説明

養液栽培方法及び養液栽培装置

【課題】作物Pの成長を、一層高めることができる養液栽培方法を提供する。
【解決手段】複数の孔5aを備える遮蔽パネル5により養液Lを覆って、養液Lを吸収する作物Pを該遮蔽パネル5の孔5aから上方に向けて成長させることを前提とする。その前提の下で、遮蔽パネル5の下方側に、養液Lに対して浮き上がり性を示す浮上性ネット体3を配設し、網目構造の浮上性ネット体3に作物Pの根Pdを絡めて、作物Pの根Pdが横方向にも拡がるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培方法及び養液栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
養液栽培方法には、特許文献1に示すように、複数の孔を備える遮蔽パネル(定植板)により養液を覆い、その孔(定植孔)に作物(苗)を植え付け、その作物に養液を吸収させて、該遮蔽パネルの孔から作物を上方に向けて成長させるものがある。このものによれば、遮蔽パネルの遮光機能、遮熱機能により、養液内に藻が発生すること、養液が大きく温度が変化すること等を抑制できることになり、作物の生長を促進することができる。
【特許文献1】特許第3060208号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記養液栽培方法においては、作物の根は、主に養液を求めて下方に発育し、横方向まで広く拡がることはない。このため、毛細根の発育も不充分となり、微量成分の吸収が不足して健全で美味しい野菜を育てることができない。
【0004】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その第1の技術的課題は、作物の成長を、一層高めることができる養液栽培方法を提供することにある。
第2の技術的課題は、上記養液栽培方法を使用する養液栽培装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記第1の技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
複数の孔を備える遮蔽パネルにより養液を覆って、該養液を吸収する作物を該遮蔽パネルの孔から上方に向けて成長させる養液栽培方法において、
前記作物の成長時に、前記遮蔽パネルの下方側に、前記養液に対して浮き上がり性を示す浮上性ネット体を配設しておく構成としてある。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2,3の記載の通りとなる。
【0006】
前記第2の技術的課題を達成するために本発明(請求項4に係る発明)にあっては、
養液を入れるための栽培容器と、
前記栽培容器内に入れられた養液を覆うように配設してその保有する孔から該養液を吸収する作物を上方に向けて成長させるための遮蔽パネルと、
前記栽培容器内に前記遮蔽パネルの下方側において配設するための浮上性ネット体と、
が備えられている、
ことを特徴とする養液栽培装置とした構成とされている。この請求4の好ましい態様としては、請求項5の記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、作物の成長時に、遮蔽パネルの下方側に浮上性ネット体を配設しておくことから、浮上性ネット体の網目(格子ないしはメッシュを含む)構造に作物の根が絡まることになり、作物の根は、養液を求めて下方に成長するだけでなく、横方向にも広がることになる。このため、作物の根の発育が促進され、これに伴い、作物の成長を、一層高めることができる。
【0008】
請求項2に係る発明によれば、遮蔽パネルを浮上性ネット体上に載せることにより養液の液面上方に位置させ、遮蔽パネルの下方側と養液の液面との間に、浮上性ネット体の網目構造に基づいて空気層を形成することから、養液の湿気を帯びた空気層を遮蔽パネル下方側に常に形成して、作物にとって好ましい発育環境を形成できる。
【0009】
請求項3に係る発明によれば、浮上性ネット体の上面に、該浮上性ネット体の網目よりも細かくされた網目(格子ないしはメッシュを含む)を有する吸水性シートを配設すると共に、その吸水性シートの端部を養液に浸すことにより、養液を毛管現象を利用して浮上性ネット体上の吸水性シートに導くことから、新たな養液が常に浮上性ネット上の吸水性シートに供給されて、遮蔽パネルと養液液面との間における浮上性ネット体の空気層を、作物にとってより好ましい発育環境(調湿空間)に形成できる。これにより、この発育環境の観点からも作物の根の発育を促進できる。
また、吸水性シートが常に濡れた状態になっており、吸水性シート上を、作物の種子や苗にとって最適な栽培床としても利用できる。このため、浮上性ネット体が形成する湿気空間と協働して、作物を、的確に成長させることができる。
【0010】
請求項4に係る発明によれば、当該装置を用いることにより、前記請求項1に係る養液栽培方法が使用されることになり、請求項1に係る養液栽培方法を使用した養液栽培装置を提供できる。
【0011】
請求項5に係る発明によれば、当該装置を用いることにより、前記請求項3に係る養液栽培方法が使用されることになり、請求項3に係る養液栽培方法を使用した養液栽培装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
先ず、図1〜図4に基づき、作物Pである若葉野菜の生育に適した形態を示す第1実施形態について説明するが、その第1実施形態に係る養液栽培方法を説明するに先立ち、その養液栽培方法が使用される養液栽培装置について説明する。
【0013】
第1実施形態に係る養液栽培装置1は、図1に示すように、栽培容器2と、浮上性ネット体3と、吸水性シート4と、複数の孔5aを有する遮蔽パネル5と、を備えており、これら組立要素2〜5をユーザが組み立てる(セットする)ことにより、養液栽培装置1が完成される。
【0014】
前記栽培容器2は、養液Lを充填するものであり、その上方のみが外部に対して開口されている。この栽培容器2の大きさは、本実施形態においては、家庭のベランダ、室内等に載置できるように設定されており、例えば、縦30cm前後、横60cm前後、深さ15cm前後に設定されている。養液Lは、栽培する作物Pに適したものが用いられ、その養液Lは、濃縮養液Lをユーザが水で希釈調整することにより生成される。このユーザが調整した養液Lが、前記栽培容器2内に所定量、注入され、栽培容器2内において、養液Lの液位が所定高さとなる。
尚、栽培容器2については、太陽光により養液Lが劣化すること、藻が発生することを抑制すべく、不透明な材料を用いることにより、遮光性が確保されている。また、栽培容器2については、ベランダ、室内に配置できる程度の大きさのものに限らず、大規模栽培が可能な大型化したものであってもよいし、規模を大きくして屋上等の場所に設置できるものであってもよい。
【0015】
前記浮上性ネット体3は、前記栽培容器2内の養液Lの液面全体上に浮いた状態で配置される。この浮上性ネット体3は、図3に示すように、多数の粗い網目(格子又はメッシュを含む)3aを有する厚めのシート体であり、養液Lに対して高い浮力を示すことになっている。この浮上性ネット体3は、作物Pの種類、遮蔽パネル5との関係等で、その厚み、積層枚数等が決められることになっており、本実施形態においては、この浮上性ネット体3として、高発泡性ポリエチレンをもって比較的厚め(例えば0.5cm〜1cm程度)に形成されたものが2枚用意され、それらが積層して用いられている。この浮上性ネット体3は、高い浮力を示す他に、無害性、軽量性、柔軟性、さらには、はさみ等で楽に切断できる性質も有している。尚、浮上性ネット体3の網目の細かさ、浮力については、栽培の使用状況に応じて、適宜、選択される。
【0016】
前記吸水性シート4は、前記養液Lの液面La上に浮く前記浮上性ネット体3の上面全体に亘って載置される。この吸水性シート4は、浮上性ネットの網目よりも細かい網目をもつネット体をもって形成されており、その各網目は、作物Pの種子を通過させることなく吸水性シート4上に載置できる大きさに設定されている。また、この吸水性シート4は、浮上性ネット体3よりも一回り大きく形成されており、その周縁部は、浮上性ネット体3の上面周縁部から垂下して養液L内に浸っている。これにより、吸水性シート4の毛管現象に基づき、養液Lが浮上性ネット体3上の吸水性シート4に供給され、吸水性シート4は、常に濡れ状態に維持されている。この吸水性シート4については、基本的には、毛管現象を生じると共に、作物Pの種子を載置できれば、要件を満たすことになるが、養液Lにより劣化しない化学合成繊維を材料として用いることが、より好ましい。
【0017】
前記遮蔽パネル5は、前記浮上性ネット体3上に前記吸水性シート4を介して載置される。この遮蔽パネル5は、図1,図4に示すように、その自重を浮上性ネット体3に及ぼすものの、浮上性ネット体3の大きい浮力に基づく力を受けて、養液Lの液面La上方に位置することになっている。これに伴い、浮上性ネット体3の上部も養液Lの液面Laより若干、上方に突出することになるが、本実施形態においては、このとき、吸水性シート4ないしは浮上性ネット体3の上面が養液Lの液面Laよりも5mm〜10mm程度高い位置に位置されるように設定され、その浮上性ネット体3の比較的厚い網目(厚み)に基づき、その浮上性ネット体3の上面(吸水性シート4)と養液Lの液面Laとの間に空気層6が形成されている。この空気層6は、浮上性ネット体3内の限られた空間が養液Lの液面Laに臨むことになっていることから、その空気層6は、湿気状態の酸素供給空間として、作物Pの種子の発芽、発育の環境条件として好ましい環境を作り出すことになる。尚、本実施形態においては、前述の如く、2枚の浮上性ネット体3が積層された状態となっているが、これは、作物Pが若葉野菜の場合、根の発達が未熟で、養液L中の酸素をそれほど必要としないことから、それに伴って、浮上性ネット体3が形成する空気層6を小さくしているのである。
【0018】
また、遮蔽パネル5は、前記栽培容器2の開口全体を覆うことになる。外部から熱、光を養液Lに入れないようにして、養液Lの急激な温度変化、養液Lの蒸発、藻の発生等を抑制するためである。このため、遮蔽パネル5は、不透明な材料を用いて形成されている。さらに、遮蔽パネル5には、複数の孔5aが備えられている。各孔5aは、前記吸水性シート4と外部とをそれぞれ連通しており、これにより、その各孔5aから作物Pの種子を吸水性シート4を栽培床として播くことができると共に、その種子が発芽した後は、その各孔5aから作物Pを上方に成長させることができることになっている。
【0019】
このような役割を果たす遮蔽パネル5としては、養液Lに対する耐液性、紫外線に対する耐候性、強度等に優れたものを用いることが好ましく、本実施形態においては、ポリプロピレンプレートないしは発泡性ポリプロピレンシートが用いられている。
【0020】
このような養液栽培装置1を用いた栽培方法においては、栽培作業として、遮蔽パネル5の各孔5aから作物Pの種子を、該各孔5aに臨む吸水性シート4上に播くことが行われる。これにより、作物Pの種子が、図1に示すように、吸水性シート4を栽培床として発芽、発育することになり、作物Pの根Pdは、3,4日程度で、吸水性シート4の網目及び浮上性ネット体3の網目を貫通して養液Lに到達する。このとき、吸水性シート4がその毛管現象に基づき常に濡れ状態になっていると共に、遮蔽パネル5の下方側に湿気状態の空気層6が存在されて、種子の発芽、発育にとって好ましい環境になっていることから、作物Pの種子の発芽・発育は確実且つ速やかに進行する。また、根Pdの発育については、吸水性シート4(浮上性ネット体3上面)から養液Lの液面Laまでの長さが5mm〜10mm程度に設定されており、種子の発芽後、根Pdは、速やかに養液Lに到達し、以後、養液Lを吸収して発育することになる。
しかもこのとき、根Pdは、浮上性ネット体3にその網目構造を利用して絡まり、下方向だけでなく、横方向にも作物Pの根Pdが広がることになり、そのような状態の下で、浮上性ネット体3内の空気層6中の酸素及び養液L中の溶存酸素が取り込まれる(図1参照)。このため、作物Pの根Pdの発育が促進され、これに伴い、作物Pの成長の促進が高められることになる。
【0021】
図2は、種子の発芽から3〜4週間程度経過し、収穫できる程度に作物P(若葉野菜)が成長した状態を示している。この状態では、養液Lが作物Pに吸収されたり、蒸発したり等して、栽培容器2内の養液Lの液位が、初期時(図1の状態)に比べて低くなっているが、このときには、その養液Lの液位が低くなるに伴って、浮上性ネット体3、吸水性シート4及び遮蔽パネル5も低い位置へと移動することになり、作物Pの発育に好ましい環境が維持される。このため、種子の発芽から作物Pの収穫までの間、種子、作物Pの成長にとって好ましい環境に維持されることになり、作物Pの成長が促される。
【0022】
図5は第2実施形態を示す。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0023】
図5に示す第2実施形態は、移植栽培の形態を示すものである。この第2実施形態にあっては、前記第1実施形態係る養液栽培装置1と同一の養液栽培装置(符号1を用いる)において、栽培作業として、遮蔽パネル5(定植パネル)の各孔5aに、培地で育てた苗(の支持部7)が移植(嵌合保持)される。これにより、野菜の苗(作物と同一符号Pを用いる)Pは、前記湿気を帯びた好ましい発育空間(浮上性ネット体3の空気層6)の下で発育し、その苗Pの根Pdは、吸水性シート4の網目を貫通して養液Lに早期に到達し、以後、養液を吸収して生育することになる。勿論このときも、苗の根は、浮上性ネット体3及び吸水性シート4の網目に絡って横方向に拡がることになり、苗Pの根の発育は促進される。
【0024】
尚、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましい或いは利点として記載されたものに対応したものを提供することをも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る養液栽培方法及び養液栽培装置を説明する説明図。
【図2】図1からの時間的変化を説明する説明図。
【図3】第1実施形態に係る浮上性ネット体を示す平面図。
【図4】図1の部分拡大図。
【図5】第2実施形態を説明する説明図。
【符号の説明】
【0026】
1 養液栽培装置
2 栽培容器
3 浮上性ネット体
3a 浮上性ネット体の網目
4 吸水性シート
5 遮蔽パネル
5a 遮蔽パネルの孔
6 空気層
L 養液
P 作物(苗)
Pd 作物の根




【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔を備える遮蔽パネルにより養液を覆って、該養液を吸収する作物を該遮蔽パネルの孔から上方に向けて成長させる養液栽培方法において、
前記作物の成長時に、前記遮蔽パネルの下方側に、前記養液に対して浮き上がり性を示す浮上性ネット体を配設しておく、
ことを特徴とする養液栽培方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記遮蔽パネルを前記浮上性ネット体上に載せることにより前記養液の液面上方に位置させ、前記遮蔽パネルの下方側と前記養液の液面との間に、該浮上性ネット体の網目に基づいて空気層を形成する、
ことを特徴とする養液栽培方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記浮上性ネット体の上面に、該浮上性ネット体の網目よりも細かくされた網目を有する吸水性シートを配設すると共に、該吸水性シートの端部を前記養液に浸すことにより、該養液を毛管現象を利用して前記浮上性ネット体上の吸水性シートに導く、
ことを特徴とする養液栽培方法。
【請求項4】
養液を入れるための栽培容器と、
前記栽培容器内に入れられた養液を覆うように配設してその保有する孔から該養液を吸収する作物を上方に向けて成長させるための遮蔽パネルと、
前記栽培容器内に前記遮蔽パネルの下方側において配設するための浮上性ネット体と、
が備えられている、
ことを特徴とする養液栽培装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記浮上性ネット体の網目よりも細かくされた網目を有する吸水性シートが備えられ、
前記遮蔽パネルが、セット時に、前記浮上性ネット体上に載せられて前記養液の液面上方に位置されるように設定され、
前記浮上性ネット体が、セット時に、前記遮蔽パネルの下方側と前記養液の液面との間において、該浮上性ネット体の網目に基づいて空気層を形成するように設定され、
前記吸水性シートが、セット時に、前記浮上性ネット体の上面に配設されると共に、該吸水性シートの端部が前記養液に浸されるように設定されている、
ことを特徴とする養液栽培装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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