説明

食鳥肉の殺菌方法

本発明は、食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液との接触処理を行う、食鳥肉の殺菌方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、食鳥肉の殺菌方法に関する。
【背景技術】
毎年、多くの国で食鳥肉が関係した食中毒症の発生が定期的に報告されている。その主な原因は微生物汚染である。すなわち、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌、カンピロバクター、セリウス菌、赤痢菌等の病原菌による汚染である。
一般に、食鳥処理における微生物管理は困難である。というのは、多数の食鳥を高速処理するため微生物の拡散に好都合であること、処理中には屠体は丸のまま置かれること、比較的小さな腹部の開口から腸を破損せずに内蔵を除去することは困難であること、皮の存在により微生物の除去が困難となること、ならびに脱羽後は多数の穴が形成されること等の、その他の食肉動物の場合とは異なる処理上の問題が存在するためである。
食鳥肉製品の微生物汚染は食鳥の輸送や処理工程のどの段階でも発生し、食鳥の処理工程の一般的な一例を第1図に示すが、空中や処理用水、氷、装置、作業員からも微生物はもたらされる。これらの処理工程における微生物管理は、一般には処理水の温度やpHの管理、作業環境の整備、貯蔵や輸送時の温度管理等で行われており、特に処理工程の中でも脱羽、中抜き、および冷却工程では高圧スプレーや塩素等が使用されている。具体的には、(1)冷却工程において使用する冷却水に次亜塩素酸ソーダを添加する方法、(2)冷却工程前に次亜塩素酸ソーダと有機酸の混合液を噴霧する方法、(3)冷却工程前に第三リン酸エステルと有機酸の混合液に浸漬または噴霧する方法、ならびに(4)冷却工程後に次亜塩素酸ソーダまたは類似の塩素系殺菌剤を噴霧する方法等を挙げることができる。 しかしながら、(1)の方法は水中の菌の殺菌には効果があり交差汚染の防止には有効であるが、塩素が食鳥肉に接触すると塩素は急速に不活化するため、食鳥肉の表面に付着した菌(以下、付着菌という場合がある)の殺菌には不充分であり、食鳥肉は菌を保持したまま出荷されることになる。(2)の方法は殺菌効果は高いが、有害な塩素ガス発生の危険があり、人体や設備への悪影響が懸念される。また、冷却工程において殺菌剤が除去されることから、冷却工程以後の工程では殺菌効果を期待できない。(3)の方法ではリンによる環境汚染や食鳥肉の食味への悪影響の問題がある。また、(4)の方法は殺菌効果が高い一方、殺菌剤自身の毒性から、食鳥肉からの殺菌剤の除去が必要である。それゆえ、殺菌工程以後の工程では殺菌効果を期待できない。
このように、従来の食鳥肉の殺菌方法は食鳥肉の製造のための食鳥の処理における特定の工程での殺菌に止まっており、いずれも冷却工程以後の工程において持続的に殺菌効果を発揮することはできない。従って、殺菌処理を行いながらも冷却工程以後の工程で再び菌の汚染・増殖を許してしまい、製品である食鳥肉の殺菌が不充分となる場合がある。それゆえ、特に冷却工程以後の工程において持続的かつ効果的に殺菌効果を発揮しうる食鳥肉の殺菌方法の開発が望まれる。
本発明はかかる食鳥肉の殺菌方法を提供することを目的とするものであり、詳しくは、安全かつ簡便に、しかも持続的かつ効果的に食鳥肉の殺菌を行うことができる食鳥肉の殺菌方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、食鳥肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理が前記課題の解決に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕 食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液との接触処理を行う、食鳥肉の殺菌方法、
〔2〕 複数の処理工程からなる食鳥処理の少なくとも一つの処理工程で、および/または少なくとも一つの連続する2つの処理工程の間で接触処理を行う、前記〔1〕記載の殺菌方法、
〔3〕 処理工程が中抜き工程、冷却工程および包装工程からなる群より選ばれる、前記〔2〕記載の殺菌方法、
〔4〕 中抜き工程と冷却工程との間で接触処理を行う、前記〔3〕記載の殺菌方法、
〔5〕 冷却工程で、および/または冷却工程と包装工程の間で接触処理を行なう、前記〔3〕または〔4〕記載の殺菌方法、
〔6〕 ヒノキチオール水溶液におけるヒノキチオールの濃度が1〜50000ppmである、前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の殺菌方法、
〔7〕 ヒノキチオール水溶液のpHが4〜11である、前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の殺菌方法、
〔8〕 処理温度が0〜70℃である、前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の殺菌方法、
〔9〕 接触処理が、塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行われる、前記〔1〕〜〔8〕いずれか記載の殺菌方法、ならびに
〔10〕 食鳥を処理して食鳥肉を製造する工程において前記〔1〕〜〔9〕いずれか記載の殺菌方法を用いる、食鳥肉の製造方法、
に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、食鳥の処理工程の一般的な一例を示す工程図である。
第2図は、ヒノキチオール水溶液の殺菌力試験の結果を示すグラフである。なお、グラフ縦軸の「CPU」は生菌率を示す。
第3図は、Escherichia coli O157:H7の付着したニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理試験の結果を示すグラフである。
第4図は、Salmonella typhimuriumの付着したニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理試験の結果を示すグラフである。
第5図は、Listeria monocytogenesの付着したニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理試験の結果を示すグラフである。
第6図は、Staphylococcus aureusの付着したニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理試験の結果を示すグラフである。
第7図は、Campylobacter coliの付着したニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の食鳥肉の殺菌方法は、食鳥を処理して食鳥肉を製造するに除して、食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液との接触処理を行うことを1つの大きな特徴とする。本発明はかかる構成を有するので、安全かつ簡便に、しかも従来に比し、より持続的かつ効果的に食鳥肉の殺菌を行うことができる。
すなわち、本発明において使用するヒノキチオール水溶液は食鳥肉の殺菌に対し優れた効果を発揮するので、食鳥肉に対し該水溶液を接触(たとえば、該水溶液に食鳥肉を浸漬)させるのみで簡便に食鳥肉の殺菌を行うことができる。前記したように他の食肉動物の場合とは異なる種々の処理上の問題があり、食鳥処理における微生物管理は一般に困難であるが、ヒノキチオール水溶液は優れた殺菌効果を発揮する上、後述するように当該水溶液を用いる接触処理は食鳥肉全体に渡ってさえ非常に簡便に行うことができるので、効率的に食鳥肉を殺菌することができる。当該ヒノキチオール水溶液に含まれるヒノキチオールは天然物由来の成分であり、安全性にも優れるので、接触処理後の食鳥肉は無毒もしくは極めて低毒性であり、ヒノキチオールもしくはヒノキチオール水溶液を当該接触処理後の食鳥肉から除去する必要はなく、従って、殺菌工程以後の工程においても優れた殺菌効果が持続的に発現される。また、食鳥肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理が食鳥肉の色や味等を変化させることはない。しかも、従来の方法において懸念されたような人体、設備、環境等への影響もない。
本発明において使用するヒノキチオールは天然由来であっても、合成物であってもよい。また、ヒノキチオールは精製物であってもよく、ヒノキチオールを含有する組成物、たとえば、天然の原料植物由来の抽出物としても使用することができる。さらに、ヒノキチオールの塩も使用可能である。
なお、ヒノキチオールの語は一般にツヤプリシン(Thujaplicin)の異性体の1つであるβ−ツヤプリシンの慣用名として使用されるが、本発明におけるヒノキチオール水溶液には、β−ツヤプリシンに加え、その他の異性体であるα−ツヤプリシンとγ−ツヤプリシンを含んでいてもよい。
ヒノキチオールの原料植物としては、たとえば、ヒバ、タイワンヒノキ、アスナロ等を挙げることができる。中でも、入手容易性の観点から、ヒバが好ましい。原料植物からのヒノキチオールの抽出・精製は公知の方法により行うことができる。前記抽出物としては、たとえば、前記原料植物から得られる精油(たとえば、ヒバ油)を挙げることができる。一方、合成物も公知の方法により得ることができる。市販のものとしては、たとえば、高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)から販売されているものを挙げることができる。ヒノキチオールの塩としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好適である。
ヒノキチオール水溶液の媒体としての水は特に限定されるものではなく、たとえば、水道水、蒸留水、イオン交換水等を使用することができる。当該水溶液におけるヒノキチオールの濃度は、本発明の食鳥肉の殺菌方法の適用対象である食鳥肉の加工度、生鮮状態によって異なり、本発明の所望の効果が得られるよう適宜調節することができる。一般には、当該濃度としては、好ましくは1〜50000ppmであり、より好ましくは10〜5000ppm、さらに好ましくは25〜1000ppmである。ヒノキチオール水溶液の調製は、たとえば、ヒノキチオールもしくは前記抽出物を水と混合することにより行うことができる。その際、所望によりその他の成分を添加してもよい。たとえば、ヒノキチオールの水への溶解性を高める観点から、たとえば、人体にとって安全である界面活性剤や植物からの抽出液等を添加してもよい。なお、本明細書において「ppm」とは、溶液1L当たりに含まれる溶質のmg数で表した、溶液中の溶質の濃度を示す。
本発明の食鳥肉の殺菌方法を適用し得る食鳥としては特に限定されるものではなく、たとえば、ニワトリ、カモ、シチメンチョウ、ウズラ、アヒル、サギドリ、ダチョウ、エミュウ等を挙げることができる。本発明の食鳥肉の殺菌方法は、食鳥肉において検出され得る、たとえば、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌(たとえば、O157大腸菌)、リステリア菌、カンピロバクター等の殺菌に有効であり、中でも、サルモネラ菌、リステリア菌、O157大腸菌の殺菌に特に有効である。
本明細書において「食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液との接触処理を行う」とは、たとえば、好適にはヒノキチオール水溶液を食鳥肉に対し塗布、噴霧、もしくは擦り込むこと、または食鳥肉をヒノキチオール水溶液に対し浸漬すること、をいうが、食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液を接触させ得る操作であればよく、特に限定されるものではない。なお、前記各接触の態様は単独であっても、いくつかの態様を組み合わせてもよい。すなわち、接触処理は、塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行われるのが好ましい。また、接触処理では、ヒノキチオール水溶液を食鳥肉の全体に対し接触させるのが好ましい。なお、噴霧には、たとえば、ヒノキチオール水溶液を食鳥肉に対しシャワーする態様、ヒノキチオール水溶液のシャワーの下を食鳥肉を通過させる態様、食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液をスプレーする態様、および食鳥肉をヒノキチオール水溶液を霧状で充満させた一定区域において一定時間維持する、もしくは当該区域を通過させる態様を含む。また、浸漬には、たとえば、食鳥肉をヒノキチオール水溶液中を維持または通過させる態様を含む。
接触処理において用いる際のヒノキチオール水溶液のpHとしては、食鳥肉の優れた殺菌効果を得る観点から、好ましくは4〜11であり、より好ましくは6〜8である。また、処理温度としては、同様の観点から、好ましくは0〜70℃であり、より好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは0〜55℃である。
本発明の食鳥肉の殺菌方法においては、前記接触処理は食鳥を処理して食鳥肉を製造する際に行う。好適には複数の処理工程からなる食鳥処理の少なくとも一つの処理工程で(態様A)、および/または少なくとも一つの連続する2つの処理工程の間で(態様B)、接触処理を行う。
本発明の好適な態様において「処理工程」としては、たとえば、中抜き工程、冷却工程および包装工程からなる群より選ばれる。なお、前記各工程は食鳥肉の製造分野および当該分野に技術的関連のある分野において理解され得るものであれば特に限定はない。たとえば、中抜き工程とは内蔵の除去を、冷却工程とは食鳥肉を冷却水に浸漬して、または冷気に曝露して食鳥肉の冷却を、包装工程とは屠体を胸肉、もも肉等の部位単位に分解し包装を、それぞれ行う工程をいう。
態様Aにおいては、たとえば、以下のようにして接触処理を行うことができる。たとえば、中抜き工程および包装工程ではヒノキチオール水溶液を食鳥肉に対して噴霧することにより接触処理を行うことができる。一方、冷却工程では、当該工程で使用する冷却水をヒノキチオール水溶液とし、食鳥肉を浸漬することにより接触処理を行うことができる。
中でも、接触処理は冷却工程時に行なうのがより好適である。冷却工程時に行う場合、たとえば、前記するように、食鳥肉を冷却水に浸漬する場合は、当該冷却水を本発明に使用するヒノキチオール水溶液とすることで容易に行うことができる。また、冷気に曝露する冷却工程の場合は、かかる状況下において、食鳥肉に対して、ヒノキチオール水溶液の塗布、擦り込みおよび噴霧からなる群より選ばれる少なくとも1つを適宜行うことにより容易に行うことができる。なお、浸漬により接触処理を行う場合、ヒノキチオール水溶液と食鳥肉との接触時間としては好ましくは5〜10分間、より好ましくは5〜30分間である。また、噴霧により接触処理を行う際に、たとえば、ヒノキチオール水溶液のシャワーの下を食鳥肉を通過させる場合や、食鳥肉をヒノキチオール水溶液を霧状で充満させた一定区域において一定時間維持する、もしくは当該区域を通過させる場合、ヒノキチオール水溶液と食鳥肉との接触時間としては好ましくは5〜10分間、より好ましくは5〜30分間である。
態様Bにおいては、たとえば、以下のようにして接触処理を行うことができる。たとえば、中抜き工程と冷却工程との間で、または冷却工程と包装工程との間で、以下のようにして接触処理を行うのが好適である。
中抜き工程と冷却工程との間で接触処理を行う場合、たとえば、噴霧または浸漬により接触処理を行うのが好適であり、噴霧により接触処理を行うのがより好適である。なお、かかる場合の好ましいヒノキチオール水溶液と食鳥肉との接触時間としては前記範囲と同様である。
冷却工程と包装工程との間で接触処理を行う場合、たとえば、浸漬により接触処理を行うのが好適である。具体的には以下のような態様が例示される。
冷却水を用いて冷却工程を行った場合、食鳥肉の表面には水膜が付着し、内蔵が除去されて空洞状となった腹腔内には大量の水が保持されているため、たとえば、任意の方法により食鳥肉に振動もしくは回転等を数10秒間程度に渡って加えることにより前水切りを行う。これにより、次に行う接触処理において、使用するヒノキチオール水溶液の希釈を防止することができるので好ましい。
接触処理は、ヒノキチオール水溶液を殺菌対象の食鳥肉の量に応じた所望の大きさを有する容器に入れ、前水切りを行った食鳥肉を当該容器に浸漬して行う。たとえば、食鳥肉1kg当たり、0℃のヒノキチオール水溶液(ヒノキチオール濃度:125ppm)3L中に好ましくは5〜10分間、より好ましくは5〜30分間浸漬する。前記容器には、ヒノキチオール水溶液の食鳥肉への含浸を促進する観点から、攪拌機を備えるのが好ましい。
なお、接触処理後、さらに後水切りとして、前記前水切りと同様の方法により食鳥肉の水切りを行って余分なヒノキチオール水溶液を回収し、回収されたヒノキチオール水溶液を前記接触処理において再度使用するのが、経済性の観点から好ましい。
以上のようにして接触処理を行った後、次いで、包装工程を行う。
このように、本発明の食鳥肉の殺菌方法においては、中抜き工程と冷却工程との間、冷却工程、および冷却工程と包装工程の間からなる群より選ばれる少なくとも1つの時点で接触処理を行なうのが、本発明の所望の効果を得る観点より特に好適である。
また、本発明の一態様として、食鳥を処理して食鳥肉を製造する工程において本発明の食鳥肉の殺菌方法を用いる、食鳥肉の製造方法を提供する。かかる食鳥肉の製造方法によれば、従来に比し高度に殺菌された、安全性の高い食鳥肉を効率的に生産することができる。
本発明において使用するヒノキチオールの安全性は高く、食品添加物として許可されており、食品衛生法上、その添加量に制限はない。従って、本発明によれば、安全に食鳥肉の殺菌を行うことができる。また、食鳥の処理に使用される設備や作業環境に対しヒノキチオール水溶液を、たとえば、噴霧することにより、間接的に食鳥肉の殺菌効果を高めることもできる。
以下、実施例により、さらに本発明を詳細に説明するが、本発明は当該実施例のみ限定されるものではない。
実施例1 ヒノキチオール水溶液の殺菌力試験
ヒノキチオール濃度500ppmのヒノキチオール水溶液(pH4〜11)を調製した。当該水溶液を試験液として用いて、各種pHにおけるヒノキチオール水溶液の大腸菌に対する殺菌力試験を行った。試験方法は以下の通りである。
(試験方法)
普通ブイヨン培地で37℃にて18時間培養した試験菌株(大腸菌 Escherichia coli IFO 12529)を滅菌水により100倍希釈した。その希釈液0.05mLを各試験液(5mL)に接種し、よく攪拌した。室温に静置し、10分間後、その0.1mLを4.5mLの生理食塩水にいれて攪拌し、すぐさまその生理食塩水中に生存する生菌数を測定した。なお、対照には試験液の代わりに生理食塩水を用いた。また、生菌数の測定は衛生試験法・註解(1990)微生物試験法、(3)生菌数、1)混釈平板培養法(p148)によって行った。
結果を第2図に示す。第2図より、pHが4〜11の範囲にあるヒノキチオール水溶液が大腸菌に対し殺菌効果を示すことが、特にpH6〜8の範囲にあるヒノキチオール水溶液が大腸菌に対し優れた殺菌効果を示すことが分かる。
実施例2 病原細菌の付着したニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理試験
ヒノキチオール水溶液〔商品名:Gクリーン−f(ヒノキチオール濃度:10000ppm)、株式会社JCS製〕を用いて、病原細菌の付着したニワトリ肉を接触処理することにより、ヒノキチオールの殺菌効果を測定した。試験方法は以下の通りである。
(試験方法)
ニワトリの処理工程中のニワトリ肉(冷却工程後の肉)300gに対し以下に示す各種病原細菌の懸濁液10mLを数箇所に渡りランダムに接種し、接種後、4〜6℃の温度で24時間冷凍した。
なお、使用した各種病原細菌および各種病原細菌懸濁液1mL当たりの生菌数は以下の通りである。

上記の各種病原細菌懸濁液を接種したニワトリ肉を3ピースごと3群に分け、A、BおよびCとした。次いで、Aは10℃でイオン交換水3Lに浸漬させ5分間無菌手袋を装着して手でかき混ぜた。Bは次亜塩素酸水溶液(50mg/L)3Lに浸漬させ同様に5分間かき混ぜた。Cは10℃でGクリーン−fの80倍希釈水溶液(pH6.5)3Lに浸漬させ同様に5分間かき混ぜた。
浸漬後、ニワトリ肉の水きりを1分間行ない、Butterfield’sリン酸緩衝液300mLの入った滅菌ナイロンバッグに入れ、当該緩衝液中に菌を懸濁させ細菌液を得た。当該細菌液をシャーレの寒天培地上に塗布し、24〜48時間、35℃で培養した。培養後、常法により生菌数の測定を行った。結果を表1および第3図〜第7図に示す。なお、当該表および図においては、生菌数は病原細菌懸濁液(懸濁液)または試験液1mL当たりの生菌数(平均値)を示す。

表1および第3図〜第7図より、従来の殺菌方法において使用される次亜塩素酸水溶液に食鳥肉を浸漬した場合に比べ、ヒノキチオール水溶液に浸漬した場合、より優れた殺菌効果が得られることが分かる。
実施例3 ニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理の影響1
ニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理による肉色への影響について評価を行った。
すなわち、ヒノキチオール水溶液との接触処理後の、生若しくは焼いた後のニワトリ胸肉の表面の色を、色差計(ミノルタ社製CR−13)により測定し、ヒノキチオール水溶液との接触処理を行わなかった場合(対照)と比較して、ヒノキチオール水溶液の接触処理による肉色への影響について評価を行った。
ニワトリ胸肉へのヒノキチオール水溶液の接触処理は、ニワトリ胸肉300gを、10℃の、イオン交換水1L(対照)またはヒノキチオールを125ppmもしくは1000ppm含有するヒノキチオール水溶液(pH6.5)1Lに浸漬し、5分間無菌手袋を装着して手でかき混ぜることにより行った。
次いで、ニワトリ胸肉の水きりを1分間行った後、カラーリーダーを用いて肉の表面の色を測定した。また、水きり後に表面をホットプレート上で230℃にて10分間焼いたニワトリ胸肉の該表面についても同様にしてその色を測定した。測定結果は、標準的なLab系表色系色座標を適用して表示した。
以上の操作を、各場合につき、3つの異なるニワトリ胸肉を用いて行った。得られた結果を平均値で表2及び3に示す。


表2及び3に示すごとく、ヒノキチオール水溶液との接触処理を行ったニワトリ胸肉を対照のニワトリ胸肉と比較すると、ΔE(色差)は、いずれの場合も1.5以下であった。ΔEが1.5以下である場合、ヒトの感覚では色の違いを感知することはできないことから、ニワトリ胸肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理は、肉色に対し実質的な影響を与えないことが分かる。
なお、色差計の測定原理やLab系表色系色座標に基づく測定結果の解釈等については、「色特性の計算の概要」〔インターネット<URL:http://www.nsg.co.jp/ntr/TIME/opt−01.htm>〕を参照されたい。
実施例4 ニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理の影響2
ニワトリ肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理による肉味への影響について評価を行った。
すなわち、実施例3と同様の処理を行い、焼いたニワトリ胸肉について、官能試験を行い、ヒノキチオール水溶液との接触処理を行わなかった場合(対照)と比較して、ヒノキチオール水溶液の接触処理による肉味への影響について評価を行った。
官能試験は、標準的な三角試験により行った。当該試験は、2つの独立した試験からなり、一方の試験では、ヒノキチオール水溶液との接触処理を行ったニワトリ胸肉1つに対し対照のニワトリ胸肉2つを食して比較し、他方の試験では、ヒノキチオール水溶液との接触処理を行ったニワトリ胸肉2つに対し対照のニワトリ胸肉1つを食して比較した。各濃度のヒノキチオール水溶液を用いた場合について、試験パネル6名で1日1回の試験を3日間連続で行い、同様の試験をそれぞれ合計3回実施した。試験では、文献(Amerine,M.A.,Pangborn,R.M.,and Roessler,E.B.,“Principles of Sensory Evaluation of Food”,Academic Press,New York,1965,p.357)に記載の評価基準に基づいて3つのニワトリ胸肉につき、接触処理された肉であるか、対照の肉であるかを判定した(いずれの肉が、どのように処理されたものであるかは告知せず)。全パネルの3日間全ての判定結果の集計を、正しい判定と誤った判定ごとに、各々の判定を行ったパネルののべ人数で表4に示す。

表4の結果を元に正しい判定と誤った判定を対比して有意差検定を行ったところ、有意な差はなかった。よって、各パネルはヒノキチオール水溶液との接触処理を行ったニワトリ胸肉と対照のニワトリ胸肉とを、いずれの場合も区別することができなかったと言える。従って、ニワトリ胸肉に対するヒノキチオール水溶液の接触処理は、肉味に対し実質的な影響を与えないことが分かる。
【産業上の利用の可能性】
本発明は、食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液との接触処理を行う、食鳥肉の殺菌方法を提供する。本発明によれば、安全かつ簡便に、しかも持続的かつ効果的に食鳥肉の殺菌を行うことができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対しヒノキチオール水溶液との接触処理を行う、食鳥肉の殺菌方法。
【請求項2】
複数の処理工程からなる食鳥処理の少なくとも一つの処理工程で、および/または少なくとも一つの連続する2つの処理工程の間で接触処理を行う、請求項1記載の殺菌方法。
【請求項3】
処理工程が中抜き工程、冷却工程および包装工程からなる群より選ばれる、請求項2記載の殺菌方法。
【請求項4】
中抜き工程と冷却工程との間で接触処理を行う、請求項3記載の殺菌方法。
【請求項5】
冷却工程で、および/または冷却工程と包装工程の間で接触処理を行なう、請求項3または4記載の殺菌方法。
【請求項6】
ヒノキチオール水溶液におけるヒノキチオールの濃度が1〜50000ppmである、請求項1〜5いずれか記載の殺菌方法。
【請求項7】
ヒノキチオール水溶液のpHが4〜11である、請求項1〜6いずれか記載の殺菌方法。
【請求項8】
処理温度が0〜70℃である、請求項1〜7いずれか記載の殺菌方法。
【請求項9】
接触処理が、塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行われる、請求項1〜8いずれか記載の殺菌方法。
【請求項10】
食鳥を処理して食鳥肉を製造する工程において請求項1〜9いずれか記載の殺菌方法を用いる、食鳥肉の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/080211
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−569338(P2004−569338)
【国際出願番号】PCT/JP2003/002891
【国際出願日】平成15年3月12日(2003.3.12)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)