説明

飼料の製造方法

【課題】 高い加水分解反応場を提供できる水熱反応を用いて、茶殻などの有機物循環資源に含まれる加水分解性タンニンを分解することにより、既存方法では加水分解性タンニンを多く含むため飼料原料としての価値が低かった物質に高付加価値を付する方法を提供すること。
【解決手段】 加水分解性タンニンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、温度170℃〜260℃、圧力0.4MPa〜30MPa、液固比1:1〜100:1の条件で、5分間〜180分間保持することによりタンニンを加水分解することを特徴とする飼料の製造方法によって解決される。このとき、タンニンは、農産系廃棄物、食品系廃棄物のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンニンを多く含む農産系廃棄物および食品系廃棄物などの有機物から動物用液状飼料を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
加水分解性タンニンを多く含む有機物として、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類と、その没食子酸エステル誘導体を多く含む茶がある。近年、日本では消費者の健康志向が高まり、茶飲料の生産および消費が増加している。その結果、飲料工場からは産業廃棄物である茶殻の発生量が急増している。日本で行われている茶殻の主な処理方法は、堆肥化、焼却、あるいは、埋め立てによる処理である。その他のタンニンを多く含むものも同様に処理されている。
一方、茶殻の一部は、加熱乾燥などの処理を施した後に、鶏や豚に飼料として与えられている。茶カテキン類を多く摂取した家畜では、腸内環境が改善され、糞尿の臭気が低減するなどの利点がある。茶殻を再利用する開発については、特許文献1及び2などの方法が知られている。このうち、特許文献2では、茶殻などを熱水で処理して、ポリフェノル含有物を得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−121942号公報
【特許文献2】特開2006− 75050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
タンニンは、上述のような効果がある一方で、タンパク質と結合する作用を持つので、家畜体内の消化酵素を変性させることにより、家畜の増体速度を減少させることなどの欠点が報告されている。そのため、茶殻などの加水分解性タンニンを多く含む廃棄物を飼料原料として用いる場合においても、せいぜい飼料原料として最大3%程度以上用いることは敬遠されてきた。
また、加水分解性タンニンは、タンパク質の収れん作用により渋みをもたらすため、嗜好性を低下させる原因となっていた。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い加水分解反応場を提供できる水熱反応を用いて、茶殻などの有機物循環資源に含まれるタンニンなどのポリフェノール類を分解することにより、既存方法では加水分解性タンニンを多く含むため飼料原料としての価値が低かった物質に高付加価値を付する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討の結果、タンニンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、所定の温度域、圧力域、固液比を満足することにより、タンニンを良好に加水分解でき、良好な液状飼料を調製できることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。本発明により、嗜好性がよく、家畜の増体に対する悪影響を低減した飼料を製造する方法の提供できる。
液状飼料中のタンパク質は、胃の中でさらに遊離アミノ酸およびペプチドに分解され消化管から体内に吸収される。そのため、高温高圧反応が持つ加水分解力により、タンパク質の分解が促進され、消化・吸収が比較的容易な液状飼料の製造が行える。液状飼料は、家畜の増体促進、肉質向上、肥育期間の短縮等につながり、養豚経営に対し大きなメリットとなり得る。そこで、高温高圧処理による効果が加われば、更なるメリットが期待できる。高温高圧反応による効果は、タンパク質だけにとどまらない。例えば、澱粉等の加水分解により得られるオリゴ糖は、増体促進効果、下痢の予防、母豚の発情再帰日数の短縮、母豚の泌乳量の促進、雄豚の精子活性の向上などの効果が報告されている。更に、ビフィズス菌などの腸内細菌が有意に増加し、子豚の増体促進効果も期待し得る。
【0005】
一般に、飼料には、「消化率」という指標がある。高温高圧反応により最も期待される効果は、消化率の改善である。現在、茶殻の利用技術が確立されておらず、そのほとんどが産業廃棄物として処分されている。茶殻のタンパク質含有率は、乾物換算で28%である。これは、大豆かすに含まれるタンパク質含有率(46%)の約半分強である。しかし、茶殻の成分中に8〜9%含まれるタンニンが消化阻害要因となっているため、これまで飼料としてはほとんど利用できていなかった。この問題に対し、高温高圧処理によりタンニンを分解し、制限要素がなくなれば茶殻は液状飼料の対象物として使用でき得る。さらに、高温高圧反応は食品の制限要素の改善に対しても期待できる。これらが実現すれば、食料自給率向上や排泄物削減にも大きな効果が見込めると考えられる。
【0006】
こうして上記目的を達成するための発明に係る液状飼料の製造方法は、加水分解性タンニンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、温度170℃〜260℃、圧力0.4MPa〜30MPa、液固比1:1〜100:1の条件で、5分間〜180分間保持することを特徴とする。
本発明において、タンニンを含有する有機物とは、種類を問われないが、農水産系廃棄物、食品系廃棄物、未利用農産物のような有機系廃棄物であることが好ましい。本発明の目的の一つは、そのような有機系廃棄物を有効にリサイクルすることである。
水分としては、材料を添加する初期時点において、液体の水として添加しておくこともできるし、気体の蒸気として加えることもできる。
【0007】
高温高圧反応において、温度が170℃未満であると、タンニンを十分に加水分解することが困難となる。また、温度が300℃よりも高くなると、原料に含まれるタンパク質から得られたアミノ酸が分解してしまい、全体としてアミノ酸の収量が減少してしまうため好ましくない。このため、温度域としては、150℃〜260℃であることが好ましい。また、180℃〜260℃では、糖質のものを多く含む場合、炭化することに注意が必要である。
圧力が30MPaを越えると、実用上の装置として稼働させることが難しくなるため好ましくない。また、圧力が低いと、反応温度を上昇させることが難しくなる。このため、圧力域としては、0.4MPa〜30MPaであることが好ましい。
液固比とは、タンニンを含有する有機物(例えば、有機系廃棄物)の乾燥重量と水との質量比を意味している。具体的には、水:固体=1:1〜100:1で、好ましくは5:1〜25:1である。
【0008】
反応時間が短すぎる場合(例えば、数十秒〜数分)には、実用上の装置を制御することが難しくなる。また、反応時間が長すぎると経済的にコストが上昇してしまい、好ましくない。このため、反応時間としては、5分間〜180分間、好ましくは5分間〜60分間、更に好ましくは10分間〜30分間である。
本発明におけるタンニンとしては、食品系(具体的には、ワイン醸造工場残渣など)および農林産物系廃棄物(具体的には、茶殻・茶滓、柿皮・リンゴ絞り滓などの果実系廃棄物や剪定枝葉などの木質系廃棄物など)を用いることが好ましい。そのような農林産物系廃棄物は、従来も飼料として使用されることがあったが、加水分解性タンニンを含むことで、その添加割合が制限されていた。本発明では、そのような廃棄物のタンニンを分解することにより、従来よりも添加割合を増加させた飼料を提供できるので、廃棄物の付加価値を高めることができることに加え、循環型社会の構築にも資する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンニンを高温高圧水で処理することにより、タンニンを分解し、この加水分解性タンニンとのタンパク質との結合量を低減すると共に、加水分解性タンニンに由来する渋みを低減できるので飼料の嗜好性を向上させて、良好な家畜用の液状飼料を提供できる。
加えて、この液状飼料は、熱処理されているので、殺菌済みであることから、従来の殺菌処理を行う必要がない。また、有機系廃棄物を用いた場合には、不要な有機物を有効にリサイクル処理することが可能となり、環境に優しいシステムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0011】
<実験方法I>
まず、主として下記3項目についての検討を行った。
(1)高温高圧条件下でのタンニンを含むフェノール類の分解挙動の解明
溶融塩高温槽を用い、茶殻を高温高圧反応させたときのタンニンを含むフェノール類の分解挙動を解明することで、茶殻の飼料としての利用の可能性を検討した。
(2)反応条件が茶殻中の有価物、およびタンニンを含むフェノール類の分解に与える影響
温度、時間、液固比などの反応条件を変化させることにより、反応後に得られる有価物の生成量の検討を行った。
(3)高温高圧反応が飼料原料の可消化率に与える影響
高温高圧処理により、飼料原料の可消化率がどの程度向上するかを検証することで、飼料価値の評価を行った。
【0012】
1.実験装置
本研究で使用した溶融塩恒温槽の概略図を図1に示した。高温高圧処理装置1(以下、単に「処理装置1」と記載する)を示した。この処理装置1には、温度制御可能な溶融塩槽2(例えば、耐圧硝子株式会社製、TSC-B600型を用いることができる。)と、その溶融塩槽2の内部に浸漬される耐熱・耐圧な密閉型の処理容器3(例えば、ステンレス製(SUS316)バッチ式反応管(外径12.7mm、肉厚1.24mm、内径10.2mm、長さ10cm、内容積8.2ml)を用いることができる。)と、圧力センサ4とが設けられている。
【0013】
溶融塩槽2の内部には、ヒータ6と回転翼5が設けられている。ヒータ6の電源を入れた状態で、回転翼5を回転させることによって、溶融塩槽2内の液体(例えば、KHNO(45%)、NaHNO(55%)を用いることができる)を混合して、均一な温度とすることができる。なお、ヒータ6には、図示しないコンピュータが設けられており、溶融塩槽2内の温度を所定の範囲内に制御することができる。この処理装置1では、溶融塩槽2の内部を約150℃〜約450℃の範囲内で温度制御しながら、タンニンを含む有機物の高温処理を行えるようになっている。
【0014】
処理容器3は、例えばハステロイやインコネル(Ni、Cr、Mo, etc.)から構成することができる。処理容器3の上部には、蓋体が取り付けられるようになっており、処理容器3の内部空間を密閉した状態(すなわちバッチ式)で、適度な温度とすることができる。試験時には、処理容器3の内部に任意の倍率で希釈した試料を投入し、上蓋を容器に載せて密閉する。その後、処理容器3と圧力センサ4とを接続する。
処理容器3を密閉した後、予め設定温度に加熱しておいた溶融塩槽2に処理容器3を投入し、この時点を0分として、高温処理を開始する。
【0015】
2.実験操作
本研究では、緑茶ポリフェノール(和光純薬製)、茶殻(A社、B社、C社の三種類)、(オカラ、羽毛(鶏)、食品汚泥を試料として用いた。試料は全て冷凍させた後、凍結乾燥機により1〜3日乾燥させた。その後、羽毛については5mm角程度に切断したものを使用し、茶殻・オカラ・食品汚泥については乳鉢を用いてパウダー状に粉砕したものを使用した。水はイオン交換水(MILLIPORE製、MILLI-QLabo)を使用した。
検討した反応条件を表1,2に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
茶殻におけるタンニンの加水分解
未処理の茶殻(A社、B社、C社の三種類)をサンプルとして用いた。
【表2】

【0018】
予め設定温度に加熱したソルトバスへ反応容器を浸漬し、反応を開始させた。ソルトバスに浸漬した時点を反応開始とし、所定時間の経過後、すぐに反応容器を取り出し、冷水で反応容器を冷却することによって、反応を停止させた。冷却後、反応容器内より液相と反応管内部に付着した反応残渣を回収した。
【0019】
3.反応生成物の分離及び分析方法
(1)アミノ酸分析
溶液中の遊離アミノ酸濃度は、溶液をメンブレンフィルター(粒径0.45μm)によりろ過し、ろ液を適正濃度まで希釈した後、限外ろ過膜(MILLIPORE製、UFC3LTK00、分画分子量30,000)を用いて遠心分離機(TOMY製、RS-206、回転数10,000rpm、5min)で遠心ろ過したものをアミノ酸自動分析装置(島津製作所、 LC-10ADVPシリーズ、 分離カラム:Shim-pack ISC-07/S1504 Na)により測定した。カラム温度は60℃、移動相の流量は0.4ml/minとした。
(2)有機酸分析
有機酸濃度は、アミノ酸分析と同様の前処理をしたものを、有機酸分析装置(島津製作所製 LC-VP シリーズ、分離カラム:Shim-pack SCR-102H×2本)により測定した。カラム温度は40℃、移動相はp-トルエンスルホン酸-水和物、緩衝液についてはp-トルエンスルホン酸-水和物、Bis-Tris、4H(EDTA・free acid)を用い、移動相、緩衝液の流量は0.8ml/minとした。
【0020】
(3)全有機炭素、全窒素分析
含有炭素濃度については、溶液をメンブレンフィルター(粒径0.45μm)によりろ過したものを適正濃度まで希釈した後、全有機炭素濃度計(島津製作所製、TOC-VE)を用いて測定した。
(4)フェノール類量、タンニン量測定
フェノール類濃度の測定については、Makkar and Goodchild(1996)に従った。超純水で適正濃度に希釈した試料1mlに、2倍希釈したFolin-Ciocalteu`s溶液(Folin Ciocalteu`s phenol reagent, MP Biomedicals, LLC, France)1mlと、0.4Mの炭酸ナトリウム水溶液5mlを加え攪拌した。60分後に分光光度計(日本分光製、V-560)で765nmの吸光度を測定した。標準物質には没食子酸を用いた。
加水分解性タンニン量の測定についても同様にMakkar and Goodchild(1996)に従った。ペプシン(Pepsin, MP Biomedicals, LLC, France)の2%溶液9mlに試料1mlを加え、よく混合した後、4℃で20分間静止した。その後、遠心分離機(TOMY製、RS-206、回転数10,000rpm、10min)で遠心分離し、上澄みを採取した。この上澄みを上述のフェノール類量測定に従い、定量した。
縮合型タンニン量の測定についても同様にMakkar and Goodchild(1996)に従った。試料500μlに、ブタノール-塩酸(95:5;v/v)溶液3mlと2規定の塩酸に2%硫酸アンモニウム鉄(III)十二水和物を溶解した溶液100μlを加え、沸騰水浴上で1時間加熱した。その後、分光光度計(日本分光製、V-560)で550nmの吸光度を測定した。標準物質はロイコシアニジンを用いた。
元素分析
元素分析については、各試料を1〜3日凍結乾燥させ、5mm角程度に整形したものを3〜10mg測りとり、すず箔で包んだ後、元素分析装置(CHNSO製、vario EL III)を用い測定した。
【0021】
<実験結果I>
1.高温高圧条件下でのタンニンの分解挙動の解明
図2より、反応温度140℃〜200℃において緑茶ポリフェノール中のタンニンを含むフェノール類の分解挙動を検討した。140℃〜160℃では長時間の反応においても、加水分解性タンニンの分解は確認できなかった。180℃においては60分でフェノール類の約15%、加水分解性タンニンの約30%が分解することが確認できた。200℃においては60分でフェノール類の約30%、加水分解性タンニンの約80%が分解することが確認できた。これにより、180℃以上の条件下において、フェノールおよびタンニンの分解が可能であることが示された。
図3より、A社茶殻において、加水分解性タンニンは、反応温度200℃、10分で95%以上の高い分解率を示した。図4より、Bの茶殻では、反応温度200℃、30分で70%の分解率であった。このように各社の茶殻で、分解率に大きな違いが見られた。これは、各社の製造工程や使用茶葉の違いにより、茶殻に含有するポリフェノール類などの質および量が異なるためであると考えられる。
図5に反応温度200℃、図6に反応温度180℃における茶殻中のフェノール類の分解挙動を検討した。これより、縮合型タンニンについても低分子のフェノール類に加水分解性されていることが示された。
【0022】
2.反応条件が茶殻中のタンパク質の分解に与える影響
高温高圧条件下で、反応条件が茶殻中の成分に与える影響を検討した。
タンニンの分解率は200℃、60分の反応において得られたタンパク質の可溶率を以下に示す。
A社の茶殻は、タンパク質の約60%が可溶化することがわかった。B社の茶殻は、タンパク質の約50%が可溶化することがわかった。C社の茶殻は、タンパク質の約60%が可溶化することがわかった。
【0023】
3.高温高圧反応が飼料原料の可消化率に与える影響
高温高圧処理により、飼料原料の可消化率がどの程度向上するか検証した。反応条件は、上記茶殻の分解挙動および当研究室の知見から、飼料製造にあたって最適と思われる条件を設定した。反応温度180℃〜200℃、反応時間30〜60分、液固比は25〜50であった。
茶殻は、約15%の可消化率向上が確認できた。おからは、約15%の可消化率向上が確認できた。羽毛は、約70%の可消化率向上が確認できた。食品汚泥は、約50%の可消化率向上が確認できた。総じて飼料原料の可消化率向上が確認できた。これにより、高温高圧製造手法によって、高い可消化率を持つ飼料が製造可能であることが示された。
【0024】
<実験方法II>
茶殻から製造された液状飼料(高温高圧処理条件:温度180℃、液固比10、時間30分)を一般の動物用飼料(乾燥配合飼料)を水溶きした液状飼料に3%以上添加したものを用いて、動物(ラット・ブタ等)を飼育する。
なお、高温高圧処理条件、本願実施形態の液状飼料と一般の動物用飼料との混合比については、当業者の常識に伴って、適宜に変更して実施できる。
<実験結果II>
2週間の飼育後、従来の飼料と同等かそれ以上の増体が見られた。また、動物は全て良好な健康状態である。
【0025】
<考察>
茶殻は、その苦みから豚の嗜好性が非常に悪かった。また、タンニンがタンパク質に及ぼす問題から、従来には他の飼料に3%程度しか混合ができなかった。しかし、高温高圧製造手法により含有される消化阻害性タンニンの70%程度が分解したことから、大幅な混合率の上昇を行える。従来、ほとんどが廃棄されていた茶殻が、飼料に転用できることは、環境問題および食糧問題の観点から大いに意義がある。
また、豚が嫌う苦味の原因物質であるタンニンの分解と、豚の好むグルコースの可溶化、メイラード反応により伴うカラメル様の香気の相乗効果で、嗜好性の大きな改善が行えた。更に、豚への茶殻の給仕により肉質の向上、肉の保存性の向上、糞の臭気低減が見られたとの報告もあり、こういった効果が認められた。このように、高温高圧処理を応用した茶殻の処理方法は、これまで飼料としての価値が非常に低かった茶殻に、高付加価値を与えることが分かった。
【0026】
また、高温高圧処理により、茶殻、および飼料原料として利用されている食品副産物の可消化率の改善が確認できた。特に、羽毛の可消化率が70%向上、食品汚泥の可消化率が50%向上し、画期的な消化率改善が見られた。高温高圧処理は、茶殻や食品汚泥のような未利用資源のみならず、既存の飼料の高付加価値化を可能とした。さらに可消化率の向上に伴い、豚の増体効果、糞尿量の低減などが可能となった。
食品副産物を用いた液状飼料(リサイクル飼料)を普及させていくには、消費者の理解が必要不可欠である。現段階では、給食製造者、飲食店などで発生する雑多な食品残渣を用いたリサイクル飼料に不快感を示す消費者が少なくない。こういった消費者の理解を得るためにも、茶殻のような、比較的消費者の抵抗が少ないものから、徐々に食品残渣や、食品汚泥を用いたものに移行していく必要があると思われる。このようなリサイクル飼料を用いることにより、豚は従来の配合飼料に比べ、より多様な栄養を摂取できる。結果的に、豚は健康に育ち、肉質が良いものになることに加え、疾病率が減り、豚に投与される抗生物質の量を減らせるため、安全な肉を生産できる。既に行われているように、高品質で、安全であるという消費者の理解を得るために、リサイクル飼料を用いた豚をブランド化することは非常に有効な手段である。
【0027】
高温高圧処理の利点として、上記の他にも、例えば操作が簡易であることが挙げられる。既存の液状飼料化技術の中でも最も優れていると言われる発酵液状飼料化手法では、管理が難しく、製造者に専門知識が求められるという欠点があった。対して、高温高圧処理では、反応条件さえ決定すれば、ほぼ自動で安定した品質の飼料製造が可能である。また、高温高圧処理では、飼料の安全性を飛躍的に高めることができる。既存の飼料に施される110℃〜130℃での殺菌処理では、菌は除去できても、牛海綿状脳症(BSE)の原因である異常プリオン蛋白の分解には不十分である。既存の技術ではこれ以上の温度では、熱分解により、飼料の栄養が大きく損なわれてしまう。一方、高温高圧処理の場合は、主に加水分解が進むため、飼料の栄養性を向上させつつ、異常プリオン蛋白をアミノ酸やペプチドレベルまで分解することが可能である。
また、高温高圧処理による液状飼料製造は、低コストで実施できる。これまで、高温高圧処理を用いた再資源化技術の開発が行われてきたが、高価な装置、高エネルギーおよび、反応物の分離、精製が必要であるため、コスト面で問題から実用化に至った例はない。しかし、本研究における液状飼料の製造は、200℃と高温高圧反応としては低温であるため、高価な装置、反応物の分離・精製が不要である。
【0028】
このように、本実施形態によれば、加水分解性タンニンを高温高圧水で処理することにより、タンニンを分解することができる。これにより、加水分解性タンニンとタンパク質との結合を阻害すると共に、タンニンに由来する渋みを低減できるので飼料の嗜好性を向上させて、良好な家畜用の液状飼料を提供できた。また、この液状飼料は、熱処理されているので、殺菌済みであることから、従来の殺菌処理を行う必要がない。更に、有機系廃棄物を用いた場合には、不要な有機物を有効にリサイクル処理することが可能となり、環境に優しいシステムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】高温高圧処理装置の概要図である。
【図2】反応温度160、180、200℃、液固比50において反応時間を0〜120分まで変化させた場合の緑茶ポリフェノール(和光純薬社製)中の加水分解性タンニンの分解率を示すグラフである。
【図3】反応温度180、200℃、液固比50において反応時間を0〜120分まで変化させた場合の茶殻A中の加水分解性タンニンの分解率を示すグラフである。
【図4】反応温度180、200℃、液固比50において反応時間を0〜120分まで変化させた場合の茶殻C中の加水分解性タンニンの分解率を示すグラフである。
【図5】反応温度200℃、液固比50、反応時間0〜120分における茶殻A中のフェノール類組成(加水分解性タンニン、縮合型タンニン、その他フェノール類)の変化を示すグラフである。
【図6】反応温度180℃、液固比50、反応時間0〜120分における茶殻A中のフェノール類組成(加水分解性タンニン、縮合型タンニン、その他フェノール類)の変化を示すグラフである。
【図7】反応温度200℃、液固比50において反応時間を0〜120分まで変化させた場合の各試料(緑茶殻A、緑茶殻B、緑茶殻C)中のタンパク質の可溶化率を示すグラフである。
【図8】処理前および温度200℃、液固比50、時間60分の反応条件での処理後における各試料(羽毛、食品汚泥、茶殻、おから)中タンパク質可消化率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1…処理装置、2…溶融塩槽、3…処理容器、4…圧力計、5…回転翼、6…ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性タンニンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、温度170℃〜260℃、圧力0.4MPa〜30MPa、液固比1:1〜100:1の条件で、5分間〜180分間保持することによりタンニンを加水分解することを特徴とする飼料の製造方法。
【請求項2】
前記タンニンは、農産系廃棄物、食品系廃棄物のうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1に記載の飼料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−136679(P2010−136679A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316485(P2008−316485)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(500561517)株式会社小桝屋 (5)
【Fターム(参考)】