香り源およびそれを用いた香り発生装置
【課題】高分子でカプセル化した香りカプセルに、香りカプセル内部に存在する香り成分の気化を促進するための通気孔を設け、安定的に、しかも長時間香りを発生させることが可能な香り発生装置を提供する。
【解決手段】高分子による香りカプセル6に通気孔を単一、あるいは複数設けることで、安定的に、しかも長時間香りを発生させる。
【解決手段】高分子による香りカプセル6に通気孔を単一、あるいは複数設けることで、安定的に、しかも長時間香りを発生させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の香りを長時間安定して発生させるための香り源、およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、香りを発生させる技術に関しては、液体を気化させる方法、液滴を生成させそれを気化させる方法など、種々の方法が提案されている。一方、香り源を取り扱いやすくするために、特許文献1、特許文献2に記載されているような固体の香り源、すなわち、多孔質材料とこの多孔質材料の表面に付着した液体香り成分からなる香り源、また特許文献3に記載されている固体またはゲル状の香料、あるいは固形物に液体の香料を含浸させたものから成る香り源を用いた例がある。一方、特許文献4には、複数の香り物質を簡単に交換できるカートリッジの方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−310740
【特許文献2】特開2003−343870
【特許文献3】特開2004−121594
【特許文献4】特開2005−304609
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体の香り源に比較して、固体の香り源を用いることにより、搬送などの際に液漏れがないなど、その取り扱いは非常に楽になる。しかし、特許文献1、2、3に記載されているように、多孔質材料の表面についたもの、固形物に液体の香料を含浸させたものを香り源にすると、材料内部の香り成分の気化速度は、材料表面についた香り成分の気化速度に比較して非常に遅いため、材料表面についた香り源がすべて気化してしまうと、実質的に香りの供給が停止し、長時間安定に香りを発生させることができないという欠点があった。
また、このために、長時間香りを発生させるためには、同じ香り成分のついた固体材料を複数、あるいは多数準備する必要があり、ひとつの香り成分に対して装置内の多くのスペースを割く必要があった。さらに、固体材料の表面についた香り成分の気化速度は、それを内蔵する香り発生装置自体の温度の変化に敏感になり、香り成分の発生量を細かく制御することが困難になるという欠点があった。
【0005】
また、特許文献4に記載されているように、複数の香り成分をカートリッジ化することによって、香り成分の交換を簡単に行うことができるが、いつカートリッジを交換すれば良いのかを自分で判断しなければならないという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、高分子膜中に液体状の香り成分を封入し、しかも内部に封入された香り成分の気化を促進するために、香り成分の通気孔を単一、あるいは複数設けた香りカプセルを用いる。香りカプセル自体に通気孔を加工するため、香りカプセルの材料にはその加工がしやすい高分子膜を用いる。
また、複数の香り成分を発生させるために、香りカプセルを複数配置したカートリッジを備えた香り発生装置を用いる。この際、香りカプセル、あるいはカートリッジそのものの交換時期を明確にするため、香りカプセルの使用状況を計測し、カートリッジ交換時期を表示する。香りカプセルの使用状況の確認は、香りカプセルと対になって設けられたバルブの開閉回数をカウントする、香りカプセル近傍に半導体センサーを配置してその強度変化を計測することなどによって行う。一方、カートリッジをユニット化することによって、発生させる香り成分が増える場合でも、増設が簡単に可能になる。
【発明の効果】
【0007】
固体の香り源でありながら液体の香り成分と同等の蒸気圧を有し、長時間香りが持続し、且つ加工しやすく安全な材料であるという条件を満たす香りカプセル及びコンパクト且つ多数の香りを供給可能な香り発生装置を提供できる。
【実施例1】
【0008】
図1に、最初の実施例である香り発生装置1を示す。この香り発生装置1は香り発生部2を内蔵しており、この香り発生部2は、シリンダー制御回路3、シリンダー制御回路用ケーブル4、バルブ5、香りカプセル6、香りカプセルカートリッジ7、ヒータ8、香りカプセルカートリッジ支え9より構成される。香りカプセルカートリッジ7で発生した香り成分は、送風ファン10により、送風ガイド11を通して、送風出口より装置外に送られる。また、香りカプセルカートリッジ7は、香りカプセルカートリッジ支え9によって、香り発生装置1の筐体内に固定されている。さらに、送風出口12の水平面に対する角度は、香り発生装置支え13を通して、香り発生装置用台15上に設けられた角度可変用レバー14により可変にできる。これは、香り発生装置1からの香りを嗅ぐ人の位置によって、送風出口12の位置を変えるためである。
【0009】
図2は、香り発生装置1を正面からみた図であるが、バルブ5やヒータ8の制御は、シリンダー制御回路用ケーブル4を介して、香り発生装置制御部16によって行う。
【0010】
図3に、香り発生部2の詳細を示している。この例では、線材自体に通電すると収縮し、通電をやめると元にもどる性質を持つ形状記憶合金による人工筋肉を用いたバルブを用いている。このバルブ5が開くと、香りカプセル保持穴35内に封じこまれていた香りカプセル6から気化した香り成分が外に出て、図3中に矢印で示された、送風用ファン10からの風によって香り発生装置外に送り出されることになる。ここでは、香り成分を送り出すのに、ファンを用いているが、ダイアフラムポンプのようなポンプを用いることもできる。
この形状記憶合金は、通電を継続すると素材を傷めることになるので、通電のオンオフ制御が必要になるが、通電のオンオフ制御によりバルブ先端をほぼ定位置に保持することが可能であること、バルブの開閉が静かであること、オンオフ制御により消費電力量を小さくできる、高い微小運動も可能であるなどの特徴を有し、今回のようなバルブには好適であると考えられる。香り発生部支柱7と香り発生部ブロック19に支えられた人工筋肉ガイド18により、人工筋肉24がシリンダー27の内部に設けられた人工筋肉支え28を通して、シリンダー27とバルブ先端29を支えるようになっている。このような構造にすることによって、人工筋肉24に通電すると人工筋肉が収縮してバルブ先端29がバルブガイド22から上がり、香りカプセルカートリッジ7に存在する香りカプセル6の上の空間が開き、香りカプセル6からの香り成分が外に漏れ出すことになる。このとき、香りカプセル6は、外にころがり出ないように、メッシュのような構造を持つ香りカプセル押さえ30によって固定されていることがのぞましい。また、人工筋肉24に通電するので、この材料が接する部分は絶縁材であることが必要である。従って、図に示した、人工筋肉ガイド18、シリンダー27、バルブ先端29は、べスペル材、PEEK材などのような絶縁材である。
【0011】
一方、人工筋肉24に通電をやめると、人工筋肉24の長さは元に戻るのでバルブ先端29はバルブガイド22におさまる。バルブが閉じる際の時定数を短くするために、人工筋肉ガイド18とばね押さえ26の間に、バルブ用ばね25を設けて開いた状態のバルブを押しもどすようにしておくことは重要である。バルブ先端29において5mmの駆動距離を確保するには、人工筋肉24の伸縮距離が5%程度であることを考慮して、人工筋肉24全長を100mm程度としている。
【0012】
図3における香りカプセルカートリッジ7では、直径が5mm、深さ5mmの円柱状の9個の縦穴に、直径が5mm程度の香りカプセル6を配置する。香りカプセルカートリッジ7をカートリッジヒータのようなヒータ8によりヒータケーブル31を介して室温から100℃程度まで温度制御できるようにしてある。香りカプセルカートリッジ7とバルブガイド22の面の接触性をよくするために、香りカプセルカートリッジ用板ばね32a、32bにより、バルブガイド22の面に対して香りカプセルカートリッジ7の面を押し付ける構造とし、隙間から香りが逃げないようにすることは重要である。
【0013】
香りカプセル6は、天然あるいは合成の香料を用いて、多糖類で食物繊維のひとつであるアルギン酸により直径が5mm程度のカプセルとして作製し、その作製は液中硬化被膜法で行っている。具体的には、アルギン酸ナトリウム水溶液が塩化カリウム溶液の中に入るとゲルになってゼリー状に固まることを利用しており、二重ノズルの内側に香り成分を、外側にアルギン酸ナトリウム水溶液を流して、塩化カリウム溶液の中に滴下することによって、香りカプセルが生成される。
【0014】
図4(a)に示すように、外観上は球形をしており、その色は内包する香料の元の色を反映し、黄色やオレンジ色のカプセルになっている。香りカプセル6に用いる高分子膜の材料は、人に対する安全性を考える必要があり、上記のように、多糖類で食物繊維のひとつであるアルギン酸のような安全な材料を用いることが好ましい。
また、カプセルを切断すると、図4(b)、(c)のように、香料の核がひとつ存在する単核構造や、複数存在する多核構造になっている。その上で、香りカプセル6を使用する際には、図5に示すように、内部に存在する核の香り成分が気化しやすいように、通気孔を設ける。香りカプセル6の通気孔は、表面から中心に向かって開ける場合、表面から中心を通って貫通する場合、それらを複数設ける場合、表面から多数の通気孔を放射状に開ける場合、またそれらを組み合わせることで、香りカプセル内部の香り成分の気化を促進させる。
【0015】
図5(a)は、香りカプセル6にひとつの通気孔34aを設けた場合の香りカプセル6の外観図、図5(b)はその際の断面図であり、通気孔の先端は香りカプセル6の中心部まで来ている。図5(c)は、通気孔34bが香りカプセル6を突き抜けている場合である。図5(d)は、香りカプセル6に対して通気孔34cを放射状に設けた場合である。図5(e)は、香りカプセル6に対して、お互いに平行な通気孔34dを設けた場合である。このように、通気孔には種々の形態が存在する。また、多核の香りカプセルの場合でも同様な通気孔を設けることができる。
【0016】
その通気孔の有用性を図6、7に示す。図6は、通気孔を設けた場合の香りカプセル6からの香り成分の強度変化、図7は通気孔を設けない場合の香りカプセル6からの香り成分の強度変化を示しており、どちらの場合も半導体センサーで香り成分の信号を検出している。また、図6、7では香り成分として、天然香料のプチグレインとセージを内包した直径5mm程度のアルギン酸で作製された香りカプセルの場合を示しているが、他の成分でも同様である。図7に示すように、通気孔を設けていない場合には、時間とともに香り成分の信号は急激に減少しており、特にセージの場合には5時間程度でほぼゼロになっている。これは、香りカプセル内部の香り成分の気化速度は、表面についた香り成分の気化速度に比較して非常に小さいので、香りカプセル表面についた香り成分が気化した後は、香りカプセル内部の香り成分がほとんど気化していないためである。一方、香りカプセル6に通気孔を設けた場合の結果を図6に示す。このとき、0.5mmの直径の通気孔を香りカプセル6の中心まで開けている。
【0017】
この結果からわかるように、香りカプセル6の香り成分の信号は、図7の通気孔を設けていない場合に比較して、長時間持続しているとともに、最初の数時間の信号レベルは倍程度になっていることがわかる。また、図6において、最初の段階で信号の強度が高いのは、香りカプセル表面と香りカプセル内部からの香り成分の気化が合算されているためであり、香りカプセル表面の香り成分がなくなる3、4時間が経過すると、香りカプセル内部からの香り成分の気化だけになり、これは少なくとも24時間は安定しており、この結果からも香りカプセルに通気孔を設けることが有用であることがわかる。
【0018】
ひとつの貫通した通気孔の穴の半径の範囲は以下のようにして決定できる。例えば、図8に示すような、香りカプセルの中心部に、半径r0の通気孔を貫通させて設けた場合の香りカプセルからの香りの発生量Iは、簡単には、露出した香りカプセル内部の表面積Sに比例するので、通過孔の半径r0を用いて次式で表される。
I∝S=4πr0(R2-r02)1/2
ここでRは香りカプセルの半径である。例えば、R=2.5mmの香りカプセルを考えると、
I∝S=4πr0(2.52-r02)1/2
となる。このときのSとr0の関係を図8に示した。この結果からわかるように、表面積が最大となるのは半径が1.8mm程度のときであり、香りカプセルからの香りの発生量を最大にするという観点からはこの程度の大きさの通過孔にすることが望ましい。一方、アルギン酸のような高分子膜でできた香りカプセルに、このような大きな通過孔を設けることは香りカプセルの構造が脆弱になることから望ましくなく、実際の加工の状態から判断すると、通過孔の半径は4πr0(R2-r02)1/2の値が最大となるときの値以下に抑えるべきである。高分子膜のような香りカプセルに使用可能な金属ドリルの最小半径が0.015mm程度である加工技術の現状を考え合わせると、通過孔の半径は、0.015mmから4πr0(R2-r02)1/2の値が最大となるときの値の間にするのが良い。気体の香り成分分子の香りカプセルからの拡散は、半径が0.015mmの通過孔であれば十分で可能であり、また、図8からもわかるように、通過孔の半径を変化させることは香り発生量を変化させることにも対応するので、香り発生量を制御することも可能である。
【0019】
一方、通気孔を複数設ける場合でもその半径に関してはほぼ同様の考え方であり、ひとつの通過孔の半径は4πr0(R2-r02)1/2の値が最大となるときの値よりも小さくし、香りカプセルの構造が維持できる程度に通気孔の半径を制限することが重要である。
【0020】
図10は、プチグレイン、ペパーミント、セージの3種類の通気孔を設けた香りカプセルを実際に香り発生装置にセットし、半導体センサーで計測を行った結果である。3つのバルブを開けるには、図9に示すように、それぞれのバルブについて、1秒間8V程度印加、1秒間通電休止を繰り返している。この間、送風用ファン10は常に同じ風量で稼動させており、その風量は電圧制御により可変できる。風量は使用する条件に合わせて制御することになるが、本発明のような香り発生装置の場合では、1ミリリットル/秒から1000ミリリットル/秒の間である。このように、バルブ5と通気孔付きの香りカプセル6を用いることにより、使用者の希望に応じて多数の香り成分を切り替えて出すことが容易となる。また、図中で実線と破線で示したグラフがあるが、同じ測定を3回行った結果を同時に示しており、これからも本発明が安定に異なる香りを発生できていることがわかる。
【0021】
図11には、香りカプセルカートリッジ7の構造の一例を示している。香りカプセルを取り扱う際の課題のひとつは、香りカプセルの供給方法である。気化しやすい香り成分を長期間安定に保存し、供給できるようにすることは産業上非常に重要である。本発明のような高分子膜を用いた香りカプセルでは、香りカプセル内部の香り成分は気化速度が遅いことを利用した香りカプセルの安定した供給方法が可能となる。図11(a)には、ドリル付き香りカプセル押さえ37aのついた香りカプセル用蓋36が香りカプセルカートリッジ7の上に設けられた状態を示している。香りカプセル6を使用する直前に、ドリル付き香りカプセル押さえ37aを手動でねじ込み、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6に通気孔を作製した後、香りカプセルカートリッジ7を、香り発生装置1に挿入して、香り発生装置の使用を開始する。図3に示すように、香りカプセルカートリッジ7は、バルブガイド22と香りカプセルカートリッジ用板ばね32a、32bの間に滑り込ませることによって簡単に装着できるようにすることは、香り成分が使用する環境にあまり拡散しないように短時間で作業するために非常に重要である。
【0022】
一方、図12に示すような使用方法もある。図12(a)は、香りカプセル用蓋36、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bを備えた香りカプセルカートリッジ7を示している。香りカプセル用蓋36によって蓋をされた香りカプセルカートリッジ7として供給された場合、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6を使用するには、以下のような手順による。
【0023】
まず、使用する直前に、香りカプセルカートリッジ7に設けたドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bを手動でねじ込み、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6に通気孔を設ける。このときの、香りカプセルカートリッジ7の構造の一例を図12(b)に示したが、図12(c)に示すようなドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bの先端についたドリル38をねじ込むことによって、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6に通気孔を容易に開けることができる。通気孔を開けた後は、ドリル38を元の位置に戻し、通気孔から香りが発生しやすい状態にしておく。香りカプセルが香りカプセル押さえ30によって固定されているので、この操作が可能となる。このとき、できるだけ多くの香りカプセルに対応して、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bを香りカプセルカートリッジ7の側面から操作できるようにすることは、空間の有効利用の観点から重要である。
【0024】
図13に、複数の香りカプセル保持穴35の配置例を示した。図13(a)に示した場合のように、ひとつの側面に対して香りカプセル保持穴35を縦一列に並べると、ドリル付き香りカプセル押さえ37aは側面から導入せざるを得ないので、香りカプセル保持穴35は縦2列しか配置できない。図13(a)のように、例えば、香りカプセルカートリッジ7として30mm四方のブロックに、直径5mmの香りカプセル保持穴35を配置する場合には、縦4個の2列で合計8個の香りカプセル保持穴35しか設けることができない。一方、同じ大きさのブロックでも、香りカプセル保持穴35を外2列と内2列で側面からの位置をずらして配置すると、縦3個の4列で合計12個の香りカプセル保持穴35を設けることができる。また、図13(a)のような場合であると、香りカプセルの数を増やしたい場合には、数が増えれば増えるほど縦長の香りカプセルカートリッジ7にならざるを得ないのに対して、図13(b)のような構造にすることによって、このような欠点を軽減することができる。また、香りカートリッジ7を使用しない場合には、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37b先端のドリル38を香りカプセルに再度ねじ込み、香りカプセルからの香り成分の揮発を抑えることは有用である。
【0025】
実際の香りカプセルカートリッジ7の大きさの設計は以下のように行う。ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bのドリル38の軸部分の直径をRCmm(数mm程度)、外列、内列における縦に並ぶ香りカプセル保持穴35の個数をNとすると、香りカプセルカートリッジに必要な最低の縦の長さ
=N×L+(N−1)×RC+0.7L
と表される。ここで、Lmmは香りカプセル保持穴35を塞ぐのに必要なバルブ先端29のバルブつば65の部分の大きさである。例えば、直径5mmの香りカプセル保持穴を塞ぐのに、直径7mmのつば部分を用いるとすると、L=7mmである。図13(c)に示したように、最後の項の0.7Lは、つば部分を含めたバルブ先端が内接する場合を考慮した値である。一方、同様に、
香りカプセルカートリッジに必要な最低の横の長さ
=2L+1.4L=3.4L
と表される。ここで求めた香りカプセルカートリッジに必要な最低の縦の長さと最低の横の長さから、必要な香りカプセル保持穴の数(4N)を考慮して設計することとなる。
【0026】
以上のようにして、香りカプセルに通気孔を開けた後、図1(b)に示すように、香りカプセルカートリッジ7を、バルブガイド22と香りカプセル保持部用板ばね32a、32bの間に滑り込ませ装着する。
【0027】
なお、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bの駆動を自動化することも可能である。図13のように、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37b先端のドリル38を手動で回転させるのではなく、PCで制御された小型のステッピングモータなどで先端のドリル38を駆動するようにもできる。この場合、以下のようなシーケンスが考えられる。すなわち、最初に香り発生装置1を立ち上げた際に、香りカプセルカートリッジ7に設けられた小型のステッピングモータで、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37b先端のドリル38を回転させ、全ての香りカプセル6に通気孔を設ける。また、香り発生装置1を停止させる前に、再度ドリル38を香りカプセル6にねじ込み、香りカプセル6内部の香り成分の揮発を抑制するシーケンスを併せ持たせることもできる。他のシーケンスとして、発生させるべき香りの順番がプログラミングされている場合には、香りを発生させる時刻の直前に、小型のステッピングモータでドリル38を駆動して対象となる香りカプセル6に通気孔を開け、その上でバルブを開けるようにしてもよい。この際にも、香り発生終了後、再度ドリル38を香りカプセル6にねじ込み、香りカプセル6内部の香り成分の揮発を抑制するシーケンスを併せ持たせることもできる。
【0028】
これまで、同一時間にひとつのバルブだけを動作させる場合について述べてきたが、当然のことながら同時に複数動作させて香りを混合させることも可能である。このとき、これまで述べてきたような形状記憶合金を用いたバルブを使用する場合には、図14に示すようなシーケンスを組んで、2個のバルブを開状態にするのに使用する電流量を抑えることが可能である。すなわち、バルブ1とバルブ2の間で通電を交互に行い、使用する電流量をバルブひとつの動作時と同等に抑えるということである。これは、形状記憶合金を用いたバルブではバルブ閉状態に要する時間が長いということを利用している。バルブ開状態に要する時間が数十ミリ秒から数百ミリ秒であり、バルブ閉状態に要する時間が1、2秒であるので、交互に通電することによって、3個以上のバルブを同時に開状態にする、複数バルブ同時駆動も可能であることは言うまでもない。
【0029】
図15は、香りカプセル6の温度による香り成分の信号強度の変化を示したものである。温度が上昇することによって信号が急激に増加していることがわかる。一般に、液体純成分の飽和蒸気圧Pは、Antoineの式により、温度T(絶対温度K)を用いて以下のように表される。
P=exp(A−B/(T+C))
ここで、A、B、Cは成分特有の定数である。センサー信号強度は飽和蒸気圧に比例し、せまい温度範囲では、A−B/(T+C)はαT+β(α、βは定数)と近似できると仮定すると、センサー信号強度Iは
I=γexp(αT)
と単純に表すことができる。このときγは定数である。実際に図15の結果(香り成分プチグレイン)に適用すると、同じ図に示すように、0.97という高い相関係数で、今回得られた信号強度変化は
I=3×10−7exp(0.0619T)
と表すことができる。これは、今回作製したアルギン酸膜の香りカプセル6から発生する香り成分の量は、ほぼその溶液の飽和蒸気圧の関数で近似されるということを意味しており、香り発生量を変化させる際に重要な指標となる。すなわち、香り成分の発生量を一桁程度のダイナミックレンジで変化させることができる。他の香り成分でも、γやαの値は異なるものの、同様なことが言える。
【0030】
また、この結果は、香りカプセル6の寿命を推定するのに使用できる。例えば、通気孔0.5mmを有する直径5mm程度の香りカプセルを、香りカプセルの最高使用温度のひとつT0(例えば60℃)に設定して、どの程度の時間で香りが発生しなくなるかを計測する。この時間tAは香り成分がなくなる迄の時間なので、これに対してどの程度の相対的使用時間になったかで、香りのカプセルの寿命を判断する方式である。例えば、温度T1でバルブ開時の時間t1、温度T2でバルブ開時の時間t2、温度T3でバルブ開時の時間t3で駆動したときの、相対的使用時間tRは、
tR=(t1/exp(α×(T1−T0))
+(t2/exp(α×(T2−T0))
+(t3/exp(α×(T3−T0))
となる。ここで、αは香りによって決定される定数である。従って、香りカプセルの相対的寿命LRは、(tR/tA)×100%で表される。これにより、図16に示すようなアルゴリズムを組むことによって、香りカプセルの使用状況、交換時期について警告メッセージを出すことが可能となる。このアルゴリズムでは、LRが70%、またはLRが90%を越えたときに警告を出すようになっている。なお、香りの種類、通気孔の状態によってtAは異なるので、いろいろな状態でのtAのデータベースを作成しておき、あらかじめ入力しておいた香りカプセルの状態(香りの種類、通気孔の状態)にあわせ、上に述べた(tR/tA)×100%の計算式に基づいて、LRについての表示結果を出すようにしてもよい。
【0031】
一方、以下のように推定することもできる。例えば、通気孔0.5mmを有する直径5mm程度の香りカプセル(香り成分量10マイクロリットル程度)について、香りカプセルの最高使用温度のひとつT0(例えば60℃)に設定して、どの程度の時間で香りが発生しなくなるかの時間tAを計測する。このときの単位時間当たりの気化量V0を、ガスクロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー/質量分析法などにより計測しておくと、その香りカプセルからの総気化量V1は、
V1=V0×tA
となる。V0は香り成分、通気孔の状態によって異なるので、それぞれ状態でのデータを積み上げてデータベース化しておくと良い。従って、温度T1でバルブ開時の時間t1、温度T2でバルブ開時の時間t2、温度T3でバルブ開時の時間t3で駆動したときの、香りカプセルからの総気化量V2は、
V2=(V0×t1×exp(α×(T1−T0))
+(V0×t2×exp(α×(T2−T0))
+(V0×t3×exp(α×(T3−T0))
と推定できる。ここで、αは香りによって決定される定数である。従って、香りカプセルの相対的寿命LRは、(V2/V1)×100%で表される。これにより、図16に示すようなアルゴリズムを組むことによって、香りカプセルの使用状況、交換時期について警告メッセージを出すことが可能となる。このアルゴリズムでは、LRが70%、またはLRが90%を越えたときに警告を出すようになっている。なお、香りの種類、通気孔の状態によってV0は異なるので、いろいろな状態でのtAのデータベースを作成しておき、あらかじめ入力しておいた香りカプセルの状態(香りの種類、通気孔の状態)にあわせ、上に述べた(V2/V1)×100%の計算式に基づいて、LRについての表示結果を出すようにしてもよい。
【0032】
また、香りカプセル近傍に半導体センサーを配置してその強度変化を計測することによっても交換時期を把握することは可能である。
【0033】
図17には、香りカプセルが複数存在し、それを個別に温度制御する場合を示している。個別に温度制御するには、ペルチェ素子40を用いることが有用であり、この場合には、香りカプセル6を内包する香りカプセル保持ブロック39は隣のブロックとの熱の移動を低く抑えるために、断熱材41を間に挟むことが必要となる。
【0034】
以上、香りカプセル6の温度制御について述べてきたが、香りカプセルカートリッジ7全体をペルチェ素子で温度制御することも有用である。外気温が高い場合には香りカプセルカートリッジ7を適温に冷却し、逆に外気温が低い場合には適温に加熱できるからである。これにより、室外、自動車内のような温度変化の激しいところでも使用が可能になる。
【0035】
また、香りカプセルの温度制御と複数バルブの同時駆動をあわせることによって、香りの強度のダイナミックレンジを拡大することも可能である。例えば、同じ種類の香りカプセルを4個入れておき、先に述べた複数バルブの同時駆動シーケンスによって、4個の香りカプセルから香りをほぼ同時に発生させて、香りの強度を4倍程度にすることが可能である。これを一桁程度のダイナミックレンジを持つ香りカプセルの温度制御と組み合わせることによって、4×10=40倍の香りの強度のダイナミックレンジを確保できる。すなわち、香りの強さに関して2桁程度のダイナミックレンジを本発明により実現可能となる。
【0036】
なお、バルブについては形状記憶合金を用いたバルブの場合について述べてきたが、本発明の本質は、通気孔を設けた高分子膜による香りカプセルにあり、香り発生装置として、ソレノイドバルブ、ステッピングモータによるバルブなど、他の形態のバルブを用いても良いことは言うまでもない。
【0037】
一方、香りカプセルカートリッジ7をユニット化することによって、発生させる香り成分が大幅に増える場合でも、増設が簡単に可能になる。図3に示した構造体をユニット化すると、ひとつの香りカプセルカートリッジユニット42a、42b、42cに9個の香りカプセルを保持できる場合、収納できる香りカプセルの種類は、図18の場合、9×3=27と簡単に増設することができる。これは、香りの原臭が決定されておらず、多様な香りを発生させるために多くの香り成分を準備せざるを得ない場合を考えると、有用な方法である。
【0038】
さらに、元々が固体の香り成分の場合には、香りカプセルの形態は必要はない。図19に示すような、固体試料44を内包し、香り容器用通気孔45を有する香り容器43を香りカプセル保持穴35に配置すればよい。このときは、元々が液体の香り成分用の香りカプセル6と、元々が固体の香り成分用の香り容器43が、香りカプセルカートリッジ7の中で共存することになる。
また、香りカプセルは球状に限らず、円柱形上、角柱形状等の立体形状であればよい。
【実施例2】
【0039】
本発明によれば、複数の香り成分を簡単に発生させることが可能になるので、いろいろな応用がある。駅構内、百貨店、市街などにおけるレストラン街の香り付き電子掲示板46はそのひとつである。
【0040】
図20はその一例を示しているが、店頭にある香り付き電子掲示板46において、あるレストランのディスプレイ49上の本日のメニューの映像に合わせ、スピーカ48a、48bからの音と香り発生口47からの香りを提示し、お客様の食欲を増進させ売り上げを伸ばす一助にしようというものである。図21(a)には、香り付き電子掲示板46の拡大図を示している。ここでは、あるレストランにおけるスペシャルメニュー紹介用の香り付き掲示板46の場合を説明する。本日のスペシャルメニュー(例えば、国産高級牛肉ステーキ)を紹介する表示50の下にある押しボタン51を押すと、ストレージに蓄積されたデータベース(調理映像、調理の際の音、調理の際の香りをひとつの組み合わせとしたデータセットの集まり)から必要な情報が読み出され、シェフが国産高級牛肉を調理している映像がディスプレイ49上に表示されると同時に、肉を焼いている際のジュージューという音がスピーカ48a、48bから流れ、また、肉を焼いているときの香りが香り発生口47から発生することになる。これによって、この掲示板の前に立っている人は、視覚、聴覚に加え、嗅覚も刺激されることになり、提示されたメニューに対する食欲が増すことになる。
【0041】
一方、香り発生口47には、香り付き電子掲示板46の前に立っている人に対して確実に香りを送るための工夫が必要である。図21(a)のように、平面的な香り発生口47を設けただけであると、鼻をこの香り発生口47に近づける必要があり、ディスプレイ上の画像が見にくくなる。そこで、図21(b)、あるいは図21(c)のように、香り発生口47に半面型香りガイド52、あるいは全面型香りガイド53を設けて、映像が見やすい位置からでも確実に香りを嗅げるようにすることは有効である。さらに、図22(a)のように、スピーカ付きパネル54と香り発生部およびスピーカ付きパネル55を、ディスプレイ49に対して折り曲げられるようにして、香り付き電子掲示板46の前に立っている人に対して、音と香りを届けやすいようにしてもよい。また、これに、図21(b)、図21(c)で述べたような半面型香りガイド52や全面型香りガイド53を設けたり、図23(b)に示すような、いろいろな方向に曲げることが可能な蛇腹型香りガイド56を設けることも有効である。
【0042】
以上のことを踏まえときの香り付き電子掲示板46のシステム構成の例を図24に示した。押しボタン51からの命令を入力すると、CPU57を通ってメモリ60に記憶される。メモリ60はその命令を処理するのに必要なプログラム(ディスプレイ49への表示プログラム、スピーカ48a、48bの動作プラグラム、香り発生装置1からの香りの提供プログラム)やデータ(上記のレストランの例では、調理映像、調理の際の音、調理の際の香りをひとつの組み合わせとしたデータセット)をストレージ61から読み込む。CPU57はメモリ60から情報を取り出して命令を処理し(上記のレストランの例では、押しボタン51に対応した、ディスプレイ49への調理映像の表示、スピーカ48a、48bからの調理の際の音の提供、香り発生装置1からの調理の際の香りの提供)、結果(使用された映像、音、香りに対する押されたボタンの回数と押した時刻など)をメモリに書き込む。この後、必要な情報はメモリ60からストレージ61に書き込まれる。また、必要な情報はネットワーク62を介して外部に取り出すことができるので、この情報をもとに、香り付き電子掲示板46における香り発生装置1の香りカプセル6の交換を含めたメンテナンスを行うことができる。さらに、このようなシステムで得られた情報はマーケティングに生かすことができる。表示50の情報にあわせて、押しボタン51の押された数はその表示に対する興味を示しているためである。特に、同一の押しボタン51を連続して押された場合の情報は重要であり、その表示と情報に関して非常に興味を抱いている証拠となる。
【0043】
一方、本発明における香り発生装置1を用いると異なる香りを簡単に出すことができるので、異なるメニューの画像を連続的に流して、それに合わせて異なる音と香りを提示することも可能となる。このような連続モードで香り付き電子掲示板46を作動させておいて人を引き付けた後、その人の興味のあるコンテンツを押しボタン51で作動させる押しボタンモードに移行させることは有効である。
【実施例3】
【0044】
本発明は、自動車内にも適用可能である。そのひとつは、カーナビ、あるいは高級車後席におけるディスプレイと連動させて、運転者、同乗者に対して、どこを運転しているかというカーナビの情報に合わせて、香りを提示するシステムである。海沿いをドライブする際には潮の香りを提示し、また草原をドライブする際には草花の香りを提示することなどにより、窓を閉めたままでもその土地土地でのドライブをより楽しむことができる。その際、音楽も同時に流しても良い。具体的には、カーナビ、あるいは高級車後席におけるディスプレイのメニューにおいて、“香り”というメインメニューを設けておき、このメニューをオンにした場合には、カーナビの地図情報に応じた香りを提示するというものである。しかし、いろいろな風景にあわせて非常に多くの香り成分を車に搭載することは現実的でないので、その日のドライブに応じて、以下のようなサブメニューを準備しておくことが有効である。本発明による香り発生装置1では、香りカプセルカートリッジ7によって簡単に香りカプセルのセットを変えることができるので
これが可能となる。
(1) メインメニュー(カーナビ情報にあわせて香りを出すモード)
(2) サブメニュー(1)(都市部運転モード(例:気持ちを落ち着かせる香りのセット))
サブメニュー(2)(森林地帯運転モード(例:森林の香りのセット)
サブメニュー(3)(草原地帯運転モード(例:草花の香りのセット))
サブメニュー(4)(海岸地帯運転モード(例:海の香りのセット))
サブメニュー(5)(お気に入り運転モード(例:自分の好きな香りのセット))
このサブメニューにあわせて、地図情報から運転している場所の情報(都市部か、森林地帯か、草原地帯か、海岸地帯かなど)を引き出し、サブメニューを作動させる。また、このように、サブメニューが増えてくると、その香りカプセルカートリッジ7の数が増えてくるので、図25に示すように、香り発生装置1を車64のトランク内に設けるのが良く、そこから配管63を通して、後席あるいは運転席座席の近傍(図25(a)、図25(c)のような座席シートのヘッドレスト部分、あるいは図25(b)のような車内の天井部分)で香りを発生させるようにすれば良い。
【0045】
また、単純に、車内の香りを一定周期で変えることも有用である。これは、人間の鼻に存在する嗅細胞は疲労しやすいため、同じ香りを長く嗅いでいるとその香りを感じなくなるためである。柑橘系の香りを好む運転者、あるいは同乗者に、一定時間毎に、グレープフルーツ、マンダリン、オレンジなどの異なる香りを提示することは、運転者、同乗者にドライブを楽しませる、運転者を覚醒させる、渋滞中でも運転者や同乗者の気持ちを落ち着かせるなどの観点からも有用である。さらに、長時間のドライブ、あるいは長時間のドライブにおいて、居眠り運転、脇見運転を防ぐために、メントールなどの覚醒系の香りを運転者に周期的に提示するシステムを設けることも、自動車の安全性確保の観点から重要である。
【実施例4】
【0046】
本発明は、香りを重要視する商品案内ディスプレイにも適用可能である。例えば、香水ではその香りそのものの嗅覚情報も重要であるが、どういう服装のときに合うか、どういう場所に合うかなどの視覚情報もあわせて考えることは重要である。このようなときに、ある服装で向こうからこちらに歩いてくる女性の映像を見ながら、香水の香りを次第に強く提示することによって、その香水の持つイメージを考える商品案内ディスプレイは有用である。このような商品案内ディスプレイは、香水以外の化粧品、コーヒーなどの飲料、食品、香辛料などにも適用可能である。
【実施例5】
【0047】
本発明は、臨場感あふれるゲームに適用可能である。これまでゲームは視覚情報と聴覚情報を主体に作成されてきたが、本発明を用いることにより、嗅覚情報もあわせ持つことになり、香りカートリッジ付きのゲームのような新しいゲームのジャンルを創造することが可能になる。例えば、ゲーム機本体に加えて香り発生装置を持っている人は、あるゲームに付属している香りカートリッジを購入することによって、ゲームに合わせた香りを楽しむことができる。料理レシピのゲームコンテンツ、世界の料理のゲームコンテンツ、コーヒーの香りのゲームコンテンツ、ワインの香りのゲームコンテンツ、森林浴のゲームコンテンツなど幅広い展開が可能である。
【実施例6】
【0048】
本発明は、オフィス内にも適用可能である。疲労回復にはグレープフルーツやペパーミントなどの香りが良いとされているが、これを仕事中に定期的に提示することによって、仕事の効率を上げることが可能となる。例えば、1時間の仕事のブレークとして、個人が好きな香りを発生させてリフレッシュするシステムや、長時間の会議中に疲労回復のための香りを発生させるシステムが可能になる。
【実施例7】
【0049】
本発明は、家庭内にも適用可能である。個人がそれぞれ好きな香りを複数楽しむことができるし、高齢者には、昔なつかしい映像、音楽に合わせ、それとリンクする香りを提示することによって、脳活性化の手段として使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による香り発生装置は、香り付きディスプレイ、商品案内ディスプレイなどの情報分野、快適ドライブ空間実現に向けた自動車分野、仕事効率化に向けたオフィス分野、臨場感あふれるゲーム実現に向けたゲーム分野、快適空間創造のためのホーム分野など、多岐にわたる応用が見込める。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の香り発生装置の断面図。
【図2】本発明の香り発生装置の外観図。
【図3】本発明の香り発生装置のバルブ図。
【図4】本発明の香りカプセル外観図と断面図。
【図5】本発明の通気孔のある香りカプセルの外観図と断面図。
【図6】本発明の通気孔を設けた香りカプセルからの香りの放出量の時間変化。
【図7】通気孔を設けない香りカプセルからの香り放出量の時間変化。
【図8】本発明における通気孔の半径と香りカプセル内部の露出表面積との関係。
【図9】本発明のバルブ制御シーケンス。
【図10】本発明におけるバルブ制御による異なる香りの放出例。
【図11】本発明の香り発生装置カートリッジの一例の図。
【図12】本発明の香り発生装置カートリッジの一例の図。
【図13】本発明の香り発生装置カートリッジの一例の図。
【図14】本発明の香り発生装置の複数バルブを駆動する際のシーケンス。
【図15】本発明の香りカプセルにおける香りの強さの温度変化。
【図16】本発明の香り発生装置のカートリッジ交換時期表示のアルゴリズム。
【図17】本発明の香り発生装置の個別温度制御の図。
【図18】本発明の香りカプセルカートリッジユニットの図。
【図19】本発明の固体試料向け香り容器の図。
【図20】本発明の香り付き電子掲示板の図。
【図21】本発明のディスプレイの一例の図。
【図22】本発明のディスプレイの一例の図。
【図23】本発明のディスプレイの香りガイドの図。
【図24】本発明の制御部の図。
【図25】本発明の自動車における利用の図。
【符号の説明】
【0052】
1・・・香り発生装置、2・・・香り発生部、3・・・シリンダー制御回路、4・・・シリンダー制御回路用ケーブル、5・・・バルブ、6・・・香りカプセル、7・・・香りカプセルカートリッジ、8・・・ヒータ、9・・・香りカプセルカートリッジ支え、10・・・送風用ファン、11・・・送風ガイド、12・・・送風出口、13・・・香り発生装置支え、14・・・角度可変用レバー、15・・・香り発生装置用台、16・・・香り発生装置制御部、17・・・香り発生部支柱、18・・・人工筋肉ガイド、19・・・香り発生部ブロック、20・・・香り発生部送風ガイド、21・・・シリンダガイド、22・・・バルブガイド、23・・・香り発生部支え板、24・・・人工筋肉、25・・・バルブ用ばね、26・・・ばね押さえ、27・・・シリンダー、28・・・人工筋肉支え、29・・・バルブ先端、30・・・香りカプセル押さえ、31・・・ヒータケーブル、32a、32b・・・香りカプセル保持部用板ばね、33a、33b・・・香り成分の核、34a、34b、34c・・・香りカプセル通気孔、35・・・香りカプセル保持穴、36・・・香りカプセル用蓋、37a、37b・・・ドリル付き香りカプセル押さえ、38・・・ドリル、39・・・香りカプセル保持ブロック、40・・・ペルチェ素子、41・・・保持用断熱材、42a、42b、42c・・・香りカプセルカートリッジユニット、43・・・香り容器、44・・・固体試料、45・・・香り容器用通気孔、46・・・香り付き電子掲示板、47・・・香り発生口、48a、48b・・・スピーカ、49・・・ディスプレイ、50・・・表示、51・・・押しボタン、52・・・半面型香りガイド、53・・・全面型香りガイド、54・・・スピーカ付きパネル、55・・・香り発生部およびスピーカ付きパネル、56・・・蛇腹型香りガイド、57・・・CPU、58・・・バス、59a、59b・・・チップセット、60・・・メモリ、61・・・ストレージ、62・・・ネットワーク、63・・・香り用配管、64・・・車、65・・・バルブつば。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の香りを長時間安定して発生させるための香り源、およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、香りを発生させる技術に関しては、液体を気化させる方法、液滴を生成させそれを気化させる方法など、種々の方法が提案されている。一方、香り源を取り扱いやすくするために、特許文献1、特許文献2に記載されているような固体の香り源、すなわち、多孔質材料とこの多孔質材料の表面に付着した液体香り成分からなる香り源、また特許文献3に記載されている固体またはゲル状の香料、あるいは固形物に液体の香料を含浸させたものから成る香り源を用いた例がある。一方、特許文献4には、複数の香り物質を簡単に交換できるカートリッジの方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−310740
【特許文献2】特開2003−343870
【特許文献3】特開2004−121594
【特許文献4】特開2005−304609
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体の香り源に比較して、固体の香り源を用いることにより、搬送などの際に液漏れがないなど、その取り扱いは非常に楽になる。しかし、特許文献1、2、3に記載されているように、多孔質材料の表面についたもの、固形物に液体の香料を含浸させたものを香り源にすると、材料内部の香り成分の気化速度は、材料表面についた香り成分の気化速度に比較して非常に遅いため、材料表面についた香り源がすべて気化してしまうと、実質的に香りの供給が停止し、長時間安定に香りを発生させることができないという欠点があった。
また、このために、長時間香りを発生させるためには、同じ香り成分のついた固体材料を複数、あるいは多数準備する必要があり、ひとつの香り成分に対して装置内の多くのスペースを割く必要があった。さらに、固体材料の表面についた香り成分の気化速度は、それを内蔵する香り発生装置自体の温度の変化に敏感になり、香り成分の発生量を細かく制御することが困難になるという欠点があった。
【0005】
また、特許文献4に記載されているように、複数の香り成分をカートリッジ化することによって、香り成分の交換を簡単に行うことができるが、いつカートリッジを交換すれば良いのかを自分で判断しなければならないという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、高分子膜中に液体状の香り成分を封入し、しかも内部に封入された香り成分の気化を促進するために、香り成分の通気孔を単一、あるいは複数設けた香りカプセルを用いる。香りカプセル自体に通気孔を加工するため、香りカプセルの材料にはその加工がしやすい高分子膜を用いる。
また、複数の香り成分を発生させるために、香りカプセルを複数配置したカートリッジを備えた香り発生装置を用いる。この際、香りカプセル、あるいはカートリッジそのものの交換時期を明確にするため、香りカプセルの使用状況を計測し、カートリッジ交換時期を表示する。香りカプセルの使用状況の確認は、香りカプセルと対になって設けられたバルブの開閉回数をカウントする、香りカプセル近傍に半導体センサーを配置してその強度変化を計測することなどによって行う。一方、カートリッジをユニット化することによって、発生させる香り成分が増える場合でも、増設が簡単に可能になる。
【発明の効果】
【0007】
固体の香り源でありながら液体の香り成分と同等の蒸気圧を有し、長時間香りが持続し、且つ加工しやすく安全な材料であるという条件を満たす香りカプセル及びコンパクト且つ多数の香りを供給可能な香り発生装置を提供できる。
【実施例1】
【0008】
図1に、最初の実施例である香り発生装置1を示す。この香り発生装置1は香り発生部2を内蔵しており、この香り発生部2は、シリンダー制御回路3、シリンダー制御回路用ケーブル4、バルブ5、香りカプセル6、香りカプセルカートリッジ7、ヒータ8、香りカプセルカートリッジ支え9より構成される。香りカプセルカートリッジ7で発生した香り成分は、送風ファン10により、送風ガイド11を通して、送風出口より装置外に送られる。また、香りカプセルカートリッジ7は、香りカプセルカートリッジ支え9によって、香り発生装置1の筐体内に固定されている。さらに、送風出口12の水平面に対する角度は、香り発生装置支え13を通して、香り発生装置用台15上に設けられた角度可変用レバー14により可変にできる。これは、香り発生装置1からの香りを嗅ぐ人の位置によって、送風出口12の位置を変えるためである。
【0009】
図2は、香り発生装置1を正面からみた図であるが、バルブ5やヒータ8の制御は、シリンダー制御回路用ケーブル4を介して、香り発生装置制御部16によって行う。
【0010】
図3に、香り発生部2の詳細を示している。この例では、線材自体に通電すると収縮し、通電をやめると元にもどる性質を持つ形状記憶合金による人工筋肉を用いたバルブを用いている。このバルブ5が開くと、香りカプセル保持穴35内に封じこまれていた香りカプセル6から気化した香り成分が外に出て、図3中に矢印で示された、送風用ファン10からの風によって香り発生装置外に送り出されることになる。ここでは、香り成分を送り出すのに、ファンを用いているが、ダイアフラムポンプのようなポンプを用いることもできる。
この形状記憶合金は、通電を継続すると素材を傷めることになるので、通電のオンオフ制御が必要になるが、通電のオンオフ制御によりバルブ先端をほぼ定位置に保持することが可能であること、バルブの開閉が静かであること、オンオフ制御により消費電力量を小さくできる、高い微小運動も可能であるなどの特徴を有し、今回のようなバルブには好適であると考えられる。香り発生部支柱7と香り発生部ブロック19に支えられた人工筋肉ガイド18により、人工筋肉24がシリンダー27の内部に設けられた人工筋肉支え28を通して、シリンダー27とバルブ先端29を支えるようになっている。このような構造にすることによって、人工筋肉24に通電すると人工筋肉が収縮してバルブ先端29がバルブガイド22から上がり、香りカプセルカートリッジ7に存在する香りカプセル6の上の空間が開き、香りカプセル6からの香り成分が外に漏れ出すことになる。このとき、香りカプセル6は、外にころがり出ないように、メッシュのような構造を持つ香りカプセル押さえ30によって固定されていることがのぞましい。また、人工筋肉24に通電するので、この材料が接する部分は絶縁材であることが必要である。従って、図に示した、人工筋肉ガイド18、シリンダー27、バルブ先端29は、べスペル材、PEEK材などのような絶縁材である。
【0011】
一方、人工筋肉24に通電をやめると、人工筋肉24の長さは元に戻るのでバルブ先端29はバルブガイド22におさまる。バルブが閉じる際の時定数を短くするために、人工筋肉ガイド18とばね押さえ26の間に、バルブ用ばね25を設けて開いた状態のバルブを押しもどすようにしておくことは重要である。バルブ先端29において5mmの駆動距離を確保するには、人工筋肉24の伸縮距離が5%程度であることを考慮して、人工筋肉24全長を100mm程度としている。
【0012】
図3における香りカプセルカートリッジ7では、直径が5mm、深さ5mmの円柱状の9個の縦穴に、直径が5mm程度の香りカプセル6を配置する。香りカプセルカートリッジ7をカートリッジヒータのようなヒータ8によりヒータケーブル31を介して室温から100℃程度まで温度制御できるようにしてある。香りカプセルカートリッジ7とバルブガイド22の面の接触性をよくするために、香りカプセルカートリッジ用板ばね32a、32bにより、バルブガイド22の面に対して香りカプセルカートリッジ7の面を押し付ける構造とし、隙間から香りが逃げないようにすることは重要である。
【0013】
香りカプセル6は、天然あるいは合成の香料を用いて、多糖類で食物繊維のひとつであるアルギン酸により直径が5mm程度のカプセルとして作製し、その作製は液中硬化被膜法で行っている。具体的には、アルギン酸ナトリウム水溶液が塩化カリウム溶液の中に入るとゲルになってゼリー状に固まることを利用しており、二重ノズルの内側に香り成分を、外側にアルギン酸ナトリウム水溶液を流して、塩化カリウム溶液の中に滴下することによって、香りカプセルが生成される。
【0014】
図4(a)に示すように、外観上は球形をしており、その色は内包する香料の元の色を反映し、黄色やオレンジ色のカプセルになっている。香りカプセル6に用いる高分子膜の材料は、人に対する安全性を考える必要があり、上記のように、多糖類で食物繊維のひとつであるアルギン酸のような安全な材料を用いることが好ましい。
また、カプセルを切断すると、図4(b)、(c)のように、香料の核がひとつ存在する単核構造や、複数存在する多核構造になっている。その上で、香りカプセル6を使用する際には、図5に示すように、内部に存在する核の香り成分が気化しやすいように、通気孔を設ける。香りカプセル6の通気孔は、表面から中心に向かって開ける場合、表面から中心を通って貫通する場合、それらを複数設ける場合、表面から多数の通気孔を放射状に開ける場合、またそれらを組み合わせることで、香りカプセル内部の香り成分の気化を促進させる。
【0015】
図5(a)は、香りカプセル6にひとつの通気孔34aを設けた場合の香りカプセル6の外観図、図5(b)はその際の断面図であり、通気孔の先端は香りカプセル6の中心部まで来ている。図5(c)は、通気孔34bが香りカプセル6を突き抜けている場合である。図5(d)は、香りカプセル6に対して通気孔34cを放射状に設けた場合である。図5(e)は、香りカプセル6に対して、お互いに平行な通気孔34dを設けた場合である。このように、通気孔には種々の形態が存在する。また、多核の香りカプセルの場合でも同様な通気孔を設けることができる。
【0016】
その通気孔の有用性を図6、7に示す。図6は、通気孔を設けた場合の香りカプセル6からの香り成分の強度変化、図7は通気孔を設けない場合の香りカプセル6からの香り成分の強度変化を示しており、どちらの場合も半導体センサーで香り成分の信号を検出している。また、図6、7では香り成分として、天然香料のプチグレインとセージを内包した直径5mm程度のアルギン酸で作製された香りカプセルの場合を示しているが、他の成分でも同様である。図7に示すように、通気孔を設けていない場合には、時間とともに香り成分の信号は急激に減少しており、特にセージの場合には5時間程度でほぼゼロになっている。これは、香りカプセル内部の香り成分の気化速度は、表面についた香り成分の気化速度に比較して非常に小さいので、香りカプセル表面についた香り成分が気化した後は、香りカプセル内部の香り成分がほとんど気化していないためである。一方、香りカプセル6に通気孔を設けた場合の結果を図6に示す。このとき、0.5mmの直径の通気孔を香りカプセル6の中心まで開けている。
【0017】
この結果からわかるように、香りカプセル6の香り成分の信号は、図7の通気孔を設けていない場合に比較して、長時間持続しているとともに、最初の数時間の信号レベルは倍程度になっていることがわかる。また、図6において、最初の段階で信号の強度が高いのは、香りカプセル表面と香りカプセル内部からの香り成分の気化が合算されているためであり、香りカプセル表面の香り成分がなくなる3、4時間が経過すると、香りカプセル内部からの香り成分の気化だけになり、これは少なくとも24時間は安定しており、この結果からも香りカプセルに通気孔を設けることが有用であることがわかる。
【0018】
ひとつの貫通した通気孔の穴の半径の範囲は以下のようにして決定できる。例えば、図8に示すような、香りカプセルの中心部に、半径r0の通気孔を貫通させて設けた場合の香りカプセルからの香りの発生量Iは、簡単には、露出した香りカプセル内部の表面積Sに比例するので、通過孔の半径r0を用いて次式で表される。
I∝S=4πr0(R2-r02)1/2
ここでRは香りカプセルの半径である。例えば、R=2.5mmの香りカプセルを考えると、
I∝S=4πr0(2.52-r02)1/2
となる。このときのSとr0の関係を図8に示した。この結果からわかるように、表面積が最大となるのは半径が1.8mm程度のときであり、香りカプセルからの香りの発生量を最大にするという観点からはこの程度の大きさの通過孔にすることが望ましい。一方、アルギン酸のような高分子膜でできた香りカプセルに、このような大きな通過孔を設けることは香りカプセルの構造が脆弱になることから望ましくなく、実際の加工の状態から判断すると、通過孔の半径は4πr0(R2-r02)1/2の値が最大となるときの値以下に抑えるべきである。高分子膜のような香りカプセルに使用可能な金属ドリルの最小半径が0.015mm程度である加工技術の現状を考え合わせると、通過孔の半径は、0.015mmから4πr0(R2-r02)1/2の値が最大となるときの値の間にするのが良い。気体の香り成分分子の香りカプセルからの拡散は、半径が0.015mmの通過孔であれば十分で可能であり、また、図8からもわかるように、通過孔の半径を変化させることは香り発生量を変化させることにも対応するので、香り発生量を制御することも可能である。
【0019】
一方、通気孔を複数設ける場合でもその半径に関してはほぼ同様の考え方であり、ひとつの通過孔の半径は4πr0(R2-r02)1/2の値が最大となるときの値よりも小さくし、香りカプセルの構造が維持できる程度に通気孔の半径を制限することが重要である。
【0020】
図10は、プチグレイン、ペパーミント、セージの3種類の通気孔を設けた香りカプセルを実際に香り発生装置にセットし、半導体センサーで計測を行った結果である。3つのバルブを開けるには、図9に示すように、それぞれのバルブについて、1秒間8V程度印加、1秒間通電休止を繰り返している。この間、送風用ファン10は常に同じ風量で稼動させており、その風量は電圧制御により可変できる。風量は使用する条件に合わせて制御することになるが、本発明のような香り発生装置の場合では、1ミリリットル/秒から1000ミリリットル/秒の間である。このように、バルブ5と通気孔付きの香りカプセル6を用いることにより、使用者の希望に応じて多数の香り成分を切り替えて出すことが容易となる。また、図中で実線と破線で示したグラフがあるが、同じ測定を3回行った結果を同時に示しており、これからも本発明が安定に異なる香りを発生できていることがわかる。
【0021】
図11には、香りカプセルカートリッジ7の構造の一例を示している。香りカプセルを取り扱う際の課題のひとつは、香りカプセルの供給方法である。気化しやすい香り成分を長期間安定に保存し、供給できるようにすることは産業上非常に重要である。本発明のような高分子膜を用いた香りカプセルでは、香りカプセル内部の香り成分は気化速度が遅いことを利用した香りカプセルの安定した供給方法が可能となる。図11(a)には、ドリル付き香りカプセル押さえ37aのついた香りカプセル用蓋36が香りカプセルカートリッジ7の上に設けられた状態を示している。香りカプセル6を使用する直前に、ドリル付き香りカプセル押さえ37aを手動でねじ込み、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6に通気孔を作製した後、香りカプセルカートリッジ7を、香り発生装置1に挿入して、香り発生装置の使用を開始する。図3に示すように、香りカプセルカートリッジ7は、バルブガイド22と香りカプセルカートリッジ用板ばね32a、32bの間に滑り込ませることによって簡単に装着できるようにすることは、香り成分が使用する環境にあまり拡散しないように短時間で作業するために非常に重要である。
【0022】
一方、図12に示すような使用方法もある。図12(a)は、香りカプセル用蓋36、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bを備えた香りカプセルカートリッジ7を示している。香りカプセル用蓋36によって蓋をされた香りカプセルカートリッジ7として供給された場合、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6を使用するには、以下のような手順による。
【0023】
まず、使用する直前に、香りカプセルカートリッジ7に設けたドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bを手動でねじ込み、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6に通気孔を設ける。このときの、香りカプセルカートリッジ7の構造の一例を図12(b)に示したが、図12(c)に示すようなドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bの先端についたドリル38をねじ込むことによって、香りカプセル保持穴35中に存在する香りカプセル6に通気孔を容易に開けることができる。通気孔を開けた後は、ドリル38を元の位置に戻し、通気孔から香りが発生しやすい状態にしておく。香りカプセルが香りカプセル押さえ30によって固定されているので、この操作が可能となる。このとき、できるだけ多くの香りカプセルに対応して、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bを香りカプセルカートリッジ7の側面から操作できるようにすることは、空間の有効利用の観点から重要である。
【0024】
図13に、複数の香りカプセル保持穴35の配置例を示した。図13(a)に示した場合のように、ひとつの側面に対して香りカプセル保持穴35を縦一列に並べると、ドリル付き香りカプセル押さえ37aは側面から導入せざるを得ないので、香りカプセル保持穴35は縦2列しか配置できない。図13(a)のように、例えば、香りカプセルカートリッジ7として30mm四方のブロックに、直径5mmの香りカプセル保持穴35を配置する場合には、縦4個の2列で合計8個の香りカプセル保持穴35しか設けることができない。一方、同じ大きさのブロックでも、香りカプセル保持穴35を外2列と内2列で側面からの位置をずらして配置すると、縦3個の4列で合計12個の香りカプセル保持穴35を設けることができる。また、図13(a)のような場合であると、香りカプセルの数を増やしたい場合には、数が増えれば増えるほど縦長の香りカプセルカートリッジ7にならざるを得ないのに対して、図13(b)のような構造にすることによって、このような欠点を軽減することができる。また、香りカートリッジ7を使用しない場合には、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37b先端のドリル38を香りカプセルに再度ねじ込み、香りカプセルからの香り成分の揮発を抑えることは有用である。
【0025】
実際の香りカプセルカートリッジ7の大きさの設計は以下のように行う。ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bのドリル38の軸部分の直径をRCmm(数mm程度)、外列、内列における縦に並ぶ香りカプセル保持穴35の個数をNとすると、香りカプセルカートリッジに必要な最低の縦の長さ
=N×L+(N−1)×RC+0.7L
と表される。ここで、Lmmは香りカプセル保持穴35を塞ぐのに必要なバルブ先端29のバルブつば65の部分の大きさである。例えば、直径5mmの香りカプセル保持穴を塞ぐのに、直径7mmのつば部分を用いるとすると、L=7mmである。図13(c)に示したように、最後の項の0.7Lは、つば部分を含めたバルブ先端が内接する場合を考慮した値である。一方、同様に、
香りカプセルカートリッジに必要な最低の横の長さ
=2L+1.4L=3.4L
と表される。ここで求めた香りカプセルカートリッジに必要な最低の縦の長さと最低の横の長さから、必要な香りカプセル保持穴の数(4N)を考慮して設計することとなる。
【0026】
以上のようにして、香りカプセルに通気孔を開けた後、図1(b)に示すように、香りカプセルカートリッジ7を、バルブガイド22と香りカプセル保持部用板ばね32a、32bの間に滑り込ませ装着する。
【0027】
なお、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37bの駆動を自動化することも可能である。図13のように、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37b先端のドリル38を手動で回転させるのではなく、PCで制御された小型のステッピングモータなどで先端のドリル38を駆動するようにもできる。この場合、以下のようなシーケンスが考えられる。すなわち、最初に香り発生装置1を立ち上げた際に、香りカプセルカートリッジ7に設けられた小型のステッピングモータで、ドリル付き香りカプセル押さえ37a、37b先端のドリル38を回転させ、全ての香りカプセル6に通気孔を設ける。また、香り発生装置1を停止させる前に、再度ドリル38を香りカプセル6にねじ込み、香りカプセル6内部の香り成分の揮発を抑制するシーケンスを併せ持たせることもできる。他のシーケンスとして、発生させるべき香りの順番がプログラミングされている場合には、香りを発生させる時刻の直前に、小型のステッピングモータでドリル38を駆動して対象となる香りカプセル6に通気孔を開け、その上でバルブを開けるようにしてもよい。この際にも、香り発生終了後、再度ドリル38を香りカプセル6にねじ込み、香りカプセル6内部の香り成分の揮発を抑制するシーケンスを併せ持たせることもできる。
【0028】
これまで、同一時間にひとつのバルブだけを動作させる場合について述べてきたが、当然のことながら同時に複数動作させて香りを混合させることも可能である。このとき、これまで述べてきたような形状記憶合金を用いたバルブを使用する場合には、図14に示すようなシーケンスを組んで、2個のバルブを開状態にするのに使用する電流量を抑えることが可能である。すなわち、バルブ1とバルブ2の間で通電を交互に行い、使用する電流量をバルブひとつの動作時と同等に抑えるということである。これは、形状記憶合金を用いたバルブではバルブ閉状態に要する時間が長いということを利用している。バルブ開状態に要する時間が数十ミリ秒から数百ミリ秒であり、バルブ閉状態に要する時間が1、2秒であるので、交互に通電することによって、3個以上のバルブを同時に開状態にする、複数バルブ同時駆動も可能であることは言うまでもない。
【0029】
図15は、香りカプセル6の温度による香り成分の信号強度の変化を示したものである。温度が上昇することによって信号が急激に増加していることがわかる。一般に、液体純成分の飽和蒸気圧Pは、Antoineの式により、温度T(絶対温度K)を用いて以下のように表される。
P=exp(A−B/(T+C))
ここで、A、B、Cは成分特有の定数である。センサー信号強度は飽和蒸気圧に比例し、せまい温度範囲では、A−B/(T+C)はαT+β(α、βは定数)と近似できると仮定すると、センサー信号強度Iは
I=γexp(αT)
と単純に表すことができる。このときγは定数である。実際に図15の結果(香り成分プチグレイン)に適用すると、同じ図に示すように、0.97という高い相関係数で、今回得られた信号強度変化は
I=3×10−7exp(0.0619T)
と表すことができる。これは、今回作製したアルギン酸膜の香りカプセル6から発生する香り成分の量は、ほぼその溶液の飽和蒸気圧の関数で近似されるということを意味しており、香り発生量を変化させる際に重要な指標となる。すなわち、香り成分の発生量を一桁程度のダイナミックレンジで変化させることができる。他の香り成分でも、γやαの値は異なるものの、同様なことが言える。
【0030】
また、この結果は、香りカプセル6の寿命を推定するのに使用できる。例えば、通気孔0.5mmを有する直径5mm程度の香りカプセルを、香りカプセルの最高使用温度のひとつT0(例えば60℃)に設定して、どの程度の時間で香りが発生しなくなるかを計測する。この時間tAは香り成分がなくなる迄の時間なので、これに対してどの程度の相対的使用時間になったかで、香りのカプセルの寿命を判断する方式である。例えば、温度T1でバルブ開時の時間t1、温度T2でバルブ開時の時間t2、温度T3でバルブ開時の時間t3で駆動したときの、相対的使用時間tRは、
tR=(t1/exp(α×(T1−T0))
+(t2/exp(α×(T2−T0))
+(t3/exp(α×(T3−T0))
となる。ここで、αは香りによって決定される定数である。従って、香りカプセルの相対的寿命LRは、(tR/tA)×100%で表される。これにより、図16に示すようなアルゴリズムを組むことによって、香りカプセルの使用状況、交換時期について警告メッセージを出すことが可能となる。このアルゴリズムでは、LRが70%、またはLRが90%を越えたときに警告を出すようになっている。なお、香りの種類、通気孔の状態によってtAは異なるので、いろいろな状態でのtAのデータベースを作成しておき、あらかじめ入力しておいた香りカプセルの状態(香りの種類、通気孔の状態)にあわせ、上に述べた(tR/tA)×100%の計算式に基づいて、LRについての表示結果を出すようにしてもよい。
【0031】
一方、以下のように推定することもできる。例えば、通気孔0.5mmを有する直径5mm程度の香りカプセル(香り成分量10マイクロリットル程度)について、香りカプセルの最高使用温度のひとつT0(例えば60℃)に設定して、どの程度の時間で香りが発生しなくなるかの時間tAを計測する。このときの単位時間当たりの気化量V0を、ガスクロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー/質量分析法などにより計測しておくと、その香りカプセルからの総気化量V1は、
V1=V0×tA
となる。V0は香り成分、通気孔の状態によって異なるので、それぞれ状態でのデータを積み上げてデータベース化しておくと良い。従って、温度T1でバルブ開時の時間t1、温度T2でバルブ開時の時間t2、温度T3でバルブ開時の時間t3で駆動したときの、香りカプセルからの総気化量V2は、
V2=(V0×t1×exp(α×(T1−T0))
+(V0×t2×exp(α×(T2−T0))
+(V0×t3×exp(α×(T3−T0))
と推定できる。ここで、αは香りによって決定される定数である。従って、香りカプセルの相対的寿命LRは、(V2/V1)×100%で表される。これにより、図16に示すようなアルゴリズムを組むことによって、香りカプセルの使用状況、交換時期について警告メッセージを出すことが可能となる。このアルゴリズムでは、LRが70%、またはLRが90%を越えたときに警告を出すようになっている。なお、香りの種類、通気孔の状態によってV0は異なるので、いろいろな状態でのtAのデータベースを作成しておき、あらかじめ入力しておいた香りカプセルの状態(香りの種類、通気孔の状態)にあわせ、上に述べた(V2/V1)×100%の計算式に基づいて、LRについての表示結果を出すようにしてもよい。
【0032】
また、香りカプセル近傍に半導体センサーを配置してその強度変化を計測することによっても交換時期を把握することは可能である。
【0033】
図17には、香りカプセルが複数存在し、それを個別に温度制御する場合を示している。個別に温度制御するには、ペルチェ素子40を用いることが有用であり、この場合には、香りカプセル6を内包する香りカプセル保持ブロック39は隣のブロックとの熱の移動を低く抑えるために、断熱材41を間に挟むことが必要となる。
【0034】
以上、香りカプセル6の温度制御について述べてきたが、香りカプセルカートリッジ7全体をペルチェ素子で温度制御することも有用である。外気温が高い場合には香りカプセルカートリッジ7を適温に冷却し、逆に外気温が低い場合には適温に加熱できるからである。これにより、室外、自動車内のような温度変化の激しいところでも使用が可能になる。
【0035】
また、香りカプセルの温度制御と複数バルブの同時駆動をあわせることによって、香りの強度のダイナミックレンジを拡大することも可能である。例えば、同じ種類の香りカプセルを4個入れておき、先に述べた複数バルブの同時駆動シーケンスによって、4個の香りカプセルから香りをほぼ同時に発生させて、香りの強度を4倍程度にすることが可能である。これを一桁程度のダイナミックレンジを持つ香りカプセルの温度制御と組み合わせることによって、4×10=40倍の香りの強度のダイナミックレンジを確保できる。すなわち、香りの強さに関して2桁程度のダイナミックレンジを本発明により実現可能となる。
【0036】
なお、バルブについては形状記憶合金を用いたバルブの場合について述べてきたが、本発明の本質は、通気孔を設けた高分子膜による香りカプセルにあり、香り発生装置として、ソレノイドバルブ、ステッピングモータによるバルブなど、他の形態のバルブを用いても良いことは言うまでもない。
【0037】
一方、香りカプセルカートリッジ7をユニット化することによって、発生させる香り成分が大幅に増える場合でも、増設が簡単に可能になる。図3に示した構造体をユニット化すると、ひとつの香りカプセルカートリッジユニット42a、42b、42cに9個の香りカプセルを保持できる場合、収納できる香りカプセルの種類は、図18の場合、9×3=27と簡単に増設することができる。これは、香りの原臭が決定されておらず、多様な香りを発生させるために多くの香り成分を準備せざるを得ない場合を考えると、有用な方法である。
【0038】
さらに、元々が固体の香り成分の場合には、香りカプセルの形態は必要はない。図19に示すような、固体試料44を内包し、香り容器用通気孔45を有する香り容器43を香りカプセル保持穴35に配置すればよい。このときは、元々が液体の香り成分用の香りカプセル6と、元々が固体の香り成分用の香り容器43が、香りカプセルカートリッジ7の中で共存することになる。
また、香りカプセルは球状に限らず、円柱形上、角柱形状等の立体形状であればよい。
【実施例2】
【0039】
本発明によれば、複数の香り成分を簡単に発生させることが可能になるので、いろいろな応用がある。駅構内、百貨店、市街などにおけるレストラン街の香り付き電子掲示板46はそのひとつである。
【0040】
図20はその一例を示しているが、店頭にある香り付き電子掲示板46において、あるレストランのディスプレイ49上の本日のメニューの映像に合わせ、スピーカ48a、48bからの音と香り発生口47からの香りを提示し、お客様の食欲を増進させ売り上げを伸ばす一助にしようというものである。図21(a)には、香り付き電子掲示板46の拡大図を示している。ここでは、あるレストランにおけるスペシャルメニュー紹介用の香り付き掲示板46の場合を説明する。本日のスペシャルメニュー(例えば、国産高級牛肉ステーキ)を紹介する表示50の下にある押しボタン51を押すと、ストレージに蓄積されたデータベース(調理映像、調理の際の音、調理の際の香りをひとつの組み合わせとしたデータセットの集まり)から必要な情報が読み出され、シェフが国産高級牛肉を調理している映像がディスプレイ49上に表示されると同時に、肉を焼いている際のジュージューという音がスピーカ48a、48bから流れ、また、肉を焼いているときの香りが香り発生口47から発生することになる。これによって、この掲示板の前に立っている人は、視覚、聴覚に加え、嗅覚も刺激されることになり、提示されたメニューに対する食欲が増すことになる。
【0041】
一方、香り発生口47には、香り付き電子掲示板46の前に立っている人に対して確実に香りを送るための工夫が必要である。図21(a)のように、平面的な香り発生口47を設けただけであると、鼻をこの香り発生口47に近づける必要があり、ディスプレイ上の画像が見にくくなる。そこで、図21(b)、あるいは図21(c)のように、香り発生口47に半面型香りガイド52、あるいは全面型香りガイド53を設けて、映像が見やすい位置からでも確実に香りを嗅げるようにすることは有効である。さらに、図22(a)のように、スピーカ付きパネル54と香り発生部およびスピーカ付きパネル55を、ディスプレイ49に対して折り曲げられるようにして、香り付き電子掲示板46の前に立っている人に対して、音と香りを届けやすいようにしてもよい。また、これに、図21(b)、図21(c)で述べたような半面型香りガイド52や全面型香りガイド53を設けたり、図23(b)に示すような、いろいろな方向に曲げることが可能な蛇腹型香りガイド56を設けることも有効である。
【0042】
以上のことを踏まえときの香り付き電子掲示板46のシステム構成の例を図24に示した。押しボタン51からの命令を入力すると、CPU57を通ってメモリ60に記憶される。メモリ60はその命令を処理するのに必要なプログラム(ディスプレイ49への表示プログラム、スピーカ48a、48bの動作プラグラム、香り発生装置1からの香りの提供プログラム)やデータ(上記のレストランの例では、調理映像、調理の際の音、調理の際の香りをひとつの組み合わせとしたデータセット)をストレージ61から読み込む。CPU57はメモリ60から情報を取り出して命令を処理し(上記のレストランの例では、押しボタン51に対応した、ディスプレイ49への調理映像の表示、スピーカ48a、48bからの調理の際の音の提供、香り発生装置1からの調理の際の香りの提供)、結果(使用された映像、音、香りに対する押されたボタンの回数と押した時刻など)をメモリに書き込む。この後、必要な情報はメモリ60からストレージ61に書き込まれる。また、必要な情報はネットワーク62を介して外部に取り出すことができるので、この情報をもとに、香り付き電子掲示板46における香り発生装置1の香りカプセル6の交換を含めたメンテナンスを行うことができる。さらに、このようなシステムで得られた情報はマーケティングに生かすことができる。表示50の情報にあわせて、押しボタン51の押された数はその表示に対する興味を示しているためである。特に、同一の押しボタン51を連続して押された場合の情報は重要であり、その表示と情報に関して非常に興味を抱いている証拠となる。
【0043】
一方、本発明における香り発生装置1を用いると異なる香りを簡単に出すことができるので、異なるメニューの画像を連続的に流して、それに合わせて異なる音と香りを提示することも可能となる。このような連続モードで香り付き電子掲示板46を作動させておいて人を引き付けた後、その人の興味のあるコンテンツを押しボタン51で作動させる押しボタンモードに移行させることは有効である。
【実施例3】
【0044】
本発明は、自動車内にも適用可能である。そのひとつは、カーナビ、あるいは高級車後席におけるディスプレイと連動させて、運転者、同乗者に対して、どこを運転しているかというカーナビの情報に合わせて、香りを提示するシステムである。海沿いをドライブする際には潮の香りを提示し、また草原をドライブする際には草花の香りを提示することなどにより、窓を閉めたままでもその土地土地でのドライブをより楽しむことができる。その際、音楽も同時に流しても良い。具体的には、カーナビ、あるいは高級車後席におけるディスプレイのメニューにおいて、“香り”というメインメニューを設けておき、このメニューをオンにした場合には、カーナビの地図情報に応じた香りを提示するというものである。しかし、いろいろな風景にあわせて非常に多くの香り成分を車に搭載することは現実的でないので、その日のドライブに応じて、以下のようなサブメニューを準備しておくことが有効である。本発明による香り発生装置1では、香りカプセルカートリッジ7によって簡単に香りカプセルのセットを変えることができるので
これが可能となる。
(1) メインメニュー(カーナビ情報にあわせて香りを出すモード)
(2) サブメニュー(1)(都市部運転モード(例:気持ちを落ち着かせる香りのセット))
サブメニュー(2)(森林地帯運転モード(例:森林の香りのセット)
サブメニュー(3)(草原地帯運転モード(例:草花の香りのセット))
サブメニュー(4)(海岸地帯運転モード(例:海の香りのセット))
サブメニュー(5)(お気に入り運転モード(例:自分の好きな香りのセット))
このサブメニューにあわせて、地図情報から運転している場所の情報(都市部か、森林地帯か、草原地帯か、海岸地帯かなど)を引き出し、サブメニューを作動させる。また、このように、サブメニューが増えてくると、その香りカプセルカートリッジ7の数が増えてくるので、図25に示すように、香り発生装置1を車64のトランク内に設けるのが良く、そこから配管63を通して、後席あるいは運転席座席の近傍(図25(a)、図25(c)のような座席シートのヘッドレスト部分、あるいは図25(b)のような車内の天井部分)で香りを発生させるようにすれば良い。
【0045】
また、単純に、車内の香りを一定周期で変えることも有用である。これは、人間の鼻に存在する嗅細胞は疲労しやすいため、同じ香りを長く嗅いでいるとその香りを感じなくなるためである。柑橘系の香りを好む運転者、あるいは同乗者に、一定時間毎に、グレープフルーツ、マンダリン、オレンジなどの異なる香りを提示することは、運転者、同乗者にドライブを楽しませる、運転者を覚醒させる、渋滞中でも運転者や同乗者の気持ちを落ち着かせるなどの観点からも有用である。さらに、長時間のドライブ、あるいは長時間のドライブにおいて、居眠り運転、脇見運転を防ぐために、メントールなどの覚醒系の香りを運転者に周期的に提示するシステムを設けることも、自動車の安全性確保の観点から重要である。
【実施例4】
【0046】
本発明は、香りを重要視する商品案内ディスプレイにも適用可能である。例えば、香水ではその香りそのものの嗅覚情報も重要であるが、どういう服装のときに合うか、どういう場所に合うかなどの視覚情報もあわせて考えることは重要である。このようなときに、ある服装で向こうからこちらに歩いてくる女性の映像を見ながら、香水の香りを次第に強く提示することによって、その香水の持つイメージを考える商品案内ディスプレイは有用である。このような商品案内ディスプレイは、香水以外の化粧品、コーヒーなどの飲料、食品、香辛料などにも適用可能である。
【実施例5】
【0047】
本発明は、臨場感あふれるゲームに適用可能である。これまでゲームは視覚情報と聴覚情報を主体に作成されてきたが、本発明を用いることにより、嗅覚情報もあわせ持つことになり、香りカートリッジ付きのゲームのような新しいゲームのジャンルを創造することが可能になる。例えば、ゲーム機本体に加えて香り発生装置を持っている人は、あるゲームに付属している香りカートリッジを購入することによって、ゲームに合わせた香りを楽しむことができる。料理レシピのゲームコンテンツ、世界の料理のゲームコンテンツ、コーヒーの香りのゲームコンテンツ、ワインの香りのゲームコンテンツ、森林浴のゲームコンテンツなど幅広い展開が可能である。
【実施例6】
【0048】
本発明は、オフィス内にも適用可能である。疲労回復にはグレープフルーツやペパーミントなどの香りが良いとされているが、これを仕事中に定期的に提示することによって、仕事の効率を上げることが可能となる。例えば、1時間の仕事のブレークとして、個人が好きな香りを発生させてリフレッシュするシステムや、長時間の会議中に疲労回復のための香りを発生させるシステムが可能になる。
【実施例7】
【0049】
本発明は、家庭内にも適用可能である。個人がそれぞれ好きな香りを複数楽しむことができるし、高齢者には、昔なつかしい映像、音楽に合わせ、それとリンクする香りを提示することによって、脳活性化の手段として使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による香り発生装置は、香り付きディスプレイ、商品案内ディスプレイなどの情報分野、快適ドライブ空間実現に向けた自動車分野、仕事効率化に向けたオフィス分野、臨場感あふれるゲーム実現に向けたゲーム分野、快適空間創造のためのホーム分野など、多岐にわたる応用が見込める。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の香り発生装置の断面図。
【図2】本発明の香り発生装置の外観図。
【図3】本発明の香り発生装置のバルブ図。
【図4】本発明の香りカプセル外観図と断面図。
【図5】本発明の通気孔のある香りカプセルの外観図と断面図。
【図6】本発明の通気孔を設けた香りカプセルからの香りの放出量の時間変化。
【図7】通気孔を設けない香りカプセルからの香り放出量の時間変化。
【図8】本発明における通気孔の半径と香りカプセル内部の露出表面積との関係。
【図9】本発明のバルブ制御シーケンス。
【図10】本発明におけるバルブ制御による異なる香りの放出例。
【図11】本発明の香り発生装置カートリッジの一例の図。
【図12】本発明の香り発生装置カートリッジの一例の図。
【図13】本発明の香り発生装置カートリッジの一例の図。
【図14】本発明の香り発生装置の複数バルブを駆動する際のシーケンス。
【図15】本発明の香りカプセルにおける香りの強さの温度変化。
【図16】本発明の香り発生装置のカートリッジ交換時期表示のアルゴリズム。
【図17】本発明の香り発生装置の個別温度制御の図。
【図18】本発明の香りカプセルカートリッジユニットの図。
【図19】本発明の固体試料向け香り容器の図。
【図20】本発明の香り付き電子掲示板の図。
【図21】本発明のディスプレイの一例の図。
【図22】本発明のディスプレイの一例の図。
【図23】本発明のディスプレイの香りガイドの図。
【図24】本発明の制御部の図。
【図25】本発明の自動車における利用の図。
【符号の説明】
【0052】
1・・・香り発生装置、2・・・香り発生部、3・・・シリンダー制御回路、4・・・シリンダー制御回路用ケーブル、5・・・バルブ、6・・・香りカプセル、7・・・香りカプセルカートリッジ、8・・・ヒータ、9・・・香りカプセルカートリッジ支え、10・・・送風用ファン、11・・・送風ガイド、12・・・送風出口、13・・・香り発生装置支え、14・・・角度可変用レバー、15・・・香り発生装置用台、16・・・香り発生装置制御部、17・・・香り発生部支柱、18・・・人工筋肉ガイド、19・・・香り発生部ブロック、20・・・香り発生部送風ガイド、21・・・シリンダガイド、22・・・バルブガイド、23・・・香り発生部支え板、24・・・人工筋肉、25・・・バルブ用ばね、26・・・ばね押さえ、27・・・シリンダー、28・・・人工筋肉支え、29・・・バルブ先端、30・・・香りカプセル押さえ、31・・・ヒータケーブル、32a、32b・・・香りカプセル保持部用板ばね、33a、33b・・・香り成分の核、34a、34b、34c・・・香りカプセル通気孔、35・・・香りカプセル保持穴、36・・・香りカプセル用蓋、37a、37b・・・ドリル付き香りカプセル押さえ、38・・・ドリル、39・・・香りカプセル保持ブロック、40・・・ペルチェ素子、41・・・保持用断熱材、42a、42b、42c・・・香りカプセルカートリッジユニット、43・・・香り容器、44・・・固体試料、45・・・香り容器用通気孔、46・・・香り付き電子掲示板、47・・・香り発生口、48a、48b・・・スピーカ、49・・・ディスプレイ、50・・・表示、51・・・押しボタン、52・・・半面型香りガイド、53・・・全面型香りガイド、54・・・スピーカ付きパネル、55・・・香り発生部およびスピーカ付きパネル、56・・・蛇腹型香りガイド、57・・・CPU、58・・・バス、59a、59b・・・チップセット、60・・・メモリ、61・・・ストレージ、62・・・ネットワーク、63・・・香り用配管、64・・・車、65・・・バルブつば。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
香りを発生する香り源と、
該香り源を内部に保持する保持部と、
該保持部から放出される前記香りの流路を開閉させるように制御するバルブと、
前記バルブを制御する制御部とを備え、
前記香り源は、該香り源の表面から中心に向かって存在する通気孔を有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源は香り成分を覆う高分子の膜を有し、前記高分子がアルギン酸から生成されていることを特徴とする香り発生装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の香り発生装置において、
前記高分子部分に設けられた通気孔の直径が10ミクロンメートル以上であることを特徴とする香り発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源を加熱する手段を有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項5】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源からの香り成分を送り出すための送風機構を有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項6】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源からの香り成分の出口の角度が可変であることを特徴とする香り発生装置。
【請求項7】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源を複数保持する香りカプセルカートリッジにより、前記香り源の取り出しを行うことを特徴とする香り発生装置
【請求項8】
請求項7に記載の香り発生装置において、
前記香りカプセルカートリッジは、前記香り源に通気孔を開けるドリルを有することを特徴とする香り発生装置
【請求項9】
香りを発生する香り源と、
前記香り源から放出された香り成分を外部に放出する放出口と、
前記香り源から放出される前記香りの流路を開閉させるように制御するバルブと、
前記香り源を加熱する加熱手段と、
前記香り成分を外部に送り出すための送風機構と、
前記バルブの開閉を少なくとも制御する制御部とを有し、
前記香り源は、高分子の膜で覆われ、該膜の表面あるいは内部に液状の香り成分を有する香りカプセルであって、
該香りカプセルを複数保持し、該香り源を各々取り出しできるカートリッジを備え、
該香りカプセルに通気孔を開けるためのドリルを有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項10】
高分子の膜で覆われ、該膜の表面あるいは内部に液状の香り成分を有する香りカプセルにおいて、前記表面から中心に向かって存在する通気孔を有することを特徴とする香りカプセル。
【請求項11】
請求項10に記載の香りカプセルにおいて、
前記高分子がアルギン酸から生成していることを特徴とする香りカプセル。
【請求項12】
請求項10に記載の香りカプセルにおいて、
高分子部分に設けられた通気孔の直径が10ミクロンメートル以上であることを特徴とする香りカプセル。
【請求項1】
香りを発生する香り源と、
該香り源を内部に保持する保持部と、
該保持部から放出される前記香りの流路を開閉させるように制御するバルブと、
前記バルブを制御する制御部とを備え、
前記香り源は、該香り源の表面から中心に向かって存在する通気孔を有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源は香り成分を覆う高分子の膜を有し、前記高分子がアルギン酸から生成されていることを特徴とする香り発生装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の香り発生装置において、
前記高分子部分に設けられた通気孔の直径が10ミクロンメートル以上であることを特徴とする香り発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源を加熱する手段を有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項5】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源からの香り成分を送り出すための送風機構を有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項6】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源からの香り成分の出口の角度が可変であることを特徴とする香り発生装置。
【請求項7】
請求項1に記載の香り発生装置において、
前記香り源を複数保持する香りカプセルカートリッジにより、前記香り源の取り出しを行うことを特徴とする香り発生装置
【請求項8】
請求項7に記載の香り発生装置において、
前記香りカプセルカートリッジは、前記香り源に通気孔を開けるドリルを有することを特徴とする香り発生装置
【請求項9】
香りを発生する香り源と、
前記香り源から放出された香り成分を外部に放出する放出口と、
前記香り源から放出される前記香りの流路を開閉させるように制御するバルブと、
前記香り源を加熱する加熱手段と、
前記香り成分を外部に送り出すための送風機構と、
前記バルブの開閉を少なくとも制御する制御部とを有し、
前記香り源は、高分子の膜で覆われ、該膜の表面あるいは内部に液状の香り成分を有する香りカプセルであって、
該香りカプセルを複数保持し、該香り源を各々取り出しできるカートリッジを備え、
該香りカプセルに通気孔を開けるためのドリルを有することを特徴とする香り発生装置。
【請求項10】
高分子の膜で覆われ、該膜の表面あるいは内部に液状の香り成分を有する香りカプセルにおいて、前記表面から中心に向かって存在する通気孔を有することを特徴とする香りカプセル。
【請求項11】
請求項10に記載の香りカプセルにおいて、
前記高分子がアルギン酸から生成していることを特徴とする香りカプセル。
【請求項12】
請求項10に記載の香りカプセルにおいて、
高分子部分に設けられた通気孔の直径が10ミクロンメートル以上であることを特徴とする香りカプセル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2009−106402(P2009−106402A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279776(P2007−279776)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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