説明

飲料組成物及びその製造方法

【課題】寒天由来の食物繊維又はオリゴ糖が本来持つ整腸・美容効果をこれまでの事例と同等以上になるように改善し、しかも簡易に作製可能な飲料組成物及び外飲料組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】部分加水分解寒天に乳酸菌を加えて乳酸発酵させて得られることを特徴とする飲料組成物、並びに部分加水分解作用を有する酸及び/又は酵素水溶液中で寒天を膨潤・液化させ、次いで得られる部分加水分解寒天を該寒天以外の糖源を添加することなく乳酸菌により乳酸発酵させることを特徴とする飲料組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料組成物及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、部分加水分解させた寒天の乳酸発酵飲料組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天はゲル化能を持ち中性のアガロースとゲル化能を持たずイオン性のアガロペクチンから成る。寒天の主成分であるアガロースはアガロビオースの繰り返し構造であり、[-D-ガラクトピラノース-β(1→4)-3,6-アンヒドロ-L-ガラクトピラノース-]nである。アガロペクチンは寒天中のアガロース以外のイオン性の多糖類を全て含めて理解されており、その構造はアガロースと同じ結合様式であるが、部分的に硫酸エステル、メトキシル基、ピルビン酸基、カルボキシル基を多く含んでいる。また、寒天は一般的にセルロースと同様にヒトが持つ消化酵素では、ほとんど消化できない非水溶性の食物繊維である。従って、食物繊維としての寒天はノンカロリーであるために、ダイエット食品として有効であり、悪玉菌と呼ばれる大腸菌、スタフィロコッカス、クロストリジウム・パーフリンゲンス等が、寒天をほとんど資化しないために、寒天(多糖及びオリゴ糖)がデトックス・整腸効果を高める上で非常に優れた性質を持っているといえる。加えて、寒天を酵素分解あるいは酸加水分解した後に精製されたアガロオリゴ糖が、味・食感を改善することやガン疾患・鮮度保持剤・化粧料として用いることが可能である(特許文献1、2)。また、アガロオリゴ糖の一種であるネオアガロビオースが、美白効果・保湿効果・抗炎症効果・紫外線吸収効果・酸化防止効果を有することも確認されている(特許文献3)。
【0003】
以上のように寒天の部分分解物はヒトにとって優れた機能性を持つ物質であるにもかかわらず、酵素あるいは酸等で部分加水分解した際に、ガラクトースが少なからず生じてしまう。ガラクトースはアガロオリゴ糖の特性とは異なり、ヒトのカロリー源として消費したり、前述した悪玉菌にも資化されたりしてしまう。しかしながら、これらの糖を除去するためには、特許文献1及び2で示されているようにクロマトカラム精製や限外ろ過等による精製を行う必要があり、高額で且つ長時間を費やす必要があるという問題がある。
【0004】
また、寒天の機能性として便通改善や整腸作用及び美容効果のための食物繊維として食品中に添加する報告がある。特許文献4では水溶性食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖、アスコルビン酸、プロアントシアニジンの組み合わせが美肌を作り出す美容食品として有効であることが確認されている。その内訳として、食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖が体内から発生する肌に有害な成分を除去する目的で、乳酸菌、オリゴ糖、及び食物繊維を用い、美肌効果の目的として、アスコルビン酸及びプロアントシアニジンを用いるとしている。しかし、オリゴ糖は様々な種類があり、効果も様々である。また、乳酸菌の発酵液を別途食品に加えることは、菌体の価格が高いために、割が合わないことが多い。
【特許文献1】WO00/69285号公報
【特許文献2】特開2006−282675号公報
【特許文献3】特許3505003号公報
【特許文献4】特開2003−339353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、寒天由来の食物繊維又はオリゴ糖が本来持つ整腸・美容効果をこれまでの事例と同等以上になるように改善し、しかも簡易に作製可能な飲料組成物及び外飲料組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段として、寒天由来アガロオリゴ糖あるいは多糖類を資化しないように、寒天分解時に生じるガラクトースを乳酸菌による発酵法によって化学的に変換させることによって過剰な労力や費用も掛からずに健康・美容性をさらに高めた飲料組成物を開発した。また、単に加水分解を行った寒天・アガロオリゴ糖を飲料として使用するのではなく、従来無視あるいは取り除いていたガラクトースを高度に活用することで、整腸・美容効果をより向上させることが可能となることを見出して本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
(1) 部分加水分解寒天に乳酸菌を加えて乳酸発酵させて得られることを特徴とする飲料組成物、
(2) 前記乳酸菌が、ガラクトースを資化することができ、かつアガロオリゴ糖又は寒天を実質的に資化できない乳酸菌である前記(1)記載の飲料組成物、
(3) 前記乳酸菌がエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する菌、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属に属する菌、ストレプトコッカス (Streptococcus)属に属する菌、ラクトコッカス (Lactococcus)属に属する菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属に属する菌、及びペジオコッカス(Pediococcus)属に属する菌、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌からなる群より選ばれる1種以上である前記(1)又は(2)記載の飲料組成物、
(4) 部分加水分解作用を有する酸及び/又は酵素水溶液中で寒天を膨潤・液化させ、次いで得られる部分加水分解寒天を該寒天以外の糖源を添加することなく乳酸菌により乳酸発酵させることを特徴とする飲料組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の飲料組成物を継続的に摂取することで、摂取した人の健康状態及び/又は美容を改善するか、あるいは良好な状態を維持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の飲料組成物は、部分加水分解寒天に乳酸菌を加えて乳酸発酵させて得られることを特徴とするものである。以下、本発明の一実施形態に係る食品組成物について説明する。尚、以下に説明する構成は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で様々に改変することが可能である。
【0010】
前記部分加水分解寒天は、部分加水分解作用を有する酸及び/又は酵素水溶液中で膨潤・液化させることで得られる。
前記寒天としては、オゴノリ(Gracilaria verrucosa)、オオオゴノリ(Gracilaria gigas)、マクサ(Gelidium amansii)、オバクサ(Pterocladia capillacea)、イタニグサ(Ahnfeltia plicata)等の紅藻類由来の素材が多く用いられるが、特に寒天原料の由来は限定されない。寒天の形態として、棒状・粉末・顆粒等の様々な種類が存在するが、本発明において特に限定されない。
また、加水分解時に用いられる酸としては、寒天を部分加水分解できるものであればよく、例えば、塩酸等の強酸、及び酢酸、クエン酸、フマル酸等の弱酸及びこれらの酸の混合物が挙げられるが、特に酸の種類については限定されない。また、酵素による加水分解を行ってもよく、その場合に用いられる酵素として、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、アガラーゼ、ガラクトシダーゼ等の食品用の加水分解酵素を使用することが可能である。
【0011】
本発明において、寒天は酸処理あるいは酵素処理を行うが、必要であれば前述した方法を複合的に使用しても構わない。酸加水分解処理を行う際、例として述べると、予め0.5%〜20%の弱酸水溶液を作製しておき、その中に寒天を加える。さらに、80℃〜100℃まで加熱し、10分〜24時間前述した温度帯を維持する。寒天が分解しているかを確認するために溶液の一部を分取し、B型粘度計で測定した粘度(20rpm、30℃)が3.5Pa・s以下であることが好ましい。しかし、分解前の寒天がこの粘度以下である場合には、サイズ排除クロマトグラフィーや各種分子量分画法を用いて確認しても良い。また、酵素処理を行う際、例として述べると、予め酵素に最適な緩衝液を作製しておき、寒天量に適した酵素を可溶化しておく。さらに最適温度に溶媒を保持し、寒天を溶解していく。食品用のアガラーゼを使用できれば、高濃度(40%〜70%)の寒天溶液を最終的に得ることも可能である。
【0012】
酵素部分分解のみを行った寒天は100℃まで加熱した後に冷却するか、加熱せずにそのまま乳酸発酵を行ってもよい。また、後述の乳酸発酵で用いる乳酸菌の生育条件を最適にするため、寒天水溶液のpHを5.5〜7.5に調整しておくのが好ましい。
以上のようにして得られる部分加水分解寒天は、部分加水分解処理した際に、pH4〜10、50℃の状態では完全にゲル化しておらず液状であること、及び1%の部分加水分解寒天溶液の粘度がB型粘度計で測定した場合(20rpm、30℃)に3.5Pa・s以下であるものが好ましい。
【0013】
本発明では、前記部分加水分解寒天に乳酸菌を加えて乳酸発酵させる。
前記乳酸菌としては、ガラクトースを資化することができ、かつアガロオリゴ糖及び寒天を資化することが実質的にできないという資化性を兼ね備えた種あるいは株であればよい。なお、糖の資化とは、菌体が必要な炭素源として前記糖を用いて生育できることをいう。また、資化することができない寒天としては、通常の前記紅藻類由来の素材から作製されたものであり、アガロースとアガロペクチンを含むものであればよく、部分加水分解等の低分子化処理を施されたものも含まれる。
【0014】
本発明では、このような特性を有する乳酸菌を用いることで、部分加水分解された寒天に含有される、悪玉菌等の資化要因となるガラクトースを低減させることができる。そのため、悪玉菌の増殖を抑えることで、部分加水分解寒天本来の整腸・美容効果が改善される。また、得られる飲料組成物には乳酸菌が含まれるため整腸・美容効果をより一層向上することができる。しかも、部分加水分解寒天から除去するのに種々の煩雑な操作を必要としていたガラクトースを乳酸発酵を用いることで、より簡易に低減することができる。
したがって、本発明は、乳酸菌飲料に寒天類を入れたものや、寒天培地から乳酸菌を採取して乳酸発酵させて得られる乳酸菌飲料と比べて、整腸・美容効果及び製造し易さの点で、優れた効果を発現する、新規な部分加水分解寒天入り乳酸発酵飲料組成物に関する。
【0015】
本発明に使用される乳酸菌としては、以下のような菌が例示される。
エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する菌: エンテロコッカス・マロドラタス (E. malodoratus)、フェシウム (E. faecium)、フェカーリス(E. faecalis)、デューランス(E. durans)、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属に属する菌: ラクトバチルス・プランタラム(L. plantarum)、サリバリウス (L. salivarius)、ビフィダス (L. bifidus)、L.ブルガリカス (L. bulgaricus)、カゼイ(L. casei)、アシドフィルス (L. acidphilus)、ガセリ (L. gasseri)、ファーメンタム (L. fermentum)、ヘルベティカス (L. helveticus)、ユーグルティ (L. jugurti)、デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス (L. delbrueckii sub. bulgaricus)、デルブルッキー (L. delbrueckii)、ラムノーサス (L. rhamnosus)、ストレプトコッカス (Streptococcus)属に属する菌: ストレプトコッカス・サーモフィルス (S. thermophilus)、ボビス (S. bovis)、ミュータンス (S. mutans)、サンギス (S. sanguis)、クレモリス (S. cremoris)、ラクチス (S. lactis)、ラクトコッカス (Lactococcus)属に属する菌: ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス (Lactococcus lactis sub. lactis)、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス (Lactococcus lactis sub. cremoris)、ラクトコッカス・ラクチス (Lactococcus lactis)、ロイコノストック(Leuconostoc)属に属する菌: ロイコノストック・メセンテロイデス (Leuconostoc mesenteroides)、ロイコノストック・デキストラニカム (Leuconostoc dextranicum)、ペジオコッカス(Pediococcus)属に属する菌: ペジオコッカス・ペントサセウス (Pediococcus pentosaceus)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌:ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)。
本発明においては、これらの乳酸菌群から選択される1種又は2種以上の菌体を用いて発酵を行うことが可能である。
【0016】
本発明では、前記乳酸菌の乳酸発酵は、部分加水分解寒天中で乳酸菌を培養することで行うことができる。
前記乳酸発酵の条件(培養時の部分加水分解寒天のpH、培養温度等)は、乳酸菌の種類によって適宜調整すればよい。
中でも、寒天の効能をより向上させるという観点から、乳酸発酵時には、前記部分分解寒天を用いる以外は、乳酸菌の糖源となるような糖質を添加せずに発酵させることが本発明の大きな特徴のひとつである。即ち、加水分解処理によって生じた寒天由来のガラクトースによって乳酸菌が十分に増殖可能となり、これにより本発明の効果が好適な乳酸発酵の状態となることが確認されている。また、乳酸菌によってはホモ発酵あるいはヘテロ発酵に分けられるが、細胞外多糖等の乳酸菌生成物や場合によっては二酸化炭素や乳酸や酢酸も含み、さらに乳酸菌体も腸内改善に役立つことから、特に乳酸菌の発酵方法又は代謝産物の違いによって乳酸菌の種類は限定されない。
【0017】
本発明ではガラクトースを資化させる乳酸発酵を行っているが、ヒトが栄養素として吸収してしまうガラクトースを減少させるという目的だけではなく、乳酸菌がガラクトースを資化することによって生じる細胞外多糖や乳酸及び乳酸菌体が持っている整腸・美容作用にも注目している。従って、発酵せずに高濃度の乳酸菌を付加したとしても、効果的な面では本発明の方法はより優れた方法である。
【0018】
なお、一般的な乳酸菌は、特殊な糖源を加えた場合を除き、部分加水分解寒天以外の他の糖源を添加して乳酸発酵させたからといって、乳酸菌がヒトにとって特別に有益な物質を生成してくれることや増殖が著しく促進することは考え難い。しかも、他の糖源を添加することで、添加した糖源の量だけ寒天由来の単糖類が残存してしまう可能性がある。したがって、本発明では、寒天を高度利用する観点から、部分加水分解寒天以外の糖源を添加せずに乳酸発酵を行うことが好ましい。ただ、加えても本発明を制限するものではなく、寒天を加水分解した際、及び乳酸発酵させた際に、寒天の機能性を損なわなければ、他の糖類を飲料組成物中に添加してもよい。糖類としては、例えば、還元したものも含めて澱粉、単糖類、二糖類、オリゴ糖、糖アルコール、デキストリンが挙げられる。なお、これらの糖類は飲料組成物中の乳酸菌が生菌である場合、該乳酸菌が資化できないものを選べばよく、また、前記乳酸菌が死菌である場合、糖類は特に限定されない。
【0019】
また、前記乳酸発酵の終了は、菌体濃度、pH、ガラクトース量の条件により、確認することができる。乳酸発酵の終了を確認後、得られた発酵組成物を60℃以上で加熱処理することによって発酵を停止させることが好ましい。
【0020】
また、前記発酵組成物中に配合する部分加水分解寒天の量としては、0.001〜10重量%が好ましく、0.1〜1重量%がより好ましい。また、乳酸菌の摂取量としては、発酵組成物中において1x106〜1x1012個/mLが好ましい。
【0021】
前記発酵組成物を用いて本発明の飲料組成物を調製することができる。本発明の飲料組成物中において、乳酸菌は生菌であればよいが、死菌でもよい。これは、先にも述べているように死んだ乳酸菌の細胞は腸内に存在する有害物質を吸着し、体外に排泄する働きを持っており、即ち食物繊維が腸管内を掃除するのと同じ効果を期待できるからである。
【0022】
また、本発明の飲料組成物は、前記発酵組成物をそのまま用いてもよく、必要であれば、糖類、香料、甘味料、果汁、炭酸、及び、機能性物質等を含んでいてもよく、特に制限はない。
【0023】
また、本発明の飲料組成物は、ほとんど無味無臭であるため、香料を添加することによって所望の風味を付与することができる。また、香料によっては、風味の改善のためだけでなく、副交感神経優位の状態を作り出してリラックス状態を誘引することで、胃液や唾液の分泌を促進し、血管が拡張して手や足が温かくなるため、整腸・美容の効果がより促進されると考える。従って、そのような特殊な香料を飲料組成物中に添加することも本発明には含まれる。
【0024】
前記糖類、香料、甘味料、果汁、機能性物質、炭酸、機能性物質の有無や量に関しては、本発明の飲料組成物の機能性を損なわない量であれば、特に限定されない。
【0025】
以上のようにして得られる本発明の飲料組成物の摂取は、例えば、症状、身長、体重、年齢等により異なるが、成人1人あたりの摂取量が、5〜500mg/kg・日、好ましくは100〜400mg/kg・日となるように、1回ないし数回に分けて摂取するのがよい。また、本発明の飲料組成物は、整腸・美容に効果的であることから、継続的に摂取することが好ましい。
【0026】
なお、本発明で用いる寒天、乳酸菌、寒天の部分加水分解処理に用いる酵素等は、いずれも日本において食品の製造に使用されているものであるので、安全性に関して問題はない。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0028】
実施例1
あらかじめ塩酸溶液(0.5% 塩化水素)を85℃から95℃までの温度帯で恒温にした。攪拌しながら3%溶液になるように粉末寒天(伊奈寒天(株); S-7)を前記塩酸溶液に加える。全て加えた後に1時間恒温で攪拌しながら放置した。1時間後、寒天水溶液が液化していることを確認した後に温度を50℃に下げた。さらにクエン酸ナトリウムを加えてpH 7.0に中和した。その後、乳酸菌Lactobacillus acidophilusを1x108個/mlの濃度になるように添加し、恒温で8時間静置培養した。培養完了後に85℃で15分間の加熱によって酵素反応を停止させた。最終的に乳酸菌の密度は5x108〜5x1010個/mlになった。以後このようにして得られた組成物を発酵組成物1と呼ぶ。
【0029】
次いで、表1に示す組成に従って、各成分を混合し、85℃・15分間の殺菌処理を行って本発明の飲料組成物を得た。
【0030】
【表1】

【0031】
試験例1
本発明の飲料組成物によって期待される便通改善作用を明らかにした。すなわち、一週間の排便回数が4回以下の6名の便秘被験者に1日100mlずつ実施例1で得られた飲料組成物を服用させて、服用前後で「排便回数」、「便の固さ」、「便の形状」、「排便後の爽快感」を排便毎に評価した。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表中の値は、6名の便秘被験者による下記評価基準に基づく点数を絶対値にして平均したものである。飲料組成物の摂取前5日間・摂取中5日間でそれぞれ得点化している。
〔評価基準〕
排便回数:回/日
便の固さ:とても硬い「−2」、 硬い「−1」、 普通「0」、 柔らかい「1」、 とても柔らかい「2」
便の形状:カチカチ「−2」、 コロコロ状「−1」、 バナナ状「0」、 半練り状「1」、泥状「2」、 水状「3」
排便後の爽快感:さっぱりしない「−1」、 普通「0」、 さっぱりした「1」
なお、上記評価のうち、「便の固さ」、「便の形状」、「排便後の爽快感」の点数は、「0」に近づくほど改善されていることを示す。
【0034】
表2の結果より、被験者における「排便回数」、「便の固さ」、「便の形状」、「排便後の爽快感」は、本発明の飲料組成物を摂取することで大きく改善された。したがって、本発明の飲料組成物は、摂取した人が自身の整腸状態が改善していることを顕著に実感し易いものであることがわかる。
また、本実験例の結果より、本発明の飲料組成物を少なくとも5日間程度、100mlずつ飲むことで、便秘被験者に対して顕著な改善作用が見られることが示唆された。
【0035】
実施例2
実施例1と同様に塩酸水溶液に所定の寒天粉末を全て加えた後に1時間恒温で攪拌しながら放置した。1時間後、寒天が液化していることを確認した後に温度を50℃に下げた。さらにクエン酸ナトリウムを加えてpH5.0に引き上げた後に、アスペルギルス・ニガー由来の粗酵素であるヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム社製)とセルラーゼT「アマノ」4をそれぞれ0.005%になるように加え、恒温で2時間維持した。その後、クエン酸ナトリウムを加えてpH7.0に引き上げた後に、乳酸菌Lactobacillus gasseriを1x108個/mlと乳酸菌 Pediococcus pentosaceusを1x108個/mlの濃度になるように添加し、38℃恒温で6時間静置培養した。培養完了後に85℃、15分間の加熱によって酵素反応を停止させる。最終的に乳酸菌の密度は5x108〜5x1010個/mlになった。以後この組成物を発酵組成物2と呼ぶ。
【0036】
【表3】

【0037】
上記表3に示す組成に従って、各成分を混合し、85℃・15分間の殺菌処理を行って本発明の飲料組成物を得た。
【0038】
試験例2
実施例2の処方においてカモミールフレーバーを加えなかったものと実施例2の処方のようにカモミールフレーバーを加えたものとでリラックス効果感を調査した。20代から30代の女性30人を対象にリラックス効果の比較を行ったところ、26人がリラックス感に対して効果があると答えた。しかも、寒天飲料の有効性に関しても試験例1と同様の結果を得ており、フレーバーの有無による寒天の有効性の差異は認められなかった。従って、カモミールのようなリラックス効果のあるフレーバーを飲料組成物中に加えることで、寒天の有効性とは独立的にリラックス効果を機能させることが可能であることが明らかとなった。
【0039】
実施例3
実施例2と同様に塩酸水溶液に所定の寒天粉末を全て加えた後に1時間恒温で攪拌しながら放置した。1時間後、寒天が液化していることを確認した後に温度を38℃に下げた。さらにクエン酸ナトリウムあるいは重曹を加えてpH7.0に引き上げた。その後、乳酸菌Lactobacillus acidophilus(天野エンザイム社製)を1x108個/mlと乳酸菌 Pediococcus pentosaceus(バイオテックジャパン社製)を1x108個/mlの濃度になるように添加し、38℃恒温で6時間静置培養する。培養完了後に85℃、15分間の加熱によって発酵を停止させた。最終的に乳酸菌の密度は5x108〜5x1010個/mlになった。以後この組成物を発酵組成物3と呼ぶ。
【0040】
【表4】

【0041】
上記表4に示す組成に従って、各成分を混合し、85℃・15分間の殺菌処理を行って本発明の飲料組成物を得た。
【0042】
試験例3
表4の組成に基づき発酵組成物3を加えた飲料を美容試験のために作製した。比較対照として発酵組成物3を加えなかった飲料組成物(代替組成物として水を使用)及び乳酸発酵を行わずに分解寒天入りの飲料組成物も作製し、それぞれ5人ずつの被験者に100mlずつ毎日摂取させた。試験開始前日に被験者の顔の頬(中央部)における肌の質感を調査した。測定方法は、スキンアナライザー(野沢産業(株))を用いてゼロを最適値としてプラスは「過多」、マイナスは「不足」の11段階(-5〜+5)でチェックを行った。即ち、スキンアナライザーの値はゼロに近いほど肌質が最適であることを示している。飲料摂取一週間後にスキンアナライザーで肌質をチェックした。一週間での肌質改善に関しては、下式によって評価を行った。即ち値が大きいほど肌質の改善効果が高いことを示す。結果を表5に示す。
【0043】
式: [(A0-A7)+(B0-B7)+(C0-C7)+(D0-D7)+(E0-E7)]÷5
アルファベットA〜Eはそれぞれの5人ずつの被験者を示す。
A0:飲料組成物をAが摂取する前の評価項目値の絶対値(B、C、D、Eも同じ)
A7:飲料組成物をAが摂取して7日目の評価項目値の絶対値(B、C、D、Eも同じ)
【0044】
【表5】

【0045】
上記表5において発酵寒天の有無による肌質の改善効果を示す。発酵寒天入りの飲料組成物を摂取した結果、寒天が入っていない飲料組成物(表中「寒天なし」)や寒天を乳酸発酵させていない飲料組成物(表中、「発酵なし寒天」)と比べて、肌質評価の平均値が3項目全てにおいて有意に改善された結果を得た。従って、発酵寒天を摂取することは、肌質を改善するために有効であることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の飲料組成物は、便通・美容効果に関して顕著な改善作用があることから、本発明の飲料組成物を摂取することで、発酵寒天を用いた様々な風味の飲料を提供することが可能であること、及び少なくとも発酵寒天の機能性だけでなく乳酸菌自体及び/又は乳酸菌から分泌された物質の有効性を合わせて取り入れることが可能であることが示唆された。
【0047】
また、本発明の飲料組成物は、少なくともこれまで得られている寒天飲料の知見と同等かそれ以上の機能性、特に便通改善効果における「排便後の爽快感」や美肌改善効果における「肌水分」、「脂分」及び「柔軟性」の三項目に関して優れた結果を得たことから、利用者にとっては、従来の寒天飲料と比較すると、自身の健康・美容状態についての改善を顕著に実感することができると考えられる。また、本発明の飲料組成物に他の有効成分を配合することで、新しい機能性を付加することになり、新規な飲料組成物の開発も可能である。
【0048】
また、乳酸菌あるいは発酵食品を摂取する重要性に関してはすでに数多くの知見が存在することから考えて、本発明のように便通の改善や美肌の改善とはほとんど無関係である寒天由来のガラクトースが乳酸菌によって様々な物質に変換されているため、他の健康要素での有効性も十分に期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分加水分解寒天に乳酸菌を加えて乳酸発酵させて得られることを特徴とする飲料組成物。
【請求項2】
前記乳酸菌が、ガラクトースを資化することができ、かつアガロオリゴ糖又は寒天を実質的に資化できない乳酸菌である請求項1記載の飲料組成物。
【請求項3】
前記乳酸菌がエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する菌、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属に属する菌、ストレプトコッカス (Streptococcus)属に属する菌、ラクトコッカス (Lactococcus)属に属する菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属に属する菌、及びペジオコッカス(Pediococcus)属に属する菌、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌からなる群より選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の飲料組成物。
【請求項4】
部分加水分解作用を有する酸及び/又は酵素水溶液中で寒天を膨潤・液化させ、次いで得られる部分加水分解寒天を該寒天以外の糖源を添加することなく乳酸菌により乳酸発酵させることを特徴とする飲料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−307028(P2008−307028A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160486(P2007−160486)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】