説明

養液の除菌濾過装置

【課題】養液を除菌濾過でき、濾過した養液中の汚れを洗浄して濾過槽から排出できる、構成が簡易で安価な養液の除菌濾過装置を提供する。
【解決手段】濾過槽21に給水される養液は、除菌濾過層28の上面に積層された濾過層で養液中の被濾過物の除去を行った後、除菌濾過層28で無機系抗菌剤と養液中の病原菌との接触による除菌処理が行われる。いわゆる逆洗する際には、濾過層29がセラミックス粒子よりも軽い比重のシリカで形成されているから、この逆洗処理により該濾過層29のシリカが容易に層状分離して被濾過物を攪拌浮遊させ、上部の給排水口22から流出させることができる。いわゆる逆洗時に上部通水配管9の通水口23から同時に通水することにより、逆洗処理で攪拌浮遊される被濾過物を効率的に流出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培に用いられる養液の除菌濾過装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
養液栽培は、ウレタンマットやロックウールといった固形培地を用いて農作物の栽培を行い、生育に必要な栄養分を水に肥料を溶かした液体肥料として与えて栽培する方法である。この栽培方法は、給液や施肥量を人為的に管理することで収穫量や品質の安定した作物の生産ができ、肉体的な労働も軽減できるため近年広く普及している。また、養液を栽培システム内で繰り返し利用できる循環系にすることで肥料や水の利用効率を高め、環境負荷を軽減することができる。
【0003】
しかし、特に養液を循環させる栽培システムなどでは、水を媒体として感染する病原菌が混入すると、養液の循環とともに被害が広範囲に及んでしまうという問題点がある。そのため、養液栽培での養液処理においては、被濾過物の物理的除去と同時に、養液中の病原菌の除菌処理を行う必要がある。
【0004】
水中の汚れと微生物を濾過除菌する従来技術として、特開平10−192866号公報に、撹拌凝集濾過処理、抗菌吸着処理、不活性化処理を一つの濾過装置内で行う除菌濾過装置が開示されている。さらに、特開平11−347318号公報に、除菌効果のある薬剤を間接的な操作で的確に投入できる浴水循環濾過装置が開示されている。
【0005】
しかしながら、特開平10−192866号公報の除菌濾過装置は、長期使用すると濾過材が目詰まりし、効率的な濾過が行えなくなる。このため、濾過材に付着した被濾過物を取り除くための、濾過経路と逆向きに洗浄水を通水するいわゆる逆洗作業が必要になる。また、特開平11−347318号公報の浴水循環濾過装置は、凝集剤や殺菌性のある薬剤を水中に添加するため、養液栽培に用いると養液の成分や栽培物の根部への影響が考えられ、養液栽培での使用は不向きである。
【0006】
上記逆洗機能を有する濾過装置の従来技術として、特開2004−160432号(特許第3959036号)に開示される濾過装置のように、濾過砂洗浄装置を濾過槽の内部に組み込んで、濾過砂を濾過槽の内部に収容したまま短時間で効率よく洗浄できるようしたものがある。
【0007】
しかしながら、上記特開2004−160432号の濾過装置は、濾過槽の内部にスクリューコンベアを垂直に配置し、スクリューコンベアを回転しながら濾過砂を洗浄するものであるため、機械構成が大規模で複雑となり高価となる等の問題点がある。
【特許文献1】特開平10−192866号公報
【特許文献2】特開平11−347318号公報
【特許文献3】特開2004−160432号(特許第3959036号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、主に養液栽培に用いられる養液を除菌濾過するとともに、濾過した養液中の汚れを洗浄して濾過槽から排出できるようにした、構成が簡易で安価な養液の除菌濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に記載の養液の除菌濾過装置は、濾過槽の上部と下部にそれぞれ切替えによって給排水可能な配管を設け、前記濾過槽内に開口する上下の給排水口の間に複数の濾過層を積層して、最下層となる濾過層は銀を利用した抗菌成分の溶出量が50ppb以下である無機系抗菌剤を含むセラミックス粒子から形成した除菌濾過層とし、該除菌濾過層より上層の濾過層は前記セラミックス粒子よりも軽い比重の濾過材で形成して、前記上部の給排水口から給水した養液を、前記2層の濾過層に通した後前記下部の給排水口から排水して養液の除菌濾過を行うとともに、前記下部の給排水口から通水する洗浄液を前記複数の濾過層に通して前記上部の給排水口から排出することにより、前記濾過層を洗浄できるようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の養液の除菌濾過装置は、請求項1に記載の構成において、前記濾過槽に前記上部の給排水口と同じ高さで対向する通水口を形成し、前記下部の給排水口から洗浄液を通水する洗浄時に、前記通水口から同時に通水することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の養液の除菌濾過装置は、請求項2に記載の構成において、前記通水口を水平面内において角度を付け、前記上部の給排水口から排出される洗浄液に旋回流が生じるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の養液の除菌濾過装置によれば、濾過槽に積層された複数の濾過層のうち最下層の濾過層を、銀を利用した抗菌成分の溶出量が50ppb以下である無機系抗菌剤を含むセラミックス粒子から形成した除菌濾過層としたから、該濾過層より上層の濾過槽で養液中の被濾過物の除去を行った後、除菌濾過層で無機系抗菌剤と養液中の病原菌との接触による除菌処理が行われる。そして、給排水配管の切替えにより、下部の給排水口から通水した洗浄液を上部の給排水口から排水して洗浄するいわゆる逆洗する際には、除菌濾過層より上層の濾過層がセラミックス粒子よりも軽い比重の濾過材で形成されているから、逆洗処理により該濾過層の濾過材が容易に層状分離して被濾過物を攪拌浮遊させ、上部の給排水口から流出させることができ、いわゆる逆洗機能を有する構成が簡単でメンテナンスが容易な養液の除菌濾過装置を安価に提供できる。
【0013】
請求項2に記載の養液の除菌濾過装置によれば、下部の給排水口から通水した洗浄液を上部の給排水口から排水して洗浄するいわゆる逆洗時に、濾過槽に形成した上部の給排水口と同じ高さで対向する通水口から同時に通水するもので、逆洗処理により攪拌浮遊する被濾過物を効率的に流出させることができる。
【0014】
請求項3に記載の養液の除菌濾過装置によれば、通水口を水平面内において角度を付け、上部の給排水口から排出される洗浄液に旋回流が生じるようにしたから、逆洗処理により攪拌浮遊する被濾過物を旋回流に乗せてより効率的に流出させることができる。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例について添付図面を参照して説明する。図1は、養液の除菌濾過装置1の概略を示した模式図である。養液タンク2内の養液は、配管3と配管4により、除菌濾過装置1を経由して循環する。配管3には給水ポンプ5と流量計6が介装されている。また、切替弁7を介していわゆる逆洗時の洗浄水を排水する排出配管8が設けられている。さらに、除菌濾過装置1には、配管3に対向する上部通水配管9が設けられている。配管4には、切替弁10を介して下部通水配管11が設けられている。上部通水配管9及び下部通水配管11には、図示しない給水ポンプが介装されている。
【0016】
図2は、除菌濾過装置1の濾過槽21を縦断して示した模式図である。濾過槽21の上部に接続された配管3は、濾過槽の略中心まで水平に延び、端部が直角に屈曲して給排水口22が上向きに開口している。また、濾過槽21にはこの配管3と略同じ高さに通水口23を対向させた上部通水配管9が水平に設けられている。そして、濾過槽21の下部に接続された配管4は、給排水口24が真横に開口している。
【0017】
濾過槽21には、配管4の給排水口24の直ぐ上の位置で仕切り板25が水平に設けられている。仕切り板25には、複数の通水孔26が穿設されている。各通水孔26には、セラミックス粒子を担持するメッシュ27が設けられている(図3参照)。仕切り板25により、銀を利用した抗菌成分の溶出量が50ppb以下である無機系抗菌剤を含む粒径2〜4mmのセラミックス粒子からなる除菌濾過層28が形成されている。この除菌濾過層28の上面に粒径0.5mm以下のシリカを充填した濾過層29が積層されている。この濾過層29の上面の位置は、配管3及び上部通水配管9よりも下方となっている。
【0018】
上記した上部通水配管9は、図4に示すように先端部を直角に屈曲して通水口23を真横に向けることもできる。これにより、逆洗時の通水口23からの通水により、給排水口22から排出される洗浄液に旋回流が生じる。
尚、通水口23の向きは、必ずしも真横に向ける必要は無く、水平面内において角度を付けることにより、洗浄液に旋回流を生じさせることができる。
【0019】
上記養液の除菌濾過装置1は、給水ポンプ5により配管3から濾過槽21に給水される養液が、除菌濾過層28の上面に積層された濾過層で養液中の被濾過物の除去された後、除菌濾過層28で無機系抗菌剤と養液中の病原菌との接触による除菌処理が行われる。そして、配管3の切替弁7と配管4の切替弁10とを切替えて、下部通水配管11から通水した洗浄液を、除菌濾過層28と濾過層29を通して排水配管8から排水して洗浄するいわゆる逆洗する際には、濾過層29がセラミックス粒子よりも軽い比重のシリカで形成されているから、この逆洗処理により該濾過層29のシリカが容易に層状分離して被濾過物を攪拌浮遊させ、上部の給排水口22から流出させることができ、いわゆる逆洗機能を有する構成が簡単でメンテナンスが容易な養液の除菌濾過装置を安価に提供できる。
【0020】
また、逆洗時に濾過槽21に形成した上部の給排水口22と同じ高さで対向する上部通水配管9の通水口23から同時に通水することにより、逆洗処理で攪拌浮遊される被濾過物を効率的に流出させることができる。さらに、上部通水配管9の先端部を水平面内において直角に屈曲して通水口23を真横にすることにより、上部の給排水口22から排出される洗浄液に旋回流が生じ、逆洗処理で攪拌浮遊される被濾過物をこの旋回流に乗せてより効率的に流出させることができる。
【0021】
以下は、上記した除菌濾過装置1の作用効果を実証したものである。濾過槽21として直径500mm×高さ1250mmの耐圧タンクを用いた。除菌濾過層28として、銀を利用した抗菌成分の溶出量が50ppb以下である無機系抗菌剤を含む粒径2〜4mmのセラミックス粒子100kgを用いた。除菌濾過層28の上層の濾過層29として、粒径0.5mm以下のシリカを10kg積層した。耐圧タンクの最大処理流量は、毎分300リットルで、加圧水圧は1Mpa以下とした。また、上部及び下部の給排水口22,24は直径50mmで、上部通水配管9の通水口23は直径25mmとした。逆洗時には、給排水口24から毎分100〜200リットルの洗浄水を通水し、同時に通水口23から毎分5〜10リットルの洗浄水を通水できるようにした。
【0022】
除菌効果を確かめるため、養液タンク2には根腐れ病原菌Pythium helicoidesの遊走子を100mリットルあたり1000個となるように調整した菌液を入れた。この調整液を上記した寸法の除菌濾過装置1に毎分200リットルの流量で通過させ、通過前後の液中の菌数から除菌率を計算式〈(通過前菌数―通過後菌数)/
通過前菌〉×100から算出した。1回通過させた後の除菌率は53%であり、5回通過後の除菌率は89%であり、除菌効果の確実性が実証された。
【0023】
また、逆洗効果を確かめるため、上記除菌濾過装置1の濾過槽21である耐圧タンク内にピートモス2gを入れ、下部の給排水口24から毎分120リットルの洗浄水を通水し、同時に通水口23から毎分10リットルの洗浄水を通水した。上部の給排水口22から洗浄水とともに排出されたピートモスを回収して重量を測定したところ1.54gであった。これに対して、通水口23から通水しない以外は、上記と同様の条件下での回収されたピートモス重量は1.04gであった。従って、通水口23からの通水による逆洗の洗浄効果が実証された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】養液の除菌濾過装置の概略を示した模式図である。
【図2】濾過槽を縦断して示した模式図である。
【図3】仕切り版の平面図である。
【図4】通水口の変形例を示した模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1…養液の除菌濾過装置
2…養液タンク
3,4…配管
7,10…切替弁
8…排水配管
9…上部通水配管
11…下部通水配管
21…濾過槽
22,24…給排水口
23…通水口
28…除菌濾過層
29…濾過層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過槽の上部と下部にそれぞれ切替えによって給排水可能な配管を設け、前記濾過槽内に開口する上下の給排水口の間に複数の濾過層を積層して、最下層となる濾過層は銀を利用した抗菌成分の溶出量が50ppb以下である無機系抗菌剤を含むセラミックス粒子から形成した除菌濾過層とし、該除菌濾過層より上層の濾過層は前記セラミックス粒子よりも軽い比重の濾過材で形成して、前記上部の給排水口から給水した養液を、前記2層の濾過層に通した後前記下部の給排水口から排水して養液の除菌濾過を行うとともに、前記下部の給排水口から通水する洗浄液を前記複数の濾過層に通して前記上部の給排水口から排出することにより、前記濾過層を洗浄できるようにしたことを特徴とする養液の除菌濾過装置。
【請求項2】
前記濾過槽に前記上部の給排水口と同じ高さで対向する通水口を形成し、前記下部の給排水口から洗浄液を通水する洗浄時に、前記通水口から同時に通水することを特徴とする請求項1に記載の養液の除菌濾過装置。
【請求項3】
前記通水口を水平面内において角度を付け、前記上部の給排水口から排出される洗浄液に旋回流が生じるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の養液の除菌濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−268443(P2009−268443A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124179(P2008−124179)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】