説明

駆動装置及び撮像装置

【課題】被駆動体の周縁部分における設置空間を狭くし、搭載された装置の小型化を実現可能な駆動装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る駆動装置10は、シム電極4と第1電極3a及び第2の電極3bとの間に、電圧を印加することによって、その長手方向に平行な方向であって、被駆動体の駆動方向に交差する方向に変位する平板状の圧電素子1を挟むように備えている。圧電素子1の長手方向の一端は支持部材2に固定されており、シム電極4において、その長手方向に平行であって被駆動体の駆動方向に平行な面には、被駆動体に接触する摩擦部材6を備えている。したがって、被駆動体の駆動方向と垂直な方向に、圧電素子1、シム電極4並びに第1電極3a及び第2の電極3のそれぞれにおいて最も短い厚み部分が位置するように、駆動装置10が設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置、及びこれを備えた撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子のような電気機械変換素子を用いて被駆動体を駆動するための駆動装置が提案されている。このような駆動装置は、例えば、カメラの撮影レンズ等の光学装置におけるレンズの駆動に用いられている。駆動装置が備える圧電素子は、電圧を印加されることによって変位し、その変位により生じる駆動力を被駆動体に伝達することによって、被駆動体を駆動する。
【0003】
このような圧電素子の電気的変位によって、被駆動体を駆動する駆動装置が特許文献1及び2に記載されている。特許文献1及び2に記載の駆動装置は、圧電素子の一端を保持部材により固定し、他端をレンズのような被駆動体と摩擦係合させることによって、圧電素子の変位により生じる駆動力を被駆動体に伝達するものである。
【0004】
特許文献1に記載の駆動装置においては、圧電素子の長手方向の両端部側にそれぞれ異なる電圧を印加するように電極を分割して設け、一方の端部側を伸縮変位させ、他方の端部側を屈曲変位させる。これにより、被駆動体に接する、圧電素子の長手方向の端部に設けられた駆動端に楕円運動を生じさせ、圧電素子の厚み方向と同一の方向に被駆動体を大きく駆動させる。
【0005】
特許文献2に記載の駆動装置においては、被駆動体の駆動方向と同一の方向に変位する圧電素子が、その最も短い厚み方向と被駆動体の駆動方向とが同一になるように配置されている。これにより、圧電素子の厚さを被駆動体の移動範囲内とし、駆動装置の薄型化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−164174(2003年6月6日公開)
【特許文献2】特開2007−252103(2007年9月27日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載の駆動装置においては、被駆動体の外周側に設けられる圧電素子の厚み方向と被駆動体の駆動方向とが同一になるように配置されている。したがって、被駆動体の外周側に圧電素子の幅又は長さ分の設置空間が余分に必要となり、被駆動体の周縁部分が広くなってしまう結果、このような駆動装置を搭載した装置の大型化に繋がっていた。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置に搭載されたときに、被駆動体の周縁部分の設置空間を狭くし、搭載される装置の小型化を実現可能な駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る駆動装置は、上記課題を解決するために、電気的信号が加えられることによって、その長手方向であって、被駆動体の駆動方向に交差する方向に変位する平板状の屈曲変位部と、上記屈曲変位部を、その長手方向に沿って挟むように設けられた平板状の共通電極部及び独立電極部と、上記屈曲変位部、上記共通電極部及び上記独立電極部から構成される積層体の長手方向の一端を固定する固定部と、上記積層体において、その長手方向に平行であって被駆動体の駆動方向に平行な面に設けられ、上記被駆動体に接触する駆動力伝達部とを備え、上記独立電極部は、上記屈曲変位部の長手方向に沿って離間して設けられた第1および第2の電極を備えていることを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、共通電極と独立電極部の第1及び第2の電極との間に電気的信号を加えることによって、屈曲変位部をその長手方向に変位させる。屈曲変位部の一端は固定されており、その他端の自由端側に設けられた駆動力伝達部は、被駆動体に接触することによって、変位により生じた駆動力を被駆動体に伝達する。そして、駆動力伝達部から伝達された駆動力によって、被駆動体を、屈曲変位部の変位方向に交差する方向に移動させる。
【0011】
ここで、駆動力伝達部は屈曲変位部、共通電極及び独立電極から構成される積層体において、その長手方向に平行であって被駆動体の駆動方向に平行な面に設けられている。そのため、本発明に係る駆動装置を撮像装置のような装置に搭載するとき、駆動力伝達部が設けられた面側に被駆動体が位置するように設けられる。すなわち、被駆動体の駆動方向と垂直な方向に、屈曲変位部、共通電極及び独立電極のそれぞれにおいて、最も短い厚み部分が位置する。したがって、本発明に係る駆動装置を撮像装置のような装置に搭載するときに、被駆動体の周縁部分には、屈曲変位部、共通電極及び独立電極の厚み分の設置空間があればよく、装置を小型化することができる。
【0012】
また、本発明に係る駆動装置において、上記第1の電極と上記共通電極部との間に第1の電気的信号を加え、上記第2の電極と上記共通電極部との間に第2の電気的信号を印加する駆動制御手段をさらに備えていることが好ましい。
【0013】
上記の構成によれば、共通電極と第1の電極との間に加える電気的信号、及び共通電極と第2の電極との間に加える電気的信号を、それぞれ個別に制御することができるので、この電圧の大きさ及び位相を調整することによって、励起される屈曲変位部の捩り及び曲げを多彩に変化させることができる。その結果、被駆動体の駆動方向が特定の方向に限定されず、所望の方向に駆動することができる。
【0014】
また、本発明に係る駆動装置において、上記屈曲変位部は、第1及び第2の電極に対応する位置に、その長手方向に沿って離間して設けられた第1及び第2の屈曲変位体を備えていることが好ましい。
【0015】
屈曲変位部において、第1及び第2の電極の離間部分に対応する、電気的信号が加えられない部分は変形に寄与せず、曲げ剛性及び捩り剛性を大きくしてしまう。上記の構成によれば、屈曲変位部において、電気的信号が加えられない部分は取り除かれ、電気的信号が加えられる第1及び第2の電極に対応する部分に、第1及び第2の屈曲変位体が設けられているので、曲げ剛性及び捩り剛性が小さくなり、小さい電気的信号によって曲げ及び捩りを励起することが可能になる。その結果、省電力化を実現し得る。
【0016】
また、本発明に係る駆動装置において、上記共通電極部は、第1及び第2の電極の離間部分に対応する位置が、上記屈曲変位部側に貫通した形状であることが好ましい。これにより、共通電極部において、電気的信号が加えられず、曲げ剛性及び捩り剛性を大きくする原因となる部分は取り除かれているので、曲げ剛性及び捩り剛性が小さくなり、省電力化を実現し得る。
【0017】
本発明に係る撮像装置は、上述したいずれかの駆動装置が搭載されていることを特徴としている。したがって、被駆動体の周縁部分には、駆動装置の屈曲変位部、共通電極及び独立電極の厚み分の設置空間があればよく、撮像装置を小型化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、電気的信号が加えられることによって、その長手方向であって、被駆動体の駆動方向に交差する方向に変位する平板状の屈曲変位部と、上記屈曲変位部を、その長手方向に沿って挟むように設けられた平板状の共通電極部及び独立電極部と、上記屈曲変位部、上記共通電極部及び上記独立電極部から構成される積層体の長手方向の一端を固定する固定部と、上記積層体において、その長手方向に平行であって被駆動体の駆動方向に平行な面に設けられ、上記被駆動体に接触する駆動力伝達部とを備え、上記独立電極部は、上記屈曲変位部の長手方向に沿って離間して設けられた第1および第2の電極を備えているので、撮像装置等の装置に搭載されたときに、屈曲変位部の最も短い厚み分の設置空間が被駆動体の周縁部に存在すればよく、被駆動体の周縁部分の空間を狭くすることができるので、搭載される装置の小型化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る駆動装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図中(a)は、本発明に係る駆動装置が備えるシム電極の先端部分の断面図であり、図中(b)は、本発明に係る駆動装置が備える圧電素子の斜視図である。
【図3】本発明に係る駆動装置が備える圧電素子及び摩擦部材の変位方向を説明する説明図である。
【図4】本発明に係る駆動装置が備える圧電素子及び摩擦部材の変位方向を説明する説明図である。
【図5】本発明に係る駆動装置を備えたカメラモジュールの一実施形態を模式的に示す上面図である。
【図6】本発明に係る駆動装置の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明に係る駆動装置のさらに他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(駆動装置10)
本発明に係る駆動装置10の実施形態について、図1〜4を参照して以下に説明する。図1は、本発明に係る駆動装置10の一実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2中(a)は、本発明に係る駆動装置10が備えるシム電極4の先端部分の断面図であり、図2中(b)は、本発明に係る駆動装置10が備える圧電素子1の斜視図である。図3は、本発明に係る駆動装置10が備える圧電素子1及び摩擦部材6の変位方向を説明する説明図であり、図4は本発明に係る駆動装置10が備える圧電素子1及び摩擦部材6の変位方向を説明する説明図である。
【0021】
図1に示すように、本発明に係る駆動装置10は、圧電素子(屈曲変位部)1、支持部材(固定部)2、独立電極部としての電極(第1の電極)3a及び電極(第2の電極)3b、シム電極(共通電極部)4、駆動回路(駆動制御手段)5、及び摩擦部材(駆動力伝達部)6を備えている。駆動装置10においては、圧電素子1の長さ方向(長手方向)をX方向、幅方向をY方向、厚み方向をZ方向とする。
【0022】
なお、本実施形態においては、圧電素子1を屈曲変位部材として用いる構成について説明するが、後述するように、電流を加えることにより生じる熱によって変位するバイメタル、形状記憶合金(SMA)等も、駆動装置10の屈曲変位部材として好適に使用可能である。屈曲変位部材として圧電素子1を使用する場合、電気的信号として電圧を印加することによって変位させ、屈曲変位部材としてバイメタル、形状記憶合金等を使用する場合、電気的信号として電流を加えることによって変位させる。
【0023】
駆動装置10において、シム電極4と電極3a及び電極3bとが、平板状の圧電素子1を挟むように設けられている。すなわち、シム電極4と電極3a及び電極3bとが、圧電素子1の長手方向(X方向)に沿って対向するように設けられている。そして、圧電素子1、シム電極4、並びに電極3a及び電極3bから構成される積層体の一端は、支持部材2により固定されている。シム電極4の長手方向(X方向)に平行であって、撮像装置等に搭載されたときに、被駆動体の駆動方向に平行な面に、被駆動体に接触する摩擦部材6が設けられている。摩擦部材6は、シム電極4において、支持部材2に固定されている一端に対向する他端、すなわち自由に動く自由端側に設けられている。
【0024】
駆動回路5は、シム電極4、電極3a及び電極3bに接続されており、シム電極4と電極3aとの間、及びシム電極4と電極3bとの間に電圧を印加するようになっている。駆動回路5により、シム電極4と電極3aとの間、及びシム電極4と電極3bとの間に電圧が印加されると、圧電素子1は、その長手方向に屈曲変位する。すなわち、シム電極4と電極3aとの間、及びシム電極4と電極3bとの間に電圧を印加することによって、圧電素子1のシム電極4と電極3a及び電極3bとに挟まれた部分が、X方向に収縮又は伸長するようになっている。駆動回路5は、さらにその上位の制御回路を備えた制御手段によって制御されている。
【0025】
シム電極4は、電極3a及び電極3bのそれぞれに対応する共通電極であり、電極として機能し得るものであればよく、特に、可撓性の優れた金属板を好適に使用可能である。電極3a及び電極3bとしては、例えば、従来公知の電極板を用いることができる。また、支持部材2としては、例えば、従来の駆動装置で用いられている支持部材を用いることができる。摩擦部材6としては、被駆動体に摩擦係合して駆動装置10からの駆動力を被駆動体に伝達できるものであればよく、金属、樹脂、カーボン等からなり、シム電極4から突起した形状であることが好ましい。
【0026】
図1においては、圧電素子1がシム電極4の片面にのみ設けられているが、摩擦部材6が設けられているもう一方の面にも圧電素子1と電極3a及び電極3bとを設けることもできる。圧電素子に取り付けられる電極の数もこれに限定されない。また、摩擦部材6の代わりに、電気的に駆動力を被駆動体に伝達するような部材を用いてもよい。また、摩擦部材6を弾性部材の一端に取り付け、弾性部材の他端をシム電極4に固定する構成であってもよく、これにより弾性部材のしなり効果を利用して、被駆動体に伝達する駆動力の増大が期待できる。
【0027】
次に、圧電素子1の屈曲変位について説明する。図1に示す駆動装置10の圧電素子1は、電極3a及び電極3bとシム電極4との間に印加される電圧が正である場合に伸長し、電極3a及び電極3bとシム電極4との間に印加される電圧が負である場合に収縮するものとする。ここで、駆動装置10において、シム電極4を基準電位とし、電極3aとシム電極4との間の電圧と、電極3bとシム電極4との間の電圧とで、位相を180度ずらして印加した場合について説明する。以下、特に明示しない限り、シム電極4の電位を基準として設定する。なお、図1に示す駆動装置10の回路系は、駆動装置10の駆動制御系の一例を示したものであり、これに限定されるものではない。
【0028】
駆動装置10において、電極3a及び電極3bに電圧としてsin波が印加され、電極3aには正の最大電圧が印加されており、電極3bには負の最大電圧が印加されている場合、圧電素子1の電極3aとシム電極4とに挟まれた部分は伸長し、電極3bとシム電極4とに挟まれた部分は収縮する。ところで、電極3aが設けられた部分の圧電素子1が伸長するとき、この部分に対応する部分のシム電極4には引張り力が伝搬し、電極3bが設けられた部分の圧電素子1が収縮するとき、この部分に対応する部分のシム電極4には圧縮力が伝搬する。
【0029】
このような圧電素子1が屈曲変位するときのシム電極4の状態について、図2を参照してさらに詳しく説明する。図2中(a)に示すように、圧電素子1の伸縮及び収縮時にシム電極4に伝搬する力は、シム電極4の自由端の先端部分に作用する集中荷重に等価的に置き換えることができる。ここで、図2中(a)に示すF1は、電極3aが設けられた部分の圧電素子1が伸長するとき、シム電極4に伝搬する引張り力を、シム電極4の先端に作用する集中荷重に置き換えた力である。図2中(a)に示すF2は、電極3bが設けられた部分の圧電素子1が収縮するとき、シム電極4に伝搬する圧縮力を、シム電極4の先端に作用する集中荷重に置き換えた力である。
【0030】
そして図2中(b)に示すように、F1及びF2はそれぞれ、M1及びT1、並びにM2及びT2として表すことができる。M1はF1による曲げモーメントを示し、T1はF1による捩りモーメントを示している。M2はF2による曲げモーメントを示し、T2はF2による捩りモーメントを示している。ここで、図2中(b)においては、図1と同様に、シム電極4の長手方向をX方向、幅方向をY方向、及び厚み方向をZ方向としており、シム電極4の長手方向の一端がYZ平面に一致する。そして、このYZ平面は、図1に示す支持部材2に接触し、固定されている。
【0031】
ここで、電極3aとシム電極4との間と、電極3bとシム電極4との間に、同じ大きさの電圧を印加した場合、曲げモーメントは、
M1=M2
となり、互いに逆方向のモーメントであるので打ち消しあう。また、捩りモーメントは、
T1=T2
となり、これらは共にX方向のモーメントである。したがって、この場合、シム電極4には捩りモーメントのみが作用し、シム電極の自由端の先端は、図2中(a)に「×」印で示すせん断中心を軸として捩れることになる。
【0032】
駆動装置10において、電極3aとシム電極4との間に印加する電圧(第1の電気的信号)、及び電極3bとシム電極4との間に印加する電圧(第2の電気的信号)の大きさ及び位相は、駆動回路5によって調整される。したがって、これらの電圧の大きさ及び位相を適宜設定することによって、シム電極4の自由端の先端に、捩り又は曲げを励起することができる。
【0033】
すなわち、図2中(b)において、
M1≠M2
T1≠T2
となるような電圧をシム電極と電極3a及び電極3bとの間に印加することによって、シム電極4に捩りモーメント及び曲げモーメントが作用し、シム電極4に捩り及び曲げを励起することができる。
【0034】
ここで、シム電極4に捩り及び曲げが励起されたときの、シム電極4の長手方向に平行な面に設けられた摩擦部材6の先端の軌道について、図3及び図4を参照して説明する。摩擦部材6は、その先端が被駆動体に接触して摩擦係合することによって、被駆動体に摩擦力を伝達するものである。図3において、シム電極4の先端の最も−Y側に位置する点をAとし、最も+Y側に位置する点をBとする。また、摩擦部材6とシム電極4とが接触する点をCとし、摩擦部材6の先端の点をDとする。圧電素子1が収縮又は伸長すると、点A、点B及び点Cは、Z方向に移動すると近似的に仮定する。
【0035】
シム電極4と電極3aとの間に印加する電圧の位相を、シム電極4と電極3bとの間に印加する電圧の位相よりも、φだけ進ませたと仮定する。このとき、点A、点B及び点Cの各点の移動は、近似的に、
点A(0、−10、sin(wt+φ))
点B(0、10、sin(wt))
点C(0、0、(sin(wt)+sin(wt+φ))/2)
となる。
【0036】
そして、CD=1とすると、
点D(0、(sin(wt)−sin(wt+φ))k、−20k+(sin(wt)+sin(wt+φ))/2)
となる。ここで、wは印加電圧の周波数であり、k=(400+(sin(wt)−sin(wt+φ))−1/2とする。
【0037】
図4に、シム電極4と電極3aとの間に印加した電圧と、シム電極4と電極3bとの間に印加した電圧との位相差φと、このときの摩擦部材6の先端の点Dの起動との関係を示す。図4に示すように、位相差φ=0°では、摩擦部材6の先端の点DはZ軸に沿って移動するが、位相差φがしだいに大きくなるにつれて点Dの軌道は楕円形状となる。位相差φが90°を超えると、点Dの軌道の楕円の長軸が、Y軸に沿った方向となり、位相差φが180°になると、摩擦部材6の先端の点DはY軸に沿った方向に移動する。
【0038】
このように、シム電極4と電極3aとの間に印加する電圧と、シム電極4と電極3bとの間に印加する電圧とにおいて、位相差を調整することで、摩擦部材6の先端を所望の方向に移動させることができる。その結果、摩擦部材6の先端に摩擦係合する被駆動体を、所望の方向に駆動することが可能になる。このような駆動回路5による駆動制御は、例えば、シム電極4と電極3a及び電極3bとに印加する電圧の大きさの比を変えることによっても実現できる。
【0039】
上述した条件においては、摩擦部材6の先端は、図4に示した楕円形状の軌道を時計周りに周回するが、逆に、シム電極4と電極3aとの間に印加する電圧の位相を、シム電極4と電極3bとの間に印加する電圧の位相よりもφ遅らせた場合は、摩擦部材6の先端を、図4に示す楕円形状の軌道を反時計周りに周回させることが可能である。したがって、駆動装置10は、シム電極4と電極3aとの間に印加する電圧の位相に対して、シム電極4と電極3bとの間に印加する電圧の位相を、進ませたり遅らせたりすることによって、被駆動体への駆動力の伝達方向を変更し、被駆動体を所望の方向に駆動することができる。このような駆動回路5による駆動制御は、例えば、シム電極と電極3a及び電極3bとに印加する電圧の大きさの比を逆転させることによっても実現できる。
【0040】
また、摩擦部材6のシム電極4に対する取り付け位置を、Y軸方向に沿ってずらすことによって、摩擦部材6の先端の点Dの軌道を示す楕円の長軸を傾けることもできる。すなわち、図4に示すように、上述した条件においては、楕円の長軸はY軸又はZ軸に沿っているが、摩擦部材6のシム電極4に対する取り付け位置を、Y軸方向に沿ってずらすことによって、この楕円の長軸をYZ平面に対して任意の角度に傾けることが可能である。
【0041】
なお、駆動装置10において、圧電素子1の長手方向の長さを、シム電極4の長手方向の長さよりも長くして、圧電素子1の長手方向に平行であり、被駆動体の駆動方向に平行な面に、摩擦部材6を設けてもよい。これにより、圧電素子1のしなり効果を効率よく被駆動体に作用させることが可能であり、駆動力の増大が期待できる。
【0042】
駆動装置10においては、圧電素子1の替わりに、バイメタル、形状記憶合金等の素子を使用し、これらの素子に流す電流を適宜調整することによって、これらの素子の捩り及び曲げを励起して、駆動力を生じさせるようになっていてもよい。バイメタル、形状記憶合金等の素子は記憶した形状に戻ろうとする素子であり、加熱することによって収縮する。
【0043】
屈曲変位部材としてバイメタル、形状記憶合金等の素子を用いた場合、シム電極4を挟むようにこれらの素子を蒸着させて構成する。そして、バイメタル、形状記憶合金等の素子に流す電流を増減することによって発生する熱を制御し、これらの収縮により捩り及び曲げを制御する。あるいは、ニクロム線やカンタル線等の発熱線に電流を流すことで熱を発生する熱発生手段を、バイメタルや形状記憶合金に近接して設け、熱発生手段に流す電流の増減により熱発生手段が発生する熱を制御して、バイメタルや形状記憶合金の捩り及び曲げを制御してもよい。
【0044】
上述したように、本発明に係る駆動装置10によれば、シム電極4と電極3aとの間に印加する電圧と、シム電極4と電極3bとの間に印加する電圧とを適宜調整することによって、摩擦部材6から被駆動体に伝達する駆動力の方向を適宜調整することができる。従来の駆動装置では、圧電素子の変位方向と被駆動体の駆動方向とを一致した構成となっていたため、駆動装置の移動方向が圧電素子の変位方向に限定されていた。本発明に係る駆動装置10によれば、被駆動体を所望の方向に駆動することが可能である。
【0045】
また、圧電素子の振動を利用して被駆動体を駆動するような従来の駆動装置においては、被駆動体への駆動力の伝達が悪いために、安定して駆動することができないという問題があり、被駆動体を圧電素子の振動方向とは異なる方向に駆動することは困難であった。本発明に係る駆動装置10によれば、シム電極4と電極3aとの間に印加する電圧と、シム電極4と電極3bとの間に印加する電圧とを適宜調整することによって、大きな駆動力を生じさせ、安定して被駆動体に伝達することが可能であり、かつ被駆動体を所望の方向に駆動することもできる。
【0046】
本発明に係る駆動装置10は、効率良く動力を伝搬し、被駆動体の位置を制御することができるので、例えば、カメラの撮影レンズ等の光学装置におけるレンズの駆動用途、特に、撮像素子の焦点調整機構やズーム機構の制御に適用することができる。
【0047】
(カメラモジュール20)
本発明に係る駆動装置10を備えたカメラモジュール(撮像装置)20について、図5を参照して説明する。図5は、本発明に係る駆動装置10を備えたカメラモジュール20の一実施形態を模式的に示す上面図である。カメラモジュール20は、駆動装置10をフォーカス調整機構に適用している。図5に示すように、カメラモジュール20は、圧電素子1、支持部材2、電極3a、電極3b、シム電極4、駆動回路5及び摩擦部材6を備えた駆動装置10を備えている。また、カメラモジュール20は、予圧部材21、筐体22、ガイド軸23、鏡筒(被駆動体)24及び摩擦板25を備えている。カメラモジュール20は、駆動装置10を複数備え、複数の鏡筒24を駆動するように構成されていてもよい。
【0048】
カメラモジュール20において、圧電素子1、支持部材2、電極3a、電極3b、シム電極4、予圧部材21、ガイド軸23、鏡筒24及び摩擦板25は、筐体22内に設けられている。鏡筒24は、ガイド軸23に沿って、図5に示すY方向(光軸方向)に移動可能となっている。鏡筒24には、レンズ等の光学部品がはめ込まれており、鏡筒24の底部には、CCD、CMOS等の撮像素子が配置されている。
【0049】
鏡筒24には、ガイド軸23を挿通するための穴が設けられている。ガイド軸23は、光軸方向に伸びる棒状体であり、筐体22の底部又は天井部に固定されている。カメラモジュール20において、鏡筒24を、ガイド軸23を挿通する穴が形成され、摩擦板25が取り付けられた構成としたが、ガイド軸23を挿通する穴を含む穴部材、及び摩擦板25を含む摩擦部材が別途設けられた構成であってもよい。
【0050】
摩擦板25は、鏡筒24において、駆動装置10の摩擦部材6に接触する位置に設けられている。ガイド軸23は、摩擦板25と摩擦部材6とが接触する位置になるように、鏡筒24を支持している。摩擦部材6と摩擦板25とが接触(摩擦係合)していることによって、駆動装置10からの駆動力が伝達され、鏡筒24を光軸方向に移動させることができる。それゆえに、摩擦板25は、駆動装置10からの駆動力を鏡筒24に伝達できるようになっていればよく、金属、樹脂、カーボン等により形成されていることが好ましい。カメラモジュール20は、摩擦部材6と摩擦板25とが所望の摩擦係数で係合するように、構成すればよい。
【0051】
予圧部材21は、摩擦板25と摩擦部材6とが接触する位置に対向する位置に設けられており、鏡筒24を駆動装置10の摩擦部材6に一定の力で押し付けるものである。予圧部材21には、ガイド軸23を支点として、予圧部材21から鏡筒24に反時計周りのモーメントが働き、このモーメントを摩擦部材6が受け止める構成となっている。この予圧部材21による予圧によって、摩擦部材6と摩擦板25とは常に接触するようになっており、摩擦部材6から摩擦板25に作用する摩擦力により鏡筒24は、光軸方向に移動及び保持される。
【0052】
カメラモジュール20において、駆動装置10は、摩擦部材6の先端がY方向に移動するように、駆動回路5によりシム電極4と電極3a及び電極3bとの間に印加する電圧を調整する。シム電極4と電極3a及び電極3bとの間に、個別に制御した電圧を印加することによって、圧電素子1が収縮及び伸張し、摩擦部材6の先端をY方向に移動させる。Y方向に移動する摩擦部材6に摩擦係合する摩擦板25から鏡筒24に、Y方向の駆動力が伝達され、鏡筒24がY方向に移動する。これにより、鏡筒24の光軸方向への移動が可能になる。
【0053】
カメラモジュール20において、駆動装置10は、圧電素子1の屈曲変位方向(X方向)が、鏡筒24の移動方向(Y方向)に交差するように設けられている。すなわち、カメラモジュール20において、駆動装置10は、圧電素子1、シム電極4、電極3a及び電極3bの厚み方向がZ方向となるように、鏡筒24の周縁部分に設けられている。したがって、カメラモジュール20においては、Z方向に、駆動装置の設置空間として、鏡筒24の径よりも圧電素子1、シム電極4、電極3a及び電極3bの厚み分大きな空間が必要となる。
【0054】
しかしながら、圧電素子1、シム電極4、電極3a及び電極3bの長手方向はX方向となり、その長さは鏡筒24の径に概ね同一又はより小さいので、カメラモジュール20においては、X方向に、駆動装置10の設置空間として、鏡筒24の径よりも大きな空間は必要ない。また、圧電素子1、シム電極4、電極3a及び電極3bの幅方向はY方向となり、その長さは鏡筒24の光軸方向への移動距離と概ね同一又はより小さいので、カメラモジュール20においては、Y方向に、駆動装置10の設置空間として、鏡筒24の光軸方向への移動距離よりも大きな空間は必要ない。
【0055】
このように、カメラモジュール20において、鏡筒24の周縁部分には、圧電素子1、シム電極4、電極3a及び電極3bのそれぞれにおいて最も短い厚み分の設置空間があればよく、カメラモジュール20を小型化することができる。また、駆動回路5により、シム電極4と電極3a及び電極3bとの間に印加する電圧の大きさ及び位相を適切に制御することによって、鏡筒24をガイド軸23に沿って光軸方向に効率良く駆動させるため、カメラモジュール20を小型化するのみならず、省電力化及び安定した焦点調整を実現することができる。
(駆動装置30)
本発明に係る駆動装置の他の形態について、図6を参照して説明する。図6は、本発明に係る駆動装置30の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。図6に示す駆動装置30においては、圧電素子が、電極32a及び電極32bに対応する位置に、その長手方向に沿って離間して設けられた圧電体(第1の屈曲変位体)31a及び圧電体(第2の屈曲変位体)31bを備えている点において、図1に示す駆動装置10と異なっている。駆動装置30の説明においては、駆動装置10と異なる点についてのみ説明し、他の説明は省略する。
【0056】
駆動装置30においては、電極32a及び電極32bが設けられていない部分には圧電素子が設けられておらず、電極32a及び電極32bに対応する位置にのみ圧電体31a及び圧電体31bが設けられている。シム電極4と電極32a及び電極32bとの間に電圧を印加したとき、これらに対応する位置に存在する圧電体31a又は圧電体31bのみが分極するため、選択的に伸張又は収縮させることが可能である。また、圧電体31a及び圧電体31bは、離間して設けられているため、捩り剛性及び曲げ剛性が小さくなり、効率よく捩り及び曲げを励起することができる。
【0057】
したがって、上述した駆動装置10と同様に、駆動装置30においても、駆動回路5によりシム電極4と電極32a及び電極32bとの間に印加する電圧の大きさ及び位相を適宜調整することによって、被駆動体に効率よく推力を伝達し、被駆動体の位置を制御することができる。また、駆動装置30は、図5に示すカメラモジュール20に圧電体31a及び圧電体31bの屈曲変位方向が、鏡筒24の移動方向に交差するように設けることによって、カメラモジュール20の小型化を実現することができる。さらに、シム電極4と電極32a及び電極32bとの間に印加する電圧の大きさ及び位相を調整することで、鏡筒24の摩擦板25に効率良く摩擦力を伝達することができるので、省電力化することが可能である。
【0058】
(駆動装置40)
本発明に係る駆動装置のさらに他の形態について、図7を参照して説明する。図7は、本発明に係る駆動装置40の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。図7に示す駆動装置40においては、シム電極41において、電極32a及び電極32bの離間部分に対応する位置が、圧電体31a及び圧電体31b側に貫通した形状である点について、駆動装置10及び駆動装置30と異なっている。
【0059】
シム電極41において、圧電体31a及び圧電体31b、並びに電極32a及び電極32bが設けられていない部分がくり貫かれた形状であることによって、圧電体31a及び圧電体31bの変位により生じる捩り及び曲げに対する剛性が低下する。これにより、シム電極41の撓み量が増加するため、被駆動体により強い駆動力を伝達することができる。
【0060】
なお、図7においては、シム電極41の摩擦部材6が設けられている面には、圧電体31a及び圧電体31bのそれぞれに対応する位置に圧電体が設けられ、これらの圧電体の表面のそれぞれに電極が設けられた、バイモルフ型の駆動装置としてもよい。これにより、圧電体による捩り及び曲げモーメントが増大し、摩擦部材6の先端が描く楕円形状の軌道をより大きくすることができる。その結果、被駆動体の駆動範囲をより大きくすることができる。
【0061】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る駆動装置は、カメラモジュール等のフォーカス調整機構やズーム機構(レンズ群を駆動する機構)を搭載した撮像装置への適用が期待され、特に携帯電話用等の小型カメラモジュールに適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 圧電素子(屈曲変位部)
2 支持部材(固定部)
3a 電極(第1の電極)
3b 電極(第2の電極)
4 シム電極(共通電極)
5 駆動回路(駆動制御手段)
6 摩擦部材(駆動力伝達部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的信号が加えられることによって、その長手方向であって、被駆動体の駆動方向に交差する方向に変位する平板状の屈曲変位部と、
上記屈曲変位部を、その長手方向に沿って挟むように設けられた平板状の共通電極部、及び独立電極部と、
上記屈曲変位部、上記共通電極部及び上記独立電極部から構成される積層体の長手方向の一端を固定する固定部と、
上記積層体において、その長手方向に平行であって被駆動体の駆動方向に平行な面に設けられ、上記被駆動体に接触する駆動力伝達部とを備え、
上記独立電極部は、上記屈曲変位部の長手方向に沿って離間して設けられた第1の電極及び第2の電極を備えていることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
上記第1の電極と上記共通電極部との間に第1の電気的信号を加え、上記第2の電極と上記共通電極部との間に第2の電気的信号を印加する駆動制御手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
上記屈曲変位部は、上記第1の電極及び上記第2の電極に対応する位置に、その長手方向に沿って離間して設けられた第1の屈曲変位体及び第2の屈曲変位体を備えていることを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
上記共通電極部は、上記第1の電極及び上記第2の電極の離間部分に対応する位置が、上記屈曲変位部側に貫通した形状であることを特徴とする請求項2又は3に記載の駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動装置が搭載されていることを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−273456(P2010−273456A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123418(P2009−123418)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】