説明

骨形成剤および骨形成方法

【課題】既存の骨がほとんど残っていないような状態の歯周病においても、新たに骨を形成することができる骨形成剤を提供すること。
【解決手段】少なくともa)配列番号1記載のアミノ酸配列、またはb)配列番号2記載のアミノ酸配列を含むペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩を含有する骨形成剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のペプチドを含む骨形成剤および骨形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨形成をもたらす物質としては、組換えヒト骨形成タンパク質(rhBMP)が報告されている(非特許文献1および2参照)。また間接的に骨形成を助ける物質としては、多血小板血漿(PRP)、血小板由来増殖因子(PDGF)などが報告されている(非特許文献2参照)。しかしながら、軟組織中で骨形成をもたらす物質としては、rhBMPが知られているのみであり、効果的な骨形成をもたらす候補物質の開発がさらに望まれている。
【0003】
また、歯周組織は、歯根膜を挟んでセメント質と歯槽骨が存在するという特殊な環境にあるため、骨の形成のみならず、セメント質および歯根膜の再生が重要であると考えられている。
【0004】
一方、ブタの歯胚から抽出された物質であるエムドゲイン(登録商標)(BIORA社製、スウェーデン)は、その成分は公表されていないが、主成分はエナメルマトリックスデリバティブであり、歯周病などのため、傷害を受けた歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨、セメント質)のうち特にセメント質の再生をもたらし、失われた歯周組織をある程度、回復することができる(非特許文献3〜6参照)。しかしながら、エムドゲイン(登録商標)は生物試料であるので、未知のリスクファクター、たとえばウイルス等の存在があるかもしれないという危険性を有している。
【0005】
【非特許文献1】Wozney JM et al. J. Cell Sci. Suppl. 1990; 13: 149-56
【非特許文献2】Tomoyasu A et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2007; 361: 62-7
【非特許文献3】Hammarstroem L et al. J. Clin. Periodontol 1997; 24(9): 669-77
【非特許文献4】Gestrelius S et al. J. Clin. Periodontol 1997; 24(9): 678-84
【非特許文献5】Zetterstroem O et al. J. Clin. Periodontol 1997; 24(9): 697-704
【非特許文献6】Heijl et al. J. Clin. Periodontol 1997; 24(9): 705-14
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、既存の骨がほとんど残っていない状態の歯周組織において新たに骨を形成することができる骨形成剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべく検討した結果、エムドゲインによりインビボで誘発されるタンパク質の部分配列であるa)配列番号1記載のアミノ酸配列WYQNMIR、またはb)配列番号2記載のアミノ酸配列WYQNMLRで示されるペプチドが、軟組織中において骨形成を効果的に促すことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
よって、本発明は、少なくともa)配列番号1記載のアミノ酸配列、またはb)配列番号2記載のアミノ酸配列を含むペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩を含有する骨形成剤に関する。
【0009】
本発明の骨形成剤において、ペプチドの含有量は、7.5〜30mg/mLであることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、骨形成剤を有効成分に換算して10〜60mg/kgを局所的に投与することによる、ヒトを除く動物における骨の形成方法にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の骨形成剤を用いることにより、既存の骨がないような軟組織中においても新たに骨を形成することができる。また、ラットでは、一回の投与により、約2週間という速さで劇的に骨が形成されたことから、より簡便で、速効性のある骨形成剤として使用できる。
【0012】
また、本発明のペプチドは、エムドゲインより誘導したものであるため、骨形成以外にセメント質の再生をもたらし、結果として失われた歯根膜および歯槽骨を含む歯周組織の再生を図ることができると考えられ、効果的な歯周組織再生薬となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の骨形成剤は、有効成分として、少なくともa)配列番号1記載のアミノ酸配列WYQNMIR、またはb)配列番号2記載のアミノ酸配列WYQNMLRを含むペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩を含有する。つまり、配列番号1記載のアミノ酸配列または配列番号2記載のアミノ酸配列の両端にアミノ酸が数個〜数十個、具体的には1〜7個程度付加されたペプチドも本発明において使用可能である。
【0014】
本発明のペプチドは、通常の合成方法、たとえば液相法、固相法のいずれでも製造することができるが、Boc法、Fmoc法などの固相合成により製造することが一般的である。もちろん、本発明のペプチドをコードするDNAをベクターに組込み、宿主細胞において産生させることも可能である。
【0015】
また、本発明の骨形成剤は、配列番号1記載のアミノ酸配列を含むペプチドと、配列番号2記載のアミノ酸配列を含むペプチドの双方を含有していても良い。
【0016】
本発明のペプチドは、エムドゲインよりインビボで誘導されたものであり、通常の試用範囲においては毒性を示す反応はみられない。
【0017】
本発明の骨形成剤は、局所適用が望ましく、開放した創面に直接塗布することが望ましい。
【0018】
本発明の骨形成剤の剤形としては、通常局所適用に用いられる剤形はいずれも使用可能であるが、液剤、エマルジョン、ゲル状などがあげられ、操作性がよく患部に塗布し、徐放性をもたせるためエマルジョンまたはゲル状が好ましく、シリンジに入れて用いることが望ましい。
【0019】
本発明の骨形成剤は、有効成分であるペプチドを薬学的に許容可能な基材と組み合わせて製造することができる。使用可能な基材としては、ペプチドの徐放性効果を維持するという点から、プロピレングリコールが好ましいが、それらに限定されるものではない。プロピレングリコールを使用した場合、約14日間で完全に吸収される。
【0020】
本発明の骨形成剤には、この分野で通常使用される、コラーゲン、アテロコラーゲンなどの生体適合性担体などを使用することもできる。
【0021】
本発明の骨形成剤において、有効成分であるペプチドの濃度は、7.5〜30mg/mLが好ましく、10〜20mg/mLがより好ましく、さらに約15mg/mLが最も好ましい。ペプチド濃度が7.5mg/mLより低いと、骨が形成されにくくなる傾向がある。
【0022】
本発明の骨形成剤の投与量は、有効成分のペプチドに換算して、10〜60mg/kgが好ましく、20〜40mg/kgがより好ましい。10mg/kgより少ないと骨が形成されにくくなる傾向がある。
【0023】
本発明の骨形成剤は、既存の骨がないような軟組織中においても新たに骨を形成することができるため、歯周病にはもちろんのこと、その他の軟骨および骨の欠損一般に適用することができる。そのような疾患としては、外傷性骨損傷、骨粗鬆症、顎嚢胞、顎腫瘍などがあげられる。また、本発明の骨形成剤の有効成分であるペプチドは、エムドゲインより誘導したものであるため、骨形成以外にセメント質の再生をもたらし、結果として失われた歯根膜および歯槽骨を含む歯周組織の再生を図ることができると考えられ、効果的な歯周組織再生薬となり得る。
【0024】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
参考例1
粉末タイプのエムドゲイン(登録商標)(BIORA社製、スウェーデン)をプロピレングリコールに30.0mg/mLになるように調整し、それを6週齢オスのSprague-Dawleyラット背部皮下に接種し7日後に形成された円形小体を切除した。すなわち、組織をホルマリン固定後、パラフィン包埋し、厚さ7μmの切片としてスライドガラスに貼付し、40℃のパラフィン乾燥機中で乾燥させた。それを実体顕微鏡下で円形小体に相当する部分を残し、他部位を外科用メス(No.11、ケイセイ医科工業、東京)によって除去した。円形小体を掻き集め、サンプルチューブ中のLaemmliサンプルバッファーに溶解し、溶解液を12.5%SDS−ポリアクリルアミドゲルで55分、40mA電気泳動後、40%メタノールと15%エタノールでゲルを固定して渡銀染色を行い、タンパク質を具視化した。具視化したタンパク質をゲルから切り取り、50mM重炭酸アンモニウムで調整した12.5μg/Lトリプシン中で37℃、一晩、ペプチドをフラグメント化した。試料は10mg/mLの2,5ジヒドロキシ安息香酸蒸留水中で結晶化した。それを直行MALDI−Qq−TOF MS/MS QSTARPulsar i(アプライドバイオシステムズ製、フォスターシティー、カリフォルニア、米国)によって解析した。
【0026】
その結果、複数のフラグメントが得られたが、分子量1,010のところに強いイオン強度を示すピークが得られた。最長のフラグメントのアミノ酸のシークエンスは192アミノ酸であった。種々なフラグメントが、共通の7アミノ酸残基からなる配列、すなわちWYQNMLRまたはWYQNMIRを含んでいた。これらの配列はデータベースであるNCBInr(mammalian)についてデータベース検索ソフトのMASCOTを用いて検索したところ、ウシのアメロジェニンII前駆物質(WYQNMLR)、アメロジェニンロイシン優位アメロジェニンポリペプチド(LRAP(配列番号3))、およびブタのアメロジェニン前駆物質(WYQNMIR)と相同性を示すことが判明した(J. Periodontol 2005;76:1934-1941)。
【0027】
実施例1
ペプチドWYQNMIR(配列番号1)を15.0mg/mLになるように蒸留水に溶解し、その1mLを氷水中で冷却し、後の摘出に備え、注射部位が良く分かるように、歯科用アルギン酸塩印象材(ニッシン製、アルフレックスダストフリーノーマルセット、医療用具許可番号26BZ5014、京都)40mgを加えて混和した。それを19G×1 1/2(外径1.10mm、内径0.78mm)針付きの1mL用のテルモシリンジを用いて0.3mLをSprague-Dawleyラット背部皮下に注射した。注射14日後の組織を切除し、ホルマリン固定し、パラフィン切片とし、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、赤紫に染色された骨組織1と青紫に染色された軟骨組織2、さらには軟骨組織にカルシウムの沈着が進んだ石灰化軟骨組織3が見られる、軟骨性骨化を示す組織像を確認した(図1)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】配列番号1記載のペプチドを注射したラットの皮下組織のヘマトキシリン・エオジン染色の組織像(倍率×10)である。赤紫に染色された骨組織1と青紫に染色された軟骨組織2、軟骨組織にカルシウムの沈着が進んだ石灰化軟骨組織3が観察される。
【符号の説明】
【0029】
1 骨組織
2 軟骨組織
3 石灰化軟骨組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
a)配列番号1記載のアミノ酸配列、または
b)配列番号2記載のアミノ酸配列
を含むペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩を含有する骨形成剤。
【請求項2】
前記ペプチドの含有量が7.5〜30mg/mLである請求項1記載の骨形成剤。
【請求項3】
請求項1記載の骨形成剤を有効成分に換算して10〜60mg/kgを局所的に投与することによる、ヒトを除く動物における骨の形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−67700(P2009−67700A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235789(P2007−235789)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(507305679)
【Fターム(参考)】