説明

養液栽培方法

【課題】低コストで栽培能力の低下を抑制しつつ植物体中の硝酸態窒素濃度を低減させる。
【解決手段】養液タンク5に貯留された養液をポンプ7によって栽培ベッド3に供給する栽培装置1において、栽培開始時に、一定の割合で化学肥料及び有機肥料を含む養液を養液タンク5内に投入する。その後、養液タンク5内の養液の減少に応じて、追肥タンク13内に貯留された有機肥料を養液タンク5に送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育が行われる栽培ベッドに養液を供給して植物を栽培する養液栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、土壌を使用せず、養液で葉菜などを栽培する養液栽培が普及してきている(例えば、特許文献1参照)。一般的な養液栽培方法は、化学肥料を水に溶かした養液をタンクに溜め、ポンプ等を介して栽培ベッドに供給する、循環式の養液栽培となっている。養液栽培には、たん液式(DFT)、かん液式(NFT)、噴霧方式など各種の方式が開発及び実用化されている。しかし、いずれの方式も化学肥料に頼っているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−265057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、輸入に頼っている化学肥料は高価であり、コストが増大する。また、化学肥料を用いた養液には、多量の硝酸態窒素などが含まれている。そのため、養液栽培で野菜を栽培した場合には、露地栽培の場合に比べて、収穫した植物体中の硝酸態窒素含有濃度が高くなる。よって、特に生食する場合の人体への影響など、食の安全性が懸念される。
【0005】
また、最近は食の安全や健康志向から、農薬や化学肥料を一切使用しないか使用量を減らし、無農薬・無化学肥料で栽培した有機栽培への関心が高まっており、多くの実践がなされている。しかしながら、有機肥料を使用した養液栽培を、太陽光を利用してガラス温室やビニールハウスなどで周年で行う場合には、春と秋との時期を除き、夏場の高温、冬場の低温により、有機肥料を無機化するための微生物の働きが十分に行われなかったり、特に夏場は微生物が高温により死滅・腐敗したりすることにより生育が悪くなる。これを回避するためには養液の環境を一定に整えるべく養液の冷却や加温を行うことが必要となり、冷却装置や加温装置などの高額な機器の整備やその電気代などにより、コストが嵩むという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、低コストで栽培能力の低下を抑制しつつ植物体中の硝酸態窒素濃度を低減させることができる養液栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明にかかる養液栽培方法は、化学肥料及び有機肥料を含有する養液を使用する。この養液栽培方法では、化学肥料のみを含有する養液を使用する場合に比べて、化学肥料の使用量を減らすことができる。よって、コストを低下させると共に、植物体中の硝酸態窒素濃度を低減させることができる。また、有機肥料のみを含有する場合に比べて、栽培能力の低下を抑制することができる。
【0008】
第2の発明にかかる養液栽培方法は、第1の発明にかかる養液栽培方法において、前記養液に含まれる有機肥料の割合を、栽培開始時から次第に増加させる。
【0009】
第3の発明にかかる養液栽培方法は、第2の発明にかかる養液栽培方法において、栽培開始時の前記養液は少なくとも化学肥料を含有しており、その後前記養液に有機肥料のみを追加する。
【0010】
第4の発明にかかる養液栽培方法は、第2又は第3の発明にかかる養液栽培方法において、栽培開始時の前記養液は化学肥料のみを含有している。
【0011】
第2〜第4の養液栽培方法では、栽培開始時は化学肥料を比較的多く含む養液により栽培を安定させることができ、その後化学肥料の使用量を減らすことができる。
【0012】
第5の発明にかかる養液栽培方法は、第1〜第4のいずれかの発明にかかる養液栽培方法において、有機肥料として、コーンスティープリカー及びかつお煮汁エキスの少なくともいずれか一方を用いる。この養液栽培方法では、有機肥料の入手が簡易であり、安定的に供給可能である。
【0013】
第6の発明にかかる養液栽培方法は、第1〜第5のいずれかの発明にかかる養液栽培方法において、前記養液を貯留するタンクと植物を育成する栽培ベッドとの間を前記養液が循環する循環式である。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、本発明の養液栽培方法では、化学肥料のみ含有する養液を使用する場合に比べて、化学肥料の使用量を減らすことができる。よって、コストを低下させると共に、植物体中の硝酸態窒素濃度を低減させることができる。また、有機肥料のみを含有する場合に比べて、栽培能力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態にかかる養液栽培方法によって栽培が行われる栽培装置の模式的な側面図である。
【図2】図1に示す栽培装置において本発明の実施形態にかかる栽培方法で栽培されたミツバ及び従来の栽培方法で栽培されたミツバとの葉柄長及び生体重の測定結果を示す表である。
【図3】図1に示す栽培装置において本発明の実施形態にかかる栽培方法で栽培されたミツバ及び従来の栽培方法で栽培されたミツバとの硝酸イオン濃度の測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本実施形態の養液栽培方法は、たん液式の循環式であって、図1に示す栽培装置1において実施される。なお、栽培装置1は、太陽光を利用したガラス温室やビニールハウス、又は太陽光を遮断し人工光源が用いられる施設(建物)内に設置される。
【0018】
栽培装置1は、上方開放箱型の発泡スチロール製である栽培ベッド3を備えている。なお、栽培ベッド3を構成する部材は、軽く且つ養液を溜めることができるものであればよく、発泡スチロール以外の部材を用いることもできる。本実施形態においては、発泡スチロールを用いているので、断熱効果が高い。また、栽培ベッド3の横幅は30〜120cm程度、長さは最長30m程度である。
【0019】
栽培ベッド3の下方には、上方開放箱型のタンクであり養液を貯留する養液タンク5が配置されている。養液タンク5から排出された養液は、ポンプ7によって給水管9に送液される。給水管9内の養液は、栽培ベッド3の図1中左端に供給される。栽培ベッド3の左端に供給された養液は、栽培ベッド3内を右方に向かって流れる。そして、栽培ベッド3の図1中右端から排出された養液は、排水管11から排出されて、養液タンク5に戻される。
【0020】
また、養液タンク5の側方には、有機肥料を貯留する追肥タンク13が配置されている。追肥タンク13内の有機肥料は、ポンプ15によって、養液タンク5に送られる。養液タンク5内には、栽培開始時には、一定の割合で化学肥料及び有機肥料を含む養液が投入されている。そして、蒸散・蒸発・吸収などによる養液タンク5内の養液の減少に応じて、追肥タンク13内の有機肥料が養液タンク5に送られる。したがって、栽培ベッド3に送られる養液に含まれる有機肥料の割合は、栽培開始時から次第に増加する。なお、本実施形態においては、化学肥料としては、従来の養液栽培で一般的に使用される養液栽培用のものを用いる。また、有機肥料としては、コーンスティープリカー又はかつお煮汁エキスを水で希釈したものを用いる。
【0021】
以上のように、本実施形態の養液栽培方法では、化学肥料及び有機肥料を両方含有する養液を使用する。よって、化学肥料のみを含有する養液を使用する場合に比べて、化学肥料の使用量を減らすことができる。したがって、コストを低下させると共に、植物体中の硝酸態窒素濃度を低減させることができる。また、有機肥料のみを含有する場合に比べて、栽培能力の低下を抑制することができる。
【0022】
また、本実施形態の養液栽培方法では、栽培開始時の養液は化学肥料及び有機肥料を含んでおり、その後、養液タンク5内に養液の減少に応じて有機肥料を追肥することで養液に含まれる有機肥料の割合が増加する。したがって、栽培開始時は化学肥料により栽培を安定させることができ、その後化学肥料の使用量を減らすことができる。
【0023】
また、本実施形態の養液栽培方法では、有機肥料として、コーンスティープリカー又はかつお煮汁エキスを用いる。したがって、有機肥料の入手が簡易であり、安定的に供給可能である。
【0024】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能なものである。
【0025】
例えば、上述の実施形態では、栽培開始時の養液が化学肥料及び有機肥料の両方を含有しており、その後有機肥料のみが追肥されて有機肥料の割合が次第に増加する場合について説明したが、これには限定されない。例えば、栽培開始時の養液が化学肥料のみを含んでいてもよい。また、栽培開始時の養液と同じ割合で化学肥料及び有機肥料を追肥するようにしてもよい。この場合は、養液に含まれる化学肥料及び有機肥料の割合は、常に一定となる。
【0026】
ここで、従来の化学肥料のみを含む養液を使用した養液栽培方法、有機肥料のみを含む養液を使用した養液栽培方法、及び本発明の化学肥料及び有機肥料の両方を含む養液を使用した養液栽培方法でそれぞれミツバを栽培した場合の比較結果を示す。
【0027】
試験区は元肥、追肥ともに有機肥料(コーンスティープリカー)のみを使用した有機肥料区(A区)、無機化学肥料及び有機肥料を元肥とし、有機肥料のみを追肥した元肥複合区(B区)、元肥、追肥ともに無機化学肥料及び有機肥料を使用した複合区(C区)、無機化学肥料のみを使用し窒素換算量をA区にあわせた無機肥料区D、及び無機化学肥料のみを使用し、EC値が所定の値となるように無機化学肥料を追肥した無機肥料E区の5区を設けた。
【0028】
図2の表に示すように、有機肥料のみを使用したA区は葉柄長、生体重とも他のB〜E区に比べ著しく劣るのに対し、無機化学肥料及び有機肥料の両方を使用したB、C区は、無機化学肥料のみを使用したD、E区に比べて遜色のない生育を示した。
【0029】
また、図3の表に示すように、収穫したミツバの葉身及び葉柄における硝酸イオン濃度は、葉身・葉柄とも従来の無機化学肥料のみを使用したE区が最も高く、有機肥料のみを使用したA区が最も低くなった。無機化学肥料及び有機肥料を両方使用し有機肥料のみを追肥したB区は、E区の半分以下の濃度に抑えることができる結果となった。
【0030】
以上の比較結果から、無機化学肥料と有機肥料とを混合して使用する栽培方法は、生育を維持しながらも植物体中に蓄積される硝酸態窒素は半分以下に抑えられることが実証された。
【符号の説明】
【0031】
1 栽培装置
3 栽培ベッド
5 養液タンク
7 ポンプ
9 給水管
11 排水管
13 追肥タンク
15 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学肥料及び有機肥料を含有する養液を使用する養液栽培方法。
【請求項2】
前記養液に含まれる有機肥料の割合を、栽培開始時から次第に増加させることを特徴とする請求項1に記載の養液栽培方法。
【請求項3】
栽培開始時の前記養液は少なくとも化学肥料を含有しており、その後前記養液に有機肥料のみを追加することを特徴とする請求項2に記載の養液栽培方法。
【請求項4】
栽培開始時の前記養液は化学肥料のみを含有していることを特徴とする請求項2又は3に記載の栽培方法。
【請求項5】
有機肥料として、コーンスティープリカー及びかつお煮汁エキスの少なくともいずれか一方を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の養液栽培方法。
【請求項6】
前記養液を貯留するタンクと植物を育成する栽培ベッドとの間を前記養液が循環する循環式であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の養液栽培方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−62152(P2011−62152A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216578(P2009−216578)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(594156020)エスペックミック株式会社 (10)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】