説明

飲料製造方法及び搾汁液中の食物繊維含有量増加方法

【課題】野菜や果実等の植物体を飲料原料として用いて、食物繊維を高濃度に含有する飲料を製造する方法及び植物体から得られる搾汁液中の食物繊維量を増加させる方法を提供する。
【解決手段】植物体の搾汁液から得られる上清を用いて飲料を製造する方法であって、植物体の品温が85℃以上になるように当該植物体を加熱する加熱工程と、加熱工程において加熱された植物体を搾汁する搾汁工程とを含む。さらに、搾汁工程において得られた植物体搾汁液を固液分離して上清を得る分離工程を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体を飲料原料として用いて飲料を製造する方法及び当該植物体から得られる搾汁液中の食物繊維含有量を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野菜や果実の摂取不足や食生活の乱れ等により、摂取栄養素の偏り、特に食物繊維の摂取不足が問題となっている。食物繊維としては、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とが挙げられる。このうち、水溶性食物繊維は、糖分の吸収速度をゆるやかにするため、食後の血糖値の急激な上昇を抑え、糖尿病の予防や治療に大いに役立つと考えられており、さらに、血液中のコレステロール値を減少させ、動脈硬化症や胆石症を予防する働きもある。一方、不溶性食物繊維は、発ガン性物質等の腸内の有害物質を体外へ排出させる作用を有する。これらの食物繊維の摂取量が不足すると便秘になりやすく、ひいては大腸ガン等の原因になると考えられているため、現代の食生活において食物繊維は、不可欠な栄養素であるといえる。
【0003】
このような野菜や果実の摂取不足等に起因した食物繊維等の栄養素の摂取不足を解消するために、これらの栄養素等を手軽に摂取することを目的とした野菜汁及び/又は果汁入り飲料が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−189724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
野菜汁及び/又は果汁入り飲料の製造工程には、一般に、野菜や果実等の搾汁液を固液分離する工程が含まれるが、かかる固液分離工程によって、野菜や果実等に含まれる食物繊維(特に、不溶性食物繊維)が搾汁滓に残存してしまうため、搾汁液中に移行する食物繊維は若干量である。そのため、当該飲料の摂取と野菜や果実等の摂食とを比較した場合、飲料の摂取では、野菜や果実等に含まれる食物繊維を十分に摂取できないという問題がある。
【0006】
飲料を摂取した際における食物繊維の摂取量を増加させるためには、野菜や果実等の搾汁液を固液分離せずに、搾汁滓中の食物繊維(特に、不溶性食物繊維)を飲料に含ませることが考えられるが、当該食物繊維(食物繊維を含む搾汁滓)を飲料に含ませることで、摂飲した際の舌ざわりが良好でなく、野菜汁及び/又は果汁入り飲料としての商品価値が低下してしまうという問題もある。
【0007】
一方で、野菜や果実等の搾汁液に難消化性デキストリン等の食物繊維を添加してなる、食物繊維を含有する飲料等も存在するものの、難消化性デキストリン等の食物繊維を別途添加するため、野菜や果実等に由来する成分の飲料中における配合割合が低減してしまうという問題がある。
【0008】
上記問題に鑑みて、本発明は、野菜や果実等の植物体を飲料原料として用いて、食物繊維を高濃度に含有する飲料を製造する方法及び植物体から得られる搾汁液中の食物繊維量を増加させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、植物体の搾汁液から得られる上清を用いて飲料を製造する方法であって、前記植物体の品温が85℃以上になるように当該植物体を加熱する加熱工程と、前記加熱工程において加熱された前記植物体を搾汁する搾汁工程とを含むことを特徴とする飲料製造方法を提供する(請求項1)。
【0010】
上記発明(請求項1)のように、植物体をその品温が85℃以上になるように加熱した後に搾汁すると、得られる搾汁液中の固形分(搾汁滓)の大きさが特別に粉砕処理等をすることなく非常に小さくなり、ペースト状、ピューレ状等の搾汁液として得られるため、固液分離することなく当該搾汁液から飲料を製造したとしても、摂飲した際に固形分(搾汁滓)が気にならない程度の舌ざわりの飲料とすることができる。よって、上記発明(請求項1)によれば、飲料の製造に際して搾汁液の固液分離工程を省略することができ、食物繊維を高濃度で含有する飲料を容易に製造することができる。
【0011】
上記発明(請求項1)においては、前記搾汁工程において得られた植物体搾汁液を固液分離して上清を得る分離工程をさらに含むのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、植物体を搾汁する前に品温が85℃以上になるように加熱することによって植物体から搾汁液(上清)への食物繊維(主に水溶性食物繊維)の移行量を増大させることができ、搾汁液を固液分離したとしても得られる上清中の食物繊維含有量を高濃度にすることができるため、上清に食物繊維を別途添加することなく、食物繊維を高濃度で含有する飲料を容易に製造することができる。しかも、搾汁液を固液分離することによって、舌ざわりの良好な飲料を製造することができる。
【0012】
上記発明(請求項1,2)においては、前記加熱工程において、前記植物体の品温が85〜110℃になるように前記植物体を加熱するのが好ましい(請求項3)。かかる発明(請求項3)のように、品温が110℃以下になるように加熱することで、効果的に食物繊維を搾汁液(上清)に移行させることができるため、食物繊維をさらに高濃度で含有する飲料を容易に製造することができる。
【0013】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記加熱工程において、前記植物体を10分以上加熱するのが好ましい(請求項4)。かかる発明(請求項4)によれば、植物体を10分以上加熱することで、効果的に食物繊維を搾汁液(上清)に移行させることができる。
【0014】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記植物体の品温が85℃未満になるように当該植物体を直接的に加熱した後に、前記加熱工程において、前記植物体を間接的に加熱してもよいし(請求項5)、前記加熱工程において、前記植物体を間接的に加熱した後に、前記植物体の品温が85℃未満になるように前記植物体に直接的に温度を印加してもよい(請求項6)。
【0015】
本発明において、植物体を直接的に加熱する方法としては、例えば、所定温度の熱水中で植物体を加熱する方法、蒸気と植物体とを接触させて加熱する方法等が挙げられ、植物体を間接的に加熱する方法としては、例えば、熱交換器、チューブラー加熱機、殺菌機等を用いて加熱する方法等が挙げられ、植物体に直接的に温度を印加する方法としては、例えば、所定温度の水中に植物体を浸漬させる方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
植物体に温度を印加するために、所定温度の水中に植物体を保持させることで、水中に植物体中の有用成分(特に水溶解性が高い有用成分、糖類、アミノ酸類、ビタミンC等の栄養素等)が溶出してしまうおそれがあるが、上記発明(請求項5,6)によれば、品温が85℃未満になるように直接的に加熱した後に85℃以上になるように間接的に加熱することで、又は品温が85℃以上になるように間接的に加熱した後に85℃未満になるように直接的に温度を印加することで、植物体に直接的に温度を印加する時間を短縮することができ、当該有用成分の溶出量を最小限に抑制することができる。
【0017】
上記発明(請求項1〜6)においては、前記植物体が、野菜及び/又は果実であるのが好ましい(請求項7)。かかる発明(請求項7)によれば、食物繊維を高濃度に含有してなる野菜汁及び/又は果汁入り飲料を製造することができる。
【0018】
また、本発明は、植物体搾汁液中の食物繊維含有量を増加させる方法であって、植物体の品温が85℃以上になるように当該植物体を加熱した後に、当該植物体から搾汁することを特徴とする食物繊維含有量増加方法を提供する(請求項8)。
【0019】
上記発明(請求項8)においては、前記植物体の品温が85〜110℃になるように前記植物体を加熱するのが好ましく(請求項9)、上記発明(請求項8,9)においては、前記植物体を10分以上加熱するのが好ましい(請求項10)。
【0020】
また、上記発明(請求項8〜10)においては、前記植物体の品温が85℃未満になるように前記植物体を直接的に加熱した後に、前記植物体の品温が85℃以上になるように前記植物体を間接的に加熱してもよいし(請求項11)、前記植物体の品温が85℃以上になるように前記植物体を間接的に加熱した後に、前記植物体の品温が85℃未満になるように前記植物体に直接的に温度を印加してもよい(請求項12)。さらに、上記発明(請求項8〜12)においては、前記植物体が、野菜及び/果実であるのが好ましい(請求項13)。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、野菜や果実等の植物体から搾汁液に移行する植物体中の食物繊維量を増加させ、当該搾汁液を用いて食物繊維を高濃度に含有する飲料を製造する方法及び植物体から得られる搾汁液中の食物繊維量を増加させる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態に係る飲料製造方法においては、まず、飲料原料としての植物体に所望により剥皮処理等を施し、植物体の品温が85℃以上になるように当該植物体を加熱する。なお、植物体を加熱する前に、当該植物体に切断等の前処理を施してもよいし、切断等の前処理を施さなくてもよい。
【0023】
植物体としては、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維等の食物繊維を含み、食用として安全性が確認されている植物体であれば特に限定されるものではない。具体的には、当該植物体としては、ニンジン、ブロッコリー、カブ大根、キャベツ、セロリ、ホウレンソウ、ピーマン、アスパラガス、白菜、小松菜、明日葉、甘藷、馬鈴薯、トマト、モロヘイヤ、パプリカ、クレソン、パセリ、セロリ、三つ葉、レタス、ラディッシュ、ケール、メキャベツ、メキャベツの葉、紫蘇、茄子、大根、玉葱、牛蒡、生姜、南瓜、大蒜、カリフラワー、トウモロコシ、さやえんどう、オクラ、かぶ、きゅうり、コールラビ、ウリ、ズッキーニ、へちま、もやし等の野菜;オレンジ、みかん、リンゴ、バナナ、ブドウ、アセロラ、カムカム、マンゴー、レモン、ブルーベリー、ラズベリー、ザクロ、キウイ、マスカット、桃、柿、イチゴ、グレープフルーツ、パイナップル、あんず、イチジク、梅、シイクワシャー、すいか、さくらんぼ、梨、パパイア、びわ、メロン等の果実等が挙げられる。
【0024】
植物体の加熱は、品温が85℃以上になるように行い、85〜110℃になるように行うのが好ましく、85℃を超える温度〜110℃になるように行うのがより好ましく、100〜110℃になるように行うのが特に好ましい。植物体を加熱した際の品温が85℃未満であると、植物体の搾汁液への食物繊維(主に水溶性食物繊維)の移行量を増加させることが困難となるおそれがある。また、110℃を超えても、食物繊維(主に水溶性食物繊維)の移行量がほとんど増加しないおそれがある。
【0025】
さらに、品温が85℃以上になるように植物体を加熱することで、後述の搾汁工程において、得られる植物体搾汁液中の固形分(搾汁滓)の大きさが、特別に粉砕処理等を施すことなく非常に小さくなった、ペースト状、ピューレ状等の搾汁液が得られるため、当該搾汁液を固液分離することなく飲料を製造したとしても、摂飲した際に固形分(搾汁滓)の舌ざわりが気にならず、当該飲料の商品価値が低下することがない。よって、搾汁液の固液分離により食物繊維が除去されることがなく、食物繊維を高濃度に含有する飲料を製造することができる。
【0026】
植物体の加熱時間は、植物体の加熱温度等に応じて適宜変更することができるが、10分以上であるのが好ましく、特に20分以上であるのが好ましい。加熱時間が10分未満であると、搾汁液に食物繊維(主に水溶性食物繊維)を十分に移行させることが困難となるおそれがある。特に20分以上加熱することで、食物繊維(主に水溶性食物繊維)の移行量をより増加させることができる。
【0027】
植物体を加熱する方法としては、当該植物体を直接的に加熱する方法であってもよいし、間接的に加熱する方法であってもよい。植物体を直接的に加熱する方法としては、例えば、所定温度の熱水中で植物体を加熱する方法、蒸気と植物体とを接触させて加熱する方法等が挙げられ、間接的に加熱する方法としては、例えば、熱交換器、チューブラー加熱機、殺菌機等を用いて加熱する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
なお、植物体を熱水中で直接的に加熱すると、植物体中の有用成分(特に水溶解性が高い有用成分、糖類、アミノ酸類等の栄養素等)が熱水中に溶出してしまうおそれがある。一方、間接的に加熱する方法では、直接的に加熱する方法に比して、硝酸イオン、不快臭、アク成分等の不要と考えられる成分(不要成分)を排除しにくいおそれがある。
【0029】
そのため、本実施形態においては、植物体を所定温度の熱水中で予備的に直接加熱した後に、間接加熱する。これにより、熱水中への植物体中の有用成分の溶出によるロスを抑制することができるとともに、不要成分を排除し当該不要成分量を低減することができる。
【0030】
この場合において、植物体の予備的な直接加熱は、熱水中で品温が85℃未満となるように行うのが好ましく、熱水中で品温が70〜80℃となるように行うのがさらに好ましい。
【0031】
特に、植物体の品温が75℃以上85℃未満となるように予備的に直接加熱することで、植物体中の酵素を失活させ、植物体中の有用成分(例えば、ビタミンC等)の分解や植物体の凝集を抑制することができる。また、植物は、硝酸性窒素を養分として吸収し、アミノ酸やタンパク質を生成するが、吸収した硝酸性窒素の一部がアミノ酸やタンパク質の生成過程で代謝されずに、そのまま硝酸性窒素(硝酸イオン)として植物体内に残留する場合もある。そのような場合であっても、植物体の品温が75℃未満となるように予備的に直接加熱することで、植物体中に含まれる硝酸イオン等を熱水中に溶出させ、除去し得るという効果も併せて奏する。
【0032】
植物体を予備的に直接加熱する時間は、3〜15分であるのが好ましく、特に10分程度であるのが好ましい。予備的な直接加熱時間が3分未満であると、植物体の酵素を十分に失活させたり、硝酸イオンを十分に除去したりすることが困難となるおそれがあり、15分を超えると、植物体中の有用成分の溶出ロスを抑制するのが困難となるおそれがある。
【0033】
植物体を予備的に直接加熱した後に、間接加熱する時間は、3〜15分であるのが好ましく、特に10分程度であるのが好ましい。3分未満であると、搾汁液中に食物繊維(主に水溶性食物繊維)を十分に移行させることが困難となるおそれがあり、15分を超えると、植物体が煮崩れ等を起こし、歩留まりが低下するおそれがある。
【0034】
次に、上記のようにして加熱された植物体を搾汁して植物体搾汁液を得る。植物体の搾汁方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。具体的には、二軸回転型エクストルーダー等の搾汁機を用いて搾汁して植物体搾汁液を得るようにしてもよいし、破砕又は磨砕したニンジン片をネルろ過により搾汁して植物体搾汁液を得るようにしてもよいし、その他の方法で搾汁して植物体搾汁液を得るようにしてもよい。
【0035】
続いて、上記のようにして得られた植物体搾汁液を、必要に応じて固液分離して上清を得るようにしてもよい。植物体搾汁液の上清には、植物体中の食物繊維が十分に移行しているため、搾汁液を固液分離することにより、舌ざわりがより良好であり、かつ食物繊維を高濃度に含有する飲料を製造することができる。
【0036】
植物体搾汁液の固液分離の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、遠心分離機、デカンター、スクリュープレス、フィルタープレス、ベルトプレス、ブッハープレス(製品名,Bucher社製)、エクストルーダー、シフター等の分離機を用いた方法等を例示することができる。
【0037】
なお、上記加熱工程により植物体を85℃以上に加熱することで、搾汁工程において、植物体搾汁液中の固形分(搾汁滓)の大きさが、特別に粉砕処理等を施すことなく、舌ざわりが気にならない程度の非常に小さくなった、ペースト状、ピューレ状等の植物体搾汁液が得られるため、当該植物体搾汁液を固液分離することなく、当該搾汁液を用いて飲料を製造してもよい。
【0038】
このようにして得られる上清中に植物体から食物繊維(主に水溶性食物繊維)が移行する量は、植物体の種類や加熱時の品温、加熱時間等に応じて変動し得るが、加熱することなく植物体を搾汁した場合に比して、2倍量以上の食物繊維(主に水溶性食物繊維)が上清に移行することになり、特に、植物体としてニンジンを用いた場合には、8〜23倍量程度もの食物繊維(主に水溶性食物繊維)が上清に移行することになる。したがって、上記の方法によって、得られる上清中の食物繊維含有量を増加させることができ、当該上清を用いて飲料を製造することで、食物繊維(主に水溶性食物繊維)の含有量の多い飲料を製造することができる。
【0039】
上記のようにして得られた上清と所定の調合原料とを配合し、常法による殺菌工程や、所望の充填工程等を経て、植物体に由来する食物繊維(主に水溶性食物繊維)を十分量含有する飲料(野菜汁及び/又は果汁入り飲料)を製造することができ、かかる飲料を摂取することにより、十分量の食物繊維(主に水溶性食物繊維)を摂取することができる。
【0040】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、植物体を直接加熱した後に品温が85℃以上になるように間接加熱しているが、これに限定されるものではなく、植物体を品温が85℃以上になるように間接加熱した後に、当該植物体の品温が85℃未満になるように直接的に温度を印加してもよい。植物体の品温が85℃未満になるように直接的に温度を印加する方法としては、85℃未満の水中に間接加熱された植物体を浸漬させる方法等が挙げられる。
【0042】
植物体を間接的に加熱する時間は、3〜15分であるのが好ましく、特に10分程度であるのが好ましい。また、植物体に直接的に温度を印加する時間は、3〜15分であるのが好ましく、特に10分程度であるのが好ましい。当該印加時間が3分未満であると、植物体の酵素を十分に失活させたり、硝酸イオンを十分に除去したりすることが困難となるおそれがあり、15分を超えると、植物体中の有用成分の溶出ロスを抑制するのが困難となるおそれがある。
【0043】
このような方法であっても、植物体中の食物繊維を搾汁液に十分に移行させることができるとともに、植物体中の有用成分の溶出によるロスを抑制することができる。特に、植物体の品温が75℃以上85℃未満となるように直接的に温度を印加することで、植物体中の酵素を失活させ、植物体中の有用成分(例えば、ビタミンC等)の分解や植物体の凝集を抑制することができる。また、植物体の品温が75℃未満となるように直接的に温度を印加することで、植物体中に含まれる硝酸イオン等を熱水中に溶出させ、除去し得るという効果も併せて奏する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
〔加熱前後でのニンジンに含まれる食物繊維量の比較〕
剥皮したニンジン(品種:向陽2号)を100℃の熱水中で20分間加熱したもの(加熱ニンジン)及び加熱することなく10℃の品温で20分間保持したもの(生ニンジン)に含まれる食物繊維量(g/100g)を酵素重量法により測定した。
結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、加熱前後でニンジン中の食物繊維量はほとんど変化しないことが確認された。
【0048】
〔加熱温度の相違による上清中の食物繊維量の比較〕
剥皮したニンジン(品種:向陽2号)を表2に示す品温になるように20分間加熱し、ニンジンの2倍量の水を加えて市販の家庭用ミキサーで粉砕し、遠心分離して(3000rpm,10分間)、上清を回収した。得られた上清中のBRIX(°)及び上清100g中の食物繊維量(g/100g)を、酵素重量法により測定した。また、食物繊維量の測定値を、上清中のBRIXを36°としたときにおける食物繊維量(g/BRIX36/100g)に換算した。
結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すように、ニンジンの品温が75℃までは緩やかに上清中の食物繊維量が増加し又はほぼ上清中の食物繊維量が変化しなかったが、ニンジンの品温が85℃以上になるように加熱することで、上清中の食物繊維量を増加させることが可能であった。また、ニンジンの品温が85℃を超える温度になるように加熱することで、上清中の食物繊維量をより増加させることができ、特に、ニンジンの品温が100〜110℃になるように加熱することで、上清中の食物繊維量を極めて増加させることができることが判明した。
【0051】
〔加熱時間の相違による上清中の食物繊維量の比較〕
剥皮したニンジン(品種:向陽2号)を品温が100℃になるように、表3に示す時間加熱し、ニンジンの2倍量の水を加えて市販の家庭用ミキサーで粉砕し、遠心分離して(3000rpm,10分間)、上清を回収した。得られた上清中のBRIX(°)及び上清100g中の食物繊維量(g/100g)を、酵素重量法により測定した。また、食物繊維量の測定値を、上清中のBRIXを36°としたときにおける食物繊維量(g/BRIX36/100g)に換算した。
結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示すように、加熱時間を10分間とすることで、上清中の食物繊維量を増加させることができるが、加熱時間を20分間とすると、上清中の食物繊維量を極めて増加させることができた。
【0054】
〔直接的加熱と間接的加熱との比較〕
剥皮したニンジン(品種:向陽2号)を品温が75℃又は100℃になるように20分間加熱し、ニンジンの2倍量の水を加えて市販の家庭用ミキサーで粉砕し、遠心分離して(3000rpm,10分間)、上清を回収した。
【0055】
また、剥皮したニンジン(品種:向陽2号)を品温が75℃になるように熱水中で10分間加熱し、その後ニンジンをアルミ袋に密封して100℃の熱水中で10分間加熱した。そして、加熱後のニンジンの2倍量の水を加えて市販の家庭用ミキサーで粉砕し、遠心分離して(3000rpm,10分間)、上清を回収した。
【0056】
上述のようにして得られた上清中のBRIX(°)及び上清100g中の食物繊維量(g/100g)を、酵素重量法により測定した。また、食物繊維量の測定値を、上清中のBRIXを36°としたときにおける食物繊維量(g/BRIX36/100g)に換算した。
結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示すように、品温が75℃になるようにニンジンを直接的に熱水中で加熱した後に、品温が100℃になるようにニンジンを間接的に熱水中で加熱することによっても、上清中の食物繊維量を増大させることが可能であった。このように、間接的な加熱によっても上清中の食物繊維量を増加させることが可能であることから、植物体中の有用成分が熱水中に溶出することによるロスを抑制しつつ、上清中の食物繊維量を増加させることができる。そのため、当該上清を飲料原料として配合することで、植物体(野菜等)に含まれる有用成分と食物繊維とをともに高濃度で含有する飲料を製造することができる。
【0059】
〔加熱方法の相違による上清中の食物繊維量の比較〕
剥皮したニンジン(品種:向陽2号)を品温が100℃になるように、表5に示す時間茹でることにより又は蒸すことにより加熱し、ニンジンの2倍量の水を加えて市販の家庭用ミキサーで粉砕し、遠心分離して(3000rpm,10分間)、上清を回収した。得られた上清中のBRIX(°)及び上清100g中の食物繊維量を、酵素重量法により測定した。また、食物繊維量の測定値を、上清中のBRIXを36°としたときにおける食物繊維量(g/BRIX36/100g)に換算した。
結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
表5に示すように、茹でた(熱水中で加熱した)場合であっても、蒸した(蒸気と接触させることにより加熱した)場合であっても、上清中の食物繊維量を増加させることができた。特に、100℃で20分間加熱することによって、加熱方法の相違にかかわらず、上清中の食物繊維量を極めて増加させることができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、食物繊維(主に水溶性食物繊維)を高濃度で含有する野菜汁及び/又は果汁入り飲料の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体の搾汁液から得られる上清を用いて飲料を製造する方法であって、
前記植物体の品温が85℃以上になるように当該植物体を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程において加熱された前記植物体を搾汁する搾汁工程と
を含むことを特徴とする飲料製造方法。
【請求項2】
前記搾汁工程において得られた植物体搾汁液を固液分離して上清を得る分離工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の飲料製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、前記植物体の品温が85〜110℃になるように前記植物体を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の飲料製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、前記植物体を10分以上加熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の飲料製造方法。
【請求項5】
前記植物体の品温が85℃未満になるように当該植物体を直接的に加熱した後に、前記加熱工程において、前記植物体を間接的に加熱することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の飲料製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程において、前記植物体を間接的に加熱した後に、前記植物体の品温が85℃未満になるように前記植物体に直接的に温度を印加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の飲料製造方法。
【請求項7】
前記植物体が、野菜及び/又は果実であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の飲料製造方法。
【請求項8】
植物体搾汁液中の食物繊維含有量を増加させる方法であって、
植物体の品温が85℃以上になるように当該植物体を加熱した後に、当該植物体から搾汁することを特徴とする食物繊維含有量増加方法。
【請求項9】
前記植物体の品温が85〜110℃になるように前記植物体を加熱することを特徴とする請求項8に記載の食物繊維含有量増加方法。
【請求項10】
前記植物体を10分以上加熱することを特徴とする請求項8又は9に記載の食物繊維含有量増加方法。
【請求項11】
前記植物体の品温が85℃未満になるように前記植物体を直接的に加熱した後に、前記植物体の品温が85℃以上になるように前記植物体を間接的に加熱することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の食物繊維含有量増加方法。
【請求項12】
前記植物体の品温が85℃以上になるように前記植物体を間接的に加熱した後に、前記植物体の品温が85℃未満になるように前記植物体に直接的に温度を印加することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の食物繊維含有量増加方法。
【請求項13】
前記植物体が、野菜及び/果実であることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の食物繊維含有量増加方法。

【公開番号】特開2010−268768(P2010−268768A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125427(P2009−125427)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】