説明

飲料用乾燥食品およびその製造法

【課題】 たんぱく質を多く含む豆類は、従来のフリーズドライの製法により製造する場合、たんぱく質の冷凍変性により食感が低下したり、風味が悪くなったりする。そして、冷凍変性を抑制するために添加剤などを加えた場合においても、製造コストが増すとともに、製造効率を低下し、味や食感が変化する。そして、大豆特有の青臭さ(大豆臭)が残る場合がある。そこで、豆類食品の滑らかな食感と、風味を損なうことなく耐凍性を向上させることを課題とする。
【解決手段】 物理的に微粉砕した植物性たんぱく質を有する食材又はこれに加水したものを、ペクチンの分解を促す酵素を1種類以上のみ、もしくは、ペクチンの分解を促す酵素を1種類以上およびセルロースの分解を促す酵素を1種類以上用いて酵素処理を行い、殺菌および酵素失活の後に冷却して得られたペーストを成形容器に充填し、予備凍結の後に凍結乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
植物性たんぱく質を含む豆類などの加工方法および加工食品を製造する技術に関する。より詳しくは、植物性タンパク質を含むフリーズドライ食品の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フリーズドライ飲料は、主原料にデキストリン、乳原料、油脂原料、調味料などを混合し造粒を行い、必要であれば具材を添加して作られる。しかし、従来製法では、デンプン等を加えるので、フリーズドライ飲料の溶解性が悪く、更に即溶性が得られ難い。
【0003】
そして、魚や肉、大豆などのたんぱく質が多く含まれる食品を緩慢に凍結すると、タンパク質が冷凍過程により変性する冷凍変性を起こすことが知られている。たんぱく質を多く含む食材をフリーズドライに加工すると、冷凍変性によりたんぱく質の一部が不可逆的に不溶化してしまう。これにより、フリーズドライ食品を水で戻した場合のザラつき発生の原因のひとつとなる。
【0004】
そして、フリーズドライ飲料としては、ペースト化した野菜に添加物を加えて真空凍結乾燥したものが知られている(特許文献1を参照)。これは、ペースト化された野菜に、デンプン分解酵素を作用させ、クリーム、粉末油脂、調味料、食塩、砂糖、デキストリン、乳糖等を加え、真空凍結乾燥するものであり、即溶性野菜ペーストのスープを得るものである。
【特許文献1】特開2001−8614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たんぱく質を多く含む物を従来のフリーズドライの製法により製造する場合、たんぱく質の冷凍変性により食感が良くなくなったり、風味が悪くなったりする。そして、冷凍変性を抑制するために添加剤などを加えた場合においても、製造コストが増すとともに、製造効率を低下し、味や食感が変化する。
【0006】
そして、たんぱく質を多く含む豆を加工した豆類をフリーズドライの製法により製造する場合、特有の青臭さ(大豆臭)が残る。このため、人によってはこの青臭さが摂取の妨げになる。
特許文献1に記載された技術においては、凍結乾燥におけるデンプンによる弊害を、デンプン分解酵素によりデンプンを低分子化することで、解決を図ろうとするものであり、製造過程におけるたんぱく質の変性などを考慮するものではない。このため、たんぱく質が多く含まれる食材に対しては、ザラつき等の食感低下が生じ、有効な方法ではない。
また、耐凍性を確保すべく、変性抑制剤を添加すると、本来の風味が損なわれ、自然な栄養成分のバランスが崩れる。このため、豆類の有用性を十分に活用できない場合がある。特に、豆類のフリーズドライ食品を製造する上では、豆類の風味を損なうことなく耐凍性を向上させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、植物性たんぱく質を多く含むフリーズドライ飲料の製造にあたり、原料である豆類に酵素処理を行うことにより、冷凍変性に対して耐性をもたせることを見出したものである。すなわち、酵素処理にセルロシンを用いることにより、ザラつきを解消した乾燥飲料の製造方法を見出した。セルロシンは、セルラーゼ、キシナーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼの総称である。
特に、ペクチン分解酵素もしくは、セルロース分解酵素およびペクチン分解酵素を用いることにより、水で戻した時のザラつきを解消した乾燥飲料の製造方法を見出した。
【0008】
原料を粉砕し、セルロース分解酵素およびペクチン分解酵素により酵素処理を行い、殺菌および酵素の失活処理を行った後に、冷却して、凍結乾燥を行うことにより、水戻し時のザラつきおよび青臭さを解消した乾燥飲料の製造方法を得ることができる。
すなわち、物理的に微粉砕した植物性たんぱく質を有する食材又はこれに加水したものに、ペクチンの分解を促す酵素を1種類以上用いて酵素処理を行い、殺菌および酵素失活の後に、冷却して得られたペーストを、成形容器に充填し、予備凍結の後に、凍結乾燥するものである。
酵素としては、この他にセルロースの分解を促す酵素を1種類以上加えることができるものであり、植物性たんぱく質を有する食材として、豆類を用いる。豆としては、大豆、小豆、ソラマメ、えんどう豆などを1種もしくは2種以上使用することができるものである。
【0009】
本発明は、原料として植物性たんぱく質を多く含むものを用いるものであり、特に豆類を用い、酵素処理、及び予備凍結を伴う真空凍結乾燥処理を行うものである。そして、必要に応じて、ビタミンやミネラル等の添加を行い、即溶性のある飲料用乾燥食品を製造する方法を提供するものであって、特に豆類などのフリーズドライ食品の製造に使用できるほか、このフリーズドライ食品を原料として使用し、更にスープベース等を混合することによって各種の即席性のある製品を製造することができる。
【0010】
本発明に係る飲料用乾燥食品の製造工程の一例を示す。
豆類のフリーズドライ食品の製造方法としては、まず、原料を酵素処理したペーストを調整する。そして、これを凍結乾燥する。
原料の酵素処理は、大豆をチョッパー処理により粉砕し、これにデンプン分解酵素、細胞破壊酵素を加え、これらの酵素が失活しない温度条件下において、酵素処理する。そして、これらを加熱昇温して、殺菌および酵素の失活を行う。この後、冷却することにより酵素処理された大豆ペーストを得る。
【0011】
凍結乾燥の処理は、大豆ペーストに調整を行った後に、容器に充填して予備凍結して、凍結乾燥を行う。調整は、酵素処理により得られた大豆ペーストに、ビタミンやミネラルなどを添加して行う。豆類としては、小豆、大豆、えんどう、ささげ、そら豆、黒豆、インゲン豆等を用いることができる。
【0012】
酵素処理条件としては、酵素が失活しない範囲で適宜温度やpHを調整し、酵素処理を行う。pHの調整には、重曹、クエン酸等を使用してもよい。
ここで用いる酵素は、ペクチン分解酵素、セルロース分解酵素であり、ペクチン分解酵素のみ、もしくはセルロース分解酵素を加えて用いることができる。
【0013】
酵素処理は、一定の温度条件下で反応させるため、ペーストを常時攪拌しつつ行うのが好ましい。さらに高品質を追求するには、酵素失活を常圧下で温度を上昇させるのが好ましい。
酵素処理の後には、酵素失活および殺菌のための加熱処理を行う。
ビタミンやミネラル成分の添加は、酵素処理後に行うことにより、温度(もしくは熱)の影響を受けにくくなる。
【0014】
次に、酵素失活および殺菌済みのペースト、またはこれに添加物を加えた調整ペーストを冷却し、成形用の容器に充填する。
これを−20℃から−40℃以下の条件で、十分に予備凍結を行う。
乾燥コスト削減のため、調整液は可能な限り水分の添加を抑え、濃度を高くした状態のものが望ましく、調整液を充填する容器は、アルミニウムやステンレス鋼などの金属製の容器、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチック製の容器が好ましい。容器は正方形、長方形、三角形などの区切りを設けたものや、トレーやチューブ状など容器形状はどのようなものでも良く、容積も適宜設定すれば良い。
予備凍結後、真空凍結乾燥を行う。真空凍結乾燥は絶えず水分の昇華が行われるように高真空(1Torr以下、好ましくは0.7Torr以下)下で、被乾燥食品の品質を落とさない程度の温度で、被乾燥物の最終水分含量が5%以下となるまで行う。
【発明の効果】
【0015】
植物性たんぱく質が豊富な豆類を、ペクチン分解酵素、セルロース分解酵素を用いて酵素処理することにより、たんぱく質の冷凍変性を抑え、水戻し時に良好な食感の飲食物を得ることができる。そして、溶解も速やかにすることができる。さらに、酵素処理により、大豆臭などの青臭さが除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
豆類にペクチン分解酵素もしくはペクチン分解酵素およびセルロース分解酵素を加えて処理することにより、たんぱく質の冷凍変性を抑制する。
【実施例1】
【0017】
酵素処理した大豆ペーストと、大豆水煮のペーストとを用いて、凍結乾燥食品を作成し、その溶解性を比較した。
酵素処理した大豆ペーストと、大豆水煮のペースト物とをそれぞれ、縦50mm、横45mm、高さ22mmのプラスチック製トレーに満たし、これを−80℃で予備凍結した後に、凍結乾燥機(東京理科機械株式会社製 FDU−506)により凍結乾燥した。真空凍結乾燥条件は、所要時間48時間以上であり、高真空状態は10〜30時間以上であった。これにより、ブロック状の凍結乾燥物を得た。
【0018】
このように調整された凍結乾燥物を、メッシュ容器(目開きは2.0mmであった。)上に載置して、メッシュ容器をボウル内に置き、上から冷水(4℃)100mmを、凍結乾燥物全体が水を含むようにまんべんなく注いだ。
そして、水を注いでから、0秒後に水切りしたもの(水を注いですばやく水切りした)、2秒後から28秒後まで、2秒ずつ水切りまでの時間を長くして、それぞれ水切りしたものの重量を測定した。
【0019】
結果、酵素処理した大豆ペーストの凍結乾燥物と、大豆水煮ペーストの凍結乾燥物とで、表1に示すように溶解性に差異が見られた。表1において、第一行目は浸漬時間を示し、単位は秒である。
二行目は酵素処理を行わなかった大豆水煮ペーストの凍結乾燥物の浸漬時間による重量変化を示すものであり、単位はgである。
三行目は酵素処理を行った大豆ペーストの凍結乾燥物の浸漬時間による重量変化を示すものであり、単位はgである。
また、図1は溶解状態を示す図であり、図2は0秒後の重量を100とした場合の残量変化を示す図である。
【0020】
【表1】

【0021】
酵素処理なしのものは、6秒後より重量の変化がほとんどなかった。酵素処理したものは、時間の経過に伴い徐々に重量が減少し、28秒浸漬した後には重量が0、となった。
図1に示すように、酵素処理したものは時間の経過とともに、溶存物が少なくなり、24秒後にはほとんどなくなっている。酵素処理していないものは時間の経過とともに、形状はくずれた。しかし、溶存物があり、重量は減らなかった。
また、図2に示すグラフからも、酵素処理したものが順調に溶解し、酵素処理していないものが溶解せずに残る様子がわかる。
なお、酵素処理を行ったものは、食感が滑らかであり、青臭さを感じにくかった。酵素処理していないものは、食感にザラつきがあり、青臭さを感じた。
このように、酵素処理を行った大豆ペーストの凍結乾燥物は、水で戻すことにより、なめらかな食感および風味のある食品を得た。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】溶解状態を示す図。
【図2】0秒後の重量を100とした場合の残量変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的に粉砕した植物性たんぱく質を有する食材又はこれに加水したものを、
ペクチンの分解を促す酵素を1種類以上用いて酵素処理を行い、
殺菌および酵素失活の後に、冷却して得られたペーストを、
成形容器に充填し、予備凍結の後に、凍結乾燥すること、を特徴とする飲料用乾燥食品の製造法。
【請求項2】
物理的に粉砕した植物性たんぱく質を有する食材又はこれに加水したものを、
ペクチンの分解を促す酵素を1種類以上、および、
セルロースの分解を促す酵素を1種類以上用いて酵素処理を行い、
殺菌および酵素失活の後に、冷却して得られたペーストを、
成形容器に充填し、予備凍結の後に、凍結乾燥すること、を特徴とする飲料用乾燥食品の製造法。
【請求項3】
植物性たんぱく質を有する食材として、1種もしくは2種以上の豆を使用すること、を特徴とする請求項1もしくは2に記載の飲料用乾燥食品の製造法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造法で製造されることを特徴とする飲料用乾燥食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate