説明

餅様食品及びその製造方法、餅様食品製造用の粉末食品

【課題】従来からある餅の食感でもなく、また餅米粉を用いて作る白玉団子の食感でもない、新規な食感を有するとともに、長時間の加熱調理を経ても十分な食感を楽しむことができる餅様食品を提供すること。
【解決手段】本発明の粉末食品は餅様食品を製造するために用いられるものであって、主成分であるもち米粉と、アルファ化澱粉とを含有する。粉末食品中におけるもち米粉とアルファ化澱粉との含有質量比率は、100:1〜8である。粉末食品中に含まれるもち米粉の質量当たり100質量%〜130質量%かつ20℃の水を加えて均一に混合したときに、ゲル強度が100mN〜900mNの餅種が得られるように、粉末食品が設計されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な食感を有する餅様食品及びその製造方法、並びにそのような餅様食品を容易に製造するうえで好適な粉末食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
もちは日本古来からの伝統食品である。古くから、蒸した餅米を臼に入れて杵でつくといったいわゆる「もちつき」によって製造してきた。つきたてのもちをそのまま食す場合もあれば、乾燥したもちを焼く、煮る、などして食す場合もある。また、調理方法としては、焼いたもちに醤油や砂糖、きな粉などの調味料で味付けをして食す場合もあれば、汁粉、雑煮、鍋料理、うどん、お好み焼き等に入れて食す場合もある。このようにもちは様々な食シーンで活用されている。
【0003】
これら古来からの餅に加えて、様々な餅様食品、餅菓子、餅加工品が、従来数多く提案されてきた(例えば、特許文献1〜4を参照)。特許文献1には、うるち米、もち米及びα化うるち米を用いてなる餅様食品が提案されている。特許文献2には、もち米粉を含む穀粉と澱粉類からなる原料粉を用いた、焼成してなる餅菓子の製造法が提案されている。特許文献3には、餅米粉を含む穀粉とα−化澱粉、増粘多糖類及び水を含む生地でフィリングを包んだ食品の製造方法が提案されている。特許文献4には、未糊化粉と冷水糊化粉とからなる原料粉を用いた、焼成してなる焼き餅風焼成食品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−135011号公報
【特許文献2】特開2000−106825号公報
【特許文献3】特開2007−135486号公報
【特許文献4】特開平10−191911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜4で提案されている餅様食品、餅菓子、餅加工品やそれらの製造方法は、それぞれに求める効果を奏するものである。
【0006】
しかしながら、従来の餅や上記特許文献で提案されているような餅様食品、餅菓子、餅加工品にはない新規な食感(例えば従来からある餅の食感でもなく、また餅米粉を用いて作る白玉団子の食感でもない新規な食感)を有する餅様食品について、その登場を望む声が一部の消費者にある。ところで、一般的な餅は、煮る時間が少しでも長くなると(例えば、90℃〜100℃で5分以上)、餅が煮溶けてしまい、汁も濁ってしまうという難点がある。従って、新規な食感を有する餅様食品においても、そのような難点を解消して好ましい物性を付与することで、長時間の加熱調理後でもその食感を十分に楽しめるようにすることが望まれる。また、このような新規な食感を有する餅様食品については、容易に製造できることも併せて望まれる。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来からある餅の食感でもなく、また餅米粉を用いて作る白玉団子の食感でもない、新規な食感を有するとともに、長時間の加熱調理を経ても十分な食感を楽しむことができる餅様食品を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の餅様食品を容易に得ることができる製造方法を提供すること、及び、保存性等に優れるため上記の餅様食品を製造するうえで好適な粉末食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本願発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、もち米粉に、アルファ化澱粉を所定量混合した粉末食品に、所定量の水を混合することで、求める新規な食感(やわらかくもちっとして伸びる食感)と好ましい物性(長時間煮ても煮溶けない)とを有する餅様食品用の餅種が調製できることを知見した。そして、本願発明者らはこの知見に基づき、最終的に下記の課題解決手段[1]〜[8]を想到するに至ったのである。ここにそれらを列挙する。
【0009】
[1]主成分であるもち米粉と、アルファ化澱粉とを含有する粉末食品であって、該粉末食品中における両者の含有質量比率が100:1〜8であることを特徴とする餅様食品製造用の粉末食品。
【0010】
[2]該粉末食品中に含まれるもち米粉の質量当たり100質量%〜130質量%かつ20℃の水を加えて均一に混合したときに、ゲル強度が100mN〜900mNの餅種が得られるように設計されていることを特徴とする手段1に記載の餅様食品製造用の粉末食品。
【0011】
[3]もち米粉とアルファ化澱粉とが混合された状態で同一の包装体に充填されてなることを特徴とする手段1または2に記載の餅様食品製造用の粉末食品。
【0012】
[4]前記アルファ化澱粉は、該粉末食品の原料として用いたアルファ化もち米粉に由来することを特徴とする手段1乃至3のいずれか1項に記載の餅様食品製造用の粉末食品。
【0013】
[5]主成分であるもち米粉と、アルファ化澱粉とを質量比率100:1〜8の割合で含有する粉末食品を調製する粉末調製工程と、前記粉末調製工程で調整した粉末食品に、該粉末食品中に含まれるもち米粉の質量当たり100質量%〜130質量%の水を混合して、ゲル強度が100mN〜900mNである餅種を調製する餅種調製工程と、前記餅種調製工程で調製した餅種を成形する成形工程と、前記成形工程で成形した餅種を加熱して餅様食品とする加熱工程とを含むことを特徴とする餅様食品の製造方法。
【0014】
[6]前記加熱工程では、前記成形した餅種を煮ることで加熱することを特徴とする手段5に記載の餅様食品の製造方法。
【0015】
[7]前記加熱工程を経て製造された餅様食品のゲル強度が0.4N〜0.9Nであることを特徴とする手段5または6に記載の餅様食品の製造方法。
【0016】
[8]主成分であるもち米粉と、アルファ化澱粉とを原料として用い、かつゲル強度が0.4N〜0.9Nであることを特徴とする餅様食品。
【0017】
ここで、本発明の餅様食品は、上記特許文献1〜4で提案されている餅様食品、餅菓子、餅加工品や、もち米粉を用いて作る白玉団子と比較すると、食感や原料組成、餅種の物性、製造方法などの点で全く異なるものである。以下、それについて述べる。
【0018】
例えば、特許文献1で提案されている、うるち米、もち米及びα化うるち米を用いてなる餅様食品は、うるち米を主原料として用いている点で原料組成が全く異なる物である。そして、うるち米が主原料であることや、破断強度が2.0×10〜3.2×10N/m、付着性が1.3×10〜1.8×10J/m、硬さが3.0×10N/m〜4.0×10N/mという特徴からすると、本発明で求める餅様の食感はもっと軟らかいものであり、食感が全く異なるものである。さらに、上記餅様食品を作るための餅種の物性についても全く異なるものであると推察できる。
【0019】
特許文献2で提案されている、もち米粉を含む穀粉と澱粉類からなる原料粉を用いた、焼成してなる餅菓子は、原料粉以外の材料(糖質など)を必須要素とし、また原材料の水分含量が高い点で原料組成が全く異なる物である。具体的に、特許文献2の実施例に記載の原料組成にて液種を製造すると極めて軟らかいものであり、本発明の餅様食品の餅種とは全く異なる物性であり、本発明で求めるような成形ができないものである。そして、出来上がった焼菓子も本発明の餅様食品とは食感が全く異なるものである(後述の実施例にて検証)。その結果、食場面や用途が全く異なるものである。なお、特許文献4の焼成食品は、焼成を必須要件としたものであり、本発明のように長時間煮ても煮溶けないという課題を解決するものでない。
【0020】
特許文献3で提案されている、餅米粉を含む穀粉とα−化澱粉、増粘多糖類及び水を含む生地でフィリングを包んだ食品は、その生地はフィリングを包むためのものであるため用いる水分量が少なく、本発明の餅様食品の餅種に比べて極めて硬い物性の生地である。そして、その生地によって出来上がった食品は、本発明の餅様食品とは食感や用途が全く異なるものである。
【0021】
特許文献4で提案されている、未糊化粉と冷水糊化粉とからなる原料粉を用いた、焼成してなる焼き餅風焼成食品は、冷水糊化粉が原料粉の10%〜50%含まれている点で原料組成が異なるものである。その原料粉を用いて製造した生地は、本発明の餅様食品の餅種に比べて粘度が高いものであり、異なる物性を有する。そして、出来上がった焼成食品についても、本発明の餅様食品よりも硬い食感であり、全く異なる食感を有するものである。なお、特許文献4の焼成食品は、焼成を必須要件としたものであり、本発明のように長時間煮ても煮溶けないという課題を解決するものでない。
【0022】
次に、白玉団子と本発明の餅様食品とを比較する。白玉団子の一般的な作り方は、白玉粉に、白玉粉の約90%くらいの量の水を吸わせて生地を作り、団子状に成形してから煮ることで製造する。白玉団子は通常水分に乏しく、硬くぼそっとした食感であってもっちりした伸びるような食感は少ない。つまり、あくまでも団子であって、本願発明者らの求めるような食感からはほど遠い。また、白玉団子を作る際に水の量を増やして軟らかい団子を作ろう(つまり、餅様の食感に近づけよう)とすると、水の量を5%程度増やすだけでも生地がドロドロのソース状になってしまい成形できず、また食感としてももっちりした食感には至らずに、餅様食品と呼べるものには到底ならない。つまり、本発明の餅様食品は、原料に「もち米」を用いる点では従来の白玉団子と共通するものの、出来上がった食品の食感や用途は全く異なるものなのである。
【発明の効果】
【0023】
従って、請求項8に記載の発明によれば、従来からある餅の食感でもなく、また餅米粉を用いて作る白玉団子の食感でもない、もちっとした伸びるような食感を有し、上記特許文献1〜4で提案されている餅様食品、餅菓子、餅加工品とも全く異なる新規な食感を有する餅様食品を提供することができる。より具体的には、白玉団子よりも軟らかく、それでいてもちっとして伸びがある食感(噛んだときに伸びるような餅特有の歯ごたえのある食感)を有する餅様食品を提供することができる。また、鍋物に入れたり汁粉や雑煮などの調理に用いても、つまり長時間にわたって煮るような加熱調理を経ても餅のように煮溶けることがなく、十分な食感を楽しむことができる餅様食品を提供することができる。
【0024】
また、請求項5〜7に記載の発明によると、調整された所定の粉末を用いてこれに水を混合して餅種を調製し、さらに成形・加熱するだけで上記の餅様食品を容易に得ることができる製造方法を提供することができる。ゆえに、消費者において極めて便利なものとなり、従来に類を見ない簡便性を備えたものとすることができる。
【0025】
また、請求項1〜4に記載の発明によると、基本的に水分をほとんど含まない粉末食品であるため長期間(例えば2年間)保管することができるので取扱いやすく、従来の餅とは比較にならないくらい優れた保存性を有したものとすることができる。また、水を混合して餅種を調製し、さらに成形・加熱するだけで上記の餅様食品を容易に得ることができ、消費者において極めて便利なものとすることができる。さらに、水を混合して餅種を調製するにあたり、多少の水の量のブレがあっても成形性が大きく変動しないことから、家庭においても失敗することなく上記の餅様食品を製造することができる。よって、従来の白玉団子などでは成し得なかった簡便性を達成することができる。以上示したように、請求項1〜4に記載の発明によると、上記の餅様食品を製造するうえで好適な粉末食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を具体化した実施例1の評価結果を示す表(表1)。
【図2】実施例1の評価試験において各々の食感評価記号に対応した餅様食品を示す写真。
【図3】実施例1の評価結果を示す写真。
【図4】実施例2の評価結果を示す表(表2)。
【図5】実施例2の評価結果を示す表(表3)。
【図6】実施例2の評価結果を示す表(表4)。
【図7】実施例2の評価結果を示す写真。
【図8】実施例3の評価結果を示す表(表5)。
【図9】実施例4の評価結果を示す表(表6)。
【図10】実施例4の評価結果を示す写真。
【図11】実施例5の評価結果を示す表(表7)。
【図12】実施例5の評価結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
<もち米粉>
本発明に用いるもち米粉は、もち米を粉末状にした食品である。一般に、和菓子やおかき、せんべい、に用いるものである。特に種類に限定はなく、白玉団子製造用などとして市販されているものを用いることができる。なお、本発明においてもち米粉は、粉末食品における主成分として含有されている必要がある。即ち、もち米粉は、粉末食品中において最も質量的に多いもの(例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有されるもの)である必要がある。
【0029】
粉末の形状や粒度は特に限定はないが、粒が大きすぎるとアルファ化もち米粉などの粉末原料との混合性や、水への溶解性が悪くなり、餅様食品を製造したときにダマのような食感が残りやすい。そのため、粒度は500μm以下(目開き500μmメッシュパス)が好ましく、さらには300μm以下(目開き300μmメッシュパス)が好ましい。
【0030】
なお、ここで単に「もち米粉」と言うときは、アルファ化していないもち米粉を指し、「アルファ化もち米粉」と言うときは、アルファ化したもち米粉を指すものとする。
【0031】
<アルファ化澱粉>
本発明においては、アルファ化澱粉を用いることが必須である。アルファ化澱粉を用いずにもち米粉だけで餅様食品を製造しようとすると、溶解する水の量が白玉団子と同等レベルのときには、団子状の硬くぼそっとした食感の食品しか製造することができない。また食感を軟らかくするために溶解する水の量を増やすと、少量(5%程度)増やしただけでドロドロの生地となってしまい、求めるような餅様食品を製造することはできない。
【0032】
一方、アルファ化澱粉を所定量用いることで、もちっとした食感を有する餅様食品が製造可能となるだけでなく、もち米粉とアルファ化澱粉とを含有する粉末食品に混ぜる水の量が多少変化しても、餅様食品として問題のない品質のものが製造できるという利点がある。これは、白玉団子の生地を作るときのように水の量が少し変化するだけで物性が極端に変化してしまうものとは異なり、取扱い上非常に便利である。特に一般消費者が自ら粉末食品と水を混合して餅様食品を製造するような場合には、水の量を正確に測定しない(できない)場合もあるので、水の量が多少変化しても問題のない本発明の方法は極めて便利な方法であると言える。
【0033】
アルファ化澱粉としては、例えば、もち米澱粉、小麦粉澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉など従来公知の澱粉をアルファ化して得られるアルファ化澱粉を用いることができる。
【0034】
また、アルファ化澱粉を含む食品を用いることにより、粉末食品にアルファ化澱粉を含有させてもよい。例えばアルファ化もち米粉を原料として用いて、アルファ化もち米澱粉を粉末食品に含有してもよい。言い換えると、アルファ化澱粉は、粉末食品の原料として用いたアルファ化もち米粉に由来するものとしてもよい。さらに、これらのアルファ化澱粉やアルファ化澱粉含有組成物を複数選択して用いてもよい。
【0035】
ここで、アルファ化澱粉を含有させる方法としては、アルファ化もち米粉を用いることが最も好ましい。これは水と混合する工程の取扱いが便利であるからである。また、餅様食品の味、香り、色などに対して悪影響がないためである。他のアルファ化澱粉を使用すると、アルファ化もち米粉を用いた場合に比べて水の混合工程で早く粘度が上昇しやすく、均一に混合しにくくなるためである。また、餅様食品に対して、味、臭い、色などの影響を及ぼすこともあるためである。
【0036】
ここで、アルファ化澱粉を含有するのに好ましいアルファ化もち米粉について説明する。
【0037】
アルファ化もち米粉とは、もち米を水分存在下で80℃〜110℃程度に加熱する工程を経たことによりもち米がアルファ化(糊化)した状態のもち米粉を言う。ほぼ完全にアルファ化されたもち米粉(例えばアルファ化度が90%以上のもの、好ましくは95%以上のもの)を使用することが好ましいが、一部がアルファ化されたもち米粉を使用してもよい。
【0038】
ここで、アルファ化もち米粉の製造方法の一例を挙げる。まず、もち米を石臼などの装置により約0.5mm以下程度に微細化してもち米粉を製造する。製造したもち米粉を2倍量程度の水で溶いてもち米液を製造する。次いで、ドラムドライ装置にもち米液を通すことにより一気にもち米がアルファ化され、アルファ化された板状のもち米板が出来上がる(厚さ約0.1mm〜1mm程度)。このもち米板をミル(高速回転粉砕機)などによって粒最大径で0.1mm〜2mm程度(多くは粒最大径0.5mm以下)に微細化すると、アルファ化もち米粉が出来上がる。なお、ドラムドライ装置とは、例えば表面温度が160℃程度となっている円柱状の回転ドラム2本がクリアランス約0.5mmで隣り合わせに配置されており、前記クリアランスに乾燥させたい原料を通すことで一気に原料を加熱及び乾燥させる装置のことをいう。
【0039】
アルファ化もち米粉を用いる場合、形状や粒度は特に限定はないが、粒が大きすぎると(例えば500μm径以上)、もち米粉との混合性や、水への溶解性が悪くなり、餅様食品を製造したときにダマのような食感が残りやすい。そのため、粒度は500μm以下(目開き500μmメッシュパス)が好ましく、さらには300μm以下(目開き300μmメッシュパス)が好ましい。
【0040】
本発明の粉末食品においては、もち米粉が主成分として含有される一方でアルファ化澱粉はあくまで副成分として含有されること、つまりもち米粉よりも少ない量で含有されていることが必須となる。例えば、もち米粉の質量を100としたときに、アルファ化澱粉の質量が1質量%〜8質量%であることが好ましい。アルファ化澱粉の質量は、より好ましくは2質量%〜7質量%、さらには3質量%〜7質量%が好ましく、特には4質量%〜6質量%である。
【0041】
アルファ化澱粉の使用量が少なすぎると、それを用いない白玉団子と同様の問題がある。即ち、通常の白玉団子程度の水の量(例えば、もち米粉当たり90%程度)だと、硬くぼそっとした食感にしかならず伸びがないものになってしまう。水の量を増やしてやわらかい食感にしようとしても、水を少量(例えば5%程度)増やすだけでドロドロの生地となってしまい、求めるような餅様食品を製造することができなくなる。
【0042】
一方、アルファ化澱粉の使用量が所定量より多すぎると、餅種の粘度が必要以上に増加し、硬くボソボソした状態となるので成形性が悪くなってしまう。ここで、水の量を増やして餅種の成形性を向上させようとしても、出来上がった餅用食品は、食感がもちっとしたものにならずに、まったく伸びずに噛むとすぐにちぎれてしまうような食感となってしまう。
【0043】
<商品形態>
本発明の餅様食品を市場に提供する形態としては、もち米粉とアルファ化澱粉(例えば、アルファ化もち米粉)とが混合された粉末の状態で同一の包装体に充填された商品形態が想定される。このような形態の商品であれば、この商品の粉末食品と所定量の水とを混合するだけで容易にもちの素を調製でき、さらに煮る、焼くなどの加工をすることで容易に餅様食品を製造することができる。粉末食品を包装するための包装体の材質について特に限定されないが、粉末食品の乾燥状態を維持して保存性を高めるためには、水分透過性及び酸素透過性が一定値以下であることが好ましい。具体的にいうと、水分透過性については22cc/m・24h(40℃,90%RH)以下であることが好ましく、10cc/m・24h(40℃,90%RH)以下であることがより好ましい。酸素透過性については、30cc/m・24h(25 ℃,85%RH)以下であることが好ましく、5cc/m・24h(25 ℃,85%RH)以下であることがより好ましい。このような条件を満たす材料としては、例えば、ポリエチレン等の樹脂フィルムにアルミニウム等の金属を蒸着させたもの等が挙げられる。これによれば賞味期限を長期(2年程度)にすることが可能となる。また、金属層がなくても樹脂フィルムの厚さを厚くすることによっても、同等の機能を実現することが可能である。さらに、粉末食品の乾燥状態を維持して保存性を高めるために、包装材内に乾燥剤や脱酸素剤を入れておくことが好適である。
【0044】
本発明の餅様食品製造用の粉末食品が家庭用である場合、少量(例えば、80g〜200g程度)を個包装した商品形態とすることが好ましい。また、業務用、例えば外食店や給食センターなどで用いる場合には、例えば1kg〜20kg程度を個包装した商品形態とすることが好ましい。
【0045】
勿論、もち米粉とアルファ化澱粉(例えば、アルファ化もち米粉)とを別々に購入して所定量を混合して用いても同様の餅様食品を製造することができるが、手間がかかる分、先に混合されているような商品を提供することが好ましい。
【0046】
なお、もち米粉とアルファ化澱粉(例えば、アルファ化もち米粉)とを含有する粉末食品には、もち米粉、アルファ化澱粉の他に調味粉末(糖類、食塩など)や物性改良粉末(澱粉、増粘多糖類等)などを含有させることもできる。ただし、餅様の食感、味、香りを付与するためには、調味粉末は少量用いるか、または用いない方が好ましい。物性改良粉末も少量用いる程度がよいが、多く用いると相対的にもち米とアルファ化澱粉との含有量が少なくなるため、餅様の食感を阻害しかねない。よって、調味粉末や物性改良粉末は、合計で、好ましくは粉末食品当たり30質量%以下の量で用いるか、または用いない方が好ましい。
【0047】
<餅種の調製>
本発明における餅様食品を製造する場合、もち米粉とアルファ化澱粉(例えば、アルファ化もち米粉)とを含有する粉末食品を上記のように作製し(即ち粉末調製工程を行い)、得られた粉末食品に所定量の水を混合して餅種を製造する。この餅種の粘度が餅様の食感と成形性とを出すのに重要である。成形性の一つの指標としてゲル強度があり、本発明の餅種はゲル強度を100mN〜900mNとすることが必要である。この範囲よりもゲル強度の値が大きいと、餅種として硬すぎてしまいつくね状に成形するのが難しく、また、できる餅様食品は硬くぼそっとした食感になってしまう。一方、この範囲よりもゲル強度の値が小さいと、蜂蜜のように垂れてしまいうまく成形ができず、また、できる餅様食品の食感も伸びたうどん様のねっとりした食感となり、もちっとした伸びるような食感ではなくなってしまう。そのため、このゲル強度の範囲を目安にして餅種を調製することがよい。ゲル強度を300mN〜600mNとすると、食感においても成形性においてもより好ましいものとなる。
【0048】
なお、アルファ化澱粉を用いずにもち米粉と水とだけでもちの素を調製しようとしても、上記粘度範囲とすることは困難である。例えば、もち米粉当たり約90質量%の水で餅種を調製すると、ゲル強度が上記の数値に入ることはある(ただし、この場合も団子様の食感にはならず、求めるようなもちっとした食感は得られない)。この好適な粘度の数値範囲よりも水の量が5%以上変動した場合、物性が大きく変化してしまう。即ち、多すぎる場合にはドロドロになり成形ができないものとなってしまう。一方、少なすぎる場合にはボロボロの状態の餅種となってしまい、成形も困難になる。
【0049】
ここで、ゲル強度の測定方法を示す。ゲル強度の測定機器としては、YAMADEN社製のクリープメーター(RE2−3305S)を用いる。測定手順は、以下のとおりである。餅種を径40mm、厚さ15mmのシャーレの窪みへすりきりに入れる。クリープメーターのパラメータとして、プランジャの圧入速度を1mm/s、サンプル厚さを10mm、プランジャ形状を径8mmの丸型、ロードセルの規格を2Nに設定し、ゲル破断時の荷重を5箇所測定した値のうち、最大値及び最小値を一つずつ除いた3値の平均値を求め、これをゲル強度とする。
【0050】
なお、ボストイック粘度計という、「一定量の生地が一定時間の中で所定の傾斜をどれだけ流れるか」を測定する粘度測定器によって、本発明の餅種を測定してもよい。この場合の測定値は3分間で1mm〜50mm程度となる。
【0051】
餅種の調製における水の量は、もち米粉とアルファ化澱粉(例えば、アルファ化もち米粉)とを混合した粉末食品に含まれるもち米粉の質量当たり100質量%〜130質量%の水を混合することが好ましい。さらには、110質量%〜125質量%が好ましく、110質量%〜120質量%が最も好ましい。水が少なすぎると硬く粘度の高いもちの素になってしまい、それで製造した餅様食品は硬くぼそっとした食感になりやすい。一方、水が多すぎるとドロドロのもちの素になってしまい、蜂蜜のように垂れてしまいうまく成形ができず、また、食感も伸びたうどん様でありねっとりした食感となり、もちっとした伸びるような食感を感じにくい。
【0052】
なお、上記のように混合する水の量には制限があるものの、この幅の範囲内であれば多少量がばらついても餅種の成形を行うことができ、できあがる餅様食品も求めるようなもちっとした食感が確保できることも本発明の特徴でもある。つまり、消費者が正確に水の量を測り取ることができなかったとしても、餅様食品を製造することができるという極めて簡便なものになり得る。
【0053】
餅種の調製における水の温度は5℃〜60℃であることが好ましく、より好ましくは10℃〜30℃、さらに好ましくは15℃〜25℃である。これより低温の水を用いると、生地の老化が進み、ベータ化が進んで、硬い食感となってしまう。また、高温の水を用いると、もち米粉が糊化してしまい、混合や成形ができないものとなってしまう。また水質についても特に制限はなく、通常の水道水を用いれば十分である。
【0054】
なお、餅種には、もち米粉、アルファ化もち米粉の他に調味料(糖類、食塩、胡椒、果汁等)などをお好みで用いることもできる。ただし、餅様の食感、味、香りとするために、調味料は少量用いるか、または用いない方が好ましい。特に、水分を含む調味料は餅種の粘度に大きな影響を与えるため、水分を含む調味料を用いる場合には、その分使用する水の量を減らして所定の粘度範囲に入るように調製することが好ましい。
【0055】
具体的に餅種の調製作業の一例を記載すると、所定量のもち米粉とアルファ化澱粉とを一緒にビニール袋などに入れて上下するなどして均一に混合し、それをボールなどに移した後、所定量の水を少しずつ加える。家庭用の大きめのスプーン(例えば10cc程度)を用い、1秒1回転くらいのペースで約30秒かき混ぜることで、餅種を調整することができる。かき混ぜる道具やかき混ぜ時間は、調製したい量などにもよって適宜選択すればよい。かき混ぜ時間は短すぎると混ざらないし、長すぎると澱粉が破壊されて粘性が下がってしまう。1Lくらいの餅種をボールで調製する場合には、スプーンで30秒くらい(即ち30回くらい)かき混ぜるのが適当である。これが10秒〜20秒程度だと十分に混ざらないし、50秒であると粘性が下がり始めてしまう。また、かき混ぜには家庭でのお菓子作りなどに用いる泡だて器を用いてもよい。この場合はスプーンを用いる場合よりも少し短い時間(少ない回数)かき混ぜればよい。
【0056】
<成形・加熱工程>
もち米粉とアルファ化もち米粉とを混合した粉末食品に所定量の水を混合して製造した餅種は、成形して加熱することで餅様食品となる。
【0057】
成形工程は、つくねを切り出して成形するのと同様の方法で行うことがよい。例えばスプーンを2本使って、一方のスプーンで餅種を掬いながら成形し、もう一方のスプーンで餅種を掻き出しながら鍋などに落とし入れればよい。
【0058】
そして加熱工程にて、鍋などで成形された餅種を加熱することにより、餅様食品が完成する。加熱方法としては、上記工程で成形された餅種が全体的に加熱され、餅様食品になる方法であれば、特に制限はない。例えば、煮る、焼く、蒸すなど、一般的に食品の調理で用いられる加熱方法を採用できる。電子レンジによる加熱を採用することもできる。特に、本発明の餅様食品は、鍋や汁粉、雑煮などに入れて煮る(加熱する)場合に好適に用いられる。通常の餅では長時間煮ると煮溶けてしまう所、本発明の餅様食品は、煮溶けないにもかかわらず餅様の食感を有するという特徴があるからである。
【0059】
加熱時間は、例えば鍋を用いた加熱であれば、95℃〜100℃かつ3分〜5分程度で十分である。ただし、これ以上時間が長くても、硬くなりすぎたり、煮溶けたりするなどの弊害は生じない。これも本発明の餅様食品の特徴である。煮るときの温度は上記の温度に限らず、およそ80℃以上の温度であれば時間を調整することで餅様食品を製造することができる。例えば、90℃であれば10分程度、80℃であれば20分程度加熱すればよい。
【0060】
なお、加熱工程においては、餅種を水(湯)で煮ることも勿論できるが、汁粉や鍋料理の中に入れて調理しながら加熱することもできる。
【0061】
上記のように餅種を煮ることにより製造した餅様食品について、餅種と同様の方法でゲル強度を測定すると0.2N〜1.0Nとなる。これは餅様食品の軟らかさの一つの指標となる。ゲル強度がこれより高いと餅様にしては硬めであるし、これより低いと軟らかすぎる感がある。ただし、餅様食品の食感はゲル強度のみでは表現できないため、ゲル強度がこの範囲内であっても、ぼそっとしていたり、もちっと伸びる食感が感じられないなど、食感として好ましくない場合もあり得る。つまり、ゲル強度は必要十分条件ではない点に注意が必要である。
【0062】
完成した餅様食品は通常の餅と同様にどんな食べ方をしてもよい。醤油や砂糖、きな粉、大根おろし、またはこれらを組み合わせて食べることもできるし、汁粉や鍋料理、うどんなどに入れて食べることもできる。
【0063】
以下、本発明をより具体化した実施例を示すが、本発明は勿論これに限定されるわけではない。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
もち米粉とアルファ化澱粉とを用いて餅種及び餅様食品を製造した場合について、アルファ化澱粉と水の量とを変化させた様々なパターンで試作を行った。なお、本実施例ではアルファ化澱粉の由来として、アルファ化もち米粉を用いた。
【0065】
(1)餅種の調製
まず、もち米粉80gとアルファ化もち米粉(表1に示す量)とを、3Lのビニール袋に入れてよく混合したものを用意した。なお、アルファ化もち米粉中のアルファ化澱粉含量は約80質量%であり、表1にはアルファ化澱粉含量も記載した。
【0066】
上記工程で混合した粉末をボールにあけ、表1に示す量の水(20℃)を投入して、家庭用の大きめのスプーン(約10cc)を用い1秒1回転くらいのペースで約30秒、混合して餅種を調製した。
【0067】
(2)餅種の評価
できた餅種について、まずクリープメーターでゲル強度を測定した。その後、実際にスプーンを用いて成形性があるか否かを評価した。
【0068】
成形性の評価方法は、2つの通常の家庭用の大きめのスプーン(約10cc)を用い、丸い部分を使って、交互につくね状の生地を成形することを試みた。つくね状の餅種のサイズは、約30mmの球状から楕円形状とした。
成形性の評価は下記のような記号で表現した。その結果を表1に示す(図1参照)。
◎:スプーンで掬い取ることができ、成形しようとしても垂れ落ちることなく、2本のスプーンで容易につくね状の餅種を成形できる。
□:◎と比べて若干硬すぎるため掬い取り難く、スプーンでの成形が若干やりにくい状態。ただし、許容できる範囲。
○:◎と比べて若干軟らかくスプーンでの成形が若干やりにくい状態。ただし、許容できる範囲。
△:硬くぼそぼそとしており、つくね状に成形できない。
×:ダラダラな蜂蜜状で掬い取ることができないか、成形しようとするとスプーンの上で保持できず、垂れてしまう。
【0069】
(3)餅様食品の製造と評価
まず、家庭用のステンレス鍋(直径22cm)にて約2Lの水を沸かして、95℃〜100℃の熱湯を用意する。弱火で温度を保った状態で、そのなかに(2)で成形した餅種を落とし入れ、約3分間加熱後おたまで掬い上げた。
【0070】
ただし、上記(2)の中で餅種があまりにも軟らかすぎて全く成形ができなかったもの(成形性×評価の一部)は餅様食品として問題外であったため、餅様食品の製造対象から除いた(評価欄にNDと記入)。
【0071】
上記のように製造した餅様食品について、実際に食して食感を評価するとともに、クリープメーターでゲル強度を測定した。
【0072】
食感の評価は下記のような記号で表現した。その結果を表1に示す(図1参照)。また、図2には下記のそれぞれのものに対応した餅様食品の写真を示す。
◎:軟らかくもちっとして伸びがある食感。
□:◎と比べて若干硬めだが許容できる範囲。
○:◎と比べて若干伸びが少ないが許容できる範囲。
△:ぼそっとした団子状の硬い食感。
×:伸びたうどん様のねっとりした食感。
【0073】
なお、表1の小さな太枠内は細枠によって4つのマスに仕切られており、それらのマスの中には4つの評価が記載されている。即ち、左上のマスには「餅種のゲル強度(mN)」、右上のマスには「餅種の成形性の官能評価」、左下のマスには「餅様食品のゲル強度(N)」、右下のマスには「食感の官能評価」が示されている。
【0074】
(4)考察
表1より以下のことがわかった。
【0075】
アルファ化澱粉(本実施例ではアルファ化もち米粉由来)を用いないか、少量だけ用いる場合(もち米質量の1質量%未満)は、餅種の成形性が悪いか、またはできた餅様食品の食感が満足するものとならないことがわかった。即ち、水の量がもち米質量の90質量%だと、成形性が悪く(成形性△)、またできた餅様食品もぼそっとした団子状の食感(食感△)にしかならない。そして、水の量を95質量%まで増やすと、成形性は多少改善されてくるが(成形性□)、食感は改善されない(食感△)。
【0076】
アルファ化澱粉を用いていないものは、水の量を100質量%まで増やすと、餅種が成形できないくらいまで一気に軟らかくなり、蜂蜜状になってしまう(成形性×)。ちなみに、図3には加水率を95質量%、100質量%、110質量%としたときの餅様食品の写真を示す。
【0077】
アルファ化澱粉を少量だけ用いる場合(もち米質量の1質量%未満)は、水の量が100質量%までは95質量%のときと似たような物性(成形性□、食感△)を示す。しかし、水の量が110質量%になると、餅種が若干軟らかくなりかけ(成形性○)、餅様食品の食感としては、すでにうどん様の食感になってしまう(食感×)。水の量が120質量%以上になると、餅種の成形性は著しく悪くなり(成形性×)、食感も悪くなってしまう(食感×)。
【0078】
アルファ化澱粉(本実施例ではアルファ化もち米粉由来)をもち米質量の1質量%〜8質量%用い、かつ、水の量をもち米質量の100質量%〜130質量%としたときに、餅種として成形がしやすく、かつ、できた餅様食品も軟らかい上にもちっとした伸びがある食感になることがわかった(表1における薄い網掛け部分及び濃い網掛け部分)。なかでも、アルファ化澱粉含量はもち米質量の3質量%〜7質量%が好ましく、加水量はもち米質量の110質量%〜120質量%が好ましいこともわかった(表1における濃い網掛け部分)。
【0079】
しかし、アルファ化澱粉を適量(もち米質量の1質量%〜8質量%)用いた場合でも、加水量が100質量%未満であると、成形性が悪く(成形性△)、またできた餅様食品もぼそっとした団子状の食感(食感△)にしかならない。一方、加水量が130質量%を超えると、餅種が軟らかくなってしまうか(成形性×)、成形性が許容範囲内(成形性○)でも、うどん様のねっとりした食感になってしまうこともわかった。
【0080】
そして、アルファ化澱粉(本実施例ではアルファ化もち米粉由来)をもち米質量の8質量%を超える量まで多く用いると、餅種の成形性が悪いか(成形性△または×)、および/またはできた餅様食品の食感が満足いくものとはならない(食感△または×)ことがわかった。即ち、水の量がもち米質量の120質量%以下だと、餅種が硬く成形性が悪い(成形性△)ものとなってしまい、またできた餅様食品もぼそっとした団子状の食感(食感△)にしかならない。そして、水の量を130質量%まで増やすと成形性は多少改善されてくるが、食感は改善されない(食感△)。さらに、水の量を140質量%まで増やすと、餅様食品の食感がうどん様のねっとりした食感になってしまい(食感×)、水の量を150質量%以上とすると、餅種が成形できないくらいまで一気に軟らかくなってしまう(成形性×)ことがわかった。
【0081】
上記の結果より、もち米粉、アルファ化澱粉(本実施例ではアルファ化もち米粉由来)、水、の3つの量が絶妙にバランスしたときに、初めて餅種の成形性がよく、できた餅様食品が「やわらかく、それでいてもちっとして伸びがある食感」を有するものになることがわかった。
【0082】
また、アルファ化澱粉を用いない場合には、加水量が少し上下するだけで餅種の物性が大きく振れてしまうという餅様食品製造上の取り扱い難しさという欠点があるところ、アルファ化澱粉を適量含有することで加水量の適量範囲が広がって前記欠点を解消できることも確認できた。その結果、餅様食品を作るための粉末食品をユーザー(特に一般消費者)が使用して餅様食品を作ろうとする場合の取り扱い性を格段に向上することができるのである。
【0083】
[実施例2]
本実施例では、アルファ化もち米粉以外の穀物粉末に由来するアルファ化澱粉を用いて餅様食品を製造した場合について、粉末原料と水の量とを変化させた様々なパターンで試作を行った。その結果を図4〜図7に基づいて説明する。
【0084】
図4の表2は、アルファ化もち米粉の代わりに、アルファ化ワキシーコーンスターチを用いた場合について示している。ここでは、水の量(即ち加水率)を95質量%、110質量%、140質量%に設定するとともに、もち粉あたりのアルファ化でん粉含有率を0質量%、0.5質量%、4質量%、10質量%に設定している。
【0085】
図5の表3は、アルファ化もち米粉の代わりに、アルファ化タピオカでん粉を用いた場合について示している。ここでも、水の量(即ち加水率)を95質量%、110質量%、140質量%に設定するとともに、もち粉あたりのアルファ化でん粉含有率を0質量%、0.5質量%、4質量%、10質量%に設定している。
【0086】
図6の表4は、上記2つのものとの比較のために、アルファ化もち米粉を用いた場合について示すものであって、表1から対応する区分のデータを抜粋したものである。図7の写真は表4のデータに対応するものである。
【0087】
そして、これらについて実施例1と同じ方法で比較評価を行ったところ、いずれの試験区においても、水の量を110質量%に設定し、もち粉あたりのアルファ化でん粉含有率を4質量%に設定したときに好ましい物性が得られることがわかった。しかしながら、アルファ化ワキシーコーンスターチを用いた試験区、アルファ化タピオカでん粉を用いた試験区では、食感の官能評価が◎である一方、餅種の成形性の官能評価が○にとどまった。これに対して、アルファ化もち米粉を用いた試験区では、食感の官能評価も餅種の成形性の官能評価も◎となった。ゆえに、三者を比較した場合、アルファ化もち米粉を用いたときに最も好適な物性が得られることがわかった。
【0088】
[実施例3]
本実施例では、実施例1にて作製した餅種を用い、これを焼いて餅様食品を製造した場合について、粉末原料の量を変化させた4つのパターンで試作を行った。即ち、ここでは、粉末原料80gに対し110質量%の加水を行い、これを180℃のホットプレートで焼いた。もち粉あたりのアルファ化でん粉含有率は、0質量%、1質量%、4質量%、10質量%に設定した。その結果を図8の表5に示す。これによると、やはり4質量%に設定したときの結果が最もよく、焼いた餅様食品においても同様の傾向が見られた。
【0089】
[実施例4]
本実施例では、上記引用文献2に記載の方法で餅種を製造し、実施例1のものとの比較を行った。その結果を図9の表6に示す。またこの餅種を焼いたときの物性についても比較した。それによると、上記引用文献2に記載のものにおいては、餅種の生地が蜂蜜状であり、実施例1のものとは物性が全く異なっていた(図10の写真を参照)。従って、これを焼くと非常に薄いクレープ状になってしまい、所望とする物性が得られないことがわかった。これに対して、実施例1のものでは、餅種の段階では、マスカルポーネチーズ状(生クリームの密度が高い状態)となることが特徴的であった。また、このような餅種はある程度粘度が高いため、これを焼いたものは、少なくともクレープ状に薄くなることはない。なお、焼いた後の破断強度の値は、上記引用文献2に記載のものは1.3N(一般の餅と同等)、実施例1のものは0.1N〜0.9Nであった。ゆえに、実施例1のものは、一般の餅よりやわらかい食感となり、明らかに上記引用文献2に記載のものとは異なることがわかった。
【0090】
[実施例5]
本実施例では、上記引用文献3に記載の方法で餅種を製造し、実施例1のものとの比較を行った。その結果を図11の表7に示す。またこの餅種を煮たときの物性及び焼いたときの物性についても比較した。それによると、上記引用文献3に記載のものの場合、加熱前の餅種の状態で加水率が85質量%であり、非常に低い値であったため、成形性も悪かった。そして、この餅種を焼くと、ボロボロで一部が剥がれ落ちやすい餅様食品が得られ、実施例1のものと物性が全く異なっていた(図12の左側の写真を参照)。
【0091】
また、このボロボロの餅種を煮て得られる食品は、非常に硬くて、引っ張っても中々ちぎれないものとなってしまい(図12の中央及び右側の写真を参照)、所望とする物性が得られないことがわかった。ゆえに、実施例1のものと物性が全く異なることは明らかであった。
【0092】
[結論]
上記実施例において説明したように、本発明によれば、従来からある餅の食感でもなく、また餅米粉を用いて作る白玉団子の食感でもない、もちっとした伸びるような食感を有し、上記特許文献1〜4で提案されている餅様食品、餅菓子、餅加工品とも全く異なる新規な食感を有する餅様食品を提供することができる。より具体的には、白玉団子よりも軟らかく、それでいてもちっとして伸びがある食感(噛んだときに伸びるような餅特有の歯ごたえのある食感)を有する餅様食品を提供することができる。また、鍋物に入れたり汁粉や雑煮などの調理に用いても、つまり長時間にわたって煮るような加熱調理を経ても餅のように煮溶けることがなく、十分な食感を楽しむことができる餅様食品を提供することができる。また、本発明の製造方法によると、調整された所定の粉末を用いてこれに水を混合して餅種を調製し、さらに成形・加熱するだけで上記の餅様食品を容易に得ることができる。さらに、本発明の餅様食品製造用の粉末食品によれば、従来品が成し得なかった優れた保存性や簡便性を達成できることから、上記の餅様食品を製造するうえで好適なものとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分であるもち米粉と、アルファ化澱粉とを含有する粉末食品であって、該粉末食品中における両者の含有質量比率が100:1〜8であることを特徴とする餅様食品製造用の粉末食品。
【請求項2】
該粉末食品中に含まれるもち米粉の質量当たり100質量%〜130質量%かつ20℃の水を加えて均一に混合したときに、ゲル強度が100mN〜900mNの餅種が得られるように設計されていることを特徴とする請求項1に記載の餅様食品製造用の粉末食品。
【請求項3】
もち米粉とアルファ化澱粉とが混合された状態で同一の包装体に充填されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の餅様食品製造用の粉末食品。
【請求項4】
前記アルファ化澱粉は、該粉末食品の原料として用いたアルファ化もち米粉に由来することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の餅様食品製造用の粉末食品。
【請求項5】
主成分であるもち米粉と、アルファ化澱粉とを質量比率100:1〜8の割合で含有する粉末食品を調製する粉末調製工程と、
前記粉末調製工程で調整した粉末食品に、該粉末食品中に含まれるもち米粉の質量当たり100質量%〜130質量%の水を混合して、ゲル強度が100mN〜900mNである餅種を調製する餅種調製工程と、
前記餅種調製工程で調製した餅種を成形する成形工程と、
前記成形工程で成形した餅種を加熱して餅様食品とする加熱工程と
を含むことを特徴とする餅様食品の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程では、前記成形した餅種を煮ることで加熱することを特徴とする請求項5に記載の餅様食品の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程を経て製造された餅様食品のゲル強度が0.4N〜0.9Nであることを特徴とする請求項5または6に記載の餅様食品の製造方法。
【請求項8】
主成分であるもち米粉と、アルファ化澱粉とを原料として用い、かつゲル強度が0.4N〜0.9Nであることを特徴とする餅様食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−16299(P2012−16299A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154264(P2010−154264)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(301058355)株式会社ミツカン (32)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】