説明

養殖魚用飼料

【課題】 養殖魚の鮮度保持期間を延長する養殖魚用飼料を提供する。又、養殖魚のうま味を増強しつつ、栄養品質、特に脂肪組成を改善する養魚用飼料を開発・提供する
【解決手段】養魚用飼料に、梅干の製造過程で複製する梅酢の濃縮物(可溶性固形分含量が60%〜80%)を0.01〜3%添加・配合して給与することによって、魚の鮮度保持効果が大幅に改善されること、又、養殖魚のうま味が増強される一方、脂肪組成が大幅に減少し、人の栄養改善の方向に顕著に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、梅酢の濃縮物である脱塩濃縮梅酢を添加した養魚用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
梅干の生産過程において大量に複製する梅酢は、多種多様な有益な物質を含有しているにも拘らず、その有効利用方法は未開発であり、多くはそのまま廃棄されているのが実状である。梅酢は多量の食塩を含有するために、僅かな例を除き、残念ながらこれを除去・処理するために要するコストを吸収するに見合う用途が未だ見いだされていない。
【0003】
この梅酢の利用方法としては、梅酢をイオン交換膜電気透析法により脱塩し濃縮したものに食塩を添加して梅塩を製造する方法(特開平11−42065号公報)、梅酢又はその濃縮物を入浴剤、調味料、化粧水として利用する方法(特開2001−226256号公報)、梅酢濃縮物を鶏に与えて、卵殻質の改善を図る方法(特開2005−73651号公報)などが知られているに過ぎない。
【0004】
又、養殖魚の鮮度保持改善用の飼料として、糖及び糖アルコールを添加した飼料(特開平11−18690公報)、ステビアを添加した飼料(特開2001−161281号公報)、ポリフェノールと乳化剤、ビタミン及び油脂を含有する飼料(特開2000−270785号公報)などを含め、多数知られているがいずれも一長一短である。
然しながら、梅干の生産過程において大量に複製する梅酢を脱塩・濃縮した脱塩濃縮梅酢を幼魚に給与して飼養した、養殖魚の日持ち、鮮度が極めて長期間保持できること、栄養的にも大幅に改善が見られるという効果が齎されるということは全く知られていない。
【特許文献1】特開平11−42065号公報
【特許文献2】特開2001−226256号公報
【特許文献3】公報特開2005−73651号
【特許文献4】特開平11−18690号公報
【特許文献5】特開2001−161281号公報
【特許文献6】公報特開2000−270785号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、上記の如き問題点に鑑みてなされたものであり、養殖魚の鮮度保持期間を延長し、又、養殖魚の品質を改善し、栄養効果を改善する養殖魚用飼料を開発・提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、養殖魚用飼料に、梅酢濃縮物である脱塩濃縮梅酢を添加して給与することによって、魚の鮮度保持効果が大幅に改善されること、又、養殖魚の脂肪組成が栄養改善の方向に顕著に変化し、尚且つうま味も向上することを見出し、これらの結果にもとづいて本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明において、養殖魚用飼料に脱塩濃縮梅酢を添加して給与することによって、養殖魚の鮮度の保持期間が大幅に延長され、所謂日持ちのよい生魚が得られる。又、養殖魚用飼料に脱塩濃縮梅酢を添加して給与・養殖した魚の脂肪組成が、本発明の飼料を給与しない養殖魚に比べて、その粗脂肪含有率が高いにも拘わらず、総脂質としては少ない、所謂栄養面で改善され、更には、うま味も向上するという顕著な効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を実施するに当って用いられる、脱塩濃縮梅酢とは、梅干の生産時に複製される梅酢を、必要に応じて適宜遠心分離等で不溶性物質を除去した後、真空乃至減圧濃縮、過熱濃縮し、通常の電気透析処理して脱塩・濃縮して得られるものであり、通常可溶性固形分含量が50%〜80%であり、水分含量が20〜50重量%程度である。特に水分20〜40%のものが扱いに便利である。固形分70%のものが商品名「黒梅酢70」の名前で株式会社紀州ほそ川から入手可能であり、使いやすい。
【0009】
本発明においては、この脱塩濃縮梅酢を1日摂取量が、魚種及び魚齢によってばらつきはあるが、通常の市販養殖魚用飼料当たり0.01〜3重量%添加混合したものを給与する。通常、飼料要求率としては、魚体重に対して、2〜3重量%給与する。通常不断給与する。
通常飼料に添加されるビタミン混合物、ビタミン・ミネラル混合物等と共に混和した、飼料添加物のような形で配合してもよい。
【実施例】
【0010】

以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
和歌山県東牟婁郡串本町大島216−1の紀州梅まだい組合の養漁場において、次の養殖試験4試験区併行して行った。平成18年1月20日、縦2m×横2m×深さ2.5mの金網の生簀内に平均体重約300gの真鯛稚魚20尾宛を放ち、飼育を開始した。
本発明区1、2区及び3区の真鯛には、日本配合飼料株式会社製まだい育成用飼料「鯛ハイウエーEPスター」に予め株式会社紀州ほそ川製「黒梅酢70」(脱塩濃縮梅酢)を各0.1%、0.3%、0.5%(何れも重量で、以下も同様)を添加混合したものを給餌、2月28日まで飼育した。一方、対照区には、「黒梅酢70」無添加飼料、即ち市販飼料そのままを給与、飼育した。給餌方式は、3日給餌、1日休みの繰り返しで給餌し、給餌の日は随意に摂食させた。したがって、栄養的には、充分量の餌料を給与した。又、真鯛の成長に合わせて小割りの中が過密にならないように、グループを分割調整して飼育した。試験期間中の飼料消費量は、1尾当たり、1.8〜3kgを食い、約1kgに成長した。まだい育成用飼料「鯛ハイウエーEPスター」の成分割合を表1に、原材料配合割合を表2に示した。
飼育期間中の平均水温は14.4度〜16.9度(毎日午前10時測定)であった。脱塩濃縮梅酢:「黒梅酢70」の成分組成を表3に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
【表2】

【0013】
【表3】

【0014】
1月31日、常法により、各区から魚をサンプリングし〆をし、1日後、3日後及び6日後の筋肉のK値を測定した。結果を表4に示した。試験区においてはK値、即ちヒポキサンチン及びイノシンの蓄積割合が対照区に比べて大幅に少なく、試験区の魚の鮮度保持が強いことが示されている。
【0015】
【表4】

【0016】
併せて、まだいの切り身について常法により分光分析計を用いてTBARS値を測定した。TBARS値は、保存中における食肉の鮮度の変化を表す赤色度であるメトミオグロビン形成割合を示す筋脂質中における2-チオバルビツール酸反応物質である。TBARS値の測定結果を表5に示した。表5に示したように、本発明である試験区のTBARS値は、対照区に比べ大幅に小さく、魚の鮮度保持効果が極めて明瞭に窺われる。
【0017】
【表5】

【0018】
又、成育真鯛の切り身100g中の栄養成分分析結果を表6に示した。表6から明らかなように、試験区においては脂質含量が大幅に減少し、炭水化物が増加しており、本発明によって得られる鯛の栄養価が通常鯛のそれと大きく異なり、低脂質で且つ美味な養殖魚である。
尚、本発明で得られる真鯛の呈味試験を地元梅まだい組合所属の味覚感度高位者10名にテストさせたところ何れも試験区の鯛に比し遥かに美味であるとの返答を得た。
【0019】
【表6】

【0020】
実施例2
実施例1と平行して、シマアジの稚魚20尾宛について同様の方法で、飼育を行った。1月31日にサンプリングを行い、試験に供した。まだい育成用飼料「鯛ハイウエーEPスター」に「黒梅酢70」を0.3%添加区のシマアジの切り身100g中の栄養成分分析結果を表7に示した。
【0021】
【表7】

【0022】
表7から明らかな如く、シマアジにおいては、本発明の脂質含量の減少効果は著しく高く、一方うまみ成分の増加が高く、良栄養、高呈味のシマアジが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩濃縮梅酢を含有する養殖魚用飼料。
【請求項2】
可溶性固形分含量が50%〜80%である脱塩濃縮梅酢を0.01〜3重量%量含有する請求項1記載の養殖魚用飼料。
【請求項3】
脱塩濃縮梅酢を含有する養殖魚の鮮度保持改善用養殖魚用飼料。

【公開番号】特開2008−206501(P2008−206501A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49140(P2007−49140)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り パンフレット「紀州梅まだい」、紀州梅まだい組合発行
【出願人】(596033174)株式会社紀州ほそ川 (9)
【出願人】(507066493)有限会社岩谷水産 (3)
【Fターム(参考)】