説明

騒音低減装置及びその製造方法、並びに、騒音低減装置を備えた空気入りタイヤ

【課題】 多孔質材料からなる吸音材の接着性を向上し、更には加工時間を短縮することを可能にした騒音低減装置及びその製造方法、並びに、騒音低減装置を備えた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 多孔質材料からなる吸音材5と、該吸音材5をタイヤ内面に装着するためのバンド部材6とを備えた騒音低減装置4において、バンド部材6を熱可塑性樹脂から構成する一方で、吸音材5に内部セルに対して熱可塑性樹脂を被着してなるコーティング部分5aを形成し、該コーティング部分5aをバンド部材6に対して熱融着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤで発生する空洞共鳴音を低減するための装置に関し、さらに詳しくは、多孔質材料からなる吸音材の接着性を向上し、更には加工時間を短縮することを可能にした騒音低減装置及びその製造方法、並びに、騒音低減装置を備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、騒音を発生させる原因の一つにタイヤ内部に充填された空気の振動による空洞共鳴音がある。この空洞共鳴音は、タイヤを転動させたときにトレッド部が路面の凹凸によって振動し、トレッド部の振動がタイヤ内部の空気を振動させることによって生じるのである。
【0003】
このような空洞共鳴現象による騒音を低減する手法として、タイヤとホイールのリムとの間に形成される空洞部内に吸音材を配設することが提案されている。(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、吸音材をホイールのリム外周面に貼り付ける場合、吸音材がリム組み作業を阻害することになり、また吸音材をタイヤ内面に貼り付ける場合、その貼り付け作業が煩わしいという欠点がある。
【0004】
一方、環状のバンド部材に吸音効果を得るための物体を取り付け、その物体をバンド部材の弾性力に基づいてトレッド部におけるタイヤ内面に装着することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような方法を採用すれば、吸音材をタイヤ内面に対して簡単に装着することができる。しかしながら、例えば、発泡ポリウレタンのような多孔質材料からなる吸音材を接着剤や粘着テープを用いてバンド部材に固定しようとした場合、多孔質材料が接着剤や粘着テープに含まれる成分と反応して分解し、吸音材の接着性が低下することがある。そのため、吸音材をバンド部材で固定する手法は、吸音材のタイヤ内面への装着が容易であるという利点がありながら、耐久性の点で不十分である。更に、吸音材を接着剤でバンド部材に接着する場合、接着剤が固まるまでの時間が長いという欠点がある。
【特許文献1】特開昭64−78902号公報
【特許文献2】特開2003−226104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、多孔質材料からなる吸音材の接着性を向上し、更には加工時間を短縮することを可能にした騒音低減装置及びその製造方法、並びに、騒音低減装置を備えた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するための本発明の騒音低減装置は、多孔質材料からなる吸音材と、該吸音材をタイヤ内面に装着するためのバンド部材とを備えた騒音低減装置において、前記バンド部材を熱可塑性樹脂から構成する一方で、前記吸音材に内部セルに対して熱可塑性樹脂を被着してなるコーティング部分を形成し、該コーティング部分を前記バンド部材に対して熱融着したことを特徴とするものである。
【0007】
上記目的を解決するための本発明の騒音低減装置の製造方法は、多孔質材料からなる吸音材と、該吸音材をタイヤ内面に装着するためのバンド部材とを備えた騒音低減装置を製造する方法において、前記バンド部材を熱可塑性樹脂から構成し、溶媒中に熱可塑性樹脂を分散させた溶液を前記吸音材に対して部分的に含浸させ、該吸音材に内部セルに対して前記熱可塑性樹脂を被着してなるコーティング部分を形成し、該コーティング部分を前記バンド部材に対して熱融着するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、バンド部材を熱可塑性樹脂から構成する一方で、吸音材に熱可塑性樹脂によるコーティング部分を形成し、該コーティング部分をバンド部材に対して熱融着する。そのため、吸音材が発泡ポリウレタンのような熱硬化性樹脂から構成される場合であっても、コーティング部分をバンド部材に対して強固に固定することができる。このような熱融着による固定は、接着剤や粘着テープによる固定とは異なって、分解反応による接着力の低下を生じることはなく、多孔質材料からなる吸音材の接着状態を長期間にわたって良好に維持することができる。また、熱融着による処理は、接着剤による処理に比べて短時間で完了するため、騒音低減装置の加工時間を短縮することができる。
【0009】
バンド部材の構成材料及び吸音材のコーティング材料は同種の熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、ポリプロピレンであると良い。一方、吸音材の多孔質材料は発泡ポリウレタンであると良い。つまり、発泡ポリウレタンは良好な吸音特性を呈するため吸音材の構成材料として好適である。
【0010】
本発明の騒音低減装置において、コーティング部分を吸音材のバンド部材とは反対側の表面には露出させずに吸音材のバンド部材側の表面だけに露出するように形成し、またコーティング部分の総体積を吸音材の総体積の10%以下にすることが好ましい。これにより、吸音効果の低下を最小限に抑えることができる。また、コーティング部分の幅Wsはバンド部材の幅Wbに対して0.5Wb≦Ws≦1.5Wbの関係にすることが好ましい。これにより、バンド部材と吸音材との接合作業が容易になる。更に、コーティング部分を熱融着する部位はタイヤ周方向に間隔をあけて配置し、その間隔Hを吸音材の幅Wに対して0.2W≦H≦4Wの関係にすることが好ましい。これにより、最小限の加工で良好な耐久性を確保することができる。
【0011】
本発明の騒音低減装置の製造方法において、コーティング部分の熱融着には超音波溶着機を用いることが好ましい。このような超音波溶着機を用いた場合、コーティング部分とバンド部材を局部的に加熱することができるので、加工性と耐久性のバランスが優れている。特に、超音波溶着機はバンド部材の構成材料及び吸音材のコーティング材料がポリプロピレンである場合に有効である。
【0012】
本発明によれば、上記騒音低減装置を空洞部内に備えた空気入りタイヤが提供される。このような空気入りタイヤでは、騒音低減装置の吸音材に基づいて優れた騒音低減効果を得ることができ、しかも騒音低減効果を長期間にわたって持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、図2は本発明の実施形態からなる騒音低減装置を示すものである。図1において、空気入りタイヤは、トレッド部1と、左右一対のビード部2と、これらトレッド部1とビード部2とを互いに連接するサイドウォール部3とを備えている。そして、トレッド部1の内面には図2示すリング状の騒音低減装置4が装着されている。
【0015】
騒音低減装置4は、多孔質材料からなる吸音材5と、該吸音材5をタイヤ内面に装着するためのバンド部材6とを備えている。吸音材5は多数の内部セルを有し、その多孔質構造に基づく所定の吸音特性を有している。吸音材5の多孔質材料としては発泡ポリウレタンを用いると良い。一方、バンド部材6はタイヤ周方向に連続的に延在するように環状に成形されている。このバンド部材6は弾性復元力に基づいて吸音材5をタイヤ内面に保持する。このように構成される騒音低減装置4は、通常の空気入りタイヤに対して着脱自在であり、その着脱作業が容易である。
【0016】
上記騒音低減装置4において、吸音材5とバンド部材6との固定手段には熱融着が採用されている。熱融着を可能にするために、バンド部材6は熱可塑性樹脂から構成されている。一方、吸音材5には内部セルに対して熱可塑性樹脂を被着してなるコーティング部分5aが形成され、該コーティング部分5aがバンド部材6に対して熱融着されている。また、バンド部材6の構成材料及び吸音材5のコーティング材料には、同種の熱可塑性樹脂、例えば、ポリプロピレンを用いると良い。
【0017】
図3(a)〜(c)は吸音材とバンド部材との熱融着方法の一例を示すものである。先ず、図3(a)に示すように、溶媒中に熱可塑性樹脂を分散させた溶液(例えば、ポリプロピレンエマルション)を吸音材5に対して部分的に含浸させ、吸音材5に内部セルに対して熱可塑性樹脂を被着してなるコーティング部分5aを形成する。ここで、コーティング部分5aを乾燥させることが望ましいが、濡れたままの状態であっても良い。次に、図3(b)に示すように、吸音材5をバンド部材6上に重ねてコーティング部分5aをバンド部材6の位置に合わせた後、超音波溶着機の加振用ホーン11を吸音材5のコーティング部分5aに相当する位置に押し付け、その部分を局部的に加熱する。これにより、図3(c)に示すように、コーティング部分5aとバンド部材6とを熱融着する。
【0018】
図示のように、コーティング部分5aを吸音材5のバンド部材6とは反対側の表面には露出させずに吸音材5のバンド部材6側の表面だけに露出するように形成した場合、吸音効果の低下を最小限に抑えることができる。また、同様の理由から、コーティング部分5aの総体積は吸音材5の総体積の10%以下、より好ましくは、5%以下にすると良い。つまり、コーティング部分5aの総体積が過度になると吸音効果が低下する。
【0019】
図4(a)〜(b)は吸音材とバンド部材との熱融着方法の他の例を示すものである。この場合、図4(a)に示すように、溶媒中に熱可塑性樹脂を分散させた溶液をノズル12から吸音材5に対して部分的に含浸させてコーティング部分5aを形成すると同時に超音波溶着機の加振用ホーン11を吸音材5のコーティング部分5aに相当する位置に押し付け、その部分を局部的に加熱する。これにより、図4(b)に示すように、コーティング部分5aとバンド部材6とを熱融着する。
【0020】
上記騒音低減装置4では、バンド部材6を熱可塑性樹脂から構成する一方で、吸音材5に熱可塑性樹脂によるコーティング部分5aを形成し、該コーティング部分5aをバンド部材6に対して熱融着しているため、吸音材5が発泡ポリウレタンのような熱硬化性樹脂から構成される場合であっても、コーティング部分5aをバンド部材6に対して強固に固定することができる。熱融着による固定は、接着剤や粘着テープによる固定とは異なって、分解反応による接着力の低下を生じることはなく、多孔質材料からなる吸音材5の接着性を向上することができる。また、熱融着による処理は、接着剤による処理に比べて短時間で完了するため、騒音低減装置4の加工時間を短縮することができる。
【0021】
そして、上記騒音低減装置4を空洞部内に備えた空気入りタイヤでは、吸音材5により優れた騒音低減効果を得ることができ、しかも騒音低減効果を長期間にわたって持続することができる。
【0022】
図5は騒音低減装置を平面上に展開した状態を示すものである。図5に示すように、コーティング部分5aの幅Wsはバンド部材6の幅Wbに対して0.5Wb≦Ws≦1.5Wbの関係にすると良い。0.5Wb>Wsであるとバンド部材6と吸音材5との接合作業が困難になり、逆にWs>1.5Wbであると吸音効果が低下する要因となる。更に、コーティング部分5aを熱融着する部位はタイヤ周方向に間隔(ピッチ)をあけて配置し、その間隔Hを吸音材5の幅Wに対して0.2W≦H≦4Wの関係にすると良い。0.2W>Hであると熱融着時の作業性が低下し、逆にH>4Wであるとバンド部材6に対する吸音材5の接合状態が不安定になる。なお、コーティング部分5aを熱融着する部位は、必ずしも等間隔である必要はない。
【0023】
図6〜図9は騒音低減装置の変形例をそれぞれ平面上に展開した状態を示すものである。図6において、コーティング部分5aの平面視形状は四角形になっている。つまり、コーティング部分5aの平面視形状は特に限定されるものではなく、円形、四角形等の任意の形状にすることができる。また、図7に示すように、コーティング部分5aをタイヤ周方向に連続的に設けることも可能である。更に、図8及び図9に示すように、吸音材5を複数の分割片から構成し、これら分割片をバンド部材6の長手方向に沿って配置するようにしても良い。吸音材5の各分割片をバンド部材6に対して少なくとも2箇所で熱融着することが好ましい。
【実施例】
【0024】
従来例及び実施例の騒音低減装置をそれぞれ製作した。従来例の騒音低減装置は、帯状のウレタンフォーム(幅150mm×厚さ20mm)からなる吸音材をポリプロピレン製のバンド部材(幅20mm×厚さ2mm×タイヤ内周長)に接着剤を用いて固定し、そのバンド部材を環状に成形したものである。実施例の騒音低減装置は、帯状のウレタンフォーム(幅150mm×厚さ20mm)からなる吸音材に長さ方向に沿って約200mm間隔でポリプロピレンエマルションを含浸させてコーティング部分を形成し、超音波溶着機を用いてコーティング部分をポリプロピレン製のバンド部材(幅20mm×厚さ2mm×タイヤ内周長)に対して熱融着したものである。コーティング部分の総体積は吸音材の総体積の5%とした。
【0025】
これら従来例及び実施例の騒音低減装置をそれぞれタイヤサイズ215/55R16の空気入りタイヤに装着し、ドラム試験機にて内圧150kPa、速度80km/hの条件で走行し、吸音材に剥離が発生するまでの走行距離を測定した。その結果を表1に示す。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど耐久性が良好であることを意味する。
【0026】
【表1】

【0027】
この表1から判るように、実施例の騒音低減装置は、従来例に比べて耐久性が大幅に向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す斜視断面図である。
【図2】本発明の実施形態からなる騒音低減装置を示す斜視図である。
【図3】吸音材とバンド部材との熱融着方法の一例を示し、(a)〜(c)は各工程の断面図である。
【図4】吸音材とバンド部材との熱融着方法の他の例を示し、(a)〜(b)は各工程の断面図である。
【図5】騒音低減装置を平面上に展開した状態を示す平面図である。
【図6】騒音低減装置の変形例を平面上に展開した状態を示す平面図である。
【図7】騒音低減装置の変形例を平面上に展開した状態を示す平面図である。
【図8】騒音低減装置の変形例を平面上に展開した状態を示す平面図である。
【図9】騒音低減装置の変形例を平面上に展開した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 トレッド部
2 ビード部
3 サイドウォール部
4 騒音低減装置
5 吸音材
5a コーティング部分
6 バンド部材
11 超音波溶着機の加振用ホーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料からなる吸音材と、該吸音材をタイヤ内面に装着するためのバンド部材とを備えた騒音低減装置において、前記バンド部材を熱可塑性樹脂から構成する一方で、前記吸音材に内部セルに対して熱可塑性樹脂を被着してなるコーティング部分を形成し、該コーティング部分を前記バンド部材に対して熱融着した騒音低減装置。
【請求項2】
前記バンド部材の構成材料及び前記吸音材のコーティング材料が同種の熱可塑性樹脂である請求項1に記載の騒音低減装置。
【請求項3】
前記バンド部材の構成材料及び前記吸音材のコーティング材料が共にポリプロピレンである請求項1に記載の騒音低減装置。
【請求項4】
前記吸音材の多孔質材料が発泡ポリウレタンである請求項1〜3のいずれかに記載の騒音低減装置。
【請求項5】
前記コーティング部分を前記吸音材のバンド部材とは反対側の表面には露出させずに前記吸音材のバンド部材側の表面だけに露出するように形成した請求項1〜4のいずれかに記載の騒音低減装置。
【請求項6】
前記コーティング部分の総体積を前記吸音材の総体積の10%以下にした請求項1〜5のいずれかに記載の騒音低減装置。
【請求項7】
前記コーティング部分の幅Wsを前記バンド部材の幅Wbに対して0.5Wb≦Ws≦1.5Wbの関係にした請求項1〜6のいずれかに記載の騒音低減装置。
【請求項8】
前記コーティング部分を熱融着する部位をタイヤ周方向に間隔をあけて配置し、その間隔Hを前記吸音材の幅Wに対して0.2W≦H≦4Wの関係にした請求項1〜7のいずれかに記載の騒音低減装置。
【請求項9】
多孔質材料からなる吸音材と、該吸音材をタイヤ内面に装着するためのバンド部材とを備えた騒音低減装置を製造する方法において、前記バンド部材を熱可塑性樹脂から構成し、溶媒中に熱可塑性樹脂を分散させた溶液を前記吸音材に対して部分的に含浸させ、該吸音材に内部セルに対して前記熱可塑性樹脂を被着してなるコーティング部分を形成し、該コーティング部分を前記バンド部材に対して熱融着するようにした騒音低減装置の製造方法。
【請求項10】
前記コーティング部分の熱融着に超音波溶着機を用いた請求項9に記載の騒音低減装置の製造方法。
【請求項11】
前記バンド部材の構成材料及び前記吸音材のコーティング材料が同種の熱可塑性樹脂である請求項9又は請求項10に記載の騒音低減装置の製造方法。
【請求項12】
前記バンド部材の構成材料及び前記吸音材のコーティング材料が共にポリプロピレンである請求項9又は請求項10に記載の騒音低減装置の製造方法。
【請求項13】
前記吸音材の多孔質材料が発泡ポリウレタンである請求項8〜12のいずれかに記載の騒音低減装置の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の騒音低減装置を空洞部内に備えた空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−264406(P2006−264406A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82368(P2005−82368)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)