞれで、位置を調節、決定したものであり、実際に切断した背骨幅方向の切断量、背骨厚さ方向の切断量ではない。
【0070】
肋骨、乳頭突起、棘突起、肋横突起それぞれが分離しきったときの切断位置の情報を、表5に示す。実際に切断した背骨幅、背骨厚さは、図7に示す量である。実際に切断した背骨幅は、平均で約47[mm]、背骨厚さは、約24[mm]、切断刃の角度は、肩〜もも区間で一定の55[°]である。
【0071】
【表5】
【0072】
この切断条件で、背骨切断を行なった場合、それぞれの骨が他の骨と繋がることなく、分離した。これよりも、背骨の切断幅、厚さ、切断刃角度が浅い場合、背骨の途中を切断したり、それぞれの骨が繋がったままになってしまったりした。個体によっては、背骨が厚く、多少、繋がったまま残ってしまうことはあったが、ほぼ総じて、表5に示す切断位置で、すべての骨を分離しきることができた。これによって、これらの切断位置が適切なものであることが分かった。
【0073】
4)切断刃の送り速度
切断時の送り速度は、5[mm/s]〜15[mm/s]で変化させた。5[mm/s]の場合は、切断中にほとんど刃が停止することなく切り進むことができたが、15[mm/s]の場合、頻繁に切断刃が停止した。切断刃が停止する原因としては、骨だけではなく、肉及び関節部分の筋も切断しているので、これらに食い込むような形で刃が停止するものと考えられた。これに関連して、刃の形状がのこぎり刃であるので、骨を切る分には問題ないが、肉に対しては適していないと考えられ、これらの問題を解決するため、切断方法に工夫を施した。
【0074】
一定量の切り込みを進めた後、一度進行を停止、もしくは少し後進させた後、再度切り込みを進める、という方法を繰り返して、切断を行なった。一度停止させ、後進させる理由は、刃にまとわりついてくる肉や関節部分の筋を一度逃がすことで、刃に対する抵抗を減らすためである。この方法で切断を試みたところ、切断刃が停止した15[mm/s]でも、切断しきることができた。これまでの実験では、送り速度は、15[mm/s]としたが、装置の構造の改善、それに伴う、モータ出力の増大を行なうことで、より送り速度を上げることができることが分かった。
【0075】
(7)結果
以上の結果から、本実施例で検討した、豚肉胴部のクランプ方法、切断方法に関しては、背骨、肋骨、棘突起、乳頭突起、自力横突起を分離しきることが可能であり、有効であること、切断刃の形状に関しては、モータ出力、及び切断方法を工夫することで、肉、筋等も問題なく切れることが分かった。切断位置は、個体毎に切断幅位置、切断厚さ位置、切断刃角度を微妙に調節する必要があるが、総じて、本実験で適用した位置、角度で、骨を分離させることが可能であることが分かった。回転速度は、本実験では、1100[rpm]まで切断が可能であり、切断後の骨粉等の状態も良好であることが分かった。
【実施例2】
【0076】
本実施例では、肋骨除去基礎実験として、引き糸の選定と肋骨の除去に必要な力の測定、及び肋骨除骨装畳先端部材の構造の比較実験を行った。
(1)肋骨除去基礎実験
綿糸製の引き糸は、耐久性が低く、摩擦が大きいこともあり、除骨作業の機械化においては、肋骨剥離には向いていないと考えられた。ステンレス製とナイロン製の引き糸は、耐久性も高く、同程度の最大負荷であるが、総合的に見ると、ナイロン製の方が、低負荷で肋骨剥離していることや、ステンレスの場合、破断した際に、破片が肉口混入する可能性あることから、肋骨剥離には、ナイロン製の引き糸を用いることが妥当と考えられた。
【0077】
次に、その引き糸を使用し、単純ツールと多関節ツールの評価実験を行った。多関節ツールは、肋骨の曲がりに十分な対応を示し、かかる負荷も、単純ツールの三割近くまで低減することができた。肋骨除骨装置には、多関節ツールのように、個体差に十分な対応ができる機構が必要であることが分かった。
【0078】
以上の実験結果を基礎として、肋骨除去装置の製作を行なった。この装置において、上記結果を反映させた箇所を、肋骨長さ方向の肋骨側面切込移動距離、肋骨高さ方向の肋骨側面切込の切り下がり距離、肋骨の厚さ方向の肋骨側面切込の切込刃、肋骨の幅方向の切込刃の幅可変、肋骨の曲り幅に対する先端部のスライド等として、図8にまとめて示す。なお、本実験は、背骨除去後に、肋骨側面切込ユニットで側面に切り込みを入れる、肋骨端部を肋骨把持ユニットで掴む、肋骨剥がしユニットで肋骨を分離させる、という手順で行なった。
【0079】
(2)実験結果
肋骨側面切込ユニットで切込を始める際に、背骨を切断した後の肋骨の端面を、切込ユニット先端の刃で肋骨を挟み、その後、エアシリンダを駆動させ、切込ユニットを下降、引きを行ない、肋骨側面に切り込みを入れた。切込ユニットは、肋骨除去基礎実験で検討した多関節、先端幅可変の構造を有するため、肋骨の形状に追従し、切り込みを入れることができた。
【0080】
次に、肋骨端部把持ユニットで肋骨を把持し、肋骨剥がしユニットで、肋骨を剥がし始めた。これも、切込ユニットと同様に、多関節構造で肋骨に追従できる構造とした。肋骨を剥がした後の状態は、余分な肉が肋骨に付着せず、肋骨除去後の表面もきれいになっていることが分かった。
【0081】
本実験においては、部分的に切り込みが深い場所があったり、肋骨除去に際して、剥がし用のラインが破断したりすることがあったが、これらに関しては、装置に自由度を設け、ラインと剥がしユニット先端が接触する端部を面取りして、破断しにくくする対応を取ることで解決できることが分かった。
【実施例3】
【0082】
本実施例では、除骨装置に必要な要素、機構等を検討し、肉塊固定装置、背骨除去装置、肋骨側面切込装置、及び肋骨剥がし装置から成る、除骨工程及び装置を構築した。図9に、その一例の概略図を示す。
(1)工程及び装置の構築
肉塊固定装置は、肉が非常に変形し易いことから、作業中の肉のずれを防止するために必要であり、背骨除去装置、肋骨剥がし装置は、それぞれの骨を除去するために必要である。肋骨側面切込装置は、肋骨剥がし装置によって肋骨除骨を行なう際に、負荷を軽減するために必要である。
【0083】
これらの装置を用いた除骨は、以下の工程により実施した。
1)肉を肉塊固定装置に備え付け、作業中にずれが生じないように固定した。
2)背骨除去装置によって背骨を切断除去した。
3)肋骨側面切込装置で肋骨側面に切り込みを入れた。
4)肋骨剥がし装置によって肋骨を除去した。
【0084】
(2)肋骨除去の基礎実験
豚肉胴部の除骨作業において、一番重労働とされているのが肋骨の除去作業である。そこで、本実施例では、肋骨を肉から分離させるためには、どれほどの力を要するのかを負荷測定し、また、肋骨除去に必要な機構、分離方法等を検討した。
【0085】
(3)装置の構成
実験に使用した装置の一例の概略図を図10に示す。装置は、水平方向の(X軸)リニアアクチュエータに、垂直方向(Y軸)のリニアアクチュエータを取り付け、Y軸リニアアクチュエータの駆動ブロックに、肋骨剥がしユニットを取り付けた構造とした。リニアアクチュエータは、41[kgf]を100%とし、最大300%(123[kgf])まで出力が可能であり、また、付属の制御ソフトにて負荷の計測を行なうことが可能である。なお、本実施例では、肉の固定具を使用して、ずれが極力生じないようにして、力の計測を行なった。
【0086】
肋骨引き剥がしユニットは、自由度のない部材(タイプ1)(図11参照)と、2つの関節と肋骨先端の幅に対応する機構を備えた自由度のある部材(タイプ2)(図12参照)の2つを使用し、それぞれにおいて負荷を計測した。また、肋骨剥がしには、現状の手作業と同じように、骨形状に沿ってなぞることが可能な紐状の部材を用いて分離を行なった。種類としては、テグス(釣り糸、材質:ナイロン)、綿糸、ステンレスの3種類を使用した。
【0087】
(4)実験方法
肋骨剥がし実験は、以下の手順で実施した。
1)肉を肉固定具に載せ、肉押さえ具で、肉を押さえて固定した。
2)肉表面上部50[mm]の位置を、肋骨の形状をなぞるように動かし、装置の駆動軌道を取得した(ティーチング)。(図13参照)
3)実際の手作業と同様に、肋骨側面に包丁で切り込みを入れた。
4)ティーチングで得た軌道データを元に、装置を動かした。この時、軌道全長を6分割し、それぞれのポイントにおける負荷率(%表示)を記録し、剥がし力を調べた。
5)以上を全肋骨に対して行った。
【0088】
(5)実験結果
3種類の紐状部材の違いによる肋骨剥がし力の計測結果の一例を図14に示す。3種類の部材の中では、テグスが一番肋骨除去にかかった負荷が小さいことが分かる。また、綿糸に関しては、途中で破断しているが、これは、ティーチングの際の軌道データの誤差による過負荷と、肋骨の途中の小さな突起に引っ掛かったことによる負荷によって被断したものと考えられる。
【0089】
ステンレスの場合は、全体的に大きな負荷がかかっているが、これは、他の2種類の部材と比較して、ステンレスは、一度変形すると元の形状にはなかなか戻らず、それ以降の骨の形状に追従することができないためと考えられる。また、ここには示していないが、ティーチングのずれによって骨に追従できず、肉に肋骨荊がしユニットが侵入してしまった場合、リニアアクチュエータの限界負荷である300%(123[kgf])でも動くことができず止まってしまうことが分かった。
【0090】
次に、自由度の有無による肋骨剥がし力の計測結果を図15に示す。図からも分かる通り、自由度を付加した場合、肋骨剥がしに必要な力は、自由度がない場合と比較して、半分以下に抑えられていることが分かる。これは、肋骨の曲りに対して自由度があるユニットの場合、柔軟に追従し、また、ティーチングによるずれも多関節にしたことである程度吸収してくれたため、余計な力が加わらなかったと考えられる。
【0091】
以上の実験より、以下の結果が得られた。
1)肋骨の側面切込ユニット及び剥がしユニットは、肋骨の曲りに対応する、多関節構造が有効である。
2)ユニット先端幅は、肋骨の幅変化に対応する、可変構造が有効である(図16参照)。
3)多関節構造にすることで、個体毎に異なる肋骨の形状、大きさによる除骨軌道に対して、柔軟に追従させることが可能となる。
4)多関節構造にすることで、肋骨剥がし力を大きく軽減させることができるため、紐部材に大きな負荷を与えることなく、紐部材の寿命を延ばすことができる。
5)上記構造にすることで、肋骨除去に必要な力は、20[kgf]まで低減可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上詳述したように、本発明は、食肉動物類の除骨方法及び除骨装置に係るものであり、本発明により、食肉解体除骨作業において、肋骨除去作業を機械化・自動化することが可能な新しい除骨方法及びその装置を提供することができる。本解体システムは、特に大きな設置スペースを要さないので、現状の人海戦術による食肉解体工場に随時導入可能である。本発明は、食肉解体作業現場における安全性の向上、作業環境の質的向上、作業時間の短縮、除骨作業の機械化・自動化等が可能であり、それにより、高品質の食肉を高効率及び高精度の除骨作業で得ることを可能とするものとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉動物類の食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、
背骨をクランプする背骨クランプ部で、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、
背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、
背骨切断、分離後、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、肋骨両側面に背骨側から肋骨側面切込ユニットで切込を入れ、その後、背骨側より肋骨にひも引きユニットでひもをかけて、引き剥がす肋骨除去工程、
を有することを特徴とする食肉解体除骨方法。
【請求項2】
肋骨の切込具とひも引きユニットは、多関節、かつ左右のスライドが可能な構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
背骨を切断する背骨切断部で、クランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃を、背骨切断面に沿って一定の角度で固定し、移動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
肋骨位置に基づいて、肋骨側面切り込みユニットで、肋骨の両側面に切り込みを入れて筋膜を切り裂く、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ひも引きユニットに設置したひもを、肋骨の背骨側処理端部に入れ込み、該端部を把持し、背骨側からひも引き動作を行い、肋骨を分離する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
背骨をクランプする背骨クランプ部、背骨を切断、分離する背骨切断部、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、背骨側より肋骨にひもをかけて引き剥がし、関節脱離させて、脱骨する脱骨手段を有する肋骨除骨部から構成されることを特徴とする除骨装置。
【請求項8】
背骨クランプ部が、背骨切断部に移動可能に配設されたクランプユニットを有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
背骨切断部が、背骨をクランプしたクランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する構造を有する、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
肋骨の両側面に切り込みを入れる肋骨側面切り込みユニットを具備した、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
肋骨の背骨側処理端部にひもを入れ込み、背骨側切断後の肋骨端部を把持し、ひも引き動作を行い、肋骨を分離するひも引きユニットを具備した、請求項7に記載の装置。
【請求項12】
背骨及び/又は肋骨位置及び形状情報に基づいて、各工程における処理操作を連続的に行う機能を有する、請求項7から11のいずれかに記載の装置。
【請求項1】
食肉動物類の食肉解体除骨工程において、背骨及び肋骨付き胴部の解体除骨処理を行う食肉解体除骨方法において、
背骨をクランプする背骨クランプ部で、背骨を切断面の設定に合わせるようにクランプして、背骨で肉塊全体を保持する工程、
背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃で設定した切断面に沿って背骨を切断、分離する工程、
背骨切断、分離後、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、肋骨両側面に背骨側から肋骨側面切込ユニットで切込を入れ、その後、背骨側より肋骨にひも引きユニットでひもをかけて、引き剥がす肋骨除去工程、
を有することを特徴とする食肉解体除骨方法。
【請求項2】
肋骨の切込具とひも引きユニットは、多関節、かつ左右のスライドが可能な構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
背骨を切断する背骨切断部で、クランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
背骨を切断する背骨切断部で、切断用のカッター刃を、背骨切断面に沿って一定の角度で固定し、移動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
肋骨位置に基づいて、肋骨側面切り込みユニットで、肋骨の両側面に切り込みを入れて筋膜を切り裂く、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ひも引きユニットに設置したひもを、肋骨の背骨側処理端部に入れ込み、該端部を把持し、背骨側からひも引き動作を行い、肋骨を分離する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
背骨をクランプする背骨クランプ部、背骨を切断、分離する背骨切断部、背骨側の肋骨先端部を露出させて、肋骨背骨側を固定し、背骨側より肋骨にひもをかけて引き剥がし、関節脱離させて、脱骨する脱骨手段を有する肋骨除骨部から構成されることを特徴とする除骨装置。
【請求項8】
背骨クランプ部が、背骨切断部に移動可能に配設されたクランプユニットを有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
背骨切断部が、背骨をクランプしたクランプユニットを移動させながら背骨を切断、分離する構造を有する、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
肋骨の両側面に切り込みを入れる肋骨側面切り込みユニットを具備した、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
肋骨の背骨側処理端部にひもを入れ込み、背骨側切断後の肋骨端部を把持し、ひも引き動作を行い、肋骨を分離するひも引きユニットを具備した、請求項7に記載の装置。
【請求項12】
背骨及び/又は肋骨位置及び形状情報に基づいて、各工程における処理操作を連続的に行う機能を有する、請求項7から11のいずれかに記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−263830(P2010−263830A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118111(P2009−118111)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(509136013)
【出願人】(000161057)株式会社ミヤコシ (122)
【出願人】(594014786)株式会社秋田食肉卸センター (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(509136013)
【出願人】(000161057)株式会社ミヤコシ (122)
【出願人】(594014786)株式会社秋田食肉卸センター (3)
【Fターム(参考)】
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