説明

骨再生促進剤の製造方法

【課題】 新規な骨再生促進剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】 間葉系幹細胞の細胞集団に対して細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼと反応することによって細胞内に留まる形態を呈する光学的に検出可能な基質を添加した後、細胞の発光強度を指標にしてその細胞集団のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の分布を発光強度の分布として調べるとともに、その細胞集団に対してアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤と前記の基質を添加して同様にして発光強度の分布を調べ、両者の分布を比較し、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、後者の細胞集団で観察される発光強度よりも強い発光強度を示す細胞を分取し、有効成分として使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な骨再生促進剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の高齢化社会の進展とともに、高齢者の骨折や大腿骨頭壊死症などに対する治療方法の確立が望まれている。その期待される手段の1つに骨再生を促進させる方法がある。例えば特許文献1では、多血小板血漿(PRP)を含んでなる骨再生促進剤が提案されている。しかしながら、骨再生促進剤の有効成分に関する報告は多くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−55237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、新規な骨再生促進剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、間葉系幹細胞の細胞集団に含まれる細胞の中で、細胞内のアルデヒドを酸化してカルボン酸やアシル基に変換するアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の高い細胞が、優れた骨再生促進作用を有することを知見した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の骨再生促進剤の製造方法は、請求項1記載の通り、間葉系幹細胞の細胞集団に対して細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼと反応することによって細胞内に留まる形態を呈する光学的に検出可能な基質を添加した後、細胞の発光強度を指標にしてその細胞集団のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の分布を発光強度の分布として調べるとともに、その細胞集団に対してアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤と前記の基質を添加して同様にして発光強度の分布を調べ、両者の分布を比較し、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、後者の細胞集団で観察される発光強度よりも強い発光強度を示す細胞を分取し、有効成分として使用することを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、発光が蛍光であることを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項2記載の製造方法において、基質としてBODIPY−アミノアセトアルデヒドを用いることを特徴とする。
また、本発明の骨再生促進剤は、請求項4記載の通り、間葉系幹細胞の細胞集団に対して細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼと反応することによって細胞内に留まる形態を呈する光学的に検出可能な基質を添加した後、細胞の発光強度を指標にしてその細胞集団のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の分布を発光強度の分布として調べるとともに、その細胞集団に対してアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤と前記の基質を添加して同様にして発光強度の分布を調べ、両者の分布を比較し、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、後者の細胞集団で観察される発光強度よりも強い発光強度を示す細胞を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新規な骨再生促進剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例におけるFACSによるMSCの細胞集団領域に対して設定したゲートを示したスキャッタグラムである。
【図2】同、分離したAlde−HighとAlde−Lowを示すヒストグラムである。
【図3】同、Alde−Highの骨再生促進作用を示すX線写真である(Highの表示のもの)。
【図4】同、Alde−Highの骨再生促進作用を示す骨密度測定結果のグラフである(同)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の骨再生促進剤の製造方法は、間葉系幹細胞の細胞集団に対して細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼと反応することによって細胞内に留まる形態を呈する光学的に検出可能な基質を添加した後、細胞の発光強度を指標にしてその細胞集団のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の分布を発光強度の分布として調べるとともに、その細胞集団に対してアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤と前記の基質を添加して同様にして発光強度の分布を調べ、両者の分布を比較し、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、後者の細胞集団で観察される発光強度よりも強い発光強度を示す細胞を分取し、有効成分として使用することを特徴とするものであるが、これは、要すれば、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の高い間葉系幹細胞の細胞集団に含まれる細胞の中で、自家発光などに基づく擬似陽性の影響を排除することで真にアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の高い細胞を分取して骨再生促進剤の有効成分として使用することを意味する。
【0010】
本発明において、間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal stem cell)とは、臍帯血、骨髄、胎盤などに由来する体性幹細胞であって、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞などの間葉系に属する細胞への分化能を有し、細胞表面マーカーであるCD71,CD73,CD90,CD105,HLA−ABCの発現に陽性であって、CD14,CD19,CD34,CD45,HLA−DRの発現に陰性である細胞を意味する。間葉系幹細胞については、臍帯血、骨髄、胎盤などから接着性単核細胞を単離し、そこから蛍光励起細胞分取装置(FACS:Fluorescence−activated cell sorting)を用いて分取することができることや、ウシ胎児血清や線維芽細胞増殖因子などを添加したIMDMなどの培地を用いて培養することができることが当業者によって知られている(必要であれば例えばLee OK,et al.,Blood(2004)103:1669−1675やその参照文献などを参照のこと)。また、間葉系幹細胞は、臍帯血、骨髄、胎盤などから単離した接着性単核細胞からDil−Ac−LDLの取り込み性およびCD45の発現の両者において陰性である細胞として分取することもできる(後述する実施例を参照のこと)。
【0011】
細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼと反応することによって細胞内に留まる形態を呈する光学的に検出可能な基質としては、例えば、下記の化学式で表されるBODIPY(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−5−プロピオン酸)−アミノアセトアルデヒド(BAAA)が挙げられ、これはAldefluor試薬(StemCell technologies Inc)として知られている(必要であれば例えばUS6991897B2やDavid A.Hass,et al.,Blood(2004)104:1648−1655などを参照のこと)。本発明の骨再生促進剤の製造方法は、このAldefluor試薬を用いた細胞染色と蛍光励起細胞分取装置を用いて実施することができる。具体的には、間葉系幹細胞の細胞集団に対してBAAAを添加して染色し、細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼによってBAAAをBODIPY−アミノアセテート(BAA)に変換させることでBAAアニオンとして細胞内に留まらせ、細胞内のBAAアニオンに基づく蛍光強度を指標にして細胞のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性量を測定し、それをヒストグラムに展開することでその細胞集団のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の分布を蛍光強度の分布として調べるとともに(蛍光強度を横軸にして細胞数を縦軸にした凸状の分布)、その細胞集団に対してアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤(例えばジエチルアミノベンズアルデヒドなど)とBAAAを添加して同様にして蛍光強度の分布を調べ、両者の分布を比較する。後者の蛍光発光は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性に基づかない細胞内のゴルジ体などによる自家発光などに基づくものであるので、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、後者の細胞集団で観察される蛍光強度よりも強い蛍光強度を示す細胞が、擬似陽性の影響を排除した真にアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の高い細胞であり、この細胞を分取して骨再生促進剤の有効成分として使用する。
【0012】
【化1】

【0013】
分取した所望の細胞は、例えばゼラチンスポンジやコラーゲンスポンジなどに播種し、骨折部位や壊死した大腿骨頭部位に移植することによって優れた骨再生促進作用を発揮する。この場合、骨再生促進剤の有効成分とする細胞は、患者本人のものが望ましい。その投与量は患者の年齢や体重や性別や症状などに応じて適宜決定することが望ましい。なお、使用する細胞は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性が異なる細胞からなる細胞集団であってもよいし、単一のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を示すクローン細胞であってもよい。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例では、間葉系幹細胞をMSCと略称する。
【0015】
(1)MSCの単離
国立大学法人筑波大学倫理規則の厳守のもと、Nagano M,et al.,Blood(2007)110:151−160に従って、ヒト臍帯血より血球細胞を除き、接着性単核細胞を単離し、IMDMに10%のFBSと2mg/mlのL−グルタミンと10ng/mlのヒトb−FGFと0.1%(v/v)のペニシリンとストレプトマイシンの混合液(ペニシリン:100U/ml,ストレプトマイシン:0.1mg/ml)を添加した培地を用い、37℃、5%COの培養条件下で培養した後、蛍光励起細胞分取装置(FACS Vantage SE:BD Biosciences)を用い、Dil−Ac−LDLの取り込み性およびCD45の発現の両者において陰性である細胞として分取した。この細胞がMSCであることは、この細胞が有する多分化能(骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨細胞への分化)と細胞表面マーカーの発現プロファイルに基づいて確認した。
【0016】
(2)アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性に従ったMSCの分離
BAAAを基質とするAldefluor試薬(StemCell technologies Inc)を用い、その取扱説明書に従ってMSCに対して添加して染色した後、蛍光励起細胞分取装置(同上)にかけ、図1に示すように、前方散乱光(FSC)を横軸にして側方散乱光(SSC)を縦軸にしたスキャッタグラムを作成し、MSCの細胞集団領域に対するゲート設定を行い、細胞の蛍光強度と細胞数の関係をヒストグラムに展開して細胞集団の蛍光強度の分布を調べ、蛍光強度を横軸(ALDH activity)にして細胞数を縦軸(Relative cell number)にした凸状の分布を得た(図2の太線)。また、アルデヒドデヒドロゲナーゼの特異的阻害剤であるジエチルアミノベンズアルデヒド(最終濃度:15μM)とAldefluor試薬をMSCに対して添加して同様にして蛍光強度の凸状の分布を得た(図2の細線)。両者の分布を比較し、図2に示すように、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、ネガティブコントロールである後者の細胞集団で観察される蛍光強度よりも強い蛍光強度を示す細胞(後者のヒストグラムの右端の裾野部分にかからない細胞)をアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の高い細胞集団として分取するとともに(Alde−High)、それよりも蛍光強度が弱いが最も多くの細胞が示す蛍光強度よりも強い蛍光強度を示す細胞をアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の弱い細胞集団として分取した(Alde−Low)。細胞数頻度はAlde−Highが1.8±1.7%、Alde−Lowが12.8±7.9%であった(n=4)。
【0017】
(3)Alde−Highの骨再生促進作用
Taguchi K,et al.,Biochem Biophys Res Commun(2005)331:31−36を参考にして、麻酔下の成体C57/BL6マウスの大腿骨中央付近に骨折部を形成し、ピンで固定した。その後、骨折部の皮下にAlde−High(5×10cell:溶媒はPBS)を播種した2mm×2mmのゼラチンスポンジ(Gelform:Pfizer)を移植した。なお、移植の2日前から試験最終日まで、毎日、シクロスポリンAを20mg/kgでマウスに腹腔内投与して免疫抑制を行った。28日後、骨折部の骨石灰化の程度をX線で観察するとともに、画像処理ソフトウェア(NIH imaging software)を用いて骨折部の骨密度を測定することで、Alde−Highの骨再生促進作用を評価した(High)。また、同数のAlde−Lowを播種したゼラチンスポンジを埋め込んだ場合(Low)、同数の骨髄由来のMSCを播種したゼラチンスポンジを埋め込んだ場合(BM)、PBSを含浸させたゼラチンスポンジを埋め込んだ場合(PBS)についても、それぞれの骨再生促進作用を同様にして評価した。図3にX線観察の結果を示し、図4に骨密度測定の結果を示す(PBSを含浸させたゼラチンスポンジを埋め込んだ場合の骨密度を1として相対値で表示。n=3。**P<0.01)。図3と図4から明らかなように、Alde−Highは骨折部の骨石灰化を顕著に促すとともに骨密度を顕著に増加させたが、Alde−Lowにはこのような作用はなく、Alde−Highのみが骨再生促進剤の有効成分として有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、新規な骨再生促進剤の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞の細胞集団に対して細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼと反応することによって細胞内に留まる形態を呈する光学的に検出可能な基質を添加した後、細胞の発光強度を指標にしてその細胞集団のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の分布を発光強度の分布として調べるとともに、その細胞集団に対してアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤と前記の基質を添加して同様にして発光強度の分布を調べ、両者の分布を比較し、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、後者の細胞集団で観察される発光強度よりも強い発光強度を示す細胞を分取し、有効成分として使用することを特徴とする骨再生促進剤の製造方法。
【請求項2】
発光が蛍光であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
基質としてBODIPY−アミノアセトアルデヒドを用いることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
間葉系幹細胞の細胞集団に対して細胞内のアルデヒドデヒドロゲナーゼと反応することによって細胞内に留まる形態を呈する光学的に検出可能な基質を添加した後、細胞の発光強度を指標にしてその細胞集団のアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の分布を発光強度の分布として調べるとともに、その細胞集団に対してアルデヒドデヒドロゲナーゼ阻害剤と前記の基質を添加して同様にして発光強度の分布を調べ、両者の分布を比較し、前者の細胞集団に含まれる細胞の中で、後者の細胞集団で観察される発光強度よりも強い発光強度を示す細胞を有効成分とすることを特徴とする骨再生促進剤。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184303(P2011−184303A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47851(P2010−47851)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】