説明

駆動力伝達装置

【課題】駆動力伝達装置のメインクラッチ機構10cやカム機構10eの構成部材の寸法精度や組付け精度にばらつきがある場合には、メインクラッチ機構10cには荷重にばらつきが発生し、当該荷重に起因するカム機構10eのメインカム部材(第2カム部材)17に付与される反力により、メインカム部材17は1個のカムフォロア(カムボール)18に受承されて傾き、残りのカムフォロア18がメインカム部材17から浮いて遊んだ状態を呈して、カム機構10eの機能を損なうことになる。本発明は、かかる問題に対処する。
【解決手段】カム機構10eのメインカム部材17を、メインクラッチ機構10cからの反力が、メインカム部材17のカムフォロア18の受承部17cより内周側からカムフォロア18に伝達されるように構成することにより、メインカム部材17の起立姿勢の傾きを規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動力伝達装置の一形式として、互いに同軸的かつ相対回転可能に位置する内外両回転部材間に配設されてこれら両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチ機構と、通電により動作して前記メインクラッチ機構に対する作動力を発生するパイロットクラッチ機構と、前記メインクラッチ機構と前記パイロットクラッチ機構間に位置して同パイロットクラッチ機構にて発生する作動力を前記メインクラッチ機構に伝達するカム機構を備える形式の駆動力伝達装置がある。
【0003】
当該形式の駆動力伝達装置においては、前記カム機構は、前記パイロットクラッチ機構の作動時に伝達されるトルクによって互いに相対回転するパイロットカム部材およびメインカム部材と、これら両カム部材間に介在するカムフォロアとからなり、前記カム機構にて発生する軸方向の推力によって前記メインカム部材を介して前記メインクラッチ機構を押圧する構成となっている。しかして、当該カム機構においては、当該カム機構を構成するカムフォロアは少なくとも3個採用されているもので、当該カム機構を構成するメインカム部材は円環状を呈していて、メインカム部材の基板部の内周側に、カムフォロアを受承する受承部が同一円周上に等間隔でカムフォロアと同数形成されている。各受承部は、パイロットカム部材に形成されている各受承部と互いに対向するもので、各カムフォロアは、メインカム部材の各受承部とパイロットカム部材の各受承部間に介在している(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平11−30248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、当該形式の駆動力伝達装置においては、メインクラッチ機構の各構成部材の寸法精度や、各構成部材の組付け精度にばらつきがある場合、カム機構の構成部材の寸法精度や、各構成部材の組付け精度にばらつきがある場合等には、メインクラッチ機構に対する荷重にばらつきが発生する。この場合、メインクラッチ機構からメインカム部材に付与される反力は、メインカム部材の外周側の局部から入力することになる。このため、メインカム部材は、1個または2個のカムフォロアに受承された状態になって、同カムフォロアを支点として、メインカム部材の中心軸の前後方向に傾く傾斜状態となる。
【0005】
図4(a)には、中心軸の前後方向に傾斜している状態のメインカム部材を模式的に示している。同図において、符号1はメインカム部材、符号2はカムフォロアを示していている。メインカム部材1は、基板部1aの内周側に、カムフォロア2を受承する受承部1b(カム溝)が円周上に等間隔に複数形成されている。メインカム部材1は、メインクラッチ機構からの反力は、矢印Aにて示すように、メインカム部材1の基板1aの外周部から入力されて、受承部1bにて受承されている各カムフォロア2側に出力される。この場合、メインクラッチ機構の荷重に起因する反力が円周方向でばらつきがあると、当該反力は1個または2個のカムフォロア2に入力されることになる。このため、メインカム部材1は、1個のカムフォロア2に受承されることになって、同カムフォロア2を支点として中心軸Lの前後方向に傾き、他のカムフォロア2から浮き上がった状態を呈することになる。浮き上がった状態のカムフォロア2は、カムフォロア2としての機能を損なった遊んだ状態にあって、カム機構の作動に影響を及ぼすことになる。換言すれば、カム機構の作動動作が不安定となって、当該駆動力伝達装置のI(パイロットクラッチ機構に印加する電流)−T(伝達トルク)特性に悪影響を及ぼすことになる。
【0006】
従って、本発明の目的は、当該形式の駆動力伝達装置において、カム機構を構成するメインカム部材の上記した傾斜状態の発生を防止して、駆動力伝達装置におけるI−T特性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動力伝達装置に関する。本発明が適用対象とする駆動力伝達装置は、互いに同軸的かつ相対回転可能に位置する内外両回転部材間に配設されてこれら両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチ機構と、通電により動作して前記メインクラッチ機構に対する作動力を発生するパイロットクラッチ機構と、前記メインクラッチ機構と前記パイロットクラッチ機構間に位置して同パイロットクラッチ機構にて発生する作動力を前記メインクラッチ機構に伝達するカム機構を備える形式の駆動力伝達装置である。
【0008】
しかして、本発明に係る駆動力伝達装置においては、前記カム機構は、前記パイロットクラッチ機構の作動時に伝達されるトルクによって互いに相対回転するパイロットカム部材およびメインカム部材と、これら両カム部材間に介在するカムフォロアからなり、前記カム機構にて発生する軸方向の推力によって前記メインカム部材を介して前記メインクラッチ機構を押圧する構成のものであり、前記カム機構は、前記メインカム部材を介して前記カムフォロアに伝達されるメインクラッチ機構からの反力が、前記カムフォロアの受承部より内周側から前記カムフォロアに伝達されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る駆動力伝達装置においては、前記カム機構を構成する前記メインカム部材を、前記メインクラッチ機構を押圧する円環状のクラッチ押圧部と、前記カムフォロアを受承する受承部を有する円環状のカム部とに分割された構成として、これらクラッチ押圧部とカム部とが、前記カムフォロアを受承する受承部より内周側にて、互いに一体回転可能に連結するように構成することができる。また、本発明に係る駆動力伝達装置において、前記カム機構を構成する前記メインカム部材を、前記メインクラッチ機構を押圧する円環状のクラッチ押圧部と、前記カムフォロアを受承する受承部を有する円環状のカム部とからなり、これらクラッチ押圧部とカム部とは互いに一体に形成されていて、これらクラッチ押圧部とカム部間には円環状の隙間を有し、同隙間は前記受承部より内周側に延びている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る駆動力伝達装置においては、当該駆動力伝達装置を構成するカム機構を、メインカム部材を介してカムフォロアに伝達されるメインクラッチ機構からの反力を、カムフォロアの受承部より内周側からカムフォロア側に伝達されるように構成している。このため、メインカム部材は1個または2個のカムフォロアに受承される場合にあっても、当該カムフォロアは、メインカム部材をその中心軸Lの前後方向へわずかに回動させて、メインカム部材の中心軸Lの前後方向への傾斜状態を是正すように機能する。
【0011】
図4(b)には、メインクラッチ機構の荷重に起因する反力が円周方向でばらつきがある場合でも、当該カム機構を構成するメインカム部材は、中心軸Lの前後方向に傾斜することがないことを模式的に示している。当該メインカム部材1においては、メインクラッチ機構からの反力は、矢印Aにて示すように、メインカム部材1の基板1a(クラッチ押圧部)の外周部から入力されるが、入力された反力は、矢印Bに示すように、基板1aの内周側からカム部1bを通してカムフォロア2側に出力される。このため、メインクラッチ機構の荷重に円周方向でばらつきがあって、反力が1個または2個のカムフォロア2に出力される場合でも、メインカム部材1は、カムフォロア2側からの荷重(矢印C方向)によって、中心軸Lの前後方向に傾斜することはなく、全てのカムフォロア2は、メインカム部材1のカム部1bにおける受承部1cから浮き上がって遊んだ状態になるようなことがない。このため、当該カム機構においては、全てのカムフォロア2が同等に機能し、当該駆動力伝達装置のI−T特性に悪影響を及ぼすようなことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、駆動力伝達装置に関する。本発明に係る駆動力伝達装置は、互いに同軸的かつ相対回転可能に位置する内外両回転部材間に配設されてこれら両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチ機構と、通電により動作して前記メインクラッチ機構に対する作動力を発生するパイロットクラッチ機構と、前記メインクラッチ機構と前記パイロットクラッチ機構間に位置して同パイロットクラッチ機構にて発生する作動力を前記メインクラッチ機構に伝達するカム機構を備える構成のものである。図1には、本発明に係る駆動力伝達装置の第1の実施形態である駆動力伝達装置10を示し、図2には、当該駆動力伝達装置10の要部を拡大して示している。当該駆動力伝達装置10は、図5に示すように、車両の後輪側への駆動力伝達経路に搭載されて四輪駆動車を構成する。
【0013】
当該四輪駆動車においては、トランスアクスル21は、トランスミッションとトランスファを一体に備えるもので、エンジンEからの駆動力をフロントデファレンシャル22を介して両アクスルシャフト23aに出力して前輪23bを駆動させるとともに、第1プロペラシャフト24aに出力する。第1プロペラシャフト24aは、駆動力伝達装置10を介して第2プロペラシャフト24bに連結していて、これら両プロペラシャフト24a,24bは後輪側への駆動力伝達経路を形成している。駆動力伝達装置10は、これら両プロペラシャフト24a,24bのトルク伝達可能な連結状態を断続すべく機能するもので、これら両プロペラシャフト24a,24bがトルク伝達可能に連結された場合には、エンジンEからの駆動力は、第2プロペラシャフト24bを経てリヤデファレンシャル25に伝達され、同リヤデファレンシャル25から両アクスルシャフト26aへ出力されて両後輪26bを駆動させる。
【0014】
しかして、駆動力伝達装置10は、図1および図2に示すように、外側回転部材であるアウタハウジング10a、アウタハウジング10a内に同軸的かつ相対回転可能に位置する内側回転部材であるインナシャフト10b、多板式のメインクラッチ機構10c、電磁式のパイロットクラッチ機構10d、および、カム機構10eを備えている。
【0015】
アウタハウジング10aは、有底筒状のケース部11aと、ケース部11aの後端側開口部に螺着されてケース11aを液密的に覆蓋するカバー部11bとからなり、ケース部11aはステンレス等の非磁性の金属材料にて形成されている。また、カバー部11bは鉄等の磁性の金属材料にて形成されていて、径方向の中間部には、ステンレス等の非磁性の金属材料にて形成されている非磁性体11b1が埋設されている。当該アウタハウジング10aにおいては、そのケース部11aの先端側に、第1プロペラシャフト24aの後端部がトルク伝達可能に連結される。
【0016】
インナシャフト10bは、カバー部11bの中央円筒部内を貫通してアウタハウジング10aのケース部11a内に挿入されていて、軸方向の移動を規制された状態で、ケース部11aとカバー部11bにて液密的かつ回転可能に支持されている。当該インナシャフト10bにおいては、その後端部側に、第2プロペラシャフト24bの先端部が挿入されてトルク伝達可能に連結される。
【0017】
メインクラッチ機構10cは、湿式多板式の摩擦クラッチであって、多数のクラッチプレート(インナクラッチプレート12a,アウタクラッチプレート12b)を備えていて、アウタハウジング10aの底部であるケース部11aの奥壁側に配置されている。摩擦クラッチを構成する各インナクラッチプレート12aは、インナシャフト10bの外周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられており、また、各アウタクラッチプレート12bは、ケース部11aの内周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられている。当該メインクラッチ機構10cにおいては、各インナクラッチプレート12aと各アウタクラッチプレート12bとは互いに交互に位置していて、一方側から押圧力が付与されると互いに当接して摩擦係合し、当該押圧力の付与が解除されると互いに離間して自由状態になる。
【0018】
パイロットクラッチ機構10dは、電磁式のパイロットクラッチ機構であって、電磁石13、摩擦クラッチ14、およびアーマチャ15を備えている。電磁石13は環状を呈するもので、ヨーク13aに嵌着された状態でカバー部11bに一体回転可能に、かつ、インナシャフト10bに対しては回転可能に組付けられて、カバー部11bの筒部の外周にてカバー部11bの後側(ケース部11aの外側)に位置している。一方、摩擦クラッチ14およびアーマチャ15は、アウタハウジング10aのケース部11a内に配設されている。
【0019】
摩擦クラッチ14は、複数のインナクラッチプレート14aと複数のアウタクラッチプレート14bとからなり、各インナクラッチプレート14aは、後述するカム機構10eを構成する第1のカム部材16の外周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられている。また、各アウタクラッチプレート14bは、アウタハウジング10aのケース部11aの内周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられている。当該摩擦クラッチ14においては、各インナクラッチプレート14aと各アウタクラッチプレート14bとは互いに交互に位置していて、一方側から押圧力が付与されると互いに当接して摩擦係合し、当該押圧力の付与が解除されると互いに離間して自由状態になる。
【0020】
アーマチャ15は円環状を呈するもので、アウタハウジング10aのケース部11a内にて、同ケース部11aの内周にスプライン嵌合して軸方向へ移動可能に組付けられていて、摩擦クラッチ14を構成する一端側のアウタクラッチプレート14bに対向して位置する。当該パイロットクラッチ機構10dにおいては、電磁石13に電流が印加されると、ヨーク13a、摩擦クラッチ14、アーマチャ15、カバー部11bを循環する磁路が形成され、アーマチャ15は電磁石13側に引き寄せられる。引き寄せられたアーマチャ15は、摩擦クラッチ14を一側から押圧して各インナクラッチプレート14aおよび各アウタクラッチプレート14bを互いに摩擦係合させる。アーマチャ15の摩擦クラッチ14に対する押圧力は、電磁石13の電磁コイルに印加される電流値に対応する。
【0021】
カム機構10eは、本発明におけるパイロットカム部材である第1カム部材16と、本発明におけるメインカム部材である第2カム部材17と、本発明におけるカムフォロアであるカムボール18を備えている。当該カム機構10eは、アウタハウジング10aのケース部11a内にて、メインクラッチ機構10cとパイロットクラッチ機構10d間に配設されている。
【0022】
第1カム部材16は、円環状を呈する小径のもので、インナシャフト10bの外周に回転可能に嵌合されて、カバー部11bの内面側に位置している。第1カム部材16の外周には、摩擦クラッチ14を構成する各インナクラッチプレート14aがスプライン嵌合している。第1カム部材16の外側面には、カムボール18を受承する受承部であるカム溝16aが円周上に等間隔にて少なくとも3個形成されている。本実施形態においては、4個のカム溝16aが形成されている。
【0023】
第2カム部材17は、図2に拡大して示すように、大径の円環状を呈するクラッチ押圧部17aと、小径の円環状を呈するカム部17bとからなるもので、これらのクラッチ押圧部17aおよびカム部17bは、互いに別体に形成されている。クラッチ押圧部17aは、2段の段付きに内孔を備え、大径段部の内周には大径の第1内スプライン部17a1が形成され、かつ、小径段部の内周には小径の第2内スプライン部17a2が形成されている。一方、カム部17bは、その内周側に筒部17b1を備え、筒部17b1の外周に外スプライン部17b2が形成されていおり、その外側面には、受承部である複数のカム溝17cが形成されている。各カム溝17cは、第1カム溝16のカム溝16aと同数形成されていて、両カム溝16a,17cは互いに対向するように位置している。
【0024】
当該第2カム部材17を構成するクラッチ押圧部17aは、インナシャフト10bの外周に嵌合された状態で、その第1内スプライン17a1をインナシャフト10bの外周に設けた外スプラインに嵌合されて、インナシャフト10bに軸方向へ移動可能かつ一体回転可能に組付けられていて、メインクラッチ機構10cを構成する一側のインナクラッチプレート12a側に位置している。一方、当該第2カム部材17を構成するカム部17bは、インナシャフト10bの外周に嵌合されて回転可能に組付けられていて、その外スプライン部17b2をクラッチ押圧部17aの第2内スプライン部17a2にスプライン嵌合されて、クラッチ押圧部17aに一体回転可能に連結していて、所定の間隔を保持した状態で、その外側面を第1カム部材16の外側面に対向させている。第1カム部材16と第2カム部材17における各カム溝16a,17c間の各部位には、各カムボール18が転動可能に介在している。カム機構10eのかかる組付構造では、第1カム部材16とアウタハウジング10aのカバー部11b間にスラストベアリング19が介在されている。スラストベアリング19は、第1カム部材16を回転可能に受承すべく機能する。
【0025】
このように構成した当該駆動力伝達装置10は、従来のこの種形式の駆動力伝達装置と同様に作動して、第1プロペラシャフト24aと第2プロペラシャフト24bとのトルク伝達可能な連結状態を断続すべく機能する。当該駆動力伝達装置10においては、パイロットクラッチ機構10dを構成する電磁石13の電磁コイルへの通電が行われていない場合には、アーマチャ15を循環する磁路は形成されてはおらず、摩擦クラッチ14は非係合状態にある。このため、パイロットクラッチ機構10dは非作動状態にあって、第1カム部材16および第2カム部材17はカムボール18を介して一体回転可能であって、メインクラッチ機構10cは非作動の状態にある。このため、第1プロペラシャフト24aと第2プロペラシャフト24bとのトルク伝達可能な連結状態は遮断された状態にあり、当該車両は二輪駆動走行の駆動モードを形成している。
【0026】
当該車両において、乗員が車両を四輪駆動走行の駆動モードを形成すべく、パイロットクラッチ機構10dを構成する電磁石13の電磁コイルに通電すると、パイロットクラッチ機構10dには、アーマチャ15を循環する磁路が形成され、電磁石13は、アーマチャ15を摩擦クラッチ14側へ吸引する。このため、アーマチャ15は、摩擦クラッチ14を押圧して摩擦係合させ、カム機構10eを構成する第1カム部材16をアウタハウジング10a側、換言すれば、第1プロペラシャフト24a側に連結し、インナシャフト10b側、換言すれば、第2プロペラシャフト24b側に連結している第2カム部材17との間に相対回転を生じさせる。これにより、カム機構10dにおいては、カムボール18が両カム部材16,17を互いに離間する方向へ押圧する。
【0027】
この結果、第2カム部材17は、メインクラッチ機構10c側へ押動されて同メインクラッチ機構10cを押圧し、メインクラッチ機構10cは摩擦クラッチ14の摩擦係合力に応じて摩擦係合し、アウタハウジング10aとインナシャフト10b間、換言すれば、第1プロペラシャフト24aと第2プロペラシャフト24b間でのトルク伝達を可能とする。これにより、当該車両は、四輪駆動走行状態を形成する。
【0028】
この場合、電磁石13の電磁コイルへ通電する電流値の大小により、電磁石13のアーマチャ15に対する吸引力は相違し、印加電流が高い所定値に達するとメインクラッチ機構10cに対する押圧力が増大し、メインクラッチ機構10cはほぼ完全に結合する。この状態では、第1プロペラシャフト24aと第2プロペラシャフト24bとは、ほぼ完全な結合状態にあり、第1プロペラシャフト24aの駆動力は略100%、第2プロペラシャフト24bに伝達される。当該駆動力伝達装置10においては、電磁石13の電磁コイルに対する印加電流Iと、第2プロペラシャフト24b(後輪側)へ伝達される駆動力(トルク)Tとは、一定の対応関係にあり、このため、印加電流Iを制御することにより、前輪側に伝達される駆動力に対する後輪側に伝達される駆動力、換言すれば、前輪側と後輪側のトルク比を任意に調整することができる。
【0029】
ところで、当該駆動力伝達装置10においては、この種形式の従来の駆動力伝達装置と同様、メインクラッチ機構10cの各構成部材の 寸法精度や、各構成部材の組付け精度にばらつきがある場合、カム機構10eの構成部材の寸法精度や、各構成部材の組付け精度にばらつきがある場合等には、カム機構10eがメインクラッチ機構10cを押圧する際の荷重にばらつきが発生する。この場合、メインクラッチ機構10cからカム機構10eの第2のカム部材17に付与される反力は、従来の駆動力伝達装置においては、第2カム部材17の外周側の局部から入力して、カム溝17cより径外周側からカムボール18側に出力される。このため、第2カム部材17は、1個または2個のカムボール18に受承された状態になって、当該カムボール18を支点として、第2カム部材17はその中心軸Lの前後方向に傾く傾斜状態になる。このため、当該カムボール18以外の各カムボール18は、図4(a)に示すように、第2カム部材17のカム溝17cから浮き上がった状態を呈することになる。浮き上がった状態のカムボール18は、カムフォロアとしての機能を損なった遊んだ状態にあって、カム機構10eの作動に影響を及ぼすことになる。換言すれば、カム機構10eの作動動作は不安定な状態となって、当該駆動力伝達装置のI−T特性に悪影響を及ぼすことになる。
【0030】
これに対して、本発明に係る駆動力伝達装置10は、かかる問題に対処すべく、カム機構10eを構成する第2カム部材17(メインカム部材に対応する)は、下記に示す特殊な構造に形成されている。すなわち、第2カム部材17は、互いに別体に形成されたクラッチ押圧部17aとカム部17bからなり、クラッチ押圧部17aとカム部17bとは、互いに内周側にて、一体回転可能に連結されている。このため、第2カム部材17のクラッチ押圧部17aに入力されたメインクラッチ機構10cからの反力は、クラッチ押圧部17aにおける内周側の連結部位から、カム部17bにおけるカムボール18の受承部であるカム溝17cより内周側に伝達されて、カムボール18側へ出力される。
【0031】
このため、第2カム部材17は、1個または2個のカムボール18に受承される場合にあっても、当該カムボール18を支点として中心軸Lの前後方向へわずかに回動して傾斜状態を是正する方向に動作し、第2カム部材17が中心軸Lの前後方向への傾斜状態を規制する。この結果、当該カム機構10eにおいては、全てのカムボール18は、カム溝17cから浮き上がった遊んだ状態になるようなことはなくて同等に機能し、当該駆動力伝達装置10のI−T特性に悪影響を及ぼすようなことがない。
【0032】
図4(b)は、第2カム部材17の起立姿勢を模式的に示すもので、従来のメインカム(第2カム部材17に対応する)の起立姿勢を示す図4(a)に対応する模式図であり、当該カム機構10eにおいては、メインクラッチ機構10cの荷重に起因する反力が円周方向でばらつきがある場合でも、第2カム部材17は、その中心軸Lの前後方向に傾斜することがないことを示している。メインクラッチ機構10cからの反力は、矢印Aにて示すように、第2カム部材17のクラッチ押圧部17aの外周部から入力されるが、入力された反力は、矢印Bに示すように、クラッチ押圧部17aの内周側の連結部位を通してカム部17bにおけるカム溝17cより内周側に伝達されて、カムボール18側に出力される。このため、メインクラッチ機構10cの荷重(反力)が円周方向でばらつきがあって、反力が1個のカムボール18に入力される場合でも、第2カム部材17は、カムボール18側の荷重(矢印C方向)の作用によって、中心軸Lの前後方向への傾斜状態が規制され、全てのカムボール18は、第2カム部材17のカム溝17cから浮き上がって遊んだ状態になるようなことがない。
【0033】
図3は、本発明に係る駆動力伝達装置の第2の実施形態である駆動力伝達装置の要部を示している。当該駆動力伝達装置10Aは、第1の実施形態である駆動力伝達装置10とは、カム機構10Eを構成する第2カム部材17Aの構造が、カム機構10eを構成する第2カム部材17の構造が相違するが、その他の点では、同様に構成されているものである。当該駆動力伝達装置10Aは、互いに同軸的かつ相対回転可能に位置するアウタハウジング10aおよびインナシャフト10b間に配設されてこれら両者間のトルク伝達を行うメインクラッチ機構10cと、通電により動作してメインクラッチ機構10cに対する作動力を発生するパイロットクラッチ機構10dと、メインクラッチ機構10cとパイロットクラッチ機構10d間に位置してパイロットクラッチ機構10dにて発生する作動力をメインクラッチ機構10cに伝達するカム機構10Aを備えている。当該駆動力伝達装置10Aは、かかる構成により、駆動力伝達装置10とは実質的に同様に作動して、第1プロペラシャフト24aと第2プロペラシャフト24b間のトルク伝達可能な連結状態を断続すべく機能する。
【0034】
しかして、当該駆動力伝達装置10Aが装備するカム機構10Eは、互いに対向する第1カム部材16および第2カム部材17Aと、これらのカム部材16,17Aの互いに対向するカム溝16a,17c間に介在するカムボール18にて構成されている。当該カム機構10Eを構成する第2カム部材17Eは、大径の円環状を呈するクラッチ押圧部17aと、小径の円環状を呈するカム部17bとからなるもので、これらのクラッチ押圧部17aおよびカム部17bは、互いに一体に形成されている。換言すれば、クラッチ押圧部17aとカム部17bとは、その内周側の筒部17dを連結部とする一体に形成されているもので、クラッチ押圧部17aとカム部17b間には、カムボール18の受承部であるカム溝17cの中央部より内周側に延びる環状の空間部Rが形成されている。
【0035】
かかる構成の第2カム部材17Aにおいては、メインクラッチ機構10cの荷重に起因する反力のカムボール18への伝達経路は、第2カム部材17と同様であって、第2カム部材17Aを一構成部材とする当該カム機構10Eは、カム機構10eと同様に機能して、同様の作用効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る駆動力伝達装置を示す切断側面図である。
【図2】同駆動力伝達装置の要部を拡大して示す切断側面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る駆動力伝達装置の要部を拡大して示す、図2に対応する切断側面図である。
【図4】カム機構の作動時における従来のメインカム部材の起立姿勢を模式的に示す模式図(a)、および、本発の第2カム部材の起立姿勢を模式的に示す模式図(b)である。
【図5】本発明に係る駆動力伝達装置を搭載して形成される四輪駆動車の概略構成図である。
【符号の説明】
【0037】
10,10A…駆動力伝達装置、10a…アウタハウジング、10b…インナシャフト、10c…メインクラッチ機構、10d…パイロットクラッチ機構、10e,10E…カム機構、11a…ケース部、11b…カバー部、11b1…非磁性体、12a…インナクラッチプレート、12b…アウタクラッチプレート、13…電磁石、13a…ヨーク、14…摩擦クラッチ、14a…インナクラッチプレート、14b…アウタクラッチプレート、15…アーマチャ、16…第1カム部材、16a…カム溝、17,17A…第2カム部材、17a…クラッチ押圧部、17a1…第1内スプライン部、17a2…第2内スプライン部、17b…カム部、17b1…筒部、17b2…外スプライン部、17c…カム溝、17d…筒部、R…空間部、18…カムボール、19…スラストベアリング、E…エンジン、21…トランスアクスル、22…フロントデファレンシャル、23a…アクスルシャフト、23b…前輪、24a…第1プロペラシャフト、24b…第2プロペラシャフト、25…リヤデファレンシャル、26a…アクスルシャフト、26b…後輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸的かつ相対回転可能に位置する内外両回転部材間に配設されてこれら両回転部材間のトルク伝達を行うメインクラッチ機構と、通電により動作して前記メインクラッチ機構に対する作動力を発生するパイロットクラッチ機構と、前記メインクラッチ機構と前記パイロットクラッチ機構間に位置して同パイロットクラッチ機構にて発生する作動力を前記メインクラッチ機構に伝達するカム機構を備え、前記カム機構は、前記パイロットクラッチ機構の作動時に伝達されるトルクによって互いに相対回転するパイロットカム部材およびメインカム部材と、これら両カム部材間に介在するカムフォロアとからなり、前記カム機構にて発生する軸方向の推力によって前記メインカム部材を介して前記メインクラッチ機構を押圧する構成の駆動力伝達装置であり、前記カム機構は、前記メインカム部材を介して前記カムフォロアに伝達されるメインクラッチ機構からの反力が、前記カムフォロアの受承部より内周側から前記カムフォロアに伝達されるように構成されていることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構を構成する前記メインカム部材は、前記メインクラッチ機構を押圧する円環状のクラッチ押圧部と、前記カムフォロアを受承する受承部を有する円環状のカム部とに分割されていて、これらクラッチ押圧部とカム部とは、前記カムフォロアを受承する受承部より内周側にて、互いに一体回転可能に連結されていることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構を構成する前記メインカム部材は、前記メインクラッチ機構を押圧する円環状のクラッチ押圧部と、前記カムフォロアを受承する受承部を有する円環状のカム部とからなり、これらクラッチ押圧部とカム部とは互いに一体に形成されていて、これらクラッチ押圧部とカム部間には円環状の隙間を有し、同隙間は前記受承部より内周側に延びていることを特徴とする駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−115909(P2008−115909A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297982(P2006−297982)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)